鬼神、お日さまに救われる。
それは、『死の探索』に見切りをつけ、帰る途中のこと。
お日さん。
お月さんの、お姉さん。
地球に、用事があるとおっしゃる。
それは、赤子。
赤ちゃんを、地球に預け、人間に育てさせる──と、いうんである。
今回は、ちょっと、寄り道。
この赤ちゃんの話を、いたします・・・
◆ 7、鬼神、ふたたび、しぼむ ◆
トテトテ。
目にも眩い(まばゆい)、太陽の女神。山道をゆく。
あまりにも光りまくっていらっしゃるがゆえ、その姿、見ること能わぬ(あたわぬ)。光しか見えん。
トテトテ。じゅわー。トテトテ。じゅわー。
雪、溶け、蒸発してゆく。
眩い光に照らされたらば、牡丹雪も、一発即死! 即、蒸発である!
もんのすごい光である。熱もつ光のパワーであった。
そのわりに、赤ちゃん抱いたりもしとるのだが・・・調整ができるのでしょうか?
そんな御方の、すぐ後を。
すたすた。
鬼神、平気な顔して、ついてゆく。
「・・・。」
お日さま、振り向く。
・・・正確には、眩しすぎてなーんも見えんのですが、鬼神が気配を察したのだ。
「なんです?」と鬼神。
「・・・ついて来なと、言うたに」お月さんそっくりの声で、お日さん。
「まあまあ。そうおっしゃらず、はっはっは」
鬼神、愛想笑い。
「助けて頂いた御礼ですぞ。せめて、護衛ぐらい、させてくだされ」
「山道にて、護衛の押し売り。もしや、山賊かに?」
「なんと! ひどいおっしゃりようじゃ」
「自分のサイズを考えよ」
「サイズ」
鬼神。
もはや、小っちゃくない。元のサイズに、もどったのだ。
太陽の女神さまの『伸びる』のルーンのおかげ。
ただ、そのせいで・・・。
女(眩しくて見えん)をつけ回す、巨大な鬼──という図に、見えんこともない。
「いや、そんな・・・」鬼神、ショック。「私は、なにも、悪気があって、こんな図体しとるわけでは」
「そやに、人にはそない見えるえ」
「いやいや、しかし・・・。
なんもしとらん人間を、悪者と決めつけちゃいかんだろう」
「なんもしとらん人間? そなたが?」
「うむ」
「ほんとかに?」
「ほんとだぞ」
「初めて会うた相手は、とりあえず殴る。そな不埒者(ふらちもの)と聞くに?」
「なんだと。私のことか?」
「そなたのことえ」
「いったい、誰が言うたのだ、そんなこと!」
「お月」
がーん!
鬼神ショックで、ちょっと口が利けぬ。
言い返そうとして・・・考えて・・・思い出してみて・・・
「あ、そうかも知れんわ」
「なにえ」
「ドラゴンとか、巨人の王さまとか、お月さんとか。
初めて会うた相手を、やたらに殴ってきたわい。言われてみれば」
「しみじみ言うことやないに。無法者めが」
「まあな。私の国は、無法な国だったからな。
ハイエルフみたいな、小賢しい(こざかしい)、やたらに法を作って他人に干渉するような、そんなのは、居らなんだからな」
「なにえ。皮肉。無骨な(ぶこつな)くせして、口は回りよる」
お日さん、肩すくめ、さらに何かを言おうとする(気配)。
そこで。
あう・・・。赤ちゃんの声がした。
「おお、よしよし」
「おっと、すまぬ。声が大きかったかな」鬼神が気づかった。
「おじちゃんうるさいにー?」
お日さま、赤ちゃんに話す体で(ていで)、鬼神の悪口しゃべる。
「声もでかけりゃ、身体もでかい。耳に障り(さわり)、目に障り」
「あんたに言われたくはないがな!」
あうう・・・。
「む。すまぬ」鬼神、赤子には素直である。「身体がでかいと、ついな。つい、声がでかくなってしまうのだ」
「まったくえ。耳痛うなるえ」
「はいはい。じゃあ、こうしよう!」
「『萎む』のルーン!
私の身体を、人間よりも、ちょっと小っちゃくせよ」
しおしお・・・。
鬼神、ふたたび、萎んで、ちび鬼神となった。
お日さま、振り向く(気配)。
そこに居るのは、人間の半分ぐらいしかない、ちび鬼神である。
「・・・なにえ。せっかく元に戻してやったに。
その姿では、また凍えるえ」
「御身ノ近クニ居レバ、大丈夫ジャ!」
「声が甲高い。聞き取りづらい」
「マアマア! ソウ言ワント!
ソレヨリモジャ。
ソノ赤子ハ、ドンナ子ナノジャ? 眩シクテ、姿ガ、見エンガ」
「ああ」
お日さん。
振り向いて(気配)、赤子を見せてきた(気配)。
「見ての通りの、エルフの娘」
「見エンワ!」
「名はエルダ。エルフの女王となるべく生まれた娘」
◆ 8、エルダ、エルフの女王 ◆
「エルダ」
「長老、という意味で、そういう名にした」
「ホホウ」ちび鬼神、思い出して、応じる。「八百過ギレバ、ミナ長老」
「なに?」
「アロウトイウ、氷天部族(ひょうてんぶぞく)ノ弓取リニ、習ウタ言葉ジャ。チョットシタ、冗談ラシイゾ!」
「何を言うとるのかわからぬ」
「耳ガ遠イノカ?」
「失礼な」
「聞コエトルジャナイカ!」
「そなたの声は聞きづらい。長々としゃべると何言うとるかわからぬ。てみじかに」
「アロウカラ、聞イタ」
「みじかすぎてわからぬ」
「エエイ! コノ! 喧嘩セント、気ガ済マンノカ! 御身(おんみ)ハ!」
「ふん」
トテトテ。お日さん歩く。
スタスタ。ちび鬼神ついてゆく。寒いので、できるだけお日さんに近付く。
ちりちり。髪焦げた。
「アチッ!」
「女の尻に近付くからやえ」
「ワザトカ!」
ちび鬼神の髪、パーマになってしもうた。
「オオ、熱イ! 禿ゲテ(はげて)シマウワ!」
「うるさいやつ」
お日さん、ぼやく。
トテトテ。スタスタ。2人、しばらく、無言で歩く。
「・・・ノウ、オ日サンヨ!」
「なにえ」
「モシ良ケレバ、ソノ子、私ニモ、抱カセテクレンカ? 祝福シテヤルゾ!」
「ふむ? 落としたりはせんか?」
「センワ! コウ見エテモ、9人ノ子ヲ抱イタ、父親ダゾ!」
鬼神、熟練の父親アピールである。
正確には、ハルモニアーは抱っこしたことないんですがね。生まれたときから『高い高い』を恐がる子でしたからね。
「まあ、後でに。神殿に着いてから」
「ワカッタ!」
2人、山道を歩く。
鬼神が通ったのとは、ちがう道へ入った。ぐねぐねと、登ってゆく。
「キツイ登リダナ!」
「頂上に出るつもりやったに、阿呆が別な峠で野垂れ死にしよるせいで」
「ハイハイ!」
実際、きつい登りである。
しかし、お日さん、健脚。赤子を抱いても、トテトテと、平地と変わらぬペースで歩く。
ゆく道の雪がどんどん溶けて蒸発してゆくため、ちび鬼神も、難儀せぬ。
すごいのう。あったかいし、歩くのも楽だし・・・と、鬼神、お日さんを便利な暖房器具みたいに感じた。もちろん、口には出さなんだが。
そうして。
神々と、赤子のエルダは、たどり着いた。
雪降る峰の合間にひらけた、小さな盆地の、ハイエルフの町に。
「ココニ、神殿ガアルノカ?」
「そえ」お日さんうなずく(気配)。「小天(しょうてん)と、ハイエルフどもは呼んでおる」
◆ 9、小天の町 ◆
それは、つつましい町であった。
岩山に囲まれた盆地。木はほとんどない。
家は、白い岩で建てられておる。どれも似たような、四角い、小さい、窓がほとんどない家である。
どの家も、しっかりと鎧戸(よろいど)で窓ふさぎ、煙突からモクモクと黒煙吹き上げておる。燃料は、石炭かなんかか? 薪とはちがう、喉がいがいがするような匂いがしておる。
小さいが綺麗に整えられた通りが町を貫いており、左手のほうに、一段高い場所があった。そこにだけ、木が植えてある。どうやら、広場になっとるらしい。
お日さん。
その小さな広場へ、トテトテと。
誰に断るでもない。門番など居らぬ。というか、門がない。
女神さまに気付く者も、ちび鬼神に気付く者も、だーれも居らなんだ。
ゆるい階段を登って、広場に上がる。
綺麗な広場であった。
奥に、石像がぽつーんと立っておる。ハイエルフっぽい女の像である。
「・・・ココガ、神殿カ?」
「そえ」
「何モナイガ?」
「そえ」
若木に囲まれた、ちっぽけな広場。
ちび鬼神、美しい女の石像のところに、近付いてみた。
見上げる。
「オ月!」
なんと!
石像、お月さんにそっくり!
ちび鬼神、拝む。久しぶりに見た、愛しい女の像である。
するとお日さん。「ふん」と、機嫌壊した。
「ナンジャ?」
「本人に尻向けて像を拝むとは、失礼な奴」
「ウン? 本人?」
「本人」
「・・・アア。ソウカ。アンタノ像カ、コレハ! オ月デハナク」
あらら。
お月さんではなく、お日さんの像だったようである。
「ソレニシテモ・・・屋根モ、ナイノカ?」
「木のない町に無理を言うてはならぬ」
「像ガ、痛ムンジャナイカ?」
「太陽の像は屋外に置くならわし。そのほが自然やに?」
「ナルホド」
ちび鬼神うなずき、ふたたびお願いした。
「サテ! ソレデハ、赤子ヲ、抱カセテモロウテモ、ヨイカ?」
「まあええが・・・なんでそない抱きたがるのえ?」
「『死ノ探索』ヲヤッテミテ、生キトルッチュウ事ノ大切サ、子供ノ大切サ、身ニ沁ミテ(しみて)、ワカッタノダ!」
「てみじかに」
「死ノ探索、俺気付。生存、子孫、此大事」
「なにえ。巨人しゃべり」
お日さんちょっと笑う。
「もうえええ。元に戻りなえ。その身体では、子供任すにも、不安があるに。
『伸びる』のルーン。鬼神を、元に伸ばせ」
にょろにょろにょろ・・・!
「オ手数オカけして、すまんのう! ・・・おっと、声がでかくなってしもうた」
「うるさいやつ。・・・はい」
お日さん。
赤子を、鬼神に抱かせてくれた。
眩しくて見えんので、鬼神は地面にどっかと座り、六腕をベットのごとくして、赤子を置いてもろうた。
大きな大きな腕で、小さな赤子を抱いて、よーく見てみた。
赤ちゃん。
エルダ。
青い髪をした子であった。
宵の空みたいな、明けの空みたいな、深い紺青(こんじょう)の髪。
もじゃもじゃっとした髪である。ちょうど、いまの鬼神みたい。お日さんの光で、ちりちりパーマ化したみたいな。
「この子の髪も、やけどしとるぞ」
「失礼な。ちゃうえ。そんな無体なことはせぬ。ちゃんと調節してある」
「そうか」
鬼神はにっこり笑って、「エルダ」と呼んでみた。
「あう・・・?」
「私か? 私は、鬼神。鬼どもの神じゃ。
こんなでっかい、恐い顔をしておるが、恐くはないんだぞ。安心せよ」
「うあー」
エルダ。
大きな、青い目で、じーっと鬼神を見上げてきよる。
髪とくらべて、やや紫がかった目は、深みがあって、美しい。
好奇心たっぷり。びびる様子、全然なし。口ぽかんと開け、鬼神の顔を観察しておる。
「これは大物だ!」鬼神、笑うた。「度胸のある子だぞ。なるほど、この子は、英雄になるわい」
「うむ」
「ルシーナにちょっと似ておるわい。恐いもの知らずなところが」
「・・・そうか」
「よしよし。エルダや。
いまは、暗い時代だがのう。
そなたの人生は、きっと、お日さんのように、明るく輝きますように。
子のうちは、健やかに幸せに過ごせますように。
長じては、みなにそれを与えれるように。
戦のときには、武運が、苦難のときには、希望が、ともにありますように」
「重い重い! 重いえ!」
太陽の女神、笑う。
鬼神から、エルダを取り返す。
「そないにやたらめったら祝福されては、子の未来が重うなるに。
まったく・・・のう? エルダや。
鬼のおじちゃんは、真面目な人やにー?」
「いやいや! 祝福は、できるときに、しておかんとな」
・・・鬼神の祝福が、効いたのか、どうなのか。
エルダは、お日さんの期待どおり、優れたリーダーに成長することとなる。
いまの世に、ハイエルフの都『草京(くさきょう)』あり。
北方に冠たる(かんたる)大都市にして、世界にその名を知らぬ者なし。
その都の女王の名が、エルダとおっしゃる。
そう。
この日、鬼神が抱っこした赤ちゃん。
青いもじゃもじゃした髪をして、「あうー」ぐらいしか言わんかった、この赤ちゃん。
のちに、世界有数の大都市の、揺るぎもせぬ女王陛下と、あいなったのです・・・。
「・・・司祭が起きたようやえ」
「うん?」
小天の町。雪降る通り。
ハイエルフの女が、こっちへ走ってくる。
灰色の髪した女である。
菜の花色した、綺麗なローブに、銀鼠色(ぎんねずいろ)の肩掛け巻いて。
あわてて纏った(まとった)のか? 肩掛け、ちょっとぐしゃっとなっておるが。
通りを駆け抜け、広場のほうへ曲がって、階段登ってくる。
駆け抜けた家のドアが1つ開き、「何事か?」っちゅう感じで、男が顔を出した。
走ってゆく女に「どうした?」と訊いたようだが──女は、手を振って答えをキャンセル。そのまま走ってくる。
男は戸口から弓と剣を引っ掴み、女の後を追ってきた。
その2人を見て。
鬼神。
「ハナ司祭と、アロウ殿ではないか!」と、びっくりするのであった。
◆ 10、ハナ司祭、赤子を預かる ◆
ハイエルフの女。ハナ司祭。『丘の街』の神殿に所属しておったはず。なんでこんな、山奥に?
ハイエルフの男。アロウ殿。『氷天部族』の弓取り。ここに住んでおったのか?
・・・鬼神が「?」となっとるあいだに、2人は広場に上がってきた。
目にも眩い御方の前に来て、ひざまずく。
アロウ殿、武器を地面に置いて、ハナ司祭より深く頭下げておる。置いたその剣、柄は女神の右手のそば、刃の反りはアロウ殿向き──神前(しんぜん)の礼であった。
「うむ」
お日さん。2人を見下ろし、うなずいた(気配)。
「ハナ司祭」
「は!」
「大変な仕事をお願いする。よろしゅう頼むえ」
「光栄にございまする」
お日さん。赤子に、ちゅっちゅっとキスをしてやってから(気配)、ハナ司祭に手渡した。
「エルダ」と、名を告げる。
「エルダさま。たしかに・・・」
赤子を預けた、お日さま。
鬼神を振り向いた(気配)。
「こりゃ。鬼神」
「なんじゃ? お日さま」
「そなた、この者らと知り合いかに?」
「ああ。うむ。じつは、そうなのだ。びっくりしたわい。
ハナ司祭には、娘どもが世話になった。
アロウ殿には、裏切られた。弓を射掛けられたんで、死んだフリしてもらい、溜飲を下げた(りゅういんをさげた)」
「ほう・・・?」
お日さんうなずいた(気配)。
ハナ司祭。腕にエルダを抱いたまま、は? っちゅう感じで後ろのアロウを睨む。
アロウ殿、頭を深々と下げ、なんも言わんと、畏まる(かしこまる)。
「・・・お日さまよ。2人と、ちょっと話をさせてもろうてもかまわんか?」
「赤子が冷えぬ程度に」
「ごもっとも」
鬼神はうなずき、ハナ司祭に話しかけた。
「ハナ司祭さま。お元気そうだのう。
しかし、なんでここに? そなたは『丘の街』の司祭であったはず」
「・・・私の地元は、ここ、小天でして」
と、ハナ司祭。
「修行のため、あの街の神殿に出向いておったのですえ。
このたび、晴れて神殿長の資格を頂きまして、地元に戻って参りました」
「おお。それは、おめでとう。
──して、アロウ殿は? ここに住んでおったのか?」
「いえ、」
アロウ殿、顔を少し、上げた。
「大いなる災いで、部族が壊滅し・・・こちらに、身を寄せました」
「なんだと? 氷天の部族、滅びたのか」
「山が・・・崩れました。
私は遠征中で、戻ったときには、手遅れ。
わずかな生き残りと共に、この町の方々に助けを求めた次第」
「そうであったか・・・」
鬼神はアロウ殿に近付き、肩に手をやった。
「私も、長女を亡くしたのだ。お互い・・・やられたな」
「まことに」
短い話を終えて。
小天の町を、後にして。
鬼神はふたたび、お日さんと共に歩き始めた。
「お日さんよ」
「なにえ」
「次は、どこへゆくのだ?」
「連れて行くとは言うておらぬ」
「まあそう言うな。お月さんのおn──」
「姉と呼びな。そなたに姉と言われる筋合いはないえ」
「だから! わざわざちゃんと、『お月さんのおn──」
「声がうるさい」
「あいすまぬ」
というわけで。
鬼神は、いましばらく、太陽の女神と共にゆくのであった。
・・・どのぐらい? そうですね。このお話にして、あと1回ぐらいですかね?
次回。
目にも眩い御方、焚き火をする。
そこで鬼神は、長いあいだ気付いておらんかった秘密を明かされることになる。
そしてまた、あの炎の生きものと、いま一度、相見える(あいまみえる)こととはなるのである。