六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

74 / 93
災いのあと(2) 妻、しす

◆ 6、鬼神、いらいをうける ◆

 

<おじちゃん。みなさんが上がって来ますので、もう一回お願いします>

「うむ」

 妙雅、中央甲板。

 雪で真っ白。凍りついて、カチンコチン。

 鬼神、そんな彼女に手をついて、

「『力』のルーン! 雪よ氷よ、ひび割れよ。粉々になって、飛んでゆけ!」

 ばきばきばき!

 雪は板となって剥がれ、空に舞い、粉々になって、散ってゆく!

 それはまるで、神竜のウロコが剥がれたときのように。

 巨人の王のハンマーが神竜を叩き、ウロコが剥がれて飛んでった。あのときのように。

 

 空飛ぶ母艦・妙雅。

 アルフェロンに、帰還す。

 傷ついた艦体でノロノロと、低空飛んでやっとこさ。

 

≪丘の街に・・・到着しました・・・。停止します・・・します・・・ます・・・≫

 こだます妙雅のアナウンス。

 街道沿いの、森の上。

 ぎしぎし・・・ごきごき・・・。

 艦体、しんどそうに、音を上げる。

 小型の空飛ぶ台どもが、補助塔ハッチを飛び出して、甲板の上にやって来る。

 同盟軍の勇士たち、昇降台で上がって来る。

 1人2人、また1人、空飛ぶ台にて、降りてゆく。

 太陽神殿のハナ司祭。月の巫女のサステリア。丘の街のワラント隊長。

 魔術師クリスタルは、ボナス閣下にあいさつをして。

 みーんな降りて、帰っていった。

 

 ボナス閣下は、妙雅に残る。

「臨時司令官の職は、国王陛下にお返しいたす。

 そやに、エスロの捜索はさせて頂きたい」

 ──という理由であった。

<了解した>

 認めたのは、近衛隊長・武鬼である。

<ルシーナ参謀らの捜索、引き続き指揮をお願いしたい。肆号・伍号もそのまま使ってくれ>

「ありがとうございまする。では、私も現場に」

 ボナス閣下はそう言うと、空へ舞い上がった。

「『風』のルーン! 疾く(とく)吹き流せ、私を、弟子のところへ!」

 ゴオ!

 突風がボナス閣下をさらい、あっちゅう間に西の彼方へ。

 

「これで、終わりか・・・」

 鬼神はつぶやいた。

 右に、建築ユニット。正八角柱をぺちゃんこにしたみたいな気持ち悪いやつ。

 左には、六腕単眼ロボ。三男の機鬼が乗っとる、お団子から腕生やしたみたいな不細工なやつ。

<いえ。じつは、まだ問題が>

 ギョロリ。

 妙雅の建築ユニットが、ひとつしかない目で、鬼神を睨み上げた。

「なんだと」

<こちら武鬼。父上。巨人の国の近衛隊長として、正式に、依頼をしたい>

「なんじゃ。あらたまって」

<じつはな>

 武鬼、声を落とす。

<うちの国と、連絡がつかんのだ>

 

 鬼神。

 陸号に飛び乗り、湖の上をかっ飛ばして、巨人の国を目指した。

 

<すみません>妙雅が謝ってきた。<思うところ、おありでしょう>

「いや」

 それは、まあ──

「なんでもっと早く言わん!」とか。

「丘の街に寄っとる場合ではなかろう!」とか。

 ──思わんではなかったけれども。

「国のことは、そなたらに譲ったのだ。

 だからかまわん。

 ・・・かまわんのだが、妙雅よ」

<なんですか? おじちゃん>

 ギョロリ。

 建築ユニット。

 頭上から、睨み下ろしてきよる。

「なんで、頭に乗る」

 建築ユニット、鬼神の頭にへばりついとるんである。

<おじちゃんだって、私の頭に乗った。おあいこでしょう>

「おまえもたいがいしつこい奴だな」

<誰に似たんでしょうね>

「重たい。危ない。足元に居らんか」

<真面目に答えますが、下りません。先を見るのに、都合が良いので>

「わしゃ、見張り塔か!」

<まもなく、巨人の国です>

 軽口叩いておった2人。

 同時に、口を閉じる。

 前方。

 工房のお山が、見えてくる──はずの、前方に。

 異変、見た。

 

 いと巨大なる白銀の板が、のっぺりと地面から突き出しておる。

 

「妙雅!」

<武鬼閣下につなぎます!>

<・・・どうした父上>

「でっかい板が」鬼神、呆然としゃべる。「お山に、かぶさっておる」

 

◆ 7、お山、つぶされる ◆

 

 いと巨大なる、白銀の板!

 工房のお山があるはずの場所に、いすわっておる!

 なんと巨大! お山が、ほとんど、見えぬ! ふもとしか!

 

<何があったんじゃ、父上>

<板とはなんだ>

 ぶわっさ、ぶわっさ!?

 みなが、騒ぐ中。

 鬼神は、額の第三眼を開いて、じーっとその板を見つめた。

 金属のごとき光沢。冷たく輝くその色合い・・・

「ウロコ!!!」 

 見覚えが、あった!

「あれは、神竜のウロコじゃ!」

 

 おお! なんと、それは!

 神竜のウロコの1枚!

 工房のお山を、押しつぶしておる!

 

<あのときだ・・・>

 妙雅がつぶやいた。

<おっ父が、神竜のウロコを剥がしたとき。1枚、こっちに飛んだ>

 

 そう。

 それは、巨人の王がハンマーでぶっ叩いて剥がした、ウロコの1枚であった。

 巨人の王が神竜に負けたのも、このウロコのせい。

 ウロコが工房のほうに飛んだため、気になって、よそ見をした。それで、神竜に殺されてしもうたんである。

 

「くそっ! 陸よ、急げ!」

<足元に、人間の集団>

「ぬ?」

 お山。

 見知らぬ人間どもに、囲まれておった。

「わー」「わー」「押し入れ、奪え!」「邪魔するやつは、殺してしまえ!」

 ヒューマンとコボルド。合わせて30人ほど。

 毛皮の服着て、棍棒や槍持ち、たいまつ持って、工房のお山の正面でワーワー騒いでおる。

「山賊か」

<いえ。用意周到な、強盗ですね、あれは>

 たしかに。

 空荷のロバ1頭、大八車(だいはちぐるま)3台が、混ざっておる。準備して来なければこうはならぬ。

 また、その言うよう──

「巨人は死んだ! 狙い目だ!」「巨人のお宝、俺らのものだ!」「わっはっは、ボロ儲け!」

 ──用意周到、計画的な、強盗であった。

「よし。ぶっ飛ばす」

<ちょい待ち>と妙雅。

「なんじゃ」

<・・・こちら武鬼>

「なんじゃ」

<父上、生け捕りにせよ>

「いけどりだと」

<殺すと、内務大臣がうるさいのだ>

「網もないのにから・・・」

 鬼神、頭の上の建築ユニットを引っ剥がす。<ぎゃあ!>

「ま、よかろう!

 私もいまや、『力』のルーンを極めた男だ! 任せておけい」

 ぶわっさ?

「うむ。陸よ、あいつらの上をゆっくり飛び越せ」

 ぶわっさ。

 ゆーっくり。

 鬼神、飛び降り。

 どしゃあ! 着地。

「・・・ゆっくりすぎじゃ」つぶやく。「相棒。やはり、おまえは特別であった」

 両手を地面に。

「『力』のルーン! 『圧縮する』!」

 力を、土に伝える・・・。

 いきなりガチガチにするのではなく・・・。

 両手から放射した力が、地中、1尋ほど潜ったあたりで、集結する感じに・・・。

「あれだ。

 小さな氏族でごちそうになった、土中蒸し焼き!

 あんな感じで、土の中の方だけ、あつあつ、ぺちゃんこになーれ!」

 

 地面、湯気立てる!

 ずずずず・・・。

 音がしたかと思うと!

 ずごーん! いきなり、へっこんだ!

 巨大なる凹み! 山賊ども、ぜーんぶ、穴に落っこちる!

 

「げあー!」「うわあ」「足が折れた」「手が折れた」

 背丈より深い穴! 叫ぶ強盗! 悲鳴上げるロバ!

「殺すなと言われたから、浅くしてみたが・・・。

 肩車でもすれば、出て来れそうだな。

 フタが必要じゃ」

 鬼神。

 顔を上げる。

「して、ちょうどええもんが、ここにある」

 

「そーれ、『力』のルーン!

 悪い竜のウロコよ、悪い人間を閉じ込めよ!

 名付けて、どっちもどっちブタ!」

 

 ごばあああ・・・! 

 神竜のウロコ持ち上げ、

 

 ずどおおおおん・・・!

 穴にかぶせる。

 

 山賊ども、絶叫するも、もはや脱出不能。

 捕縛完了である!

 

 鬼神、正門へ。

 お山。

 見るも無惨に、崩れておる。

 大きな扉も、ひしゃげ、土に埋もれておる!

「おお・・・!」

 鬼神、大急ぎで、工房を掘り返しにかかった。

 

◆ 8、鬼神、ほりかえす ◆

 

 鬼神、掘り返す。

 陸号、降りてくる。

 ざしゅざしゅざしゅ。妙雅の建築ユニット、鉤爪を雪に突き刺しながら、歩いて来る。

<鬼神さま、強盗の捕縛に成功>と、実況。<お山が崩れ、工房が埋まっています。至急応援求む>

「妙雅、下がれ。倒れてくるぞ」

 

 ぎ、ぎ、ぎ、ご、ご、ごごご・・・!

 

 大きな扉が、ぶっ倒れてきた。

 鬼神。その扉を受け止めて・・・。

 

 ──初めてこの扉を見たときのこと。

 ──扉の陰で、恥ずかしそうにもじもじしておった、巨人の姫のこと。

 

 ・・・思い出したが、いまはもう、どうしようもない。扉をうっちゃり、穴掘りにもどる。

「わんわん! 鬼神さま、我ら、お手伝いいたしまする!」

 神竜との戦いで、もうズタボロになっておるコボルドども。

 自分の疲労はそっちのけで、駆けつけ、土に飛び込み、手伝うてくれる。

 ふんがふんがふんが!

 匂いを嗅いでは、穴を掘り、匂いを嗅いでは、穴を掘る。

「こちら、奥方の気配あり!」

「おお・・・!!!」

「近いでござる。あと半尋ほど!」

「左上、崩れそうでござる!」

「『力』のルーン、『圧縮する』! 土よ、お山を支える壁となれ!」

 

 匂い嗅いでは穴を掘り、穴を掘っては壁固める。

 そうして。

 鬼神の手が、巨人の女を1人、掘り出した。

 

「おまえ! しっかりせよ!」

「・・・まあ、あなた。どうして、こんなところに?」

 四つん這いにうずくまった、巨人の女。

 目がひとつしかない妻を、掘り出したのであった。

 鬼神、コボルド兵、土をかき出す。

「しっかりせよ。いま引っこ抜く」

「いけません・・・私を、引っこ抜いては・・・」

「なんでじゃ」

「なんでといって、私が、お山と天井を、支えているからです。

 私を引っこ抜いたら・・・閉じ込められた、息子たちが・・・死んでしまいます」

「ぬう!」

 なんと頑強! 巨人の女! お山の崩壊を、1人で支えて来たというんである!

 鬼神、奥を見る。

 目がひとつしかない妻の、四つん這いの、身体の下。

 たしかに、空間が見える!

 だが!

 穴が小さすぎ、鬼神、入れぬ!

 鬼神、コボルドを見る。

「御子息のこと、了解でござる!」

「者ども、突入でござる!」

 コボルド兵ども、突入。

 目がひとつしかない妻の身体の下をくぐり抜け、内部に飛び込む。

「『力』のルーン! 壁よ、あと少しでよい。がんばれ!」

 鬼神も手を伸ばし、支援をする。

「わんわんわん! 元鬼(げんき)陛下、発見! 御無事でござる!」

「書鬼(しょっきー)閣下発見!」

「換鬼(かんき)閣下発見!」

「わんわん! 崩れるでござる! 崩れるでござる!」

 息子どもが、這い出してきた。

 鬼神が、目がひとつしかない妻を引っこ抜いた。

 その直後。

 

 ず、ず、ず、ず、ず・・・ず、う、う、う、うん・・・・・・・・・!!!

 

 工房のお山は、崩れ去った。

 

 砂の城が、波に溶けてゆくがごとく。

 巨人の王の工房。

 幸せな家庭の思い出と共に、永遠の眠りについた。

 

「・・・あなたも、あのようなことができるようになったのですね」

 目がひとつしかない妻。

 鬼神に運ばれてゆくあいだ、弱々しく、そんなことを言うた。

「土を固めたりすることか?」

「はい。父も・・・、『力』のはたらきのハンマーで、同じようなことを。

 『簡単すぎて、つまらん』などと言い、すぐやめてしまいましたが・・・」

「義父上らしいわ!」

「神竜は」

「落ちた。妙雅たちの、勝ちじゃ」

「それは良うございました」

「・・・だが」

「父上は、討ち死にをなさったのですね」

「うむ」

「お弟子さんがたも、エスロ博士も・・・亡くなられたのでしょう・・・」

「なぜ、わかった」

「わかりません。

 ですが、こうなるであろうことは、私にはわかっていました。

 どうにかしようと、してきたのですが・・・」

 目がひとつしかない妻。

 その目を半分閉じて、こう言うた。

「次は・・・私の番のようですわ・・・」

 

◆ 9、妻、しす ◆

 

「あきらめてはいかん」

「いいえ。私はもう、満足しているのです。

 やり切ったとの思い。これ以上の時はないとの、確信があります・・・」

 

 目がひとつしかない妻。息子どもを、呼び寄せた。

 

 長男。国王陛下やっとる、元鬼。

 次男。陸号に寝たままで飛んできた、武鬼。起き上がろうとして、ハナ司祭に「だめですえ!」と怒られた。

 三男。六腕ロボで走って来た、機鬼

 四男。コボルドに支えられて、書鬼。

 五男。水汲んで持って来てくれた、換鬼。

 義理の妹。妙雅。の建築ユニット。ひとつしかない目、ギョロリ。

 

「礼鬼(れいぎ)はどうした?」と鬼神。

 六男の礼鬼が居らんのである。

「丘の街だ」と、元鬼。「神竜討伐軍、連絡将校役」

<無事です>と妙雅。<雪で動けないが、生きとる、心配いらん、との連絡あり>

「そうか」

 

「母は、今日このときが来ることを、知っておりました・・・」

 目がひとつしかない妻が、父と息子たちを前に、しゃべった。

「大いなる災いが来ること。

 巨人が、この世に居らぬ種族になることを」

「母上・・・」

「この力。未来がわかる力は、呪い(のろい)でした。

 なんでわかるのか、わからない。

 どうやって避ければいいのかも、わからない。

 だというのに、未来は、訪れる・・・。

 これは、つらいことでした。

 若いころには、何もかもを、あきらめたこともありました。

 ですが父上が来てからは、決してあきらめませんでした。

 おまえたちが生まれてからは。

 これはとても大変な仕事でした。

 ですが、私は、やり切りました。

 いまは・・・とても・・・、ほっとした気分です。

 ですから、『行くな』と言わず、『よくやった』と言って、見送ってもらいたいのです・・・」

 

 目がひとつしかない妻は、息子ども1人1人に、これからのアドバイスをした。

 最後に鬼神が呼ばれる。

 

「あなた。私はずっと思っていたのですが・・・」

「なんじゃ?」

「あなたには、私が起こると思っている未来を、起こさなくする力があるようですわ」

「うん?

 未来を起こさなくするだと?」

「あなたが家出をするとき、私はこう申しましたでしょう。

 『これが私たちの、この世で最後のお別れになる』と。

 ですがそうはなりませんでした」

「ふむ」

「この大いなる災いにおいて、私は、一族が死に絶えるものと思っておりました。

 ですがそうはなりませんでした」

「しかし、私に、そんな力はないぞ」

「ありますわ。未来の・・・破滅を、避ける(よける)力が」

「いやいや!」

 鬼神は手を振った。

「私には、特別な力なんてない!

 というかだ。

 どんな人間にだって、そういう力は、あるだろう。

 日々ちょっとずつ世の中を良くする。

 いやな未来を起こさなくする力は。

 おまえだってそうだ。私もそうだ。特別じゃないのだ。身体だけは、こんなでっかいけれども」

「いいえ、ありますわ」

「そうかのう」

「そうですわ」

 

 しばし、沈黙。

 

「・・・なあ、おまえ」

「なんです? あなた」

「すまなんだ。

 いまさら許せなどと、虫のええことは言わん。だが、すまなんだ」

「なにを謝るのです」

「そなたに恥をかかせたことだ。

 そなたはとてもよい女だのに、私はそなたに恥をかかせた。

 また、そのせいで、義父上と一緒に戦えなんだ」

「そこですか・・・」

「私はな。

 ただただ、この世界を飛び回りたかったのだ。

 あんな素晴らしい相棒を授かったからには、なおさらな」

「私は・・・、」

 目がひとつしかない妻は、暗天を見上げた。

「・・・お月さまのことが、嫌いでした」

「・・・。」

「私には、わかっていました。あなたに会う前から。

 私の夫を、横からかっさらう、嫌な女が現われることが・・・」

 

 目がひとつしかない妻。

 その目を、閉じた。

 

「私の息も、いよいよ続かないようです・・・。

 最後にひとつ、よろしいですか」

「なんじゃ」

「戦った者どもに、褒美を・・・」

「ほうび」

「私の父に。お弟子さんがた、エスロ博士に。

 空飛ぶ台ども、コボルドどもに・・・。

 この世での生命を賭して(として)、戦った者たちに、褒美を」

「褒美か。何がよいであろうか?」

 鬼神が、そう訊くと。

 目がひとつしかない妻は、きっぱりと言うた。

「永遠の生命」

「えいえんのいのち?」

「そうですわ」

「そんなものを、どうやって?」

「わかりませんわ」

「わからんのか」

「ですが、これができて、初めて・・・あなたは、神ということです」

「なんと」

「ああ、あなた。もういけません。ここまでのようです。

 さようなら」

 

 謎かけのような言葉を遺して(のこして)。

 目がひとつしかない妻、死す。

 そして、このときをもって、巨人という種族も、この世に居らぬ者となった。

 

「息子どもよ。私は、年老いたわい」

 鬼神は、妻の遺体をかたわらに、息子どもに言うた。

「・・・。」長男は沈黙した。

「見た目は変わらんぞ」次男は言い返した。

「ほじゃ。わしらのほうが、おっさんじゃ」三男もうなずく。

「いいや。私は、もはや、若くない」

 鬼神は首を振った。

「私たちの時代は、終わったのだ・・・」

 

 その夜。

 鬼神は妻をとむらい、息子どもを手伝うた。

 国王の元鬼と、今後どうするか、ぼそぼそと相談などをする。

 しておると。

 

 空に、光が差してきた。

 

「やっと、朝か・・・」と元鬼。

「いや、この光はちがうぞ」

 鬼神は見た。

 淡い金色に輝く光が、空から地上へ──アルフェロン湖のほうへと、降りてくるのを。

「これは、『月の道』じゃ」

 

◆ 10、月の巫女、宮殿の最後をかたる ◆

 

 鬼神。

 元鬼に許しをもらい、陸号を借り出した。

 月の道の降りるところへと、急ぐ。

 巨大湖アルフェロンのほとり。

 雪に覆われ、白く凍りついた洞窟の入り口。

「ここは、『湖の神殿』ではないか」

 鬼神。

 月の道が地面にくっついとるのを見て、首をひねる。

「おかしいな?

 お月は、地面にくっつけるのを嫌がっておったはずだが・・・?」

 どしゃあ! 飛び降りる。

<ぎゃあ!>建築ユニットが、悲鳴を上げた。<乱暴な>

「だから、なんで頭の上に乗る」

<おじちゃん1人にしたら、どっか行ってしまうじゃろが!>

 ぶわっさ。ぶわっさ。

 陸号、鬼神にあいさつ。鬼神が「うむ」と彼の肩(?)を叩くと、陸号、飛び去った。

<礼鬼閣下のとこへ行くそうです>

「だろうな。礼鬼も、相棒が居らんと困るだろう」

 妙雅としゃべっとると、騒ぐ声が聞こえてきた。

「わー!」「わー!」「女神さまのお通りや」「歓迎せえ」「雪かきせえ」

 駆け下りてきた者ども。

 ダークエルフであった。若い兵士どもである。

「おう」

「うおっ! 怪物」「あ、ちゃうわ。鬼神さま」「えらい失礼しました。怪物かと」

「うむ。月の道が見えたので、飛んで来たのじゃ」

「さすが、神様。お早いお着きで」

 ダークエルフども、雪かきす。

 鬼神はちょっと横に避けて、待った。

<おじちゃんなら一発なのに>

「しっ。彼らの神さまなのだから」

 

 降りてきたのは。

 月の女神ではなく、ダークエルフの巫女たちであった。

 

「鬼神さま」

 月の道を降りてきた巫女ども。

 フラフラになって、鬼神の足元に倒れる。

「おい、どうした。しっかりせよ」

「あ、こらアレですわ。巫女の病ですわ。おい、担架持って来い! おまえは治療師さまに言うてこい!」

「ああ・・・」

 鬼神うなずく。

 月から降りてきた者が、身体を悪くする病である。ルシーナとハルモニアーも、これに悩まされた。

 巫女たちは、あのときの娘どもより悪い。いまにも気絶しそう。

 でありながら、何か訴えて来よる。

「鬼神さま・・・お伝えせなアカンことが・・・」

「どうした。無理はするな」

「月の宮殿が・・・隕石に・・・」

「なに?」

 

「お二人が地球へ向かわれて、半日ほど経ったころでしょうか。

 女神さまの御声が、宮殿に響きました。

 『隕石が落ちる。いますぐ逃げよ。月の道を走ってゆけ』と。

 うちらは、すぐに、そのようにしました。

 ふだんから、こういう時のことは、言われとったからです。

 何もかも放り出して、逃げてきました・・・」

「では、いんせきが落ちたのか」

「はい。うちらが月を離れた、ちょうどそのとき・・・」

 巫女。

 気分の悪そうな顔をしながら、がんばってしゃべった。

「・・・ものすごい音が、後ろから聞こえてきました。

 見ますと、宮殿のあたりは土煙でいっぱいになっておりました。

 うちら、びびって、逃げました。

 しばらくして、もう足も動かへんっちゅうことになって、恐る恐る後ろを見ましたら・・・。

 月の宮殿が・・・大きな隕石によって、粉々にされておりました・・・」

「なんと」

 鬼神はびっくりし、それから「ああ!」と膝を打った。

「お月が、消える前に言うておったわ。

 『隕石を止めにゆく』と。

 あれは、こういうことだったのか!」

「どういうことです・・・?」

「神竜じゃ。

 神竜が『災い』のルーンとやらで、隕石を呼びおったのだ。

 お月は、それを防ぐため、そなたらを逃がすため、急いで月に戻ったのであろう」

「おお・・・」

「本当に、危ないところだった。よく助かったな。

 逃げおくれた者などは居るまいな?」

「それが・・・女神さまの御姿が、どこにも・・・」

「なに」

 鬼神。

 がばっと、月の道を見上げた。

<ぎゃあ>妙雅落っこちそうになり。爪立てる。痛い。

「お月!」

 鬼神。月の道に飛び込み、月を目指して、駆け上がる。

 だが。

 突然。

 足が空振りし、踏むものがなくなった。

 目の前が暗くなり、鬼神は空中に投げ出される。

 ずでんどう。雪凍る地面に、落ちた。

「月の道が、なくなってしもうた」

「女神さま・・・!」

 月の宮殿の巫女たちは泣き出し、倒れてしもうた。

 担架に乗せられ、運ばれてゆく。

 鬼神。

 ぽつんと湖岸に残り、空を見上げた。

 暗雲に閉ざされた空には、もう、光は見えなんだ。

 

「鬼神さま」

 絹ぐものローブにマフラーした、ダークエルフの巫女がやって来た。

「おお。そなたは、巫女の長」

「はい」

 やって来たのは、『湖の神殿』の巫女長であった。

「・・・女神さまは、きっと大丈夫でいらっしゃいます。

 隕石をお受けになられるのも、これが初めてやありませんし」

「そ、そうなのか?」

「はい。きっと、大丈夫です。

 神様は、永遠の生命をお持ちですから」

「えいえんのいのちか」

 鬼神、考え込む。

 落ち着いたと見て、巫女長。こう言うた。

「それで、鬼神さま。

 御令嬢のイリスさまが、中でお待ちですが」

「・・・ぬ! イリスが、ここに居るのか!?」

 鬼神振り向く。

 巫女長、ちょっとびびる。「は、はい。あの、はい」

「・・・妙雅。もう降りろ。猊下(げいか)がびびっとる」

<もうちょっと。雪のないとこまで>

「ええい。運んでやるから、頭からは降りろ」

<はーい>

 

 鬼神。

 巫女長に案内され、湖の神殿に入る。

 そして、イリスと再会したのであった。

 

◆ 11、鬼神、イリスにルーンをゆるす ◆

 

 三女のイリス。

 死んでもおかしくないほどの大怪我をした娘が・・・

「父上!」

 めっちゃ元気に飛びついてきおった。

 鬼神びっくりする。

 建築ユニットと一緒くたに、イリスを抱き締める。

「おまえ、腕はどうしたのだ」

「犬の女神さまに治してもろた」

「なんと」

「この固いん、なに?」

「妙雅じゃ」

<お邪魔しております>

「妙雅も無事やったんや!」

 イリス喜び、建築ユニットを撫で撫でする。鬼神から取り上げ、自分が胸に抱っこした。

「・・・。」

 鬼神が黙っておると、イリスはベットに座り、ため息をひとつ。「・・・ルシ姉は?」

「・・・。」

<・・・。>

「そっか」

 イリスは建築ユニットを撫で撫でした。

 その右手が妙に赤く力強いのに、鬼神は気付いた。後に詳しいことを聞き、びっくりすることになる。

 床にあぐらをかく鬼神。

 イリスはこんなことを言い出した。

「じつは、夢に出て来てん」

「は?」

「ルシ姉。夢に出て来て、なんか言うとった」

「なんと言うとったのだ?」

「なんやったっけ・・・」

 イリスは首をひねってしばらく考えてから、言うた。

「えっとね。

 『ルーンに言うてたもう。帰れなんだが、勝ちは勝ち、司祭やれ』。

 『カバリオのこと、すまぬ』」

「は・・・?」

「そな感じやったえ」

「それだけか?」

「それだけ」

 鬼神、ため息つく。

「ルシーナはもう・・・なんじゃ・・・わしらにも、一言ぐらい・・・」

「目標決めたら、他のこと目に入らへんねん。姉者」

「まったくじゃ」

「カバリオ隊長も亡くなったん・・・」

「うむ。彼の遺体は、もう帰国しておる。

 ルシーナは、ボナス閣下が探してくれておるが・・・」

<発見の望みは、薄いですね・・・>

「うむ。適当なところで打ち切るよう、元鬼たちと相談せよ。でないと、」

<閣下のお身体も心配ですからね>

「そうだ」

 

 しばし沈黙。

 

 それから、イリスが、自分の話をした。

 ポタージュ、その父のナウマーズ、犬の女神、そしてダークエルフたちに助けられた話を。

「ナウマーズさんは、どんな御方なのじゃ?」

「わからへん。うち死にかけとったに」

「ではせめて、ポタージュお嬢さんにお礼を」

「ポタージュ、いまどっか行っておる」

「なんだと。それじゃ、もう会えんではないか」

「そのうち、ぱっと出て来るえ。

 よう知っとる相手のことは、『空間』のルーンで名指しできるらしいねん」

「すごいルーンだな・・・」

「うん。

 あ、ルーンと言えば。

 父上、うち、『力』のルーン返してへん」

「ああ、そうだったのう。

 どうする?」

「うちが決めてええことなん?」

「うむ」

 鬼神はうなずいた。

「なんでといって、おまえはすでに、ルーンの使い手だからじゃ。

 『力』のルーンを使い、立派に仲間を守ったのだから」

「そっか」

 イリスはしばらく建築ユニットを撫でながら考えた。

 そして、うなずいた。

「ほな、このまま行く」

「よかろう。そうせよ」

 

 こうして、イリスはルーンの使用者となったのであった。

 

「それにしても、夢か・・・」

 鬼神は腕を組んだ。

 生まれつきの腕でない、4本の腕も組んだ──ことで、思い出した。

「そう言えば、死んだ弟が夢に出て来たことがあったわい」

「おっ父の若いときの話?」

「うむ」

「うち、なんももろてへんけど」

「なんじゃ。六本腕になりたかったのか」

「そやないけど」と言うてから、イリス、考え込む。

「どうした、イリス」

「・・・死んだら、どないなるんかに?」

 3人。顔を見合わせる。

「さあのう」<どうなるんでしょうねえ>

 

◆ 12、ルシーナとカバリオ、かたをくむ ◆

 

 ・・・死んだら、どうなるんか?

 これほど誰もが疑問に思い、誰も証拠を手に入れれん話題も、珍しいですね。

 鬼神にも、答えようがなかった。なんでといって、まだ死んだことがなかったからだ。

 

 ただし。

 この鬼神のお話の中では、こんなことが起こったと伝えられております・・・

 

──

 春の時化(しけ)に、荒れ狂う海。

 岩礁に引っ掛かり、難破した客船。

 ずぶ濡れの、ハルモニアー!

 迫り来る海賊船!

 その船上には!

 

 ルシーナと、カバリオ隊長!

 肩組んで、ハルモニアーに、親指立てて見せる!

──

 

 ・・・と、こんなことが、起こったというのだ。

 

 いったい、どういうことなのか?

 なんで死んだ2人が、肩組んで親指立てて海賊船なんちゅうことになるのやら?

 

 そのあたりの事情は、また次回!

 今日はここまで。次回、お楽しみに~

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。