六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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大いなる災い(6) 相棒、しす

◆ 33、鬼神、かんがえる ◆

 

 鬼神。

 空飛ぶ母艦・妙雅。中央甲板の上に立って。

≪これより、全力攻撃に移る≫

 全艦放送の音を、聞く。

≪より・・・移る・・・≫

 こだまする声を、聞く。

 司令官・ボナス閣下の、命令の声であった。

≪妙雅は、弐ノ塔を先頭として、機動をする・・・。

 攻撃隊各班長、妙雅の進行方向を誤らぬよう、注意をせよ・・・。

 弐ノ塔の要員は、壱ノ塔へ移動をせよ・・・≫

「・・・。」

 鬼神。

 黙ーって、空の彼方を睨む。

 水平線のあたりを、ぐーーーる・・・・・・・・・ぐーーる・・・・・・と、輪をえがいて飛ぶ、巨大な竜を。

 その巨体、遠い。ウロコを雲と見紛うほど。かすみがかって、全体に白っぽいんである。

 にも関わらず、ウロコの1枚1枚、見分けがつく。

 それほどまでに、でかい。

 鬼神、四方を見渡した。どの方角も、神竜の身体に塞がれて(ふさがれて)おる。

「・・・。」

 

 右に、神竜の頭。

 正面に目を向ければ、神竜の右手。

 左には、神竜の右足。

 後ろを振り向けば、神竜のしっぽ。

 ──と見る間に、しっぽがどんどん逃げてゆく。

 しっぽのあったところへ、神竜の頭が、ぐるーーーり・・・・・・・・・と回り込んでくる。その右目。鬼神を睨んでおる。

 頭が飛び去り、右手が見えてくる。人差し指には、爪がない。なくなった爪は、巨人の王の心臓に刺さったままである。

 右手が飛び去り、右足がやって来る、

 そして雪冠る(かむる)峰々のごとき、しっぽが、ふたたび回ってくる・・・。

 

「・・・。」

 鬼神。正面に顔を戻す。

「神竜め。なにをたくらむ?」

 真剣な顔して、つぶやく。

「つばさへびを引っ込め、ぐるぐると、飛び回る。

 体当たりを──あれほど妙雅を追い込んだ体当たりを、なぜ、使わぬ?」

<おじちゃん>

「わからぬ」

<おじちゃん、下りて>

「危険じゃ。敵の手が読めぬのは・・・!」

<下りんか! くそじじい!>

 があああ!

 ごん。

 鬼神の足に、なんかぶつかってきた。

「あいた」

 ぶつかって来たやつ。

 防空曲線路射撃ユニット。 

 アーチを線路として上下に走り回る、妙雅の対空砲であった。親亀子亀みたいに、2枚の平たいユニットが重なっとるやつである。下のがレールにしがみつき、上のが砲を振り回して、撃つっちゅう設計のやつ。

 

 ・・・妙雅のやつ。砲持っとるユニットで体当たりとは、何事じゃ!

 いえいえ、これは、相手が鬼神だから、やったことなのですよ。万が一暴発しても、鬼神なら大丈夫、との算段がある。

 人間のみなさんは、真似してはいけませんよ。

 

<甲板に下りよ! 攻撃態勢が取れんじゃろが!>

「はいはい・・・」

 鬼神。

 足元の、アーチになった金属の柱に、しゃがみ込む。

 ぶら下がる。長~い腕で、お猿さんがごとく、ぶら~んと。

 そうしてぶら下がっても、甲板まで、まだ3尋以上ある。

「高い骨組みだのう」

<工房の扉を目安に造りましたからね>

「ははあ。巨人サイズか」

<でないと、お弟子さんたちが、>妙雅は一瞬、言葉に詰まった。<・・・『我ら、乗れぬ』とか、さびしがると、思って>

「そうだな。言いそうじゃ」

 お弟子さんがた。

 もはや、この世に居らぬ。

 巨人の王と共に、みーんな、あの世へ行ってしもうた。

 鬼神、手を離し、飛び降りた。

<あっ!? ちょっ、甲板が割れる!>

「なんのこれしき。『向きを変える』!」

 ころり。

 鬼神、音もなく着地して、ころんと転がり、流れのままに立ち上がった。

「ひっ!? お・・・お見事にございまする」

「うん? ああ、驚かせてすまぬ。クリスタル博士」

 ハイエルフの女魔術師のすぐ隣に立つ。

 して、また渦巻く神竜を見渡して、鬼神、考える。

「何かあるはずじゃ・・・何か、狙いが・・・」

「なにか?」とクリスタル。

「神竜が回る理由じゃ。神竜が、つばさへびをやめた理由じゃ」

「たしかに」クリスタル、うなずく。「敵の狙いがわからぬのは、よいことではありませぬ」

「うむ」

 大きな鬼神と、小さなクリスタル。並んで空を見る。

「・・・して、またアレが出てくるのか? クリスタル博士よ」

「アレとは?」

「びりびり剣士じゃ。お得意の」

「ああ、水晶剣士」クリスタル博士は笑う。「いえ、もう材料がありませんに」

「予備は積んどらんのか」

「水晶剣士は、名のごとく、素材が水晶でして。

 とてつもなく高価なものゆえ、滑り落ちた分で、手持ちは最後なのですえ」

「なんと・・・そんな高価なもんなら、助けてやればよかったのう」

「いえ。戦に参加する以上は、爆破する覚悟もしておりますゆえ」

「爆破だと?」

「はい。『人形爆破』という呪文がございまして。歩く爆弾と化すことができますのえ」

「なんか・・・恐ろしい感じだが」

「そうですに。人間に対して使うてはならぬと、私どもは取り決めておりまする。

 ま、取り決めというものは、往々にして破られるものですが」

「そうか。まあ高価な人形ではもったいないわな。あいつ、綺麗だしのう」

「おお! 鬼神さまも、水晶剣士の良さがおわかりに!」

 クリスタル博士、はしゃいだ。

 しばらく水晶剣士の良さ、熱弁する。水晶剣士のかしこさ、わざの切れ、見た目の綺麗さなど。

「──そやに、何よりもの長所は、扱いやすいことですえ」

「扱いやすさか」

「土石人形などは扱いに注意を要し、習熟を必要といたしまする。

 水晶剣士は、敵味方をきちんと見分けますゆえ」

「なるほど」

「もっとも、土石人形の特攻爆破には敵いませぬが。

 ・・・ここだけの話、私は、その手でボナス閣下に負けたことがございまして」

「なんとまあ。そうか。人形爆破か・・・」

 

 妙雅上空では、空飛ぶ台どもが編成を急いでおる。

 神竜攻撃隊のコボルド、生き残りの20台ほどが、失った班長・班員を悼む(いたむ)時間もなく、空中で再編成。『はれつだまの筒』の準備などをしておる。

 妙雅は、があああ、があああ・・・と、防空曲線路射撃ユニットを上下させておる。合計8台。動作テストか? 上下に動いたあと、アーチの途中でピタッと止まり、ぎーん、ぎーんと首を振り始める。テストを終えたのか、死んだように停止する。なんとも気持ち悪い動きである。

 そんな中。

 全艦放送が、こだました。

≪かぶとがに隊、出撃!≫

 

◆ 34、かぶとがに隊、しゅつげき! ◆

 

≪かぶとがに隊・・・かぶとがに隊・・・、出撃・・・出撃・・・≫

 

 赤いかぶとがに。4台。

 神竜に視界を埋めつくされた空、駆け上った!

 ガンメタ鬼神台と同じボディ。ただし色だけは、砲金色ではなく、深みある赤。血のごとし。ワインのごとし。

 壱号。国王陛下専用機。国王は乗らず。代わりに、はしごみたいなもんを背負っておる。

 弐号。近衛隊長専用機。甲冑着た武鬼(ぶっきー)と、2人のコボルドを乗せておる。

 肆号。内務大臣専用機。大臣乗らず。左右二門の散弾砲。補助塔の防空砲と同じやつである。

 伍号。経済大臣専用機。大臣乗らず。同じく散弾砲。

 以上4台──

 

 ・・・え? 参号はどこかって?

 参号は欠番だ。鬼神の三男・機鬼(きき)は、妙雅機関長ですからね。空飛ぶ台には乗らんのだ。いまこのときも、妙雅の機関部に乗っておる。甲板の戦闘では全然役に立たなんだ、六腕ロボに乗り込んでね。

 

 ──以上4台。

 上空の攻撃隊に合流する。

 コボルドども、大興奮。わんわん吠える。攻撃隊長・武鬼が、手を上げてそれに応える。

 

 陸号。外務大臣専用機。大臣乗らず。ハイエルフの魔術師4人乗せて、中央甲板へ。

 飛び降りたのは、旧『緑の魔術の国』のフォーム隊長、そして『丘の街』のワラント隊長と部下2人であった。

「お世話になりましたえ。陸号殿」

 ぶわっさ。

 陸号はそう答え、ちょっと上を見た。

 その方向から飛んでくる、黒いかぶとがにあり。

 

 ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。鬼神専用機。いまは鬼神ではなく、月の女神を乗せておる。

 銀髪をなびかせ、月の女神、その姿も美しく。ガンメタ鬼神台と共に、鬼神のそばまで降りてくる。

 ハイエルフの魔術師たちが一斉に頭を下げ、少し下がった。

 鬼神は一歩近づき、相棒の肩に手を添えた。

「お月。避難は・・・せんのか」

 ジロリ。

 月の女神、鬼神を睨む。

 その一瞥(いちべつ)で十分とばかりに、鬼神にはなんも言わず、美しい声でこうおっしゃった。

「空飛ぶ一族の女王陛下。お耳をお借りしたい」

<はい>

 昇降口のあたりから、妙雅の返答があった。

「複雑な事情を承知で、お願いいたす。

 事ここに至って、愛する者どもと分かれて居りとうない。

 この月に、貴艦に乗る許し、頂けますまいか」

<お気持ち、まことにもっともなことです。

 ひとつ、お願いをしてもよろしいでしょうか>

「言うてみられよ」

<夜を統べ(すべ)、弱き者を見捨てぬ女神さま。

 どうか、我が軍──人類混成軍の援軍として、御乗艦頂けませんでしょうか>

「ふむ」

 月の女神はほほえんだ。

「では、独立の援軍として、我が意のままに、力添えをいたす──ということで、いかがかに?」

<ありがとうございます。乗艦を許可します。光栄です、熱なき光の女神さま>

「ありがとう。

 ──行くえ」

 月の女神。

 ガンメタ鬼神台から、ふわ~んと、飛び降りてきた。

「うおっと!」鬼神、あわててキャッチ。「・・・なんじゃ。他人行儀なやり取りをしおって」

「ややこしい種の蒔き方をするから、こないなるのえ」

「私のせいなのか?」

「そえ」

 言い合っとると、昇降口が上がって来た。

 空飛ぶ昇降台に乗って上がって来たのは、『姉妹祈願班』の司祭たちである。

 ダークエルフの巫女が転がるみたいに走って来て、月の女神に深々と礼をした。

 月神、鬼神の腕から降りて、前に出る。

「サステリア、我が巫女よ」

「はい」

「危険な戦場で、よう頑張っておる。誇り高いえ」

「はい・・・!」

「ハナ司祭」

「は!」ハイエルフの女司祭、一歩出て、頭を下げる。

「そなたと従者のこと、また魔術師の方々のこと、姉上に申し上げておく。勇敢なハイエルフが居りますえ、と」

「は!」

 月の女神は空を見上げた。

 太陽は沈みつつあり、その最後の輝きは神竜の巨体に邪魔され、見ることができぬ。

 冷たく暗い夜が忍び寄っておった。冷気が神竜にかき回され、ゴウゴウと唸りながら、肌を切り裂く。

 月の女神は、人間たちを見下ろして──輝いた。

 ふだんは隠しておる神威(しんい)を、あらわにする。優しく明るい光が、中央甲板を照らし出した。

「・・・この月も、力添えをする。

 あいさつはもうよい。

 飾らずとも、そなたらの名、忘れはせぬ。

 疾く(とく)戻られよ。そなたら英雄、それぞれ、持ち場があるのやろ?」

「はい。女神さま」

 サステリアはなんとも言えぬ表情をして、名残惜しそうに甲板を去った。ハナ司祭と従者と共に、ふたたび昇降口の下へ消える。

<女神さまも、中に入られますか>

「心配御無用。私はこの男のそばを離れるつもりはない」

<かしこまりました>

 会話は終わり、ハイエルフの魔術師たちが昇降口付近で戦闘態勢に入る。

 妙雅の建築ユニットが、がしょーんがしょーんと6本足で歩いてきて、魔術師たちの前に、がしょ! と座り込んだ。で、4本の足で甲板にしがみつき、余った2本足で、オレンジ色した金属板を持ち上げた。

「・・・なんじゃこいつら」と鬼神が言うと、

<盾です>妙雅が答えた。<動かす余裕はないので、固定ですが>

「まこと助かりますえ」

 と、フォーム隊長。自分で『銀貨の盾』を詠唱。空飛ぶ盾を呼び出しておる。が、そのサイズ、いかにも小さい。

 建築ユニットが構えたオレンジの盾は、サイズが大きく、頑丈そうである。動かせんらしいが。

「なるほどな」

 鬼神はうなずいた。

 そして、相棒に目をやった。

「・・・相棒。おまえにはもちろん、担当があるのだろうな」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台答える。隣に浮かんどる陸号も、小さくうなずいた。

「なるほど。弟どもと一緒に戦うというわけか」

 ぶわっさ。

「私も乗せてくれ! と言いたいところだが・・・。

 私は、飛び入りじゃ。がまんするわい」

 ・・・ぶわっさ。

 鬼神、こぶしを出した。

 相棒、おでこを出した。

 ごつん。

 長い間一心同体で過ごしてきた、2人。

 ぐっ! と、押し合う。

 なんも言わず、『力』のルーンを出し合って。

 ぴたり! その強さ、向き、完全に調和をし、静止! まるで、接着されたがごとし!

 ニヤリ。鬼神笑う。

「ではな。相棒。陸号もな。この戦が終わったら、また会おう」

 ぶわっさ!

 綺麗に揃ったへんじをして。

 ガンメタ鬼神台。陸号。

 舞い上がる。

 2台を迎えた攻撃隊、また盛り上がり、わんわん吠えた。

 

◆ 35、鬼神と月神、ルーンをこうかんす ◆

 

「・・・。」

 もう何も言えず、見送る鬼神。

 そんな鬼神に。

「鬼神よ」月の女神が呼びかけた。「イリスの祈り、聞いたえ」

「・・・すまぬ。私がついておったのに。

 万が一のときには、私を恨んでくれ・・・」

「イリスから聞いたのえ」

「は?」

「うわごとみたいな祈りやったが、生きてはおるらしいえ」

「なんと」

「ボロカスに罵りたい(ののしりたい)ところやが、戦のさなかに問責(もんせき)はできぬ。

 ──ゆえに、話を変えるが」

「う、うむ」

「そなたに、ルーンを、教えておきたい」

「・・・なんじゃ。こんなときに」

「とうとうこうなってしもうた以上、やることは済ましておきたいのえ」

「不吉なことを」

「ええから」

「ルーンと言われてものう・・・神竜には、封じられてしまうぞ。

 いんぺ──おっと。いやつまり、いつものアレなら、いらんぞ。

 私には使いこなせそうにないし・・・逃げるつもりも隠れるつもりもない」

「戦いのルーンではないのえ。

 戦後に、そなたを守るルーン」

「戦後だと?」

「そなたは、力強く、からだ強き神。

 この戦いにおいても、死にはすまい。

 そやに──それゆえに、見たくないものを、見ることになろう。

 目にした光景、耳にした悲劇が、そなたを打ちのめすであろう。

 そんなときのためのルーンやえ」

「心を守るルーンか?」

「身も心も軽くしてくれるルーンやえ」

「ほう。酒みたいだな」鬼神は笑った。「面白そうなルーンじゃ!」

「そなたなら、気に入ってくれると思うえ。最後には」

「さいごには?」

「ふふふ。

 さ、教えよう。

 『萎む(しぼむ)』のルーン。そなたは、自由に使うてよし」

 

 ルーンを『教える』というのは、『あなたもルーンを使っていいですよ』ということである。

 所有者は月の女神のまま。鬼神も『萎む』を自由に使えるようになる、っちゅうわけだ。

 鬼神が相棒に『力』のルーンを使わせているのと、おんなじですね。

 

「ありがとう」鬼神は受け取る素振りをしてから、「・・・しぼむだと? 変な名前だのう」

「面白いルーンやえ」

「どんな効果があるのだ?」

「使うての、お楽しみ。ここぞのときまで、使いなえ?」

「うむ。しかし、色んなルーンを持っておるのう。私なんか、『力』しか持っておらんのに」

 鬼神が言うと、月の女神は首をひねった。

「はて? そうかに?」

「うむ。そうなのだ。

 だから、お返しといって、『力』のルーンしかない。それでかまわんか?」

「うれしいえ」

「では、『力』のルーンを、そなたに教えよう」

 鬼神と月の女神は、目に見えず、手にも触れぬもの、やり取りする素振りをした。

「ありがとう。

 早速、ダークエルフたちに、わざを公開しておこう。

 『身体を強くする』のわざ。これがえええ!」

 

 鬼神と月神、ルーンを交換す。

 このときより、ダークエルフは力強い種族となった。その寿命も少し伸びたと、言われておる。

 

「気が早いな。というか、そんなわざもあったのか」

「そなた、いつも使うておるに」

「知らんぞ」

「無意識に使うておるのやろ」

「はあ。そう言えば、神竜にルーン封じられたとき、えらいしんどかったのう・・・」

「さて」

 月の女神、ちょっと考える。

「そやに・・・『萎む』と『力』では、釣り合わぬ。

 も少し、なにかを渡さねば、私の面子が・・・。

 いまは手持ちの宝もない。よし、これを渡しておこう」

 と。

 鬼神に渡されたのは、銀の手鏡であった。

「む? これは、見たことがあるぞ」

「うむ」

「あの、初めて会うたとき」

「2回目!」

「ああ、うん。2回目に会うたとき。

 三つ目になった私を見せるのに、貸してくれた手鏡だな?」

「正解」

 

 それは、月の女神の銀の手鏡。

 銀色の、小さい、まあるい鏡である。

 鬼神には小さすぎ、お洒落すぎたが。

 

「それは、この世で私しか持っておらぬ手鏡」

「なんと! そんな貴重なものか」

「うむ。それを見せれば、そなたが私の身内ということ、一目瞭然(いちもくりょうぜん)」

「そなたの身内の証明! なるほど、大した宝じゃ!」

 鬼神、物は持たんが、宝は大好きである。

 単純に、よろこんだ。

「もし私の姉上に会うことあらば、それを表向けて見せよ」

「おもて向けて?」

「うむ。鏡の面を、さっと、見せてやるがよい」

「はあ。なんかそんな合図があるわけだな?」

「そういうわけやえ」

 月の女神はニヤリと笑うた。

「姉上は気難しい御方。格式にこだわる御方でもある。

 そなたのごとき、無手(むて)なる男とは、相性悪し。

 あれこれ言い合うより、証拠を見せるがよし」

「わかった」

「さっと出すのえ? さっと」

「さっと、表向けてな。うむ。覚えておこう」

 鬼神は月の手鏡を受け取って、ふところにしまった。

「うれしい。とうとうそなたと、ルーンを交換する仲となった」

「えらい喜んどるのう」

「うむ」月の女神、笑顔である。「私は、小さな神ではないゆえ。うかつにこのようなことはできぬ」

「・・・なるほど。なんというても、お月さんだものな」

「そなたと出会えて、良かったえ」

「おう」

 鬼神、ちょっとひるむ。

 なんか偶然出会うて、けんかしたら、お月さんだった──っちゅうのが、鬼神の印象である。

 あんまり嬉しそうにされると、ちょっと、悪い気がしてくる。

「・・・なにえ?」月の女神、機嫌こわれた。

「あ、いや、思い出しとったのだ。最初はけんかしたのになあと」

「ふん」

「こんな素敵な女神さまにパンチが当たったりせんで、本当に良かったなあと」

「ふん」

「その、なんじゃ。私もだな。そなたに会えて良かったと、思うておる」

「最初からそう言いなえ」

「いやそれはその・・・。

 ええい! やめんか!

 私は、繊細なことは苦手なのだ。わかっとるくせに」

「ふん」

 鬼神とお月さん。

 周囲の魔術師がちょっと居場所に困るような会話、終わる。

 

 そして、このときをもって。

 妙雅を旗艦とする、人類混成軍は──

 

≪ただいまより、全力攻撃を開始する。

 全台、移動を開始せよ・・・≫

 

 ──神竜との、最後の戦闘に、入ったのである。

 

◆ 36、鬼神、みやぶる ◆

 

 妙雅、前進する。

 風、激しくなる。

 上空の攻撃隊、妙雅よりさらに先行し、進んでゆく。

 先頭は、鬼神の相棒・ガンメタ鬼神台。

 その陣形は、『→』のごとし。図にするならば──

 

 □□□□□□□□□伍

 コボルドコボルドコボルド壱□ガ

 □□□□□□□□□肆

 

 ──こうである!(『ガ』はガンメタ鬼神台、□はなんもないとこです。)

 この上空に、攻撃隊長・武鬼の弐号。そして替え馬の陸号である。

 

 神竜は当然、この動きに気付いた。

 そして。

 マグマの口を、うっすらと開いた。

 笑ったのである。

 鬼神はそれを見て、ぞっとした。

「やはり!」

「どないしたのえ?」とお月さん。

「神竜め、何かたくらんでおるのだ。ああして渦巻いて、つばさへびを下げて・・・」

「渦巻いておるのではないかに?」

「・・・いやだから、渦を巻いてだな、なにかをたくらんで」

 鬼神。

 お月さんの顔を見た。

「渦」

「うむ。渦」とお月さん。

「・・・風の渦?」

「台風とも言う」

「たいふうだと?」

「月から遠見(とおみ)したらば、渦が見えるのえ。そなたも見たことあるはず」

「それじゃあ!」

 鬼神、飛び上がる。

「妙雅! 指揮官につなげ! 上申じゃ!」

<はい? いま忙しいのですが・・・はい、つなぎました>

「鬼神じゃ!

 神竜の奴──台風を、この空に、造り出すつもりだぞ!」

<なんと?>

 とボナス閣下の声がした、その直後。

 

「気が・・・付いたか・・・」

 と、空に轟く声がした。

 マグマの口から轟く声である。

 ぐーるぐーると、鬼神たち全員を取り囲んで飛ぶ、巨大な頭からの声である。

 神竜の声であった。

 輪を描いて飛んでおるため、その声は、とても不可思議な聞こえ方をした。

「だが・・・もう遅い・・・」

 

 そして。

 神竜も、最後の手札を切ったのであった。

 

「『災い(わざわい)』のルーン!

 嵐よ、渦巻け。

 雨よ、押し流せ。

 隕石よ! 人間どもを、打ち砕け!」

 

 びりびりびりびり。

 轟く声が、鬼神たちの鼓膜(こまく)を叩く。

 

 神竜。 

 ぐるぐると回転する大空の輪を、狭めてきた。

 何里も離れたところを回っておったのを、急速に小回りに切り替えて来たんである。

 猛然と近付いてくる、神竜の巨体!

 

「また、縄とびをさせる気か?」

 鬼神。

 そう言うてから、首を振った。

「いや、『同じ手は喰わぬ』といったところだろうな。

 そうだろうのう・・・。

 くそっ! 気付くのが、遅すぎたわ!」

 

 神竜の、左側に。

 風の、壁。

 渦巻く暴風の壁が、できあがっておる!

 そはまさに、大渦なり!

 偉大なり、災いの竜!

 卑小なり、人類!

 妙雅と攻撃部隊! 深い渦に落ちた、小魚のごとし! あり地獄に落ちた、ありんこのごとし!

 猛烈なる暴風の渦に囲まれてしもうた!

 迫ってくる神竜を、『飛び越す』選択肢が、封じられたのである!

 

「風は『三角州の受け』でなんとかするとしても・・・

 体当たりは、どうにもできんぞ!」

 焦る鬼神。

 その腕を、月の女神が叩いた。「鬼神よ」

「なんじゃ?」

「私はここを離れねばならぬ。

 姿を消すが、慌てたりする必要はない。

 万が一のときには、ルシーナに私を呼ばせよ」

「なんと? どこへゆく? 呼ぶだと?」

「隕石を、受け止める」

 月の女神はそう言うと、妙雅の甲板(会話のできるあたり)を見た。

「空飛ぶ女王よ。司令官にお伝え願いたい。

 月は、隕石を止めにゆく。そなたらの勝利を信じておると」

<了解、女神さま。勝ちます>

「鬼神よ、」月の女神は浮かび上がり、鬼神にキスをした。「いつか、また」

「お月?」

 何やら不穏な気配を感じた鬼神。

 月の女神に手を伸ばすが、その手は彼女に触れられぬ。

 月光に手を差し出すがごとし。むなしくすり抜け、なんの手応えも返っては来なんだ。

 月の女神。淡く輝いて、透き通り、消える。

「お月」

 鬼神の声。

 轟く神竜の声に、打ち砕かれた。

「死ね」

 声が近い!

 振り向けば、神竜の顔はもう、目と鼻の先!

 そのウロコの1枚1枚がわかるほど──ほんの1里(約3.9km)ほどにまで、近付いておった!

 左には猛烈なる暴風が渦巻く! 右には前足が待ち構えておる!

 逃げ場、なし!

 

 それは、最後の格闘の、始まりであった!

 

◆ 37、最後のかくとう ◆

 

 神竜のターン!

「死ね。人間どもよ。死に絶えよ!」

 神竜が叫ぶ。

 神竜の叫び! すべてを粉砕する衝撃波! 1里を割った近距離から!

 ぶわっさぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台が声を上げ、前に出る。

 『力』のルーン、奥義、『三角州の受け』!

 

 どっ・・・・・・・・・があああん!!!

 衝撃波相殺! 全軍を守った!

 

「邪魔だ。どけ」

 神竜、さらに、右足を振るう。

 『天』のルーンでもって、『力』のルーンをも相殺する、無敵のパンチ!

 どん!

 ガンメタ鬼神台、空気を叩く音立てて、急加速。神竜の前足を回避!

「ぬう・・・!」

 神竜、悔しがる。

「わけのわからぬ、空飛ぶものよ。

 おまえも、『力』のルーンを使うのであったな・・・」

 人類、ノーダメである。

 

 攻撃隊のターン!

「──いまじゃあ!」

 甲冑の鬼、武鬼、叫ぶ。

「列電魔弾(れつでんまだん)、撃てい!」

 ぶわっさ!

 答えたのは、空飛ぶ台・壱号。

 背中に装備した、はしごのごとき長い棒、2本。その、まっすぐ伸びた平行な線路(レール)に・・・

 どっがあああん!!!

 爆炎走らせ、なにか猛烈な速度のものを、撃ち放った!

 神竜が起こす衝撃波とそっくりの、小さな衝撃波を起こして──その、超高速の弾が──

 神竜の右目に、直撃! その巨大なガラスのごとき眼を、突き破った!

「ぬ、が、あ、あ、あ、あ、!!?」

 神竜、ものすごいうめき声。

 右目を閉じ、口からマグマのよだれをこぼす。

「お・・・のれ・・・!」

 怒り狂う神竜!

 その右目から、火のごとく輝くオレンジの体液が噴きこぼれる!

 血か? 炎か? いや、そのいずれでもない! 魔術の力帯びた、オレンジに輝く溶鉱!

「やったぞ!」武鬼が怒鳴った。「奴の右目、もらったぞ!」

 神竜、右目の視力喪失である。

 

 エスロ班のターン!

「なにえ、あれは」

 ルシーナつぶやく。

 オレンジに輝く液体金属を見て。

「ヒイロガネ──と、ハイエルフは呼んでおりまする」

 エスロ博士が応えた。

 流れ出た金属は冷え固まり、オレンジに輝く鉱玉となって、眼下へ落ちてゆく。

「グレ姉のごとき色・・・」

「はい。

 天の御剣(みつるぎ)“グレイス”さまは、純なるヒイロガネの剣身を持つ。

 あの金(かね)打てるは、地に1人、天にひと柱──御二方をおいて、他になし」

 エスロ博士。

 戦士の笑いを浮かべた。

「そして、ヒイロガネの血、流るるは!

 神竜の神経を、捉えた証!」

 そして、付き従うコボルドどもに指示を飛ばした。

「いま、神竜は、右目が見えぬ!

 この機会、逃すべからず!

 ──エスロ班、突撃!」

「おう!」「わんわんわん!」

 エスロ博士とルシーナの乗る、エスロ台。そしてコボルドの8台。

 神竜の首の上あたりを飛び越して、傷口へ向かう。

 だがそこは、暴風の真っ只中!

 いきなり猛烈な向かい風に飛び込む形となる!

「師匠! いま!」エスロ博士叫ぶ!

<おう>

 ボナス閣下の声が応える!

<『風』のルーン! 『無風』! 嵐よ和らげ(やわらげ)!

 大空渡るそなたの恩恵、地を這う我らに授けたまえ!>

 すると。

 暴風が、勢いを失った!

 向かい風がゆるみ、エスロ班を叩きのめすがごとき風圧が、弱まった!

 だが、風は、相剋する(そうこくする)!

 吹き止むか? 吹き荒れるか? それが定まらぬといった様子で、二手に分かれて争い始める!

 妙雅のそばでは、吹き止んだ!

 神竜のそばでは、吹き荒れた!

<すまぬ。完全には消せなんだ。

 敵は、ルーンと神竜の図体の、合わせわざゆえに>

「十分ですえ!」

 エスロ班、神竜の傷口に接近である。

 

 妙雅のターン!

 まだ距離がある。やることなし!

「くそっ! 見とるだけか!」鬼神。悔しがる。「せめてなんか、投げるものでもあれば・・・」

 すると。

 クリスタル博士が、おずおずと手を上げた。

「・・・造りましょうか?」

「造る?」

「うむ。やってみなされ」フォーム隊長が指示を出す。「まずは試しに、1体」

「土石で?」とクリスタル博士。

「土石で」とフォーム隊長。

「了解」

 クリスタル博士、詠唱を始める。

「土くれ、石くれ、生命くれ、いまぞこの世に立身せよ──『土石立身(どせきりっしん)』!」

 ずごごごご。

 土石人形、2体、この世に立身である!

「1人どうぞ」

「おお、ありがとう。ではもらおう」

 鬼神は土石人形に近づいて、

「『力』のルーン! よいしょ」

 体重だけなら自分以上になろうかという、土石人形を持ち上げた。

 巨人on巨人である。鬼神の上になった土石人形の肩(土石人形に頭はない)、妙雅の高い高い骨組アーチの天井にぶつかりそう。

「うわあ」クリスタル博士、尻もち。「あなや。恐ろし」

「心配するな。落としはせんわ」

 鬼神たち、手投げ人形を用意して、ターンエンド!

 

 ふたたび、神竜のターン!

 神竜! インチキじみた連続行動!

「『天』のルーン。私は、右目の傷を上回る」

 ルーンでもって、傷の回復をスタート!

 そして! 詠唱!

「目障り(めざわり)な。邪魔な。不快な雑魚どもめ。

 死ね。死ね。溶け崩れよ。『この世の始まりの火』!」

 マグマの口を開いて──

「散れ! 散れ!」武鬼が怒鳴る。「上下左右に散開!」

 ──神竜は、吠えた。

 その雄大な身体の腹の底から、猛烈な咆哮を、放った。

 衝撃波。

 口の中に貯まっておるマグマが、噴出した。

 ──この世のどんな火山よりも恐ろしい、猛烈なる噴火となって。

 ガンメタ鬼神台。武鬼の前に駆けつけて『三角州の受け』! しかし全部は防げぬ! マグマは一体ではないゆえに、離れたものは弾くことができぬ!

 攻撃隊! 四方八方に逃げまどう!

 ──だが! 逃げ切れぬ!

 高速の溶岩弾に、砕かれる! カーテンのごときマグマに、呑み込まれる!

 攻撃範囲を出れなんだ10台あまりが、戦死した。

 神竜、なおも行動!

「止まったな? つばさへび召喚」

 つばさへび、突如、出現!

 ガンメタ鬼神台のボディに触れるほどの、至近距離!

 ぶわっさ!?

 ガンメタ鬼神台、絡まれてしもうた!

「死ね」

 神竜、右足を振り上げる。

 ガンメタ鬼神台は。つばさへびを振りほどけず。

 『力』のルーンを無効化された状態で。

 突っ込んだ。

 武鬼から少しでも離れようと、神竜の右手の内側へ、突っ込んだ。

 きりもみ飛行して、つばさへびを振り落とそうとする。

 だが今回は神竜も必死であった。ガンメタ鬼神台のボディに噛み付き、ぎりぎり締め上げ、なりふり構わずしがみつき、『力』のルーンを封印する。散弾砲には近付かず、本来なら鬼神が乗る場所に入り込んで、ガンメタ鬼神台の振り落としに抵抗する。

 振りほどけぬ──

 そして、神竜の右手を避けることもできぬ──

 ガンメタ鬼神台は、それでもなお、粘った。

 ボディをギシギシ軋ませながら急転回し、上昇。神竜の右足に、突っ込んだ。

 交差!

 つばさへびの身体がちぎれる!

 ガンメタリックのボディが、弾け飛ぶ!

「鬼神台!」武鬼が叫ぶ。

「相棒!」妙雅の甲板で、鬼神も叫ぶ。

 ぶわっさぁ!

 鬼神の声に応えるように、ガンメタリックの──ボディが半ば剥がれた鬼神台が、ぱっと夜空に舞い上がった。

 なんと!

 鬼神台!

 神竜の右手の、1本だけ爪のない指! そこを狙って、すり抜けてみせた!

 しかも、完全に避けるのではなく! わざとかすって、つばさへびだけ、殺させた!

 なんたる機転! なんたる度胸!

 なんたる勇士!

 まさに、鬼神のお伴にふさわしい!

 

 攻撃隊のターン!

「つばさへび召喚。つばさへび召喚」

 次々に召喚されるつばさへびをすり抜け、踊るがごとくに夜空を舞い──

 ガンメタ鬼神台は、神竜の左目の前に、跳ね上がった!

 そのまま、左目に突っ込む!

「ぬ、う、う!」

 神竜、避けんとす!

 どん! ガンメタ鬼神台、『力』のルーンで加速! 神竜を逃がさぬ! 

 左目に最接近! 衝突──の、まさにその、直前!

 どっがあああん!!!

 ド!!! パァァァン・・・!

 2つの砲声が、夜空に響いた!

 壱号の『列電魔弾』! 神竜の左目に突き刺さる!

 ガンメタ鬼神台の散弾砲! 列電魔弾の開けた穴に、すかさず命中!

 ──壱号とガンメタ鬼神台。空飛ぶ兄弟! 高速通信で、この攻撃を示し合わせたんである!

 ガラス玉、ひび割れ、飛び散る! その飛び散った破片のひとつひとつが、ガンメタ鬼神台なみのサイズ!

 その破片に、ガンメタ鬼神台、体当たり!

 ぶわっさ!!! 『力』のルーンで、弾き返す!

 神竜自身の眼球の破片が、神竜の目玉に突き刺さった!

「ぐ、わ、あ、あ、あ、!、!

 お、お、お、お、お、お、!、!、!」

 ・・・だが。

 噴き出す『ヒイロガネ』の奔流を、ガンメタ鬼神台は避けることができなんだ。

 

◆ 38、相棒、しす ◆

 

 オレンジの溶鉱。まともに、浴びてしまう。ボディが溶ける。骨が溶ける。空飛ぶ台の生命である呪文版も、溶け崩れる。

 『力』のルーンで引き返す・・・ことはできなんだ。なんでといって、ヒイロガネには、まだ『天』のルーンの効果が及んでおったからである。目玉の破片とはちがい、ヒイロガネは、噴き出した直後にはまだ、神竜の一部だったのだ。

 それに、ガンメタ鬼神台は、引き返そうともしておらなんだ。なんでといって、ヒイロガネの飛沫が、散弾砲の砲弾にも降りかかっておったからである。

 進むも爆死。引くも爆死。どうせなら、奴の体内がよかろう。

 ──ガンメタ鬼神台は、妙雅にそのように通信をしたという。

 神竜の左目、内部で、恐ろしい爆発が起こった。

 ヒイロガネが燃え上がる雪のごとく、オレンジの吹雪のごとく、夜空をパッと照らし出した。

 その輝きの中に、ごくわずかに、ガンメタリックのボディの破片が見えた。

 神竜、左目の視力喪失。

 攻撃隊のコボルド台、半数戦死。

 鬼神台、戦死。

 

 神竜の左目と引き換えに。

 鬼神の相棒、死す。

 

 妙雅のターン。

「う、う、う・・・。痛い。目が痛い。頭が痛い。

 『天』のルーン! 私は、左目の傷も、上回る!

 ぬ、う、う・・・! よくも。よくも」

「『よくも』。それは、こっちのセリフじゃ」

 鬼神は静かに言い返した。

「よくも、我が相棒を。

 神竜。私は許さんぞ。おまえを。

 おまえはこの鬼神を、生まれて以来、もっとも怒らせたのだ」

 土石人形を構えた鬼神。

 その隣で、うなずくクリスタル博士。

「人形、投げ!」合図出す、フォーム隊長。

 鬼神。

「ゆけい、土石人形! 相棒の仇を取ってくれ!

 『力』のルーン! 復讐の土石人形投げ!」

 頭上に構えた土石人形を、ブン投げた。

 ごおお!

 土石人形、ブン投げられた姿勢のまま、空を飛ぶ!

 それは弓矢の弾道よりも、遥かに真っ直ぐな──あの『弩砲』のごとく真っ直ぐな、恐るべき弾道であった!

 飛んでゆく土石人形。衝撃波をともない、みずから崩壊してゆく!

 だが不壊(ふえ)を誇る魔術人形! 崩れても崩れても、飛び続ける!

 神竜。目が見えぬ。飛来する土石人形を、回避することができぬ。

 がっ・・・・・・・・・ごおおぉぉぉ・・・・・・ん!!!

 すでに傷ついておる右目に、土石人形がヒット!

 ごわああああん・・・!

 神竜の頭に衝撃走る。ヒイロガネが噴き出し、燃える吹雪となる。

 土石人形、もちろん跡形もなし──と、思いきや! なんと! いまだ、原型保っておる!

 神竜の右目にめり込んで、ヒイロガネに溶かされながら、その場にしがみついておる!

 不壊なり! 土石人形!

 たったひとつの手段をもってする以外、その活動を止めることはできぬ!

 その手段とは?

「役目を遂げよ、我が人形。そなたの献身、忘れはせぬ」

 クリスタル博士、詠唱する。

「いかに離れて居ろうとも、我らはひとつの軍団なり。

 聞こえるはずやえ、私の声が! 『鬨(とき)』!

 我が命によって死ね! 『軍団爆破』!」

 ──その、たったひとつの手段。

 呪文による、爆発命令をもって、土石人形は活動を終えた。

 大爆発。

「土石人形、よくやってくれた」

 鬼神は静かに言うた。

「相棒よ。見事であった。おまえはこの鬼神の、一生の相棒じゃ」

 神竜の右目、ダメージ追加である。

 

◆ 39、ドラゴンキラー、せいこうす ◆

 

 エスロ班のターン!

「突入!」

「突入でござる!」「わんわんわん!」コボルドどもも、急降下。

 一丸となって、神竜の左脇の傷口へ殺到する。

 『風』のルーンによって抑えられた暴風。左右の視力を失った神竜。

 ──エスロ班を阻むものは、なかった。

「妙雅、第二段階、『接続』の鍵を、エス子に」

<はい。送ります──送りました>

「エス子、詠唱始めるえ!」

 ぶわっさ。

 神竜の傷口へ突進しながら。2人は同時に詠唱を始めた。

 ルシーナが『祈願』して招集したマナを、すべて使い果たして。

 エス子(エスロ台)の声は聞こえぬ。聞こえるのは博士の声だけである。

「『闇』のルーン。『暗がりに隠す』。

 我らの呪文を、神竜の眼(まなこ)から隠せ・・・。

 ──これで決着え、神竜よ。

 目に見えぬ、手にも触れぬところより、来れ(きたれ)、敵なる血の呪い。

 流れるこの血に忍び込め。ふさがる傷口に入り込め。呪いに穢れた、敵なる血よ。──『感染』」

 

 神竜は、『感染』した。

 目に見えぬ、手にも触れぬところで暴走する、『敵なる血の呪い』に、『接続』された。

 それで、どうなるのか?

 これより先、神竜の体内で新たに造られる血肉は、すべて呪いに被曝する。

 神竜は、自分の血肉に攻撃されるようになるのである。

 誤って被曝した妙雅が、自己分裂に悩まされたように、である。

 

 神竜が、あらゆるものを上回るというならば。

 自分で自分を攻撃させればよい。

 ──これが、エスロ博士の秘密の研究であった。

 

 『敵なる血の型枠』は、暗き呪いの型枠であった。

 空飛ぶ台を生み出した『御霊の型枠』が、明るい希望の型枠なのとは、対照的に。

 

「成功なり」

 エスロ博士が宣言した。

「艦橋。こちらエスロ。

 第二段階は成功。

 『ドラゴンキラー』、成功す」

<よろしい。妙雅に戻り、ルシーナさまを降ろし、防空に参加せよ>

 ボナス閣下の声が応えた。

<神竜、つばさへびを連続召喚中。いまだ苦戦は必至なり>

「了解」

 エスロ博士は汗を拭い、班のメンバーに命令した。

「妙雅に戻り、防空をする。あとは、この防衛戦を残すのみやえ」

「了解!」

 元気よく応えたコボルドとは、対照的に。 

 ルシーナは、座席に、崩れ落ちた。「きしにぃ・・・」

「よくこらえられました。ルシーナさま。

 妙雅に戻るまで、座っていなされ」

 エスロ博士。

 そのように言うてから、口の中でつぶやいた。

 

「英霊(えいれい)を弔える(とむらえる)日が、来れば良いのやが。

 はてさて、神竜は、どこへ堕ちるやら」

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