◆ 33、鬼神、かんがえる ◆
鬼神。
空飛ぶ母艦・妙雅。中央甲板の上に立って。
≪これより、全力攻撃に移る≫
全艦放送の音を、聞く。
≪より・・・移る・・・≫
こだまする声を、聞く。
司令官・ボナス閣下の、命令の声であった。
≪妙雅は、弐ノ塔を先頭として、機動をする・・・。
攻撃隊各班長、妙雅の進行方向を誤らぬよう、注意をせよ・・・。
弐ノ塔の要員は、壱ノ塔へ移動をせよ・・・≫
「・・・。」
鬼神。
黙ーって、空の彼方を睨む。
水平線のあたりを、ぐーーーる・・・・・・・・・ぐーーる・・・・・・と、輪をえがいて飛ぶ、巨大な竜を。
その巨体、遠い。ウロコを雲と見紛うほど。かすみがかって、全体に白っぽいんである。
にも関わらず、ウロコの1枚1枚、見分けがつく。
それほどまでに、でかい。
鬼神、四方を見渡した。どの方角も、神竜の身体に塞がれて(ふさがれて)おる。
「・・・。」
右に、神竜の頭。
正面に目を向ければ、神竜の右手。
左には、神竜の右足。
後ろを振り向けば、神竜のしっぽ。
──と見る間に、しっぽがどんどん逃げてゆく。
しっぽのあったところへ、神竜の頭が、ぐるーーーり・・・・・・・・・と回り込んでくる。その右目。鬼神を睨んでおる。
頭が飛び去り、右手が見えてくる。人差し指には、爪がない。なくなった爪は、巨人の王の心臓に刺さったままである。
右手が飛び去り、右足がやって来る、
そして雪冠る(かむる)峰々のごとき、しっぽが、ふたたび回ってくる・・・。
「・・・。」
鬼神。正面に顔を戻す。
「神竜め。なにをたくらむ?」
真剣な顔して、つぶやく。
「つばさへびを引っ込め、ぐるぐると、飛び回る。
体当たりを──あれほど妙雅を追い込んだ体当たりを、なぜ、使わぬ?」
<おじちゃん>
「わからぬ」
<おじちゃん、下りて>
「危険じゃ。敵の手が読めぬのは・・・!」
<下りんか! くそじじい!>
があああ!
ごん。
鬼神の足に、なんかぶつかってきた。
「あいた」
ぶつかって来たやつ。
防空曲線路射撃ユニット。
アーチを線路として上下に走り回る、妙雅の対空砲であった。親亀子亀みたいに、2枚の平たいユニットが重なっとるやつである。下のがレールにしがみつき、上のが砲を振り回して、撃つっちゅう設計のやつ。
・・・妙雅のやつ。砲持っとるユニットで体当たりとは、何事じゃ!
いえいえ、これは、相手が鬼神だから、やったことなのですよ。万が一暴発しても、鬼神なら大丈夫、との算段がある。
人間のみなさんは、真似してはいけませんよ。
<甲板に下りよ! 攻撃態勢が取れんじゃろが!>
「はいはい・・・」
鬼神。
足元の、アーチになった金属の柱に、しゃがみ込む。
ぶら下がる。長~い腕で、お猿さんがごとく、ぶら~んと。
そうしてぶら下がっても、甲板まで、まだ3尋以上ある。
「高い骨組みだのう」
<工房の扉を目安に造りましたからね>
「ははあ。巨人サイズか」
<でないと、お弟子さんたちが、>妙雅は一瞬、言葉に詰まった。<・・・『我ら、乗れぬ』とか、さびしがると、思って>
「そうだな。言いそうじゃ」
お弟子さんがた。
もはや、この世に居らぬ。
巨人の王と共に、みーんな、あの世へ行ってしもうた。
鬼神、手を離し、飛び降りた。
<あっ!? ちょっ、甲板が割れる!>
「なんのこれしき。『向きを変える』!」
ころり。
鬼神、音もなく着地して、ころんと転がり、流れのままに立ち上がった。
「ひっ!? お・・・お見事にございまする」
「うん? ああ、驚かせてすまぬ。クリスタル博士」
ハイエルフの女魔術師のすぐ隣に立つ。
して、また渦巻く神竜を見渡して、鬼神、考える。
「何かあるはずじゃ・・・何か、狙いが・・・」
「なにか?」とクリスタル。
「神竜が回る理由じゃ。神竜が、つばさへびをやめた理由じゃ」
「たしかに」クリスタル、うなずく。「敵の狙いがわからぬのは、よいことではありませぬ」
「うむ」
大きな鬼神と、小さなクリスタル。並んで空を見る。
「・・・して、またアレが出てくるのか? クリスタル博士よ」
「アレとは?」
「びりびり剣士じゃ。お得意の」
「ああ、水晶剣士」クリスタル博士は笑う。「いえ、もう材料がありませんに」
「予備は積んどらんのか」
「水晶剣士は、名のごとく、素材が水晶でして。
とてつもなく高価なものゆえ、滑り落ちた分で、手持ちは最後なのですえ」
「なんと・・・そんな高価なもんなら、助けてやればよかったのう」
「いえ。戦に参加する以上は、爆破する覚悟もしておりますゆえ」
「爆破だと?」
「はい。『人形爆破』という呪文がございまして。歩く爆弾と化すことができますのえ」
「なんか・・・恐ろしい感じだが」
「そうですに。人間に対して使うてはならぬと、私どもは取り決めておりまする。
ま、取り決めというものは、往々にして破られるものですが」
「そうか。まあ高価な人形ではもったいないわな。あいつ、綺麗だしのう」
「おお! 鬼神さまも、水晶剣士の良さがおわかりに!」
クリスタル博士、はしゃいだ。
しばらく水晶剣士の良さ、熱弁する。水晶剣士のかしこさ、わざの切れ、見た目の綺麗さなど。
「──そやに、何よりもの長所は、扱いやすいことですえ」
「扱いやすさか」
「土石人形などは扱いに注意を要し、習熟を必要といたしまする。
水晶剣士は、敵味方をきちんと見分けますゆえ」
「なるほど」
「もっとも、土石人形の特攻爆破には敵いませぬが。
・・・ここだけの話、私は、その手でボナス閣下に負けたことがございまして」
「なんとまあ。そうか。人形爆破か・・・」
妙雅上空では、空飛ぶ台どもが編成を急いでおる。
神竜攻撃隊のコボルド、生き残りの20台ほどが、失った班長・班員を悼む(いたむ)時間もなく、空中で再編成。『はれつだまの筒』の準備などをしておる。
妙雅は、があああ、があああ・・・と、防空曲線路射撃ユニットを上下させておる。合計8台。動作テストか? 上下に動いたあと、アーチの途中でピタッと止まり、ぎーん、ぎーんと首を振り始める。テストを終えたのか、死んだように停止する。なんとも気持ち悪い動きである。
そんな中。
全艦放送が、こだました。
≪かぶとがに隊、出撃!≫
◆ 34、かぶとがに隊、しゅつげき! ◆
≪かぶとがに隊・・・かぶとがに隊・・・、出撃・・・出撃・・・≫
赤いかぶとがに。4台。
神竜に視界を埋めつくされた空、駆け上った!
ガンメタ鬼神台と同じボディ。ただし色だけは、砲金色ではなく、深みある赤。血のごとし。ワインのごとし。
壱号。国王陛下専用機。国王は乗らず。代わりに、はしごみたいなもんを背負っておる。
弐号。近衛隊長専用機。甲冑着た武鬼(ぶっきー)と、2人のコボルドを乗せておる。
肆号。内務大臣専用機。大臣乗らず。左右二門の散弾砲。補助塔の防空砲と同じやつである。
伍号。経済大臣専用機。大臣乗らず。同じく散弾砲。
以上4台──
・・・え? 参号はどこかって?
参号は欠番だ。鬼神の三男・機鬼(きき)は、妙雅機関長ですからね。空飛ぶ台には乗らんのだ。いまこのときも、妙雅の機関部に乗っておる。甲板の戦闘では全然役に立たなんだ、六腕ロボに乗り込んでね。
──以上4台。
上空の攻撃隊に合流する。
コボルドども、大興奮。わんわん吠える。攻撃隊長・武鬼が、手を上げてそれに応える。
陸号。外務大臣専用機。大臣乗らず。ハイエルフの魔術師4人乗せて、中央甲板へ。
飛び降りたのは、旧『緑の魔術の国』のフォーム隊長、そして『丘の街』のワラント隊長と部下2人であった。
「お世話になりましたえ。陸号殿」
ぶわっさ。
陸号はそう答え、ちょっと上を見た。
その方向から飛んでくる、黒いかぶとがにあり。
ガンメタリック・かぶとがに・鬼神台。鬼神専用機。いまは鬼神ではなく、月の女神を乗せておる。
銀髪をなびかせ、月の女神、その姿も美しく。ガンメタ鬼神台と共に、鬼神のそばまで降りてくる。
ハイエルフの魔術師たちが一斉に頭を下げ、少し下がった。
鬼神は一歩近づき、相棒の肩に手を添えた。
「お月。避難は・・・せんのか」
ジロリ。
月の女神、鬼神を睨む。
その一瞥(いちべつ)で十分とばかりに、鬼神にはなんも言わず、美しい声でこうおっしゃった。
「空飛ぶ一族の女王陛下。お耳をお借りしたい」
<はい>
昇降口のあたりから、妙雅の返答があった。
「複雑な事情を承知で、お願いいたす。
事ここに至って、愛する者どもと分かれて居りとうない。
この月に、貴艦に乗る許し、頂けますまいか」
<お気持ち、まことにもっともなことです。
ひとつ、お願いをしてもよろしいでしょうか>
「言うてみられよ」
<夜を統べ(すべ)、弱き者を見捨てぬ女神さま。
どうか、我が軍──人類混成軍の援軍として、御乗艦頂けませんでしょうか>
「ふむ」
月の女神はほほえんだ。
「では、独立の援軍として、我が意のままに、力添えをいたす──ということで、いかがかに?」
<ありがとうございます。乗艦を許可します。光栄です、熱なき光の女神さま>
「ありがとう。
──行くえ」
月の女神。
ガンメタ鬼神台から、ふわ~んと、飛び降りてきた。
「うおっと!」鬼神、あわててキャッチ。「・・・なんじゃ。他人行儀なやり取りをしおって」
「ややこしい種の蒔き方をするから、こないなるのえ」
「私のせいなのか?」
「そえ」
言い合っとると、昇降口が上がって来た。
空飛ぶ昇降台に乗って上がって来たのは、『姉妹祈願班』の司祭たちである。
ダークエルフの巫女が転がるみたいに走って来て、月の女神に深々と礼をした。
月神、鬼神の腕から降りて、前に出る。
「サステリア、我が巫女よ」
「はい」
「危険な戦場で、よう頑張っておる。誇り高いえ」
「はい・・・!」
「ハナ司祭」
「は!」ハイエルフの女司祭、一歩出て、頭を下げる。
「そなたと従者のこと、また魔術師の方々のこと、姉上に申し上げておく。勇敢なハイエルフが居りますえ、と」
「は!」
月の女神は空を見上げた。
太陽は沈みつつあり、その最後の輝きは神竜の巨体に邪魔され、見ることができぬ。
冷たく暗い夜が忍び寄っておった。冷気が神竜にかき回され、ゴウゴウと唸りながら、肌を切り裂く。
月の女神は、人間たちを見下ろして──輝いた。
ふだんは隠しておる神威(しんい)を、あらわにする。優しく明るい光が、中央甲板を照らし出した。
「・・・この月も、力添えをする。
あいさつはもうよい。
飾らずとも、そなたらの名、忘れはせぬ。
疾く(とく)戻られよ。そなたら英雄、それぞれ、持ち場があるのやろ?」
「はい。女神さま」
サステリアはなんとも言えぬ表情をして、名残惜しそうに甲板を去った。ハナ司祭と従者と共に、ふたたび昇降口の下へ消える。
<女神さまも、中に入られますか>
「心配御無用。私はこの男のそばを離れるつもりはない」
<かしこまりました>
会話は終わり、ハイエルフの魔術師たちが昇降口付近で戦闘態勢に入る。
妙雅の建築ユニットが、がしょーんがしょーんと6本足で歩いてきて、魔術師たちの前に、がしょ! と座り込んだ。で、4本の足で甲板にしがみつき、余った2本足で、オレンジ色した金属板を持ち上げた。
「・・・なんじゃこいつら」と鬼神が言うと、
<盾です>妙雅が答えた。<動かす余裕はないので、固定ですが>
「まこと助かりますえ」
と、フォーム隊長。自分で『銀貨の盾』を詠唱。空飛ぶ盾を呼び出しておる。が、そのサイズ、いかにも小さい。
建築ユニットが構えたオレンジの盾は、サイズが大きく、頑丈そうである。動かせんらしいが。
「なるほどな」
鬼神はうなずいた。
そして、相棒に目をやった。
「・・・相棒。おまえにはもちろん、担当があるのだろうな」
ぶわっさ。
ガンメタ鬼神台答える。隣に浮かんどる陸号も、小さくうなずいた。
「なるほど。弟どもと一緒に戦うというわけか」
ぶわっさ。
「私も乗せてくれ! と言いたいところだが・・・。
私は、飛び入りじゃ。がまんするわい」
・・・ぶわっさ。
鬼神、こぶしを出した。
相棒、おでこを出した。
ごつん。
長い間一心同体で過ごしてきた、2人。
ぐっ! と、押し合う。
なんも言わず、『力』のルーンを出し合って。
ぴたり! その強さ、向き、完全に調和をし、静止! まるで、接着されたがごとし!
ニヤリ。鬼神笑う。
「ではな。相棒。陸号もな。この戦が終わったら、また会おう」
ぶわっさ!
綺麗に揃ったへんじをして。
ガンメタ鬼神台。陸号。
舞い上がる。
2台を迎えた攻撃隊、また盛り上がり、わんわん吠えた。
◆ 35、鬼神と月神、ルーンをこうかんす ◆
「・・・。」
もう何も言えず、見送る鬼神。
そんな鬼神に。
「鬼神よ」月の女神が呼びかけた。「イリスの祈り、聞いたえ」
「・・・すまぬ。私がついておったのに。
万が一のときには、私を恨んでくれ・・・」
「イリスから聞いたのえ」
「は?」
「うわごとみたいな祈りやったが、生きてはおるらしいえ」
「なんと」
「ボロカスに罵りたい(ののしりたい)ところやが、戦のさなかに問責(もんせき)はできぬ。
──ゆえに、話を変えるが」
「う、うむ」
「そなたに、ルーンを、教えておきたい」
「・・・なんじゃ。こんなときに」
「とうとうこうなってしもうた以上、やることは済ましておきたいのえ」
「不吉なことを」
「ええから」
「ルーンと言われてものう・・・神竜には、封じられてしまうぞ。
いんぺ──おっと。いやつまり、いつものアレなら、いらんぞ。
私には使いこなせそうにないし・・・逃げるつもりも隠れるつもりもない」
「戦いのルーンではないのえ。
戦後に、そなたを守るルーン」
「戦後だと?」
「そなたは、力強く、からだ強き神。
この戦いにおいても、死にはすまい。
そやに──それゆえに、見たくないものを、見ることになろう。
目にした光景、耳にした悲劇が、そなたを打ちのめすであろう。
そんなときのためのルーンやえ」
「心を守るルーンか?」
「身も心も軽くしてくれるルーンやえ」
「ほう。酒みたいだな」鬼神は笑った。「面白そうなルーンじゃ!」
「そなたなら、気に入ってくれると思うえ。最後には」
「さいごには?」
「ふふふ。
さ、教えよう。
『萎む(しぼむ)』のルーン。そなたは、自由に使うてよし」
ルーンを『教える』というのは、『あなたもルーンを使っていいですよ』ということである。
所有者は月の女神のまま。鬼神も『萎む』を自由に使えるようになる、っちゅうわけだ。
鬼神が相棒に『力』のルーンを使わせているのと、おんなじですね。
「ありがとう」鬼神は受け取る素振りをしてから、「・・・しぼむだと? 変な名前だのう」
「面白いルーンやえ」
「どんな効果があるのだ?」
「使うての、お楽しみ。ここぞのときまで、使いなえ?」
「うむ。しかし、色んなルーンを持っておるのう。私なんか、『力』しか持っておらんのに」
鬼神が言うと、月の女神は首をひねった。
「はて? そうかに?」
「うむ。そうなのだ。
だから、お返しといって、『力』のルーンしかない。それでかまわんか?」
「うれしいえ」
「では、『力』のルーンを、そなたに教えよう」
鬼神と月の女神は、目に見えず、手にも触れぬもの、やり取りする素振りをした。
「ありがとう。
早速、ダークエルフたちに、わざを公開しておこう。
『身体を強くする』のわざ。これがえええ!」
鬼神と月神、ルーンを交換す。
このときより、ダークエルフは力強い種族となった。その寿命も少し伸びたと、言われておる。
「気が早いな。というか、そんなわざもあったのか」
「そなた、いつも使うておるに」
「知らんぞ」
「無意識に使うておるのやろ」
「はあ。そう言えば、神竜にルーン封じられたとき、えらいしんどかったのう・・・」
「さて」
月の女神、ちょっと考える。
「そやに・・・『萎む』と『力』では、釣り合わぬ。
も少し、なにかを渡さねば、私の面子が・・・。
いまは手持ちの宝もない。よし、これを渡しておこう」
と。
鬼神に渡されたのは、銀の手鏡であった。
「む? これは、見たことがあるぞ」
「うむ」
「あの、初めて会うたとき」
「2回目!」
「ああ、うん。2回目に会うたとき。
三つ目になった私を見せるのに、貸してくれた手鏡だな?」
「正解」
それは、月の女神の銀の手鏡。
銀色の、小さい、まあるい鏡である。
鬼神には小さすぎ、お洒落すぎたが。
「それは、この世で私しか持っておらぬ手鏡」
「なんと! そんな貴重なものか」
「うむ。それを見せれば、そなたが私の身内ということ、一目瞭然(いちもくりょうぜん)」
「そなたの身内の証明! なるほど、大した宝じゃ!」
鬼神、物は持たんが、宝は大好きである。
単純に、よろこんだ。
「もし私の姉上に会うことあらば、それを表向けて見せよ」
「おもて向けて?」
「うむ。鏡の面を、さっと、見せてやるがよい」
「はあ。なんかそんな合図があるわけだな?」
「そういうわけやえ」
月の女神はニヤリと笑うた。
「姉上は気難しい御方。格式にこだわる御方でもある。
そなたのごとき、無手(むて)なる男とは、相性悪し。
あれこれ言い合うより、証拠を見せるがよし」
「わかった」
「さっと出すのえ? さっと」
「さっと、表向けてな。うむ。覚えておこう」
鬼神は月の手鏡を受け取って、ふところにしまった。
「うれしい。とうとうそなたと、ルーンを交換する仲となった」
「えらい喜んどるのう」
「うむ」月の女神、笑顔である。「私は、小さな神ではないゆえ。うかつにこのようなことはできぬ」
「・・・なるほど。なんというても、お月さんだものな」
「そなたと出会えて、良かったえ」
「おう」
鬼神、ちょっとひるむ。
なんか偶然出会うて、けんかしたら、お月さんだった──っちゅうのが、鬼神の印象である。
あんまり嬉しそうにされると、ちょっと、悪い気がしてくる。
「・・・なにえ?」月の女神、機嫌こわれた。
「あ、いや、思い出しとったのだ。最初はけんかしたのになあと」
「ふん」
「こんな素敵な女神さまにパンチが当たったりせんで、本当に良かったなあと」
「ふん」
「その、なんじゃ。私もだな。そなたに会えて良かったと、思うておる」
「最初からそう言いなえ」
「いやそれはその・・・。
ええい! やめんか!
私は、繊細なことは苦手なのだ。わかっとるくせに」
「ふん」
鬼神とお月さん。
周囲の魔術師がちょっと居場所に困るような会話、終わる。
そして、このときをもって。
妙雅を旗艦とする、人類混成軍は──
≪ただいまより、全力攻撃を開始する。
全台、移動を開始せよ・・・≫
──神竜との、最後の戦闘に、入ったのである。
◆ 36、鬼神、みやぶる ◆
妙雅、前進する。
風、激しくなる。
上空の攻撃隊、妙雅よりさらに先行し、進んでゆく。
先頭は、鬼神の相棒・ガンメタ鬼神台。
その陣形は、『→』のごとし。図にするならば──
□□□□□□□□□伍
コボルドコボルドコボルド壱□ガ
□□□□□□□□□肆
──こうである!(『ガ』はガンメタ鬼神台、□はなんもないとこです。)
この上空に、攻撃隊長・武鬼の弐号。そして替え馬の陸号である。
神竜は当然、この動きに気付いた。
そして。
マグマの口を、うっすらと開いた。
笑ったのである。
鬼神はそれを見て、ぞっとした。
「やはり!」
「どないしたのえ?」とお月さん。
「神竜め、何かたくらんでおるのだ。ああして渦巻いて、つばさへびを下げて・・・」
「渦巻いておるのではないかに?」
「・・・いやだから、渦を巻いてだな、なにかをたくらんで」
鬼神。
お月さんの顔を見た。
「渦」
「うむ。渦」とお月さん。
「・・・風の渦?」
「台風とも言う」
「たいふうだと?」
「月から遠見(とおみ)したらば、渦が見えるのえ。そなたも見たことあるはず」
「それじゃあ!」
鬼神、飛び上がる。
「妙雅! 指揮官につなげ! 上申じゃ!」
<はい? いま忙しいのですが・・・はい、つなぎました>
「鬼神じゃ!
神竜の奴──台風を、この空に、造り出すつもりだぞ!」
<なんと?>
とボナス閣下の声がした、その直後。
「気が・・・付いたか・・・」
と、空に轟く声がした。
マグマの口から轟く声である。
ぐーるぐーると、鬼神たち全員を取り囲んで飛ぶ、巨大な頭からの声である。
神竜の声であった。
輪を描いて飛んでおるため、その声は、とても不可思議な聞こえ方をした。
「だが・・・もう遅い・・・」
そして。
神竜も、最後の手札を切ったのであった。
「『災い(わざわい)』のルーン!
嵐よ、渦巻け。
雨よ、押し流せ。
隕石よ! 人間どもを、打ち砕け!」
びりびりびりびり。
轟く声が、鬼神たちの鼓膜(こまく)を叩く。
神竜。
ぐるぐると回転する大空の輪を、狭めてきた。
何里も離れたところを回っておったのを、急速に小回りに切り替えて来たんである。
猛然と近付いてくる、神竜の巨体!
「また、縄とびをさせる気か?」
鬼神。
そう言うてから、首を振った。
「いや、『同じ手は喰わぬ』といったところだろうな。
そうだろうのう・・・。
くそっ! 気付くのが、遅すぎたわ!」
神竜の、左側に。
風の、壁。
渦巻く暴風の壁が、できあがっておる!
そはまさに、大渦なり!
偉大なり、災いの竜!
卑小なり、人類!
妙雅と攻撃部隊! 深い渦に落ちた、小魚のごとし! あり地獄に落ちた、ありんこのごとし!
猛烈なる暴風の渦に囲まれてしもうた!
迫ってくる神竜を、『飛び越す』選択肢が、封じられたのである!
「風は『三角州の受け』でなんとかするとしても・・・
体当たりは、どうにもできんぞ!」
焦る鬼神。
その腕を、月の女神が叩いた。「鬼神よ」
「なんじゃ?」
「私はここを離れねばならぬ。
姿を消すが、慌てたりする必要はない。
万が一のときには、ルシーナに私を呼ばせよ」
「なんと? どこへゆく? 呼ぶだと?」
「隕石を、受け止める」
月の女神はそう言うと、妙雅の甲板(会話のできるあたり)を見た。
「空飛ぶ女王よ。司令官にお伝え願いたい。
月は、隕石を止めにゆく。そなたらの勝利を信じておると」
<了解、女神さま。勝ちます>
「鬼神よ、」月の女神は浮かび上がり、鬼神にキスをした。「いつか、また」
「お月?」
何やら不穏な気配を感じた鬼神。
月の女神に手を伸ばすが、その手は彼女に触れられぬ。
月光に手を差し出すがごとし。むなしくすり抜け、なんの手応えも返っては来なんだ。
月の女神。淡く輝いて、透き通り、消える。
「お月」
鬼神の声。
轟く神竜の声に、打ち砕かれた。
「死ね」
声が近い!
振り向けば、神竜の顔はもう、目と鼻の先!
そのウロコの1枚1枚がわかるほど──ほんの1里(約3.9km)ほどにまで、近付いておった!
左には猛烈なる暴風が渦巻く! 右には前足が待ち構えておる!
逃げ場、なし!
それは、最後の格闘の、始まりであった!
◆ 37、最後のかくとう ◆
神竜のターン!
「死ね。人間どもよ。死に絶えよ!」
神竜が叫ぶ。
神竜の叫び! すべてを粉砕する衝撃波! 1里を割った近距離から!
ぶわっさぶわっさ!
ガンメタ鬼神台が声を上げ、前に出る。
『力』のルーン、奥義、『三角州の受け』!
どっ・・・・・・・・・があああん!!!
衝撃波相殺! 全軍を守った!
「邪魔だ。どけ」
神竜、さらに、右足を振るう。
『天』のルーンでもって、『力』のルーンをも相殺する、無敵のパンチ!
どん!
ガンメタ鬼神台、空気を叩く音立てて、急加速。神竜の前足を回避!
「ぬう・・・!」
神竜、悔しがる。
「わけのわからぬ、空飛ぶものよ。
おまえも、『力』のルーンを使うのであったな・・・」
人類、ノーダメである。
攻撃隊のターン!
「──いまじゃあ!」
甲冑の鬼、武鬼、叫ぶ。
「列電魔弾(れつでんまだん)、撃てい!」
ぶわっさ!
答えたのは、空飛ぶ台・壱号。
背中に装備した、はしごのごとき長い棒、2本。その、まっすぐ伸びた平行な線路(レール)に・・・
どっがあああん!!!
爆炎走らせ、なにか猛烈な速度のものを、撃ち放った!
神竜が起こす衝撃波とそっくりの、小さな衝撃波を起こして──その、超高速の弾が──
神竜の右目に、直撃! その巨大なガラスのごとき眼を、突き破った!
「ぬ、が、あ、あ、あ、あ、!!?」
神竜、ものすごいうめき声。
右目を閉じ、口からマグマのよだれをこぼす。
「お・・・のれ・・・!」
怒り狂う神竜!
その右目から、火のごとく輝くオレンジの体液が噴きこぼれる!
血か? 炎か? いや、そのいずれでもない! 魔術の力帯びた、オレンジに輝く溶鉱!
「やったぞ!」武鬼が怒鳴った。「奴の右目、もらったぞ!」
神竜、右目の視力喪失である。
エスロ班のターン!
「なにえ、あれは」
ルシーナつぶやく。
オレンジに輝く液体金属を見て。
「ヒイロガネ──と、ハイエルフは呼んでおりまする」
エスロ博士が応えた。
流れ出た金属は冷え固まり、オレンジに輝く鉱玉となって、眼下へ落ちてゆく。
「グレ姉のごとき色・・・」
「はい。
天の御剣(みつるぎ)“グレイス”さまは、純なるヒイロガネの剣身を持つ。
あの金(かね)打てるは、地に1人、天にひと柱──御二方をおいて、他になし」
エスロ博士。
戦士の笑いを浮かべた。
「そして、ヒイロガネの血、流るるは!
神竜の神経を、捉えた証!」
そして、付き従うコボルドどもに指示を飛ばした。
「いま、神竜は、右目が見えぬ!
この機会、逃すべからず!
──エスロ班、突撃!」
「おう!」「わんわんわん!」
エスロ博士とルシーナの乗る、エスロ台。そしてコボルドの8台。
神竜の首の上あたりを飛び越して、傷口へ向かう。
だがそこは、暴風の真っ只中!
いきなり猛烈な向かい風に飛び込む形となる!
「師匠! いま!」エスロ博士叫ぶ!
<おう>
ボナス閣下の声が応える!
<『風』のルーン! 『無風』! 嵐よ和らげ(やわらげ)!
大空渡るそなたの恩恵、地を這う我らに授けたまえ!>
すると。
暴風が、勢いを失った!
向かい風がゆるみ、エスロ班を叩きのめすがごとき風圧が、弱まった!
だが、風は、相剋する(そうこくする)!
吹き止むか? 吹き荒れるか? それが定まらぬといった様子で、二手に分かれて争い始める!
妙雅のそばでは、吹き止んだ!
神竜のそばでは、吹き荒れた!
<すまぬ。完全には消せなんだ。
敵は、ルーンと神竜の図体の、合わせわざゆえに>
「十分ですえ!」
エスロ班、神竜の傷口に接近である。
妙雅のターン!
まだ距離がある。やることなし!
「くそっ! 見とるだけか!」鬼神。悔しがる。「せめてなんか、投げるものでもあれば・・・」
すると。
クリスタル博士が、おずおずと手を上げた。
「・・・造りましょうか?」
「造る?」
「うむ。やってみなされ」フォーム隊長が指示を出す。「まずは試しに、1体」
「土石で?」とクリスタル博士。
「土石で」とフォーム隊長。
「了解」
クリスタル博士、詠唱を始める。
「土くれ、石くれ、生命くれ、いまぞこの世に立身せよ──『土石立身(どせきりっしん)』!」
ずごごごご。
土石人形、2体、この世に立身である!
「1人どうぞ」
「おお、ありがとう。ではもらおう」
鬼神は土石人形に近づいて、
「『力』のルーン! よいしょ」
体重だけなら自分以上になろうかという、土石人形を持ち上げた。
巨人on巨人である。鬼神の上になった土石人形の肩(土石人形に頭はない)、妙雅の高い高い骨組アーチの天井にぶつかりそう。
「うわあ」クリスタル博士、尻もち。「あなや。恐ろし」
「心配するな。落としはせんわ」
鬼神たち、手投げ人形を用意して、ターンエンド!
ふたたび、神竜のターン!
神竜! インチキじみた連続行動!
「『天』のルーン。私は、右目の傷を上回る」
ルーンでもって、傷の回復をスタート!
そして! 詠唱!
「目障り(めざわり)な。邪魔な。不快な雑魚どもめ。
死ね。死ね。溶け崩れよ。『この世の始まりの火』!」
マグマの口を開いて──
「散れ! 散れ!」武鬼が怒鳴る。「上下左右に散開!」
──神竜は、吠えた。
その雄大な身体の腹の底から、猛烈な咆哮を、放った。
衝撃波。
口の中に貯まっておるマグマが、噴出した。
──この世のどんな火山よりも恐ろしい、猛烈なる噴火となって。
ガンメタ鬼神台。武鬼の前に駆けつけて『三角州の受け』! しかし全部は防げぬ! マグマは一体ではないゆえに、離れたものは弾くことができぬ!
攻撃隊! 四方八方に逃げまどう!
──だが! 逃げ切れぬ!
高速の溶岩弾に、砕かれる! カーテンのごときマグマに、呑み込まれる!
攻撃範囲を出れなんだ10台あまりが、戦死した。
神竜、なおも行動!
「止まったな? つばさへび召喚」
つばさへび、突如、出現!
ガンメタ鬼神台のボディに触れるほどの、至近距離!
ぶわっさ!?
ガンメタ鬼神台、絡まれてしもうた!
「死ね」
神竜、右足を振り上げる。
ガンメタ鬼神台は。つばさへびを振りほどけず。
『力』のルーンを無効化された状態で。
突っ込んだ。
武鬼から少しでも離れようと、神竜の右手の内側へ、突っ込んだ。
きりもみ飛行して、つばさへびを振り落とそうとする。
だが今回は神竜も必死であった。ガンメタ鬼神台のボディに噛み付き、ぎりぎり締め上げ、なりふり構わずしがみつき、『力』のルーンを封印する。散弾砲には近付かず、本来なら鬼神が乗る場所に入り込んで、ガンメタ鬼神台の振り落としに抵抗する。
振りほどけぬ──
そして、神竜の右手を避けることもできぬ──
ガンメタ鬼神台は、それでもなお、粘った。
ボディをギシギシ軋ませながら急転回し、上昇。神竜の右足に、突っ込んだ。
交差!
つばさへびの身体がちぎれる!
ガンメタリックのボディが、弾け飛ぶ!
「鬼神台!」武鬼が叫ぶ。
「相棒!」妙雅の甲板で、鬼神も叫ぶ。
ぶわっさぁ!
鬼神の声に応えるように、ガンメタリックの──ボディが半ば剥がれた鬼神台が、ぱっと夜空に舞い上がった。
なんと!
鬼神台!
神竜の右手の、1本だけ爪のない指! そこを狙って、すり抜けてみせた!
しかも、完全に避けるのではなく! わざとかすって、つばさへびだけ、殺させた!
なんたる機転! なんたる度胸!
なんたる勇士!
まさに、鬼神のお伴にふさわしい!
攻撃隊のターン!
「つばさへび召喚。つばさへび召喚」
次々に召喚されるつばさへびをすり抜け、踊るがごとくに夜空を舞い──
ガンメタ鬼神台は、神竜の左目の前に、跳ね上がった!
そのまま、左目に突っ込む!
「ぬ、う、う!」
神竜、避けんとす!
どん! ガンメタ鬼神台、『力』のルーンで加速! 神竜を逃がさぬ!
左目に最接近! 衝突──の、まさにその、直前!
どっがあああん!!!
ド!!! パァァァン・・・!
2つの砲声が、夜空に響いた!
壱号の『列電魔弾』! 神竜の左目に突き刺さる!
ガンメタ鬼神台の散弾砲! 列電魔弾の開けた穴に、すかさず命中!
──壱号とガンメタ鬼神台。空飛ぶ兄弟! 高速通信で、この攻撃を示し合わせたんである!
ガラス玉、ひび割れ、飛び散る! その飛び散った破片のひとつひとつが、ガンメタ鬼神台なみのサイズ!
その破片に、ガンメタ鬼神台、体当たり!
ぶわっさ!!! 『力』のルーンで、弾き返す!
神竜自身の眼球の破片が、神竜の目玉に突き刺さった!
「ぐ、わ、あ、あ、あ、!、!
お、お、お、お、お、お、!、!、!」
・・・だが。
噴き出す『ヒイロガネ』の奔流を、ガンメタ鬼神台は避けることができなんだ。
◆ 38、相棒、しす ◆
オレンジの溶鉱。まともに、浴びてしまう。ボディが溶ける。骨が溶ける。空飛ぶ台の生命である呪文版も、溶け崩れる。
『力』のルーンで引き返す・・・ことはできなんだ。なんでといって、ヒイロガネには、まだ『天』のルーンの効果が及んでおったからである。目玉の破片とはちがい、ヒイロガネは、噴き出した直後にはまだ、神竜の一部だったのだ。
それに、ガンメタ鬼神台は、引き返そうともしておらなんだ。なんでといって、ヒイロガネの飛沫が、散弾砲の砲弾にも降りかかっておったからである。
進むも爆死。引くも爆死。どうせなら、奴の体内がよかろう。
──ガンメタ鬼神台は、妙雅にそのように通信をしたという。
神竜の左目、内部で、恐ろしい爆発が起こった。
ヒイロガネが燃え上がる雪のごとく、オレンジの吹雪のごとく、夜空をパッと照らし出した。
その輝きの中に、ごくわずかに、ガンメタリックのボディの破片が見えた。
神竜、左目の視力喪失。
攻撃隊のコボルド台、半数戦死。
鬼神台、戦死。
神竜の左目と引き換えに。
鬼神の相棒、死す。
妙雅のターン。
「う、う、う・・・。痛い。目が痛い。頭が痛い。
『天』のルーン! 私は、左目の傷も、上回る!
ぬ、う、う・・・! よくも。よくも」
「『よくも』。それは、こっちのセリフじゃ」
鬼神は静かに言い返した。
「よくも、我が相棒を。
神竜。私は許さんぞ。おまえを。
おまえはこの鬼神を、生まれて以来、もっとも怒らせたのだ」
土石人形を構えた鬼神。
その隣で、うなずくクリスタル博士。
「人形、投げ!」合図出す、フォーム隊長。
鬼神。
「ゆけい、土石人形! 相棒の仇を取ってくれ!
『力』のルーン! 復讐の土石人形投げ!」
頭上に構えた土石人形を、ブン投げた。
ごおお!
土石人形、ブン投げられた姿勢のまま、空を飛ぶ!
それは弓矢の弾道よりも、遥かに真っ直ぐな──あの『弩砲』のごとく真っ直ぐな、恐るべき弾道であった!
飛んでゆく土石人形。衝撃波をともない、みずから崩壊してゆく!
だが不壊(ふえ)を誇る魔術人形! 崩れても崩れても、飛び続ける!
神竜。目が見えぬ。飛来する土石人形を、回避することができぬ。
がっ・・・・・・・・・ごおおぉぉぉ・・・・・・ん!!!
すでに傷ついておる右目に、土石人形がヒット!
ごわああああん・・・!
神竜の頭に衝撃走る。ヒイロガネが噴き出し、燃える吹雪となる。
土石人形、もちろん跡形もなし──と、思いきや! なんと! いまだ、原型保っておる!
神竜の右目にめり込んで、ヒイロガネに溶かされながら、その場にしがみついておる!
不壊なり! 土石人形!
たったひとつの手段をもってする以外、その活動を止めることはできぬ!
その手段とは?
「役目を遂げよ、我が人形。そなたの献身、忘れはせぬ」
クリスタル博士、詠唱する。
「いかに離れて居ろうとも、我らはひとつの軍団なり。
聞こえるはずやえ、私の声が! 『鬨(とき)』!
我が命によって死ね! 『軍団爆破』!」
──その、たったひとつの手段。
呪文による、爆発命令をもって、土石人形は活動を終えた。
大爆発。
「土石人形、よくやってくれた」
鬼神は静かに言うた。
「相棒よ。見事であった。おまえはこの鬼神の、一生の相棒じゃ」
神竜の右目、ダメージ追加である。
◆ 39、ドラゴンキラー、せいこうす ◆
エスロ班のターン!
「突入!」
「突入でござる!」「わんわんわん!」コボルドどもも、急降下。
一丸となって、神竜の左脇の傷口へ殺到する。
『風』のルーンによって抑えられた暴風。左右の視力を失った神竜。
──エスロ班を阻むものは、なかった。
「妙雅、第二段階、『接続』の鍵を、エス子に」
<はい。送ります──送りました>
「エス子、詠唱始めるえ!」
ぶわっさ。
神竜の傷口へ突進しながら。2人は同時に詠唱を始めた。
ルシーナが『祈願』して招集したマナを、すべて使い果たして。
エス子(エスロ台)の声は聞こえぬ。聞こえるのは博士の声だけである。
「『闇』のルーン。『暗がりに隠す』。
我らの呪文を、神竜の眼(まなこ)から隠せ・・・。
──これで決着え、神竜よ。
目に見えぬ、手にも触れぬところより、来れ(きたれ)、敵なる血の呪い。
流れるこの血に忍び込め。ふさがる傷口に入り込め。呪いに穢れた、敵なる血よ。──『感染』」
神竜は、『感染』した。
目に見えぬ、手にも触れぬところで暴走する、『敵なる血の呪い』に、『接続』された。
それで、どうなるのか?
これより先、神竜の体内で新たに造られる血肉は、すべて呪いに被曝する。
神竜は、自分の血肉に攻撃されるようになるのである。
誤って被曝した妙雅が、自己分裂に悩まされたように、である。
神竜が、あらゆるものを上回るというならば。
自分で自分を攻撃させればよい。
──これが、エスロ博士の秘密の研究であった。
『敵なる血の型枠』は、暗き呪いの型枠であった。
空飛ぶ台を生み出した『御霊の型枠』が、明るい希望の型枠なのとは、対照的に。
「成功なり」
エスロ博士が宣言した。
「艦橋。こちらエスロ。
第二段階は成功。
『ドラゴンキラー』、成功す」
<よろしい。妙雅に戻り、ルシーナさまを降ろし、防空に参加せよ>
ボナス閣下の声が応えた。
<神竜、つばさへびを連続召喚中。いまだ苦戦は必至なり>
「了解」
エスロ博士は汗を拭い、班のメンバーに命令した。
「妙雅に戻り、防空をする。あとは、この防衛戦を残すのみやえ」
「了解!」
元気よく応えたコボルドとは、対照的に。
ルシーナは、座席に、崩れ落ちた。「きしにぃ・・・」
「よくこらえられました。ルシーナさま。
妙雅に戻るまで、座っていなされ」
エスロ博士。
そのように言うてから、口の中でつぶやいた。
「英霊(えいれい)を弔える(とむらえる)日が、来れば良いのやが。
はてさて、神竜は、どこへ堕ちるやら」