◆ 1、鬼神、みいだす ◆
「なんとしたことか」
鬼神、びっくり。
目をこすり、二度、三度、目の前の光景を見直す。
「私の目が、おかしくなったのであろうか・・・?
がいこつが、立っておる」
谷の底。洞窟の前。白い骨が、立っておる。
人間の骸骨(がいこつ)である。背丈は・・・ダークエルフぐらいか。
洞窟の入り口に立って、じーっと外を見張って(?)おる。
洞窟。
まるで、緑のモンスターの口のごとし。
鬼神よりもでっかい穴が、垂れ下がる蔦(つた)で、ほとんど隠されておる。
そんな洞窟の前に。
骸骨が、すっくと立っとるんである。
真っ白な骸骨。白骨(はっこつ)。
くりっと首を回転させ、鬼神のほうを、見てきた!
「どちらさんかな?」白骨が、しゃべった。「私のこと、見えとるようやね」
「耳までおかしくなったのであろうか・・・?
がいこつが、しゃべっておる」
「いやいや。私いま、御身に話しかけましたで」
「本当にしゃべっとる!」
鬼神びっくりである。
「しゃべるがいこつとはな。
うーん・・・どっかで見たような気がするな? どこだったか」
「私はありませんな」と白骨。「お初にお目にかかります」
「そうか。初めまして」
「ふつうやったら、私のことは見えへんはずなんやけどねえ?」
「はあ」
鬼神、びっくりしてしまい、受け答えができぬ。ぎくしゃくする。
白骨のほうは、動作なめらか。首かしげたり、頭掻いたりする。動きが、なんか、生き生きしておる。
「長いこと門番やっとるけどもねえ。
生きた御方としゃべるのは・・・何回目やろ? ま、とにかく、ごっつい珍しいことですわ」
「門番とおっしゃったか?」
「はい。冥界の入り口守ってますねん」
「冥界だと!?」
「そうですわ」がいこつがうなずいた。コキッと首が鳴った。「あいた。首こきってなった」
「・・・ここは、冥界なのか?」
「ここはただの谷底ですやんか」
「そうだわな」
鬼神見回す。
あたりは、蔦と雑草にうじゃうじゃと覆われた、谷底である。
深い深い谷である。この世のものとも思えぬほどに、深く、暗い、谷であった。
「陰気なところだが」
「そうですな。そやけど、まあ、現世の範囲内。冥界は、こっちですわ」
白骨。大きな、真っ暗な洞窟の奥を指差した。
「なるほど。しかし・・・がいこつさんよ。あんた、尋常ではないな」
「御身かて、でっかいし、腕六本あって、目ぇ三つありますやんか」
「おっと! これは一本取られたわい」
わっはっは。
鬼神と、がいこつ。笑う。
「私は、鬼神と名乗る者。鬼どもの神、鬼神じゃ」
「これは御丁寧に。あ、申し遅れました」
がいこつが返礼をした。
「私は、白骨の神(はっこつのかみ)。冥界の門番やらせて頂いてます。どうぞよろしゅう」
◆ 2、白骨の神 ◆
「それで、鬼神さま。ここに何の用ですかな?」
「つい先ほど、太陽の女神さまに『光』のルーンのわざを習うてな。
それを使ってみたら、ここへたどり着いたというわけだが」
「太陽の神に! そらすごいですな。
わざっちゅうのは、『見出す』とか、そのへんですか?」
「おお、よく御存知だのう」
「冥界の入り口は、生きとるもんには見えへんはずなんですわ。私もね。
それが見えるとなったらね。まあ、そのへんのわざかなーと、見当つけたわけですわ」
「そうか」
「冥界をお探しやったわけですか?」
「『死』を捜し求めて、何年も探索しておったところじゃ」
「そうですか」
「それでじゃ。白骨の神よ」
鬼神。
背筋を伸ばして、お願いをする。
「御身に、お願いがある」
「なんですかな? 鬼神さま」
「ちょっと、そこをどいてくれんか。冥界に用があるのだ」
「どんな御用ですかな?」
「いや、ちょっとな。私の娘が、私より先に死んでしもうたのだ。
それで、死者は冥界へゆくわけだろう? せっかく見つけたんだし、会っていこうと思うてな」
「なるほど」
「というわけじゃ。では失礼」
鬼神、洞窟に入ろうとする。
白骨の神、行く手をふさぐ。「アカンアカン」
「・・・なぜ邪魔をする」
「なんでて、さっき言いましたやんか。『門番や』て」
「そんなことはわかっとる。なんで通ってはならんのかを聞いとるのだ」
「ここは死者のための入り口ですからねえ?」
「娘もここを通ったわけだろう」
「まあ、ふつうはそうなりますわね」
「なら私も通るまで」
鬼神、入ろうとする。
白骨の神、ふさぐ。「アカンっちゅうとんねん」
「なぜ、邪魔をする!」
「人の言うこと、ちっとも聞いてへんのですな。『死者のための入り口』て言いましたやんか」
「娘が中に居るはずなのだ。ちょっと行って顔見るぐらい、かまわんだろうが!」
「それ許可したら、『生きとる人間が冥界行き来する』いう前例できてしまいますやんか」
「ハイエルフの文官みたいな言いぐさ!
ええから、とっととどけい!」
「アカンアカン」
白骨の神、クルックルッとしゃれこうべを左右に振る。びびる様子、一切なし。さすがは神さまである。
だが鬼神も引き下がらぬ。さすがは巨人の王に『不埒者』と呼ばれた男である。
「どけ! けがをしたくなければ!」
「アカンて」
「もう一度だけ言うぞ。
これはな、あんたが神さまだから、もう一度だけ口で言うてやるのだぞ。
──どけ」
「アカン」白骨の神は一歩も退かぬ。「通るっちゅうんなら、力ずくで行きなはれ」
・・・あ。その一言はいけませんよ。
そういうのは、乱暴者に言うてはいかんセリフだ。『力を見せろ』とか、『やってみろ』などとは。
「ならば見るがよい! 我が力を!」
目にも止まらぬパンチ!
右上こぶし! 神速の一発!
白骨の神のしゃれこうべを、ぶん殴った!
どかーん!!!
あわれ白骨の神。
鬼神のこぶしにぶん殴られ──
ぱっかーん! 乾いた音立てて、ばらっばらとなった!
これには、鬼神のほうが、びっくりである。
「なんと脆い(もろい)やつ!」
砕け散った骨の山を覗き込む。
「・・・おーい、白骨の神さんよ。大丈夫か?」
すると。
「あにはからんや」しゃれこうべが、しゃべった。「ホンマに殴りはった」
カタカタカタ。
地面に落っこちた、しゃれこうべ。顎だけ動かして、しゃべっておる!
「生きとるのか。頑丈なやつ」
「死んでますで。見ての通りの骸骨ですわ」
カタカタカタ。
しゃれこうべ笑う。
そして。
ばらばらになった白骨。それぞれ、カタカタカタ・・・と、震動したかと思うと・・・
糸で引っ張るがごとくして、互いに引き寄せ合い・・・
カチャ・・・カチャ・・・
くっつき始めた!
指の骨がくっついて、指ができた!
足の甲がくっついて、足ができた!
すねがくっついて、膝がくっついて、大腿骨がくっついて・・・右足の完成である!
左足がケンケンで跳んで来て・・・右足に並んで・・・
その上に、腰骨がピョーンと跳ねて、ケンダマのごとく突き刺さり・・・下半身の完成である!
ヒョコ、ヒョコ。上半身が、逆立ちして歩いてきて・・・
下半身がしゃがみ込んで、上半身を迎え・・・
「乱暴な御方やわぁ。うわさで聞いたんよりひどいわ」
・・・しゃべるしゃれこうべを、最後に拾うて、カチャリ。首の上にセット。
白骨の神の完成である!
「おおう!」
鬼神、のけぞった。
「あんなにばらっばらになってからに、元通り、くっついてしまいよった!」
「組み立て容易なんが、この身体のええとこですからねえ」
「お見事!」
鬼神、ちょっと楽しくなり、拍手した。
・・・それから、謝罪した。
「すまぬ。もっと強いんかと思うて、力を入れすぎた。ばらっばらになるとは」
「謝られても、ねえ? まあ、ダメージはないから、許しますが」
「すまんすまん。では、失礼」
鬼神、入ろうとする。
白骨の神、ふさぐ。「アカンっちゅうとるがな!」
「どけ」
「どかへんっちゅうねん」
「しつこい奴だな」
「どっちがじゃ」
「どけ! 私は、なんとしても、ルシーナに会うのだ!」
目にも止まらぬパンチ!
ぱっかーん! 白骨ばらっばら!
カチャ、カチャ・・・
元通りに完成!
「ぬう。しぶといやつ」
「何べん殴ったって、私はどきませんで」
「くそっ! 何が何でも、とかせてやる」
ぱっかーん! カチャ、カチャ・・・。
ぱっかーん! カチャ、カチャ・・・。
意地の張り合い。しばし、つづく。
ぱっかーん!
「はぁはぁ。どうだ! もうええだろう。私を通せ」
「絶対アカン。アカンもんはアカン」
「・・・そんな何回もばらばらにされて、嫌にならんのか?」
「嫌に決まっとるがな」
「なら通せ」
「アカン」
カタカタ。
しゃれこうべ、地面にひっくり返ったまんま、こう言い切る。
「どんな嫌がらせされたって、法は法や。それが役人の誇りです」
「ちっ!
・・・わかった。今日は、引き返そう」
「わかってくれましたか」
「今日はな。あんたの仕事ぶりに、敬意を表してな」
鬼神。
転がったしゃれこうべを、拾ってやった。
「ほれ、頭はここじゃ」
「あ、こらどうも、おおきに」
カチャリ。
首はまり、白骨の神、もう何度目かわからん完成である!
「何度もばらばらにして、すまなんだのう」
「わかって頂けたんなら、それでよろしい」
「あんたは骨のある男だな」
「他になんもありませんからな」
「立派なやつ!」
鬼神、感動。白骨の神と握手。
上下にシェイク。白骨の手、すぽり。「あ、取れてしもうた」
「脱臼しやすい体質でして」
鬼神。
冥界を目の前にして、引き返したのであった。
◆ 3、ハルモニアー、けっこんす ◆
「あ、おっ父。ひさしぶり」
「おう。イリス。元気そうだな」
鬼神。
奈辺羅辺(なへんらへん)にもどった。
三女のイリスに出迎えられる。
イリス。いまや、巨人の国の王妃殿下。何人目かの子供を抱っこしておる。
「あれ? おっ父。元に戻ったんや」
「太陽の女神さまにお会いしてな。元のサイズに、戻してもろうたのだ」
「伯母上に会うたんや!」
「うむ。目にも眩い御方であった」
鬼神はイリスに、今回の旅の話をした。
オークに追いかけられ、炎猪どんに出会うた。
街では戦争に巻き込まれ、赤猿という名の孫に出会うた。
帰り道で死にかけ、ルシーナとグレイスさま、そして太陽の女神さまに助けてもろうた。
エルダという赤ちゃんを抱っこして、めっちゃ祝福した。などなど。
「へー! おっ父、あっちこっちで子作っとったんやに」
「う、うむ」
「そっか。元に戻ってもたん。なんや、そっか・・・」
「なんで残念がるのだ」
「小っちゃいおっ父、子供みたいでかわいかったに」
「・・・。」鬼神、父の沽券について考える。
「おっ父」
「なんじゃ」
「もう一回、萎んでみたらどうかに?」
「萎まんぞ」オマエノ前デハナ! 鬼神、心の中でそう叫ぶ。
「ちぇっ。
・・・あ、そえ。こっちもニュースあんねん」
「ほう。ええニュースか?」
「うん!」イリスほほえむ。「ハル姉、結婚式の日ぃ、決めたって」
次女・ハルモニアー、結婚式の日程決まる!
このニュースによって、鬼神の冥界行きは、しばし延期されることとなった。
なんでといって、鬼神も結婚式に参列するため、空飛んで海外に渡ったからである。
赤いかぶとがに。鬼神の前に、ふわ~んと着地。
「おう、陸号(りくごう)! 長旅だが、よろしく頼むぞ」
ぶわっさ!
空飛ぶ台、陸号。鬼神の前に登場である。
「ちょっと丸くなったな?」
「そうなのだ」六男の礼鬼(れいぎ)がやってきた。「今年、新しいボディにしましてな。陸の希望だ」
「似合っとるぞ。おまえは、ユーモアのある男だからな」
ぶわっさ?
『だろ?』みたいな動きをする陸号。鬼神と礼鬼、笑う。
「いやあ、私も陸も、海を渡るのは初めてでしてな」
「うむ。私もじゃ」鬼神うなずく。「ずいぶん遠いらしいのう」
「そうなのだ。空飛ぶ台でも日をまたぐことになる。もう半分近ければ、妙雅で行ったのですがね」
陸号に荷を積み込み、礼鬼と鬼神が乗って、出発である。
イリス王妃殿下は、肆号(しごう)で先発しておる。新生アルスへ寄って、祝いの品や手紙を預かるらしい。
ちなみに、ルーン司令官は不参加である。理由は、ハルモニアーが何年も帰国しとらん理由と同じ。肆号や陸号は巨人の国の空軍所属であって、アルス所属ではない。平時に借りを作るようなことはできぬ。となると、海を渡るのは一大旅行なので──というわけ。
「・・・相棒が生きとったら、『ええから、乗れ』の一言だろうな」
「そうですな。きしにぃは空軍士官というより、勇者でした。丘の街にも、そう説明したものです」
「外交は大変だな」
「慣れれば、面白いもんですよ」礼鬼は笑うた。
<すみません、お二方。お待たせしました>
「おう、小っちゃい妙雅」
<オクトラです!>
黒い飛行物体がそう返しつつ、鬼神の頭の上にちょこんと着陸した。
「なんで頭に乗る」
<せまいから>妙雅が文句言う。<おじちゃん、ここは『萎む』のルーンを使ってみては?>
「いや、使わんぞ」
<陸が楽になるのに>
「・・・使わんぞ」
<ちっ。見てみたかったんじゃが>
「絶対使わんからな!」
断固拒んだ鬼神であったが。
『萎む』のルーン。結局、また使う羽目となる。
ハルモニアーの結婚式で、みんなが余興(よきょう)をやることになって・・・
「父上! ぜひ、あれやって! あの、小っちゃぁなるやつ!」
・・・と、新婦のハルモニアーに、目キラキラ、すがりつかれてしもうたのだ。
娘どもに甘い鬼神に、これは、だめであった。
ハルモニアーや、新郎のセレト殿、そして参列客らの見守る前で・・・
服がすっぽ抜けんよう、しっかり握ってから・・・
「『萎む』のルーン! 我が身よ、小っちゃくなーれ!
──イカガカナ! 六腕三眼、萎ミ神デゴザル!」
「きゃー!」と、女どものおもちゃにされるのであった。
「旦那さんよ。娘をよろしく頼むぞ」
「は!」
ハルモニアーの旦那、セレト殿は、ハイエルフの英雄であった。
なんでも『竜の牙』とかいう作物で財をなし、戦士団を率いて、都を建国したとか。
その竜の牙であるが。
「さ、父上。『竜の牙』の野菜スープですえ」
「むむ・・・?」
式のあとの、家族の食事にお呼ばれした鬼神。
一見ふつうの野菜スープ。変わったところと言えば、ところどころに赤い小さな輪っかが浮かんでおる程度。
「なにがちがうのじゃ? なにが、竜の牙なのだ?」
「ひと口食べたらわかりますえ」ハルモニアー、にやにやしておる。
「そうか。では、頂きます」
ごくり。
鬼神、ひと口で、スープをがぶり。
ぜーんぶ、口の中に入れてしもうた。
「あ」「あ」「あなや。義父上」
ハルモニアー、イリス、旦那さん、一斉にあわてだす。
一緒にテーブルを囲んでおったダークエルフの女が、すっと立ち上がった。水差しを取りにゆく。
「?」
もぐもぐ。鬼神、スープを味わって、
「!!!」
熱い!
口の中が、熱い!
スープの温度は、大したことないのに!
「あらら。水、水」
「はい、ハルモニアーさま」ダークエルフの女、水差しを渡す。
「ありがとう、トリ」
水を入れてくれるハルモニアーであるが、鬼神、口がいっぱいで、水が呑めん。
涙ぽろぽろこぼしつつ、なんとか呑み込んで・・・
「熱い!!!」叫ぶ。「なんだこれは! 火を噴きそうじゃ! 水、水!」
水飲む鬼神。
だが、ガブガブ呑んでも、なかなか口の熱さが収まらぬ。
「ひいー!」
「それで『竜の牙』言うのえ」イリスがけらけら笑うた。「火噴くぐらい、辛いから」
「口が熱いのだが! というか、汗も出てきおった!」
「その熱さが、竜の牙の楽しさなのですえ」
・・・そう。この『竜の牙』というのは、あのメチャクチャからい、小さな、とんがった植物。
とうがらしのことだったのです。
「まったく、いたずらな娘どもじゃ!」
「トリには止められましたが、イリスはノリノリでしたえ」
「そら、うちは巫女ですもん。神さまにいたずらはできません」
トリ。
『湖の神殿』の巫女長代理だったトリフェーラである。
ハルモニアーを慕ってついてきた彼女。正式にハルモニアーの侍女に転身したらしい。当地のダークエルフと結婚予定とのこと。
ま、こんな楽しいことが色々とあって。
鬼神はハルモニアーを祝福し、奈辺羅辺に戻ってきたのだ。
「これで2人ともお嫁さんになったわけだのう」
「・・・うん」
「どうした?」
「ハル姉、アルスの仕事、そのうち辞めるらしいえ」
「遠征団──大使館だったか。ま、外国の王妃になるわけだものな」
「うん」
「なにが心配なのだ? 旦那さんはええ人のようだったが」
「ハル姉は大丈夫や思うえ。けど、ルーンはどうかに?」
イリス。赤ん坊を撫でながら、しんみりと、こう言うた。
「やっぱ、痛いえ。ルシ姉が居らんようになったん」
◆ 4、鬼神、むすめのゆめをみる ◆
その夜。
いまや『空飛ぶ街』となった妙雅に、鬼神は上がった。
「ようこそでござる!」「神さま!」「神さま!」
妙雅に住み込みで働いとるという、空軍のコボルドどもに歓迎されたあと。
第壱補助塔の甲板に建てられた、大きな邸宅で、鬼神はのんびりと寝っ転がった。
「なんじゃ。床に寝とるんか」
三男の機鬼(きき)が酒とつまみ持ってやってきた。
「ベットで寝んか。せっかく、父上サイズのを用意したんじゃから」
「わざわざ用意してくれたのか」
<まあ、おじちゃん専用みたいなもんですよ。足りなくなったら使いますがね>
「おう、小っちゃい妙雅」
<オクトラ!>
鬼神は、機鬼とオクトラと、酒を呑み始めた(まあ、オクトラは呑めませんけどね)。
「・・・楽しいことがあると、冥界なんぞ、どうでも良くなってくるのう」
<は?>
「いや、冥界に行くの、やめようかな・・・とも、思うのだ。
せっかく見つけた入り口ではあるのだが」
<うーむ・・・>
妙雅はしばらく考えてから、こう返事をした。
<でも、おじちゃんが冥界見てきてくれたら、私たちは助かりますよ>
「まあそうじゃな」機鬼もうなずく。
「うん? なんでじゃ」
「そりゃ、恐いからじゃ」
「こわい」
<そうそう。
死んだら冥界に行く──と言われても、ホントか? という。
おじちゃんが見て来てくれるんなら、ちょっとは恐怖がやわらぎますね>
「なんと」
鬼神。ちょっと、ショック。なんでといって・・・
「おまえでも、死ぬのは恐いか。妙雅よ」
<そりゃ恐いですよ!>
・・・いつか来る『死』というもの。
人間はいっつも意識し、どこかで怯えておるのだ──と、いまさら認識をしたからである。
妙雅も、機鬼も。ハルモニアーや、イリスだって。
「よし。なら、明日ちょっくら行って、見て来てやろうわい」
「ちょっくらじゃと!」
<あはは。よろしく>
「そうだな。やっぱり、ルシーナにも会いたいしのう。
あのときのお礼。1人だけ死なせた、お詫び。
抱き締めて、ちゃんと・・・言うてやらねば・・・
・・・ぐう」
鬼神。
ふかふかの巨大ベットで、寝た。
「・・・。」
気が付くと。
光り輝く美女が、じーっと鬼神を見下ろしておる。
「ひっ!?」鬼神、ビクッとなる。
「なにえ。その態度」
「なんじゃ、ルシーナか」
「なんじゃとはなにえ」
「あいすまぬ。お日さんかと」あの目にも眩い光を思い出して、「目が潰れる!」となったのだ。
「はあ?」
ルシーナ、首かしげる。
流れる髪がこれまた、光り輝いて、美しい。
熱なき光である。いくら見つめても、目が潰れたりはせぬ。お月さんと同じ、優しい輝き。
「会えるとは思うとらんかったのでな」
「会うたらアカンのかに」
ルシーナすねる。
なんかこの子、だんだん母親に似てきておる。元から顔はそっくりだが・・・性格が・・・めんどくさくなってきておる。
「いやいや、」鬼神、立ち上がった。「ルシーナ。私の可愛い長女よ」
「子供あつかい・・・」
「あの時は、ありがとう!」
「むぎゅ」
鬼神、長女を抱き締める。
「おまえはいい子じゃ。みな、おまえが居らんのをさびしがっておる。私もじゃ」
「・・・。」
鬼神はルシーナを解放し、その場に座った。
どことも知れぬ、お祈りの空間である。
「たまに、お祈りはしておるのですえ」
ルシーナ、これ見よがしに服のしわ直しつつ、しゃべる。このへんがめんどくさいとこである。
「時間だけは嫌というほどありますに、とある博士に師事をいたしまして。
魔術を学び、また月の祝詞も学び直し、実験などもしておりまする。その進捗報告」
「しんちょく」鬼神わからん。「なんか・・・忙しそうだのう」
「暇ですえ。暇!」
「そうか。暇か」鬼神、思い出す。「・・・そういえば、暇なのが嫌いな子だったわ」
「そですえ。暇すぎ、ちょっと誰かぶん殴りたい気持ちでいっぱいですえ」
「乱暴な」
「父上に言われる筋合いありませぬ」
「たしかにな。ついこの前も、白骨の神をぶん殴ったわい」
「よその神さま殴ったんかに! 阿呆なことしな」
「いや、それはこういうことなのだ」
鬼神。
かしこいルシーナに、冥界の入り口を通せんぼされた話をした。
「なるほど」ルシーナうなずく。「それならば、私に考えがありますえ。明日、冥界の入り口にて待つ」
「あ、はい」
「ほなこれにて」
「あ、おい、待て待て。まだ面白い話があるのだ。竜の牙という・・・あれ? 居らん」
待て言うとるのに、ルシーナさっさと消えとる。
「人の言うことを、ちっとも聞かぬ子じゃ!」鬼神怒る。「誰に似たのやら!」
◆ 5、鬼神、ルーンをでんじゅする ◆
翌日。
出かける前に、鬼神は置き土産をしていった。
「元鬼よ。おまえには、『戦』のルーンを教えておく」
「おお」
「というのもじゃ。すでに話した通り、太陽の女神と炎猪、この2柱に『戦』を教えたからじゃ」
「なるほど」
元鬼。かしこい。そのかしこさ、ルシーナにも負けぬ。
一言ですべてを察しよった。
「太陽に教えれば、ハイエルフにも伝わる可能性がある、と」
「そうじゃ。
お日さまは私に良くしてくれた。『戦』のルーンだって、間違った使い方はなさるまい。
だがハイエルフはどうかわからん。それだから、おまえに教えておくのじゃ」
鬼神、長男の元鬼に、『戦』のルーンを教えた。
「そしてイリスよ。王妃殿下のおまえには、『伸びる』と『萎む』を教えておこう」
「わあ。お面劇のルーン!」
「おめんげき」
「うちがやったに。地球に降りてきたとき。『のびよーのびよー』言うて」
このお話で言うて、3章の『ダークエルフ、ルーン(9) 娘ども、名を授かる』でのことだ。
イリスがやった、表裏のお面の劇。
太陽が『のびよー』と言うと、草木が伸びる。白骨が『しぼめー』と言うと、草木が萎んで、種になったのだ。
「ああ、そうか! 白骨の神さん、どっかで見たと思うたわ!
・・・あれ? もしかして、白骨の神さまは、ダークエルフの神なのか?」
「ちゃうえ」
「ちゃうのか。話し方が似とったが」
「それは知らんけど。
ダークエルフは冥界から来たんちゃうかって説あるらしいから、そのせいちゃうかに?
ホンマかどうかはわからんけど──て、ルン姉が言うておった」
「それも聞いたような気がする!
・・・ま、とにかくじゃ。ちょっと特殊なこのルーンを、そなたに教えておこう」
鬼神、三女のイリスに、『萎む』と『伸びる』のルーンを教えた。
「そして、空飛ぶ一族の女王陛下よ」
<はい>
オクトラが返事した。空飛ぶ一族の女王とは、妙雅のことである。
「そなたには、炎猪どんのルーン、『結ぶ』を教えておこう。
そなたは色々と、物を造ったりするだろう? たぶん、役に立つと思うのだ」
鬼神、妙雅に『結ぶ』のルーンを教えた。
<・・・いやいやいや、これめっちゃ役に立ちますよ!!!>
妙雅は大興奮であった。
<新しい合金の可能性が!>
大喜びしておる。しかし鬼神には意味がわからぬ。
オクトラは機鬼のとこへ飛んでいき、2人で大興奮。
わーわー騒いどるのを尻目に、鬼神は、
「・・・じゃ、ちょっくら行ってくるわい」
ふたたび冥界に向かったのであった。
◆ 6、白骨の神、ふたたび ◆
山越えて、谷もぐり。
「『光』のルーン、『見出す』!
冥界の入り口よ。姿を表わせ!」
ルーンのわざで、見出して。
鬼神、ふたたび冥界の入り口に、やって来た。
「また来はった」がいこつがしゃべる。
「やあ。白骨の神さま」
「今度はどんな御用です?」
「いや、大したことはないのだ。ちょっと失礼」
鬼神、洞窟に入ろうとする。
白骨の神、行く手をふさぐ。「いやアカンて」
「油断はせんか」
「そらまあ、私も長いこと門番やってますからな。
内から外から、あの手この手ですり抜けよういう輩は、なんぼでも居りますねや」
「ほー」
「さっきも内側から、綺麗なお嬢さんが。あ、そこの御方ですわ」
「うん?」
洞窟の中。
真っ暗で、何も見えぬ。
「ああ。境目(さかいめ)越えな、見えませんねん。頭だけ突っ込んでみなはれ」
「入ってええのか?」
「足はアカン。頭だけなら」
「わかった。頭だけな」
鬼神、にゅーっと、頭を洞窟に突っ込む。
すると、なんとしたことか!
真っ暗だった洞窟の中に、光り輝く美女が立っておるではないか!
「あ、父上」
なんと、それは!
ルシーナのすがた!
あの神竜戦以来、お祈りの空間でしか見ることのなかった、長女のすがたであった!
「おお・・・! ルシーナ!」
思わず踏み込もうとする鬼神。
白骨の神、身を挺して(みをていして)止める。「アカン。入るのはなし」
「ぬ! ・・・うむ! ありがとう、白骨の神よ」
「いえいえ。踏み込むんは、なしですで」
「うむ!」鬼神、涙をぬぐう。「で、ルシーナ。どうするのじゃ?」
「とりあえず、前と同じに。こっちに向けて」
「ふむ」
「・・・ちょ、待ちなはれ」
白骨の神、骨だけの手上げる。
「なんの企みですか?」
「はて、なんのことかな」
鬼神はすっと顔を引っ込め、現世に戻った。
白骨の神、めっちゃ警戒してこっち見上げておる。
「白骨の神さんよ」
「なんですかな」
「何度もすまぬ」
ぱっかーん!
神速のパンチ!
白骨の神、ばらっばら!
真っ暗な洞窟の中へと、骨、みーんな外れて、弾け飛んだ!
鬼神にはなんも見えんようになる。
首突っ込む。
カチャ・・・カチャ・・・。骨が組み上がっていっておる。
「すまんな」
「殴っといて『すまん』やあらへん」
しゃれこうべ。
ブツブツ言いながら、転がってゆく。
「白骨の神、ふたたび殴られるの巻や」
すっ・・・。
その真っ白なしゃれこうべが、突然、浮かび上がった。
「あれ?」白骨の神、あわてる。「あれ? なんや。宙に浮いとる」
カタカタと転がっておったのに。
誰かに拾い上げられたかのように、浮かび上がったんである。
誰が拾ったのか? 姿は見えぬ。
ルシーナか? いや、離れたところでゆらゆらしておる。
しゃれこうべ。
ひょこひょこと宙飛び、洞窟の壁へ。2尋ほどの高さの出っ張りに、カタリと安置された。
「あれ・・・? ここどこや・・・?」
しゃれこうべが、困っておる。
カチャ・・・カチャ・・・。下半身は、組み上がった。
カチャ・・・カチャ・・・。上半身と、合体もできた。
なのに。
「あれ・・・? 私、どこに居るんや? 壁しか見えへん」
しゃれこうべ。
壁向けて安置されておるせいで、周囲が見えんようである。
「しかも、転がられへん。おかしいな。よいしょ。よいしょ」
転がろうとする。
だが、動かぬ!
「こらアカン! どっかはまってもうた! 全然動かれへん!」
白骨の神、悲鳴上げる。
頭のない身体が、カッチャカッチャと歩き回る。
しゃれこうべが「こっちや、こっち」と呼ぶが・・・
身体はグルグル歩き回るばかりで、なかなか正しい方向に進むことができぬ。
ガシャーン。こけた。ばらばらになる。
「うわ、またばらばらになってもうた。
ていうか、なんで動かれへんのや。こらアカン。仕事にならへん。
鬼神さま、助けてくだされ!」
「入ってええのか?」
「アカン!」
「じゃあ、無理だのう」
「私いまどこにいます?」
「さあ。どこにあるんかのう・・・? うーん・・・入り口からじゃあ、よくわからんのう・・・」
「あ、嘘つきの声や。見えとんのに、嘘言うてはる」
「バレたか」
「お嬢さん。さっきのお嬢さん、居られたら助けてくだされ」
「・・・。」
ルシーナ、黙ってゆらゆらしとるだけである。
「うわー! この人ら、初めっから、こないするつもりやったんやー」
カタカタカタ。
頭蓋骨動こうとするが、動けぬ。
「これ絶対、あの娘さんが私の頭押さえとんねや。絶対そうや。
そやけどおかしいな。離れたところに立ってはったはずやが・・・。
いやそんなんどうでもええわ。
鬼神さま。意地悪せんといてください。助けてください。
私ゃ、ずーっと真面目に門番してきましてん」
「うむ。きっとそうなんだろうのう。あんたは立派な男にちがいない」
「ほな助けてください」
「私を入れてくれたらな」
「・・・。」
白骨の神。ため息つく。
「えらいこっちゃ・・・。
こんな状態で、誰か死人来たら・・・。
出て行かれたりしたら、大変なことになってまう・・・。
『神さま通してもた』っちゅう前例のが、まだマシか・・・。
しゃあないなあ」
「決心はついたかな?」
「はいはい。ほな、掟破りやが、入って、助けてください、鬼神さま」
「では失礼!」
鬼神。
スタスタと、冥界に踏み込んだ。
ひんやり。空気が肌を撫でる。
ひゅう、ひゅう・・・奥の方から、風の音がする。
おどろおどろしい雰囲気である。
だが。
鬼神はそんなもん、見向きもせぬ。
スタスタスタ。一直線に、しゃれこうべのとこまで行って。
巨大な六腕で、そこらへんを抱き締めた!
すかっ。空振り。
勢い余った手がしゃれこうべをかすめる。しゃれこうべ、吹っ飛んだ。
「ちょ! 鬼神さま! 何してはんの!?」
「あれ?」鬼神、首ひねる。「おかしいな」
「おかしいんはそっちや!」
「ちがうのだ」
鬼神。
転がったしゃれこうべを持ち上げ、自分のツノに引っ掛けた。
鬼の額には、両脇にツノが生えとるのである。そこにしゃれこうべをひっかけた。
ひどい扱いである。鬼神が歩くと、しゃれこうべ、左右にカタンカタン揺れまくるのだ。
「うわー。酔う。酔うてまうー」
しかし鬼神。白骨の神の悲鳴を聞きもせぬ。
スタスタ歩いて・・・
ゆらゆら揺れとるルシーナのところへ・・・
行くと見せかけて、クイッと方向転換! 「うわー、酔うー」
なんもない空中を、さっと抱き締めた。
手応えあり!
ゆらゆらゆら。
鬼神の腕の中に、ルシーナの姿、現れる。
「・・・なんでわかったんですかに?」
「『力』のルーン、『力を感じる』。そなたの足が地面に立つ、その力を探した」
鬼神。
愛娘をぎゅっと抱き締めたまま、種明かしをした。
「初めは、白骨の神さまを押さえとるんだろうと思うたのだがな」
「押さえておりましたえ」
「居らんかったぞ?」
「父上が入った時点で手を離し、移動をしました」
「かしこいやつ!」
「結局見つけられましたが」ルシーナ、鬼神の腕に顔をうずめた。「・・・父上」
「なんじゃ、娘よ」
「かしこうなりましたに」
「光栄じゃ」