六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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お猿さんと、ポタージュ(4) イリスの、なんか

◆ 16、ルーン司令官 ◆

 

<おはよう、イリス。調子はどう?>

「おはようルン姉。──あ、おはようございます、ルーン司令官閣下」

<やめてw 人の居るとこだけでええって>

「うん」

 イリス。

 洞窟の中にあぐらかいて、しゃべる。

 話相手は、黒い筒状の浮遊オブジェクト──オクトラである。イリスの目の前にふわ~んふわ~んと浮かんでおる。

<隊長から聞いたけど・・・、>

 オクトラから聞こえてくるのは、ルーン嬢の声。

 茶のダークエルフの美女。神剣“グレイス”の持ち手。いまや、司令官閣下である。えらい出世したもんである。

<怪我、大丈夫やったみたいやね。安心したわ>

「うん大丈夫。犬の女神さまが治してくれたに。

 ルン姉のほうはどう?」

<ちょっと寝不足。元気やけど。

 相手そろそろ動くやろうって話やわ。

 いまハル姉と一緒に窓から見てんねん。相手、テント畳んどるわ>

「そっか。ハル姉ぇー」

<は~い>ハルモニアー、声ちょっとふるえておる。<なに?>

「がんばってねー」

<そんだけ!? ・・・がんばるえ~>

 敵軍、移動中! という声が、かすかにオクトラから聞こえてきた。

<動いたみたいやわ。ほな行くね>

「うん」

<またあとでね。イリス>

 声、途切れる。

 しかし、すぐに、別の女の声、響いてくる。

<・・・イリス。待機はしてもらうが、のんびりしたほうがえええ>

「ルシ姉」

<今日は我々も──ぇっくしゅ! さっぶ!>

 三姉妹の長女ルシーナ、くしゃみ。

 ひょうひょうと、いかにも冷たそうな風の音が聞こえてくる。

「寒いん?」

<めっちゃ寒いえ・・・妙雅が低空はアカン言うて、降りてくれぬのえ>

<はい。低空はいけません>

 妙なる響きの声が割り込む。妙雅であった。

<敵には、私の姿を見せたくありませんので>

<なにもこんな雲の中やのうても・・・くしゅっ!>

<雲の中やないと、敵に見つかるじゃないですか。

 低空だと戦場が把握できませんし>

「・・・雲の中から、下見てるん?」

<そうです>

<なんも見えぬ。寒いだけえ>

<ですから、中で話しましょうと言ったのに>

<兵士ががまんしておるに、私が中に逃げ込むわけにゆかぬ>

「どうやって見てるんやろ」

<機密です。ですが、機会があれば、イリスさまにもお見せしますよ>

「うち妙雅乗ったことないからに」

<嫉妬すな>

「してないに」

<しておるにぇックシュ! くしゅん!>

「大変やに」

<うむ。そやに、そなたほどではない。イリス、・・・良かったえ>

「うん」イリスうなずく。「うまいこと収まったに」

<まさに。昨夜の戦い、極めて大きかったえ>

「うん」

<今日は我らも活躍をする予定ゆえ、楽しみに待っておるがよい>

「うん」

 と言うたあとで、イリスは背後を見た。

 背後は、洞窟マンションの内部。朝食のキノコスープの匂いがただよっておる。

 イリスが居るのは、横穴の中。建設中の2階の一室であった。崖に横穴掘って造った部屋(予定)である。

 入り口には、カバリオ隊長が立っておる。こっちに気付き、「なんや?」と言うてきた。

「人居る?」

「居らん。外そか?」

「隊長はえええ。て言うか、隊長には聞いとって欲しい」

「わかった。聞いとく」

「妙雅。ルン姉には繋がってへんよね?」

<ルシーナさまと1対1です。他のオクトラには伝わってません>

<重要事項かに? しかし、手短かにたのむ>

「・・・ちゃうねんけど。えっと、うち、なんか、気になんねん」

 

◆ 17、イリスの、なんか ◆

 

<なんか気になる>

「なんかありそうな気ぃすんねん。奥の手みたいなん」

<敵にか? あるかも知れぬ。『気がする』だけでは対応しようがない>

「それはわかっておるに、そやに、」

 イリス。

 胸を押さえる。

「そやに、・・・うち、『丘の街』行ったらアカン?」

<その必要はない。また、よろしくない>

「アカンかに」

<アカンくはないが、不必要にして、よろしくないのえ。

 ルーンを甘やかしてはならぬ。また、手柄で揉める原因になりかねぬ>

「・・・私じゃ、アカンかに」

<アカンくないて言うておるにェッくしゅ!

 ええい、時間ないに!

 私かて彼方此方(かなたこなた)でそなたを使いたい。

 ルーンのそばに一生貼り付けて守らせたい。

 そやに、そなこと、できまい?>

「一生護衛? ・・・うーん」

<そやろ?

 ゆえに、みなにも経験を積ませねばならぬ>

「それはわかるに。そやに・・・」

<すまぬイリス。そろそろ>

「あ、うん」

<そなたの、なんかは、覚えておく。

 またあとで。勝利の女神イリスさま>

 通信終わる。

「なにえ。言い切り」イリス、照れる。

「・・・なんか気になるんか?」とカバリオ隊長。

「うん」

 イリス、真顔となる。

「はっきりはせえへんねんけど、なんかが来るのえ。それがわかる」

「何がわかるんや?」

「それは──」イリス、立ち上がる。ごつん。洞窟の天井に頭ぶつけた。「あいた」

「おい。こんなとこで怪我すんなよ」

「してへん。痛・・・」

 イリス、頭をさする。

「隊長」

「おう」

「昨日、コボルド、勝つ気満々やったに?」

「そやな」

「コボルドにそう思わせた、なにかが、ある思うねん」

「犬の女神やろ? 女神来たら、やる気なるやんけ」

「ちゃうねん。もっと別なもん」

 イリスは横穴出口まで身をかがめて歩き、穴を出た。

 崖に横穴が掘られておるので、出てくるといきなり崖っぷちである。崖沿いに造られた廊下が、狭いバルコニーのごとく出っ張っており、その一歩先は空中となる。いまはまだ、手すりもない。

 地上階には、朝食の準備をしておるダークエルフ兵ども。調理番。空気穴完備の調理場にて、スープ温め中。ただようキノコスープの匂い、源流は、そこであった。

「別なもんて、なんや」

「わからへん」

 イリス、首振る。

「さんぽしてきてもええかに?」

「声の届く範囲な」

「隊長は?」

「いやや」

「いやなん」

「外、雪積もっとんねん」

「そうなん」

「そや。雪、眩しいから、好かん」

 カバリオ隊長はひらひら手振った。

「大将連れてったれ。顔見せたったほうが、コボルドも落ち着くやろ」

 でっかい腹した巨大コボルド。ダークエルフの調理番のそばに立っておる。

 犬の女神である。その可愛らしい手には、縄がかかっておる。

「・・・縄ほどいてもええ?」

 カバリオ隊長、犬の女神を見た。

 女神はこちらではなく、スープの鍋をじーっと見ておる。

「・・・そやな。おまえが同行するあいだは、ほどいてよし」

 イリス。

 部屋ん中にストックしてる赤い実をひとつ、懐へ入れる。

 バルコニー状の通路を歩き、まだ凸凹の残っておる岩壁階段を降りる。

 調理番のダークエルフどもが気付いて、あいさつしてきた。

「おはようイリスさま」「おはよう」

「おはよう。ええ匂いやね」

「なんや。味見要求か?」「一杯やってくか?」

「やってきたいけど。つまみぐいはアカンて言われたに」

「誰にや?」

「三日月姫司令官閣下」

「長ったらしい称号やのう!」

 軽口をかわし、犬の女神のところへ。

 女神さま、頭を下げてきた。

「おはようございまする。イリスさま」

「おはようございます、犬の女神さま。

 さんぽ行くけど、一緒に来る?」

「よろこんでご一緒いたしまする」

「ほな」

 イリス、犬の女神の縄を解く。

「よろしいのですか?」

「外に、まだ、コボルド居るに」イリス、女神を見る。「縄つけて引き回したりは、できぬえ」

 

◆ 18、イリスと、ともだち ◆

 

 外。

 冬の朝。

 清冽なる(せいれつなる)空気であった。

 見渡す岩山の姿は、昨夜の黒から、雪化粧した白になっておる。

 しゃく、しゃく。

 赤い肌してすらっと背の高いイリス。雪を踏み、眩しい朝日の中へ。

 茶色の毛した、でっかいでっかい犬の女神。ついて来る。

「わふん!」

 黒い目をキラキラさせて、息を吐く。ふわぁっと白く、けむり立つ。

 イリス、目を細める。「まぶし」

「イリスさまも、陽の光がお嫌いなのですか?」

「そなことないえ。好き」

 ダークエルフは日光あんま好きでないが、イリスはダークエルフではない。

 ただ、夜の方が好きかも知れんと、訊かれてみて思うた。

「・・・そやに、朝寝坊のほうがちょっと好き」

「わふん。冬の朝には、寝床ほど幸せな場所はありませぬ」

「まさにやえ。

 女神さま、朝ごはん食べた? アルフェの実いる?」

「ありがたくちょうだいいたしまする」

 犬の女神。

 澄ましてそう言うが、舌がのぞき、鼻がひくひくしておる。

 イリスがふところから赤いアルフェの実を取り出すと、もうよだれを垂らさんばかりとなる。

 実切って、種分けて、あげた。

 犬の女神、拝んで受ける。巨体にくらべれば、小さな可愛い手であった。

「いただきまする。

 はぐはぐはぐ、しゃくしゃくしゃく!」

 犬食いである。

 大きな口、ニヤーッと吊り上がり、牙のぞく。うれしそうである。

 イリスは3分の1を女神にあげ、3分の1を自分で食べた。

 空を見上げる。

 冬空は清らかである。

 透き通って、輝いておる。

 昨日の争乱など、なかったかのごとく。

 その空に、ぱっ!

 青い鳥、出現す。

 空の色より、くっきり青い、おおきな鳥である。

「わんっ!?」

 犬の女神、吠え猛る(ほえたける)。

「くせもの! くせものです。であえ、であえ! わんわんわん!」

「わんわんわん!」「わんわんわん!」「わおーん!」

 森の中より、コボルド現る。

 ワラワラワラワラ・・・!

 犬の女神とイリスの周囲に、ワラワラと集まって来た。

 守り刀だの石ころだのマントだの鍋だの、なんやかんや手にとって、果敢にも女神を守ろうとする。

「鳥でござる!」「おんなでござる!」大騒ぎである。「奇天烈でござる!」「玄妙でござる!」

 ダークエルフ兵も飛び出してきたが、こっちはイリスが『問題ない』と手で合図する。

 青い鳥は。

「ぴぃーーー!」

 びびった。

 青い頭の羽毛、ぴこん! と逆立て、8の字描くように舞い飛びよる。

「イぃーリスぅー!? てき? てき?」

「ポタージュぅー! だーいじょうぶ、やえー」

 イリス、犬の女神の背中に手をやった。『ともだち』のアピール。

「だーいじょうぶ、やからー、おいでー」

 イリスの声、岩山にこだまする。

 アルフェの実(の残り3分の1)を頭上にかかげる。

 すると。

 青いつばさした、鳥。いや、鳥女。

 イリスのともだち、ポタージュは──踊った!

 空中でひらりひらりと、粉雪みたいに舞いはじめた。

「アぁールフェーの実ぃー♪」

 イリス、サックサックと雪の中を歩いてゆく。

「ぴぃーーー! ちゅちゅちゅ!」

 ポタージュ。

 くるくるくるりっ! と、イリスに巻きつくがごとく、曲芸降下。

 ふわー。と羽毛をふくらませながら、イリスにくっつく。

 犬の女神とコボルドども、顔見合わせる。

「・・・女神さま。あれはなんでござるか?」

「さあ?」

 犬の女神、首をかしげる。

「私にわかるのは、女神イリスさまのお伴らしい、ということだけです」

 

◆ 19、戦況、きゅうへんす ◆

 

 爽やかな朝を過ごしたイリス。

 洞窟マンションにもどり、キノコスープで固いパンを食べ、ゆったりする。

 鍛練でもしようか、それとも毛布にくるまって横になっておろうか・・・と考えていたところで。

 

<こちらルシーナ。緊急連絡。カバリオ隊応答されたし。

 緊急連絡え! カバリオ隊、応答せよ!>

 

 緊急の指令が、オクトラから飛んで来た。

 

「こちらカバリオ隊、カバリオ。連絡どうぞ」

 カバリオ隊長が応答する。

 ちょうど部屋にもどるところであったイリスも駆け込んで来た。副隊長も駆け込んで来た。

<丘の街の戦況、急変した。

 至急、援軍されたし。

 カバリオ隊から、ルーン司令官の護衛に、補充3名、送れ。どうぞ>

「補充・・・!」

 3人の顔色が変わった。

 補充ということは、死傷者が出たということである。

「司令官の護衛に、補充、3名。了解」

<できればイリスを>

「了解。もちろん、イリスは入れる。状況は?」

 ルシーナの声の代わりに、しばし、激しい風の音だけが返ってきた。

<・・・正門部隊、打ち破られ、ルーンが交戦中との由。

 その直後、ハルのオクトラが流れ矢で落ちた。

 私も、とんぼ返り中。飛行中え。詳細不明。

 いまは・・・・・・・・・援軍の、用意を>

「・・・うち、用意するえ」

 イリスは隊長に小声で言うて、革のシートに並べてあった青銅のよろいを身に着け始める。

 副隊長が、イリスの背中当て装着を手伝ってくれた。胸当てと別体式なので、1人では装備しづらいんである。

「こちらカバリオ。用意はすぐできる。出発間もなく」

<いや! 動くな! 用意して待て。台を飛ばッ・・・飛ばすに、>

 風の音。

<迎え、飛ばすゆえ、マンションで待・・・!>

「了解。護衛の補充、3名、洞窟マンション入り口で待機。どうぞ」

<・・・よろしい。・・・ルシーナ・・・以上>

 

 青銅装備したイリス、かぶとの緒締め、洞窟入り口へ。

 背後で、カバリオ隊長の声。兵士を2人呼び、装備を命じる。

「・・・なにがあったんや?」「ルーン隊長は?」「隊長になんかあったんか?」

 兵士ども、動揺しておる。

「護衛の増強や!」カバリオ隊長怒鳴る。「イリス含め3名、丘の街にもどる。他は飯食っとけ!」

「は!」

「補給班長! 食事終わったら俺んとこ来い。指示する」

「は!」

 洞窟マンション、にわかに騒がしくなる。

 イリスは洞窟マンションの外へ出た。

 

 空は爽やかで、透明である。

 今日はすこし温かくなりそうな、よい天気であった。

 イリスは丘の街のある方角を見る。

 丘は、ここからでもよく見えた。

 目で見るぶんには、すぐ近くなんである。

 あいだに横たわる岩山と森さえなければ・・・まっすぐな舗装路が通ってさえおれば。

 イリス。

 空駆ける舗装路を空想した。

 洞窟マンションと丘の街をまっすぐに結ぶ、空駆ける道路を。

 イリスたちの生きた時代にはいまだ存在せんかった、『高架道』と呼ばれるものを。

 

「どうなっとるん?」とイリス。

<ルーン司令官はおそらく健在。グレイスさまの反応からの推測>

「反応?」

<『生命探索』に、グレイスさまは強い反応が出ますので。

 ハルモニアーさまは、司令官のすぐそばに居られました>

「・・・妙雅。

 助けてくれへん?」

<はい。もちろん。

 しかし、イリスさま。私も現在、別の作戦中なのです>

「・・・そっか」

 しゃく、しゃく。

 雪を踏みしめて、カバリオ隊長が隣にやって来た。

「ルシーナさまのことや。最善の手を打っとるはずや」

「・・・。」

 イリス、隊長を見る。

 彼女の黄色い目は、宝石のように光り輝いておった。

 隊長、うつむく。

「・・・やっぱ、外は眩しいわ」

 

 青空に赤いかぶとがにの姿が現れたのは、そのときであった。

 

◆ 20、敵のどほう ◆

 

 ぅぅぅぅううううおぉぉぉん・・・!

 冬空かっ飛ばす音、岩山に反響させてからに、赤い飛行かぶとがに。

 釣り針のごとき急カーブ描いて、洞窟の前に降りてきた。

 ぶわっさ!

<陸号(りくごう)です>

 赤いかぶとがにの内側から、妙雅の声がした。

 ・・・おや? オクトラは、イリスの頭上に居るのだが。

 と思いきや。

 ふわ~ん。陸号から、別なオクトラ、浮かび上がる。

<ルシーナさま随伴機です。カバリオ隊長に随伴せよと言われました。許可を頂きたい>

「助かるわ。許可する」

<イリスさま随伴機は、このまま随伴します>とイリス上空のオクトラ。

 ダークエルフの兵士、恐る恐る赤いかぶとがにの巨大ボディに乗り込む。

 イリスが乗る。手すり、がっちり掴む。お腹のとこに、オクトラ飛び込む。

「ええか? よっしゃ、やってくれ!」

 

 ぶわっさ!

 

 陸号。

 礼儀正しきはばたきひとつ。大空へ舞い上がる。

 ダークエルフ兵士ども、悲鳴を噛み殺す。

 洞窟に暮らすダークエルフには、大空へ舞い上がるというのは刺激が強いらしい。

 ぶわっさ?

 陸号、気づかう。

「かまへん。やって!」イリス、非情に命令した。

 ぶわっさ。

 陸号、冬空かっさばいて飛び始める。

 初めはゆるく、やがて猛烈に加速したかと思うと、さらにぐん・・・! ともう一段、加速する。

 丘の街が見る見る近付いてくる。

 イリス、見る。

 眼下、白く雪化粧した丘。

 その向こう側、ゆるい下り坂にへばりつく、石造りの都。

 

 初めに見えたのは、巨人の姿であった。

 目がひとつしかない巨人。8人。丘の街を取り囲むがごとく、立っており。

 足元を気にして、右往左往しておる。攻撃しておるというよりは、困っとる様子である。

<うちの巨人ですね。肆番(しばん)隊>

 その頭の上あたりをブンブン飛び回る小さな影。

<国王戦隊ですね。元鬼(げんき)陛下とコボルド落雷兵です>

 巨人軍は健在のようであった。

 

 次に見えたのは──破壊される水門であった!

 アシ戦争で激戦の舞台となった、あの水門。

 ああ! あの、水門が!

 いま、まさに!

 飛んで来た黒い物体によって!

 どがぁん!

 水門を形成するアーチが、一部、粉砕された!

 水門の上に立っとった門番、転落!

「いまの・・・!?」

<敵軍の弩砲です>

「どほう」

 

 イリス、川を見る。

 平たい箱みたいなもんが、いくつか浮かんでおる。

 ぺちゃんこの木箱みたいな、不細工な物体。

「・・・船?」

<はい。平底船(ひらぞこせん)。川船ですね>

 その平底船の、甲板。

 大きな木枠と2本の丸太が、鎮座しておる。

 イリスの見たことない構造物である。でかい。家よりは小さいが・・・納屋ぐらいか?

 ヒューマンの水兵が、その見たことないもんを操作しておる。なんか、大きな糸車みたいなもんを回しておるんである。

 ぎりぎりぎり・・・2本の丸太が、動く。

 ちょうど、人間が両腕を背中のほうへギューッと反らすがごとく。

 巻き上げ完了。別な水兵がごっつい太い槍を抱えてきて、2本の丸太のあいだに設置。

 水兵離れる。

 掛け声。レバー操作。

 

 どおん!

 

 2本の丸太、広がった!

 背中へ反らした両腕を、一気に前へ、打ち振るがごとく!

 セットされておった巨大槍、消滅!

 いや、発射! 目にもとまらぬスピード!

 ごうん!

 おっそろしい音立てて──空を飛び──水門に、ぶっ刺さる!

 水門にさらなるダメージ!

 どおん!

 さらなるダメージ!

 どおん!

 クリティカルヒット!

 水門の上にあるクレーンに、巨大槍が命中してしもうた!

 2台あるクレーンの1台、めげる!

 丸太格子、傾く!

 残るクレーンに負荷かかる!

 丸太格子はかろうじて耐えるも、青息吐息(あおいきといき)! もう1発は耐えられぬ!

 どおん!

 次の巨大槍は、水門を飛び越した!

 はずれ──ではあるが、ノーダメージではない!

 水門よりずっと奥にある民家に、巨大槍命中! 流れ弾!

 あわれ民家! たった1発で、壁にドッカンと大穴開けられてしもうた!

 

「船で・・・あれを運んで来たのかに」

<はい。食料運搬の船に紛れて>

 妙雅が説明する。

<船の積荷は、食料である。

 目の前まで運ばせてから、沈めよう。できれば、食料は奪ってしまおう。

 丘の街がそう主張し、誰も反対はしませんでした。・・・私もです>

 

 陸号は、着陸の態勢に入った。

 警備兵詰め所の、建物2階。大きなテラスへ。

 テラスには、ダークエルフの女軍人が1人、苦痛に顔を歪めて立っておった。

 ルーンではない。肌が、極めて薄いピンク色をしておる。

 ピンクのダークエルフの女であった。

 ひょろっとした、背の高い女である。美人ではあるが、健康そうではない。

 ヨロイ、なし。絹ぐもの服を華麗にまとっておる。豪華な絹ぐものマントは、ルーン司令官のより、高価そうである。

 イリスと一緒に飛んで来たダークエルフ兵2人。

 ふらふらしつつ、飛び降りて、詰め寄った。

「フレイミニア隊長!」「司令官は。ルーンさまは?」

「司令官は正門で戦闘中。詳細はわからん。伝令が通らん」

 ピンクの女軍人。フレイミニア隊長。

 顔を歪めつつ、イリスたちをうながした。

 イリス、ダークエルフ兵2人、そして車輪でごろごろ走る陸号、ついていく。

 警備兵に一言伝えて外に出る。

 大通りへ。

 やけに豪華な絹ぐものマントをひらめかせ、よたよた走るフレイミニア隊長。

 遅い。

 イリス、苛立つ。

 ダークエルフ兵2人も、苛立っておる。

「・・・隊長。もしや、負傷しておられるので?」とダークエルフ兵。

「はぁはぁ。ちゃう。日光にやられただけ」

 なんと、彼女。

 ピンクの肌が日焼けして、肌がひび割れておる。

 目もあまりよく見えておらぬようで、片目閉じて歩いたりしておる。

「・・・。」

 ダークエルフ兵の1人。小さく、舌打ちした。

 

 どおん! ずずずず・・・。

 どおん! どおん! ずずず・・・ずーん・・・!

 地響きが絶え間なく聞こえてくる。

「水門が」「水門、破られたえ」「丸太格子、倒れてしもうた」との、ハイエルフの悲鳴も。

 チンチンチンチン!

 ベル鳴らす荷車が、こっちに突っ込んで来よる。

「どきゃれ! どきゃれ! 救急運送中やえ! 道開けよ!」

 ガラガラガラ!

 ハイエルフどもが引く荷車。イリスたちのすぐ脇を通りすぎてゆく。

 哀れな姿となったハイエルフが3人、荷台に並べられておった。

 

「・・・弩砲でやられたん?」

「いえ。正門は、敵の武将の・・・人外の突撃力による、と」

「人外」

 十字路。

 角曲がる。

 正門が見えた。

 

 ──メッチャクチャに入り乱れ、乱闘を繰り広げる、ヒューマンとハイエルフの向こう側に。

 

 入り乱れる、敵味方。

 白兵戦、というよりはもはや、取っ組み合い。

 小柄でほっそりしたハイエルフ。体格のよいヒューマン。

 右となり左となり、上となり下となって、斬り合い、殴り合い、つかみ合う。

 大通りいっぱいの、乱闘。その頭上を矢が飛び交う。運悪く当たった者は倒れ、人波に溺れるがごとくして消えてゆく。

 その、向こう側に。

 

 ──オレンジの剣かざす、ダークエルフの女が立っておる正門が。

 

 ──オレンジの剣を2本かざす、ヒューマンの男が立っておる正門が、見えたのであった。

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