六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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冥界に、もぐる(4) 相棒ふたたび

◆ 18、相棒ふたたび ◆

 

「は?」

 鬼神。

 目の前の光景が、理解できぬ。

「どういうことじゃ? なんで・・・?」

 

 冥界の、暗闇に。

 ガンメタリック(砲金色)の、巨大かぶとがに。

 まあるいかぶと、こっちに向けて。

 ふわ~~~ん。浮かんでおる。

 

「なんでおまえが、ここに居るのだ?」

 ぶわっさ・・・?

 ガンメタリックのかぶとがに。

『呼んだんじゃないのか・・・?』──と、傾いて。

 ぶわっさぶわっさ、ぶわっさ。

『呼んでないっちゅうんなら、帰るわ』──と、引き返す。

「待てい!」鬼神、しっぽ掴む。

 ぶわっさぶわっさ!

 巨大かぶとがに、怒って、しっぽ引き抜こうとする。

「『力』のルーン!」

 鬼神、『力』のルーン発動!

 しっぽつまむ力、増強!

 ぶわっさぁ!

 ガンメタかぶとがにも、『力』のルーンを発動!

 しっぽ引き抜こうとする力、増強!

 

 ──2人の力、ぴったり、釣り合った!

 

「おお! この完全なる、力の相殺!」

 鬼神叫ぶ。

「相棒!!!」

「なにをしておるのえ?」

 にゅー・・・。

 地面から、ルシーナ。生えてきた。『水鏡』の術。

「とっとと行きなえ。せっかく、きしにぃ来てくれたに。時間無駄にしな」

「やっぱり、そうか。おまえの目にも、そう見えるか」

「なにがえ」

「これ、やっぱり、鬼神台か」

「誰が見てもそうえ」

 

 ガンメタリックの、空飛ぶかぶとがに。

 ガンメタ鬼神台! 鬼神の前に、ふたたびである!

 

「し、しかし・・・こんなことがあってええのか?」

「私が出て来るのやから、きしにぃかて出て来まする」

「あ、そうか。いや、その、しかし、つまりだな」

「ええからさっさと行きなえ」

 ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台。

 クルーリ。回転して、鬼神が乗れるよう、地面スレスレへ降下。

「うむ」

 鬼神はそこへ、ズシリと、乗った。

 乗った瞬間、わずかに沈み込むボディ。足元に伝わる、強靱な体躯(たいく)の感触!

「うむ!」

 懐かしい、この感触!

 もはや鬼神にも、迷いはなくなった。

「相棒よ。坂の上から、敵が復活してくるのだ。そこを見にゆくぞ!」

 ぶわっさ。

 

 ・・・どん!!!

 

 ガンメタ鬼神台、爆発するがごとき音立てて、上昇!

 暗闇の空へと、一気に浮上!

「行ってくる!」

「支援いたしまする」ルシーナも、消えた。

 

「飛んだ!」「空飛ぶ戦車!」「撃て撃て!」

 敵、あわてて追い撃ち。弓兵・魔術兵が攻撃をするが、全然間に合わぬ!

 なんという速度か! 飛ぶ矢よりも速く、舞い上がる!

「ぬぬう!」

 屈強な鬼神ですら、上半身が押さえ込まれるほどの加速である!

「久しぶりじゃ! この迫力!」

 ぶわっさぶわっさ。ぶわっさ?

『口を閉じなされ。舌噛みますぞ?』──とでも、言うたのであろうか?

 ふわっ・・・一瞬、体重が消える感覚がして。

 ごおっ!!!

 ガンメタ鬼神台、空を斜めに、急降下!

 向かうは、黄泉の坂! この大洞窟から現世へと上がってゆく、小さな洞窟である!

 鬼神、行く先を見る。

 小さな洞窟からは、いまも、ワンラワンラと兵士が戻って来ておる。

「見よ! あれじゃ! 倒しても、ああして戻って来おるのだ!」

 ぶわっさ?

「そうだ。復活のからくりを確かめ、阻止しなければならん。

 でなければ、マナ切れで、この私でも負けそうなのだ!」

 ぶわっさ。

 ──ぶわっさ!

 矢が飛んで来た。『魔弾』が、ガンメタ鬼神台のしっぽをかすめた。

 ガンメタ鬼神台、ストレートな飛行から、回避機動へ!

 ひらり、ひらひら、ひらりんこ!

 ──木の葉の秋風に舞うがごとし!

 左右に、上下に! 加速! 減速!

 矢弾の猛火を、かいくぐる!

 もんのすごい飛び方である。乗っとる鬼神、いつ振り落とされてもおかしくない──と、思いきや!

 ガンメタ鬼神台が傾けば、鬼神、すぐさま同じ向きに倒れて、踏ん張る! 踏ん張った直後、真横にブッ飛ぶがごとき、回避!

 ちゃあんと、鬼神が踏ん張れるように、動いておる!

 そうして! 飛ぶ!

 矢弾をかわして、右へ、左へ! 上へ、下へ!

 くるりと回って、渦巻く水の流れるがごとく!

「また──腕を上げたな! ──相棒よ!」

 ぶわっさ──ぶわっさ!

 まさに、人馬一体(じんばいったい)!

 この2人でなければ到達できぬ領域! 空飛ぶダンス!

 ・・・だが、しかし。

 敵将の指示も、的確であった。

「『魔弾』では追いつかぬ──『蛇魔弾』撃て! 『蛇魔弾』!」

「弓兵、前に置け! 後を追うな、敵の進路に矢をばらまけ!」

「歩兵、前列は、石を投げよ! 後列は、通路をふさげ! 敵の狙い、通路と見た!」

 矢が、石が。

 ガンメタ鬼神台の進路に、バラまかれる。

 前後左右からの、無闇矢鱈な(むやみやたらな)射撃である。

 流れ弾で、黄泉の軍団の仲間も倒れる。だが、誰も気にしておらぬ! 助け起こしもせぬ!

「死も傷も、恐るることなかれ!

 我ら、黄泉の無限の兵士なり! ただ撃て! 撃て!」

「なんと! 死の兵、勇猛なり!」

 鬼神、感心である。

「だが! こっちだって。

 ただの騎兵じゃあ、ないのでな!

 『力』のルーン! 『三角州の受け』! ひらけ、空気のトンネル!」

 鬼神。

 前方に、『力』のルーンを投射!

 矢弾の嵐をすぽーんとまっすぐ、トンネルのごとくに、押し退けた!

 ガンメタ鬼神台、そこに突っ込む!

 もはや、物理の弾、彼に触れることあたわず!

 ガンメタリックのボディ、かすりもせぬ!

 ・・・だがだが、しかし、しかし!

 非実体の弾には、このトンネルすら、無効であった!

 ガブリ!

 『蛇魔弾』が、高速飛行中のガンメタ鬼神台に、噛みついた!

 ガブリ! 鬼神にも、噛みついた!

 ガブガブガブガブ!!! 次から次へと、命中した!

 ぱっ! ガンメタ鬼神台、散り散りとなる!

 鬼神も、粉々となって、消えた!

「当たりましたえ!」「やったぞァ!」「粉々でござる!」

 兵士ども、一瞬喜ぶが・・・

「はて?」「なんか、おかしないか?」「落ちて来ねえぞァ」

 ・・・すぐに、気付いた!

 

 ゆらゆらゆら・・・揺れながら現われる、空飛ぶかぶとがにの姿に!

 

「『水鏡』の術──」

 ルシーナつぶやく。

 戦場からちょっと離れたとこ。

 暗い地面に、ぺったんこに、寝そべって。

 

「やれ。えらいようけに(ずいぶん大勢に)、わざ見られてしもうた。

 ・・・ま、ヘマした母上に、文句言われる筋合いもないが」

 

◆ 19、黒いいぬ、ふたたび ◆

 

 ぐうー。

 ぐおるるるる・・・。

 

 荒野を吹きすさぶ風のごとき轟き(とどろき)。

 鬼神の前方から、聞こえてくる。

「また寝とるw」

 鬼神笑う。

 あっちゅう間に、そいつの洞窟へ!

 姿も暗黒なる、冥界の番犬!

 三つ首いっせいにしゃべるので、何言うとるかわからん、いぬ!

 ──今回は、壁にもたれかかって寝とった。ゆえに、何の役にも立たなんだ。

 ガンメタ鬼神台、通過。

 ごおお! 巻き起こるトンネル風。

 ビシバシボフッ! ビンタみたいに、いぬの顔面はたく。

「「「ぐ何なおがんぅ来か!た飛?んんやでな?っんたやぞ!!?」」」

 目を覚ました、三つ首!

 しかし、手遅れ!

 フンフンフン・・・。

 三つ首、匂いを嗅いで、

「なるほど」納得した。「鬼神さまが出てったみたいやな」

 坂の上を見る。

「──なら、ええか」結論する。「生者は『入れるな』としか、言われてへんし。出て行く分にはな」

 うむ。うむ。うむ。

 三つ首そろって、うなずく。

「「「寝寝寝よよよかかか。。。」」」

 

◆ 20、むげんのへいし ◆

 

「相棒、止まれ!」

 鬼神と相棒。

 坂の上に、到着した。

 黄泉の坂の終点にして、冥界の入り口。

 白骨の神さまが守る、現世との境界である。

「ここまで、変わったことはなかった。

 だから、後はここだけだが・・・」

 鬼神。

 額の第三眼をカッと見開き、周囲を見渡す。

 その目が、捉えた。

 黄泉の軍団が復活してくる、その瞬間を!

 それはなんと、洞窟の入り口!

 現世へと通じる、洞窟の入り口から・・・

 すうっ・・・と。

 黄泉の兵士が、入って来たんである!

 その兵士。

 決して、外から歩いて来たわけではない。

 突然、出現したんである。

 まるで『水鏡』の術が解けるときのように。

 すうっ・・・と、突然、そこに出現したのであった。

「なんと、不可思議なことじゃ」

「え!? 鬼神さま!」

 出て来た兵。

 鬼神と鉢合わせして、たまげる。逃げる。

 がし! 鬼神、頭掴む。「待たんか」

「ひええ!」

「なに騒いでんねん」

 白骨の神さまが、現世のほうから入って来た。

 この御方は、ふつうである。ふつうに歩いて入ってらっしゃった(まあ、骨が歩くのは、ふつうではありませんがね)。

「あれ? 鬼神さまやないですか」

「やあ。白骨どん」

「お引き取りになられるんかな? それやったら、どうぞ、お帰りください。さようなら」

「いいや、お引き取りはせぬ」

 鬼神、兵士の頭引っ掴んだまま、答える。

「ちょっと、戦争中でな。片が付くまでは、帰らんぞ」

「あにはからんや。戦争て」白骨の神さま、ため息。「やっぱ通すんやなかった。あーあ。大失敗や」

「白骨どん。この兵士ども、無限に蘇ってくるのだが」

「そら、死んだもん(者)は、みなここへ運ばれる定めやからね」

「また定めか」鬼神うんざりする。「それじゃ、戦のけりがつかんではないか」

「まあ、そうなりますわね」

「その定めとやらを考えた奴は、ばかなのか?

 おかしいと思わんかったのか?

 試してみたら、気付くだろうに」

「試しに殴ってみるっちゅうわけにもいかんからねえ」

「まあそうだが」

 鬼神、頭引っ掴んだ兵をギロリと睨む。

「どうにかして、こいつら、帰って来れんようにできんかのう?」

「ひええ。ほ、捕虜には、お手柔らかに」

 鬼神、考える。

 しかし、妙案はない。

 そうするうちに、次の兵士が、すうっ・・・と。

 また次の兵士が、すうっ・・・と、現われて来るではないか!

「ええい、くそっ! また来た! またか!」

 鬼神、六腕生かして次々に、無限の兵士を捕らえるも、腕の本数、足りやせぬ。

「いったい、どうすればええのじゃ! こんなん、相手してられんわい!」

 そうこうするうちに・・・

 

「鬼神さま! おとなしくされよ!」

 ・・・黄泉の軍団が、坂を上って、追いついてきたのであった。

 

◆ 21、相棒、またもや、しす!? ◆

 

「むむむ・・・!」

 鬼神、囲まれる。

 背後は、洞窟の入り口。外界。踏み出せば、現世である。

 前には、黄泉の軍団。坂道びっしり埋め尽くして、じりじりと迫って来おる。

「さあ、さあ、そのまま現世へお引き取りを」

 黄泉の軍団長。

 青銅のかぶとに、明るい黄色の羽根飾りした、ハイエルフ(?)の彼(?)。

 鬼神に迫る。

「あなたの誇るお力も、我ら無限の兵には通じませぬ。

 もう十分に戦いました。さ、お引き取り願いたい」

「いいや、お引き取りはせぬ」

 鬼神は拒む。

「私は冥界を征服するのだ。

 つまらん『定め』、『掟』とやらを、変えてやるのだ。

 とにかく、ひと泡吹かせてやるのだ──理不尽な、『死』っちゅうやつに、目にもの見せてくれるのだ」

「・・・。」

「そっちこそ、負けを認めよ。私を冥界の王と認めるのじゃ」

「それはできませぬ」

「では、やるしかないのう」

「かしこまりました。決着をつけましょう」

 

 黄泉の軍団。せまーい洞窟に、するすると陣形を造る。

 盾構えた歩兵が前。そのすぐ後ろに弓兵。そのすぐ後ろに魔術兵。

 さらにその後ろに、まったく同じ陣が、二重、三重、四重に、詰め寄せる。

 図にすれば、こうである!

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ガン-

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□鬼

 魔弓歩_魔弓歩_魔弓歩_魔弓歩_魔弓歩___神_骨

 

 (□はなんもないとこ。_は床。-はガンメタ鬼神台のしっぽです。)

 

「先頭の部隊は、捨て駒。後続の『蛇魔弾』で、私を仕留めるつもりか・・・」

 鬼神、考える。

「『大地の盾』で、洞窟を封印することはできる。

 あるいはいっそのこと、洞窟を叩き壊してしまうこともできる。

 ──だが、それでは、死者たちが迷惑をする。

 なにか、良い手はないものか?」

 見回す。

 ふたたび、鬼神の額の第三眼が、入り口に引き寄せられた。

「兵士どもは、この境界線から突然現われた。

 境界をまたぐことは、できんのか?

 またいだら、どうなるのだ?

 ・・・やってみるか。

 そーれ」

「きゃん!」

 

 ポーイ。

 鬼神、引っ掴んだ兵士のうち、いちばん小さいのを、放り投げた。

 鳴き声からして、コボルドか?

 宙を飛んで、洞窟の外へ。

 ぼてん。ゴロゴロゴロ。地面に落っこち、転がった。

 

「きゃん! きゃん! ハァハァ!」

 下草にまみれ、ちょっと土ついた状態で起き上がるコボルド。

 ふさふさの毛に、下草が絡んでおる。

 くりくりした黒い目に、涙が浮かんでおる。

「痛いでござる! いったい、何が起こったんでござるか!?」

 

 ──コボルド。

 生き生きとした、生前の姿となって、立ち上がったんである。

 

「わふん・・・?

 ここは、どこでござろうか?

 仲間からはぐれ、腹を空かして、倒れたはずでござるが・・・」

 

 なんとまあ。

 鬼神が放り投げた兵士。

 すっかり蘇って、ふらふらと、歩いていったではないか!

 黄泉の坂には、気付いてもおらぬ。

 冥界のことも、忘れてしもうたようである!

 

「ほう」鬼神、ニヤリ。「となればじゃ、」

 振り向く。

「・・・。」黄泉の軍団、無言ながら、動揺する。

「──おまえたち全員、外へ投げ出してしまえば、私の勝ちということになるのう!」

「攻撃!!!」軍団長が命じた。「『蛇魔弾』、撃て撃て撃て!」

「決戦じゃ!」

 鬼神突っ込む。

 蛇魔弾が雨のごとく降り注ぎ、鬼神に噛みつく。

 ガブリガブリガブリガブリ! ガブガブガブガブ、ガガガガガガ!

「ぬおおおお! うおおおお──っとあぶない、っとっとっと、あぶないあぶない、おおあぶない!」

 鬼神、『盗み』のルーンのわざ、『避ける』を駆使。ギリギリですり抜けて、軍団長に迫る!

 だがしかし! 歩兵、必死になって鬼神を止める!

 足に抱き着き、腰にしがみつき、果ては顔面にまで飛びついて来よる!

 

「ぬう! 前が見えん! どけ!」

「きゃん!」

 鬼神引っ掴んで投げ捨てる。

 すぐ次のコボルド(?)が飛びついて来る!

 まさに、捨て身! 鬼神の全身に、歩兵がぶら下がる!

 さらにそこに、魔術兵が、同士討ち覚悟で──

「蛇魔だ、うわあ!」「蛇m──あなや!」

 どおん!

 ──蛇魔弾を撃とうとしたところへ、ガンメタ鬼神台が、体当たり!

 魔術兵を吹き飛ばし、軍団長目掛けて突っ込んだ!

「戦車を撃ち落とせ! 軍団長に近付けるな!」魔術兵長、叫ぶ!

「蛇魔弾!」「蛇魔弾!」「蛇魔弾!」

 ガブガブガブ──ばきぃん!

 

 ガンメタ鬼神台、噛み砕かれた!

 相棒、またしても、死す!?

 

「相棒! くそっ! あと少し──ええい、前が見えん!

 ならばこうじゃ! 『萎む』のルーン!」

 しゅるしゅるシュルル。

 鬼神、突然、萎む!

「あなや」「うわあ」「痛ェ!」「きゃいん!」

 ぶら下がっとった歩兵ども、お団子となって地面に落ちる。

 その歩兵が、吹っ飛ばされる!

 どかどかどんどん! 宙を飛ぶ!

 洞窟の入り口へ転がってって、外に飛び出し、蘇生する!

 なんで飛んだのか?

 ──もちろん、鬼神のせいである!

 萎んだ鬼神。がばっと平たく伏せのポーズで、兵士どもの股くぐり、次々はね飛ばしては、軍団長へと突進したんである!

「名付ケテ、『ゴキブリチャージ』! 狙エルモンナラ、狙ッテミヨ!」

 ひどい名前である。

 しかし有効であった。

 なんせ、人間の半分ぐらいの背丈の、ちび鬼神。それが屈んで突撃してくるので、

「あなや!」「鬼神さまはどこに!?」

 見えぬ。

 どこ走っとるのか、わからぬ。

 魔術兵、うろたえる。『蛇魔弾』も、相手が見えんことには、撃てんのだ。

 軍勢の足元をちょこまか走るちび鬼神には、同士討ち覚悟でも、『蛇魔弾』は撃てんのである!

「味方を撃て!」魔術兵長、叫ぶ。「『魔弾』で吹き飛ばせ! 発見次第、『蛇魔弾』!」

 冷酷なる命令であった!

 さすがは、黄泉の軍団といったところ!

 鬼神どうする!?

「ソウ来ルカ! ナラバコウジャ!」

 鬼神もすぐさま返しを打つ!

「『伸ビル』ノルーン! 我ガ身ヨ、元通リニナーレ!

 『力』ノルーン! 『赤キ大地ノ盾』!

 床ヨ剥ガレよ! 我が盾となり、敵をひっくり返せ!」

 

 ごっぱあああ!

 洞窟の床が一気に剥がれ、持ち上がる!

 赤き大地の盾に、数十人の兵士! 持ち上げられて、あるいは転げ落ち、あるいはぽーんと豆みたいに空へ飛ぶ!

 

「そーれ、まとめて蘇ってしまえ!」

 鬼神、大地の盾をブン投げる! 入り口へ!

 盾ごと数十人の兵士が、現世のどっかへすっ飛んでった!

 護衛、壊滅である!

 鬼神、ダッシュ!

 黄色の羽根飾り、目前にあり!

「軍団長、捕らえたり!」

「あなや!」

「天晴れな軍団長よ! よくぞここまで軍を鍛えた。

 だが、私の目的のためじゃ。御身も、よみがえーれ!」

 

 鬼神、軍団長を持ち上げて、入り口から外へ、走り出る!

 して、入り口そばの岩の上に、軍団長をそっと腰掛けさせた。

 

「・・・???」

 きょとんとする、ハイエルフ。

 蘇った彼の姿は若々しく(ハイエルフはみんな若々しいですが)、すらりとしなやかで、強そうであった。

 その装備。鬼神の時代より、遥かに遥かに、古いもの。千年は古いのではなかろうか?

 見事な装備であったけれど、なぜか剣だけ、欠けておる。

「ではな。軍団長」

 鬼神。そんな彼をそのままに。

「冥界は、この鬼神がもろうたぞ。

 ・・・あれ? どこじゃ? 入り口は。

 ああそうか、『見出す』! ──そこか」

 鬼神。

 ざっく、ざっく・・・。

 足音だけを現世に残して、冥界へと、消えた。

「んん!?」

 ハイエルフの英雄。

 その足音に、振り向く。

 だが、鬼神の姿、見ることはできなんだ。

 生者の目には、冥界の中を見ることは、できんので。

「はて?」

 英雄は、つぶやいた。

「私は、災いの竜の体内にて、死んだはずやが・・・?」

 

「降参します」

 軍団長を失った、黄泉の軍団。

 負けを認めて、降参したのであった。

「よろしい。では、私はいまから、冥界の王じゃ」

「ははー!」

 生き残った黄泉の軍団。白骨の神さま。

 そろって、鬼神に頭を下げたのであった。

 

「・・・だが、相棒よ」

 鬼神。

 黄泉の坂を見渡し、つぶやく。

「またしても、おまえを・・・犠牲にしてしもうた・・・」

 ぶわっさ。

「一度ならず、二度までも。

 いや、エスロ博士救出のときだって。

 おまえはいつも、私より先に傷ついて、倒れてしまうのだな・・・」

 ぶわっさ、ぶわっさ。

「おお! 相棒よ! そなたのことは忘れんぞ! さらばじゃ!」

 ぶわっさぁ!

 ゴツン!

「あいた!」

 ぶわっさぶわっさ、ぶぶぶぶわっさ、ぶわっさっさ!

 相棒、激怒。上下にバウンバウン弾んで、鬼神の前で怒りを表現である。

「あれ? なんで、生きとるのだ?」

「ついさっき、出て来はりましたで」と、白骨の神さま。

「は?」

「言いましたやんか。死んだもんは、ここへ運ばれるて」

「あ、そうか」

 

 ──と、こういうわけで。

 鬼神。黄泉の軍団を打ち倒し、冥界の王となったのである。

 

◆ 22、ルシーナ、ちょっと、よみがえる ◆

 

「勝ちましたかに?」

「うむ。勝ったぞ!」

 鬼神。

 広い洞窟まで戻って、ルシーナに迎えられた。

「これで父上は、冥界の王というわけやに」

「そうじゃ!」

「これからは、ここで国造りということになりますかに」

「・・・ん? あ、そうか。そうだのう」

「なにえ」

「いやあ。

 とにかく『死』というものをぶっ飛ばしてやろうと、そればかりでな。

 後のことは、考えとらんかったのだ」

「冥界放ったらかすんですかに?」

「いや。それはない。

 私の王国にして、何もかも変えてやる。

 人間が死におびえたり、泣いたりせんで済むようにな」

「安心しましたえ」

 ルシーナうなずく。

「ちと、きしにぃと相談をしたいのですが。よろしいですかに?」

「うむ。かまわんぞ。

 あ、だが、その前にじゃ」

「なんですかに?」

「ルシーナよ。

 私は、そなたを、蘇らすことができるかも知れん。

 どうじゃ。やるか?」

「・・・説明を頂きたいのですが」

「うむ。それは、こういうことなのじゃ」

 

 鬼神説明する。

 ルシーナ、それを聞き、しばし考えて、

 

「兵士ども、また軍団長の様子からして・・・。

 自分では出てゆけぬが、父上が連れ出してやるならば、戻れると」

「うむ」

「そやに、蘇った者は、冥界での記憶をなくす──と、こういうことですかに?」

「む? そう言われれば」

 ぶわっさ。

 鬼神と相棒、顔を見合せて、

「そうかも知れん。何が起こったのだ? っちゅう顔をしておった」

「となりますと、悩ましいところですに・・・」

 

 このこと、じつは、悩む必要はないことであった。

 というのは、黄泉の軍団が記憶をなくしたことには、特別の理由があったんである──

 

「黄泉の軍団は、入るときに誓いを立てるんですわ」

 白骨の神さまが、こう教えてくださったんである。

「現世であったことは忘れ、黄泉の軍の一員としてはたらく──と」

「ほう?」

「その誓いが、記憶を別のもんにするっちゅうわけですわ」

「記憶を別のもんにするだと?」

「お財布、切り替えるみたいなもんですわ。

 『黄泉の軍団』っちゅうお財布を、使うようにする。

 そのあいだ、元の自分のお財布は使われへん。

 元の自分のお財布に戻っても、『黄泉の軍団』のお財布に入れたお金は、そこにはあらへん」

「・・・ひどい話ではないか!」

「掟ですからねえ」

「そんな掟、今日から、なし!」

「あにはからんや」白骨の神さま、あきれる。「この王さまには、苦労させられそうや!」

 

 ──というわけで。

「ちょっと行ってきますえ」

 ルシーナ、蘇った。

 現世へ戻り、こっそりルーンたちに会うて、一緒に酒を呑んだりしたらしい。

 ところが。

「ただいま戻りました」

 しばらくすると、また冥界に戻って来た。

「なんじゃ。もうええのか?」

「なにえ。私はいらんっちゅうことですかに?」

「なんでじゃ」

 まためんどくさい・・・と思いつつ、鬼神、答える。

「そなたが居ってくれれば、私はそりゃあそりゃあ、助かる。

 だが、ルーンのことはええのか? と言うとるのだ」

「ルーンは、助け不要」

「ほう」

「あれは、けんか弱く、優柔不断、政治は下手、美貌も知恵も生かし切れぬところあり。

 そやに、祖国のためならば、しぶとく踏ん張れる女ですえ。

 さもなくば、このルシーナ、肩入れしたりはいたしませぬ」

「ふむ」

「それより、やることがありますに」

「なんじゃ?」

「母上を、お招きいたしまする」

「なんと?」

 

◆ 23、ルシーナ、こころがわりする ◆

 

「母上の降霊を、試してみようと思いますのえ」

「しかし・・・」

 鬼神はルシーナを気づかった。

「そなたは、母上には複雑な気持ちがあるのだろう?」

 

 ルシーナは、神竜戦の最後、月の女神に身体を貸した。

 月の女神を降霊させるために、自分の身体を明け渡したんである

 結果、ルシーナは戦死した。母に身体を貸したまま、意識もないままで。

 

「アルフェロンを守ってもらった結果ですえ」とルシーナ。

「それは綺麗事(きれいごと)だろう」

「・・・。」

「たしかに、母上も、アルフェロンを守ってくれた。

 だが、ルシーナを死なせもした。

 もちろん、わざとではない。

 だが、そなたが怒るのは、当然じゃ」

「当然ですかに?」

「当然じゃ」

「くすくす」ルシーナ笑う。「父上は、きしにぃと同じことをおっしゃる」

「相棒と?」

 

「きしにぃに、訊いたのですえ。

 父上に、恨みはないんかに? と」

「・・・。」

「『ある』」

「・・・そうか」

 

「きしにぃの答えは、こうでした──」

 

『味方は勝ったが、自分は死んだ。

 なぜ? との、気持ちはある。

 誰が悪いのでもない。

 ・・・だから、誰にも文句は言えぬ。

 ま。

 どうせみんな、死ぬときには死ぬのだ。

 先に死んで、偉そうな顔をしてやるのも、面白かろう。ぶわっさ?』

 

「──ほんまかいな!」

「ほんまですえ」

 鬼神からすれば。

 相棒ってそんな、ペラペラしゃべるんか?

 っちゅうか、しゃべったとして、おまえわかったんか? という感じなのだが。

 

「それと、こんなことも言うておりました」

「まだあるのか! なんじゃ!」

 

『あ、だがな。

 さっきのは腹立ったぞ!

 呼ばれたから来てやったのに、『なんで来たのだ?』みたいな顔しおって!』

 

「うっ!」鬼神ひるむ。

 

「私だけではなかった・・・と、なんかこう、スッといたしましたえ」

 ルシーナ。

 さっぱりした顔して、こう言うた。

 

「そやに、私も心変わりをいたしました。

 母上を──月の女神を、お招きしたいと、思うようになりましたのえ」

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