六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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冥界の王(2) 鬼神、りこんする

◆ 6、コボルドの村 ◆

 

 鬼神、ルシーナ、白骨の神さま。

 空飛ぶ台で、冥界を飛ぶ。

「なんで私が・・・」

 白骨の神さま、ブツブツ。骨を通り抜ける風、ひゅうひゅう。

 ちなみに、乗っておるのは、空飛ぶ赤いかぶとがに・弐号である。

「・・・門番の仕事も、けっこう忙しいんやけどもねぇ」

「まあまあ、白骨どん」

 鬼神。

 こちらは、もちろん、相棒。ガンメタ鬼神台である。

 くるり。あぐらかいて座ったまんま、後ろ振り向いて、しゃべる。

「御身が来てくれれば、私が冥界の王さまとなったこと、一目瞭然(いちもくりょうぜん)。

 話しやすいのだ。助かるのだ。今日一日だけ、付き合ってくれい」

「はあ」

「今日中に回れるところを回って、あとは、うわさが広まるに任せるつもりじゃ」

「そうですか。わかりました。ほな、今日いちんち(一日)、お付き合いいたしますわ」

 白骨どん、うなずく。で、話変える。

「そやけどこの、空飛ぶ台ですか。こらー、素晴らしいですな」

「だろう?」

「気持ちええし、役に立つし、話もできるときたもんや。

 ほんまに得難い(えがたい)人材ですわ。ねえ。弐号どの」

 ぶわっさ! 弐号よろこぶ。

 ・・・と、ここまで黙っとったルシーナが、

「見えて来ましたえ」前方を指差した。「コボルドの村です」

 

 斜面にへばりついた穴ぐら住居群が、見えて来たのであった。

 

「鬼神さま!」「ルシーナさま!」「わんわんわん!」「がいこつ!」「きゃんきゃん!」

 コボルドども。こちらを見つけて、大騒ぎ。

 着陸するころには、すっかり取り囲まれてしもうた。

 ぶわっさぶわっさぶわっさ! コボルド用の空飛ぶ台も、飛んで来た。かぶとがにではなく、楕円形の小さいやつである。わーっと飛んで来て、くまんばちみたいに、ぶぉんぶぉん飛び回っておる。

「やあ。コボルドども! コボルド台ども! 元気にしておるか?」

「元気でござる!」「穴も、堀り放題でござる!」「戦も、いつでも来いでござる!」

「うむ! 今日は、いくさではないのじゃ──おお、よしよし」

 飛びついてくるコボルドの子供。

 鬼神は、六腕に鈴なりに乗っけてやって、高~くしてやった。子供、大喜びである。

「私は、このたび、冥界の王になったぞ!

 これからは、冥界もどんどん変わってゆくぞ。

 都も建設中じゃ。建設の仕事が欲しい者は、名乗り出るがよい。

 また、私が冥界の王となったこと、お隣さんにも伝えてくれい!」

 

 コボルドども、おおさわぎ。

 建設するでござる! と叫ぶ者。お隣さんのとこへ駆け出す者。ぶつかって転ぶ者・・・おおさわぎである。

 建設に加わるコボルドともは、ルシーナがまとめて、ここで引き返す。

 ルシーナの壱号、発進。コボルド台も、建設コボルドをぎゅうぎゅう詰めに乗せて、発進。

 

「よし。では、次じゃ。白骨どん、ゆくぞ」

「待ってくだされ! すねの骨がありませんねや」

「なんだと」

「子いぬどもに、持ってかれてしもうた」

 鬼神、額の第三眼、カッと見開いた。

 ──こっちに尻向けて穴掘っとる、コボルドの子を発見!

「こりゃ。それは、白骨どんの骨じゃないのか」

「うーーーっ!」子コボルド、いっちょまえに威嚇してきおる。

「うーじゃないわ。返さんか」取り上げた。

「きゃん! きゃん!」

「盗みぐせが問題だな。こいつらは」鬼神、ぼやく。

「あいすみませぬ。鬼神さま」コボルドの奥さんが謝ってきた。「そして、お久しぶりでございまする」

「うん?」

 鬼神、コボルドの顔の見分けはつかぬ。

「えーと、誰じゃ?」

「巨人の国に盗みに入った、初代コボルドの妻でございまする」

「おお! おまえか!」鬼神、相手の小さな肩を、優しく叩いた。「ご主人には会えたか?」

「はい。夫は、飛んでいってしまいました」

 奥さん。空の彼方のコボルド台を指す。旦那さん、建設コボルドに加わったらしい。

「死んでも、そそっかしいのは変わりませぬ」

「わっはっは」

 

◆ 7、行き場のない、しにんども ◆

 

 鬼神、白骨の神さま。

 空飛ぶ台で、冥界を飛ぶ。

「歯形ついてしもうた」

 白骨の神さま。ブツブツ言う。

 右のすね。子コボルドにかじられた痕、ついておる。

「うちのコボルドどもが、すまんことをした」

「いぬは苦手ですわ。なんであんな骨好きなんや」

 ・・・と、ここで、ガンメタ鬼神台がぶわっさぶわっさ言い出した。

「なんじゃ? 相棒。なんか見つけたのか」

 ぶわっさ。

「むむ」

 

 前方、黒い川が横たわる平地に、フラフラと歩き回る人間の姿あり。

 川の手前を、行ったり、来たり。人数は、ようわからぬ。三々五々、河原をさまよっておる。

 

「なんだあれは」

「ああ。あれは、行き場のない死人ですわ。

 神さまが居らず、死後の行く先が決まらん者どもです」

「ほう」

「昔は、あの川渡った先に、冥界の王の国がありましてね。そこへ放り込まれとったんですが」

「ああ。王さまが居らんようになったものな」

「はい。川の渡し守やっとった奴も、さぼっとるみたいやね。姿、見えませんわ」

「国がなくなったらな」

「あいつ、金にうるさい奴やったからねぇ。給料出えへんなったし、サボってんねやろなぁ」

「昔は、給料もらっておったのか」

「そらまあね。雀の涙(すずめのなみだ)やったけどね」

「ルシーナに伝えよう。そのうち、出るようにするわい」

「ほんまですか! 言うてみるもんやねぇ」

 

 鬼神たち。行き場のない死人どもの中に、降りた。

 

「ひええ」「空飛ぶ巨人」「なにえ、なにえ」「うわあ。すげぇのが来たぞァ」

 死人ども。

 暗~いムードかと思いきや、軽いノリ。わらわら群がって来よった。

「やあ。行き場のない死者どもよ」

 鬼神、あいさつ。

「もし良ければ、新たな都に来るがよい。受け入れてやるぞ」

「なんと」「都やと」「宿は、あるのかァ?」

「都は建設中じゃ」鬼神は説明した。「じゃからして、宿はまだない。これから造るのじゃ。建設の仕事もあるぞ」

「おお!」「建設の仕事したい」「宿がやりたい」「仕事はしたくねぇけど、見てみてぇなァ」

「ほな、私が案内しましょか」

 白骨どんが、手を上げた。

「鬼神さまが引き返してもうたら、何しに来たかわかりませんもんねぇ」

「おお! では頼む」

「お任せあれ!」

 白骨どん。これで門番の仕事に戻れる! と思うたか?

 ウッキウキで、壱号に飛び乗る。足引っ掛かる。こけた。

 がしゃーん。ばらばら! 河原に骨、四散。「あなや」

「何やっとる。落ち着かんか」

 鬼神と、行き場のない死人ども。ばらばらになった白骨を拾うてやった。

「すんません。あ、こりゃどうも。めんぼくない。どうもどうも」

 かちゃ・・・かちゃ・・・。

 骨、見つかり次第、くっついてゆく。

 が。

「──あれ? 親指と小指の骨があらへん」

「なんだと」

 鬼神たち、キョロキョロする。

「もしや、川に落ちて流されたのでは?」

 鬼神、川へばしゃばしゃ入ってゆき、カッ! 第三眼開く。

 さらに、太陽の女神に習うたわざを唱えた。

「『光』のルーン、『見出だす』!

 なくなった骨よ、見つかーれ」

 

 すると、川の下流からさかのぼってくる舟が目に入った。

 手漕ぎ舟である。ローブ着た漕ぎ手が、きーこ、きーこと、舟漕いでおる。

 

「相棒!」

 ぶわっさ。

 以心伝心(いしんでんしん)。

 逆さまになって飛んで来たガンメタ鬼神台に、鬼神ぶら下がる。そのまま下流へ。

 手漕ぎ舟に近付いたところで、額の第三眼が、水の中を転がる小骨を発見!

「そこの御方」鬼神呼びかける。「その、流れとる骨を、止めてくだされ」

「うん?」

 漕ぎ手、水面を見る。

 黒い川面である。見通しが利く状態ではない。

 だが、漕ぎ手はこの川に慣れとるようである。小さな網をサッと取り出し、骨、見事にキャッチした。

「これでええんかな?」

「おお、それじゃ、それじゃ!」

 鬼神が余っとる手伸ばして受け取ろうとする。

 ところが、漕ぎ手はサッと手引っ込めた。

「・・・なにを、意地悪しとるのだ?」

「拾い賃、頂きたいんやが」

「ひろいちんだと」

「銅貨一枚でよろしいわ」

「よろしいわじゃないわ。よこせ」

「払ってくれへんのやったら、この骨は私のもんや」

「なにぃ~?」鬼神、かちんと来た。「たかが指の骨一本拾うたぐらいで、金よこせだと? 強突張り(ごうつくばり)めが」

「なんやとぉ~?」漕ぎ手、かちんと来た。「ほんな言い方すんねやったら、もう渡さへんわ!」

「ちっ。くずめが。なにが欲しいのだ」

「カネや。カネ。さっきは銅貨1枚やったが、悪口代で、銅貨2枚に値上げや」

「ちっ! ──ときに、おまえさん、金と生命だと、どっちが大事だ?」

「そら生命に決まっとるがな」

「ではおまえに、生命をひとつくれてやろう」

「ほんまか?」

「ほんまじゃ」

「ほんなら、はい」

 漕ぎ手、骨を鬼神に渡す。

「ではな」鬼神、飛び去る。

「おいちょっと待てや! 話ちゃうやろ!」

「ちゃんと生命をくれてやったではないか」

 鬼神、笑う。

「私はな、おまえをぶん殴って、打ち殺すこともできた。

 だが、それはやめておいた。つまり、生命をひとつ、助けてやったというわけじゃ! わっはっは!」

「おまえふざけんなコラ! 待たんか~、盗っ人ぉ~!」

 

「・・・というわけで、見つけて来たぞ」

「ああ、助かった。私の可愛い親指ちゃん」

 鬼神が回収してきたのは、親指だったようである。

 ちなみに、小指は岩の影に転がり込んどったらしい。先に見つかって、すでにくっついておった。

「やれやれ。お騒がせしました」

「まったくじゃ」

 鬼神笑う。

「にしても、意地汚い舟乗りだったのう」

「たぶん、それ、この川の渡し守ですわ。チップ払わな絶対仕事せえへんのですわ」

「まったく、腹の立つ奴じゃ! ちょっと、嫌がらせをしてやろう」

「どないするんです?」

「こうするのじゃ」

 鬼神、地面に手をついて、

「『力』のルーン! 『圧縮する』!

 大地よ伸びよ。橋となれ。舟乗りの仕事は、なくなーれ」

 

 ず、ご、ご、ご、ご・・・。

 冥界の大地に、震動が走ったかと思うと。

 地面が盛り上がり、赤熱しながら、にゅーっと伸びて。

 アーチとなって、川をまたいでゆくではないか!

 

「橋やんか!」

「いかにも。これで渡し守は失業じゃ。わっはっは!」

「子供か」白骨どん、あきれる。「王さまのすることやあらへん」

 

 こうして橋ができたので、渡し守は仕事がなくなったそうである。

 ・・・え? 渡し守がかわいそうじゃないかって?

 まあそうですね。ひどい嫌がらせだ。

 しかし、渡し守もただでは引かなんだ。

 橋のたもとに陣取って「この橋渡るなら、通行料、銅貨1枚」と、やっとるそうですよ。

 

「──さて、」と白骨どん。「ほんなら、私は、都予定地へもどりますわ」

「うむ。気をつけてな」

「もう骨なくしたくないからね」

 白骨どんは弐号で引き返す。行き場のない死人どもは、ゾロゾロとその後に続いたのであった。

 

◆ 8、巨人の王ふたたび ◆

 

 鬼神。

 相棒と、冥界を飛ぶ。

「ひさしぶりだな。こうして、のんびり飛ぶのも」

 ぶわっさ。

 鬼神は冥界を見渡した。

「ここも、洞窟のはずだが。天井も壁も見えん。あきれるほどの広さじゃ」

 ぶわっさ。

 ルシーナがかつて言うたとおり、ひとつの世界、ひとつの国といった広がりである。

「なんちゅう広さじゃ。これなら、義父上でもつっかえずに暮らせそうだのう?」

 ぶわっさ、ぶわっさ。

 

 などと、話しながら飛んでおると。

 うわさをすれば、なんとやら。

 前方に、巨大な人影が見えて来た。

 

 ハンマーらしきものを、右手に抱え。

 胸に、でっかい、ツノみたいなものがある。

 あぐらをかいて座っておるのに、山よりでっかい。そんな人影である。

 

「なんじゃあれは」

 ぶわっさぶわっさ・・・。

「ハンマー持っとるところは、義父上っぽいが。胸のツノは、なんじゃ?」

 ぶわっさ・・・。

「おーい! そこの、でっかい御方! 話がしたいのだが、かまわんか?」

 呼びかけてみた。

 すると。

「なんじゃ! その声は、おまえか!」

 と、声が返ってきた。

「鬼神め! この、不埒者(ふらちもの)め! ぶん殴ってやるから、こっちへ来い!」

 

 鬼神。

 ハンマーが届かん距離を見計らって、相棒から降りた。

 巨人の王は『殴る』と言うたら本当に殴るし、『踏みつぶす』と言うたら本当にやる御方である。なので、警戒したんである。

 相棒は空飛んで逃げてった。観戦の構えである。冷たい奴。

 さて。

 巨人の王はどうしたか?

 いきなり、怒鳴ってきたのであった。

「とうとう、おまえも死におったか! ばかめ! いい気味じゃ!」

「なんだと! ごあいさつな。わざわざ来てやったのに」

「なんじゃと! 黙って我慢しとれば、調子に乗りおって」

「誰が黙って我慢したのだ」

「わしじゃ」

「しとらんだろうが! いきなり『ぶん殴ってやる』とか言うたじゃないか」

「言いはしたが、殴っとらんじゃろうが!」

 ぐらぐらぐら・・・。

 地震発生。

 巨人の王の怒りの地震。

 鬼神、ぐらーりぐらーり揺さぶられつつ、「久しぶりだな」と懐かしく思うた。

「その胸のツノみたいなものは、何です? そんなもん、生えとらんかっただろう」

「神竜の爪じゃ」

「なんだと?」

「心臓を貫かれてのう。さしものわしも、生きてはおれなんだ」

「なんで刺さったままなのだ。邪魔だろう」

「うむ。すこぶる、邪魔じゃ」

「なんなら、私が抜いてやりますぞ」

「いや。このままでよい。いつか鍛冶に使うつもりなのじゃ」

「痛いだろうに」

「なあに、もう死んでしもうた身じゃ。このぐらい、どうということはない」

「わけのわからん御方だ」

 冥界でも、人は死ぬはずである。殴っても死ぬのだから、心臓に神竜の爪刺さったら絶対死ぬはずである。

 巨人の王は、どうもそういう世界の常識からは外れとるようであった。

「さて。鬼神よ」

 ゆら~り・・・。

 その巨人の王が、立ち上がった。

「わしの娘に、恥をかかせたな?」

「うむ」鬼神はうなずいた。「そのことは、悪かったと思うておる」

「思うで済むか、ばかめ」

「ばいしょうはしますぞ。どっか土地を見つけ、御身に国をひとつあげるつもりだ」

「それはもろうておく」

 巨人の王。もはや完全に立ち上がっておる。今度はハンマーを持ち上げ始めた。

「じゃが、それはそれとして、おまえはつぶす」

「なんだまったく。話にならん奴だな」

「おまえのせいじゃろが!」

「まあ、きっかけは私かも知れんがな」

 鬼神は腰に手をやって、帯びておった剣を外した。

「けんかを始める前に、この剣を返しておきたい。

 万が一、壊れては困るのでな。受け取ってくだされ」

「それはなんじゃ」

「御身が打った剣ですぞ。巨人の剣。英雄へルドの剣だ」

「なんと!」

 巨人の王。

 怒りをいっとき収めて、ピンセットを取り出し、鬼神の差し出した剣をつまみ上げた。

 糸を取り出し、輪っかにして、剣の柄に引っ掛けた。半分ほど抜いて、オレンジの刀身を確かめる。

「たしかに。わしが打ったヒイロガネじゃ。いったい、どこで盗んで来た?」

「盗んどらんわ! 神竜の体内で見つけたのだ」

「なんと」

「御身が死んだ後だ。私が、神竜に喰われて、喉の奥へ逃げ込んでな。

 その剣を持つ英雄が亡くなっておるのを見つけたのだ。

 私は、剣をお借りして、脱出した。

 そのお礼に、しゃれこうべと、ロケット(お守り)を回収して、子孫に返してやったのだ」

「ほう・・・」

 巨人の王、ちょっと神妙な顔をして鬼神を見た。

「おまえさんにしては、殊勝な(しゅしょうな)行いじゃ」

「一言余計だわ!

 ・・・で、その剣は『もらえない』と言われてな。御身に返そうと思うたのだ。

 まあまあの手間だったぞ。お日さんに欲しがられたのを、断ったりもしてな」

「そうじゃったか・・・」

「その優雅と──ああ、私は事情を知らんかったので、“優雅”と名付けたのだ。

 その優雅と、何年も一緒に旅をしてな。

 いまようやく、里に帰ったというわけだ」

「そうか」

 巨人の王。

 ひとつしかない目で、ピンセットでつまんだ剣を見つめる。

 ちょっと鼻をすすったりしとる。何千年も現世で生きた御方であるから、去来する(きょらいする)記憶も多かろう。

「・・・しめしめ!」鬼神は卑怯な考えをした。「これなら、話がつけれるかも知れんぞ」

 が。

 巨人の王は、そんな甘い王さまではなかった。

「剣を持って来てくれたこと、礼を言おう」

「うむ。かまいませんぞ。それで、話があるのだが」

「その礼として、おまえをつぶすのはやめてやるが、」

 巨人の王。

 “優雅”を懐へ収め、ハンマーを振り上げた。

「──が、死なん程度には、叩きのめす」

「ちっ! 怒りの制御のできん、耄碌(もうろく)じじいめが!」

「なんじゃと! この不埒者が!」

 

 話し合い終了! 戦闘開始である!

 

◆ 9、鬼神、ふたたび、けんかする ◆

 

 ごおおお! 闇の天から落ちてくる、巨大なハンマー!

 鬼神、額の第三眼開いて、ギロリと見上げる!

 

 どっ・・・・・・・・・がああああん!!!

 

 避けもせず、受けもせぬ鬼神の上に、ハンマーが激突!

 地面にめり込み、大地を叩き割り、大激震を冥界にもたらした!

 

「む?」巨人の王、おどろく。

 ぶわっさ!? ガンメタ鬼神台、悲鳴上げる。

「なんもせずに、つぶれてしまいおった」

 巨人の王。

 そーっと、ハンマーを持ち上げた。

 大地に大穴。その穴を、覗き込む。ガンメタ鬼神台も隣にやって来て、覗き込む。

 ぶわっさぶわっさ!! ガンメタ鬼神台、巨人の王に喰ってかかる。

「い、いや、受けると思うたんじゃ」

 ぶわっさ、ぶわっさ!

 ガンメタ鬼神台、穴へ降下。『生命探索』でもって、あるじを探す。

 ところが──

 ぶ、ぶわっさ・・・!?

 何も見つけられぬ! 穴の中に、生命反応、なし!

 まさか──!?

 

 と、そのとき。

 

<『戦』のルーン! 『敵の位置を知る』・・・>

 鬼神の声が、どこからともなく、響いてきた。

「ぬう!」

 巨人の王、ひとつしかない目で、キョロキョロする。

「どこじゃ!?」

<ふっふっふ・・・わからんか?>

 大地に響く鬼神の声。

<私にはわかるぞ。御身がどこに立っとるか、手に取るようにな。

 ──ゆくぞ。こっちの番じゃ!

 『力』のルーン! 『圧縮する』。大地よ、へっこめ!>

「むう!?」

 ぐらり。

 巨人の王の身体が、かたむいた!

 でっかいでっかい左足が! 地面の中に、吸い込まれてゆく!

「落とし穴! ばかな! いつの間に!」

<いま造った。『力』のルーンでな>

「やりおるわい。

 じゃが、『力』のはたらきならば、わしだって、使える!

 『はたらきの武具』! 『力』のはたらき、『圧縮する』!

 地面よ固まれ。大丈夫な足場になるのじゃ!」

 

 ずううん・・・!

 吸い込まれた左足の下に、固い固い地層が出現!

 巨人の王はそれを踏みしめ、バランスを取り戻した!

 

<さすがは巨人の王。ならば、これはどうです?

 『萎む』のルーンよ。できるんか知らんが、まあ、やってみよ!

 ──巨人の王を、小さく小さく、萎ませてしまえ!>

 

 しおしおしお・・・。

 巨人の王、見る見るうちに、萎み始めた!

 穴の空いた水袋のごとし! あっちゅう間に、小さくなってゆく!

 

「これは、お月さんのルーン!」

<いかにも>

「・・・おまえ、ルーンを教わるほど、お月さんと仲良くなっておったのか」

<その通り。相棒から聞いとらんのか?>

「ぬ、ぬう・・・聞いとらん!」

 巨人の王、見る見るどんどん小さくなって、とうとう、鬼神と同じぐらいにまで、縮んでしもうた!

 と、ここで。

 ぼこぼこぼこ! 地面が割れたかと思うと。

 土にまみれた六腕三眼の赤い巨体、大地の中から、這い出してきた!

「やれ! うまく行ったわい」

 鬼神。

 土を払って、巨人の王の前に立った。

 巨人の王。いまや、鬼神と同じ目の高さになって(それでも人間の3倍はあるのですがね)、睨みつける。

「・・・どうやって逃れたのじゃ?」

「『力』のルーンによってだ。

 殴られる直前に横穴を造って、逃げ道を確保した」

「だが、手応えもあったぞ」

「うむ。わざと、ちょっとだけ、当たったからな。

 それで『向きを変える』を使い、逃げ道にすっ飛ばしてもろうたのだ」

「なんじゃと・・・」

「敵の攻撃を利用するというやり方。

 相棒が、神竜相手にやったのを見てな。かっこええなあと思うとったのだ!」

「そうか」

「さあ巨人の王よ。体格が同じになったからには、もう負けませんぞ!

 決着と行こうではないか」

「ふん」

 巨人の王。ニヤーリと、笑うた。

「な、なんだ」鬼神、ひるむ。「何がおかしい」

「鬼神よ。そなたにひとつ、教えておいてやろう」

「なにをじゃ?」

「『自分にできることは、他人にもできるかも知れん』ということじゃ!

 『はたらきの武具』! 『伸びる』のはたらき! わしの身体よ、元にもどるのじゃ!」

「・・・なんだと!?」

 

 むくむくむくむく・・・。

 巨人の王の身体、伸びてゆく!

 入道雲の夏空に昇るがごとし! 見る見るうちに、元のサイズとなる!

 

「ばかな!」鬼神焦る。「お日さんと、お付き合いがあったのか! ルーンを教わるほどの!」

「ふっふっふ。娘から聞いとらんのか?」

「うぬう! 聞いとらん!」

 ハンマー、振り降ろされる。

「今度は逃がさぬ! 『向きを変える』は、相殺してくれる!」

「ぬわあ! 危ない!」

 『盗む』のルーンのわざ、勝手に発動! ぴょーんと飛んで、相棒のボディにしがみつく。

 ぶわっさ!? 突然ボディ掴まれた相棒、びっくりして急上昇。

 鬼神、まんまとハンマーを逃れた!

 ぶわっさぶわっさ! 相棒怒る。

「おい相棒! 冷たいこと言うんじゃないわ。助けんか」鬼神も怒る。

 ぶわっさ!

 相棒、ぶーんと激しくロール(横転)。

「ぬわー! 冷たいやつ!」鬼神、吹っ飛ばされた。

「おとなしく、ぺっちゃんこになれ!」巨人の王、ハンマーを振り回す。

「されてたまるか! 『力』のルーン! 風よ、私を押せ!」

「相殺じゃ」

「ぐわー」

 鬼神、ハンマーにぶっ叩かれ、吹っ飛び、豆粒みたいに小さくなって、暗闇に消えた。

「まだまだ! これからじゃ!」

 巨人の王、ずしーんずしーんと、大地震引き起こしながら追いかける。

 

 鬼神と、巨人の王。

 冥界のあっちこっちに穴を開け、大地震を引き起こし、延々つづく、大げんか。

 ガンメタ鬼神台、後に妙雅に語るよう、

『丸一日は、やっとった! 見とるこっちは、暇だったぞ!』

 との、ことであった。

 

 やがて、その大げんかも、一段落するときがやって来た。

 

◆ 10、巨人の王、かたる ◆

 

「はぁはぁ。もうええだろうが。十分、暴れたでしょう」

「はぁはぁ。いいや。おまえをぺちゃんこにするまで、わしの怒りは収まらぬ」

 鬼神と、巨人の王。

 はぁはぁ言いながら、なおも、けんかの構え。

 しかし、どちらも疲れ切っておる。自分から手を出そうとはせぬ。

「くそっ。頑固者め!

 だいたいがだ。巨人の王よ、御身にも、問題があるぞ」

「なんじゃ」

「なんで神竜のことを、ずーっと隠しておったのだ!

 なんで、私をのけ者にした!

 そして何よりも、私に黙ってルシーナや息子どもを戦に引きずり出すとは、どういう了見じゃ!」

「・・・。」巨人の王、言い淀む(いいよどむ)。「訊かんかったじゃないか」

「訊かんかったら、娘を死なせてもええのか!」鬼神キレた。

「いや」巨人の王は頭を下げた。「ルシーナさまを死なせたことは、すまんかった」

「ぬう! 御身が頭を下げるとは」

「下げろと言うたじゃろうが!」

「まあそうだが。いや、つまりだ。私が言いたかったのはだ。

 なんでもかんでも秘密にせず、私に『一緒に戦え』と言うてくれということだ。

 それにもうひとつある。

 もし私がお月さんを味方にせんかったら、神竜はアルフェロンに落っこちとったはずだ。

 いったい、どうするつもりだったのだ」

「わしが受け止めるつもりでおった」

「ばかめ! さっさと死んだくせに!」

「途中までは、うまく行っとった。

 わしが神竜に傷をつけ、エスロ博士が呪文を打ち込む。そのはずじゃった。

 じゃが、神竜のうろこが、工房に飛んだんじゃ。

 娘が! と思うたら、身がすくんでしもうたのじゃ」

「ぬう! ・・・まあ、その気持ちはわかるけれどもだ」

 鬼神。

 ふーっと、長く息を吐いた。

「なんで、私に秘密にしたのだ?」

「・・・わしの妻が、神竜に踏み殺されたのが、始まりじゃ」

「は?」

「ええから聞け。

 妻を殺されたわしは、神竜を叩き殺した。

 じゃが、神竜は『天』のルーンで復活をした。

 わしは警戒した。復讐をされるにちがいないとな。それじゃから、こんなハンマーを造りもした」

「『力』のはたらきのハンマーだな」

「うむ。まさかその『力』のルーンを、どっかの若者が持って来るとは思わなんだわい」

「不思議な巡り合わせだな」

「うむ。もしくは、レガーめの企みじゃ」

「おい。レガーさんを悪く言うな。ぶっ飛ばすぞ」

「それでじゃ。おまえさんが婿となり、孫が生まれた」

「うむ」

「幸せな日々じゃった」

「たしかにな」

「それで、孫をあやしたりして過ごすうちにじゃ。

 もしかしたら・・・との、甘い考えに、わしは囚われたのじゃ」

「あまいかんがえ」

「もしかしたら、神竜はもう来ないんじゃないか?

 もしかしたら、この幸せは、ずーっと続くんじゃないか? そういう考えじゃ」

「ああ・・・」

「平和なんぞ、ずっと続くもんではないというのに。

 『破滅の日に備えよ』と、言い出すことができなんだ」

「そうか」

「加えてじゃ」

「まだあるのか」

「おまえさんは馬鹿だから、秘密をもらすかも知れん──という、懸念もあった」

「おい! そっちが本音じゃないのか!」

「どっちも本音じゃ」

「くそっ! 私だって、秘密を守るぐらい、できるわ!」

「口では何とでも言えるわい」

 巨人の王は立ち上がって、横を見た。小さくうなずき、立ち去った。

「娘と話したいなら、そうせよ。じゃが、指一本触れるな」

「あん?」

 鬼神が、巨人の王の立ち去った方向を見ると。

 かつて妻であった女が、そこに立っておった。

 

◆ 11、鬼神、りこんする ◆

 

「おお」

「・・・鬼神さま」

 巨人の女。鬼神の妻であった女。

 ひとつしかない目で、こちらを見ておった。

「そなた、いつから、そこに?」

「ついさっきですわ。

 そちらこそ、なぜ? まさか、死んだのではないでしょう?」

「死んではおらん。歩いて来たのだ」

「まあ。歩いて」

「娘のルシーナが、神竜にやられてな。それが悔しくて悔しくて。

 世界中探し歩いて、入り口を見つけて、下りて来たのだ」

「また、そんな奇天烈なこと」

「はっはっは」鬼神は笑うた。「そなたの息子どもは、みな元気だぞ。嫁ももらい、幸せにしておる」

「そうですか。それを聞いて、ほっとしましたわ。

 ・・・イリスさまは」

「元鬼の嫁になった。王妃殿下じゃ」

「そうですか」

 

「・・・こいつ、怒っとるな」

 鬼神。

 彼女の、ひとつしかない目を見て、そう思った。

「だが、言わんほうがよかろう。イリスの嫁入りは、もう決着のついたことだ。

 それよりも、決着のついとらんことを話さなくては。私たちの関係だ」

 鬼神。

「つまり、離婚しよう、ということだ」

 そう、決心したのだが。

 自分から言い出すことは、できなんだ。

 相手が、急に口を開いたからである。

 

「永遠の生命!」

「うん?」

「永遠の生命については、いかがでしたか?」

「ああ。そう言えば、そんな謎かけをされておったのう」

 鬼神は背筋を伸ばした。

「私の見つけた答えは、こうじゃ。

 『永遠の生命』なんぞというものは、この世に、ない」

「ありませんでしたか」

「だが、その希望を聞いてやることはできる」

「希望を聞く」

「お祈りでな」

「どんな希望ですか」

「幸せよ、永遠であれ、という希望じゃ。

 子供のうちは『この楽しい一日が、ずーっとつづいてほしい!』と思う。

 大人になっては『私が死んでも、子供には幸せでいてほしい』と願う。

 死を迎えては『せめて祖国よ永遠なれ』と叫ぶ。

 そういう希望じゃ」

「それを・・・聞くだけですか?」

「そうじゃ。

 人間は簡単に死んでしまう。

 生命は簡単に失われ、やりかけた仕事は潰え(ついえ)、国は滅び、歴史は忘れられる。

 だから、私が代わりに覚えておいてやると、こういうわけじゃ」

「それが、永遠の生命ですか」

「いやちがう。

 永遠の生命なんぞ、いらんのだ。

 いるのは、次の世代に受け継がれる、幸せじゃ。

 そして『幸せあれかし』との祈りを聞いてやる。これが、私の役目じゃ。

 冥界の王となったからには、きっと、できるはずじゃ」

「そうですか」

 目がひとつしかない巨人の女は、ゆっくりと、うなずいた。

「鬼神さま。

 あなたは、永遠の生命の謎をお解きになられたのですね。

 でしたら、私はもう、あなたの妻ではいられません。

 離婚をいたしますわ」

「は?」

「さようなら、あなた」

 

「え?」

 取り残された鬼神。

 ショックを受け、呆ける(ほうける)。

 いや、自分も離婚を持ち出すつもりではいたのだが。

「なんで、永遠の生命の話をしとって、『じゃあ離婚だ!』となるのじゃ・・・?」

 ぶわっさ、ぶわっさ。

 ガンメタ鬼神台がやってきた。

 ぶわっさ!

「お、おう。そうだな。

 いったん、帰るか・・・」

 

◆ 12、ルシーナ、ひもとく ◆

 

「1日って言うたに!」

 ルシーナ怒る。

「えらい地震もあり、いったい何事かと。まったくもう!」

「すまぬ。巨人の王と、けんかになってのう」

 鬼神、かしこい長女に説明をする。

 で、意見を求めた。

「永遠の生命の謎を解いたら、じゃあ離婚だ! とは。

 いったい、どういうつながりなのじゃ?」

「ふむ」

 ルシーナ、考える。

 コボルドを1人呼んで、ひそひそ話し出す。

「誰じゃ?」

「侍女ですえ。仮採用」

「はあ」

 ひそひそ話し、フムフムうなずいたルシーナ。

 コボルドを帰し、鬼神に向き直る。

「それは、おそらく、こういうことですえ。

 父上は『永遠の生命』という仮想に答えをお出しになられた。

 それすなわち『我は神なり』との宣言なり。

 そやに、巨人の女は身を引──」

「待った待った。ちょっと待った」

「なにえ」

「話が早すぎて、わからぬ。ゆっくりたのむ。

 かそうとはなんじゃ?」

「存在せぬものを、『ある』として、話をしてみること」

「え?」

「なにえ」

「いや・・・もしかして、私は馬鹿なのか?」

「なにえ。いきなり」

「いや・・・」

 

 ルシーナがいきなり『永遠の生命は仮想』と言い切ったことで、鬼神はちょっと、びっくりした。

 そんなすぐに『はいはい、仮想の話ね』とわかるような話なのか?

 

「・・・もしかして、真面目に考えた私は、ばかなのか?」

「何しょげておるのえ」

「いや。それで?」

「それで、父上は『できる』と言うた」

「いや言うとらん。希望を聞いて、覚えてやると言うたのだ」

「女の話やに。細かい理屈はどうでもええのえ」

「え・・・いや。まあ、ええが。

 それで、なんで『じゃあ離婚だ!』となるのだ?」

「にぶい」

「ぬう」

「『これができるなら神』と言われて、『できる』と言うた。

 つまり『我は神なり』と言うたことになりまする」

「そうだな」

「さらに、父上の愛する女は・・・?」

「うん? そりゃあ、お月さんだわい」

「そう」ルシーナ、ほっと息をつく。「はい。もうわかりますに?」

「いやわからん」

「阿呆」

「いちいちダメ出しせんでええから。最後までたのむ」

「めんどくさ」

「おい! ここまで説明しといて、めんどくさがるな」

「なんでわからんのかに! 相手の身になってみなえ! 父上が、巨人やとして!」

「う、うむ」

「私が、どっかの女神さまとして」

「はあ」

「我は女神なり! 我の愛する男も、また神なり!

 ──はい。父上、どう返事しますかに?」

「そりゃ、そんなこと言われたら、『ああそうですか。お幸せに』と言うしか──ああ! そういうことか!」

 鬼神、やっと理解する。

「くそっ! そんなことを言うつもりではなかったのに」

「離婚するつもりやなかったんかに?」

「いやそうだが。そんな冷たい言い方するつもりでは!」

「大丈夫ですえ」ルシーナ、侍女を呼ぶ。「先方は、わかっておられるはず。──お茶をたのむ」

 

 コボルドの侍女、お茶淹れてくれた。

 鬼神、「ありがとう」と言うて、呑む。

 ルシーナ、「そなたもここへ」とコボルド座らせ、一緒に呑む。

 

「父上が、とうとう巨人と別れたのえ」

「ふんふん」とコボルド。「巨人の国の、先代王妃さまですね? 離婚なさるのですね」

「うむ」と鬼神。「私から切り出して、あやまるつもりだったのに、相手に言わせてしもうたわい」

 茶を呑み干して、「しかし、なあ」

「なんですかに」

「『鬼神』との名を考えてくれたのは、彼女だのに。いざ、私が神となったら、離婚とはな」

「そうですに・・・」

 ルシーナ、湯呑みに綺麗な鼻先突っ込んでしばらく考えて──

 

「巨人の母上には、未来が見えるそうですに、」

 

 ──繙く(ひもとく)。巨人の女の、名付けの意味を。

 

「いつか、父上が神となり、自分のそばに居らなくなること。

 今日この日が来ることも、見通した上で。

 『鬼神』の名を、贈ってくれたんやないですかに」

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