六腕三眼、鬼の神(りくわんさんがん、おにのかみ)。
これは、オーガの神である、鬼神(きしん)のお話です。
1章で、『力』のルーンを授かった。
2章では、『鬼神』の名、六人の息子を授かった。
ところが3章で、大事な奥さん裏切って、浮気をしてしまいよった!
綺麗な綺麗な、お月さん。可愛い可愛い、娘たち。
浮かれて過ごす、家出男の、鬼神ではあった。
しかし。
その3章の、最後において。
「あれは、神竜(じんりゅう)」
──恐ろしい異変が、地球に兆す(きざす)のでありました。
ここから、すなわち、4章は。
大いなる災い。
愛する者が、この世に居らぬ者となる。
悲しみ、苦しみ、萎む(しぼむ)鬼神。あてもない探索の旅に出る。
その探索が、終わるとき。
この物語も、おしまいとなる。
・・・え? くじけてクヨクヨする鬼神なんぞ、見たくないって?
そうですね。そこは私も懸念する(けねんする)ところです。
ですがたぶん、大丈夫。
なんでといって・・・・・・・・・いや、いまは、明かせませぬ。
ただ、こう申しておきましょう──
『身構えることはありません。
酒でも呑みながら、楽しく聞いて頂ければ結構』
──とね。
それでは、お話しいたしましょう。
最終章、「死の探索」。
災いの前(1) 火竜バロウモ、鬼神にこたえる
◆ 1、鬼神、らっかする ◆
「ぬう! 道が切れとる」
鬼神。
複雑な顔をした。
月から、地球まで。
輝く『月の道』をたどって、走って来たのだが・・・。
その道が。
切れておる。
「そうか。
『待てと言うに!』と、やかましく言うと思うたら。
こういうわけであったか。うーむ・・・」
眼下、アルフェロン湖。
偉大なる巨大湖。夜明けを前に、静かに眠っておる。
冷たい冷たい冬風が、雲を切れ切れに飛ばしてゆく。それで、湖が見えたり隠れたりする。
鬼神。
雲よりも高いとこに居るんである。
『月の道』が、雲より高いとこで、終わっとるせいである。
「・・・ええい。やむを得ん。
そーれ!!!
無策のジャンプ!!!」
ぴょーん。
鬼神、跳んだ。
『月の道』から、飛び出して。
ぐるーん・・・。制御不能に回転しつつ、雲の下へと、落下するのであった。
──さて、その、雲の下。
アルフェロン湖の岸辺では。
ひとつの事件が、持ち上がっておった。
水のドラゴンと、火のドラゴンが、一触即発になっとったんである。
かたや、水のドラゴン。
水辺に黒々とそびえ立つ。
鉤爪ついた前足と、こうもりのごときつばさをかまえ。
しゃー、しゃー、舌を出す。じゃぶ、じゃぶ、波立てる。
黒水竜。
その名もみなさん御存知の、ウミ=ジャブジャブ!
ずるがしこくも臆病な、アルフェロンの女王竜!
かたや、火のドラゴン。
赤い炎をメンラメラ、その全身から噴き上げる!
生きながらにして、火炎に巻かれる巨塔のごとし!
輝く瞳で、ジャブジャブを睨んで!
燃ゆるドラゴン!
赤き火竜!
その名はいまだ世に知れぬ、新たなドラゴン、ここにあり!
「──バロロロロ!」
その、名も知れぬ赤火竜。
もんのすごい吠え声もらして、火を吐いた。
炎は砂浜に垂れ落ちて、じゅう! ちりちり! 砂を焼く。
なんと、その砂! またたく間に溶け合って、ガラスになってしもうておる!
「ジャブジャブ!
くじらのごとき、でぶ竜め!
我らが太母(たいぼ)を、裏切ったな!」
「はてさて?
一体、なんのことやら?」
のらり、くらり。黒水竜、左右にくねる。
ざぶーん、ざぶーん。あまりに巨大なその身体。くねっただけで、波が立つ。
「この私。
ウミ=ジャブジャブは、あなたなんかとは、ちがうのです。
かしこい竜なのです、このジャブジャブは。
なんといっても、『力』のルーン。
盗まれた、あのルーンを見つけたのは。
ほかならぬこの私。ウミ=ジャブジャブの、手柄なのですから」
「おのれの手柄を吹聴する(ふいちょうする)!
そうして太母に取り入りながら、裏では人間と手を結ぶ!
貴様のやりそうなことだ! たましい暗き、邪水竜めが!」
水と火の、巨大なドラゴン。
双竜、一歩も退きはせぬ。
交わす言葉、吐く息は、だんだん厳しくなってゆく。
「おやおや! この私、ウミ=ドラゴンたる私を前にして!
放浪の、独身の、タマ産みもせぬこわっぱが!
お嬢ちゃんが、頭が高い!
かしこまりなさい。
鼻も曲がる臭いやつ。硫黄の毒吐くシルバーイーター(銀喰らい)!」
「我はこうべ(頭)を垂れることなし!
火は燃え上がる! 立ちのぼるものなれば!」
「ほほほ。
たき火のごとき、お嬢ちゃん!
エレメントたる力もなく、知恵すら持たぬ、お馬鹿ちゃん。
勝てると思っておいでですか。このアルフェロンの女王に!
ほほほほほ!」
「だまれ!」
「さあさあ、いまなら許してあげますよ。
あなたのごとき馬鹿竜も、やがてはウミになるのです。
我らドラゴンの世界を支える、ひと柱とはなるのですから」
「この世に2柱のウミはいらぬ!
ジャブジャブ! 貴様は、ここで殺す!」
双竜、カッ! と、牙を剥いた!
いまぞ、まさに、激突のとき!
ひゅ~~~ん。
──空から、なんか落っこちてきた。
どっっぱあああああん!!!
「・・・は?」
双竜。
おどろき、のけぞり、湖に突き刺さった、そいつを見る。
ざばあああ・・・!
落っこちてきた、なんか。
水の中から、這い上がってきた。
全身、泥まみれ。どろっどろ!
6本生えた手でもって、その泥を払っておる。
「腕の多いやつ」と赤火竜。「怪物か?」
「ひい!」と、ウミ=ジャブジャブ。「き、き、き、」
「やれやれ・・・」
ざぶ、ざぶ、ざぶ。
6本腕のどろどろ怪物。
顔の泥を、湖水で洗った。
「・・・慣れてしもうたわ。
こんな登場の仕方にのう」
「き、き、き・・・鬼神!!!」
鬼神が。
双竜のあいだに、立ち上がったのであった。
◆ 2、鬼神、双竜をせいす ◆
「ひえええ!」
ウミ=ジャブジャブ。
ざっぶーーーん!!! 跳び上がって、横倒しになった。
ざんぶらがんぶら、どんぶらごんぶら! 岸辺に、津波、押し寄せる。
「うん?
なんじゃ、おまえか。
久しぶりだのう、ウミ=ジャブジャブよ。
しっぽの具合は、どうじゃ?」
「ひい!」
「何をグネグネしておるのだ」
どうやら、ジャブジャブ。
おどろきと恐怖で、身体がうまく動かんらしい。
雨後のみみずがごとく、荒波立ててのたくっておる。
「そう慌てるな。
おまえを殴りに来たんではないのだ。
──で。
そっちの燃えておるのは、一体、なんじゃ?」
鬼神。
赤い火竜を、見上げるようにした。
夜空を焦がす、その巨体。メンラメンラと燃えておる。
「おまえ、熱くないのか?
そんな、全身、火ダルマで」
「鬼神だと?」
「ん? おう。いかにも!」
鬼神。
がば! 六腕かまえる。
カッ! 三眼開く。
「六腕三眼、鬼の神とは、私のことだ!」
「『力』のルーン、貴様、持っておるのだな?」
「おう。持っておるとも!」
「よこせ!」
「なんと?」
「それをよこせ! 『力』のルーンを!」
「・・・ほほう」
鬼神。
ニヤリと笑うた。
「久しぶりだのう。私に、そんな口を利くやつは」
「バロロロロ・・・。
よこさぬのならば、ここで死ね!」
赤火竜。
ドロドロドロ! と、猛火を吐いた。
「おっと、危ない」
鬼神は火を避けた(よけた)。
じゅううう!
猛炎が、湯気噴き上げて、砂溶かし、ガラスの浜辺を造り出す。
「むむ! やりおる」鬼神、感心である。「これは、喰らうとまずそうだ」
「バロロロロ・・・。
やはり。レガーから、わざをもらっておるな」
「うん? なんのことだ?」
首をひねる鬼神。
「──ジャブジャブよ」
赤火竜は、そんな鬼神を無視をして、ウミ=ジャブジャブに呼びかけた。
「なんです? チョロ火のお嬢ちゃん。雨を知らぬ焚き火竜よ」
「一時同盟を提案する」
「なんですって?」
「目の前に居る、この盗っ人を倒すまで。
同盟し、味方となって戦うことを、提案する」
「・・・なるほど、なるほど」
ジャブジャブ。
ようやく落ち着いたか。「よっこいしょ」と、鎌首もたげ直した。
「面白い提案です」
「おい」鬼神が口を挟んだ。「ジャブジャブ。おまえ、私との約束を違える気か?」
「なんの約束です?」
「人間を襲わんと約束した」
「ええ。その通りです。
この私、ウミ=ジャブジャブは、人間を襲いません。
人間がどうしようもなく困っているときには、力を貸します。
これは、あなたと約束をしたところです」
ジャブジャブ、ニターッと笑う。
「しかしあなたは、人間ではありませんね?」
「ぬ!」
「やはり手を組んだのだな」と赤火竜。
「些事(さじ)は置きなさい。同盟の申し出、考えてあげますから」
ざぶ、ざぶ・・・。黒水竜、ウミ=ジャブジャブ。鬼神の背後に回り込む。
メンラ、メラ・・・。赤き火竜、鬼神の正面に立ちふさがる。
湖から。
砂浜から。
岸辺に立つ鬼神を、挟み撃つ形である。
「ほーう?」
鬼神、ニヤニヤする。
「よかろう。受けて立ってやる。
──だが、その前にだ。
名があるならば、名乗るがよい。
メラメラ燃える、熱そうなドラゴンよ」
「バロウモ」
火竜は答えた。
「我が名はバロウモ! 火のエレメントたる竜!」
「よかろう。バロウモ。
そして、ずるがしこい、ウミ=ジャブジャブよ。
かかってくるがよい!」
鬼神が、そう言うた瞬間。
「ボロロロロ!!!」
火竜。
炎のブレスを吐きかけてきた!
「おっと、危ない」
鬼神。
ばしゃーんと湖に潜って、ブレスを避けた。
「バロロロロ!」
赤き火竜、バロウモ。
首めぐらして、鬼神を追いかける。
じゅごおおおお! 湖面、あっちゅう間に、沸騰! 蒸発してゆく!
「うわっ熱っちゃちゃちゃちゃ!」
鬼神、飛び跳ねる!
水面跳ねる、小ざかなのごとし!
沸騰する湖面から、右へ、左へ、逃げ回る!
「おまえを盾にしてくれるわ!」
ジャブジャブの後ろに逃げ込もうとする!
竜どもは、同盟を組んだようだ。味方を盾にすれば、火を吐くのをやめるだろう──との、考えであったが。
「好都合!」
火竜バロウモ。
火を吐くのを、やめようとせぬ!
「溶けてしまえ! ジャブジャブもろとも!!!」
なんと!
ウミ=ジャブジャブもろとも、鬼神を亡き者にせんとす!
『鬼神に当たらんでも、ジャブジャブに当たればいいや』との勢い!
あやうし! ウミ=ジャブジャブ! まあ死んでも誰も困らんが!
「ほほほ。そう来ると思っていましたよ。
死ぬのはあなたです──
『ジャブジャブの黒き奔流』!!!」
がぱ。
ウミ=ジャブジャブ。
真っ黒な口を開き、砲弾のごとき黒水を、吐き出した!
どっっっ・・・がああああああ!!!!!
なんだかわからん轟音!
巨大な岩石のごとき、真っ黒の水のかたまりが、砂を溶かす火炎のブレスと衝突した!
激突! 爆散! 水蒸気!
はじけ散った火炎のブレスが、また湖面を沸騰させる!
「うおおおお! 熱っっっっっっついわ!!!」
鬼神、水面から、ジャブジャブの首に、ジャンプ!
ましら(猿)がごとく、よじ登る!
「ひい!」ジャブジャブ恐怖!「やめて! 私にさわらないでください!」
「うるさい! 熱湯なのだ! スープになってしまうわ!」
大騒ぎしながら、2人は岸辺でばっしゃんばっしゃん暴れ回った。
「だいたい、おまえたち、同盟したんじゃないのか!」
「提案はした」とバロウモ。
「考えると言いました」とジャブジャブ。「締結は、まだです」
同盟、まだだった!
提案し、検討したが、締結はしとらんという理屈!
「ええい、ずるがしこい竜どもめ!
──あっ」
つるん。
鬼神の手がすべり、ジャブジャブの頭から落っこちる。
ざぶん! 「熱っっっつ!!!」お尻押さえて飛び跳ねる。
どて。砂浜に逃げ上がり、こける。
「もらった! ボロロロロロロロ!!!」
猛火炎が鬼神を追撃!
「うわあ! 危ない」
鬼神、横っ飛びで避ける!
砂浜、ガラスになる!
「そんな余裕があるのですか?
『ジャブジャブの黒き奔流』!!!」
ジャブジャブ、すかさず一発!
鬼神──ではなく、横向いた、バロウモの頭に!
ごばああ!
黒き砲弾! 火竜のどたま(頭)に、ぶち当たった!
「ぐぬう!」
ぐらりとよろめく、小山のごとき竜!
もはや誰が誰と戦っとるんかわからん!
「しめた! いまのうち!」
鬼神、立ち上がる。
懐から、綺麗な黒い玉を出す!
「ジャブジャブよ!
そなたの宝玉、みたび、使わせてもらうとしようぞ!」
その黒玉!
黒水竜ジャブジャブが、おえーと口から吐き出した、汚いけれども綺麗な玉!
雨降らしの黒玉!
「そーれ!
雨よ降れ!」
ばちーん!
猛烈な勢いで、ぶっ叩いた!
どっがあああああん!!!!!
猛烈な雨──いや、滝!
空から、滝が、降ってきた!
鬼神、水竜ジャブジャブ、火竜バロウモ! 全員、地面に叩き伏せられる!
「ぬおお! 『力』のルーン!」
「ぐぎゃあ! つぶれる! 強く叩きすぎです!」
「ぐあああああ!」
アルフェロンの岸辺!
人間ならぬ、偉大なるものども!
叩きつける黒滝に、大騒ぎである!
「バララララ!」
いちばん苦しんでおるのは、火竜、バロウモであった!
「やめよ! この雨を──やめよ!」
絶叫!
湯気立ちのぼらせて、どたんばたんと砂浜でもがく!
その身体を包んでおった火、消え失せ、じゅうじゅう煙を上げるのみとなる!
「もろた!」
『力』のルーンを極めた神。
滝の中で、軽々と、ハイジャンプ!
火竜の首に飛びついて、もがく前足逆手に取って、砂に頭を押さえ込む!
「とったり! 火竜バロウモ!」
・・・やがて、雨は弱まった。
滝は、豪雨に。豪雨は、雨に。
ざぶーん、ざぶーん・・・。一時は荒れ狂った湖も、ガラスの浜辺を優しく洗うのみとなる。
岸辺に打ち寄せる波に乗って。
黒い竜が、鬼神の背後に這い上がって来た。
「・・・。」
・・・がぱ。口を開く。
「──そうはいかんぞ、ジャブジャブ」
「ひっ!?」
ガラスの弾。
鬼神の手が、かまえておる。
溶け固まった砂──ガラスの固まりを、拾ってあったのだ。
ジャブジャブがなんかしたら、投げつけるために。つまり、手投げ弾である。
「私はおまえを、二度見逃した。三度目はない。
今度こそ、この世に居らぬ者にしてしまうぞ」
「し・・・しませんとも!
私は、何も、あなたを害するようなことはしていないのですよ。
ただちょっと・・・『できるかな?』と、考えてみただけです」
「考えるだけなら、好きにせよ。
だが『ジャブジャブの黒き奔流』とか、言うんじゃないぞ。
『ジャ』より先は、口にできんようにしてしまうぞ」
「・・・・・・・・・はい」
鬼神、双竜を制す! であった。
◆ 3、神竜の、せんぺい ◆
「さて。それでだ。
バロウモとやら」
「なんだ」
「おまえ、なんか言うことはあるか」
「私の負けだ。殺せ」
「性急なやつ。
私は、いまのところ、おまえを殺すつもりはない。
おまえはあんまり、うまそうでもないしな。ジャブジャブとちがって」
「私もおいしくありませんよ!」
「知ったことか。殺せ」
「勝った相手をみな殺しておったら、この世に誰も居らんようになるではないか。
何か宝を差し出せ。さすれば、見逃してやろう」
「私は、いまだ放浪の身。
宝など、ひとつも持っておらぬ」
「ほう?」
鬼神はちょっと興味をひかれた。
バロウモの言葉に、若き日の自分を重ねたんである。
「人間から奪ったりはせんのか」
「人間の宝など、私が近付いただけで燃え上がり、溶け果ててしまうわ」
「手下に集めさせたりはせんのか」
「放浪の竜に手下などおらぬ」
「さびしい人生だのう」
「バロウモよ」ジャブジャブが口を出した。「情報を差し出す手がありますよ」
「情報だと?」とバロウモ。
「あなたは、神竜に会って来たのでしょう?
神竜のこと、鬼神には、宝と呼べる情報になるでしょう」
「神竜だと!?」
鬼神、おどろく。
そもそも地球に降りてきたのは、そのためなのだ。
地球に広がる恐ろしい雲を見て、慌てて娘の後を追いかけて来たのだから。
その恐ろしい雲は、神竜だと、月の女神が言うておったのだ。
「おいバロウモ!
おまえ! いま神竜が何をしておるか、知っておるのか!」
「知っておる。先日会って、話をした」
「ならば、それを教えろ!」
「ことわる」
「なに!」
「このバロウモを、そこの、くっちゃべりのヘドロ竜などと一緒にするな」
「生意気を言うと、呑み込んでしまいますよ、バロウモ」
「ふん」
「情報を差し出し、ぶざまに生き延びなさい。
それがお似合いです」
「馬鹿を言うな」
「ばかではありません。私は、かしこいのです。
若き竜、バロウモよ。生き延びなさい。
あなたも、貴重な存在なのですから」
「なに・・・?」
「アシの段階を抜け出し、ドラゴンとなるのは、万に1つ、億に1つ。
あなたは、その奇跡のひと柱(はしら)。
簡単に死んではいけません。ぶざまに生き延び、竜の柱となりなさい」
「・・・ふん。ババアめが」
バロウモは力を抜いた。
「よかろう。
鬼神よ。
3つだけ、貴様の質問に答えてやる」
◆ 4、火竜バロウモ、鬼神にこたえる ◆
「けちけちするな」鬼神はごねた。「訊いたことには、全部答えよ」
「3つだ」
「せめて、20ぐらい質問させろ」
「3つだ」
「10でどうだ」
「3つだ」
「妥協をせよ」
「せぬ」
「生命が惜しくないのか」
「私は、私には、興味がないのだ」
「わっはっは!」
鬼神。
笑うた。
「この、頑固者め!
よかろう。では3つだけ訊ねよう」
「しゃべりにくい。手を離せ」
「人間を襲わんと約束しろ」
「せぬ」
「神竜のことが収まるまででよい。人間に手出しをするな。ていせんじょうやくじゃ」
「停戦か・・・
では、1年だ。
1年間。このバロウモは、人間にも、人間の信じる神にも、手出しをせぬ」
「ていけつだぞ。『案を出しただけだ』とか言うなよ」
「言わぬ。いま言ったこと、約束する」
「よし」
鬼神は、赤き火竜から手を離した。
「では、3つだけ訊ねるぞ。
えーっとだな・・・」
「さっさとしろ。私は、腹が減った」
「うるさい。集中できんから、静かにしておれ。
えーっと。
──よし。1つ目だ。
神竜はいま、何をしておる?」
「飛び立とうとしておる」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だ。比喩(ひゆ)ではない。
神竜は、千年、地上で眠っておった。
その目覚めの年。
1年だけの、飛翔の年がきたのだ」
「ひしょうのとしだと」
「我らが太母は、千年眠るのです」とジャブジャブ。「そのあと目覚めて、1年だけ活動します。今年が、その年なのです」
「なんだと・・・。
まるで巨人のように、長生きなのだな。
変な雲が起こったのは、そのためか」
「そうです」とジャブジャブ。「神竜は大きいのです。つばさを広げただけで、恐ろしい嵐が起こるほど」
「そんなにでかいのか」
「それは2つ目の質問か?」
「いやちがう」
鬼神は慌てて否定した。大きさなど、見ればわかることだ!
「──2つ目は、こうじゃ。
神竜の弱点は何か?」
「知らぬ」
「それでは答えにならんぞ」
「知らぬのだ」
「我らが太母、神竜は、無敵ですよ」とジャブジャブ。「弱点など、ありません」
「それはちがう」バロウモが反発した。「一度は死んだのだ。殺すことはできるはず」
「そのときに、『天』のルーンで、死を克服したのです。ですから、弱点などないと言うべきです」
「殺すことはできんというのか?」
「いや、殺すことはできる。その方法は、私にはわからぬが」
「殺したところで、死を克服しているのですから。蘇ってきますよ」
「ふーむ・・・」
鬼神は考えた。
よーく考えて、最後の質問をした。
「──では、3つ目じゃ。
神竜は、何をしようとしておる?」
「バロロロロ!」
バロウモは、笑うた。
「なにがおかしい」
「我らが太母は、眠りのうちに、ルーンを盗まれた。
そのルーンを、怒り狂って、探しておった。
『力』のルーンを! その盗っ人をな!
その当の本人が、神竜の目的を知らぬとは」
「む・・・」
「神竜は、尖兵を放っておった」
「せんぺい」
「分霊を兵として、世界中を探っておったのだ」
「わけみたまだと?
神竜も、わけみたまができるのか!」
「できますとも」
ジャブジャブが、ニターリと、いやらしい笑いを浮かべた。
「何度も会ったはずですよ。
最近では、世界中にあのへびがいますからね」
「へび」
「白い、つばさもつ、小さなへび。
森の中に隠れ、人間どもを偵察する・・・」
「つばさへびのことか!」
つばさへび。
つばさ持つ、白きおろち(大蛇)である。
鬼神は何度も仕留めたことがある。かば焼きにして、食うたこともある。
灰沼の氏族のハイエルフと、こんな話をした記憶もある──
『こやつが現れるのは、この世の終わるとき。ゆえに『終わりへび』というのですえ』
『なに!? 本当か? つばさへびだと思うておったわい』
『はい。ふつうはそう呼びますに。
私どもの氏族が、世界の終わりを告げるへびと、言い伝えておる次第』
「──あれは、神竜のわけみたまであったのか!」
「そうですとも!」
ジャブジャブ、うれしそう。
鬼神がショック受けとるのが、快感なようである。
「おほん。
もっとも、つばさへびは、馬鹿ですからね。
『力』のルーンがあるのか、ないのか、判断するほどの、かしこさはない。
はっきりさせたのは、この私なのです」
「なんだと?
──あっ! そうか!
私が自分で言うたのであった!」
「そうです」
ジャブジャブ、満面の笑みである。
でかい口が横に裂けたようになって、じつに、へび顔である。
「あなたは、『力』のルーンを持っていると、自分で宣言した。
私はそれを聞き、また、実際に戦って、確認をした。
それで。
お祈りして、神竜に奏上したというわけです!」
「おいのりしただと!?」
「神竜は、私たちの神さまですからね」
「そうか・・・そなたらは、神竜の信者というわけか」
「うふふ。うふふ。
あなたが、おしゃべりなおかげで。
かしこい私は、手柄を立てることができたというわけです!」
「ぬうう!」
「神竜の敵は、本来は、貴様ではなかった」
と、火竜バロウモ。
「神竜をたった一度だけ殺した巨人。
巨人の王。彼奴こそ、神竜の宿敵であった」
「なんと。義父上が・・・」
鬼神。
心の中で、考える。
「義父上がいつも『秘密』『秘密』と、教えてくれなんだのは・・・。
神竜のことではなかったか?
義父上は、神竜が目覚める時が近いのを、知っておったにちがいない。
何千年も生きておると、言うておいでであったもの。
『秘密』と言うておったのは・・・
神竜と戦うための、秘密のわざ。秘密の策。秘密の発明。
そういったものにちがいない。
そうだ。きっと、そうだ」
鬼神。
さらに、考えて。
激しく、動揺した。
「──ならば、なぜ!?
なぜだ!? 義父上よ!
なぜ、この私に、言うてくれなんだのだ。
『一緒に戦ってくれ』と、たった一言、言うてくれれば良かったではないか!」
「・・・つまり、そういうことだ」
火竜バロウモ。
話を、締めくくる。
「鬼神よ。
貴様は、『力』のルーンを得た。
貴様は、巨人の王の義理の息子となった──」
火竜の瞳が、鬼神を見た。
「──よって、貴様も、神竜の敵となったのだ!」