六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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大いなる災い(2) 鬼神、しす!?

◆ 6、妙雅・艦橋にて ◆

 

「巨人の王、討ち死に!」

 コボルドの兵士、叫ぶ。

 薄暗い室内。ごおん、ごおん、ごおん・・・と、低い震動が響いておる。

 小っちゃなコボルド兵。

 小っちゃな箱を、操作する。

 箱には、2本の棒と、透明な玉がついておる。

 玉は、千里眼の玉。この室内ではない、地上の景色が映っておる。

 この玉を、ぐるっと回転。

 すると、なんとしたことか!

 映っとる景色も、ぐるっと回転するではないか!

 そうして、映し出された光景は。

 巨人の王。

 その、亡骸(なきがら)であった・・・。

 

 ひとつしかない目をカッと見開き、天を睨んで(にらんで)。

 胸に、巨大な爪を、突き立てられたまま。

 偉大なるもの、死す。

 

 コボルド兵、2本の棒を操作。

 玉の中の光景が、遠ざかる。

 巨人のお弟子さんたちの亡骸が、映像に入ってきた。

 巨人、巨人、巨人・・・ひとつしかない目をカッと見開き、天を睨んで。

「お・・・お弟子隊も・・・ぜ、全滅・・・」

 コボルド兵。

 背後を見上げる。

 赤いレザーアーマーの、ハイエルフの男を。

「司令官・・・閣下・・・」

「巨人の王の部隊、全滅、了解」

 ハイエルフ、うなずいた。

 がしゃーん・・・。軽い金属音がした。

「神竜の様子も、報告をせよ」

「は・・・はっ!」

 隣のコボルド兵が答え、棒をガチャガチャ、玉をぐるっとした。

「敵、神竜!

 爪折れ、ウロコ5・6枚剥がれたるも、動作に変わりなし!

 地上を睨んで、なにやらブツブツしゃべってござる!」

「了解。ルーンを使う様子はあるかに?」

「る、るーん」

「傷が急に治る──など、尋常ならざる様子はあるかに?」

「ありませぬ!」

「了解」

 ハイエルフの男うなずく。

 がしゃーん・・・。また、金属音。

 彼は、小柄であった。顔も、なんか可愛らしい。

 その姿、少年のごとし。

 しかして、その眼光、猛禽(もうきん)のごとし!

 赤くトゲトゲしきレザーアーマー。白いタスキをかけて。

 軽い金属音を立てておるのは、このレザーアーマーであった。巨人の国ではよくあることである。服が、金属音を立てるのは。

 白いタスキは、ハイエルフの空飛ぶ魔術兵の、隊長の目印である。

 巨人の国の服を着た、ハイエルフの隊長! ──いったい、何者なのか?

「ボ、ボナス閣下・・・」

「うむ」

 

 ハイエルフ。

 ボナス閣下であった。

 ルシーナやイリスと一緒にアシ戦争を戦った、あの御方である。当時はボレアスと名乗っておった。

 ハイエルフの英雄魔術師。『先代族長』『先代学長』など、先代のつくごっつい履歴をお持ちである。

 そのボナス閣下が、巨人の国の軍を、指揮する。

 それは、巨人の王との友誼(ゆうぎ)によるものであった・・・。

 

「亡き友の戦果を、無駄にはできぬ。全艦放送をする」

 沈黙。

「艦長? 全艦放送をする」

 ボナス閣下、自分の隣にある台座を見た。

 細い台座。てっぺんに、黒い玉あり。

 キラキラキラ・・・と緑の光が走ったかと思うと、その黒い玉が、しゃべった。

<お父ちゃん・・・>

「妙雅艦長!」

<は、はい!>

「全艦放送をする。ひらけ」

<・・・は、はい。全艦に通信開きました。どうぞ>

「うむ。

 ──こちら、艦橋(かんきょう)、司令官ボナス。全乗組員に告ぐ」

 

 ここは、妙雅の中であった。

 中央塔の内部に設けられた、指揮所──艦橋なのである!

 

 妙雅は、9基の空飛ぶ塔を、渡り廊下でつないだみたいな姿をしておる。

 中央に1基。正八角形に8基である。

 8基は補助塔で、やられても妙雅が死ぬことはない。いまは空軍や援軍の兵士が乗り込んでおる。

 中央の1基は心臓部で、ここがやられると、妙雅は死ぬ。艦橋もここにある。

 

≪告ぐ・・・告ぐ・・・≫

 と、全艦に放送がこだまする。

「──お。ボナス司令官閣下のお声や」

 ダークエルフの男がつぶやいた。

 ここは、8基の補助塔のひとつ。その内部、格納庫である。

 細長い通路みたいな格納庫。空飛ぶ台がずらりと並んでおる。

 壁際、一段高くなったところに座席があり、ダークエルフの男はそこに座っておった。

 隣には、もんのすごい美女が座っておる。ハイエルフっぽい女である。

 対面の座席には、ハイエルフの男が1人と、その左右にコボルド兵が4人ずつ。

 全員、ヨロイとかぶとを着けての、臨戦待機中であった。

「ほんま便利やな、妙雅。うちにも欲しいわ」

 と、ダークエルフの男がつぶやくと。

 もんのすごい美女が、唇に指当てた。

「カバリオ隊長。しーっ」

「へい、ルシーナさま」

 カバリオ隊長と、ルシーナであった。

 まだそれほど緊張はしておらぬ。対面のコボルド兵どもも、さっきまでおしゃべりをしておった。

 そんな彼らに。

 放送は、悲報を告げた。

<──偉大なる造り手、巨人の王。先ほど、神竜に破れ、討ち死にをなさった>

 ルシーナとカバリオ隊長、ピタッと静止して、口をつぐむ。

「なんと」「本当でござるか?」「巨人の王さまが・・・!?」

 コボルド兵どもは、口開け、左右キョロキョロし、ハイエルフの男を見上げた。

 ハイエルフの男は、瞑目(めいもく)した。無言で祈るようである。

<彼の(かの)王は、勇敢であった。

 従う弟子どもも、みな、勇士であった。

 彼らは、生命と引き換えに、戦果をもぎとった。

 敵のウロコを、剥がしてくださった!>

 沈黙。

≪くださった・・・くださった・・・≫

 こだまだけが、響く。

<当艦。妙雅隊は。

 巨人の王の戦果を、受け継ぐ。

 彼らが示した、勇気を受け継ぐ。

 ──神竜の奴めを、今宵、この空より、地に落とす!>

≪落とす・・・落とす・・・≫

 

「・・・劣勢のようやね」とカバリオ隊長。

「うむ」ルシーナ、うなずく。「そやに、何も変わらぬ」

「ほう。変わらへん」

「苦戦は予想されておった。ゆえに、展望に、変わりはなし。

 我らのやること、変わりなし。

 結末も、変わりなし。

 我らが、勝つ」

 ルシーナ。

 対面のハイエルフを見る。

「──そうですに? エスロ博士」

 ハイエルフの男。

 エスロ博士。

 目を、見開いた。

「はい」

 うなずく。

「私は、この日のために、生きてまいりました。

 いまや、親友の仇ともなった。

 ──必ずや」

 

 艦橋。

 ボナス閣下。

 映像を見る。 

 偉大なるものの亡骸。

 そのかたわらに、駆けつけた者あり。

 三眼、天を睨み。

 六腕、巨人の王の眼を、閉ざしてやる。

 

 鬼神が、神竜の前に、姿を現わしたのであった。

 

◆ 7、赤き大地のたて ◆

 

「じんりゅう!」

 と、鬼神が呼ばわると。

 大空に。

 マグマの裂け目が。

 がばーーー・・・っと、ひらいた。

 それは、神竜の口!

 空の端から端まである、巨大な口が、ひらいたのであった!

 おぞましくも壮大なる、その、マグマの裂け目が。

 しゃべった。

「おまえが、鬼神か」

 

「・・・なんと、でかいやつ!」

 鬼神。

 正直、びびった。

 でかすぎる。なんだこいつは。

 端っこが──口の端が、かすんで、見えぬ!

 そしてすぐに、怒った。

 びびってしもうた自分に、怒ったのである。

 胸を張った。

 ぱん! 左右の上の手を、胸の前で合わせた。

 びし! 左右の中の手を、つばさがごとく広げた。

 ずば! 左右の下の手を、大地に根張るがごとくした。

 そして、天地に響けと、胸から大声張り上げた──

 

「いかにも! 鬼どもの神、鬼神! ここにあり!

 神竜! よくも義父上を殺してくれたな」

「ふん」

 神竜は、なんの感慨も示さぬ。ただこう訊いてきた。

「『力』のルーンを盗んだのは、おまえだな?」

「それは少しちがう」

「言い逃れをするか」

「言い逃れなどはせぬ。

 『力』のルーン、たしかに、この鬼神が持っておる。

 だが盗んだのではない。人から、もろうたのだ」

「誰からもらった」

 鬼神はちょっと考えた。

「・・・言えば、その御方にも復讐をするのか?」

「当然だ」

「なら言わぬ」

「──泥棒どもめ!」

 神竜が、怒鳴った。

 嵐が巻き起こった。

 降り積もった雪が巻き上げられ、地吹雪となった。

 その地吹雪を貫いて、雷がズシャーンドシャーンと落ちてきた。

「むちゃくちゃだのう」鬼神、ぼやく。

「我が名は神竜。

 神のエレメントたる竜。

 私は、知っておるものならば、なんでも上回ることができる。

 そうして、欲しいものならば、なんでも手に入れることができるのだ。

 その私から、ものを盗んだ!

 おまえは、生かしておけぬ!

 鬼神よ、おまえを殺す!」

「ほう」鬼神、武者震いをする。「どうやってだ?」

「つぶす」

 神竜。

 かすむ頭の向こう側で、右の前足を持ち上げよった。

 雲の近くまで持ち上げて──その爪に雷がまとわりつくのが見えた──雲をメチャクチャにかき乱して──鬼神のところへ、真っ逆さまに、突き落として来よる!

「これは、いかんぞ!」

 鬼神。

 危険を察知した!

 これまでに感じたことのない、恐ろしい危険を!

「逃げ場がない。いや、私が逃げれば、丘の街が壊滅する! イリスも、死ぬ!」

 鬼神。

 がばあ! と、前かがみになた。

 六腕、突き刺すがごとく、大地を抱いた。

「『力』のルーン!

 大地よ、我が盾となれ!」

 

 鬼神。

 大地を、引っ剥がした。

 

 前方に広がる、誰も居らぬ原野。

 その広大な土地を。

 持ち上げる。

「土よ、くっつけ!

 砂よ、かたまれ!

 ひと張りの、盾のごとく!」

 鬼神。

 『力』のルーンでもって。

 ついに開眼した、新たなる力のわざによって。

 土を、くっつけた。

 砂を、かたまりにした。

 あたかも、見えざる巨大な手が、大地を団子とし、団子をせんべいとするがごとし!

 全き(まったき)、一枚の金属がごとく、堅牢なものとなるまでに、圧縮!

 ぎゅーーーっと圧縮された、大地!

 赤熱し、蒸気を噴き上がらせた。

「赤き大地の盾! 神竜の爪を、受け止めよ!」

 

 ど・・・・・・・・・ぉぉぉん!!!!!

 

 竜の爪と、赤き大地の盾が、激突した。

 衝撃波が地上を襲う──のを、鬼神は、受け流した。

「三角州の受け!」

 前回、やってのけた、『三角州』の防御である。

 鬼神の背後の広大な領域──イリスの居る『丘の街』も、ダークエルフの洞窟マンションも、さらにはアルフェロン湖までも──恐るべき衝撃波から、守護をした!

 これぞまさに、大地の守護!

 赤き大地の神を父として、暗き霊峰の女神を母として、生まれた鬼神ならでの、守護であった!

 ──だが。

「なるほど」

 神竜は、動揺せぬ。

「『力』のルーン。このような使い方も、できたのか」

「いかにも!

 私は、『力』のルーンに、開眼した。義父上の、お墨付きじゃ」

「そうか。

 だが私は、『力』のルーンのことは知っておる」

「なに?」

「『天』のルーン! 私は、『力』のルーンを、上回る」

 神竜が、そう唱えた。

 すると、なんとしたことか!

「ぬうううう! お・・・重い!!!」

 鬼神。

 自分が持ち上げた、赤き大地の盾に。

 押しつぶされ始めたではないか!

「つ・・・つぶれる! これは・・・どうしたことだ!??」

 それは。

 まるで。

 岩を持ち上げた小さな虫が、その岩に、押しつぶされるがごとし。

 赤き大地の盾を持ち上げた鬼神。その盾に、押しつぶされてゆくではないか!

「ち・・・『力』のルーンが・・・ほ、ほどけてゆく!!?」

「『天』のルーンによる。おまえのルーン、もはや、私には利かぬ」

「な・・・なんと・・・」

「死ね」

「ぐぬう!!!」

 鬼神。

 足が、地面にずぶっとめり込んだ。

「『力』のルーン! 『力』のルーンよ! 私に力を貸せ!

 ──だ、だめじゃ! ルーンが、はたらかぬ!!!」

 膝まで、ずぶっとめり込んだ。

 太腿までめり込んだ。

 腰までめり込んだ。

「う・・・動くことが・・・できぬ・・・!」

 赤き大地の盾が、どおん! と、音を立てた。

 神竜の爪とぶつかり合っておるあたりが──爆発したのである!

 崩壊が始まった。

 ど、ど、ど、ど・・・!

 爆発し、砕け、こちらに落ちてくる!

 赤き大地の盾が──ばらっばらに砕け、果てしない質量の、土石の雪崩となって──鬼神を殺しに、落ちてくる!

 そのとき!

「ちちうえ! ポターーージュ!!!」

 愛娘の声が、鬼神のすぐ背後でした。

「イリス!? い、いつの間に・・・!?」

 

 赤き大地の盾が、地面と激突。

 大爆発。

 激震走る。

 土、蒸気、岩、樹木、噴き上がる。

 大地割れ、森倒れ、アルフェロン湖は大波立てる。

 鬼神も、飛び込んできたイリスも、巨人の王とお弟子さんたちも──なにもかも、見えんようになってしもうた。

 

 ・・・そして。

 気付けば、そこは、雲の上であった。

 

◆ 8、めーみっつあんねん? ◆

 

「は? なんじゃ? これは」

 雲の上。

 冷たい風。

 冷たい地面──地面? まるで金属のようだが?

「ちちうえ!」

 イリスが飛びついてきた。

 鬼神は、上の空のまま、ほとんど反射的に娘を抱き締める。

 だが、娘の体温が伝わって来ると、パッと目が覚めた。

 娘を守らねば! との、親の本能であった。

「イリス! 無事であったか。これはいったい?」

 立ち上がる。

 もんのすごい風。

 突風に、危うく吹っ飛ばされそうになる。

「うおっ」あわててしゃがむ。「ここはどこじゃ? 私たちは、死んだのか?」

「死んでおりませぬ。たぶん」

「たぶん」

「ポタージュが。『空間』のルーンで」

「くうかんのルーン・・・」

 鬼神は見回した。

 すると。

 2人の、すぐそばに。

 青い鳥娘が、しゃがんでおった。

「誰じゃ!?」

「ポタージュ」

 と、鳥娘。青い羽毛を、フワフワ風になびかせて。

 風はとても冷たいのだが、彼女はそんなに寒そうではない。のほほんとしておる。

「・・・あ。思い出したぞ。

 猿の神との戦いで、イリスを助けてくれた、あのポタージュお嬢さんか」

「うん」

 ポタージュ。

 いきなり、声まねをした。

「めーみっつあんねん?」

「その声!」鬼神、びっくりである。「今朝、森の中で聞いたぞ! あれは、そなたであったか!」

「うん」

「いったい何なのだ。めーみっつあんねんとは」

「きしんってゆーねん?」

「う? うむ。私は鬼神じゃが。

 それにしても、イリスそっくりだのう・・・」

「イリスそっくりだーのー?」

「わはは! 私はそんなじゃないぞ!」

 鬼神は面白がった。

「──いやいや! わろとる場合ではないのだ。

 ポタージュお嬢さんよ。神竜だ。あぶないのだ。

 イリス。おまえもだ。お嬢さんと一緒に、おまえも逃げるのだ」

「いや」

 イリス、鬼神に抱き着いたまま、いやいやする。

「うち、アカン。

 父上死ぬ思うたら、恐ぁなって、ポタージュ引きずり込んでしもうた。

 もう立ってられへん。アカン・・・」

「イリス」

 鬼神。

 ちょっとびっくりである。

 娘どもの中でも、いちばん勇敢に見えたイリスが。

 ガクガク震え、必死にしがみついて来おる。

「父は、ゆかねばならんのじゃ」

「なんで?」

「なんでといって。

 おまえだって、人間の街を守るため、勇敢に戦ったではないか。

 義父上たちだって、そうじゃ。

 だから、私だって、そうするのだ。勇気を振り絞ってな」

「・・・ちがうに」

 イリス、ぐずぐず泣きながら鬼神に抱き着こうとする。

「何がちがうのだ」

「うちのは、勝てる戦いやった。

 神竜には、勝たれへん。みんな死んでまう。

 みんな、おしまいになってまうえ・・・」

「おしまいではない」

 鬼神はイリスを引き剥がし、立ち上がった。

 暴風が叩きつけてくる。

 だが今度は、鬼神はビクともせなんだ。

「私は、勝つ。

 あるいは、負けるかも知れんが。そのときは・・・」

 鬼神。

 六腕のうち、中・下の四つの腕を見た。

 ぐっぱーぐっぱーと、握り開きした。

「・・・そのとき、私の望みは、おまえと共にある」

「なに言うてるん? おかしなったん?」

「おかしくなっておらぬ。

 イリスよ。

 おまえ、戦友を亡くしたと言うておったではないか。ダークエルフの戦士を、2人」

「うん。ひっく、ひっく」しゃくりあげるイリス。

「おまえはその2人のことを、そんな風に見ておったのか」

「ひっく?」

「死んだらおしまい。誰も守れず、無駄死にした──などと」

「ひっく・・・そなことないえ」

 イリス、首を振る。

「うちらみんな、『2人のこと忘れへん』て、お葬式で誓ったえ」

「そうだろう? だから、私はゆくのだ」

 鬼神。

 一歩、踏み出して。

「・・・ところで、ここは、どこじゃ?」

「じんりゅーの、頭の上」ポタージュが答えた。

 

◆ 9、神竜の、あたまのうえ ◆

 

「神竜の、頭の上だと・・・?」

 鬼神、見回す。

 周囲は、起伏激しい岩山。いや、鉄かなんか、金属のかたまりであろうか?

 鈍い光沢をもった、カチンコチンに固い、ギザギザに起伏した土地である。

「・・・この山は、神竜のウロコか!」

 鬼神びっくりする。

 あんまりにも神竜がでかいもんで、ウロコの1枚1枚が、オーバーハングした岩山のごとく見えておったんである。

「阿呆か! でかすぎじゃ! 加減をせよ!

 まあええわ! 言うとる場合ではない!

 ──つまりここは、神竜の頭の上なわけだ」

「うん」

「お嬢さんが、ここに飛ばしてくれたのか?」

「うん」

「なんともハァ」鬼神、おどろく。「すごいルーンだな。『空間』のルーンというのは」

「うん!」

「ポタージュよ。ありがとう!

 では、こっちに走っていけば、奴の顔にたどり着くのだな!」

 鬼神、走り出す。

「そっち、しっぽ。頭、あっち」

「反対か!」鬼神反転する。「ではな! イリス、勝つぞ!」

 

 鬼神。

 イリスとポタージュを残して、金属の山のごとき神竜の頭の上を、走り始めた。

 ウロコの1枚1枚が、切り立った崖のごとく、ゆく手をはばむ。

「くそっ!

 義父上が戦っとるときは、ジャブジャブぐらいの大きさに見えたのに!

 『力』のルーンも、使えんし!」

 ぼやきながら。

 ジャンプしてウロコの端っこを掴み、よじ登る。

 冷たいウロコの表面を走り、次のウロコまで進む。ジャンプして端っこを掴み、よじ登る・・・。

「はあはあ。疲れた。

 なんじゃ。私は、こんなに、疲れやすかったかのう・・・?

 ああ、そうか。『力』のルーンがないからか・・・」

 鬼神。

 息切らし、六腕をこれまでになく重たく感じながら、それでもあきらめずに、よじ登った。走った。よじ登った。走った。

 よじ登った。走っ・・・ておるところで。

「む」

 空から襲い来る、敵の姿を発見。

「つばさへびか」

 白い大蛇。

 三角の頭をし、つばさのある、大蛇である。

 空を飛び、鬼神に向かって来おる。

 1匹、2匹、3匹。ひとまず3匹が、こちらに向かってくる。

 のだが・・・。

「多いわ! ぜんぶで、何匹居るのじゃ!

 そっちの空、一面、つばさへびだらけではないか!」

 

 なんと。

 鬼神が向かう方向──神竜の頭上と思われる空に、無数の白い大蛇が飛んでおるのであった!

 

「くそ! 時間がかかりそうだが、まあ、しょうがない」

 立ち止まって、かまえる。

「来るがよい。締め上げて、ぎゅうと言わせてやるわい!」

 

◆ 10、ボナス閣下、他人のものをりようする ◆

 

「き──鬼神さま、発見!」

「なんと!」

 ボナス閣下、びっくりして、覗き込む。

 コボルド兵の操作する玉。たしかに、走る鬼神の姿が、映っておる。

 つばさへびに迫られ、迎え撃つ様子。

「いったい、どうやって? 赤く大きな盾の、下敷きになられたはず」

「イリスさまの姿もあったでござる」

「見せよ」

 コボルド兵、玉をぐるぐるっと回す。ちょっと戻す。

<イリスさまと、ポタージュですね。

 ──ということは、ポタージュの『空間』のルーンでしょう>

「『空間』のルーン!?」

 ボナス閣下、飛び上がる。

「偉大なるルーンのひとつではないか!

 あな鳥、そな秘宝を持っておるのか!」

<ポタージュです。鳥ではありません。人間です。私たちの仲間です>

「なぜ、私に伝えなんだ!

 『空間』のルーン、この手にあったならば、どれほどラクになったことか!」

<あなたがそういう御方だからです。司令官閣下>

「・・・なに?」

<我々は、あなたの指揮能力、またエスロ博士との信頼関係を、評価しております。

 ですから、司令官にお迎えいたしました。

 しかし、『緑の魔術の国』の体質、忘れたわけではありません。

 他人のものを、我が物顔で利用する、悪しき体質を>

「ぬ!」

 ボナス閣下、真っ赤になる。

 フーッ! 歯食いしばり、猛獣のごとき息を吐く。

 そして。

「・・・よし。この怒り、神竜にぶつけてくれる」

 冷静な顔にもどった。

「鬼神台を出撃させよ。イリスさまを乗せて飛ぶように言え」

<よろしいのですか? きしにぃは、閣下の脱出のための──>

「イリスさまを引きずり込めば、『空間』のルーンがついてくる」

 ボナス閣下、笑う。

「私の脱出など、安い、安い」

<悪質! ──了解。鬼神台、イリスさまのもとへ向かわせます>

「閣下!」

「なにえ」

「鬼神さま、つばさへびに、苦戦のご様子!」

「なんだと?」

 

◆ 11、鬼神、しす!? ◆

 

「ぎゅう!」

 締め上げられ、ぎゅう言わされたのは、鬼神のほうであった。

 首に、つばさへび。

 腕に、つばさへび。

 足に、つばさへび。

 グルングルンに巻きつかれて、半死半生。

「ば、ばかな・・・。ち・・・『力』のルーンが・・・利かぬ・・・」

「当然だ」

 つばさへびが、しゃべった。神竜の声である。

「私の分霊なのだから」

「わ・・・わけみたまか・・・

 だ、だが・・・旅先で、仕留めた、つばさへびは・・・

 『天』のルーンなど、使わんかったのに・・・」

「それは、私が眠っておったがため」

「く・・・くそ・・・。

 も、もう・・・だめじゃ・・・」

 がくり。

 鬼神、崩れ落ちる。

「やったか」つばさへび、ゆるむ。

「かかったな!」

 鬼神、はね起きる。

 1匹掴んで、首根っ子へし折った!

「ぐぬう!」神竜、うめく。「死んだのではないのか」

「死んだフリじゃ! ど・・・どうだ、参ったか!」

「全然」

 うじゃうじゃ飛んどるつばさへびの予備軍から、こんどは6匹、こちらへ飛んで来る。

 絡みつかれる。合計8匹。どうにもならぬ。

「ぐえー! な、なんとも・・・ないのか!」

「気分の悪いものではある。

 分霊が死ぬとは、私が死を感じるということだからな。だが、それだけだ」

「む・・・無敵か・・・おまえは・・・!

 つばさへびも、こんなに・・・かまきりの子のごとく、うじゃうじゃ居るとは・・・!」

「出したのだ」

「だ・・・出しただと? つばさへびを・・・生んだのか」

「産むほどの手間はかからぬ」

 神竜。

 もはや勝ったも同然ということか? けっこう、会話に付き合ってくれる。

「放っておるあいだは、少し気を取られるがな。

 それも、これで終わりだ。おまえを食べてしまえば、後は造作もない」

「た・・・食べるだと・・・」

「おまえを喰らい、溶かし殺して、ルーンを取り戻す。

 そのあとは、人間を滅ぼし、また、眠りにつく」

「に・・・人間を・・・ほろぼすだと・・・?

 な、なぜ、そんなことを・・・」

「巨人と人間は、知識を受け継ぐゆえ」

 神竜は答えた。

「私は、知っておるものならば、『天』のルーンで防ぐことができる。

 だが巨人と人間は、知識を受け継ぎ、新たなものを造り出す。

 私の知らぬものを。『天』のルーンで、防げぬものを。

 危険だ。殺す」

「そんなことは・・・させぬ・・・!」

「いいや、する。まずは、おまえからだ」

 ずるり。ずるり。

 つばさへび。

 鬼神を、引きずり始めた。

「ぬ・・・ぬうう!」

 鬼神。踏ん張るが、だめ。

 ずるずると、引きずられてゆく。

 鬼神の前方。

 神竜の──本体のほうが、振り向いて、がばーーー・・・っと、マグマの口を開いた。

「こ・・・こんな負け方は、いやじゃ!

 つばさへびなんぞに! ごみ捨てるみたいに!」

 ああ!

 『力』のルーンさえ、使えたならば!

 つばさへびなんぞに、負けはせなんだものを!

 鬼神。

 つばさへびに、引きずり落とされた。

 空中へ──マグマの口の、真っ只中へ。

「ぬああああ!!! おのれえええええ!!!!!」

 

 ぱっくん。

 

 鬼神は、神竜のマグマの口に、食べられてしもうた。

 

◆ 12、エスロ博士、鬼神をしんじる ◆

 

「き・・・鬼神さま、し、死す・・・でござる・・・」

 コボルド兵が報告。

 ボナス閣下。背後でその映像を見届ける。

「妙雅艦長。エスロ博士の飛行塔にのみ、通信をひらけ」

<・・・は、はい>妙雅の反応が、にぶい。<開きました。どうぞ・・・>

「こちら艦橋。ボナス。

 エスロ博士、話がある。通信室に入れ」

<1人で、ですかに?>

「うむ。1人で」

<了解>

 しばらくして、返答があった。

<こちらエスロ。通信室に入りましたえ>

「この通信内容は、極秘」

<極秘了解>

「鬼神さま、神竜に喰われ、戦死をなさった」

<なんと!?>

「決戦は、可能か?」

<・・・。>

 一瞬、エスロ博士も絶句した。

<・・・死因はなんですかに?>

「喰われたと言うておる」

<死因を訊いておりまする。推定ではなく>

「む?

 ・・・なるほど。

 死因は不明。喰われるところまでしか、見ておらぬ」

<了解。ではお答えいたします。

 第一に、決戦はできませぬ。出血、それをルーンで治そうとすること。この2点、必須ですえ。

 第二に、私は鬼神さまを信じておりまする>

「なにえ。信者のような口ぶり」

<このエスロ、巨人の国の民なれば。

 根拠はこうです。

 鬼神さまは、大地と霊峰の神々の子。熱の変化には、非常にお強い。

 加えて、ある御方より、強いわざを、伝授されておられる>

「わざ?」

<はい。危難を避ける、強いわざ>

 

◆ 13、六腕三眼、鬼はうち ◆

 

「おおう・・・危ない・・・」

 鬼神。

 マグマの口の中。

 ぐつぐつ煮えたぎる地獄の真上に、ぶら下がっておった。

 服に、吊り下げられて。

「マグマに落ちたと思ったが。

 服が、引っ掛かってくれたようじゃ。頑丈な服で、助かったわい。」

 服。

 ダークエルフたちがくれた、絹ぐもの着物である。

 軽い糸だが、引っ張り方向にはとても強い。また、鬼神のために特別に丈夫に造ってくれたものである。

 この上質なる服に、生命を救われたのであった。

 鬼神は服をたぐり、よじ登った。

 そこは、神竜の牙。

 山ほどに高い牙の、1本であった。

 そのてっぺんに、お猿さんがごとく、しがみつき、落ち着いた。

 見回す。

「・・・どうやら、このマグマ。口の中にだけ、貯まっとるようだな」

 マグマ。

 鬼神の足元では、ぐつぐつと煮えたぎり、いかにも深そうである。

 しかし奥に向かうにつれて、浅瀬──舌か?──が見えるようになり、やがて、完全に干上がっておる。

「奥へゆけば、避けれるぞ。

 初めはびびったが、中に入って見れば、なんてことはなかったな」

 次に、牙を観察する。

「でかい牙だ。

 表面が、えらいジャギジャギしておる。

 これは・・・垢(あか)なのか? 岩ぐらいのサイズだが」

 ばきん!

 へし折ってみた。

「簡単に折れたわい。

 そのわりに、硬い。鋭い。武器になりそうじゃ。

 もらっとこ」

 ばきん! ばきん! ジャギジャギした垢(?)をへし折って、懐に入れる。

「うかつな奴め。

 私が死ぬところを確認もせんと、死んだと思い込みおったな?

 よし。ここはひとつ、神竜の体内を、たんけんと行こうではないか。

 ──恩知らずの、アロウのようにな!」

 

 鬼神は、若き日、国王になったばかりのころを思い出した。

 小さな息子たちと、ハイエルフの探検隊のことを。

 

「ふっふっふ、いつか探検をせねばと、思うておったが。

 こんなところで、やる羽目になるとはのう!」

 鬼神。

 神竜の喉へと、駆け上がった。

 マグマの口を抜け、喉まで入ると、そこは暗く涼しい大洞窟。

 生命の危険は、去ったようじゃ。──と、ほっと一息ついたのも、束の間。

「生きておったのか。しぶとい奴め」

「ぬう!?」

 背後に、つばさへび!

 いきなり絡みつかれ、取っ組み合いとなる。

「くそっ・・・! そういえば、おまえ、忍び歩きが得意だったのう!」

「いかにも」と神竜。「おかしいと思ったのだ。待っていても、『力』のルーンが戻らぬのでな」

「やられてたまるか!」

 鬼神は、懐から武器を出した。

 へし折った牙の破片である。

 ズバリ! つばさへびを、切りつけた。

「ぐぬう」神竜うめく。「私の牙か」

「いまのうちじゃ」鬼神逃げる。

「待て」

「待つわけがあるか、阿呆へび」

 背後から、つばさへびが追いかけてくる。

 もはや忍び歩きではない。四方八方に放たれておったのが、全員、空飛んで押し寄せて来おる。

 数なんぞ、わからぬ。数える意味もなかった。

 8匹相手に、惨敗したのだから。

 鬼神は、逃げ出した!

 走り、跳び、ヌメヌメする粘膜の坂を駆け上った。

 息が切れる前に立ち止まり、牙の破片を6つに割る。

「そーれ! 六腕乱れ投げ!」

 ずばばばばばっ! と、六腕駆使して、連続投げ!

 見事! 6匹のつばさへびに命中!

 つばさへび、痛みに身をよじり、空中でよろめく。そこに後続のつばさへびが衝突、絡まって墜落した。

 団子になったつばさへびを、ズシンズシン踏みつけて、一気に10匹以上にとどめを刺す。

「ぐぬううう」神竜が苦悶した。

 鬼神、ふたたび逃げる。

 次の破片を砕きつつ、走りつつ、前方を観察する。

 前方。

 洞窟は、上下2つに分かれておった。

 上の洞窟は狭く、高いところにあって、入るのも難しそうだ。

 下の洞窟は広く、なだらかな下り坂。簡単に飛び込めそうだ。

「・・・ひらけ! 巨人の第三眼!」

 カッ! おでこの眼ひらく。

 さらに観察。上はしっとりしておる。下はヌルヌルしておる。

 耳を澄ます。上は風の音。下は液体が波打つ音。

 においを嗅ぐ。上はなし。下は酸っぱいにおいがする。

「──上じゃ!」

 鬼神は、上の洞窟へよじ登った。

 つばさへびが、足に迫る。絡みつかれた!

 だが、わずかに鬼神が早かった。登り終え、破片の剣で脳天を刺して、殺す。

「はあ、はあ、息が苦しい。

 はあ、はあ、身体が重たい。

 ──だが、まだ走れる。まだ戦える」

 鬼神。

 喘ぎつつ、上の洞窟を走った。

 すると、またしても分岐にぶつかった。今度は左右である。

 また巨人の眼で見るか・・・と思いつつ、近付いてみると。

 分岐の壁際に、亡骸が倒れておった。

「む? 人間の死体か・・・?」

 

◆ 14、亡き英雄、鬼神をたすく ◆

 

 その遺体。

 白骨になっており、詳細はわからぬ。だがサイズからして人間のようである。

 ヨロイらしきものを着ておった形跡があるが、ボロボロである。

 剣を壁に突き立てて、骨だけとなった手で、固く握っておる。

 この剣だけは、見事に形状を保っておった。

「あわれなり。

 名も知れぬ英雄よ。

 こんなところで亡くなるとは、無念であったろう。

 よろしければ、しゃれこうべだけでも、外へ連れ出してしんぜよう」

 鬼神。

 礼をしてから、遺体の頭蓋骨をそっと拾い上げた。

 かぶとと一緒に、頭蓋骨は不思議と簡単に外れ、鬼神の懐に入った。

 カシャリ・・・小さな金属が、首から落ちる。

「ロケットか」

 小さな金属のお守りであった。

 フタを開いてみると、中には男女の似顔絵があった。

 ハイエルフの夫婦のようである。女は子を抱いておる。

「そうか。そなたにも家族が、子があったのか。

 むろんじゃ。むろん、一緒に持ってゆくとも・・・」

 鬼神は、かぶとにロケットをくくりつけた。

「それでだ。英雄よ。私は、いま、追われておる。

 そなたの剣を、使わせてもらいたい。──ごめん!」

 鬼神。

 剣を、引き抜いた。

 そうしたところ、その剣。

 温かいオレンジに輝いて、洞窟をうっすら照らし始めたではないか。

「なんと! まるで、あの神剣のような輝きじゃ!」

 つばさへびが、また現われた。

 鬼神、剣を振るう。

 見事な切れ味! まるで、鬼神が剣の達人になったがごとし!

「・・・不思議な剣じゃ。まったく錆びてもおらぬし。

 よし。

 剣よ、そなたには、“優雅(ゆうが)”の仮名を授けよう。

 神剣“グレイス”にあやかってな」

 鬼神。

 剣でもって、つばさへびを、バッサバッサと切り捨てる。

 いい調子!

「これなら、脱出する余裕もあるわい。

 ・・・さて。

 どうせ出るなら、義父上が殴ったあたり。ウロコの剥がれたところが、楽であろう。

 あれはたしか、左の脇腹であったな。

 行ってみよう!」

 鬼神。

 左手側の洞窟に進む。

 風がきつい。ごおお、ひゅうう、と、風が行ったり来たりする。

 この風のおかげで、つばさへびは遅れておる様子。

 壁を観察しながら進む。

 すると、ある地点で。

「む? このあたり、なんだか、歪んでおるぞ。

 あちこち、うっすら出血しておるし・・・

 あっ! そうか!

 このあたりか! 義父上のハンマーが当たったのは!」

 

 ──おお!

 それはまさに、巨人の王の最期のプレゼント!

 かの王のハンマーが、『ここから逃げよ』と、鬼神に示してくれておる!

 

「義父上よ」

 鬼神は泣いた。

「もちろん、使わせてもらいますぞ。

 優雅よ! 神竜を切り裂け! そなたの主の、仇を討つのじゃ!」

 鬼神。

 オレンジの剣を、神竜の身体に突き立てた。

 びっくりするほどなめらかに、剣は神竜を切り裂いた。

 鬼神が力強い武人であったということはある。だがそれ以上に、剣の神性を感じる切れ味であった。

「あっぱれ! 優雅。

 まさに、太陽の剣のごとし。陽光が闇を切り裂くがごとしじゃ!」

 ずばり!

 ずばり!

 鬼神、容赦なく、切り続ける。

 神竜の身体が、身悶えた。

 恐ろしい轟きが、伝わってきた。

「神竜よ、痛いか? 苦しいか?

 だが、あわれとは思わぬ。

 自分の安全のためというて、他人をむやみに殺すおまえのことは。

 苦しむがよい。巨人たち、1人1人のぶんまでな!」

 

 ハンマーが、神竜の肉を叩いて柔らかくしてくれておる。

 オレンジの剣が、その肉をいともたやすく切りひらいてくれる。

 ──亡き英雄、鬼神を助く(たすく)である!

 

「見えたぞ! 光じゃ!」

 鬼神。

 ついに!

 ふたたび、この世に、顔を出した!

 冷たい風が、いまは、心地よい!

「わっはっは! やってやったわい。

 巨人の王、人間の英雄、そして鬼神の、合わせわざ!

 名付けて、ドラゴン・トンネル! うわっはっは!」

 

 ・・・大笑いをする鬼神。ちょっと、気がゆるんだ。

 

「うおっ?」

 ずるり。

 足を、すべらせた。

 『力』のルーンを封じられたせいで、感覚が狂っておったのだ。

 やたらに疲れるし、足はすべりやすいし(『力』のルーンは、すべるのを止めたりもできるんである)。

 外に出るまでは、注意もしておったのだが。

 気がゆるんで。

 背後から吹き出す風に、押されて。

 足がすべって。でんぐり返りするみたいな感じで。

「うわあ」

 とっさに、『力』のルーンで何とかしようとして──封印されとるっちゅうのにから!

 穴の外へ。

 大空へ、飛び出してしもうた。

「ば、ばかなー!」

 落っこちる。

「ええとこだったのに。これからだのに!

 私はまだ戦える。戦わせてくれ。義父上の仇を、討たせてくれ!

 助けてくれえ。誰かあ!

 ──相棒! あいぼーーーう!!!」

 すると。

 

 ぶわっさぁ!

 

 力強い羽ばたきの音が、鬼神に答えたのであった!

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