◆ 1、ハルモニアー、たおれる ◆
イリスはそのとき、隊列組んで、雪の山道を歩いておった。
ダークエルフ兵の隊列である。重たい水や食料をしょって、のっし、のっし・・・と歩く隊列である。
そのとき、伝令が追いついて来たんであった。
「伝令! 新生アルス伝令や!」
「ぜんたーい、止まれ!」
カバリオ隊長が命令。
兵士ども、止まる。荷物重たいので、動きにぶい。よろっ・・・と止まる。
イリスは兵士と同じ荷物しょっとるが、動き軽い。いつでも動ける態勢で、すっと止まる。
最後尾のカバリオ隊長が、伝令の所属などを確認。
「──イリス! ルシーナ参謀閣下から伝令や」
「はーい・・・?」
「はあ、はあ。イリスさま」
息切らせた伝令。顔色変えて、言うた。
「ルシーナより、イリスへ。
ハルモニアー、執務中に気を失い、倒れる。
ベットで静養中。生命に別条はなし。
イリスのみ、戻れ。──以上です!」
イリス。
足につばさ生えたがごとく、疾走。
山道駆け戻り、『丘の街』郊外にあるお屋敷へ。
ルーンとルシーナが購入した屋敷。イリスが、青い鳥女のポタージュと出会うた、あの屋敷である。
着くと、衛兵が「こちらです」と迎え入れてくれた。
1階へ。ピンクのダークエルフどもが、うじゃうじゃと行き来しておる。
2階へ。近衛兵に止められ、確認。
3階へ。梁(はり)剥き出しの、低い廊下。背高いイリス、屈むようにして歩く。
扉の前へ。誰も居らなんだ。
ノックして「イリス、もどりました」と伝える。
「はーい。どうぞー」
「・・・あれ?」
イリス。
ドア開け、小さな戸口をくぐる。
「ごめんね。仕事中やに? いま、お茶いれるね」
ハルモニアー。
イリスの二の姉が、パジャマ姿で出迎えてくれた。
「あれ? ハル姉。大丈夫なん?」
「うん。休養命じられたに、ここで寝ておるけれども──」
ハルモニアー。
小さなストーブにパジャマでしゃがみ込みながら、へんじ。
そこは、屋根裏部屋であった。
暗い。
寒い。
建物の屋根がそのまんま部屋の天井となっておる。斜め。息苦しい。
窓なく、明かり取りの小さい穴も、いまは閉じられておる。よって、とても暗い。
小さなストーブで、しゅんしゅんとお湯が沸いておる。しかし、屋根からしみ込む冷気に負け、寒い。
そんな寒い暗い部屋で。
「はい、お茶」
倒れたというハルモニアーが、お茶いれてくれた。
「え・・・大丈夫なん?」
「うん・・・」
ハルモニアーは困ったみたいに笑うて、イリスの腕、お茶持っとらんほうの腕を撫でた。
「仕事中にね。急に目の前が暗ぁなって──」
こんこん。
ノックの音。
「はーい」とハルモニアー。
「ルシーナやえ。トリフェーラさまをお連れしたのやが」
「どうぞー」
白い絹ぐものマント纏ったルシーナが入ってきた。参謀の制服である。
その背後に、茶のダークエルフの女。こちらは、月の巫女の姿である。
「どないです? ハルモニアーさま」
「トリフェーラさま。お騒がせしましたに。
立ち上がっても、めまいや吐き気はせんようになったえ」
「少し診てみましょか。ベットに座って、ゆったりしてください」
「はーい」
ベットに座るハルモニアー。
トリフェーラが布団をかけてやり、肩掛けをかけてやり、甲斐甲斐しく世話をする・・・。
巫女、トリフェーラ。
このお話では、当3章の『お猿さんと、ポタージュ(1)』に、ちらっと出てきましたね。
『湖の神殿』の巫女長の名代(みょうだい)。妙齢のダークエルフの美女である。
同盟組んで以降、出番なかったが、いまふたたびご登場というわけだ。
湖の神殿。
月の女神の神殿である。
ちょくちょく女神さま御本人が御休憩にいらっしゃる、由緒正しき神殿である。
そんな神殿の巫女だから、月の女神の愛娘である三姉妹は、お姫さま扱いであった。
・・・トリフェーラが祝詞(のりと)を唱えたりして、ハルモニアーを診ておるあいだ。
ルシーナは、ストーブからやかんを取り上げ、自分で勝手に茶をいれる。
イリスは。
「なにえ、イリス。なに睨んでおる」
「ハル姉倒れたいうから、うち、びっくりして、飛んで帰って来たに」
「ほんまに倒れたのえ。仕事中に崩れ落ちて」
「・・・そうなん?」
「ごとーん! いうから何の音か思うたら、ハルが倒れておる。
意識はすぐに戻ったが、私では原因がわからなんだ」
「貧血の症状が出とるみたいです」巫女のトリフェーラが説明した。「治療師には?」
「頼んではあるのやが。
病が流行っておって、忙しいゆえ、往診はできぬと。
そやに、無理を承知で、そなたのとこへ走ったわけやえ」
「女神さまのためですから、無理やないです。
そやけど、本職の先生にちゃんと診てもらわなあきません」
「うむ。・・・うむ。助かった。ありがとう」
「どうしたしまして。
真冬に戦しましたからね。みな、疲れておるのでしょう」
「うむ。
──というわけやえ、イリス」
「そか」
イリス納得。
反対に、ルシーナ怒り出す。
「なにえこの部屋、寒いえ!」
「そうかに?」
「イリスは鈍感やに、わかっておらぬ」
「どんかんちゃうもん。寒いのはわかっておるに。そんなにかな思うただけ」
「寒いえ! ピンクに部屋の手配任せたら、これ! まったく!」
「あ、ちがうえ。ルシ姉」ハルモニアーがさえぎった。「私が言うたに」
「なに?」
「ここでええって、私が言うたのえ」
「なにゆえ! そなた、司令官付きのスカルドえ。高官え。なにゆえ、こな物置部屋のごとき場所」
「下の階は書類でいっぱいで・・・て言われて。邪魔になると思うて」
「やはり! ピンクどものたくらみ!」
ルシーナ余計にキレた。
「おのれボンクラ! 暖炉のそばでうつらうつら。
人倒れても、書類どける程度のこともせぬ、ぼけなす!
世の中、まちがっておる!」
ルシーナはすぐキレるなあ、と、思われた方。
ちがうのですよ。いや、怒りっぽい娘ではあるのだが、ちがうのだ。
過去の流れ。経緯があるのだ。
このお屋敷。
もとは、ルーンやルシーナが自腹切って買うた屋敷なのです。イリスも、ハルモニアーも、金を出したのだ。
さあ移り住むぞというところで。
ピンクのダークエルフが、接近してきた。
「金は出してやる。この屋敷を、アルス政府の仮庁舎としよう」
というんである。
ルーンとルシーナ。相談をした。
「受け入れるしかないんちゃう? 事務員、必要やし」
「そやに、あのピンク、いかれておる」
「フローリアね」
「フローリア。アシ戦争当日に、文官どもとワインパーティーしとったそうやえ」
「うちも好かんねんけどね。ほな、文官だけ切り崩す? うち、コネないけど。ルシーナは?」
「ないに決まっておる」
というわけで。
フローリア事務局長、誕生。
で、その事務局長閣下が。
「この部屋は財務局の仮事務所といたします」「この部屋は外務局の」「この部屋は軍務局」「この部屋は」
あっちゅう間に、1階をぜーんぶ、事務室にしてしもうた。
言うておきますがね?
この時代、1階の部屋が、いちばん豪華だったのですよ。
上の階は豪華にできんかったのだ。建物がつぶれてしまうからだ。
最上階なんぞは、おまけ。余白。壁薄く、内装なく、暖炉もない。夏は蒸し風呂、冬は氷室(ひむろ)となる。
そんな部屋に、倒れたばかりのハルを追いやったやと?
──ルシーナさまがキレるのも、当然ということ。わかって頂けましたでしょうか?
「あなクソピンク! 丸裸にして雪の上に放り出してやろうか」
それを聞いて、ハルモニアーが笑うた。
「司令官閣下がおんなじキレかたしておったえ」
「ルーンが?」
「さっきちょっと見に来て、『・・・あいつここで水浴びさせたろか』て言うておった」
「ええアイディアやえ」
「アカンよ。ルン姉は優しいんやから、変な教育したら。
『宿で休む?』とも訊かれたに。断ったけど」
「なんでことわった」
「・・・いま離れたら、戻って来れん気がするに」
「なにを言うておる」
ルシーナ。
トリフェーラの反対側に座り、ハルモニアーの肩をぽんぽんと叩いた。
「そなたは優秀なスカルド。
ルーンはもちろん、丘の街からも『話がしやすい』とお褒め頂いておる」
「そうかに・・・」
「その将来有望なるスカルドを、こな部屋に入れるとは・・・」
「ええ」トリフェーラが同意した。「なんぼなんでも、この部屋はいけません」
「そやろ?」
2人、固くうなずく。
イリスはなんも言わんが、首ひねっておる。まだわかっとらんらしい。
「イリス。洞窟マンションはどうかに? 暖炉はもうすでに機能しておるはずやが」
「アカンアカン」イリス、手をひらひらする。「あそこ、いま、メッチャうるさいに」
「なにえ。うるさい」
「ガッキンガッキン穴掘っておるに。耳つぶれるぐらい、うるさいえ」
「ああ、そうか。まだ部屋増設中か。それはアカンに」
「うちがお迎えいたしましょうか?」
トリフェーラが提案した。
「うちら『湖の神殿』が、アルスの高官をお迎えして、歓待──っちゅう形で。
宿の部屋、ひとつ余分に押さえとるんです。うち、まだ、丘の街と外交してますからね。
2・3日ゆっくりなさってはいかがでしょう?
ハルモニアーさまの御降臨とあらば、我らは大歓迎なんですけども」
「ふむ」
ルシーナは、巫女と妹の顔を交互に見た。
巫女のトリフェーラは、陣営の利益からしても、また個人的にも、ハルモニアーを厚遇することは間違いがない。『来てほしい』というのは本音──もっと言えば『永久にこちらの陣営へどうぞ!』ぐらいが本音であろう。ま、安全ではある。
妹のほうはどうか。
「ハル、どうえ?」
「そやに・・・」
と、話が進みかけたところで。
突然!
ばさっ。
イリスのとなりに、青い鳥女、出現す!
◆ 2、ポタージュ、うたをおぼえる ◆
「ぴぃーーー!?」
出現した、青い羽毛の鳥女。
飛び上がり、甲高い悲鳴上げた。
「ひっ!?」ハルモニアーおびえる。
「なにえ!」ルシーナ怒鳴る。
青い鳥女。イリスの友だち、ポタージュ。
勝手におびえ、ばっさばっさと、おおさわぎ。
飛んで逃げようとし、冷たい壁にぶつかって、ぼて。こける。
「だれ? どこ? なに?」「あ、ポタージュ」「イリス! ここどこ!?」
「こっちのセリフえ! 突然飛び込んで来おって!」
大混乱である。
「ルシ姉、待って待って。ごめん、私のせい」
イリスがポタージュをかばった。
「うち、約束しとったん。
今日のお昼、一緒にご飯食べようって」
「は?」
イリス。
がくがくふるえるポタージュをかばい、頭撫でつつ、いつもの落ち着いた声で説明する。
「お昼には、洞窟マンション着いとる予定やったに?
そやに、あらかじめ約束しておったのえ。
『お昼一緒に食べよう』て。
約束忘れて建物の中に居ったうちが悪いのえ」
「・・・そやに、さすがにこの建物に直接飛び込まれては、防衛上」
「うん。ごめん。うち、ちゃんと相談しとく」
イリスはそう約束した。
しかし。
ポタージュ。あやまらぬ。
青い羽毛を逆立て、じーーーっとルシーナを睨んでおる。
「・・・なにえ」
「きらい」
「は?」
「おまえ、きらい」
ルシーナ、眉ぴくりとする。
ゆらーっと立ち上がって、なんか言おうとする。
そのルシーナの袖を、トリフェーラが掴んだ。
「いけません。妹君が」
振り向くと。
ハルモニアー、ベットに倒れておる。
──意識がないようである!
「あ、ハル!」
抱きつくルシーナ。
立ち上がるトリフェーラ。
「私は治療師ではありません。
そやけど、言わせて頂きます。
いま、ハルモニアーさまは静養中です。
ここでさわぐのは、禁止です。
さわいだら、どなたであれ、放り出します」
巫女、女神の娘に、もの申すであった。
ルシーナは口を固く結び、ポタージュとは目合わせず、出て行った。
「・・・びょーき?」とポタージュ。
「うん。私の姉者。ハルモニアーっていうねん。
ちょっと調子悪いみたい」
「ちょーしわるぃみたぃ?」
ポタージュはその場で左右ステップを始めた。
やがて、ハルモニアーが目を開いた。
「・・・あれ?」イリスとポタージュを見る。「ああ、ポタージュやったんやに・・・」
「びょーき?」とポタージュ。
「ん? うん。そうみたいやに。
なんか・・・地球に降りてきたときみたいな感じで。
目の前が暗ぁなって、気付いたら倒れてるのえ」
「びっくりした?」
「そやに。びっくりしたえ。急に現れるもん」
「・・・。」
ポタージュ。うなだれた。
しばし足元見つめ、首かしげ、見上げて、
「ごめーんね?」
あやまった。
ハルモニアー、ちょっとびっくりし、優しい笑顔となる。
「うふふ。イリスのところに来たんやに?」
「うん・・・」
「イリスが、こんなとこ居ると、思うておらんかったのやろ?」
「うん・・・」
「そら、びっくりするえ。イリス、あやまり」
「ごめーん」とイリス。
「ぴぃー、ちゅっ・・・」
『高き湖』の鳥女、青い羽毛したポタージュ。
つばさない女どもを順番に見て、なんか、考える。
ときどき「ちゅっ」「ちゅっ」と声を出し、左右にダンスしつつ。
その声、なんとも可愛らしく、澄んでおる。
「・・・綺麗な声やに?」
ハルモニアー。
スカルドの本能か。その声に、反応した。
「んー?」
「ポタージュ、声、綺麗やえ」
「こえ、きれぇやゑー?」
「うん。綺麗な声、しておるに。
歌、おぼえたら、えーえ感じになるえ」
「うた、おぼえたら、えーえかんじ?」
「うん」
ハルモニアーは、かんたんな歌を口ずさんだ。
♪おそらには おひさま
じめんには おいらが
すんでおる はっはー
寝ておるせいで声は弱々しいが、そこは本職。音はたしか。
ポタージュ、目を真ん丸にする。
にゅーっと首伸ばし、顔突き出す。
♪よぞらには おつきさん
おうちには おっかあ
ねむっとる ほっほー
「ほっほー♪」
ポタージュ、さっそく、声まねする。
「おそらには」ハルモニアーは1番の歌詞をくり返した。「おひさま」
「おっそらにっはー」ポタージュ、声まねする。「おっひさまー」
・・・輪唱みたいになる。
ハルモニアー、上体起こし、手を伸ばす。
トリフェーラ、すっ・・・と、竪琴渡す。無言の連携である。
ぽろろんろん。ぽろりろん。
いつもほど繊細ではない、単純な調子で竪琴が鳴る。
弾きながら、また歌う。
ポタージュ、声まねする。
不思議なことに、ハルモニアー、ポタージュ、竪琴の音が響き合い、ちゃんとした音楽になった。
「音楽いうのえ」
「おんがくゆーのゑー?」
「ほかにも色んなんあるのえ」
「いろんなぁん、あるのゑー?」
「教えたげよっか」
「うん!」
「ここ、おいで」
「ぴぃー、ちゅちゅちゅ!」
ぽんぽんと叩かれたベットに、ポタージュ、ふわっと飛び乗った。
さすがは鳥女。ベット、ほとんど沈まぬ。──足で乗るとは困った娘であるが。
ハルモニアーはそんなことはとがめず、うれしそうに歌を教えた。
ときどき咳き込む。さすがに寒すぎるか。
「だいじょーぶ?」ポタージュが気づかった。
「ありがとう。けほけほ。ちょっと、やっぱり、寒いに」
「やっぱ、あったかい部屋やないとアカンのやに・・・」イリス、やっと理解する。
ノックの音。
「ルーンです。ハル姉、大丈夫?」
「どうぞー。げほげほ」
ルーン司令官が入ってきた。
すっかり身に着いてしもうた、軍人の男装。首元には、羊毛の白茶色のマフラー。
手に、なんかの包み。
「イリス。これ、差し入れ」
「なにかに?」
「アルフェの実」
「アぁールフェーの実ぃー?」
アルフェ大好きな鳥が反応。首伸ばす。
「うちの参謀が、『ごめん』言うてたで」
「さんぼー・・・」
「さっきの恐いねーちゃん」とイリス。「私の姉者。ルシーナ」
「ルシーナ。きらい」ポタージュ半眼になる。
「許したげて。アルフェの実、切ったげるから」
「アールフェの実ぃー♪」
ルーンはベットに近づき、首のマフラーをふわっとハルモニアーにかける。
「ありがと」
「ここ、やっぱ、寒いね。こらアカンわ」
ルーンは簡素な丸椅子引っ張りだして、座った。
飛び上がった。
「冷たっ! 尻、冷たっ! なにこの部屋! 椅子が凍っとる!」
ハルモニアー、笑う。ベットぽんぽんした。「ここ座り」
ルーン、座る。
ベットの上、わやくちゃとなる。
寝ておるハルモニアー、座っとるトリフェーラとルーン、立っとるポタージュ、ポタージュの後ろにぎしっと乗ってくるイリス。
ま、あたたかいと言えば、あたたかい。
「はい、どうぞ」
「はーい、どーぞー♪ アルフェの実ぃ~♪」
シャクシャク。
みんな食べる。
「ハル姉。シャクシャク」とルーン。「トリフェーラさまのとこ、行ってもらおう思うねん」
「・・・。」
「ハル姉に出張してもろとるあいだに、部屋1つ、空けさせるわ。
ほんで、トリフェーラさまを『お招きのお礼に』て、その部屋にお招きする。
両方とも、ハル姉に任せる。これでどうやろ?」
「そやに・・・邪魔にならんかに?」
「邪魔になっとんの、ハル姉ちゃうし」
ルーンは言い切った。
「いま、1階を臨時で空けるように強く言うてきたけどね。
これでは済まさへんで。ちょっと今回は、うちもカチンと来たからね。
外交で手柄立ててもろて、イヤミのひとつぐらいは噛ましたろうって、ルシーナさまと相談してん」
「外交?」
「文化交流。
ハル姉、鬼神さまのお話、作ってるやん?」
「うん。途中やけど」
「あれなんかええと思うで」
「それはええ考えです!」
トリフェーラ、賛成する。
「女神さまと鬼神さまの話を、ハルモニアーさまが編まれたやなんて。
そんなん授けて頂けたら、光栄です。最高のお土産になります」
「うん・・・」
ハルモニアー、ちょっと沈んだ顔をする。
「・・・ルン姉」
「なに?」
「私、やっぱり、軍では役に立たへんかな」
「なんでよ。役に立ったやん。
ハル姉、正門ではみんな奮い立たせてくれた。連絡将校もやってくれたやん」
「けど、目の前で戦いになると・・・私、手ふるえるし」
「そんなん、私もや」
「イリスとくらべたら・・・」
「イリスさまとくらべたら、うちも、みじんこや」
「そやに・・・」
シャクシャク。
しばし、みんながアルフェの実かじる音。
「ハルねーえ?」
「なに、ポタージュ?」
「猿の神の、ルーン見抜いたやーん」
「・・・。」
「ハルねーえ、かしこい」
ポタージュ。
そう言うと、ハルモニアーの柔らかい髪にちゅっちゅっとキスをした。
「・・・ありがとう」
「ポタージュ、わかってるやん!」とルーン。
「ぴぃちゅっちゅ!」ポタージュはばたく。
「あはは」
ハルモニアー、声立てて笑う。
「あ、そえ! ポタージュも一緒に行ったらアカンかに?」
「外交? イリスの友だちやし、こっちは問題ないけど」
「うちも歓迎です。ぜひ、ご一緒に」
「よっしゃ。ほんなら・・・」
決まり、と言いかけて、ルーンはイリスを振り向いた。
「あれ? イリス。アカンかった?」
「アカンくないけど」
「なんでふくれてるん?」
「えー・・・ふくれてへんもん」
「なんや。すねてるだけやったわ」
「すねてへんもん」
「ごめんね。イリス。予定あったん?」
「うーん」
イリスは首ひねった。
「じつは、うちの領地、案内しようかなー思うててん。
でも、いまやなくてもええし。雪積もったら、延期にするつもりやった」
「めっちゃ積もってんで」とルーン。
「そうなん?」
イリス、明かり取りの小さな窓まで行って、ちょっとだけ開けた。
それだけで寒々しい風の音がする。イリスすぐ締めた。
「ほんまや」
白い雪で、世界は覆われつつあった。
◆ 3、冬の日のたのしみ ◆
「本日はお招き頂き、ありがとうございます」
ハルモニアー。
胸に黒い物体抱えて、あいさつ。
ぱちぱちぱち。
拍手。
広ーい部屋。大きな暖炉に、さかんな火。とてもあたたかい。
ダークエルフが12人。ハルモニアーを囲んで、拍手しておる。
湖の神殿。トリフェーラと巫女2人、護衛の女剣士1人、男剣士3人。
新生アルス。カバリオ隊長と兵士2人。一般の避難民の代表が3人。
以上である。
ぱちぱちぱち・・・拍手、やむ。
「湖の神殿のみなさま。
アルスの民の避難中、宿と食事を提供頂き、ありがとうございました。
あらためて、御礼申し上げます。
うちら姉妹も、お世話になりました。
そんな湖のみなさんに!
今日は!
ちょっとした魔術を、お見せしたいと思います!」
ぱちぱちぱち。
ダークエルフども。
拍手しつつ──あの黒い物体は、なんや? と、首ひねっておる。
ハルモニアー、その疑問は放置。
じつは妙雅の端末機・オクトラなのだが、説明はせぬ。
「それでは! 私のそばを、空けて頂いて・・・」
オクトラを抱いたまま自分の周囲を片付けて、
「はい!
では、私の妹とお友だちに、来てもらおう思います!
イリス、ポタージュ! 私のそばに、あらわれよー!」
ばさっ。
イリスとポタージュ、出現す。
「きゃあ」「うわあ」「うおっ」「なんやと!?」「転送の術!?」
ダークエルフども、びっくり仰天である。
・・・ちなみにカバリオ隊長も「うおっ」とか言うとる。へたくそな演技である。
「あはは。いかがですかー?
私の妹、イリス。そして、お友だちのポタージュです!」
「ああ、イリスさま」「ポタージュて、猿の神をやっつけた?」「なんやと」「英雄やないか!」
ダークエルフども、驚く。
ポタージュ。
ふわさー・・・と、青いつばさ広げた。
左右にダンスしだした。
何するんかと思うたら(打ち合わせにないアクションだったんである)、歌いだした。
♪おそらには ポタージュ
じめんには イーリスー
すんでおる ほっほー
よぞらには おつきさん
みずうみにゃ しーんでん
アルフェの実ー ぴぃー、ちゅちゅちゅ!
「替え歌」とイリス。「2人で考えてん」
沈黙。
素人2人の唐突なアクション。これは、すべったか!?
そこを、ハルモニアーがにっこり笑ってフォロー。
「いかがですかー?
ポタージュの、うたごえ!
猿の神さんを撃退した英雄っちゅうのは、みなさん、御存知でしょうけれども。
こーんな可愛い、綺麗な声してるて、知ってましたー?
私たちの友だち。よろしくお願いしますねー!」
ぱちぱちぱち。
ダークエルフども、ふたたび拍手。
笑って、イリスとポタージュを歓迎した。
雪の積もってゆく、丘の街。
ぽかぽかと温かい暖炉の部屋で過ごす、冬の日のハルモニアーであった。