六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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死の探索(4) ちび鬼神、孫にあう

◆ 15、ちび鬼神、であう ◆

 

 『萎む(しぼむ)』のルーンで小さく萎んでしもうた鬼神。

 ちび鬼神。背丈、人間の半分ぐらい。

 弱い。

 前回は、なんと! いのししごときに、突き飛ばされた。

「屈辱ジャ!」

 甲高い声で怒るも、元に戻る方法がわからぬ。

「戻レンモノハ、ショウガナイ。

 無理ハ、ヤメヨウ。安全第一デ、ユクゾ」

 

 ・・・と、方針を決めたのだが。

 どうやら、そうは行かんようであった。

 偶然なのか、運命なのか。

 戦に、出会ってしもうたんである。

 

 平原に、ヒューマンの街あり。

 そこに攻め寄せたるは、前回、ちび鬼神を襲った人間種族。

 鼻! ぶたのごとし!

 牙! いのししのごとし!

 巨体! 力士のごとし!

 百人あまりの軍勢。その武装、木の槍、革盾、革かぶと。

 街の門へと、押し寄せて来よる。

 このとき、鬼神がどこに居ったかと言いますと。

「アリャ! 戦カ!」

 その門の、すぐ内側に居ったのです。

 ついさっき、入ったばかりであったのだ。

「今日ハ、ココデ、休モウト思ッタノニカラ!」

 

「敵だァ!」「敵襲!」「門に攻めて来るぞァ!」

 街のヒューマンども、大騒ぎ。

 ぱからぱから! ぱからぱから!

 馬が、走って来た!

「オット!」

 ちび鬼神、あわてて道端に避ける。

「デカイノウ」

 その騎馬。じつに、でかい。

 馬の肩の高さが、ちび鬼神の2倍はある。その上に、体格のよいヒューマンの騎士が乗っておる。

 騎士はキラキラ輝くウロコみたいなヨロイを着ておる。青銅のウロコよろいか。立派で強そうである。

 だが、乗っとる馬のほうが、もっと強そう。

 尋常の馬ではない!

 この騎馬、ツノがある! 牙がある! 足が、なんと、8本もある!

「オオウ! 怪物馬ジャ」

「みなのもの、剣を取れ!」怪物馬の騎士、叫ぶ。「槍をもて! 門を閉ざせ! 石を持って来い」

 うわーーー!

 ヒューマンがわあわあ騒ぎながら駆けつけてきた。こちらは、徒歩であった。

 剣だの槍だの突き上げ、大きな袋を門の内側にごろっと投げ出す。石の入った袋か?

 そうして、木の格子門を閉ざし、丸太の閂(かんぬき)を掛ける。

 閉門完了!

「オウ」ちび鬼神、頭をかく。「出レンヨウニ、ナッテシモウタ」

「おい! そこの!」怪物馬の騎士。「そこの小さな、赤い、腕の多い者よ! おまえは何者だ」

「ウン? ・・・私ノコトカ?」

 ちび鬼神、見上げる。

 騎士の顔は、かぶとでわからぬ。だが本職の戦士なのであろう、迫力はたっぷりある。

 とはいえ、そんなことでびびる鬼神ではない。甲高い声で、へんじ。

「私ハ、旅ノ者ジャ! コノ街デ休モウト思ウテ、入ッテ来タトコロジャ!」

「声の甲高いやつ。何を言うとるのかわからぬ」

「旅ノ者ジャト、言ウテオル!」

「敵か? 味方か?」

「ドッチデモ、ナイゾ!」

「ええい。もうよいわ。時間の無駄じゃ。

 誰ぞ、このちびを、魔術師殿のところへ連れてゆけ!」

 怪物馬の騎士、命ず。

 そこらへんに居った荒くれヒューマン、3人がかりで、ちび鬼神を引っ掴む。ずるずる引きずり出した。

「ウワア! 何ヲスル!」

「騎士さまの命令だァ。魔術師さまのとこへ、行くぞ」「おとなしくしやがれ」「暴れたら、ぶちのめすぞァ」

「ナント、乱暴ナ!」

 ちび鬼神。野良ねこがごとくぶら下げられ、引っ立てられたのであった。

 

 ずるずるずる。街の中心まで、引っ張られてゆく。

 3階建ての建物の中へ。

 ちなみに、他の建物はほとんど平屋、ごく一部が2階建て。3階建ては、この建物だけであった。

 ざわざわ。わいわい。

 1階はホール。酒場であろうか? 人が大勢集まっておる。みな武装し、殺気立っておる。

 ちび鬼神が引きずり込まれるのと入れ代わりに、武器持った一団が走って出てった。

「魔術師さま! 怪物を連れて来ましたぞ」と、荒くれヒューマン3人。

 ホールの中央に1つだけ置かれたテーブル。

 ローブ着た男が、そこに座っておった。

「怪物とな?」

「怪物ジャナイワ! 放サンカ!」

「ふむ」

 ローブ着た男。立ち上がる。

 でかい! 他のヒューマンより、頭ひとつ分ぐらい、でっかい。

 魔術師と呼ばれておるが、戦士みたいな体格である。

 筋骨たくましく、肌は赤みを帯び、顔もゴツゴツしておる。

 だが、ちび鬼神を見てくる目は、冷静で、かしこそう。

 娘のイリスを思い出すような雰囲気であった。

「むむ? 腕が6本、額に第三の眼だと?」

「騎士さまが、連れて行けっておっしゃったんでさァ」「生意気なちびですぜ」「ぶん殴っちまおうかァ」

「そうか。殴るのは、ちょっと待ってくれ。

 ──六腕の小さな御方よ。あんた、誰じゃ? 何をしに来たのだ?」

「何ヲシニ来タンデモナイゾ! タダノ、通リガカリジャ!」

「きーきー言うんじゃねえ」ヒューマンども、ちび鬼神を小突く。「イライラする声だ」「殴っちまいましょうや」

「ヤメンカ!」

「通りがかりか。それは、本当か?」

「本当ジャ!」

「うそをつけ!」「怪物がァ」「敵に決まってらァ」ヒューマンども、ちび鬼神をゴツゴツと蹴ってきよる。

「オイ! エエ加減ニセント、コッチモ、ヤリ返スゾ!」

「まあまあ。私が相手をするから、手出しは控えてくだされ」

「はァ。まァ、あんたがそう言うなら・・・」

 魔術師が言うと、荒くれも引き下がった。

 なんせこの魔術師、偉丈夫(いじょうふ)。迫力がある。周囲の人間、素直に言うことを聞きよる。

「六腕の小さな御方よ。御名前をうかがおう」

「名前カ? 名前ハ・・・」

 

 鬼神、ちょっと、考えた──

 『鬼神』と名乗って、べつに悪いことはない。

 しかし。

 いま、この、萎んだ姿で、「鬼神じゃ」と名乗った場合。

「なんと! 鬼とは、こんな小っちゃい種族なのか」となり、

「神さまがこれなら、鬼なんて、大したことはないな」と見下され、

「よし、攻め滅ぼすぞ」・・・などとなってしまうんじゃないか?

 ということを、鬼神は心配したんである。

 攻められたからといって、息子の元鬼、娘のイリスが、負けるとは思わぬ。

 だがヒューマンどもは、みじめに死ぬことになる。

「ここは、仮名を名乗っておこう。ダークエルフ流じゃ!」

 ──といったことを、鬼神は考えたのであった。

 

「・・・なんか適当な名前はないかのう?

 ああそうだ! あれがあった!」

 

「我ガ名ハ、リッキー!」

「リッキー・・・!」

「ソウジャ! 今ノトコロハ、リッキート、名乗ル者ジャ!」

「なにがいまのところはだ」「こいつ、嘘ついてらァ」「本当のことを言え、こらァ」

 即座にばれた。

「・・・嘘は困りますぞ」

「ウ、嘘デハ、ナイゾ」鬼神、うろたえる。「我ガ人生デ、最初ニ、モロウタ名ナノダカラ!」

 まあ、本当である。

 鬼神の名をもらうより先に、旅先で出会うた女魔術師のすみれが、リッキーと呼んでくれたのだから。

 ちょうどええ仮名だわい! と、思ったのだが・・・ヒューマンどもには、疑われてしもうた。

「本当のお名前は、なんとおっしゃるのだ?」

「ソレハ、言エヌ」

「なんで言えんのだ?」

「ナンデトイッテ、今ノ私ハ、本来ノ私デハナイ! 仮ノ姿ジャ! ユエニ、仮ノ名ヲ名乗ルノガ、適当トイウワケジャ」

「こいつァ、どろぼうの類だァ」「信じちゃ、いけませんぜ」「やっぱり、ぶん殴ろう」

 荒くれ者ども、ちび鬼神をぶん殴ろうとする。

 イラッと来た鬼神。額に生えとるツノで、こぶしを受け止めた。

 ざくり!

「いてぇ!」「手が切れた!」荒くれ者ども、悲鳴を上げる。「くそっ、こいつ!」

「よし。わかった! ここは、すもうで決めよう」

 魔術師が大きな声を出した。

「六腕の小さな御方よ。あなたが我らの敵でないというなら、3人とすもうをせよ」

「スモウダト?」

「そうだ。すもうだ。

 3人が勝ったら、あんたには出て行ってもらう。

 だが、あんたが勝ったら、私はあんたに謝り、お客さんとして歓迎しよう」

「望ムトコロジャ!」

 

 表へ出て、大通りで、すもう。

 1人目。

「おらァ! 吹っ飛べやァ」突っ込んでくる。

 ちび鬼神、素早く考える。

「・・・まともに取っ組み合っては、不利!

 とはいえ、『力』のルーンで吹っ飛ばすのも、ひどすぎる。

 ここは、足元に潜り込むべし!」

 ちび鬼神。

 六腕、がばっと、つばさのごとく広げ、低い低い姿勢となった。

 カササ! 素早いタックル! ごきぶりのごとし!

 1人目の前足、毛脛(けずね)がっしと掴み、すっ転ばせた!

「ぐわあ!」 

 ちび鬼神の勝利である!

 

 2人目。

「意外にやるじゃねえかァ」

 警戒して、ぐるぐる回る。姿勢も低く、鬼神のタックルを切る構えである。

「スモウハ、大ノ、得意デナ!」

 ちび鬼神は額のツノを見せつけるようにし、相手が手を出しにくいよう、威圧した。

 そして、頭から突っ込む! ・・・と見せかけて! ガードしようとした相手の手を、掴んだ!

 そのまま引きずり落とす! ・・・と見せかけて! 踏ん張る足を、蹴り飛ばす!

 ぐるんと回転! 相手、地面にずでーん!

「おげえ!」

 ちび鬼神の勝利である!

 

 3人目。

「お、おまえ、小っちゃいくせに、強ェなァ?」

 びびって腰が引けておる。

 しかし。

「降参スルナラ、許シテヤルゾ!」

 鬼神が挑発すると。

「んなこたァ、できるわけねーだろァ!」かっとなって、飛び掛かってきた。

「ソリャ!」

 ちび鬼神! ダイナミック!

 突っ込んで来た相手の腕に飛びつき、六腕両足の8肢でもって、抱き着いた!

 抱っこちゃん鬼神! そこから、外ねじりに、腕をひねりにゆく!

「痛てててて!」

 関節痛め、身体が外に流れる相手! ちび鬼神、すかさず相手の太腿をキック! 相手こける! 鬼神飛びのく!

「痛ってえ! 肘痛ェ!」

「オマエハ、ヤタラニ殴ッテキヨッタノデナ! 少々、痛クシテオイタゾ!」

 ちび鬼神の勝利である!

 

「ヤレ。手足ガ短イト、苦労スルワイ!」

 ちび鬼神。

 見事、3人の荒くれ者を地面に転がした。

「参った」「参った」「いてえ。参った」・・・と、3人に負けを認めさせたのであった。

 

「これで、あんたは私のお客さんだ」

 建物の中に戻った魔術師。

「リッキー殿。無礼をお詫びいたす。

 おーい、おやじ。エールを一杯」

「はいよ」

 やはりこの建物、酒場にして宿屋だったようである。

 こんな非常時だというのに、魔術師が頼むと当たり前のようにジョッキが出て来た。

 大きなジョッキに、茶色いエール(麦酒)がたっぷり。

 ごくごく。ごくり。

 ちび鬼神、呑み干した。ぬるい、甘い、弱い炭酸酒。けんかのあとには、なかなかうまい。

「ヤレヤレ。最初カラ、敵デハナイト、言ウテオルノニ」

「まあ、こんなときですからな」

 2人が会話を始めたところで。

 うわあああ! おおおおお! ・・・と、門のほうから戦のどよめきが聞こえてきた。

「始まったようですな。よっこいしょ」

 魔術師は立ち上がった。ぶっとい木の杖を手に取る。

「ドウスルノジャ?」

「私はこの街の魔術師です。街を守らねばならぬ」

「ナラバ、私モ行クゾ!」

「リッキー殿は、お客さんですぞ。ここで飯でも食っておればよろしい」

「イヤ。私モ、門ノ外ノ奴ラニハ、イジメラレタ! チョックラ、ヤリ返シテヤルワイ!」

 

◆ 16、ちび鬼神、いくさをする ◆

 

「うわー!」「うおお!」「オークめ!」「くたばれ」

 門では、戦闘が始まっておった。

 外から押し寄せてくる、いのししみたいな身体した戦士ども。

「フゴフゴッ!」「グオオ!」いのししのごとく吠え猛り、どおーんと体当たり! 門を破ろうとする!

 どおーん! ごっつい体当たりである。門が、閂が、みっしみっし! ときしみ、たわんでおる。

 これに対して。

 中から反撃する、ヒューマンの男ども。

「突け」「突き殺せ」槍で突く! 敵を追い払わんとす!

 

 ──そんな戦場に、ちび鬼神たち、駆けつけた。

 筋骨たくましい魔術師。ちび鬼神。あと、すもうで負けた3人。

 門のそばまで来て、まずは様子を見る。

「いいぞ! 突っ付いて、追い払え!」

 指揮するのは、さっきの騎士。8本足の怪物馬の騎士である。

「オークどもに話は通じぬ。遠慮はいらぬ! 突き殺せ!」

「オークト言ウノカ? アイツラハ」

「そうですぞ、リッキー殿。最近このあたりに進出してきた、オークの部族だ」

「人殺しのブタどもだァ」「殺して奪うことしか、頭にねえ」「話の通じねえ奴らだァ」

 

 オーク。

 この種族も、最近ではあちこちの物語に登場をしますね。ですが、例によって。

 この世界のオークは、いのししの子孫です。

 鼻、ぶたのごとし。

 牙、いのししのごとし。

 燃えるいのししの神、『炎猪(えんちょ)』を信仰する。

 ・・・あれ? つい最近、ちび鬼神が、炎の生きものと出会いましたね?

 で。

 オークは、とてもでかい。男は最大で7尺(2.1m)にもなる。でっぷり太って筋肉たっぷり。

 勇猛果敢(ゆうもうかかん)。戦好き。『話し合い』とか『停戦』とかは、大嫌い。

 そんな獰猛(どうもう)なる人間種族です。

 

「オークカ・・・」鬼神納得。ついでに質問する「アノ8本足ノ馬ハ、何ジャ?」

「閣下の乗っておられる馬は、『牙馬(きば)』といいます」

 魔術師が教えてくれた。

「東方に産する、とても優れた軍馬。いや、神馬(しんば)だ。

 このあたりでは、大変珍しいものですぞ」

「ホーウ」

「うん? そいつ」その『牙馬』の騎士、足元の鬼神に気付く。「魔術師殿。どうなさるおつもりか?」

「この小さな六腕の御方は、リッキー殿。私の客人としました。すもうの達人、古強者(ふるつわもの)でいらっしゃる」

「リッキーだと?」

「ソウジャ!」

「客人とな?」

「はい。お人柄は、私が保証いたします」

「すもうの達人と申したか?」

「強いんでさァ」「俺ら3人、手も足も出ねえで」「頭は固いわ、身は軽いわで、もうハァ」

「・・・そうか。わかった。 

 リッキー殿。ここは危険ゆえ、宿にでも避難されよ」

「私モ、手伝ウゾ!」

「リッキー殿も、オークに恨みがあるようでしてな」

「ほう? しかし、あんたみたいなちびに、何ができるのだ?」

「マア、任セテオケ! 勝手ニ、ヒト働キ、サセテモラウワイ!」

 ちび鬼神。

 そう宣言するや、

「ソーレ! 『力』ノルーン!」

 ピョーン。

 ひとっ飛び。門の上に、跳び上がった。

「なんと身軽!」「怪鳥(けちょう)のごとし!」「すげぇ奴だなァ」ヒューマンども、見上げる。

「ワッハッハ」

 ちび鬼神、まずは、戦場を確認である(背が低いせいで、門の向こうが全然見えなんだのだ)。

 

 オークども。

 門の前にひしめいて、どおーん、どおーんと、突撃をくり返しておる。

 その人数は、10人程度。残る90人あまりは、後ろに控えておる。

 10人が体当たり。門の内側から反撃を受けて傷つくと、後ろへ下がる。

 入れ替わりに次の10人が体当たり・・・という具合で、ローテーションしておる。

 下がった10人はどうするんかっちゅうと。

 後ろのほうで、ひざまずいておる。

 輪になってひざまずく、オークの男ども。その輪の中心には、オークの女が居った。

 オークの女。どうやら、身分が高い。ジャラジャラした飾りつきの服を着て、ふんぞり返っておる。

 このジャラジャラした女が手をかざし、祝詞を唱える。

 ──すると、男どもの傷が治ってしまうのだ!

 女。どうやら、癒やし手のようである!

 さらに3人の女が、癒やし手の周囲を固めておる。

 この3人は、ずーっと祝詞を唱え、キラキラした光を集めておる──マナ招集であった!

 

「フム? 3人デマナヲ集メ、1人ガ治療ヲスル──ハイエルフト、同ジダナ!」

 鬼神。

 すぐに見抜いた。

 ハイエルフの『丘の街』の戦いを隠れて見ておったからである。

「アノ女ヲ抑エンコトニハ、戦闘ガ、終ワラヌ!

 デハ、ユクゾ! ソーレ、『力』ノルーン!」

 

 ちび鬼神。

 大空へ、跳び上がった。

 『力』のルーンを駆使しての、大ジャンプである!

 

 それはまるで、投石器で発射された岩のごとし!

 六腕三眼、萎み神! 放物線を描いて、敵陣を飛び越えた!

「ヌウ!?」「何か、飛んだぞ!」オークども、空を見上げて大騒ぎ。「鳥だ」「むささびだ」「怪物だ」

「ワッハッハ! 『力』ノ空中戦法ジャ!」

 六腕広げて空飛んだ鬼神。

 はるばるオークの陣を飛び越えて、女オークの頭上へ。

「えっ?」と、びっくりしとる女オークに、手を伸ばした。

「ソリャ! 『力』ノルーン!」

 自分よりずっと大きな女の身体を、ヒョイとばかりに、担ぎ上げる。

「きゃあ!?」

 なんか可愛い叫び声上げる女を軽々と担いで、スタタタタと走って逃げる。

「分火(わけび)さまが、さらわれた!」「追え!」「殺せ!」

 オークども、追いかけてくる。

 鬼神、『力』のルーンでヒョイヒョイ逃げる。

 小さい身体にも、だいぶ慣れてきた。森の中では槍で突っつかれまくったが、今回は頭上に女を抱えておる。やはり身分が高いらしく、オークの男どもは遠慮して槍を控えておる。ならば、逃げるのは簡単であった。

 追いかけっこ。

 逃げる最中、鬼神、大八車を発見した。

 森の入り口に、隠すようにして、大八車が5台並べてある。

 空荷の車が3つ。食料やテントを満載しとる車が2つ。

「オ前タチノ、車カ?」

「そうだ!」と女オーク。「手を出したら、承知せんぞ!」

「ハイハイ」鬼神はそこへ駆け寄った。「モラッテユクゾ!」

 まずは、女を放り投げる。

 どて! 「痛い!」女、荷物満載の大八車の上に落ちる。

 ついで、空っぽの大八車をヒョイと担ぐ。

「ホーレ、『力』ノルーン!」ぶん投げた。

 大八車、空をすっ飛び、追いかけてきたオークどもにぶち当たる。

「ぐわあ」オークまとめてすっ転ぶ。

「大八車投ゲジャ! ワハハハ」

 空荷の大八車3台を、ぜーんぶ放り投げ、オークをなぎ倒した鬼神。

 今度は、荷物と女が乗っとる大八車を──

「『力』ノルーン! 親亀子亀ノ術!」

 ヒョイ。ドスン!

 別な大八車の上に、積み上げた!

 2台まどめて、持ち上げる!

「ひいい!」女悲鳴!

「帰ルゾ!」鬼神は、逃げ出した!

 

「戻ッタゾ!」

 ピョーン。

 鬼神、ふたたび『力』のルーンを使い、大八車ごと門を飛び越した。

 女オークが悲鳴を上げるのも知らん顔で、街の中に着地。

 荷物満載の大八車を下ろし、2台を並べる。腰を抜かした女オークを、引っ掴んで、地面に押さえ込む。

「リッキー殿! その女は?」

「奴ラノ、癒ヤシ手ジャ!」

「わ、私を殺したり、穢したり(けがしたり)したらば、炎猪のたたりがあるぞ!」女オーク、わめく。

「ハイハイ。

 ソレデ、ソッチノ車ハ、食料ト、テントノヨウジャ!

 コレデ、奴ラ、長続キハスマイ!」

「なんと戦略的!」

 牙馬の騎士はよろこんだ。

「よーし、腕に覚えのあるものは、我に続け! 裏門から出て突撃をする!」

「俺らも、行って来まさァ」「リッキー、てめえは、そこで見てやがれ」「手柄の一人占めはさせねえぞァ」

 荒くれ者どもを率いて。

 牙馬の騎士、別な門へと走っていった。

「魔術師殿、この門は任せましたぞ!」

「承知」

 

 牙馬の騎士、荒くれヒューマンども、叫び声を上げて突撃。

 門の内側からは、槍、投石、そして魔術師の「魔弾!」ルーン魔術。

 ヒューマンども。オークをさんざんにやっつけた。

 街の防衛に、成功したのであった。

 

◆ 17、ちび鬼神、孫にあう ◆

 

 夜。

 ちび鬼神、宿の1階酒場にて、祝勝会に参加。

 酒場は、ヒューマンで満員であった。さっきは片づけられとった丸テーブルがホールに出されて、いくつも円卓ができておる。

 鬼神のテーブルは、主賓(しゅひん)。牙馬の騎士、魔術師、無事に戻ってきた荒くれ3人と、鬼神が座っておる。

「防衛の成功を祝って!」騎士が叫んだ。

「かんぱーい」

 周囲のテーブルから歓声が上がる。

 ちび鬼神、「小さいくせに強ェなァ」と揉みくちゃにされ、ずいぶん酒を呑まされた。

 犠牲皆無というわけではない。死んだ奴も居った。そいつのかぶとが空席に置いてあったりもする。そんな宴であった。

 

 一段落。

 

 ちび鬼神は魔術師の家に招かれ、改めて晩飯をごちそうになった。

 椅子の上に伸び上がって飯を食うちび鬼神。

 テーブルにかがみ込むようにして食う魔術師。

 魔術師には家族は居らんらしい。父母が死んで、1人暮らしということである。

 この席で、魔術師が重要なことを言い出した。

「じつはですな。リッキー殿。私は、あなたのお噂を聞いたことがあるのです」

「ホホウ? ドンナノジャ」

「ひとつは、あなたの姿形のうわさです。

 六腕三眼、鬼どもの神。『力』のルーン持つ無双の戦士。

 息子は6人、娘は3人、みな英雄にして、神のごとし」

「ナント。ズイブン、立派ナ噂ダノウ」

「もうひとつ」

「マダアルノカ? ドンナノジャ」

「それは、リッキーという名のうわさです。

 赤く大きな猿のごとき若者。いまだ名もなく、世をさすらう。

 とある山中にて『猿の村』を助け、リッキーと呼ばれる」

「・・・ナント!?」

 鬼神。

 思わず食事の手を止めて、相手をまじまじと見た。

 

 もしかして、こいつ・・・。

 ヒューマンにしては、妙にでかいし、肌も赤いし、ゴツゴツしとると思うておったが・・・。

 

 でっかい魔術師。ちび鬼神をじっと見て、こんなことを言うてきた。

「あなたがリッキー殿ならば。

 すみれという魔術師を御存知のはず」

「知ッテオルゾ!」

「でしたら、すみれと再会したときのこと、聞かせて頂けませんか?」

「・・・ウン?」

 ちび鬼神、首ひねる。

「すみれト、再会? イヤ・・・残念ナガラ、すみれトハ、アレッキリダガ・・・」

 

 すみれ。

 『猿の村』の女魔術師。

 鬼神は若きころ、まだ名もないころに、彼女と出会うた。

 (このお話で言えば、1章の『知恵なき怪物』のころですね。)

 一緒に『なわばりのけもの』を退治。その日のうちに、別れたのだ。

 戦いのあと、情交した(じょうこうした)ので、子供はできたかも知れんが・・・。

 

 というようなことを、鬼神は説明した。

 

「ドウヤラ、人違イノヨウダナ」

 鬼神。がっかりである。

 もしかしたらと、ドキドキしたのに。

 ところが。

「おお! ・・・おお!」

 魔術師は、逆に、興奮しだした。

「やはり! やはり、あなたは──ご先祖さま!」

「ナニ?」

「あいすみませぬ。じつは、あなたを試したのです」

「試シタ?」

「はい。これは、祖母の知恵でしてな」

 

 鬼神という神さまがいるだろう?

 どうも、私が昔に会ったリッキーと、同じ男のようなんだ。

 お会いすることがあったら、訊いてみるといい。

 人違いしちゃだめだよ! はっきりしないときは、かまをかけるんだ──

 

「──すみれと再会したときの話を聞かせてほしい。そう言えと。

 そう言えば、本物のリッキー殿なら『再会はしとらん』と言うはずだと」

「ナルホド」

 ちび鬼神。完全に食事をストップ。

 ごっつい魔術師を、じーっと眺めた。

「スルト、ソナタハ」

「はい」

 魔術師。ごっつい顔で、にっこりと笑うた。

 自分の由来を、解き明かす。

「私の名は、赤猿(あかざる)。すみれ婆さんの孫。

 リッキー殿。あなたの血を分けてもろうた、孫というわけです」

 

 なんと!

 赤っぽい肌した、ごっついたくましい魔術師!

 鬼神とすみれの、孫なのだという!

 

「父は、私よりもでっかい、真っ赤な肌をした大男でしてな。

 子供の頃は『赤猿』と呼ばれておったそうです。

 それを、そのまんま、私の名にしよったのだ」

「すみれハ・・・?」

 鬼神が恐る恐る訊くと、魔術師は首を振った。

「老いと病で亡くなりました。私が魔術師になる前のことです」

「ソウカ・・・」

「その後、私が魔術師になり、父と私の魔術師2人体制となった。

 これなら平原にも出れるぞと、そういう話になったのですが・・・」

「ソレガ、コノ街カ」

「いいえ。私たちの造ろうとした街は、もうこの世にありませぬ。

 あの、大いなる災いのせいで」

「神竜ノ嵐カ!」

「若者が平原へ出て、家を建てた。父は若者を守っておりました。

 その若者も、父も、母も、みんな死んでしもうた・・・」

「ソウデアッタカ・・・」

 

 鬼神は、思い出話をした。

 すみれと出会ったときのこと。その後どんな人生を歩んだか。なんでこんな、萎んでしもうたのか。

 孫の『赤猿』も、自分の話をした。

 鬼神よりはずっと人生の短い彼であったが、その話、鬼神にはとても面白かった。なんといっても、赤猿の父は、鬼神の息子なわけである。顔を見ることすらなかった息子。こうして話をしなければ、その存在すら知らんまんまであったろう・・・。

 

 ちび鬼神。

 この街にて、楽しく感慨深く(かんがいぶかく)、数日を過ごしたのであった。

 

◆ 18、ちび鬼神、みきりをつける ◆

 

「名残リ惜シイガ、ソロソロ、ユクゾ・・・」

「はい。じじ上。本当に、よく来てくださいました」

「イヤイヤ。私ガ、山ノ場所ヲ、覚エテオッタナラ・・・。

 マア、モウ、言ウマイ。過ギタ事ジャ。

 オ前ガ生キテオッテ、本当ニ良カッタゾ!」

「できれば、萎んでおらん姿も見てみたかったですな」

「ワッハッハ! ソウダナ!」

 

 ・・・と、別れの段になって。

 鬼神は、孫に質問をしてみた。

「赤猿ヨ。

 『死』トハ、何デアロウカ?

 『永遠ノ生命』トハ、何デアロウカ?」

 

「ふむ・・・」

 魔術師の赤猿。ごっつい腕を組んで、考えた。

「『死』とは、本の終わりの次のページ・・・ではないでしょうか」

「本ノ終ワリ?」

「最後のページの、さらに1ページ先です」

「ソンナモン、アルノカ?」

「ありませぬ。

 生命という本の終わりの、1ページ先。存在せぬページ。

 それが『死』ではないかと」

「ムム・・・」

「もっとも、司祭に訊けば、違う答えが返ってくるでしょう。

 人間は、死ぬと冥界へゆく。そこから信じておる神さまのところへゆくのだ。

 それが『死』の後に起こることである──とかね」

「ホウ」

「『永遠の生命』については・・・」

 赤猿、首をひねる。

「そんなもの、あるのですか?」

「私ニモ、ワカラヌ」

「思うに、『死』というものがあるから、『生命とはなんぞや?』が、明らかになるのでは?

 永遠の生命、死のない人生などというものは──『生命』とは言えないのでは?」

「ムム・・・?」

「永遠の生命とは、永遠につづく本ということでしょう?

 そんなもの、読んでられませんぞ。ただの、ゴミでは?」

「ワッハッハ!」

 鬼神は笑うた。

「『永遠ノ生命』ハ、ゴミカ! サスガハ、我ガ孫ジャ! 思イ切ッタ事ヲ言ウ!」

「はっはっは。

 いやあ、じじ上。じつは、これは、嫉妬もありましてな」

「シット」

「私も、ハイエルフの都で魔術を学びましたのでね。

 ハイエルフをいっぱい見てきたのだ。永遠の若さを楽しんでおる、うらやましい人々を」

「奴ラ、寿命ガ、ナイカラノウ」

「そうなのだ。

 それがなんとも・・・うらやましくもあり、しんどそうでもあり」

「シンドイトナ?」

「我々ヒューマンならば、ま、どうせあと何十年かすれば人生終わるし・・・という、あきらめがある。

 そのあきらめがあるから、生きとるうちにと、必死にもなる。

 ハイエルフには、それがない。うらやましいが、『のんびり者め!』と腹も立つ」

「ナルホド、嫉妬ダナ!」

 わっはっは。

 じじ上と孫。笑う。

「ま、『永遠の生命』というものは、存在するものではなく、憧れるものでしょう」

「アコガレ」

「永遠を夢見て、希望を持つ。永遠なれとの、願いを抱く。

 それが、永遠ならざる人生の救いになる──そういうもんではないですかね」

 

 などと、かしこい会話をして。

 鬼神は孫と別れたのであった。

 

 ・・・ちなみに、孫の赤猿。のちに嫁をもらい、ちゃんと子孫を遺したということですよ。

 いまでも北方にその血を引く一族が残っておるそうな。

 肌はもう赤くないが、身体はヒューマンよりひと回りでっかい。すもうも魔術もよくする、優れた一族なのだそうです。

 

 スタスタスタ。

 孫と別れたちび鬼神。山を、歩く。

 『猿の村』の場所を教えてもろうたのだ。

 いまはもう、廃村。誰も住んではおらぬ。

 

「すみれヨ。人間ハ、儚イ(はかない)モノダナ」

 ちび鬼神。

 すみれの墓があったという場所へ行って、祈った。

「アンナニ若ク、綺麗デアッタ、ソナタガ。

 『すみれ婆サン』トナリ、土ノ下デ、眠ル身トナル・・・。

 頭デ、理解シテモ、心ガ、受ケ付ケンワイ・・・」

 はあ。

 ため息をつく。

「ソナタモ、冥界ニ行ッタノカノウ?

 ダッタラ、私モ、冥界ニ行ッテミタイモンダノウ・・・」

 

 祈り終えて、山を降り。

 日の当たる平原に出て。

「ヨシ! 『死ノ探索』ハ、イッタン、ヤメジャ!」

 ちび鬼神は、そう決めて。

「奈辺羅辺(なへんらへん)ヘ、帰ルゾ! 子供タチヲ、可愛ガルノジャ!」

 元来た道を、スタスタと歩いてゆくのであった。

 

 こうして、鬼神は『死の探索』に見切りをつけた。

 『死』を殴ることもできず、『永遠の生命』のなぞを解くこともできぬまま。

 だが。

 一見失敗したこの探索の帰り道。

 鬼神は、思いもよらぬ御方から、貴重な成果を得ることとなる。

 それは、炎の生きもの。そして、目にも眩い御方。

 この2柱が、もたらしてくださった、恩恵。

 いったい、どんな風にして?

 そのお話は、また次回。

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