◆ 6、鬼神、いらいをうける ◆
<おじちゃん。みなさんが上がって来ますので、もう一回お願いします>
「うむ」
妙雅、中央甲板。
雪で真っ白。凍りついて、カチンコチン。
鬼神、そんな彼女に手をついて、
「『力』のルーン! 雪よ氷よ、ひび割れよ。粉々になって、飛んでゆけ!」
ばきばきばき!
雪は板となって剥がれ、空に舞い、粉々になって、散ってゆく!
それはまるで、神竜のウロコが剥がれたときのように。
巨人の王のハンマーが神竜を叩き、ウロコが剥がれて飛んでった。あのときのように。
空飛ぶ母艦・妙雅。
アルフェロンに、帰還す。
傷ついた艦体でノロノロと、低空飛んでやっとこさ。
≪丘の街に・・・到着しました・・・。停止します・・・します・・・ます・・・≫
こだます妙雅のアナウンス。
街道沿いの、森の上。
ぎしぎし・・・ごきごき・・・。
艦体、しんどそうに、音を上げる。
小型の空飛ぶ台どもが、補助塔ハッチを飛び出して、甲板の上にやって来る。
同盟軍の勇士たち、昇降台で上がって来る。
1人2人、また1人、空飛ぶ台にて、降りてゆく。
太陽神殿のハナ司祭。月の巫女のサステリア。丘の街のワラント隊長。
魔術師クリスタルは、ボナス閣下にあいさつをして。
みーんな降りて、帰っていった。
ボナス閣下は、妙雅に残る。
「臨時司令官の職は、国王陛下にお返しいたす。
そやに、エスロの捜索はさせて頂きたい」
──という理由であった。
<了解した>
認めたのは、近衛隊長・武鬼である。
<ルシーナ参謀らの捜索、引き続き指揮をお願いしたい。肆号・伍号もそのまま使ってくれ>
「ありがとうございまする。では、私も現場に」
ボナス閣下はそう言うと、空へ舞い上がった。
「『風』のルーン! 疾く(とく)吹き流せ、私を、弟子のところへ!」
ゴオ!
突風がボナス閣下をさらい、あっちゅう間に西の彼方へ。
「これで、終わりか・・・」
鬼神はつぶやいた。
右に、建築ユニット。正八角柱をぺちゃんこにしたみたいな気持ち悪いやつ。
左には、六腕単眼ロボ。三男の機鬼が乗っとる、お団子から腕生やしたみたいな不細工なやつ。
<いえ。じつは、まだ問題が>
ギョロリ。
妙雅の建築ユニットが、ひとつしかない目で、鬼神を睨み上げた。
「なんだと」
<こちら武鬼。父上。巨人の国の近衛隊長として、正式に、依頼をしたい>
「なんじゃ。あらたまって」
<じつはな>
武鬼、声を落とす。
<うちの国と、連絡がつかんのだ>
鬼神。
陸号に飛び乗り、湖の上をかっ飛ばして、巨人の国を目指した。
<すみません>妙雅が謝ってきた。<思うところ、おありでしょう>
「いや」
それは、まあ──
「なんでもっと早く言わん!」とか。
「丘の街に寄っとる場合ではなかろう!」とか。
──思わんではなかったけれども。
「国のことは、そなたらに譲ったのだ。
だからかまわん。
・・・かまわんのだが、妙雅よ」
<なんですか? おじちゃん>
ギョロリ。
建築ユニット。
頭上から、睨み下ろしてきよる。
「なんで、頭に乗る」
建築ユニット、鬼神の頭にへばりついとるんである。
<おじちゃんだって、私の頭に乗った。おあいこでしょう>
「おまえもたいがいしつこい奴だな」
<誰に似たんでしょうね>
「重たい。危ない。足元に居らんか」
<真面目に答えますが、下りません。先を見るのに、都合が良いので>
「わしゃ、見張り塔か!」
<まもなく、巨人の国です>
軽口叩いておった2人。
同時に、口を閉じる。
前方。
工房のお山が、見えてくる──はずの、前方に。
異変、見た。
いと巨大なる白銀の板が、のっぺりと地面から突き出しておる。
「妙雅!」
<武鬼閣下につなぎます!>
<・・・どうした父上>
「でっかい板が」鬼神、呆然としゃべる。「お山に、かぶさっておる」
◆ 7、お山、つぶされる ◆
いと巨大なる、白銀の板!
工房のお山があるはずの場所に、いすわっておる!
なんと巨大! お山が、ほとんど、見えぬ! ふもとしか!
<何があったんじゃ、父上>
<板とはなんだ>
ぶわっさ、ぶわっさ!?
みなが、騒ぐ中。
鬼神は、額の第三眼を開いて、じーっとその板を見つめた。
金属のごとき光沢。冷たく輝くその色合い・・・
「ウロコ!!!」
見覚えが、あった!
「あれは、神竜のウロコじゃ!」
おお! なんと、それは!
神竜のウロコの1枚!
工房のお山を、押しつぶしておる!
<あのときだ・・・>
妙雅がつぶやいた。
<おっ父が、神竜のウロコを剥がしたとき。1枚、こっちに飛んだ>
そう。
それは、巨人の王がハンマーでぶっ叩いて剥がした、ウロコの1枚であった。
巨人の王が神竜に負けたのも、このウロコのせい。
ウロコが工房のほうに飛んだため、気になって、よそ見をした。それで、神竜に殺されてしもうたんである。
「くそっ! 陸よ、急げ!」
<足元に、人間の集団>
「ぬ?」
お山。
見知らぬ人間どもに、囲まれておった。
「わー」「わー」「押し入れ、奪え!」「邪魔するやつは、殺してしまえ!」
ヒューマンとコボルド。合わせて30人ほど。
毛皮の服着て、棍棒や槍持ち、たいまつ持って、工房のお山の正面でワーワー騒いでおる。
「山賊か」
<いえ。用意周到な、強盗ですね、あれは>
たしかに。
空荷のロバ1頭、大八車(だいはちぐるま)3台が、混ざっておる。準備して来なければこうはならぬ。
また、その言うよう──
「巨人は死んだ! 狙い目だ!」「巨人のお宝、俺らのものだ!」「わっはっは、ボロ儲け!」
──用意周到、計画的な、強盗であった。
「よし。ぶっ飛ばす」
<ちょい待ち>と妙雅。
「なんじゃ」
<・・・こちら武鬼>
「なんじゃ」
<父上、生け捕りにせよ>
「いけどりだと」
<殺すと、内務大臣がうるさいのだ>
「網もないのにから・・・」
鬼神、頭の上の建築ユニットを引っ剥がす。<ぎゃあ!>
「ま、よかろう!
私もいまや、『力』のルーンを極めた男だ! 任せておけい」
ぶわっさ?
「うむ。陸よ、あいつらの上をゆっくり飛び越せ」
ぶわっさ。
ゆーっくり。
鬼神、飛び降り。
どしゃあ! 着地。
「・・・ゆっくりすぎじゃ」つぶやく。「相棒。やはり、おまえは特別であった」
両手を地面に。
「『力』のルーン! 『圧縮する』!」
力を、土に伝える・・・。
いきなりガチガチにするのではなく・・・。
両手から放射した力が、地中、1尋ほど潜ったあたりで、集結する感じに・・・。
「あれだ。
小さな氏族でごちそうになった、土中蒸し焼き!
あんな感じで、土の中の方だけ、あつあつ、ぺちゃんこになーれ!」
地面、湯気立てる!
ずずずず・・・。
音がしたかと思うと!
ずごーん! いきなり、へっこんだ!
巨大なる凹み! 山賊ども、ぜーんぶ、穴に落っこちる!
「げあー!」「うわあ」「足が折れた」「手が折れた」
背丈より深い穴! 叫ぶ強盗! 悲鳴上げるロバ!
「殺すなと言われたから、浅くしてみたが・・・。
肩車でもすれば、出て来れそうだな。
フタが必要じゃ」
鬼神。
顔を上げる。
「して、ちょうどええもんが、ここにある」
「そーれ、『力』のルーン!
悪い竜のウロコよ、悪い人間を閉じ込めよ!
名付けて、どっちもどっちブタ!」
ごばあああ・・・!
神竜のウロコ持ち上げ、
ずどおおおおん・・・!
穴にかぶせる。
山賊ども、絶叫するも、もはや脱出不能。
捕縛完了である!
鬼神、正門へ。
お山。
見るも無惨に、崩れておる。
大きな扉も、ひしゃげ、土に埋もれておる!
「おお・・・!」
鬼神、大急ぎで、工房を掘り返しにかかった。
◆ 8、鬼神、ほりかえす ◆
鬼神、掘り返す。
陸号、降りてくる。
ざしゅざしゅざしゅ。妙雅の建築ユニット、鉤爪を雪に突き刺しながら、歩いて来る。
<鬼神さま、強盗の捕縛に成功>と、実況。<お山が崩れ、工房が埋まっています。至急応援求む>
「妙雅、下がれ。倒れてくるぞ」
ぎ、ぎ、ぎ、ご、ご、ごごご・・・!
大きな扉が、ぶっ倒れてきた。
鬼神。その扉を受け止めて・・・。
──初めてこの扉を見たときのこと。
──扉の陰で、恥ずかしそうにもじもじしておった、巨人の姫のこと。
・・・思い出したが、いまはもう、どうしようもない。扉をうっちゃり、穴掘りにもどる。
「わんわん! 鬼神さま、我ら、お手伝いいたしまする!」
神竜との戦いで、もうズタボロになっておるコボルドども。
自分の疲労はそっちのけで、駆けつけ、土に飛び込み、手伝うてくれる。
ふんがふんがふんが!
匂いを嗅いでは、穴を掘り、匂いを嗅いでは、穴を掘る。
「こちら、奥方の気配あり!」
「おお・・・!!!」
「近いでござる。あと半尋ほど!」
「左上、崩れそうでござる!」
「『力』のルーン、『圧縮する』! 土よ、お山を支える壁となれ!」
匂い嗅いでは穴を掘り、穴を掘っては壁固める。
そうして。
鬼神の手が、巨人の女を1人、掘り出した。
「おまえ! しっかりせよ!」
「・・・まあ、あなた。どうして、こんなところに?」
四つん這いにうずくまった、巨人の女。
目がひとつしかない妻を、掘り出したのであった。
鬼神、コボルド兵、土をかき出す。
「しっかりせよ。いま引っこ抜く」
「いけません・・・私を、引っこ抜いては・・・」
「なんでじゃ」
「なんでといって、私が、お山と天井を、支えているからです。
私を引っこ抜いたら・・・閉じ込められた、息子たちが・・・死んでしまいます」
「ぬう!」
なんと頑強! 巨人の女! お山の崩壊を、1人で支えて来たというんである!
鬼神、奥を見る。
目がひとつしかない妻の、四つん這いの、身体の下。
たしかに、空間が見える!
だが!
穴が小さすぎ、鬼神、入れぬ!
鬼神、コボルドを見る。
「御子息のこと、了解でござる!」
「者ども、突入でござる!」
コボルド兵ども、突入。
目がひとつしかない妻の身体の下をくぐり抜け、内部に飛び込む。
「『力』のルーン! 壁よ、あと少しでよい。がんばれ!」
鬼神も手を伸ばし、支援をする。
「わんわんわん! 元鬼(げんき)陛下、発見! 御無事でござる!」
「書鬼(しょっきー)閣下発見!」
「換鬼(かんき)閣下発見!」
「わんわん! 崩れるでござる! 崩れるでござる!」
息子どもが、這い出してきた。
鬼神が、目がひとつしかない妻を引っこ抜いた。
その直後。
ず、ず、ず、ず、ず・・・ず、う、う、う、うん・・・・・・・・・!!!
工房のお山は、崩れ去った。
砂の城が、波に溶けてゆくがごとく。
巨人の王の工房。
幸せな家庭の思い出と共に、永遠の眠りについた。
「・・・あなたも、あのようなことができるようになったのですね」
目がひとつしかない妻。
鬼神に運ばれてゆくあいだ、弱々しく、そんなことを言うた。
「土を固めたりすることか?」
「はい。父も・・・、『力』のはたらきのハンマーで、同じようなことを。
『簡単すぎて、つまらん』などと言い、すぐやめてしまいましたが・・・」
「義父上らしいわ!」
「神竜は」
「落ちた。妙雅たちの、勝ちじゃ」
「それは良うございました」
「・・・だが」
「父上は、討ち死にをなさったのですね」
「うむ」
「お弟子さんがたも、エスロ博士も・・・亡くなられたのでしょう・・・」
「なぜ、わかった」
「わかりません。
ですが、こうなるであろうことは、私にはわかっていました。
どうにかしようと、してきたのですが・・・」
目がひとつしかない妻。
その目を半分閉じて、こう言うた。
「次は・・・私の番のようですわ・・・」
◆ 9、妻、しす ◆
「あきらめてはいかん」
「いいえ。私はもう、満足しているのです。
やり切ったとの思い。これ以上の時はないとの、確信があります・・・」
目がひとつしかない妻。息子どもを、呼び寄せた。
長男。国王陛下やっとる、元鬼。
次男。陸号に寝たままで飛んできた、武鬼。起き上がろうとして、ハナ司祭に「だめですえ!」と怒られた。
三男。六腕ロボで走って来た、機鬼
四男。コボルドに支えられて、書鬼。
五男。水汲んで持って来てくれた、換鬼。
義理の妹。妙雅。の建築ユニット。ひとつしかない目、ギョロリ。
「礼鬼(れいぎ)はどうした?」と鬼神。
六男の礼鬼が居らんのである。
「丘の街だ」と、元鬼。「神竜討伐軍、連絡将校役」
<無事です>と妙雅。<雪で動けないが、生きとる、心配いらん、との連絡あり>
「そうか」
「母は、今日このときが来ることを、知っておりました・・・」
目がひとつしかない妻が、父と息子たちを前に、しゃべった。
「大いなる災いが来ること。
巨人が、この世に居らぬ種族になることを」
「母上・・・」
「この力。未来がわかる力は、呪い(のろい)でした。
なんでわかるのか、わからない。
どうやって避ければいいのかも、わからない。
だというのに、未来は、訪れる・・・。
これは、つらいことでした。
若いころには、何もかもを、あきらめたこともありました。
ですが父上が来てからは、決してあきらめませんでした。
おまえたちが生まれてからは。
これはとても大変な仕事でした。
ですが、私は、やり切りました。
いまは・・・とても・・・、ほっとした気分です。
ですから、『行くな』と言わず、『よくやった』と言って、見送ってもらいたいのです・・・」
目がひとつしかない妻は、息子ども1人1人に、これからのアドバイスをした。
最後に鬼神が呼ばれる。
「あなた。私はずっと思っていたのですが・・・」
「なんじゃ?」
「あなたには、私が起こると思っている未来を、起こさなくする力があるようですわ」
「うん?
未来を起こさなくするだと?」
「あなたが家出をするとき、私はこう申しましたでしょう。
『これが私たちの、この世で最後のお別れになる』と。
ですがそうはなりませんでした」
「ふむ」
「この大いなる災いにおいて、私は、一族が死に絶えるものと思っておりました。
ですがそうはなりませんでした」
「しかし、私に、そんな力はないぞ」
「ありますわ。未来の・・・破滅を、避ける(よける)力が」
「いやいや!」
鬼神は手を振った。
「私には、特別な力なんてない!
というかだ。
どんな人間にだって、そういう力は、あるだろう。
日々ちょっとずつ世の中を良くする。
いやな未来を起こさなくする力は。
おまえだってそうだ。私もそうだ。特別じゃないのだ。身体だけは、こんなでっかいけれども」
「いいえ、ありますわ」
「そうかのう」
「そうですわ」
しばし、沈黙。
「・・・なあ、おまえ」
「なんです? あなた」
「すまなんだ。
いまさら許せなどと、虫のええことは言わん。だが、すまなんだ」
「なにを謝るのです」
「そなたに恥をかかせたことだ。
そなたはとてもよい女だのに、私はそなたに恥をかかせた。
また、そのせいで、義父上と一緒に戦えなんだ」
「そこですか・・・」
「私はな。
ただただ、この世界を飛び回りたかったのだ。
あんな素晴らしい相棒を授かったからには、なおさらな」
「私は・・・、」
目がひとつしかない妻は、暗天を見上げた。
「・・・お月さまのことが、嫌いでした」
「・・・。」
「私には、わかっていました。あなたに会う前から。
私の夫を、横からかっさらう、嫌な女が現われることが・・・」
目がひとつしかない妻。
その目を、閉じた。
「私の息も、いよいよ続かないようです・・・。
最後にひとつ、よろしいですか」
「なんじゃ」
「戦った者どもに、褒美を・・・」
「ほうび」
「私の父に。お弟子さんがた、エスロ博士に。
空飛ぶ台ども、コボルドどもに・・・。
この世での生命を賭して(として)、戦った者たちに、褒美を」
「褒美か。何がよいであろうか?」
鬼神が、そう訊くと。
目がひとつしかない妻は、きっぱりと言うた。
「永遠の生命」
「えいえんのいのち?」
「そうですわ」
「そんなものを、どうやって?」
「わかりませんわ」
「わからんのか」
「ですが、これができて、初めて・・・あなたは、神ということです」
「なんと」
「ああ、あなた。もういけません。ここまでのようです。
さようなら」
謎かけのような言葉を遺して(のこして)。
目がひとつしかない妻、死す。
そして、このときをもって、巨人という種族も、この世に居らぬ者となった。
「息子どもよ。私は、年老いたわい」
鬼神は、妻の遺体をかたわらに、息子どもに言うた。
「・・・。」長男は沈黙した。
「見た目は変わらんぞ」次男は言い返した。
「ほじゃ。わしらのほうが、おっさんじゃ」三男もうなずく。
「いいや。私は、もはや、若くない」
鬼神は首を振った。
「私たちの時代は、終わったのだ・・・」
その夜。
鬼神は妻をとむらい、息子どもを手伝うた。
国王の元鬼と、今後どうするか、ぼそぼそと相談などをする。
しておると。
空に、光が差してきた。
「やっと、朝か・・・」と元鬼。
「いや、この光はちがうぞ」
鬼神は見た。
淡い金色に輝く光が、空から地上へ──アルフェロン湖のほうへと、降りてくるのを。
「これは、『月の道』じゃ」
◆ 10、月の巫女、宮殿の最後をかたる ◆
鬼神。
元鬼に許しをもらい、陸号を借り出した。
月の道の降りるところへと、急ぐ。
巨大湖アルフェロンのほとり。
雪に覆われ、白く凍りついた洞窟の入り口。
「ここは、『湖の神殿』ではないか」
鬼神。
月の道が地面にくっついとるのを見て、首をひねる。
「おかしいな?
お月は、地面にくっつけるのを嫌がっておったはずだが・・・?」
どしゃあ! 飛び降りる。
<ぎゃあ!>建築ユニットが、悲鳴を上げた。<乱暴な>
「だから、なんで頭の上に乗る」
<おじちゃん1人にしたら、どっか行ってしまうじゃろが!>
ぶわっさ。ぶわっさ。
陸号、鬼神にあいさつ。鬼神が「うむ」と彼の肩(?)を叩くと、陸号、飛び去った。
<礼鬼閣下のとこへ行くそうです>
「だろうな。礼鬼も、相棒が居らんと困るだろう」
妙雅としゃべっとると、騒ぐ声が聞こえてきた。
「わー!」「わー!」「女神さまのお通りや」「歓迎せえ」「雪かきせえ」
駆け下りてきた者ども。
ダークエルフであった。若い兵士どもである。
「おう」
「うおっ! 怪物」「あ、ちゃうわ。鬼神さま」「えらい失礼しました。怪物かと」
「うむ。月の道が見えたので、飛んで来たのじゃ」
「さすが、神様。お早いお着きで」
ダークエルフども、雪かきす。
鬼神はちょっと横に避けて、待った。
<おじちゃんなら一発なのに>
「しっ。彼らの神さまなのだから」
降りてきたのは。
月の女神ではなく、ダークエルフの巫女たちであった。
「鬼神さま」
月の道を降りてきた巫女ども。
フラフラになって、鬼神の足元に倒れる。
「おい、どうした。しっかりせよ」
「あ、こらアレですわ。巫女の病ですわ。おい、担架持って来い! おまえは治療師さまに言うてこい!」
「ああ・・・」
鬼神うなずく。
月から降りてきた者が、身体を悪くする病である。ルシーナとハルモニアーも、これに悩まされた。
巫女たちは、あのときの娘どもより悪い。いまにも気絶しそう。
でありながら、何か訴えて来よる。
「鬼神さま・・・お伝えせなアカンことが・・・」
「どうした。無理はするな」
「月の宮殿が・・・隕石に・・・」
「なに?」
「お二人が地球へ向かわれて、半日ほど経ったころでしょうか。
女神さまの御声が、宮殿に響きました。
『隕石が落ちる。いますぐ逃げよ。月の道を走ってゆけ』と。
うちらは、すぐに、そのようにしました。
ふだんから、こういう時のことは、言われとったからです。
何もかも放り出して、逃げてきました・・・」
「では、いんせきが落ちたのか」
「はい。うちらが月を離れた、ちょうどそのとき・・・」
巫女。
気分の悪そうな顔をしながら、がんばってしゃべった。
「・・・ものすごい音が、後ろから聞こえてきました。
見ますと、宮殿のあたりは土煙でいっぱいになっておりました。
うちら、びびって、逃げました。
しばらくして、もう足も動かへんっちゅうことになって、恐る恐る後ろを見ましたら・・・。
月の宮殿が・・・大きな隕石によって、粉々にされておりました・・・」
「なんと」
鬼神はびっくりし、それから「ああ!」と膝を打った。
「お月が、消える前に言うておったわ。
『隕石を止めにゆく』と。
あれは、こういうことだったのか!」
「どういうことです・・・?」
「神竜じゃ。
神竜が『災い』のルーンとやらで、隕石を呼びおったのだ。
お月は、それを防ぐため、そなたらを逃がすため、急いで月に戻ったのであろう」
「おお・・・」
「本当に、危ないところだった。よく助かったな。
逃げおくれた者などは居るまいな?」
「それが・・・女神さまの御姿が、どこにも・・・」
「なに」
鬼神。
がばっと、月の道を見上げた。
<ぎゃあ>妙雅落っこちそうになり。爪立てる。痛い。
「お月!」
鬼神。月の道に飛び込み、月を目指して、駆け上がる。
だが。
突然。
足が空振りし、踏むものがなくなった。
目の前が暗くなり、鬼神は空中に投げ出される。
ずでんどう。雪凍る地面に、落ちた。
「月の道が、なくなってしもうた」
「女神さま・・・!」
月の宮殿の巫女たちは泣き出し、倒れてしもうた。
担架に乗せられ、運ばれてゆく。
鬼神。
ぽつんと湖岸に残り、空を見上げた。
暗雲に閉ざされた空には、もう、光は見えなんだ。
「鬼神さま」
絹ぐものローブにマフラーした、ダークエルフの巫女がやって来た。
「おお。そなたは、巫女の長」
「はい」
やって来たのは、『湖の神殿』の巫女長であった。
「・・・女神さまは、きっと大丈夫でいらっしゃいます。
隕石をお受けになられるのも、これが初めてやありませんし」
「そ、そうなのか?」
「はい。きっと、大丈夫です。
神様は、永遠の生命をお持ちですから」
「えいえんのいのちか」
鬼神、考え込む。
落ち着いたと見て、巫女長。こう言うた。
「それで、鬼神さま。
御令嬢のイリスさまが、中でお待ちですが」
「・・・ぬ! イリスが、ここに居るのか!?」
鬼神振り向く。
巫女長、ちょっとびびる。「は、はい。あの、はい」
「・・・妙雅。もう降りろ。猊下(げいか)がびびっとる」
<もうちょっと。雪のないとこまで>
「ええい。運んでやるから、頭からは降りろ」
<はーい>
鬼神。
巫女長に案内され、湖の神殿に入る。
そして、イリスと再会したのであった。
◆ 11、鬼神、イリスにルーンをゆるす ◆
三女のイリス。
死んでもおかしくないほどの大怪我をした娘が・・・
「父上!」
めっちゃ元気に飛びついてきおった。
鬼神びっくりする。
建築ユニットと一緒くたに、イリスを抱き締める。
「おまえ、腕はどうしたのだ」
「犬の女神さまに治してもろた」
「なんと」
「この固いん、なに?」
「妙雅じゃ」
<お邪魔しております>
「妙雅も無事やったんや!」
イリス喜び、建築ユニットを撫で撫でする。鬼神から取り上げ、自分が胸に抱っこした。
「・・・。」
鬼神が黙っておると、イリスはベットに座り、ため息をひとつ。「・・・ルシ姉は?」
「・・・。」
<・・・。>
「そっか」
イリスは建築ユニットを撫で撫でした。
その右手が妙に赤く力強いのに、鬼神は気付いた。後に詳しいことを聞き、びっくりすることになる。
床にあぐらをかく鬼神。
イリスはこんなことを言い出した。
「じつは、夢に出て来てん」
「は?」
「ルシ姉。夢に出て来て、なんか言うとった」
「なんと言うとったのだ?」
「なんやったっけ・・・」
イリスは首をひねってしばらく考えてから、言うた。
「えっとね。
『ルーンに言うてたもう。帰れなんだが、勝ちは勝ち、司祭やれ』。
『カバリオのこと、すまぬ』」
「は・・・?」
「そな感じやったえ」
「それだけか?」
「それだけ」
鬼神、ため息つく。
「ルシーナはもう・・・なんじゃ・・・わしらにも、一言ぐらい・・・」
「目標決めたら、他のこと目に入らへんねん。姉者」
「まったくじゃ」
「カバリオ隊長も亡くなったん・・・」
「うむ。彼の遺体は、もう帰国しておる。
ルシーナは、ボナス閣下が探してくれておるが・・・」
<発見の望みは、薄いですね・・・>
「うむ。適当なところで打ち切るよう、元鬼たちと相談せよ。でないと、」
<閣下のお身体も心配ですからね>
「そうだ」
しばし沈黙。
それから、イリスが、自分の話をした。
ポタージュ、その父のナウマーズ、犬の女神、そしてダークエルフたちに助けられた話を。
「ナウマーズさんは、どんな御方なのじゃ?」
「わからへん。うち死にかけとったに」
「ではせめて、ポタージュお嬢さんにお礼を」
「ポタージュ、いまどっか行っておる」
「なんだと。それじゃ、もう会えんではないか」
「そのうち、ぱっと出て来るえ。
よう知っとる相手のことは、『空間』のルーンで名指しできるらしいねん」
「すごいルーンだな・・・」
「うん。
あ、ルーンと言えば。
父上、うち、『力』のルーン返してへん」
「ああ、そうだったのう。
どうする?」
「うちが決めてええことなん?」
「うむ」
鬼神はうなずいた。
「なんでといって、おまえはすでに、ルーンの使い手だからじゃ。
『力』のルーンを使い、立派に仲間を守ったのだから」
「そっか」
イリスはしばらく建築ユニットを撫でながら考えた。
そして、うなずいた。
「ほな、このまま行く」
「よかろう。そうせよ」
こうして、イリスはルーンの使用者となったのであった。
「それにしても、夢か・・・」
鬼神は腕を組んだ。
生まれつきの腕でない、4本の腕も組んだ──ことで、思い出した。
「そう言えば、死んだ弟が夢に出て来たことがあったわい」
「おっ父の若いときの話?」
「うむ」
「うち、なんももろてへんけど」
「なんじゃ。六本腕になりたかったのか」
「そやないけど」と言うてから、イリス、考え込む。
「どうした、イリス」
「・・・死んだら、どないなるんかに?」
3人。顔を見合わせる。
「さあのう」<どうなるんでしょうねえ>
◆ 12、ルシーナとカバリオ、かたをくむ ◆
・・・死んだら、どうなるんか?
これほど誰もが疑問に思い、誰も証拠を手に入れれん話題も、珍しいですね。
鬼神にも、答えようがなかった。なんでといって、まだ死んだことがなかったからだ。
ただし。
この鬼神のお話の中では、こんなことが起こったと伝えられております・・・
──
春の時化(しけ)に、荒れ狂う海。
岩礁に引っ掛かり、難破した客船。
ずぶ濡れの、ハルモニアー!
迫り来る海賊船!
その船上には!
ルシーナと、カバリオ隊長!
肩組んで、ハルモニアーに、親指立てて見せる!
──
・・・と、こんなことが、起こったというのだ。
いったい、どういうことなのか?
なんで死んだ2人が、肩組んで親指立てて海賊船なんちゅうことになるのやら?
そのあたりの事情は、また次回!
今日はここまで。次回、お楽しみに~