◆ 40、ルシーナ、もどる ◆
≪こちら艦橋・・・。全乗組員に告ぐ・・・。
全員、妙雅艦内に入れ・・・。
我々は、神竜を・・・誘導するため・・・暴風の中を、飛ぶ・・・。
くり返す。全員、妙雅艦内に入れ・・・≫
空飛ぶ台どもが、妙雅へもどってくる。
8つの補助塔の甲板へ。また、塔の下部に口を開いたハッチへ。
そして、鬼神の立つ中央塔の甲板へ。
鬼神。飛び込んで来る台どもの邪魔にならんよう、膝をついて待つ。鬼神のそばには、ハイエルフの空飛ぶ魔術兵、フォーム隊長らも同様に片膝つけて姿勢を低くしておる。
空。
暗黒の空。
迫り来るは、恐ろしい山脈の影。
鬼神は、母親である『暗き霊峰の女神』を思い出した。母も巨体であったが、そんな母を視界いっぱいにずらっと並べ、空飛ばせ、うねうね踊らせ、雷の衣を纏わせ(まとわせ)、恨みの吠え声を轟かせれば──ちょうど、いまの空のような光景になるであろうか?
「おのれ。おのれ。殺す。殺す。
鬼神は殺す。人間は殺す。
つばさへび召喚。つばさへび召喚。つばさへび召喚・・・」
神竜は、まだ死んでおらぬ。
──いや、死なせるという作戦ではないのだ。死ねば蘇ってくるのだから。
≪神竜は・・・堕ちる・・・。
だが・・・、アルフェロンに落とすわけには・・・、ゆかぬ・・・!
海へ・・・、誘導せねばならぬ・・・!
我らの・・・同胞の未来を・・・、守らねばならぬ・・・!≫
そう。
妙雅を旗艦とする人類混成軍の、現在の目標。
神竜を海に落とし、少しでも被害を抑える──そのためには、一目散に逃げるわけにはゆかぬのであった。
神竜を振り切るのではなく、誘導せねばならぬ。
そのことはつまり、神竜の攻撃範囲から完全に逃れることはできぬ、ということでもあった。
「殺す。つばさへび召喚。
殺す。つばさへび召喚。
殺す。つばさへび召喚・・・」
傷ついた両眼からオレンジに燃える涙をこぼし、マグマの口から熱きよだれを垂らし、神竜は分霊をくり出してくる。
さらに頭をもたげ、衝撃波をもたらす咆哮を放とうとする!
「列電魔弾、撃て!」
武鬼(ぶっきー)が命じた。
空飛ぶ赤いかぶとがに・壱号が『列電魔弾(れつでんまだん)』をぶっ放す。
パッ! 夜空に白い稲妻が走る。
どっがあああん! ・・・がああん・・・・・・ああん・・・・・・・・・。
こだまする砲音に、神竜の苦悶の声が混じった。
神竜の右眼から、また、燃えるヒイロガネがほとばしる。
壱号に、武鬼に、神竜の怒りが集中する。
つばさへび、殺到!
壱号、装填しつつ下がる。だが、砲が重いのか? 速度が兄弟より遅い。追いつかれる。
「散弾、撃て!」
壱号を護衛する肆・伍号兄弟が、散弾砲をぶっ放した。つばさへびが無惨に砕けて、死んでゆく。
ドドッ! パァァァン・・・ァァン・・・・・・。
「ぐ、う、う、う、う・・・!」
妙雅へ下がりつつ、迎撃を続ける攻撃隊。
この間に、妙雅にはエスロ班の空飛ぶ台どもが着艦した。
鬼神の前にも、クリーム色の空飛ぶ台が滑り込んで、止まる。
「ルシーナ!」
鬼神は、エスロ台ごと抱える勢いで、愛娘を抱いた。
「ようやった! 博士も、エス子もじゃ」
「はい」
博士うなずく。
ぶわっさ。エスロ台も、静かに応える。
ルシーナは、ふらついた。鬼神の腕の中で倒れそうになる。
輝くばかりの美貌が、いまは冷たく濡れて、震えておる。
「きしにぃの・・・おかげですえ」
「うむ」
鬼神はルシーナを抱き締めた。
エスロ博士たちは点呼をし、鬼神に黙礼。補助塔のほうへ飛び去った。補助塔の防衛に当たるようである。
「私も・・・中に入らねばなりませぬ」
ルシーナ。
ふらふらと昇降台に乗る。
「・・・あ、そうじゃ。母上から伝言じゃ」
「はい」ルシーナ振り向く。ふらつく。
鬼神、そんな娘を支えつつ、「『万が一のときには、ルシーナに私を呼ばせよ』。以上じゃ」
「はい?」
「母上はな。神竜が、しんせきとか言うのを呼んだので、消えたのだ」
<隕石です>
と、妙雅の声。いつの間にやら建築ユニット、鬼神の足元に。
<女神さまは、隕石を受け止めに行くと仰せになられ、姿を消されました>
「・・・ああ。わかりました。心得ましたえ」
ルシーナ、わかったようである。
「娘よ・・・」
鬼神。にわかに不安になる。
義父上を失い、相棒を失った。イリスが落ち、勇敢なコボルド兵も次々に散っておる。
ルシーナの、輝きの褪せた(あせた)美貌を見て、鬼神はとても不安になったのだ。
「はいッくしゅん!」ルシーナ、くしゃみ。「くちゅ! くしゃん!」
<まもなく暴風に突入します。人間は、私の中へ!>
≪くり返す。全員、妙雅艦内に入れ・・・≫
「くそ」鬼神は首を振った。「気をつけてな。ああそうだ、それと、これ!」
「まだ何か?」
「この剣、おまえが預かってくれ」
鬼神はオレンジの剣をルシーナに渡した。
「なにえ、この剣。グレ姉に似ておる」
「亡き英雄の剣じゃ。神竜の体内で見つけた。
グレイスさまにあやかり、『優雅』との仮名にした。おまえに預けよう」
「はっくしょ! うう。わかりました。
この剣も、ヒイロガネ製ですかに?」
「ひいろがね?」
<神竜の体液です>と妙雅。<神竜の身体を離れると、金属となる。極めて優れた刀剣の材料になります>
「グレイスの姉者も、ヒイロガネ製らしいですえ」
「なんと」
「妙雅、かっ・・・くしゃん! カバリオ隊長は?」
<補助塔、砲室です。健在>
ルシーナの脇を、傷を負ったコボルドどもがヨタヨタ走り抜ける。黙って昇降台に並ぶ。
ここから降りたところ、妙雅中央昇降口基部に、ハナ司祭らがマナを集めて待機しておる。そこまでたどり着けば、たいていの怪我人は助かるのだ。
<下へ参ります>
「カバリオ隊長・・・あの、ダークエルフの隊長だな? イリスと仲がええとかという」
「仲は大したことなし」
ルシーナ笑う。
それで、ちょっと元気になったらしい。しゃきっとして、降りてゆく昇降台に飛び乗った。
「では!」ぴしっと敬礼。姿を消す。
鬼神はその姿を見送った。
そして。
「神竜の体液の剣か・・・」ふと、つぶやく。「うむむ? もしかして、あの剣が神竜によく効いたのは──」
そのとき!
妙雅が、警報を叫んだ。
<──神竜、咆哮!!>
◆ 41、兄弟、ちる ◆
「む!」
鬼神。
妙雅の叫びに、即応。振り向く時間も惜しいとばかり、神竜に背向けたまま、妙雅の甲板に手を当て、
「『三角州の受け』! 妙雅を守れ!」
音が消えた。
衝撃波。
鬼神の受け。妙雅はノーダメージ。
攻撃隊も、それぞれ『力』のルーンのわざ、『向きを変える』で受ける。
だが何台か、衝撃波を受けれず、木っ端微塵となった。
ほとんどは直前につばさへびに絡まれて『力』のルーンが封じられたコボルド台であったが──
かぶとがに型の大型台も、2台、被害に含まれておった。
壱号。国王陛下専用機。この戦いでは、列電魔弾の担当。
暗黒の空走る稲妻、神竜の口に突き刺さした。
攻撃が、ぴったり同時だったのだ──そのせいで、受けができなんだ。
衝撃波を浴びた壱号。木っ端微塵に砕け散り、コボルド台の残骸に混じって、落ちる。
弐号。攻撃隊長・武鬼専用機。
白いつばさへびと格闘しておるところに、衝撃波を浴びた。
神竜は、自分の両眼が見えんでも、つばさへびの眼でもって、戦場を見ておったようである。誰が攻撃隊のリーダーなのか、把握しておったらしいんである・・・。
壱号弐号兄弟、散る。
これで、鬼神台・壱号・弐号の3兄弟、全員が戦死となった。
「ぶっきー!!!」
鬼神は、息子の名を叫ぶ。
弐号に乗っておった、武鬼と随伴のコボルド兵、パッと空に飛ぶのが、見えたのだ。
<騒ぐんじゃないわ、父上!>
「なにっ!?」
<あの甲冑は、わしが造った! 衝撃波の一発や二発、耐えて見せるわい!>
「本当か、機鬼(きき)!」
鬼神そっち見る。
昇降台が上がって来る。
そこに、威風堂々たる巨体あり!
オレンジ色した六腕串団子ロボ! 不細工なる巨体、昇降台にあり!
◆ 42、六腕ロボふたたび ◆
オレンジの金属でできた、大型の人形。
ものすごい不細工な四角いツラに、ひとつしかない目。
その胴体、大きな岩を三つ積んだがごとし。串に刺した団子のごとし。
お団子胴体ひとつひとつに、ごっついオレンジの腕2本! それぞれ、筒を手に持って。
合わせて6本、六腕ロボ! ふたたび中央甲板に立つの巻!
「本当に・・・大丈夫なのか?」
<たぶん大丈夫じゃ!>と機鬼。
<陸にぃ(りくにぃ)が行きます>と妙雅。
衝撃波を受け切った、かぶとがに・陸号が、落ちてゆく武鬼とコボルドを追いかけて、眼下へ消えてった。
「そ、そうか!」
鬼神、冷や汗拭う。
「・・・だが機鬼よ。おまえ、なんでまた上がって来たのだ」
<なんじゃ! その嫌そうな口ぶりは!
わしゃ、ちゃあんと考えて来たんじゃぞ!
見よ! 六腕はれつだまの筒!>
六腕ロボ。
全部の手に持った筒かざす。
コボルド兵が使っとる、はれつだまの筒であった。
<こいつで、つばさへびをぶっ飛ばしてやるんじゃ!>
「振り回すな。あぶない」鬼神、嫌そうな顔する。「おまえ、戦いは苦手だのにから、まったく・・・」
衝撃波を生き残った最後の空飛ぶ台が着艦してきた。
何十台も居った空飛ぶ台、コボルドどもが、10台あまりにまで減っておる。
壱号・弐号も失い、陸号も戦線離脱、攻撃隊長・武鬼は生死不明──惨憺たる(さんたんたる)ありさまである。
コボルドども、空に混じり始めたみぞれに濡れ、ぶるぶる震え、耳垂らしておる。
「・・・よくやった! コボルドどもよ!」
鬼神は、怒鳴った。
コボルド兵、「え?」っちゅう感じで、顔上げる。
「ここは、この鬼神と息子に任せておけい!
もうひと踏ん張りじゃ! 勝利は、近いぞ!」
「・・・わ、わん!」「わんわん!」「鬼神さま!」「ひと踏ん張りでござる!」
コボルドども、疲労にしわがれた声で叫び出した。
その小さな身体に並んで、ハイエルフの魔術兵たちも、昇降台に乗る。
「鬼神さま。我々もここまで! 甲板、お任せいたしまする」
フォーム隊長が、鬼神に引き継ぎをする。
「うむ! こんなときの鬼神じゃ。任せよ! 妙雅を頼む」
「は!」
<下へ参ります>
<やれやれ。さすが父上じゃ! 士気アップじゃ>
機鬼はそんなことを言うが、声は震えておる。
「うむ・・・」
<仇討ちじゃ! ええい、くそっ! くくく来るなら、は、早う来んか!>
鬼神。
暗黒の空を見る。
その顔を、みぞれ、ひょう、雪が、叩く。妙雅が暴風に突入したのだ。
「ちっ。しょうがない。やるぞ、息子よ」
<舌打ちをやめよ!>
鬼神と、機鬼の六腕ロボ(と、建築ユニット)。
氷嵐の中、押し寄せるつばさへびに、囲まれた。
そこで、妙雅のアナウンス。
<飛行台、出ます!>
鬼神よりも先に、空飛ぶ台どもが迎撃を開始したのであった。
◆ 43、ぼうくうきょくせんろしゃげきゆにっと ◆
迫り来るつばさへびに、丸いものが体当たり!
コボルド台! コボルドどもが乗っておった、楕円形した小型空飛ぶ台! コボルドを乗せず、無人での体当たり攻撃!
そのおでこには、なんと! とさかのごとく、のこぎりがついておる!
<とさかカッターじゃ!>機鬼叫ぶ!
とさかカッター! つばさへびを、切り裂く!
周囲のつばさへび、首くねらせて台に群がる。台、包み込まれる。
「おい、やられるぞ」鬼神叫ぶ。
<大丈夫じゃ!>
2台目のコボルド台! 素早く駆けつけたかと思うと、空中でんぐり返り!
ぶおん! どがあ!
なんかようわからんが、つばさへびを、どついた(強打した)らしい! つばさへび、凹んで、死んだ!
「しっぽになんかついておる! むちか? やりか? いや、ひもか?」
<しっぽボウラじゃ!>
しっぽボウラ! しっぽの先に装着された、3本の鎖! そしてその先に、オレンジの金属玉!
でんぐり返りすると、まるで鬼神がぶん投げる岩のごとく、猛烈な打撃でもって、敵を撃つ!
横にグルグル回転すると、打撃の円盤となる! 広範囲攻撃! 仲間にも当たるが!
ボウラ! 本来は投げて絡める武器であるが! ここでは投げずに近接攻撃!
つばさへびはあきらめぬ。ぶちのめされながら、鎖にからみつく。押し寄せる。神竜も必死!
とさかカッター台、しっぽボウラ台、共に絡まれた!
「やられるぞ!」
<大丈夫じゃ!>
そこに駆けつけたは、肆号、伍号のかぶとがに兄弟!
どおん! どおん! ぼっふぁあああああああん!!!
<けむりだまじゃ!>
「なんと! ここに来て、あの、けむりだまか!」
<ただのけむりだまじゃないぞ。死のけむりだまじゃ!>
機鬼の言葉どおり!
それは、ただ目つぶしをし、喉痛めるだけの、いつものけむりだまではなかった。
つばさへび、のたうち回り、苦しみ、ぼろぼろと落ちてゆく!
「ぬう!」鬼神は厳しい顔をした。「あわれり、つばさへび!」
つばさへびはあきらめぬ。落ちる仲間には目もくれず、四方八方から妙雅を襲う。
補助塔の散弾砲が迎撃を開始した。八方から、どごごん、どおおんと、猛烈な砲撃音が轟く。
空飛ぶ台は押され始める。もう10台そこらしか生き残っておらんのだ。押し寄せるつばさへびを、全部落とすことはできぬ。
雪とみぞれが、空飛ぶ台とつばさへびに叩きつける。空飛ぶ台の表面が凍り始めた。つばさへびは──平気である。
<なんで平気なんじゃ! 奴ら!>氷の張った六腕ロボ、わめく。
「ルーンじゃないか?」氷の張った鬼神、平気でしゃべる。「『天』のルーンで、寒さを無効化しとるんだろう」
<いんちきじゃ!>
空飛ぶ台、たまらず逃げて来た。
妙雅の中央甲板を包む8本のアーチの骨組みをすり抜け、鬼神たちの後方へ逃げ込む。
つばさへび追って来る。が、速度は空飛ぶ台のほうが上。逃げ切る。
<私の出番じゃな!>と妙雅。<防空曲線路射撃ユニット、発進じゃあ!>
がああああ!
中央甲板を包む8本のアーチ骨組みに、散弾砲台が駆け上がる!
ぎーん、ぎーん! 正八角形した首めぐらせ、照準す!
<父の仇じゃ! 発砲!>
ズッドドドンッ!!!
つばさへびに近い3台のユニットが、一斉に左右の砲を放った!
暗黒の空に火を噴いて、つばさへびを打ち砕く!
「なんたる、死の戦場じゃ」
鬼神は首を振った。
「私はこの戦場、好きになれぬ」
<甘いこと言うとるんじゃないわ!>
六腕団子ロボ。はれつだまの筒かまえ、鬼神の前に立つ。
<やるかやられるかじゃ!
やられはせんぞ! 死んだ仲間のためにもじゃ! うおお!>
はれつだま、一斉砲撃。
弾は空へ飛び、それぞれつばさへびに当たって、そこで破裂。
ドドドッドドドッパパパパ・・・ァァン・・・!!! 広範囲のつばさへびを、粉々にした。
<装填じゃ!>
<了解!>
機鬼が筒下げる。建築ユニット、弾込め開始。足元の木の箱から、鉤爪で砲弾を取り出す。えらい器用にやりよると思うたら、砲弾に小さなみぞがついておる。鉤爪でも持てるように造られておる!
装填中は空飛ぶ台どもが前に出て、またドッグファイトを開始する。
「なるほど。よく鍛えておるわい」
鬼神は感心した。
──が。
いかんせん、空飛ぶ台が、減りすぎた。
つばさへびが、もれて来る。
白い粘液が、指の隙間から、もれて来るように。
迎撃をくぐり抜けたつばさへびが、鬼神に迫って来よる。
<父上、下がるんじゃ! 装填はすぐ済む!>
「いや。下がらぬ」
<ばかめ! 避けろ!
あいつにさわったら、ルーンが使えんのじゃろ!?>
「いや、避けぬ」
<どうする気じゃ!?>
「こうするのだ──」
鬼神。
三眼うっすら見開いて、なんの表情も浮かべることなく、迫るつばさへびのただなかに、立ち尽くした。
つばさへびが鬼神に触れる──瞬間。
六腕すべてが、ぱっと、伸びた。
「──無心の掴み取り」
鬼神の六腕は、きっちり6匹のつばさへびの喉元を、掴んでおった。
絞め殺す。だがそこに、息もつかせず、つばさへび。
「そしてこうするのだ。
『力』のルーン! へびよ、むちとなれ!」
鬼神。
唱えて、手を伸ばす。
六腕、六方に伸び、掴まれた6匹のつばさへび、音よりも速く、伸び──
ずばっしぃぃぃぃぃぃん!!!!!!
猛烈な音立てて、迫るつばさへび、一気に吹き飛ばした!
「名付けて、六腕へびのむち」
さらに鬼神。
6匹のつばさへびの死体を束ね、ギリギリとよじり合わせた。
「『力』のルーン。へびよ固まれ。凝縮(ぎょうしゅく)せよ」
ルーンの不思議なはたらきにより、ぎゅーーーっと縮まって、赤熱してゆく、へびの槍!
かまえる。
「そーれ、へびの槍!」
投げる。
雪とみぞれの嵐を突いて、かすむ神竜の顔面に、槍、突き刺さる。
神竜の大きさにくらべれば、つまようじほどもない槍である。うぶ毛ぐらいか。神竜には、うぶ毛はないが。
その槍が。
「ぬ、が、あ、あ・・・!」効いとる。
「やはりな」
<何かわかったんか、父上>
「『天』のルーンだがな。
自分を自分から守ることはできんのじゃないか?
それだから・・・甘いわ!」
鬼神。
背後から舞い降りてきたつばさへび、掴み取って、絞めた。
「・・・それだから、ヒイロガネの剣は、神竜の身体をよく裂く。
つばさへびも、神竜に刺さるっちゅうわけだ」
<あ、なるほど>と妙雅。<『私は私を上回る』では、循環(じゅんかん)命令になりますもんね>
「じゅんかん」鬼神わからん。
<ははあ>機鬼わかる。
「わかるのか、息子よ」
<要はアレじゃろ?
『この世のすべてを上回る』などと言い出すやつは、自分を上回ることはできんちゅうことじゃ>
「それじゃ! 私の言いたいことは!」鬼神、うなずく。「──というわけで、こうだ!」
鬼神は次々につばさへびを掴んでは絞め、掴んでは絞めて、また6匹のへびをぶら下げた。
「『力』のルーン! 凝縮せよ。
六腕、つばさのつるぎ!」
赤熱してぎゅーーーっと縮まるつばさへびの死体。細く長い、剣と槍の中間みたいな長剣となった。つばさであった部分、そのまま鍔(つば)として残っておる。たしかに、つばさの剣である。
「これでどうじゃ! そーれ、それ!」
鬼神。
この御方にはとても珍しいことに、剣を振るって戦った。
六腕の剣を次々に突き出し、迫るつばさへびを仕留めてゆく。
剣突き刺さり、抜けんようになっても、あわてない。
「『力』のルーン! 一緒くたになれ!」圧縮して、1振りの剣にしてしまう。
<むちゃくちゃじゃな。装填終わったぞ!>
「好きに撃てい!」
六腕ロボ、ぶっ放す。
撃ったあとは空飛ぶ台が出て、しばらく鬼神の負担を減らす。
「六腕神に、六腕人形! 空飛ぶ一族も加わって!
名付けて『十二腕防空陣』じゃ!」
中央甲板は、かくのごとく、鉄壁であった。
だが、それがゆえに、かえって。
補助塔の防衛は熾烈を極めることとなった。
神竜が、中央甲板ではなく、補助塔の破壊を始めたからである。
その手始めが、体当たりであった。
◆ 44、神竜、とつげきす ◆
「つばさへび召喚。つばさへび召喚・・・」
神竜。
分霊たるつばさへびを、際限なく生み出しつつ。
見えぬ眼を怒りに燃やして、妙雅目掛けて突っ込んで来た。
1回目。外れ。鬼神から見て左方向へそれてゆき、猛烈な乱流を巻き起こしただけ。乱流は鬼神が『三角州の受け』で防御。
2回目。真下から突き上げ。妙雅避けるが、しっぽがかすった。弐ノ塔に被害。散弾砲が2門もぎとられ、担当しておったコボルド兵1名が戦死、2名が重傷を負った。
≪弐ノ塔乗組員・・・、参ノ塔へ移動せよ・・・! 弐ノ塔は、放棄する・・・!≫
艦橋の配置命令が鳴り響く中。
3回目の体当たり。
妙雅の上空を取った神竜が、押しつぶすがごとく、落下してきた!
巨大すぎるボディ・プレス! これは、避けれんか!?
<緊急回避! 回転機動を行います!>
妙雅が叫ぶ。
<全乗組員、回転機動に備えよ!
3、2、1──回転機動、開始!>
ご、ご、ご、ぎ、ぎ、ぎ!
妙雅の艦体が軋みを上げて、猛然と、回り始めた。
「うおっ」鬼神よろめく。
<うわー!>六腕団子ロボ、こける。
甲板をゴロゴロ転げてゆく不細工ロボ。腕が甲板に当たり、跳ね上がり、ぽーんと弾んで空中へ。
「しっかりせんか! 息子よ!」
鬼神はつばさへびを拾って、しっぽを掴み、頭の方を投げた。
つばさへびの投げ縄! 六腕団子ロボの首に、絡みついた!
「『力』のルーン! 『向きを変える』! そーれ、戻って来い」
ぐい~~~んと、鬼神は手元にロボを巻き取る。
妙雅の回転はその間にも高速化。さらに、斜め下方向に猛烈な速度で移動! 最短距離で、神竜の身体の下から飛び出そうとする!
神竜、逃げる妙雅に、手を伸ばす!
爪で妙雅を叩──こうとしたが、手が、伸び切らぬ。
「手が・・・動かぬ・・・!
傷が・・・痛む・・・!
これは・・・なんだ・・・わからぬ・・・!」
「避けたか!」と鬼神。
<だめじゃ! つばさが!>
神竜、つばさを広げて、妙雅に打ち下ろして来る! これは、広範囲!
「うおお! これは、避けれん!!!」
さしもの鬼神も、破滅を覚悟した! そのとき!
<妙雅ァ! パージじゃ! 補助塔をパージせよ!>機鬼叫ぶ!
<その手が! 乗組員の退避──完了を確認! よし、弐ノ塔を切り離します!>
ずどがん!
中央甲板と補助塔を結ぶ通路のひとつが、爆発した!
弐ノ塔が──すっ飛んでゆく! 切り離されて!
「うおお!」
鬼神、六腕団子ロボ抱えて、伏せる!
暴風に巻かれた通路パーツがぶっ飛んできたため!
高速で乱れ飛ぶパネル、骨組み、ワイヤー、チェイン! 当たったら、鬼神だって痛い! 機鬼は死にかねん!
パーツはつばさへびをぶちのめし、妙雅自身をもむち打ちながら、一瞬で暗黒の空へ吹っ飛んでゆく!
<ぬああああ! 回避じゃあああ!>
弐ノ塔を切り離したその瞬間、妙雅がスピードアップ! だが姿勢乱れる! 回転軸がおかしくなる!
鬼神は補助したいが、できん! 妙雅のあちこちにつばさへびが絡みつき、『力』のルーンが作用しなくしておる!
<おああああ!><参来い! こっち来い!><壱姉ぇぇぇ><寄せるぞ捌ィ!><痛たたたた>
妙雅、分霊と一緒に大騒ぎしながら、姿勢を直す!
そこに神竜のつばさがヒット! 翼端が、補助塔のひとつを、叩いた!
妙雅はとっさに最善の対応をした。ヒットされた補助塔を一気に降下させ、被害を最小限にしたんである!
これにより、補助塔の大破は回避! 甲板をぶち抜かれただけで済んだ!
だがそのために、妙雅の艦体はほとんど横倒しとなってしもうた!
艦内で悲鳴! クラッシュ音! 艦体が破断する音!
鬼神はやむを得ず、つばさへびの剣を妙雅の甲板に突き刺し、内部の骨組を引っ掴んで、耐えた。
妙雅、このままひっくり返るか!?
<なんのこれしき・・・おじちゃんにくらべれば!>
あにはからんや!
妙雅! 鬼神と兄妹けんかしたときの経験! ここで、生かした!
ぐるりんこ! 大回転してから、艦を水平に戻した!
「おい・・・」
ぶおんぶおん振り回された鬼神。
目を回し、<ぐええ>と呻いとる六腕団子ロボを抱えたまま、ぼやいた。
「私はここまでやっとらんぞ」
神竜は、なおも浮かび上がってくる。
4回目か? ・・・いや。
「おお。目が見えぬ。頭が痛む。胸が痛む」
神竜。
うめく。
「おお、つばさが重い。呼吸が苦しい。
これはなんだ。わからぬ。
身体が動かぬ。なぜだ。わからぬ。
なにをした。私に何をした。わからぬ。
おお・・・おお・・・!」
神竜。
『敵なる血の型枠』に、蝕まれ(むしばまれ)。
もはや、体当たりをするほどの速度、出すことができぬようになっておった。
力を失い、亡霊のごとく、妙雅を追って来る。
鬼神は、甲板に立ち上がって、その姿をじっと見た。
そしてつぶやく。
「あわれなり、神竜。知恵なき大蛇。
だが許さぬ。
おまえの理屈。おまえのルーン。この世には、いらぬのだ」
<うう。父上。どうなったんじゃ?>
「まだ生きとる。まだ飛んどるぞ」
<そりゃ良かったわい>
「そして、まだ神竜はつばさへびを呼んでおる」
<・・・まだ戦わにゃならんのか>
「そういうわけじゃ。さあ、装填をせよ」
◆ 45、カバリオ隊長、しす ◆
「装填完了!」
「よっしゃ! もう次持って来といてくれ!」
「怪我はいいのでござるか!」
「ああン!?」
カバリオ隊長。
補助塔、砲門を担当し、コボルド兵と怒鳴り合っておった。
怪我はええんかと訊かれ、初めて自分が怪我をしとることに気付く。
足。
太腿に、切り傷。出血中。
神竜の体当たり攻撃、3回目。
甲板をぶち抜かれたのは、カバリオ隊長らの補助塔であった。
天井から色んなもんが突き抜けてきて、あっちこっちで負傷者続出。
カバリオ隊長も、どうやらその負傷者の1人であった。
「かまへんかまへん! こんなもん!
外側ちょっと切れただけや。後で司祭さまに頼んだら治る治る!」
「了解でござる! 砲の加熱に御注意あれ!」
「そんなん言うとる場合やないやろ! どっか穴開いとんちゃうんか!」
怒鳴り返して、把手についとるレバーを、左右同時に、ガチャガチャッ! 握り締める。
ドドッ!!! パァァァン!!!
轟音!
覗き窓の向こうで、つばさへびが散る! けむりがもうもうと上がるが、即座に吹き飛ばされる!
「くそ。クッソ寒いなここ。手ェ痺れてきたわ」
カバリオ、ぼやく。
凍えるような風が吹き込んできよる。かなり大きな穴が開いたのであろう。
手がどんどん冷たくなってゆく。
「手を離してくだされ!」
「わかっとんねんけど、手が開かんのや! 寒うて!」
カバリオ隊長。がちがち歯を鳴らし、震える。
コボルド兵が穴からにゅーっと出て来て、カバリオ隊長の指を引っ剥がしてくれた。その手で、カバリオは反対の手を引き剥がす。
コボルド兵、装填にもどる。
「おまえさんは、ええのう! 毛が、あったかそうで!」
「拙者は動いておりますゆえ! ハァハァ!」
舌だらんとしながら、コボルド兵は駆けずり回って装填をする。
「装填完了!」
「おっしゃ下がれ!」
ドドッ!!! パァァァン!!!
轟音!
「──装填完了!」
「キリがないのう!」
ドドッ!!! パァァァン!!!
「なんでもいつかは終わるでござる! ──装填完了!」
「ごもっとも!」
ドドッ!!! パァァァン!!!
と、くり返したところで。
「敵侵入! 敵侵入!」
伝声管から、声がした。
「つばさへび侵入! 総員、白兵戦用意! 白兵戦用意! ハッチ前に集まれ!」
「ゆくでござる!」
かぱ。コボルド兵、伝声管のフタ閉め、駆け出そうとする。
「待て相棒! ベルト外してくれ!」
「自分でやらんかでござる!」
「だから、手がかじかんどんねや!」
「面倒な生きものでござるな!」
「じゃかましゃ! 手伝え!」
2人、怒鳴り合いながらベルトと格闘。カバリオ自由になる。
コボルド兵、壁から槍を取る。
「槍でござる!」
「ほい来た!」
カバリオ、投げ渡された槍キャッチ。砲室を出て、ハッチへ駆けつける。
「・・・あれ?」
途中で、カバリオ。
自分の足が遅くなっとることに気付く。
太腿を見る。出血、まだ続いておる。
「しもたな。こら、止血しとくべきやったか」
だがもう時間がない。ハッチへ走る。
ハッチ周辺は、大乱戦であった。
「扉、あらへんがな」
「吹っ飛ばされたようでござるな!」
閉じておるはずのハッチが、ない。
ぽっかりと口が開き、そこからつばさへびが突っ込んで来ておる。
コボルド兵とエスロ博士は列を組んで、その侵入を食い止めようと頑張っておる。
「位置保て! 前進するな、ライン保て!」エスロ博士が叫ぶ。「『銀貨の盾』!」
コボルド兵、つばさへびと格闘する。
ある者は槍で突き、別な者は小剣で切りつけ、別な者は絡みつかれてくたばりかけておる。
エスロ博士とエスロ台の2人は、呪文の詠唱。『銀貨の盾』を、コボルドどもに配っておる。
浮遊する盾がコボルドを守る。だが劣勢! 大蛇にコボルドは、いかにも劣勢!
「2名加わるでござる!」
「右翼を助けよ!」とエスロ博士。
カバリオ隊長とコボルド兵、右翼へ。
「がるるる!」コボルド兵が2人、へびにからまれ、死闘中である。
「俺がやる!」
カバリオ隊長は槍をその場に落とし、腰の小剣抜いて、つばさへびの背中に飛びついた。
コボルドを噛み砕こうとする上顎を左手でガッと掴み、口の中に小剣ねじ込む。
つばさへびが猛然と首を振る。カバリオ隊長、床に叩きつけられる。だが両足でしっかり敵を挟み込み、しがみつく。つばさへび、のたうつ。だが暴れた弾みで小剣が深々と突き刺さり、やっとこさ、死んだ。
カバリオ隊長、すぐに次のつばさへびに襲われる。どうやらマークされたらしい。
なにしろ、つばさへび。すべて、神竜の分霊。戦術情報、即座に共有してしまうのだ。
カバリオ隊長は、それを直観で感じ取った。
「こいつ、手強いぞ!」
「いかにも」とエスロ博士。
「魔弾かなんかで、どうにかできへんのか! 博士!」
「魔弾は効きませぬ。『天』のルーンで、遥か昔に。『銀貨の盾』!」
「そら難儀な(面倒な)こっちゃ。お、ありがとう」
カバリオ隊長、銀貨の盾をもらい、礼。
左手に小剣、右手に槍拾い、右翼の列に入る。
≪こちら艦橋。捌ノ塔、エスロ、どうか≫
「こちらエスロ! ハッチ全損、塔内つばさへび10以上、乱戦中! 魔1祝1求む!」
≪艦橋了解≫
<──妙雅より捌ノ塔。ルシーナさま、建築ユニット4、そちらへ移動中>
「了解!
──者ども! 盾終わったら、一気に押し返しますえ。あと7枚!
『銀貨の盾』、あと4、『銀貨の盾』──いまやえ! 押し返せ!」
「がるるる!」「出て行けでござる!」「わんわんわん!」
「うおおお! アルス! アルス!」
カバリオ隊長。
コボルドどもと一緒になって、槍で突き、小剣で斬り、最後はすもう取るがごとくしがみついて、戦った。
がくん!
その格闘の最中に、左足に、重い衝撃。
見れば、つばさへびの顔。がっぷりと、左の太腿に、牙、喰い込んでおる。
「あ、こらアカン。やられた」
言いながら、カバリオ隊長は槍を手放した。敵が近すぎ、槍は無意味。
小剣両手で逆さに持って、突き下ろす。つばさへびの脳天を、ひと刺しにした。
つばさへび、のたうち、脱力。仕留めたようである。
「押し出せ! 押し出せ!」コボルドどもが叫んでおる。「あとちょっとでござる!」
ずるり、ずるり。つばさへびが、ハッチの外へ滑り落ちてゆく。
カバリオ隊長に、噛みついたまま。
カバリオ隊長。
いつの間にか、転倒しておった。
視界がひっくり返っておる。そして、暗い。やけに暗い。
ずるり、ずるり。カバリオ隊長。ハッチの外へひきずられてゆく。
「ぬ・・・?」
見れば。
カバリオ隊長に噛みついたまま絶命した、つばさへび。その胴体が、ハッチの外へ落ちてゆくところであった。
「おい、嘘やろ。放せコラ。われ(おまえ)ぇ・・・」
ずるり、ずるり。
周りのコボルド、こちらの危機に気付かぬ。そこら中、死体と負傷者だらけ。へびもコボルドも一緒くたに落ちて行っとるような惨状である。しかも雪とみぞれが舞い込み、視界も極端に悪い。声を上げても、風の轟音でかき消される。
あかんな、これ。こらあかんわ。・・・と思ったところで、
「カバリオ殿!」
相棒のコボルド兵が、カバリオの足に飛びついて来た。
牙、抜こうとする! ──抜けぬ!
へび、死んどるくせに、その顎の力、おとろえぬ! しかもカバリオ隊長の傷口が締まっとるせいで、牙そのものが、抜けにくい!
「相棒。放せ。おまえの力じゃ無理や」
「コボルド30年! 『行ってきますは、さようなら』でござる!」
「訳わからん。離れろっちゅうんじゃ・・・!」
「がるるる!」
コボルドはあきらめぬ。自分が落っこちそうになりつつ、奮闘しておる。
ずるり!
とうとう、2人とも、ハッチから投げ出されてしもうた。
暗黒の空へ。天も見えず地も見えぬ、冥界のごとき、暗黒の中へ。
そのとき!
「カバリオ!」
鋭い女の声。ひらめくオレンジの剣。
ずしん。衝撃がして、カバリオの傷口に痛みが走った。
「ぐわー!」
痛みに叫ぶカバリオに、温かい身体が抱き着いてきた。
ルシーナであった。
「あほな」カバリオ、うめく。「イリスに殺される・・・」
「このルシーナを舐めるな!」ルシーナ叫ぶ。「『浮遊』!」
ふっと、身体が軽くなる。
どて。背中に硬いもんが当たった。
「もどるえ」
ルシーナと、クリーム色の空飛ぶ台を、カバリオは見た。
ルシーナの手には、オレンジの剣があった。それで、つばさへびの首を断ってくれたようである。
コボルドの顔を、カバリオは見た。最後まで頑張って、とうとうへびの牙を抜いてくれたようである。
「ありがとう」カバリオは喘いだ。「そやけど・・・申し訳ない。ちと前から、出血しとって・・・無駄足になりそうや」
「民を守るは、政府のつとめ。当然のこと!」
ルシーナ。
カバリオの足を縛り、月の祝詞を唱える。
傷はふさがった。
だが、カバリオの体温は急激に下がってゆく。血を、失いすぎたのだ。
「必ず、そなたを帰す。
アルスに。そなたの祖国に。必ず」
「アルスに・・・」
カバリオ隊長。
アルスを見た。
暗闇の中に、ダークエルフの愛する洞窟の光景を見た。
「アルスに帰るのえ。ルーンも待っておるに」
「おお・・・そやな・・・」
やがてきたる、新生アルスの光景。
温かいキノコ畑。キャッキャ言うて走り回る子供。
ルーン隊長、笑ってガッツポーズ。仲間みんな、戦死した2人、ルシーナたち女神姉妹も、楽しそう。
カバリオの見たものは、それが最後であった。
エスロ台、ハッチから飛び込む。
ルシーナとコボルド兵。横になったカバリオ隊長を支えておる。
「無事かに!?」エスロ博士、駆けつける。
ルシーナは、首を振った。
カバリオ隊長、戦死である。
◆ 46、妙雅、あらしをぬける ◆
妙雅、艦橋。
<・・・捌ノ塔、防衛に成功。塔隊長、アルスのカバリオ隊長、コボルド兵7名、戦死。負傷者多数>
「捌には、土石3回せ。エスロが使うやろ」
<了解。土石人形3体分の土石、エスロ博士のところへ運びます。
月の巫女サステリアより、ルシーナさまにつかせてくれとの要請>
「却下。捌はエスロとルシーナさまで十分。負傷兵の手当てを続けよ」
<了解──咆哮!>
もんのすごい轟音が妙雅を包み込んだ。
<神竜の咆哮。鬼神さまが相殺。被害なし>
「うむ、幸い。あとどのくらいかに?」
<わかりません。風は弱まりつつありますが──あ、いま抜けました!
嵐を抜けました!>
びょおおおお・・・風の音が鳴り響く。
みぞれとひょうと雪の嵐がぱたりと消え失せ、冷たい風だけが吹きすさぶ!
「・・・抜けたか」
鬼神。
全身真っ白。
凍ったまんま、平気でしゃべる。口からぶはーっと白い息が出る。
いまだ、中央甲板。
鬼神、健在なり。
空飛ぶ台も、健在なり。
<父上! 助けてくれ! 動けん!>
六腕団子ロボ、凍結中。
真っ白な雪玉になってしもうておる。
「なにをやっとる」
<氷を割ってくれ! どうにもならんのじゃ! 息ができん!>
「なんだと! わかった、いま助ける!」
鬼神は甲板に落ちとるつばさへびの死体を拾い上げて、
「『力』のルーン! 凝縮せよ! こてとなれ!」
ぎゅーーーっと縮めて赤熱させ、鏝(こて)造る。
その灼熱の鏝でもって、冷やさずそのまま、じゅーっとプレス。
氷溶け、ひび割れ、ばりばり剥がれる。
ぎぎぎ。ばきばきばき。
六腕団子ロボ、なんとか動き出した。
<ひいひい! く、苦しい。どういう状況じゃ?>
「嵐は抜けた」
鬼神は周囲を見回した。
甲板の上。つばさへびの死骸だらけ。
暗黒の空。
恐ろしくも雄大な神竜の巨体。
・・・神竜は、闇の中で、苦悶し、のたうっておった。
◆ 47、ルシーナ、しす ◆
「お、お、お、お、お・・・」
神竜、のたうつ。
あまりに大きなその身体。のたうつだけで、新たな嵐が発生する。風が渦巻き、雷が乱れ飛ぶ。
飛ぶというより、地面を転がるがごとし。
巡行しておるだけの妙雅に、ついて来ることもできぬ。
「お、お、お・・・。
つばさが動かぬ。手が動かぬ。足が動かぬ。首も・・・動かぬ・・・口も・・・動かぬ・・・!
私には、何もわからぬ・・・!」
そして。
神竜の巨体は、初めはゆっくり、やがて加速しながら、落ちていった。
「・・・おい」
<落ちていきよるのう>
「これは・・・まずいんじゃないか?」
<うむ。地上に落ちたら・・・>
鬼神と、六腕団子ロボ。
飛び上がった。
<えらいことじゃ!>
「そ──そうだ! 『力』のルーン! 神竜が死んだのなら、『力』のルーンで」
と鬼神が言うと、
<だめです!>凍りついた建築ユニットが叫んだ。<神竜は死にません!>
「なに?」
<生かしたまま落とす。そういう作戦です!>
「だが、このままでは」
もう神竜の姿は、妙雅の甲板より下に潜ってしまっておる。
いましも、嵐の雲を突き抜けて、見えなくなってしまいそうである──見えなくなった!
「そ、そうじゃ! お月! お月の伝言じゃ。妙雅、ルシーナを呼べ!」
<はい。──つなぎました>
<・・・はい>暗い声のルシーナ。
「ルシーナ。神竜が落ちる。地上に落ちてしまうのだ!
母上を呼んでくれ! お月の力に頼るときじゃ!」
クリーム色の空飛ぶ台が、妙雅の下から飛び出した。
乗っておるのは、エスロ博士と、ルシーナである。
西へ飛ぶ。
神竜を追うのではなく、海の方向へ、飛ぶ。
そして。
エスロ博士に支えられたルシーナが、ぱっと手を広げ、何かを唱えた。
するとその身体が、優しくも輝かしい光を放った!
とても明るい、淡い淡い、金色の光!
優しく熱なき光、夜空を照らし、死の暗黒を、祓った(はらった)!
「『引力』のルーン!」
鬼神には、そう唱えるルシーナの声が聞こえた。
ルシーナの声。だが、月の女神そっくりの声が。
「神竜、おまえは、ここへ来よ(こよ)!」
ごおおおお・・・。
風が唸りを上げ、ルシーナの方向へ流れ始めた。それから、その流れは乱れ、嵐の雲を巻き込んで、グルグル回る竜巻となった。
「ぬ! 『三角州の受け』!」
鬼神は難なくその竜巻から妙雅を守る。
だが、エスロ台はそうはいかぬ。距離が遠い。乱流に巻き込まれ、激しく揺さぶられておる。
「妙雅。何とかならんか? エス子が危なそうじゃ」
<はい。いまそちらに、ボナス閣下が>
昇降台が上がって来た。
ボナス閣下と、ハイエルフの魔術師たちが乗っておる。ダークエルフの巫女サステリアも乗っておった。
甲板につくよりも早く、フォーム隊長が飛ぶ。エスロ台に向かった。
そして、ボナス閣下がこう唱えた。
「『風』のルーン!
風よ、神竜から手を離せ。
おまえたちを悩ませた、災いの竜に、最後の道を開けてやるがよい!」
すると。
乱流は和らぎ、ごおごお吠える音も低くなったではないか。
「どういうことじゃ? 閣下」
「はい」
ボナス閣下。うっすら隈の浮いた顔を、こちらに向けた。
「神竜が、御令嬢のところへ、引き寄せられておるのですえ。
いまの風は、その前触れ」
「・・・なんだと」
「足元、来ますえ」
直後。
中央甲板の下から、神竜の巨体が現われた。
それはもはや、大地。
地球が浮かび上がってくるようだ──と、宇宙に出たことのある鬼神は、そう感じた。
白い山脈のごとき背。波うつ大海のごときウロコ。暗黒の空を、地上の掟に逆らって、斜め上へと、引き揚げられてゆく。
エスロ台の方向へ。
ルシーナのところへ。
刻一刻と、速度を増して。
エスロ台は逃げ始めた。
西へ。海の方向へ。全速力で逃げ始めた。
だが神竜のほうが速い──しかも、加速し続けておる!
「いかん」ボナス閣下が言うた。「艦長。私はエスロ台を支援しにゆく。指揮権は、一時、そなたに讓る!」
<は・・・はい! 了解>
ボナス閣下。
甲板を蹴って、舞い上がった。エスロ台を追って飛ぶ。
「『風』のルーン、『荒風』!
遠慮はいらぬ、私を飛ばせ、夜明けの息子、東風よ!」
ごうっ!
音を立てて、ボナス閣下も、西へ飛ぶ。見る見るうちに神竜を追い越し、エスロ台に追いつき、そこでまた詠唱。
エスロ台、フォーム隊長、ボナス閣下の3者が『風』のルーンに吹き飛ばされ、一気に加速する。
だが、それでも。
加速し続ける神竜より、速く飛び続けることはできなんだ。
もうあとちょっとで海──というところで、ボナス閣下が何かを命令。フォーム隊長が上空へ逃れた。
エスロ台とボナス閣下は、下方へ、斜め下に飛び始めた。それでいくらか加速する。だが、やはり神竜よりは、遅い。距離が、詰まってゆく。
やがて神竜の巨体がすべてを覆い尽くし、鬼神は、エスロ台を見失った。
「ルシーナ・・・」
「神竜、おまえはここへ来よ、来よ、来よ・・・」
ルシーナの唇が、唱え続ける。
「限界ですえ、ルシーナさま!」ボナス閣下が叫ぶ。「離脱を! 離脱をしなされ!」
ルシーナはちらっと目を開き、ボナス閣下を睨んだ。
「そなたの命令は受けぬ。下がっておれ」
「私が下がれば、『風』も引きまする! すぐにでも衝突してしまいますえ!」
「衝突はせぬ」とルシーナ。「そやに、そなたまで救う余裕はなし。離れよ。邪魔やえ」
「ぬ!」
「もう言わぬ。この子とそなたなら、私は迷わずこの子を取る」
「女神さまか!」ボナス閣下は合点して、うなずいた。「では離れまする。『風』切れるまで、3、2、1、さらば!」
ボナス閣下が離脱した。
直後。
どっごおおおお!!!
風の塊が、エスロ台を叩いた。
エスロ博士が吹っ飛ばされそうになり、必死で手すりにしがみつく。その手すりもギシギシ軋むが、その派手な音すら聞こえぬほど。風にルシーナの髪が巻かれ、明るい金色のむちとなって荒れ狂う。
ぎりぎりまで神竜を引き寄せ、眼下をちらっと見て、海に出たことを確認すると、ぺたっと伏せる。
「よし。
『引力』のルーン、終わり!
台よ、上へ逃げてたもう!」
ルシーナ(?)。
そう命じてから、こう唱えた。
「『引力』のルーン。我々の体重を、和らげよ」
すると。
エスロ台の上昇する速度が、目に見えて速くなった。
いまにも衝突するかと思われた神竜の頭部を飛び越え、上空へと逃れる。
して、ルシーナ(?)、淡い金色の瞳で、エスロ博士をジロッと睨む。
「なぜ、この台に? 言うては何やが、鬼神台殿に鬼神のほうが良かったのやないかに?」
「鬼神台は、討ち死にいたしました」
「・・・あなや」
「そのこと、お訊きになられるということは、ルシーナさまではありませんに?」
「うむ。この子の母やえ」
「かしこまりました、女神さま。
鬼神台殿は、神竜の左目と引き換えに──」
エスロ博士。
そこまで言うて、息を呑んだ。
「いかん! 奴──見えておる!」
神竜が。
真下を飛び越し、海へと落ちてゆく、神竜の。
左の眼が。
ギロリと、こちらを睨んでいった!
「エス子、避け──」
振り向いたエスロ博士の、視界。
神竜のしっぽ。
それは神竜の、復讐の一撃であった。
『敵なる血』の呪いに蝕まれ(むしばまれ)、傷口から徐々に全身の動きを失っていった神竜。
呪いが届くのが一番遅かった、しっぽで、エスロ台を狙ったのである。
エスロ博士、エスロ台、ルシーナ、戦死である。
この復讐を最期に、神竜は西の海へと落ちていった。