◆ 11、お日さん、たきびをする ◆
お日さん、焚き火をする。
雪降る山の、小高い平地。ほんのちょっぴり、平らになったとこ。
枯れ木が倒れておる。
シャリーン・・・。
目にも眩いお日さん、剣を抜いた(眩しくて見えんが、音でわかった)。
ぱっかーん!
枯れ木を、断ち割った(音)!
「・・・母上」声がした。
「なにえ」
「かかる土木作業に私を抜くのはやめて頂きたいと、何度も」
文句言う声。
お日さまの剣。神剣“グレイス”の声であった。しゃべる剣。
お日さま応えて、
「ええ切れ味やに」
「そなお世辞で騙されませぬえ」
「名剣グレイス、薪も真っ二つ」
「馬鹿にしておられるんかに!」
「なにをけんかしとるのだ」
鬼神、口を出す。
さっきから側に居ったのだ。
「お日さんよ。せっかくの名剣をいじめてどうする」
「いじめてはおらぬ」
「言うてくだされ、鬼神さま。母上が冷たいのですえ」
「まったくじゃ。冷たい地面に刺しっぱなしにしたり、鉈(なた)扱いしたり。
グレイスさまも、神さまなのだから──」
「いじめてはおらぬ。愛用しておるのえ。
そなたこそ、我が剣の活用に口出しをすな。僭越(せんえつ)なり」
「む!」
鬼神、お日さんをちょっと睨む。
眩しい。見ちゃおれぬ。目そらす。やりづらい・・・。
ぱっかーん! ぱっかーん!
2度ほど、枯れ木を真っ二つにする音がして。
「『火』のルーン。燃えよ」お月さんそっくりの声がして。
ぱっちん。指ぱっちんしたらしい音がして。
ぼっ。火がついた。
めらめらめら・・・。
めんらめらめら、ばちばちち!
枯れ木、たちまち、燃え上がる。
「『火』のルーンか。便利ですな」
「『力』ほどではない」ちゃりーん・・・。剣を収める音。
「そうじゃ。『力』と言えば、私にもお手伝いができそうだ」
鬼神はそう言うと、地面に手をつき、
「『力』のルーン! 『圧縮する』!
地面よ、へっこめ! 灰沼の村の焚き火穴みたいになーれ」
じゅわー! 雪溶け、蒸発し、岩肌へっこみ、穴になる。
焚き火のとこが、凹む。穴になる。
その隣も、凹む。穴になる。2つの穴が、地中でつながる。
バチバチバチ。めらめらめら・・・火の勢いが、強くなった。
「なにえ。穴ふたつ」
「灰沼の狩人がな。こんな感じで穴ふたつ掘って、つないで、火つけて、料理しとったのだ。
焚き火だから、浅くしておいたが」
「ふーん」
「なんじゃ。興味ないのか」
「我が子孫には等しく興味持っておるえ。
──それより、ちと眩しゅうする。騒ぎなえ」
「まだ眩しくなるのか」
お日さん、天に手をかざした(眩しくて見えんが、そんな気配がした)。
雪降る曇天(どんてん)。
時間帯もわからぬ薄暗さ。そんな空に──
目にも眩い太陽の光が、降ってきた!
雪雲割れ、小さな穴が開き、その雲のトンネル突き抜けて、お日さまの光がやって来る!
陽光の柱となって、ファーッ! と、鬼神たちの周囲を陽色に照らした!
「おお・・・!」鬼神感動である。「あたたかい。明るい。これはええのう。かたじけない」
「礼はいらぬ。これは信号ゆえ」
「しんごう」
「うむ。そなたに会わせたい神がおる」
「ほう。どなたかな?」
「見ればわかる」
ぱちぱちぱち・・・。
鬼神が凹ませた穴の中で、枯れ木が熱々と燃えておる。
陽光に包まれ、焚き火に照らされて、とっても心地がよい。風も、いまは穏やかである。
「ふあー。眠い」鬼神あくびする。
「寝てもかまわぬが」
「いやいや。お月さんの姉上の前で──」
「私を姉と呼びな」
「はいはい。ふあー・・・」
などと、だらだらしておると。
ぶわっさぶわっさぶわっさ。
不吉な羽音が、迫ってきた。
羽音。本物の、鳥のつばさの音である。
だが、でかい!
ぶわっ・・・さっ・・・さっ! ぶわさ! ぶわさ!
天から舞い降りてくる、その姿。
まっくろけ!
全身黒い鳥である。
つばさも、まっくろけ! 悠然と広げられ、打ち振られる、その広さ! 鬼神が腕を広げたのより、ずっと広い!
陽光の柱を完全にさえぎって、鬼神たちのところへ舞い降りて来よる!
「でかいな」
鬼神、見上げる。
「からすか? ・・・うん? からすだと? もしかして、」
と、思い出すのと同時に!
「ああー!」黒き巨長、叫んだ!「があ、があ! ちんぴらだがあ!」
なんと。
その、黒き巨長。鬼神がむかーし出会うた相手であったのです・・・。
◆ 12、からす、鬼神をなじる ◆
「があ! があ! ちんぴら! ちんぴら! 不埒者!」
化けがらす。
しゃがれた声で、ボロカスに、鬼神をけなす。
「出会い頭に石投げてきた、くずじゃないがー!」
それは、若き日の鬼神の、やらかしたこと。
平原を歩いておってたまたま出会うた、なーんも悪いことしとらん3本足の化けがらすに、石を投げつけた。
このお話で言えば、1章『力のルーン』の中の、『赤猿の旅(後)』でのこと。もう何十年も前の話だ。
「があ! があ! ちんぴらがあ! お日さまのお側に、何の用だがー!?」
「うるさい」鬼神、ちょっとムッとする。「おまえは、あのときのからすなのか?」
「そうだがあ!」
「長生きなやつじゃ」
鬼神、立ち上がり、ぶわっさぶわっさ舞う化けがらすに向き直った。
3本足の化けがらす。警戒し、少し上に逃げる。
「あのときのことについて、改めて、言うておく」と鬼神。
「なんだがあ!」
「すみませんでした!」鬼神。頭下げた。「石投げて、ごめんなさい」
「・・・謝って済むことじゃないがあ!」
化けがらす、お日さんの隣に着地。
3本の足で岩掴み、堂々と立つ。
まっくろけなる羽毛。射干玉(ぬばたま)のごとし!
目にも眩い御方の光に照らされ、なんともいえん、美しさ!
「当たったら、こっちは死んでたがー!
外れたら謝って、それで済むわけないがー!」
「ごもっとも」
鬼神、平謝り。
「すまぬ。悪かった。ごめん。私はばかだった。二度とせぬ。許してくれい」
「がー・・・」
化けがらす、足でガリガリと岩をひっかいた。
「・・・天の女神さまの御前、いまは控えてやるがー。なんで、ここに居るがー?」
「お日さんに助けられたからじゃ。
『死の探索』のため、世を歩いておって、行き倒れた。そこを救われたのだ」
「そうかあー」
「お日さんよ」
「なにえ」
「私に会わせたい神とは、このからすか」
「そえ」
「おまえさん、神さまだったのか」
「そうだがー!」
「八咫と呼んでおる」とお日さん。
「やた」
「つばさ広き、八咫がらす。どこにでも飛んでゆける。この世も、天も、冥界も。
私の大切な仲間」
「ほほう。冥界」
「──に、そなたは石投げつけ、あやうく死なすところであった」
「すまぬ」
「口では済まぬ。何かよこしやれ」
「何かよこせだと。ばいしょうか」
鬼神、困る。
「詫びをするに吝かではない(やぶさかではない)。
しかし私は、持ち物というもののない男でな・・・」
「・・・。」
「うん?」
なーんか、感じる。
お日さんの視線を感じる。
腰のあたりに。
腰に差した、剣に。
鬼神。この『死の探索』で、ずーっと、ひと振りの剣を腰に差してきた。
巨人の剣。英雄ヘルドの剣。名付けて“優雅”。
その優雅に。
お日さんの視線、とっても、感じる。
「いやいや! この剣は、だめじゃ! 預かり物だから」
「・・・。」
「優雅は、私の剣じゃないのだ。
灰沼の氏族が、義父上に返したいと言うてのう。預かっとるところじゃ」
「・・・・・・・・・。」
「そんなじーーーっと見たって、アカンものはアカンのだ」
鬼神。
めんどくさい気配を感じつつ(お月さんで何度も経験したやつである)、相手をする。
「なんじゃ。御身は、剣がお好きなのか?」
「うむ。よい剣ならば、私の機嫌、たちどころに晴々となるというもの」
「めんどくさ!」
「なんか言うたかに?」
「いーや? とにかく優雅はだめじゃ。
さて、しかし、ほかに持ち物なんぞ・・・あ、待てよ。あれがあった」
ごそごそ。
鬼神、ふところ探り、黒い宝玉を取り出した。
「ジャブジャブの宝玉じゃ。叩くと雨が降る、雨降らしの黒玉なのだ」
「天の女神に雨の玉とは、あほう、あほう」
化けがらす、ののしる。
・・・ところが、彼(?)の、まっくろけな目。
つぶらな瞳して、もんのすごく物欲しそうに、宝玉を見つめておる。
「そうか」鬼神、わざと、隠してみた。「これじゃだめかあ。綺麗な玉なんだがのう。困ったのう」
「あー・・・!」
化けがらす、口ぽかーんとし、ひょこひょこ首振って、残念がる。
お日さん、それ見て(気配)、うなずいた(気配)。
「よし。それでえええ。相応の品とみなす」
「これでええのか?」
「うむ」
「ではどうぞ」
ジャブジャブの宝玉。
鬼神から、目にも眩い御方の手に、譲渡。
「これで、鬼神の狼藉(ろうぜき)を許してやるように」
お日さんから、八咫がらすさまの手──いや足に、譲渡。
「かしこまりましたがー」
宝玉しっかり掴んで、八咫がらすさま。
「かあー! かあー!」御機嫌である。「まっくろ、なめらか、綺麗だがー!」
「八咫よ。うちのエルダ、そこの『小天』に預けたゆえ、なんかあったら報告頼むえ」
「かしこまりましたがー」
「御苦労。行ってよし」
「があ、があ!」
化けがらす、飛び立った。
巨大なつばさを雪舞う高空に広げ、悠然と岩山の谷間へ、その身をすべらせる。
めっちゃうれしそうである。ウキウキした感じである。
「かー、かー、かー、かー!」
声高くしつつ、ひらりひらり、暗い谷底へ舞い降りて、見えんようになった。
最後に、こんな歌が聞こえてきた。
♪かーくそ かくそ めーかいに
きれいなみたまを ひとのめに
つかぬところに かーくそ
「・・・お日さんよ」
「なにえ」
「わざわざ、取り持ってくれたのか?」
「奴を呼んだのは、エルダのことを頼むためやえ。そなたは、ついで」
「はあ。そうですか」
「そえ。しかし、きちんと謝ったことはよし。ひとつ見直したえ」
「む。すみません。お手数かけました」
「うむ。
もうひとり、そろそろ出て来よるに、これも騒いだりせぬように」
「でてきよる?」
「んむ」お日さん、焚き火を指す(気配)。
ぱちぱちぱち・・・めんらめらら・・・。
焚き火。
ふいに、ごおっ! ・・・と、大きくなった。
ごお! ぼっ! ふごおお!
フゴ、フゴッ!
おお! なんとしたことか!
その、焚き火の中から!
炎の生きものが、立ち上がってきたではないか!
「うおっ! 火が!」
「騒ぎな」
「そうは言うがな!
火が! でっかくなって! 生きものみたいに、四つ足で!」
炎の生きもの。
サイズ、小山のごとし!
見た目、四つ足のけもののごとし!
突き出す牙! みじかすぎる首! ちょっとしょぼい下半身!
めんらめらめらと、燃えまくりながら!
──いや、燃えとるのではない!
それそのものが、火!
いのししの丸焼きとかではなく!
火のいのしし!
「名は炎猪」
「えんちょ」
「うむ。炎猪。オークの神」
◆ 13、炎猪 ◆
「なんとまあ。火の中から現われるとは!」
鬼神おどろく。
「それに、炎猪どん。以前会うたことがあるのう? 森の中で」
ブヒ・・・ブヒヒッヒ・・・。
炎猪(えんちょ)。うなずいて、なんか言うてきよった。
「やあ。また会うたのう──と言うておる」お日さん翻訳である。
「やっぱりか!
では、あらためて礼を言うぞ、炎猪どん。
あのときは、身体も萎んでおってのう。オークに突っ付かれ、難儀しておったのだ。
助けてくれて、ありがとう」
ブヒ。炎猪うなずく。
「しかし、あんたはオークの神だそうだが? 私に味方して、良かったのか?」
ブヒ・・・。
フゴ、フゴッ・・・フゴッゴ。炎猪どんなんか言うてくる。
「うむ・・・。
そやに、そのあとのこと・・・別の話──と言うておる」
「わかるんかいな」
「わかる」
ブヒ。炎猪うなずく。正解のようである。
「もしかして、あれか」鬼神、心当たりがある。「オークの女司祭を引っ捕らえたことか?」
ブヒ。
「あれは、ちょうど街に入ったところだったからな。
オークどもには乱暴されたので、仕返しをしてやったまでじゃ」
フゴゥ!
「気に喰わんか」
ブヒ!
炎猪どん。『そうじゃ!』とばかりに、強くうなずいた。
フゴッゴ! フゴ・・・ブヒッ! 首振り、地面をガッガッと蹴り立てる。
岩砕け、枯れた雑草、火爪に焼かれて灰となる。
「・・・うん? どうしたのかな? そんなに、猛って(たけって)」
鬼神。
首をひねって見せつつ、こっそり足元の岩拾うて、握り締めた。
さっき八咫がらすさまに謝罪した、先制投石──は、さすがに控えて、相手の出方を見る。
すると。
「飛び道具はなし」と、お日さん。
「ばれたか。だが、鬼のすもうは、何でもありなのだ」
「今回は、私の定めるすもうにせよ」
「むむ・・・」
「武器なし。素手のみ。我が陽光から出たら負け」
明るい陽光の柱。
大きな円柱は、鬼神と炎猪を丸ごと呑み込んでも、まだ少し余裕がある。
「こけても負け。私が『そこまで』と言うたら、やめ。逆らうならば、ぶった斬る」
「武器なしと言うたくせに。あんたは抜くのか」
「私は審判」
「まあええわ。
私はかまわんが? 炎猪どんはどうする」
ブヒッヒ。
「そうか」
鬼神、岩捨てる。ごん! 結構でかい岩である。
炎猪どん。その岩を見て。
フゴ・・・フゴッゴフゴ・・・?
『おまえ・・・そんなごっつい岩を・・・?』と、ショック受けておる。
「炎猪どんは強そうだからのう。一発で仕留めようと思ったのだ」
鬼神、にやり。乱暴なことを抜かす。
「で、お日さんよ」
「なにえ」
「尋常なすもうと言うんなら、当然、炎猪どんの火だって、なしだわな?」
「火はあり」
「なんでじゃ!」
「はじめ!」
「おいこら!」
フゴォ!!!
炎猪どん、突撃!
鬼神と炎猪、巨大神すもうの開幕である!
◆ 14、巨大神すもう ◆
ドゴオ! もんのすごい激突音!
炎猪の頭突きが鬼神に直撃! 岩山をも揺るがす衝撃!
「ぐっほ!」
鬼神咳き込む!
「手強い! そして、熱っついわ! 火加減せよ!」
燃え盛る、炎猪のボディ!
組み合っただけで、鬼神にダメージ!
しかし!
こちとら、鬼どもの神である!
巨人の王に蹴られても!
月の女神に化かされても!
神竜に呑み込まれても!
死ぬっちゅうことのなかった、不死、巌(いわお)の神である!
──雪山では凍ったけれども、あれはノーカンである!
めんらめらめら、火と燃える、掴みどころなき炎猪の首を!
がっし! 鬼神、引っ掴んだ!
「あれ? 掴めるんか」
ブヒ。
「不思議なやつ。まあ、それならば、こっちのもんじゃ!
そーれ、『力』のr──」
「ルーンもなし」
「ぬう! な、ならば、『向k──」
「ルーンのわざもなし」
「くそっ!
あれはだめ、これはだめと!
ルールがうるさいわ! この、ハイエルフめ!」
「くくく」
燃える炎猪! 六腕三眼、鬼の神!
がっぷり組み合い、力比べ!
武器もルーンも禁じられた鬼神! とっても、やりづらい!
そのくせ、炎猪はめんらめらめら燃えてきよる!
「くそっ! 卑怯だぞ。火傷してしまうわ!」
「人間ならば、とっくに消し炭になっておるに。
天晴れ! さすが、鬼どもの神!」
お日さん御機嫌。にっこにこ(気配)。
なんと、踊り始めた(気配)。
「やーれがんばれ。それがんばれ。やれやれ炎猪、ゆけ鬼神」
「楽しそうにしおってからに! ええい、これでどうじゃ」
鬼神。
六腕の下右腕、なめらかに伸ばし、炎猪どんの左前足を、取りにいった。
取った!
炎猪どんの左前足を、地面から引っ張り上げた!
そっちに引き落とす! しかし!
フゴオオオオオ!
炎猪どん、なんと、火を噴いた!
いのししブレス! ──いやいのししは火吐かん!
炎猪ブレス!
「ぐわあ!」
鬼神の顔面、直撃である!
「禿げる(はげる)! はげになる!」
さすがの鬼神も悲鳴上げ、顔そむけ、組み付きほどいて、あわてて逃げた。
「こら! 炎猪どん! 卑怯だぞ!
私は武器使っとらんのにから!」
「セーフ。息吐くだけならセーフ」
「えこひいき!」
鬼神。
炎猪ブレスかわし、横に回り込んで、反撃のタックル!
横っ腹を突き押して、一気に場外へ!
──との、狙いであったが。
なんと。炎猪どん。
スイッと、焚き火の中に潜ってしまいよった。
「えっ?」
鬼神、空振り。
焚き火を通りすぎてしまう。
その背後、ふたたび炎猪が、出現する!
鬼神のケツに、タックル!
「ぐわあ! 尻に穴が開いてしまう!」
「下品なり」
突き上げられた鬼神。かろうじて、陽光の柱ギリギリに留まるが──
さらに、追撃! 二段タックル!
鬼神振り向くひまもない! かわす余地もない!
敗北の流れ! もはや、変えられぬ!
この窮地(きゅうち)! 鬼神は──
「──無心の受け」
すっ・・・
半眼になって・・・
六腕ふんわり、左右に広げて・・・
ふわっ・・・
羽毛のごとく、かーるく、身体をねじって・・・
炎猪どんのタックルを、右脇にすかして・・・
ヘッドロック!
右脇に、燃ゆる太首、たばさんだ!
炎のいのしし、その首を! 六腕駆使して、締め込んだ!
フゴッ・・・!?
炎猪どん、首を締められ、おおあわて!
後じさるが、抜けれん! 首ひねるが、抜けれん!
ヘッドロック! パーフェクト!
「参ったか?」
フ・・・フゴッゴ・・・!
炎猪どん、『ノー・ギブアップ・・・!』と苦しげに、鬼神の顔を見上げてくる。
「参らんのか」
フゴ・・・。
「どうするつもりじゃ」
2人の目が、合った。
フゴオオオオオ! 炎猪ブレス!
「ぬっふぁあああ! 熱っ! 熱っつい!」
右脇から噴き上げる、炎! これはたまらん!
だが鬼神、ヘッドロックは解除せぬ! ぎりぎり締め上げ、息切れを待つ!
炎猪どん、意地でも、火噴き、暴れつづける!
がまんくらべ! 意地くらべ!
「ほほほ。勇壮なり」お日さん手叩く。もはや完全に観衆である。
「鬼神さま、がんばれ」グレイス、鬼神を応援。
「・・・そなたどっちの味方え」
「鬼神さまですえ」
「よう言うた。そこへ直れ」
なんかどっち応援するかでけんかしだした。
それを聞きつけた、鬼神。
「よそ見しおって・・・」悪いことを思いつく。「よし。ではこうだ」
ぐいい!
炎猪どんを、ねじり回した!
右に、左に、ぐいぐい、ぐいいいい! と力をかけて!
火を噴く首を、コントロール! 向きを、変えた!
──太陽の女神の方向へ!
「きゃー」
太陽の女神、悲鳴上げ、倒れた(気配)!
フゴォッ!!?
炎猪どん、びっくりして火噴くのやめた!
だが、ひと息遅かった! 燃ゆるブレス! 太陽の女神に、ぶわーっとかかってしもうておる!
炎猪どん、びっくり!
一瞬、硬直!
「いまじゃ!」
鬼神、そのスキすかさず突いて!
ついに、炎猪どんをすっ転がした。
ずっ・・・・・・・・・どおおおおおん・・・!!! 轟音! 地震!
小山のごとき炎猪どん、岩山に転倒!
「見たか! 私の勝ちじゃ!」
鬼神勝ち誇るが・・・
「おい。お日さんや。私の勝ちだぞ。軍配を」
「・・・。」
へんじがない。
「お、おい? 大丈夫か!?」
鬼神駆けつける。炎猪どんも駆けつける。
「お日さんや! しっかりせよ!」
怪我の具合を確認しようと、駆けつけて見──
「ぬわあ! 目が。
目がー。目が潰れるう」
フゴッォォォ・・・!
お日さんをまともに見てしもうた、鬼神と炎猪どん。
2柱そろって、目を焼かれ、地面に転がる。
「はー、びっくりしたえ」
太陽の女神、起き上がった(気配)。
「まことに。鞘、焦げてしまいました」とグレイス。
「ほんまやえ。
この私が『火』のルーンの所有者でなければ、無傷では済んでおらぬところ」
「・・・鞘は焦げたのですが」
「よし。服も無事。良かった良かった」
「なんで! 鞘は! 焦げたんですかに!?」
太陽の女神。鬼神と炎猪を見る(気配)。
「目がー・・・」
フゴォォォ・・・。
「2人とも倒れておる」太陽の女神、判定。「この勝負、引き分け!」
◆ 15、太陽の女神、レガーさんのはなしをする ◆
お日さん、焚き火をする。
鬼神と炎猪どん。目をしょぼしょぼさせながら、並んで座る。
『引き分けじゃないわ! 私の勝ちじゃ!』
・・・と、鬼神は文句言うたのだが。
『文句あるなら、多数決』などと、むちゃくちゃなことを言われ、判定は覆らなんだ(くつがえらなんだ)。
鬼神。
こういう、悪い文官みたいな屁理屈、苦手。
口げんかするぐらいなら、殴って黙らせる! という男である。
相手が女では──それも、お月さんのお姉さんでは、殴るわけにもゆかぬ。
よって、対処できぬ。
『くそっ! もうええわ!』
『ええなら言いなえ』太陽の女神、意地悪である。
ブヒ・・・。炎猪どんのほうが気づかってくれる始末であった。
こうして、炎猪どんと鬼神の戦いは、引き分けとされた。
「・・・ま、怪我がなくて、良かったわい」
「こっちに火ぃ向けたくせに」
「火噴くのをやめさせようとしたのだ。炎猪どんが、やめんから」
フゴッ!?
「人のせいにすな」
「はい」
「ま、私は『火』のルーンの所有者ゆえ、まず大丈夫なのやが」
「鞘は焦げましたけれども」グレイスがブツブツ言う。
「で、炎猪よ。納得したかに?」
ブヒ。炎猪うなずく。
「・・・炎猪どんとの仲も、取り持ってくれたというわけか」
「いや、地球にゆくので焚き火でも囲もうと、もともと誘ってあったのえ」
「そうか」
「そうえ」
「『火』のルーンと言うたか?」
「うむ。私は『火』のルーンの所有者。
知識を盗まれたりはしたが、長く所有をしておる」
「盗まれた?」
「盗っ人のレガーに」
太陽の女神。レガーさんを『盗っ人』と言うた。
鬼神。
のっそり・・・と、立ち上がる。
「おい」
「なにえ」
「レガーさんは私の恩人だ。盗っ人などと、悪く言うのはやめよ」
「盗っ人は盗っ人え」
「やめろと言うのに」
「レガーは盗っ人の神やえ。知らぬのか?」
「私の前では、その呼び名は許さぬ」
「盗っ人の仲間ということかに?」
「御前(ごぜん)!」
鬼神。
ちょっと本気になって、怒鳴った。空気がびりびりした。
「レガーさんは、いい人じゃ。気持ちのいい旅人であった。
義父上といい、あんたといい、なんでそんな悪く言う!
レガーさんの何を知っておるのだ」
「そなたよりは多くのことを。
直接会うたこともある。けんかしたこともある」
「信じませんぞ!
陰口なんぞ、私は相手にせぬ!
誰がなんと言おうと、レガーさんは、私の恩人じゃ」
「そなたは素直すぎる」
太陽の女神は静かに言うた。
「レガーは、この世で初めて『盗む』のルーンを使うた男。
盗っ人を盗っ人と呼ぶのは、悪口ではない。
むしろ、奴を善人呼ばわりしたら、私はうそつきとなる」
「・・・。」
鬼神はまだ猛然と怒ったまま、ちらっと炎猪どんを見た。
ブヒ。炎猪どん、うなずく。
「む・・・」
「レガーは、自分の気に入った者には、とても気前がよい。
そやに、気に入らん相手には、手ひどい悪さをする。
宝はもちろん、ルーンをも盗みおる。
私から『火』の知識を盗み、ハイエルフやヒューマンに分け与えたのも、それ」
「・・・本当に、本当なのか?」
「鬼神さま。これは本当のことですえ」
剣がしゃべった。
「レガーは旅人の神でもあり、魔術師の神でもある。
『火』の知識や『闇』のルーンを人間に与え、魔術のわざを豊かにした。
一方で、とてもたちの悪い盗賊でもあって、悪人にも信仰されておるのですえ」
「グレイスさまがおっしゃるなら・・・、まあ、信じるが」
「なにえ」お日さん、すねる。
ブヒ、ブヒ。炎猪どんがなだめた。
グレイス、続ける。
「ほかならぬ、『力』のルーンも。
レガーが神竜から盗んだことで、鬼神さまの手に渡ったのですえ」
「盗んだとは聞いとらん。『奪った』と言うておられた」
「そうですか。
ともあれ、眠っておる神竜から、ルーンを引っこ抜いたわけですえ。
そなことできるのは、『盗む』のルーンをおいて、なし」
「むう」
しばし、沈黙。
ごそごそ。
太陽の女神、懐からなんか出して、火の中に潜り込ませた。
「・・・なにをしとるのだ」
「くり」とお日さん。
「くり」
「くり知らんかに? 木の実え。トゲトゲしておる。焼くと、うまい」
「はあ。アルフェの実みたいなやつか」
「全然ちゃうえ」
ぱちぱち・・・。
「鬼神さま」ふたたび、グレイス。「お認めになられよ。レガーは、いくつも顔を持っておるのです」
「・・・いや」
鬼神は首を振った。
「私が気に喰わんのはだ。
本人の居らぬところで罪をあげつらい、反論も聞かんと、断罪をするということじゃ。
これでは、エスロ博士を死刑としたハイエルフの裁判と、同じではないか。
納得できぬ。私はあくまで、レガーさんを弁護するぞ。恩人だからな」
「なるほど、ごもっとも」グレイス、納得する。
「鬼神よ」お日さんが話を継いだ。
「なんじゃ」
「そなたの気持ちはわかった。不在裁判はやめよう。
そやに、この話はそなたに深く関わることゆえ、聞いてもらいたい」
「・・・わかった」
「これは推測なのやが。
そなたは、『盗む』のわざを伝授されたのではないかに?」
「は?」
「そなたは、父上から『戦』のルーンを盗んだはずやえ」
◆ 16、鬼神と、『戦』のルーン ◆
「なにぃ・・・? 今度は、私を盗っ人呼ばわりか」
「そなたの父上が言うておったのえ。
『取られた』『取られた』『ルーンを取られた』と。
泣き叫びつつ、すっ飛んでった」
「いつの話だ?」
「そなたが父上をぶん投げた時の話」
「なんと・・・」
父たる赤い大地の神を、空へとぶん投げた。
それはたしかに、若き日の鬼神のやったことである。
・・・このお話では、1章の、『力のルーン(後)』の回ですね。
これまた、ずいぶん前のことた。
それを、太陽の女神はちゃーんと覚えてらっしゃったと、こういうわけである。
「・・・よく覚えておいでですな」
鬼神。ちょっと、態度を改めた。
「しかしですな。お日さまよ。
私は、ルーンを盗んだりはしておりませんぞ」
「『盗む』のルーンのわざは、とっさに、勝手に、発動するという。
それが手癖(てくせ)の悪さとなり、被害者の意表を突くことにもなる」
「そう言われてものう」
「よーく思い出してみなえ。盗んだ瞬間には、ふつうとはちがう手応えがあると聞く」
「独特の手応え・・・」
父をぶん投げた直後。
鬼神は、それまでに感じたことのないような気持ちになったのであった。
「・・・たしかに、あったな」
「では、こう唱えてみよ。
『戦』のルーン。次に起こる戦を、予想する」
「ふむ?」
「『戦』のルーン!」鬼神は唱えた。「次に起こる戦を、予想する!」
すると。
どこか真っ暗なところで、鬼神が1人、無数の兵士と戦っておる様子が、見えた。
まるで夢を見るように。頭の中に、そんな光景が浮かんできたのである。
「ぬう!」
「なにか見えたかに?」
「見えた!」鬼神、いま見た光景を説明する。「なんの戦でしょうか?」
「わからぬ。そやに、そなたが『戦』のルーンを持っておることは、わかった」
「なんと・・・」
「レガーに『力』のルーンをもろうたとき、他に何かもろうたのではないか?」
「いや。『力』のルーンだけじゃ」
「もろうたはずやえ」
「いいや、もろうとらん」
「レガーはなんと言うた?」
「ん?」
「レガーは盗っ人の神やが、変に誠実なところもある。
そなたに『盗む』のわざをくれたのなら、それらしき言葉があったはず。
一字一句、正確に、思い出してみよ」
「一字一句・・・」
鬼神、思い出す。
レガーさんの声が、蘇ってくる・・・
『では。
君に、私の知る技、『力』のルーン、を授ける』
「それやえ」
「それ?」
「レガーの知るわざ。
『力』のルーン。
このふたつを授けてやろうと、レガーは言うたのえ」
「は・・・???」
「『盗む』のわざは、多岐に渡る。
すりのように盗むわざもあれば、倒した相手からぶんどるわざもある。
人が気付かぬようにすり抜けるわざ。危難を避ける(よける)わざ。また──」
「待て。危難を避ける?」
「うむ。『盗む』のルーンのわざ、『避ける』。
生命の危険があるとき、『おっと危ない』と言うて、ひょいと避けれるという」
「それは! めっっっちゃ、心当たりがあるぞ!」
ああ、なんと。
何十年もの時を経て。
目にも眩い御方の導きによって。
ついに鬼神は「おっと、危ない」の謎を、解くことができたのでした。
「これでわかったに?」
太陽の女神、ほほえんだ(気配)。
「レガーの贈り物は、たしかに豪華なのやが。
とんでもない危難をもたらすこともある」
「危難か・・・」
『力』のルーンがあったから、故郷を飛び出した。
『力』のルーンがあったから、活躍をし、国王にもなれた。
そして。
『力』のルーンがあったから、神竜に狙われ、娘を奪われた・・・。
ぱちん!
火の中で、なんかが弾けた。
「焼けたようやに」
シャリ──剣を抜こうとする音がして。
「断固拒否いたしまする!」グレイスが叫んだ。
「くりぐらい」
「くりぐらい、自分でお取りなされ!」
「・・・なにをけんかしとるのだ」
鬼神は夢から覚めたような心地になって、2人の女を仲裁した。
「くり・・・」お日さんがしょんぼりしておる(気配)。
「なんじゃ? さっきのを取れっちゅうのか?」
鬼神、長~い腕を火に突っ込み、がさがさやった。
しかし「熱っ!」さすがの鬼神も、素手ではちょっと。
ブヒ・・・。
ここで、炎猪どんが男を見せた。
フゴ、フゴ・・・ブヒ。
ぼおお・・・!
火の中に、鼻面突っ込む!
くりを咥えて、取り出してくれた!
「おお。気が利くのう。ほれ、お日さま」
「・・・。」
炎猪が口で咥えた、くり。
炎猪とすもうしたまま手洗っとらん鬼神が手渡してくれた、くり。
太陽の女神、ちょっと沈黙。しばらく眺めて(気配)、返してきた。「お食べ」
「おお、私にくれるのか? いただきます」
「皮はだめですえ!」グレイスが警告した。「とげ、刺さりますえ」
「あ? 割って食うのか?」
鬼神、ごっつい手で、熱々のとげ、パカッと割る。
くり出てくる。食べる。
熱く、乾いた、ぱさつくようでいて意外とホクホクした、不思議な食感であった。
「うまい、うまい」
「炎猪も食うてえええ」
ブヒ・・・。
炎猪どん、鼻面を火に突っ込み。ハッフハッフと言うて、皮ごとくりを噛み砕く。
「さて、私も」シャリ──「拒否いたしまする!」
炎猪どん、今度は口に咥えず、鼻でくりを押し出した。まさに、気の利く男である。
しばらくのあいだ。
くり掘り出して食う、神々のおやつ。
静かにつづいた。
「『戦』のルーンか・・・」
鬼神はつぶやいた。
「言われてみれば、戦のことに関して、妙に勘が冴えたものな。
あれはルーンのおかげだったのか・・・」
「ルーンあっても、阿呆は阿呆やえ」お日さま、回りくどい褒め方をした。
「うるさいわい」鬼神には伝わらぬ。
「鬼神さまは『戦』のルーンをうまく使われましたえ」
グレイスはもっとストレートに褒めた。
「鬼神さまは立派な国王。戦に強し。人には優し。
ルシーナも、そう褒めておりましたえ」
「なんだと! 本当か!?」
「ほんまですえ」
「なんだもう、あいつめぇー! 直接言うてくれればええものを」鬼神デレデレである。
「で、」お日さまが口を開いた。「どえ?」
「なにがじゃ」
「どんな気持ちえ?」
「いや。べつに。
それはまあ、ちょっとはな。
『やられた!』という感じもあるけれどもな。
いまはちょっと、考えたくないのう。考えると──腹が立ちそうだから!」
「そやろ? むかつくやろ? 私がレガーを嫌いな理由、わかってもらえたかに?」
「私は嫌いではないぞ! レガーさんは、恩人じゃ!」
鬼神は頑張った。
「・・・だが、御身の気持ちも、わかったようだわい」
◆ 17、神々、ルーンをこうかんす ◆
「さて、くりも食うたし、私は天に帰るえ」
「もう帰るのか」
「そな顔しな。そなたには、八咫に言伝て(ことづて)することを許す」
「やた」
「さっきのからすですえ」とグレイス。「八咫がらす」
「ああ、あいつか」
「やたらに呼びなえ?」
「うむ。お月が見つかったら、伝言するとしよう」
「そやに」
太陽の女神、立ち上がる。
「『伸びる』のルーン、そなたに教えておくとしよう」
「なんと。ええのか?」
「安全のため」太陽の女神、ちょっと早口になる。「私もそない頻繁にこちらには来れぬ。またぶっ倒れられても面倒。安全のためやえ」
「そうか。では、私もお返しに・・・。
『力』と『戦』、どっちが欲しい?」
「こりゃ鬼神」
「なんじゃ」
「そのような聞き方をするのはよろしゅうないえ」
「いまいちわからんものでな」
「『力』は偉大なるルーンのひとつ」とグレイス。「『伸びる』とは、釣り合いませぬ」
「わかった。では『戦』のルーンを、お返しにお教えしよう」
「うむ。ありがたく教わろう」
太陽の女神と鬼神、『伸びる』と『戦』を、教え合った。
「グレイスさまにも、お礼をしたい。『戦』のルーンをお教えしよう」
「では、私からは『恩寵』のルーンを」
「おんちょうのルーン」
「手の届かぬ仲間に、力を授ける──というはたらきのルーン。
信者に力を授けるようなこともできますのえ」
「ほほー。それはありがたいルーンじゃ」
剣のグレイスと鬼神、『恩寵』と『戦』を、教え合った。
ブヒ・・・。
「うん? 炎猪どんも、交換したいのか?」
『ブヒヒ』ブヒッヒ。
「『結ぶ』のルーン──と言うておる」
「むすぶのルーン」
「くっつけるはたらきのルーン。
金属を溶かしてくっつける。『力』や『火』でも可能やが、『結ぶ』があれば、よりしっかりとくっつけれる。
人をくっつけたりもできる。オークどもの結束が固いのは、このルーンのおかげと聞く」
ブヒ。
「これはまた、国益(こくえき)になるルーンじゃ!」
炎猪どんと鬼神も、『結ぶ』と『戦』を、教え合った。
「うーむ」お日さん考える。「この中では、『伸びる』が見劣りする。おまけを付けねばならぬ」
「別にかまわんが」
「そなたがかまわんでも、私は身分ある身。一族が恥をかくことになる」
「そうか」
「『光』のルーンのわざ、『見出す』を、おまけに付けよう」
「みいだす」
「なにかに気付くルーンやえ」
「なにかとは」
「そなたが、いまはまだ気付いておらぬ、なにか。
そやに、もう十分に調べ、取り組み、いつ気付いてもおかしゅうない──そんな、なにか。
このわざがあれば、ハッと気付くことができる」
「ほほう」
「そなたの探索の助けになりますように」
太陽の女神は、天へと去った。
フゴ、フゴッゴ・・・。炎猪どんも、焚き火にもぐった。
「寒いのは嫌か?」
ブヒ。ブーヒッ。
炎猪どんも、去った。
「さて・・・」
太陽と炎猪を見送った鬼神。
後には何も残らなんだ。
焚き火の穴は鬼神が埋めた。陽光の柱も、雲のあいだに隠れて消え去った。
「早速、使ってみるか」
「『光』のルーンのわざ、『見出す』!
姿を見せよ! あらわれ出でよ!
もしもこの世にあるならば。
見出されよ──冥界の入り口よ!」
スタスタ。
鬼神、歩き出す。
でっかい鬼神ならではの、快速で。
下山する。峠を下り、谷に出る。
人間なら二度と出て来れんのではないかというような、深い谷──
さきほど、八咫がらすが舞い降りていった、あの谷底へ。
スタスタ。鬼神。確信をもって、降りてゆく。
そして。
鬼神は、ひとつの洞窟を、見出すこととなる。
黄泉(よみ)の坂。冥界へとつづく、この世ならぬ洞窟を。