六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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冥界に、もぐる(2) 黒い、いぬ

◆ 7、鬼神、娘としゃべる ◆

 

「なあ、ルシーナよ」

「なんですかに」

 

 鬼神、娘としゃべる。

 ルシーナ。神竜戦で生命を落とした長女である。

 鬼神が冥界の入り口に踏み込んだことで、死んだ長女に会えた。こうして、ふつうにしゃべれるのだ。

 となったらば、色々しゃべりたいことがあった。あった・・・のだが・・・

 

「いや、なんじゃ」

「なんじゃとはなにえ」

「いや、あれじゃ。あの、ほら、あれからどうしとったのだ?」

「昨日言いましたに!」ルシーナ、めんどくさそうにする。「ちっとも人の話を聞いておらぬ!」

「ああ、いや、うん。すまぬ」

 

 ・・・いざ、生き生きと(?)動いとる娘を見ると、なんも言えんようになるのであった。

 

 鬼神とルシーナ。

 大きな洞窟の入り口に、立っておる。

 外に出れば、現世。白骨の神さまが門番していらっしゃる。

 奥へゆけば、冥界。そちらには誰も居らぬ。道は、下り坂である。

 暗い暗い、下り坂。

 黄泉(よみ)の坂。

 ちょろちょろと、小川が流れて来ておる。

 下り坂の先から、坂を登って、逆流して来とるんである。

 まことに、この世ならぬところ。涼しく、静かで──うつろなところであった。

「こんなところを、ルシーナは1人で歩いたのか・・・」鬼神は、胸を痛めた。

 

「えーと、なんじゃ。その、あれじゃ」

「なにえ」

「いや、いっぱい話したいことがあったのだが。

 いざこうして会えると、なにからしゃべったものやら」

「そういう態度、女にいやがられますえ」

「はあ」

「・・・妹どもは元気ですかに?」

「ああ。ハルモニアーも結婚したぞ。イリスはぽんぽん子供を産んでおる。

 ハルの結婚式では、えらい目に遭うたわい。萎まされ、『竜の牙』喰わされ」

「けらけら」ルシーナ笑う。「ハル、大喜びしておりましたえ」

「いたずら者め・・・母上そっくりじゃ」

「母上」ルシーナ、真顔になる。声が冷たい。

「あ、母上と言えばじゃ。ルシーナよ・・・」

 

 鬼神、ルシーナに訊く。

 一体、お月さんは、どうなったのか? ・・・ということを。

 

「母上は、お祈りしても出て来てくれんだろう?」

「はい。私らがお祈りしてもそうですえ」

「お日さんが言うには、『目』がないから出て来れんのだと」

「目」

「ごこうりんの目とかいう」

「・・・。」ルシーナ、首かたむける。綺麗な髪が、さらさら。

「ルシーナならできるかも知れん──と、グレイスさまもおっしゃるのだが」

「・・・。」ルシーナ、いやな顔をする。

「どうした?」

「どうしたもなにも。私、やりましたに」

「なに? いつじゃ?」

「まったくもう!」ルシーナ怒る。で、ため息。「・・・はあ。神竜戦の最後ですえ」

「あれか! しかし、あのとき、母上は──」

「あのときはマナ足りず、『祈願』で集める余裕もなく、不完全でした」

「ふむふむ」

「母上もそれは予想しておられたのでしょう。

 私を指名なさったのは、『マナ足りぬやろから、おまえの身体を貸せ』という意味。

 それに従うた結果、死んだ身体が返却されたわけですが」

「・・・!」

「正直言うて、」

 ルシーナは鬼神を見上げた。その目が、暗い洞窟で光っておる。

「私は、母上の顔、二度と見とうありませぬ」

 

◆ 8、鬼神、母娘のあいだにはさまれる ◆

 

「わかった」

 

 鬼神。

 とっさに正しい判断をした。

 戦士の勘であった。ルシーナの眼光を見て、ピンと来たのだ。

 この子は、本気だ。ここが、勝負の分かれ目だ──と。

 

「母上の話は、なし。

 そなたの話をしよう」

「え? よろしいんですかに?」

「よろしいのじゃ」

「父上は・・・会いたいのでは?」

「その話はなし!

 私は、そなたに会いに、ここまで来たのだ。可愛い娘や」

「子供あつかい」

「しとらんしとらん」

 鬼神。

 一歩踏み出した。

 下り坂の先へ。暗い暗い、冥界に向かって。

「暇じゃと言うておったのう?」

「はあ・・・」ルシーナついてくる。「奥、ゆくんですかに?」

「うむ。せっかくだし、冥界というもの、ちょっくら見てやろうではないか」

「ちょっくら」

「そうじゃ。で、暇とな?」

「はあ。はい。まあ。そうですに。暇でたまりませぬえ」

「ふだん、何をしとるのだ? 冥界で」

「それも言いましたに。勉強」

「ルーン魔術か。司令官も言うとったのう」

「あやつ! 秘密にせよと言うたに!」

「いや、ほら、ハルのピンチのときにな。

 私が、ルシーナを呼んでどうするのだ? と言うたらばな。

 『ルシーナは神さま。ルーン魔術も知っとる。きっと何とかしてくれる』と、こうじゃ」

「・・・ルーンが?」

「うむ」

「そうかに」

 ルシーナ静かになった。

 が、すぐ、意地悪な笑み浮かべる。

「今度お祈りしてきたら、いじめてやろ」

「いじめるんじゃないわ。おまえは、お日さんか」

「伯母上がなにか?」

「お日さんな、グレイスさまに、妙に冷たくてのう・・・」

 

 父娘。

 会話しつつ、スタスタと、黄泉の坂をば、下ってゆく。

 冥界に、もぐるのだ。

 やがて。

 大きな洞窟、突然に、行き止まりへと突き当たる。

 真っ黒なふわふわした壁が、2人の行く手を、阻んだ(はばんだ)のだ。

 

「道を間違うたかのう?」

「一本道ですえ」

「では、この壁はなんじゃ?」

「いぬですえ」

「は?」

「いぬ。番犬。

 冥界への、第二の関門ですえ」

 

◆ 9、黒い、いぬ ◆

 

 ぐうー。

 ぐおるるるる・・・。

 ぐうー。

 ぐおるるるる・・・。

 

 荒野を吹きすさぶ風のごとき轟き(とどろき)。

 びりびり・・・びりびりびり・・・と、空気をふるわせておる。

「この音は」

「いびきですえ」

「いびきだと? なんとうるさい、いびきじゃ!」

 鬼神おどろく。

「して、こいつ、でかいな! 私よりでっかいんじゃないか?」

「立ったところの、肩のところが、父上の頭のてっぺんぐらいですかに」

「やっぱりか!」

 鬼神。

 しげしげと、黒いもの(いまや毛皮とわかった)を眺める。

「・・・どうやって通るのじゃ?」

「さあ」

「ルシーナはどうやって通ったのだ?」

「『水鏡』でもって、すり抜けたのですえ」

「・・・どこにも隙間がないようだが」

「私が上がって来たときは、こんななっておらなんだ。

 起きておって、隙間もあったのですえ」

「なんでいまはこんな、道ふさいで寝とるのだ」

「さあ? 知りませぬ」

「ふむ」

 鬼神、しばらく待つ。

 いぬ、起きる気配なし。

「おい、起きろ」

 鬼神呼びかける。

 黒いいぬ。

 ぐうー、ぐおるるるる・・・。

 無反応。気持ち良さそうに、いびき。

「起きよ。いぬよ。邪魔じゃ。どけ」

 ぐうー、ぐおるるるる・・・。

「ばかな。これで番犬だと?

 ぐうたらなやつ! 白骨の神さまとは、おおちがいじゃ!」

「そうですに、起きておるときは、手強いのですが」

「ほう? 強いのか。

 では試してみるか。

 そーれ!」

 

 どうん!

 

 鬼神。

 いきなり前足突き出し、黒い毛皮を蹴り飛ばした。

 黒い毛並みに、衝撃走る。

 ずしーーーん・・・。洞窟に、その衝撃が反響する。

 ぐおっ?

 いびき途切れる。

 ・・・・・・・・・ぐー、ぐおるるるる・・・。いびき再開。

 

「がんじょうなやつ!」鬼神おどろく。「全然効いとらん」

「あなや。乱暴なり」ルシーナあきれる。「いきなり蹴り飛ばすとは」

「ぐうたらなのが悪いのだ。

 『力』のルーン! そーれ、吹っ飛べい!」

 

 鬼神。

 今度は蹴るのではなく、足をぐっと押し当ててから、『力』のルーンを唱えた。

 

 黒いいぬ、吹っ飛ぶ!

 ぐおお! 空気が渦巻く!

 巨体をいきなり動かしたため、空気が吸い込まれたんである!

 風を巻き上げ・・・

 真っ黒な身体、洞窟の向こうへ飛んでって・・・

 

 どっ・・・ごおおおおおん・・・・・・・・・!

 もんのすごい音立てて、壁にぶつかった。

 

 さすがは『力』のルーン。乱暴なる結末である。

 

「さて、ゆくぞ」鬼神歩き出す。

「無法者なり。けらけら!」笑いながら、ルシーナついてくる。

 黒い、いぬ。

 向こう側の洞窟にぶつかり、壁を粉砕。床に落ちて、岩の中に埋もれておる。

「死んだかに?」

「近付くなよ。けものは、死んだように見えても、あぶないのだ」

「はあ」

 遠回りして、通り抜けようとしたところ・・・

「ぐおお!」

「うわ。びっくりした」

 黒い、いぬ。

 がばあ! と、立ち上がりよった!

 

 でかい!

 黒々とした、ボディ!

 すらりと長い前足! 毛むくじゃらにして筋骨隆々の胸! 太い三つ首、頭三つ!

 

「・・・頭三つだと?」

「そですえ」ルシーナうなずく。「三つ首のいぬなのですえ」

 

 なんと!

 それは、三つ首のいぬ!

 燃えるがごとき目、六つ! 鬼神を見下ろしてきおる!

 

「そんなばかな。頭三つの生きものなど」

「目ぇ三つみたいなもんですに」

「・・・、」鬼神、額の第三眼まで、目ぇ三つ全部開いて、「・・・いや、ちがうだろう」

「ちがいませぬ」

「私はもっと・・・ふつうじゃ」

「父上はふつうではありませぬ」

「ぐるるる」

 黒い、いぬ。

 三つ首それぞれに、低いうなり声もらし、黒煙のごとき息垂らし──

 三つ首同時に、言葉を、しゃべりよった!

 

「「「な誰いにじきしゃなよおりんまなじえんゃ!じ!ゃ!」」」

 声が混ざり、なに言うとるんか、さっぱりわからぬ!

「「「蹴ワ舐っレめた、とんケんおンのまカかえ売ワかっレ!と!んのか!」」」

 

「うるさい。だまれ」

 鬼神、言い返す。

「何言うとるのかわからぬ。

 同時にしゃべるな。順番にしゃべれ。

 はい、まずはおまえから」

「ぐう」

 鬼神に指差された左の首、しゃべる。

「誰やねん、ワレ!」

「私は、この子の父親じゃ」鬼神、ルシーナの肩を抱く。手応えなし。「・・・ちょっくら様子を見に来たのだ」

「「「なちどんょうやっいとくう・らこ・やと・とや?・・・・・・。?」」」

「はい、次は、おまえじゃ」

「ぐう」

 指差された真ん中の首。

「娘さんは、死者やな。見たことあるわ。

 おまえは、死者やないやろ! どないして入って来たんや?」

「うむ。私は死者ではない」鬼神、うなずく。「歩いて入って来たのじゃ」

「「「わ白もけ骨しわさかかんしらどてんな、わいや!しらたれんたやん?か?」」」

「同時にしゃべるなと言うのに。

 ばかめ。覚えの悪い、いぬめが」

「「「お冥こい界いこのつら番む、犬かえ相つえ手く加にな減、。にえ噛せえんえ度だよ胸ろ。やかの。う?」」」

「ええか。

 私はな、可愛い娘を見に来ただけじゃ。

 おまえのことは、邪魔だから、どかしたまでじゃ。

 以上じゃ。もう話すことはない。

 しかしじゃ。おまえは番犬じゃからして、立場上のなんかがあるのだろう?

 聞いてやるから、言うてみよ。はい、おまえ」

「ぐう」

 指差された右の首。牙を剥く。

「ほんなら、言わしてもらうがのう──」

「うむ。なんじゃ?」

「「「わこ死しこにをでと蹴死うっ人な飛にかばしっしてたて掟らタ守とダらっですと済ぞとむコ出とラて思ァ行う!かなんよかワいレ!ェ!」」」

 

 吠え猛った、三つ首いぬ。

 鬼神に、飛びかかってきた!

 

◆ 10、鬼神、はげになる ◆

 

「ぬ!」

 黒いいぬ! 鬼神に、体当たり!

 筋骨隆々の黒い胸での、胸チャージである!

 鬼神、六腕広げて迎え撃つも、分が悪い! 相手がでかすぎる!

 ごつごつした、いぬの胸。顔面に、ぶち当たる!

 さすがの鬼神も、ずざざーっと、後退!

 ルシーナにぶつかる! ルシーナ、ぱっと弾けて、こなごなになる!

「「「あしおっも嬢、たさこ。んら力、ア入大カれ丈ン過夫!ぎかた?。」」」

「娘を心配してくれとるのか? 大丈夫じゃ」

 ゆらゆらゆら・・・。

 ルシーナ、だいぶ離れたところに、揺れながら出現した。

 『水鏡』の術であった。

「「「な幻たんのだや術もとやん・とや・・な・・い。・な。・・・。」」」

「ふっふっふ」

 鬼神、笑う。

「自慢じゃないがな。娘は、かしこいのだ。私よりもな。

 だが、心配してくれたこと、礼を言うぞ。ご親切に。ありがとう」

「「「いど無やう事、いなまたらあしえなまえ。しけてど。な。」」」

「──だが、それはそれ! けんかはけんかじゃ!」

 鬼神。

 突如、抜重(ばつじゅう)!

 がっちり組み合い、押し合っとったところで、フッと力抜く!

 いぬが「えっ?」となった瞬間、今度は下から、すくい上げる!

 いぬの巨体を、持ち上げた!

「そーれ、どじょうすくい投げ!」また変な名前つけた!

 

 いぬ、後ろ足、高々と中に浮かせて、でんぐり返って、床に激突!

 ずっ・・・・・・・・・でええええええん・・・!!!

 ばきばきばきーん! 床、割れる。

 ダイナミックなる投げわざ! 後の世にいう『ブレーンバスター』! 炸裂である!

 

「「「ぐいほわたげあいえ。。。」」」

「どうじゃ。まいったか」

 立ち上がった鬼神。ぱんぱんと手を叩く。

「「「痛腰ごて打ってっつ。たい。力や!」」」

「さて、勝敗ついたところで、ここは通らせてもらうぞ」

 スタスタと奥へゆこうとする鬼神。

 しかし、三つ首いぬ。低くうなって、呼び止める。

「「「待そ今たん度んなはか簡こい単っ。にち通のし番てじたゃま。るか。」」」

「・・・。」

 鬼神振り向く。

「なに言うとるかわからぬ。

 はい、おまえ」

「待て言うたんじゃ」

「私は、おまえさんに恨みはない。けがするまでやることはあるまい?

 これで決着としようではないか」

「「「いわすやしも、もうそ冥でう界通はのす行番番か犬犬んやは。。居らへん。」」」

「・・・。」

 鬼神、改めて、かまえる。

 三つ首いぬ。今度は体勢を低くし、地面すれすれから、三つ首で鬼神を睨む。

 大きく息を吸い込んで・・・「あ、お嬢さん。そこ危ないで。奥行っとき」

「あ、はい」

「ふつうにしゃべれるではないか」

「「「必たそ要まらなにまらはあななな。。。」」」

「ほな父上、お先に」

「おう。私もすぐにゆく」

 スタスタ。ルシーナ、奥へ消えた。

「・・・ええぞ。来い」

 三つ首いぬ。体勢を低くし、地面すれすれから・・・

「「「すそ死ぐうんにはでゆ行かくからやんやとぞ!?!」」」

 

 ──火の息を、吐いた!

 

「ぬう! 火の息。おまえもか!」

 鬼神。

 火の息ならば、何度も喰らうたことがある。

 この程度。レガーさんから(知らんうちに)教えられた、盗みのわざをもってすれば──

「ええい、くそっ!

 盗みのわざは、使わんぞ!

 『おっと危ない』などと言うて、いんちきに避けるのは!」

 鬼神。

 ちょっと、レガーさんへの怒り、にじませつつ!

 

「『力』のルーン! 『三角州の受け』!

 火よ、私はおまえを避けはせぬ。

 おまえが私を避けるがよい!」

 

 まっすぐ、突っ込む!

 『力』のルーンで、渦巻く火の流れを、操作!

 流れをねじ曲げ、かき分けて、割れた火の中、ずんずん突っ込む!

 

「「「ぐな魔おん術おや師?とか??」」」

 驚くいぬ。

 その首に、鬼神、飛びついた!

 真ん中の首に抱き着いて、背中に回り、馬乗りになって、首締める!

「おんぶ締めじゃ!」

 後の世にいう『チョークスリーパー』! がっちりロックである!

「さあどうじゃ。参ったをせよ!」

 真ん中の首、苦しむ!

 だがしかし。

 左右の首は平気である。

 ふたたび、炎を吐いてきおった!

 左右から、クロスファイア!

「むおっ!」鬼神燃える!

「ぐおお!」真ん中の首も燃える!

 ごわあー! 2人の肌(と毛)、めんらめんらと炙られる(あぶられる)!

「うわっ熱っちゃちゃちゃちゃ!」

「ぎゃん! ぎゃん! なにしよんじゃ! やめんか!」

「「が背まにん腹せはえ替やえ!れんのじゃ!」」

 大騒ぎである!

 鬼神もんどりうって地面に落ち、ゴロゴロ転がって砂で火を消し、なんとか立ち上がる。

 立ち上がるが・・・

 

 なんと。

 鬼神の、髪の毛が!

 あんなに持ちこたえてきた、髪が・・・

 巨人の王に殴られ、宇宙に飛び出し、凍りついても、持ちこたえてくれた、髪が・・・

 一本も、ない!

 いまの火で、ぜーんぶ、燃え尽きてしもうた!

 

「くそっ! とうとう、禿げて(はげて)しもうた!」

 鬼神怒る。

「おのれ! 私の髪! 『力』のルーン!」

 三つ首がまた火吐いてくるところ、びょーんと高く、ジャンプ!

 またしても、いぬのバックを取った!

 ふたたび、裸締め(はだかじめ)!

 だが今度は、三つ首すべて、がっちりと、ひとつも余さず、捕まえた!

 ぎゅう! ぎゅう! ぎゅう! 締め上げる!

「「「ぐぐぐおわへうあえ。。。」」」

 いぬ悶絶!

「参ったをせよ」

「わ・・・ワン!」

 いちばんダメージでかい真ん中の首が、そう鳴いた。

「ワンではわからぬ。降参するのか、しないのか」

「こ・・・降参しますわ・・・」

「よし。では、おまえは許してやろう」

 鬼神は真ん中の首だけ解放した。

「で、おまえらは降参せんのか」

「「ぐ騙うさうれ・へ・ん・か。・・・。」」

「だまされんぞ。私も、それなりに長生きしたからな」

「「降降参参しはませすん。。」」

「一度にしゃべるな。順番に」

「降参します」「・・・降参します」

「よかろう。まったく、抜け目のないいぬじゃ!」

 鬼神。

 笑って、三つ首すべて解放した。

「では、通るぞ。どけい」

「「「はははいいい。。。」」」

 黒い、いぬ。三つ首下げて、道開ける。

 鬼神。スタスタ歩いて奥へと下る──途中で。ふと、振り向いた。

「私は鬼神。鬼どもの神じゃ。

 そなたの名は、なんというのだ?」

 

 すると。

 黒い、いぬ。

 誇り高く三つ首もたげて、こう名乗った。

「「「ケケケルルルベベベロロロススス。。。」」」

 

「・・・そうか。

 では、ケケケルルベベベロスよ。さらばじゃ!」

 スタスタ。

 鬼神、黄泉の坂を、下ってゆく。

「「「いち繰やゃり、う返ちっさゃちんうゅでっうえてねえ。んね!ん!」」」

 三つ首のいぬ、あわてて訂正する。

 しかし鬼神、振り向かぬ。黄泉の闇に、禿げた頭がキラッと光った。

「「「人人人ののの話話話聞聞聞けけけややや!!!」」」

 

◆ 11、冥界に、もぐる ◆

 

「・・・それにしても、ルシーナよ。

 おまえ、よくあんなとこを通れたのう」

「はい」

 ルシーナ笑う。

「じつは、何カ月か前に、挑戦しまして。

 そのときは見つかってしまい、『帰れ帰れ帰れ』と、引き返させられた」

「失敗しとったのか」

「はい。一度。

 それが悔しゅうて、奴のこと、調べ上げた。

 朝に遠吠えをするくせあり。その際、火を吐く。火を吐いた後、しばらく、鼻が利かぬ。・・・など」

「かしこい娘じゃ」

「父上から連絡をもろうたので、決行に移したというわけですえ」

「どうやったのじゃ?」

「火を吐くのを待って、『水鏡』で姿を消し、通り抜けただけですに」

「簡単に言うのう」

「簡単でしたえ」

「大したやつじゃ!」

 鬼神、笑うた。

「しかし、あのいぬ、見張りには向いとらんな。強いけれども」

「そですに。・・・髪、なくなってしもうたんですかに?」

「うむ。とうとう、禿げてしもうた」

「・・・ま、似合っておりますえ。くくく」ルシーナ笑う。「ふふふ」

「笑うな」

「けらけらけら」

 

 父娘、しゃべりつつ。

 スタスタと、冥界にもぐるのであった。

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