◆ 6、コボルドの村 ◆
鬼神、ルシーナ、白骨の神さま。
空飛ぶ台で、冥界を飛ぶ。
「なんで私が・・・」
白骨の神さま、ブツブツ。骨を通り抜ける風、ひゅうひゅう。
ちなみに、乗っておるのは、空飛ぶ赤いかぶとがに・弐号である。
「・・・門番の仕事も、けっこう忙しいんやけどもねぇ」
「まあまあ、白骨どん」
鬼神。
こちらは、もちろん、相棒。ガンメタ鬼神台である。
くるり。あぐらかいて座ったまんま、後ろ振り向いて、しゃべる。
「御身が来てくれれば、私が冥界の王さまとなったこと、一目瞭然(いちもくりょうぜん)。
話しやすいのだ。助かるのだ。今日一日だけ、付き合ってくれい」
「はあ」
「今日中に回れるところを回って、あとは、うわさが広まるに任せるつもりじゃ」
「そうですか。わかりました。ほな、今日いちんち(一日)、お付き合いいたしますわ」
白骨どん、うなずく。で、話変える。
「そやけどこの、空飛ぶ台ですか。こらー、素晴らしいですな」
「だろう?」
「気持ちええし、役に立つし、話もできるときたもんや。
ほんまに得難い(えがたい)人材ですわ。ねえ。弐号どの」
ぶわっさ! 弐号よろこぶ。
・・・と、ここまで黙っとったルシーナが、
「見えて来ましたえ」前方を指差した。「コボルドの村です」
斜面にへばりついた穴ぐら住居群が、見えて来たのであった。
「鬼神さま!」「ルシーナさま!」「わんわんわん!」「がいこつ!」「きゃんきゃん!」
コボルドども。こちらを見つけて、大騒ぎ。
着陸するころには、すっかり取り囲まれてしもうた。
ぶわっさぶわっさぶわっさ! コボルド用の空飛ぶ台も、飛んで来た。かぶとがにではなく、楕円形の小さいやつである。わーっと飛んで来て、くまんばちみたいに、ぶぉんぶぉん飛び回っておる。
「やあ。コボルドども! コボルド台ども! 元気にしておるか?」
「元気でござる!」「穴も、堀り放題でござる!」「戦も、いつでも来いでござる!」
「うむ! 今日は、いくさではないのじゃ──おお、よしよし」
飛びついてくるコボルドの子供。
鬼神は、六腕に鈴なりに乗っけてやって、高~くしてやった。子供、大喜びである。
「私は、このたび、冥界の王になったぞ!
これからは、冥界もどんどん変わってゆくぞ。
都も建設中じゃ。建設の仕事が欲しい者は、名乗り出るがよい。
また、私が冥界の王となったこと、お隣さんにも伝えてくれい!」
コボルドども、おおさわぎ。
建設するでござる! と叫ぶ者。お隣さんのとこへ駆け出す者。ぶつかって転ぶ者・・・おおさわぎである。
建設に加わるコボルドともは、ルシーナがまとめて、ここで引き返す。
ルシーナの壱号、発進。コボルド台も、建設コボルドをぎゅうぎゅう詰めに乗せて、発進。
「よし。では、次じゃ。白骨どん、ゆくぞ」
「待ってくだされ! すねの骨がありませんねや」
「なんだと」
「子いぬどもに、持ってかれてしもうた」
鬼神、額の第三眼、カッと見開いた。
──こっちに尻向けて穴掘っとる、コボルドの子を発見!
「こりゃ。それは、白骨どんの骨じゃないのか」
「うーーーっ!」子コボルド、いっちょまえに威嚇してきおる。
「うーじゃないわ。返さんか」取り上げた。
「きゃん! きゃん!」
「盗みぐせが問題だな。こいつらは」鬼神、ぼやく。
「あいすみませぬ。鬼神さま」コボルドの奥さんが謝ってきた。「そして、お久しぶりでございまする」
「うん?」
鬼神、コボルドの顔の見分けはつかぬ。
「えーと、誰じゃ?」
「巨人の国に盗みに入った、初代コボルドの妻でございまする」
「おお! おまえか!」鬼神、相手の小さな肩を、優しく叩いた。「ご主人には会えたか?」
「はい。夫は、飛んでいってしまいました」
奥さん。空の彼方のコボルド台を指す。旦那さん、建設コボルドに加わったらしい。
「死んでも、そそっかしいのは変わりませぬ」
「わっはっは」
◆ 7、行き場のない、しにんども ◆
鬼神、白骨の神さま。
空飛ぶ台で、冥界を飛ぶ。
「歯形ついてしもうた」
白骨の神さま。ブツブツ言う。
右のすね。子コボルドにかじられた痕、ついておる。
「うちのコボルドどもが、すまんことをした」
「いぬは苦手ですわ。なんであんな骨好きなんや」
・・・と、ここで、ガンメタ鬼神台がぶわっさぶわっさ言い出した。
「なんじゃ? 相棒。なんか見つけたのか」
ぶわっさ。
「むむ」
前方、黒い川が横たわる平地に、フラフラと歩き回る人間の姿あり。
川の手前を、行ったり、来たり。人数は、ようわからぬ。三々五々、河原をさまよっておる。
「なんだあれは」
「ああ。あれは、行き場のない死人ですわ。
神さまが居らず、死後の行く先が決まらん者どもです」
「ほう」
「昔は、あの川渡った先に、冥界の王の国がありましてね。そこへ放り込まれとったんですが」
「ああ。王さまが居らんようになったものな」
「はい。川の渡し守やっとった奴も、さぼっとるみたいやね。姿、見えませんわ」
「国がなくなったらな」
「あいつ、金にうるさい奴やったからねぇ。給料出えへんなったし、サボってんねやろなぁ」
「昔は、給料もらっておったのか」
「そらまあね。雀の涙(すずめのなみだ)やったけどね」
「ルシーナに伝えよう。そのうち、出るようにするわい」
「ほんまですか! 言うてみるもんやねぇ」
鬼神たち。行き場のない死人どもの中に、降りた。
「ひええ」「空飛ぶ巨人」「なにえ、なにえ」「うわあ。すげぇのが来たぞァ」
死人ども。
暗~いムードかと思いきや、軽いノリ。わらわら群がって来よった。
「やあ。行き場のない死者どもよ」
鬼神、あいさつ。
「もし良ければ、新たな都に来るがよい。受け入れてやるぞ」
「なんと」「都やと」「宿は、あるのかァ?」
「都は建設中じゃ」鬼神は説明した。「じゃからして、宿はまだない。これから造るのじゃ。建設の仕事もあるぞ」
「おお!」「建設の仕事したい」「宿がやりたい」「仕事はしたくねぇけど、見てみてぇなァ」
「ほな、私が案内しましょか」
白骨どんが、手を上げた。
「鬼神さまが引き返してもうたら、何しに来たかわかりませんもんねぇ」
「おお! では頼む」
「お任せあれ!」
白骨どん。これで門番の仕事に戻れる! と思うたか?
ウッキウキで、壱号に飛び乗る。足引っ掛かる。こけた。
がしゃーん。ばらばら! 河原に骨、四散。「あなや」
「何やっとる。落ち着かんか」
鬼神と、行き場のない死人ども。ばらばらになった白骨を拾うてやった。
「すんません。あ、こりゃどうも。めんぼくない。どうもどうも」
かちゃ・・・かちゃ・・・。
骨、見つかり次第、くっついてゆく。
が。
「──あれ? 親指と小指の骨があらへん」
「なんだと」
鬼神たち、キョロキョロする。
「もしや、川に落ちて流されたのでは?」
鬼神、川へばしゃばしゃ入ってゆき、カッ! 第三眼開く。
さらに、太陽の女神に習うたわざを唱えた。
「『光』のルーン、『見出だす』!
なくなった骨よ、見つかーれ」
すると、川の下流からさかのぼってくる舟が目に入った。
手漕ぎ舟である。ローブ着た漕ぎ手が、きーこ、きーこと、舟漕いでおる。
「相棒!」
ぶわっさ。
以心伝心(いしんでんしん)。
逆さまになって飛んで来たガンメタ鬼神台に、鬼神ぶら下がる。そのまま下流へ。
手漕ぎ舟に近付いたところで、額の第三眼が、水の中を転がる小骨を発見!
「そこの御方」鬼神呼びかける。「その、流れとる骨を、止めてくだされ」
「うん?」
漕ぎ手、水面を見る。
黒い川面である。見通しが利く状態ではない。
だが、漕ぎ手はこの川に慣れとるようである。小さな網をサッと取り出し、骨、見事にキャッチした。
「これでええんかな?」
「おお、それじゃ、それじゃ!」
鬼神が余っとる手伸ばして受け取ろうとする。
ところが、漕ぎ手はサッと手引っ込めた。
「・・・なにを、意地悪しとるのだ?」
「拾い賃、頂きたいんやが」
「ひろいちんだと」
「銅貨一枚でよろしいわ」
「よろしいわじゃないわ。よこせ」
「払ってくれへんのやったら、この骨は私のもんや」
「なにぃ~?」鬼神、かちんと来た。「たかが指の骨一本拾うたぐらいで、金よこせだと? 強突張り(ごうつくばり)めが」
「なんやとぉ~?」漕ぎ手、かちんと来た。「ほんな言い方すんねやったら、もう渡さへんわ!」
「ちっ。くずめが。なにが欲しいのだ」
「カネや。カネ。さっきは銅貨1枚やったが、悪口代で、銅貨2枚に値上げや」
「ちっ! ──ときに、おまえさん、金と生命だと、どっちが大事だ?」
「そら生命に決まっとるがな」
「ではおまえに、生命をひとつくれてやろう」
「ほんまか?」
「ほんまじゃ」
「ほんなら、はい」
漕ぎ手、骨を鬼神に渡す。
「ではな」鬼神、飛び去る。
「おいちょっと待てや! 話ちゃうやろ!」
「ちゃんと生命をくれてやったではないか」
鬼神、笑う。
「私はな、おまえをぶん殴って、打ち殺すこともできた。
だが、それはやめておいた。つまり、生命をひとつ、助けてやったというわけじゃ! わっはっは!」
「おまえふざけんなコラ! 待たんか~、盗っ人ぉ~!」
「・・・というわけで、見つけて来たぞ」
「ああ、助かった。私の可愛い親指ちゃん」
鬼神が回収してきたのは、親指だったようである。
ちなみに、小指は岩の影に転がり込んどったらしい。先に見つかって、すでにくっついておった。
「やれやれ。お騒がせしました」
「まったくじゃ」
鬼神笑う。
「にしても、意地汚い舟乗りだったのう」
「たぶん、それ、この川の渡し守ですわ。チップ払わな絶対仕事せえへんのですわ」
「まったく、腹の立つ奴じゃ! ちょっと、嫌がらせをしてやろう」
「どないするんです?」
「こうするのじゃ」
鬼神、地面に手をついて、
「『力』のルーン! 『圧縮する』!
大地よ伸びよ。橋となれ。舟乗りの仕事は、なくなーれ」
ず、ご、ご、ご、ご・・・。
冥界の大地に、震動が走ったかと思うと。
地面が盛り上がり、赤熱しながら、にゅーっと伸びて。
アーチとなって、川をまたいでゆくではないか!
「橋やんか!」
「いかにも。これで渡し守は失業じゃ。わっはっは!」
「子供か」白骨どん、あきれる。「王さまのすることやあらへん」
こうして橋ができたので、渡し守は仕事がなくなったそうである。
・・・え? 渡し守がかわいそうじゃないかって?
まあそうですね。ひどい嫌がらせだ。
しかし、渡し守もただでは引かなんだ。
橋のたもとに陣取って「この橋渡るなら、通行料、銅貨1枚」と、やっとるそうですよ。
「──さて、」と白骨どん。「ほんなら、私は、都予定地へもどりますわ」
「うむ。気をつけてな」
「もう骨なくしたくないからね」
白骨どんは弐号で引き返す。行き場のない死人どもは、ゾロゾロとその後に続いたのであった。
◆ 8、巨人の王ふたたび ◆
鬼神。
相棒と、冥界を飛ぶ。
「ひさしぶりだな。こうして、のんびり飛ぶのも」
ぶわっさ。
鬼神は冥界を見渡した。
「ここも、洞窟のはずだが。天井も壁も見えん。あきれるほどの広さじゃ」
ぶわっさ。
ルシーナがかつて言うたとおり、ひとつの世界、ひとつの国といった広がりである。
「なんちゅう広さじゃ。これなら、義父上でもつっかえずに暮らせそうだのう?」
ぶわっさ、ぶわっさ。
などと、話しながら飛んでおると。
うわさをすれば、なんとやら。
前方に、巨大な人影が見えて来た。
ハンマーらしきものを、右手に抱え。
胸に、でっかい、ツノみたいなものがある。
あぐらをかいて座っておるのに、山よりでっかい。そんな人影である。
「なんじゃあれは」
ぶわっさぶわっさ・・・。
「ハンマー持っとるところは、義父上っぽいが。胸のツノは、なんじゃ?」
ぶわっさ・・・。
「おーい! そこの、でっかい御方! 話がしたいのだが、かまわんか?」
呼びかけてみた。
すると。
「なんじゃ! その声は、おまえか!」
と、声が返ってきた。
「鬼神め! この、不埒者(ふらちもの)め! ぶん殴ってやるから、こっちへ来い!」
鬼神。
ハンマーが届かん距離を見計らって、相棒から降りた。
巨人の王は『殴る』と言うたら本当に殴るし、『踏みつぶす』と言うたら本当にやる御方である。なので、警戒したんである。
相棒は空飛んで逃げてった。観戦の構えである。冷たい奴。
さて。
巨人の王はどうしたか?
いきなり、怒鳴ってきたのであった。
「とうとう、おまえも死におったか! ばかめ! いい気味じゃ!」
「なんだと! ごあいさつな。わざわざ来てやったのに」
「なんじゃと! 黙って我慢しとれば、調子に乗りおって」
「誰が黙って我慢したのだ」
「わしじゃ」
「しとらんだろうが! いきなり『ぶん殴ってやる』とか言うたじゃないか」
「言いはしたが、殴っとらんじゃろうが!」
ぐらぐらぐら・・・。
地震発生。
巨人の王の怒りの地震。
鬼神、ぐらーりぐらーり揺さぶられつつ、「久しぶりだな」と懐かしく思うた。
「その胸のツノみたいなものは、何です? そんなもん、生えとらんかっただろう」
「神竜の爪じゃ」
「なんだと?」
「心臓を貫かれてのう。さしものわしも、生きてはおれなんだ」
「なんで刺さったままなのだ。邪魔だろう」
「うむ。すこぶる、邪魔じゃ」
「なんなら、私が抜いてやりますぞ」
「いや。このままでよい。いつか鍛冶に使うつもりなのじゃ」
「痛いだろうに」
「なあに、もう死んでしもうた身じゃ。このぐらい、どうということはない」
「わけのわからん御方だ」
冥界でも、人は死ぬはずである。殴っても死ぬのだから、心臓に神竜の爪刺さったら絶対死ぬはずである。
巨人の王は、どうもそういう世界の常識からは外れとるようであった。
「さて。鬼神よ」
ゆら~り・・・。
その巨人の王が、立ち上がった。
「わしの娘に、恥をかかせたな?」
「うむ」鬼神はうなずいた。「そのことは、悪かったと思うておる」
「思うで済むか、ばかめ」
「ばいしょうはしますぞ。どっか土地を見つけ、御身に国をひとつあげるつもりだ」
「それはもろうておく」
巨人の王。もはや完全に立ち上がっておる。今度はハンマーを持ち上げ始めた。
「じゃが、それはそれとして、おまえはつぶす」
「なんだまったく。話にならん奴だな」
「おまえのせいじゃろが!」
「まあ、きっかけは私かも知れんがな」
鬼神は腰に手をやって、帯びておった剣を外した。
「けんかを始める前に、この剣を返しておきたい。
万が一、壊れては困るのでな。受け取ってくだされ」
「それはなんじゃ」
「御身が打った剣ですぞ。巨人の剣。英雄へルドの剣だ」
「なんと!」
巨人の王。
怒りをいっとき収めて、ピンセットを取り出し、鬼神の差し出した剣をつまみ上げた。
糸を取り出し、輪っかにして、剣の柄に引っ掛けた。半分ほど抜いて、オレンジの刀身を確かめる。
「たしかに。わしが打ったヒイロガネじゃ。いったい、どこで盗んで来た?」
「盗んどらんわ! 神竜の体内で見つけたのだ」
「なんと」
「御身が死んだ後だ。私が、神竜に喰われて、喉の奥へ逃げ込んでな。
その剣を持つ英雄が亡くなっておるのを見つけたのだ。
私は、剣をお借りして、脱出した。
そのお礼に、しゃれこうべと、ロケット(お守り)を回収して、子孫に返してやったのだ」
「ほう・・・」
巨人の王、ちょっと神妙な顔をして鬼神を見た。
「おまえさんにしては、殊勝な(しゅしょうな)行いじゃ」
「一言余計だわ!
・・・で、その剣は『もらえない』と言われてな。御身に返そうと思うたのだ。
まあまあの手間だったぞ。お日さんに欲しがられたのを、断ったりもしてな」
「そうじゃったか・・・」
「その優雅と──ああ、私は事情を知らんかったので、“優雅”と名付けたのだ。
その優雅と、何年も一緒に旅をしてな。
いまようやく、里に帰ったというわけだ」
「そうか」
巨人の王。
ひとつしかない目で、ピンセットでつまんだ剣を見つめる。
ちょっと鼻をすすったりしとる。何千年も現世で生きた御方であるから、去来する(きょらいする)記憶も多かろう。
「・・・しめしめ!」鬼神は卑怯な考えをした。「これなら、話がつけれるかも知れんぞ」
が。
巨人の王は、そんな甘い王さまではなかった。
「剣を持って来てくれたこと、礼を言おう」
「うむ。かまいませんぞ。それで、話があるのだが」
「その礼として、おまえをつぶすのはやめてやるが、」
巨人の王。
“優雅”を懐へ収め、ハンマーを振り上げた。
「──が、死なん程度には、叩きのめす」
「ちっ! 怒りの制御のできん、耄碌(もうろく)じじいめが!」
「なんじゃと! この不埒者が!」
話し合い終了! 戦闘開始である!
◆ 9、鬼神、ふたたび、けんかする ◆
ごおおお! 闇の天から落ちてくる、巨大なハンマー!
鬼神、額の第三眼開いて、ギロリと見上げる!
どっ・・・・・・・・・がああああん!!!
避けもせず、受けもせぬ鬼神の上に、ハンマーが激突!
地面にめり込み、大地を叩き割り、大激震を冥界にもたらした!
「む?」巨人の王、おどろく。
ぶわっさ!? ガンメタ鬼神台、悲鳴上げる。
「なんもせずに、つぶれてしまいおった」
巨人の王。
そーっと、ハンマーを持ち上げた。
大地に大穴。その穴を、覗き込む。ガンメタ鬼神台も隣にやって来て、覗き込む。
ぶわっさぶわっさ!! ガンメタ鬼神台、巨人の王に喰ってかかる。
「い、いや、受けると思うたんじゃ」
ぶわっさ、ぶわっさ!
ガンメタ鬼神台、穴へ降下。『生命探索』でもって、あるじを探す。
ところが──
ぶ、ぶわっさ・・・!?
何も見つけられぬ! 穴の中に、生命反応、なし!
まさか──!?
と、そのとき。
<『戦』のルーン! 『敵の位置を知る』・・・>
鬼神の声が、どこからともなく、響いてきた。
「ぬう!」
巨人の王、ひとつしかない目で、キョロキョロする。
「どこじゃ!?」
<ふっふっふ・・・わからんか?>
大地に響く鬼神の声。
<私にはわかるぞ。御身がどこに立っとるか、手に取るようにな。
──ゆくぞ。こっちの番じゃ!
『力』のルーン! 『圧縮する』。大地よ、へっこめ!>
「むう!?」
ぐらり。
巨人の王の身体が、かたむいた!
でっかいでっかい左足が! 地面の中に、吸い込まれてゆく!
「落とし穴! ばかな! いつの間に!」
<いま造った。『力』のルーンでな>
「やりおるわい。
じゃが、『力』のはたらきならば、わしだって、使える!
『はたらきの武具』! 『力』のはたらき、『圧縮する』!
地面よ固まれ。大丈夫な足場になるのじゃ!」
ずううん・・・!
吸い込まれた左足の下に、固い固い地層が出現!
巨人の王はそれを踏みしめ、バランスを取り戻した!
<さすがは巨人の王。ならば、これはどうです?
『萎む』のルーンよ。できるんか知らんが、まあ、やってみよ!
──巨人の王を、小さく小さく、萎ませてしまえ!>
しおしおしお・・・。
巨人の王、見る見るうちに、萎み始めた!
穴の空いた水袋のごとし! あっちゅう間に、小さくなってゆく!
「これは、お月さんのルーン!」
<いかにも>
「・・・おまえ、ルーンを教わるほど、お月さんと仲良くなっておったのか」
<その通り。相棒から聞いとらんのか?>
「ぬ、ぬう・・・聞いとらん!」
巨人の王、見る見るどんどん小さくなって、とうとう、鬼神と同じぐらいにまで、縮んでしもうた!
と、ここで。
ぼこぼこぼこ! 地面が割れたかと思うと。
土にまみれた六腕三眼の赤い巨体、大地の中から、這い出してきた!
「やれ! うまく行ったわい」
鬼神。
土を払って、巨人の王の前に立った。
巨人の王。いまや、鬼神と同じ目の高さになって(それでも人間の3倍はあるのですがね)、睨みつける。
「・・・どうやって逃れたのじゃ?」
「『力』のルーンによってだ。
殴られる直前に横穴を造って、逃げ道を確保した」
「だが、手応えもあったぞ」
「うむ。わざと、ちょっとだけ、当たったからな。
それで『向きを変える』を使い、逃げ道にすっ飛ばしてもろうたのだ」
「なんじゃと・・・」
「敵の攻撃を利用するというやり方。
相棒が、神竜相手にやったのを見てな。かっこええなあと思うとったのだ!」
「そうか」
「さあ巨人の王よ。体格が同じになったからには、もう負けませんぞ!
決着と行こうではないか」
「ふん」
巨人の王。ニヤーリと、笑うた。
「な、なんだ」鬼神、ひるむ。「何がおかしい」
「鬼神よ。そなたにひとつ、教えておいてやろう」
「なにをじゃ?」
「『自分にできることは、他人にもできるかも知れん』ということじゃ!
『はたらきの武具』! 『伸びる』のはたらき! わしの身体よ、元にもどるのじゃ!」
「・・・なんだと!?」
むくむくむくむく・・・。
巨人の王の身体、伸びてゆく!
入道雲の夏空に昇るがごとし! 見る見るうちに、元のサイズとなる!
「ばかな!」鬼神焦る。「お日さんと、お付き合いがあったのか! ルーンを教わるほどの!」
「ふっふっふ。娘から聞いとらんのか?」
「うぬう! 聞いとらん!」
ハンマー、振り降ろされる。
「今度は逃がさぬ! 『向きを変える』は、相殺してくれる!」
「ぬわあ! 危ない!」
『盗む』のルーンのわざ、勝手に発動! ぴょーんと飛んで、相棒のボディにしがみつく。
ぶわっさ!? 突然ボディ掴まれた相棒、びっくりして急上昇。
鬼神、まんまとハンマーを逃れた!
ぶわっさぶわっさ! 相棒怒る。
「おい相棒! 冷たいこと言うんじゃないわ。助けんか」鬼神も怒る。
ぶわっさ!
相棒、ぶーんと激しくロール(横転)。
「ぬわー! 冷たいやつ!」鬼神、吹っ飛ばされた。
「おとなしく、ぺっちゃんこになれ!」巨人の王、ハンマーを振り回す。
「されてたまるか! 『力』のルーン! 風よ、私を押せ!」
「相殺じゃ」
「ぐわー」
鬼神、ハンマーにぶっ叩かれ、吹っ飛び、豆粒みたいに小さくなって、暗闇に消えた。
「まだまだ! これからじゃ!」
巨人の王、ずしーんずしーんと、大地震引き起こしながら追いかける。
鬼神と、巨人の王。
冥界のあっちこっちに穴を開け、大地震を引き起こし、延々つづく、大げんか。
ガンメタ鬼神台、後に妙雅に語るよう、
『丸一日は、やっとった! 見とるこっちは、暇だったぞ!』
との、ことであった。
やがて、その大げんかも、一段落するときがやって来た。
◆ 10、巨人の王、かたる ◆
「はぁはぁ。もうええだろうが。十分、暴れたでしょう」
「はぁはぁ。いいや。おまえをぺちゃんこにするまで、わしの怒りは収まらぬ」
鬼神と、巨人の王。
はぁはぁ言いながら、なおも、けんかの構え。
しかし、どちらも疲れ切っておる。自分から手を出そうとはせぬ。
「くそっ。頑固者め!
だいたいがだ。巨人の王よ、御身にも、問題があるぞ」
「なんじゃ」
「なんで神竜のことを、ずーっと隠しておったのだ!
なんで、私をのけ者にした!
そして何よりも、私に黙ってルシーナや息子どもを戦に引きずり出すとは、どういう了見じゃ!」
「・・・。」巨人の王、言い淀む(いいよどむ)。「訊かんかったじゃないか」
「訊かんかったら、娘を死なせてもええのか!」鬼神キレた。
「いや」巨人の王は頭を下げた。「ルシーナさまを死なせたことは、すまんかった」
「ぬう! 御身が頭を下げるとは」
「下げろと言うたじゃろうが!」
「まあそうだが。いや、つまりだ。私が言いたかったのはだ。
なんでもかんでも秘密にせず、私に『一緒に戦え』と言うてくれということだ。
それにもうひとつある。
もし私がお月さんを味方にせんかったら、神竜はアルフェロンに落っこちとったはずだ。
いったい、どうするつもりだったのだ」
「わしが受け止めるつもりでおった」
「ばかめ! さっさと死んだくせに!」
「途中までは、うまく行っとった。
わしが神竜に傷をつけ、エスロ博士が呪文を打ち込む。そのはずじゃった。
じゃが、神竜のうろこが、工房に飛んだんじゃ。
娘が! と思うたら、身がすくんでしもうたのじゃ」
「ぬう! ・・・まあ、その気持ちはわかるけれどもだ」
鬼神。
ふーっと、長く息を吐いた。
「なんで、私に秘密にしたのだ?」
「・・・わしの妻が、神竜に踏み殺されたのが、始まりじゃ」
「は?」
「ええから聞け。
妻を殺されたわしは、神竜を叩き殺した。
じゃが、神竜は『天』のルーンで復活をした。
わしは警戒した。復讐をされるにちがいないとな。それじゃから、こんなハンマーを造りもした」
「『力』のはたらきのハンマーだな」
「うむ。まさかその『力』のルーンを、どっかの若者が持って来るとは思わなんだわい」
「不思議な巡り合わせだな」
「うむ。もしくは、レガーめの企みじゃ」
「おい。レガーさんを悪く言うな。ぶっ飛ばすぞ」
「それでじゃ。おまえさんが婿となり、孫が生まれた」
「うむ」
「幸せな日々じゃった」
「たしかにな」
「それで、孫をあやしたりして過ごすうちにじゃ。
もしかしたら・・・との、甘い考えに、わしは囚われたのじゃ」
「あまいかんがえ」
「もしかしたら、神竜はもう来ないんじゃないか?
もしかしたら、この幸せは、ずーっと続くんじゃないか? そういう考えじゃ」
「ああ・・・」
「平和なんぞ、ずっと続くもんではないというのに。
『破滅の日に備えよ』と、言い出すことができなんだ」
「そうか」
「加えてじゃ」
「まだあるのか」
「おまえさんは馬鹿だから、秘密をもらすかも知れん──という、懸念もあった」
「おい! そっちが本音じゃないのか!」
「どっちも本音じゃ」
「くそっ! 私だって、秘密を守るぐらい、できるわ!」
「口では何とでも言えるわい」
巨人の王は立ち上がって、横を見た。小さくうなずき、立ち去った。
「娘と話したいなら、そうせよ。じゃが、指一本触れるな」
「あん?」
鬼神が、巨人の王の立ち去った方向を見ると。
かつて妻であった女が、そこに立っておった。
◆ 11、鬼神、りこんする ◆
「おお」
「・・・鬼神さま」
巨人の女。鬼神の妻であった女。
ひとつしかない目で、こちらを見ておった。
「そなた、いつから、そこに?」
「ついさっきですわ。
そちらこそ、なぜ? まさか、死んだのではないでしょう?」
「死んではおらん。歩いて来たのだ」
「まあ。歩いて」
「娘のルシーナが、神竜にやられてな。それが悔しくて悔しくて。
世界中探し歩いて、入り口を見つけて、下りて来たのだ」
「また、そんな奇天烈なこと」
「はっはっは」鬼神は笑うた。「そなたの息子どもは、みな元気だぞ。嫁ももらい、幸せにしておる」
「そうですか。それを聞いて、ほっとしましたわ。
・・・イリスさまは」
「元鬼の嫁になった。王妃殿下じゃ」
「そうですか」
「・・・こいつ、怒っとるな」
鬼神。
彼女の、ひとつしかない目を見て、そう思った。
「だが、言わんほうがよかろう。イリスの嫁入りは、もう決着のついたことだ。
それよりも、決着のついとらんことを話さなくては。私たちの関係だ」
鬼神。
「つまり、離婚しよう、ということだ」
そう、決心したのだが。
自分から言い出すことは、できなんだ。
相手が、急に口を開いたからである。
「永遠の生命!」
「うん?」
「永遠の生命については、いかがでしたか?」
「ああ。そう言えば、そんな謎かけをされておったのう」
鬼神は背筋を伸ばした。
「私の見つけた答えは、こうじゃ。
『永遠の生命』なんぞというものは、この世に、ない」
「ありませんでしたか」
「だが、その希望を聞いてやることはできる」
「希望を聞く」
「お祈りでな」
「どんな希望ですか」
「幸せよ、永遠であれ、という希望じゃ。
子供のうちは『この楽しい一日が、ずーっとつづいてほしい!』と思う。
大人になっては『私が死んでも、子供には幸せでいてほしい』と願う。
死を迎えては『せめて祖国よ永遠なれ』と叫ぶ。
そういう希望じゃ」
「それを・・・聞くだけですか?」
「そうじゃ。
人間は簡単に死んでしまう。
生命は簡単に失われ、やりかけた仕事は潰え(ついえ)、国は滅び、歴史は忘れられる。
だから、私が代わりに覚えておいてやると、こういうわけじゃ」
「それが、永遠の生命ですか」
「いやちがう。
永遠の生命なんぞ、いらんのだ。
いるのは、次の世代に受け継がれる、幸せじゃ。
そして『幸せあれかし』との祈りを聞いてやる。これが、私の役目じゃ。
冥界の王となったからには、きっと、できるはずじゃ」
「そうですか」
目がひとつしかない巨人の女は、ゆっくりと、うなずいた。
「鬼神さま。
あなたは、永遠の生命の謎をお解きになられたのですね。
でしたら、私はもう、あなたの妻ではいられません。
離婚をいたしますわ」
「は?」
「さようなら、あなた」
「え?」
取り残された鬼神。
ショックを受け、呆ける(ほうける)。
いや、自分も離婚を持ち出すつもりではいたのだが。
「なんで、永遠の生命の話をしとって、『じゃあ離婚だ!』となるのじゃ・・・?」
ぶわっさ、ぶわっさ。
ガンメタ鬼神台がやってきた。
ぶわっさ!
「お、おう。そうだな。
いったん、帰るか・・・」
◆ 12、ルシーナ、ひもとく ◆
「1日って言うたに!」
ルシーナ怒る。
「えらい地震もあり、いったい何事かと。まったくもう!」
「すまぬ。巨人の王と、けんかになってのう」
鬼神、かしこい長女に説明をする。
で、意見を求めた。
「永遠の生命の謎を解いたら、じゃあ離婚だ! とは。
いったい、どういうつながりなのじゃ?」
「ふむ」
ルシーナ、考える。
コボルドを1人呼んで、ひそひそ話し出す。
「誰じゃ?」
「侍女ですえ。仮採用」
「はあ」
ひそひそ話し、フムフムうなずいたルシーナ。
コボルドを帰し、鬼神に向き直る。
「それは、おそらく、こういうことですえ。
父上は『永遠の生命』という仮想に答えをお出しになられた。
それすなわち『我は神なり』との宣言なり。
そやに、巨人の女は身を引──」
「待った待った。ちょっと待った」
「なにえ」
「話が早すぎて、わからぬ。ゆっくりたのむ。
かそうとはなんじゃ?」
「存在せぬものを、『ある』として、話をしてみること」
「え?」
「なにえ」
「いや・・・もしかして、私は馬鹿なのか?」
「なにえ。いきなり」
「いや・・・」
ルシーナがいきなり『永遠の生命は仮想』と言い切ったことで、鬼神はちょっと、びっくりした。
そんなすぐに『はいはい、仮想の話ね』とわかるような話なのか?
「・・・もしかして、真面目に考えた私は、ばかなのか?」
「何しょげておるのえ」
「いや。それで?」
「それで、父上は『できる』と言うた」
「いや言うとらん。希望を聞いて、覚えてやると言うたのだ」
「女の話やに。細かい理屈はどうでもええのえ」
「え・・・いや。まあ、ええが。
それで、なんで『じゃあ離婚だ!』となるのだ?」
「にぶい」
「ぬう」
「『これができるなら神』と言われて、『できる』と言うた。
つまり『我は神なり』と言うたことになりまする」
「そうだな」
「さらに、父上の愛する女は・・・?」
「うん? そりゃあ、お月さんだわい」
「そう」ルシーナ、ほっと息をつく。「はい。もうわかりますに?」
「いやわからん」
「阿呆」
「いちいちダメ出しせんでええから。最後までたのむ」
「めんどくさ」
「おい! ここまで説明しといて、めんどくさがるな」
「なんでわからんのかに! 相手の身になってみなえ! 父上が、巨人やとして!」
「う、うむ」
「私が、どっかの女神さまとして」
「はあ」
「我は女神なり! 我の愛する男も、また神なり!
──はい。父上、どう返事しますかに?」
「そりゃ、そんなこと言われたら、『ああそうですか。お幸せに』と言うしか──ああ! そういうことか!」
鬼神、やっと理解する。
「くそっ! そんなことを言うつもりではなかったのに」
「離婚するつもりやなかったんかに?」
「いやそうだが。そんな冷たい言い方するつもりでは!」
「大丈夫ですえ」ルシーナ、侍女を呼ぶ。「先方は、わかっておられるはず。──お茶をたのむ」
コボルドの侍女、お茶淹れてくれた。
鬼神、「ありがとう」と言うて、呑む。
ルシーナ、「そなたもここへ」とコボルド座らせ、一緒に呑む。
「父上が、とうとう巨人と別れたのえ」
「ふんふん」とコボルド。「巨人の国の、先代王妃さまですね? 離婚なさるのですね」
「うむ」と鬼神。「私から切り出して、あやまるつもりだったのに、相手に言わせてしもうたわい」
茶を呑み干して、「しかし、なあ」
「なんですかに」
「『鬼神』との名を考えてくれたのは、彼女だのに。いざ、私が神となったら、離婚とはな」
「そうですに・・・」
ルシーナ、湯呑みに綺麗な鼻先突っ込んでしばらく考えて──
「巨人の母上には、未来が見えるそうですに、」
──繙く(ひもとく)。巨人の女の、名付けの意味を。
「いつか、父上が神となり、自分のそばに居らなくなること。
今日この日が来ることも、見通した上で。
『鬼神』の名を、贈ってくれたんやないですかに」