六腕三眼、鬼の神   作:min(みならい)

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冥界の王(3) 鬼神、つきをよぶ

◆ 13、冥界王、いそがしくする ◆

 

 さて。

 鬼神は、ついに、冥界の王となった。

 人生二度目の王さまだ。だが今回は、ひと味ちがう。

 前のときは、なんかよくわからんうちに、王位を譲られた。

 今回は、よくわかった上で、勝ち取ったのだ。

 ひと味ちがうのだ。

 鬼神はとても満足した。「いよいよ、私も本物の王さまだな」と、そう思ったのだ。

 しかしながら。

 満足にひたる暇は、なかった。

 冥界王陛下は、それからしばらく、とても忙しかったのだ。

 いろんな人といろんな話をし、忙しくはたらいた。

 今回は、そのお話をいたしましょう・・・。

 

「こちらが耕作予定地ですえ」

 麦わら帽子かぶったルシーナが、目の前の平地を示した。

 黒い川のほとりに開けた、湿っぽい低地である。

 草木のたぐいは一切生えておらぬ。泥と、土と、石ころしか見えぬ。

 なにより、日光がない。

「育つんか? こんな、真っ暗な世界で」

「なんとかなりませんかに?」

 ルシーナ、上目づかい。麦わら帽子のつばギリギリから、じっと見て来おる。

「なんとかとは」

「太陽、出せませんかに?」

「あほなこと言うんじゃないわ」

「そやに、冥界王は、なんでも好き勝手できると聞きましたえ」

「誰にじゃ」

「白骨の神さま」

「ちょっと待っとれ。一発殴ってくる」

 

 鬼神、ガンメタ鬼神台に飛び乗り、冥界の入り口へ向かう。

 広い洞窟から、狭い洞窟へ。黄泉の坂を、ふおおん・・・と、飛び上がる。

「わふん?」

 三つ首の巨大ないぬが、目覚まし、びっくりしてこっちを見上げた。

「おう。また居眠りか、ケケケベベ・・・」

 鬼神があいさつ言い終わらんうちに、ガンメタ鬼神台、飛び抜けた。速い。

「いや、ちゃう」「ちゃうっちゅうねん」「おい待てや」

 

 到着。冥界の入り口。

 鬼神、相棒から下りる。

「おい、白骨どん!」

「ありゃ? どないしたんですか、陛下」

「どないしたんですかじゃないわい。わしの娘に、でたらめ教えおって」

 鬼神、文句つける。

 白骨の神さま、悪びれぬ。

「でたらめやない。ホンマでっせ? なんでもできるはずですもん」

「お日さんも出せるというのか?」

「いやそら無理や」

「できんじゃないか」

「ホンマのお日さんなんか、もし出せても、みんな溶けてまいますがな。

 そやけど、日が昇ったみたいにすることは、できるんちゃうかねぇ」

「なんと」

 鬼神、首をひねる。

「やってみるか?」

「そやね。ここで試してみたらよろしいんちゃいます」

「よし。──えーと、真っ昼間みたいに、明るくなーれ」

 

 カッ! 洞窟、明るくなった。

 

「できたわ」

「ね?」

「すごいな。冥界王」

 鬼神が感心しておると。

「ばうばうばう!」三つ首のいぬが駆け登って来て、「きゃんきゃんきゃん!」鳴き出した。

「なにをやっとる。ケケケベベベベロス」

「「「なま目んぶがやし。こっ目れ!がー」」」

「目が眩んだ(くらんだ)みたいやね」

「あほなやつ」

 鬼神、あきれる。相棒に乗った。

「参考になったわい。だが、私の娘にでたらめ吹き込むんじゃないぞ」

「いやいや、そんなことしませんて」

「ケケどんも、そのうち給料払ってやるから、期待しとれ。ではな」

 鬼神、飛び去る。

 三つ首のいぬ、起き上がる。「おっさんどこ行った!」

「とっくに引き返しはったで」

 

「できるみたいだわ」

 鬼神、ルシーナのとこへ帰着。

「冥界よ。外と同じように、昼になったり夜になったりせよ!」

 唱えた。

 すると。

 昼の光が、暗黒の洞窟を満たしたのであった。

「まぶし」ルシーナ、麦わら帽子、目深にする(まぶかにする)。

「どうじゃ。不思議だろう」

「太陽もないのにから」

「まったくじゃ」

「水鏡の術みたいなもんですかに?」

「たぶん、ちがうな。じっさい、あったかいものな」

「父上」

「なんじゃ」

「もひとつ、試験を手伝ってほしいのですが」

「うむ。なんじゃ。言うてみよ」

 麦わら帽子かぶったルシーナ。

 白く輝く手で、冥界の黒い土に丸いもの植える。

 ぱんぱん。土はたく。

 ばしゃっ。ひしゃくで、水をやる。

「はい。ここ」

「うん?」

「『伸びる』のルーンで、伸ばしてみてくれませんかに?」

「はあ・・・」

 鬼神。言われるままに、やってみた。

「えーと、『伸びる』のルーン。

 いまルシーナの植えた草よ、伸びてみーろ」

 

 にょろにょろ。

 ツルが生えてきた。

 

「うおっ!」鬼神おどろく。

「さお」「はい」

 ルシーナ命令。コボルドの侍女(仮採用)、細い竿竹を出す。

 ルシーナ、竿竹を地面に刺す。

 にょろにょろ。

 ツル、竿竹に絡み、見る見るうちに伸びてゆく。

 あっちゅう間に、大きな鞘(さや)が実った。

 ルシーナ、その鞘ゲット。割る。豆が出てきた。

「成功ですえ」

 豆、完成である!

「なんだと」鬼神、手伸ばす。「食えるのか?」

 ぺち。ルシーナ、鬼神の手はたく。「生はだめですえ。豆は」

「あ、はい」

「試験成功。記録せよ」「はい」

 コボルドが記録をつけ、今日の予定終了である。

 ガンメタ鬼神台に3人で乗り込み、飛んで戻る。

「・・・これでわかりましたに。巨人の国の秘密」とルシーナ。

「どの秘密じゃ?」

「巨人の国の食料が尽きなんだ理由。元鬼(げんき)兄者は、絶対に教えてくれませなんだ」

 ルシーナ。白い牙見せて、ニヤリとする。

「正直、不快でしたに。暴いてやりましたえ」

「負けず嫌いな奴」

「ところで、父上」

「なんじゃ」

「『伸びる』のルーン、私に教えて頂くわけにいきませんかに?」

「ふむ・・・」

 鬼神の脳裏に、お日さんの温かくもトゲトゲしい言葉の数々が浮かんできた。

「このルーンの所有者さまは、めんどくさい御方だからのう」

「私がうまいこと感謝をいたしますえ」

「ふむ・・・」

 鬼神。

 ここで、ちょっと思いついたことあり。

 こんな条件をつけた。

「よし。ではこうしよう。

 私も試したいことがある。それを手伝うてくれたら、『伸びる』のルーンを教える」

「いつ、どこで、なにを」

「次の満月の夜。月の見えるとこで。なにをするかは、お楽しみじゃ」

 

◆ 14、英雄、きかんす ◆

 

 また、こんな人物との再会もあった。

 

「冥界王陛下。鬼神さま。おひさしぶりでございまする」

 ハイエルフの殿方。人品骨柄卑しからぬ(じんぴんこつがらいやしからぬ)御方である。

 鬼神に、ひざまずいてきたが・・・。

「どちらの御方かのう? 見覚えがないのだが」

「そう思われるのも、ごもっともですえ」

 ハイエルフの殿。にっこり笑うた。

「我が名は、ヘルド。

 神竜の体内にて息絶え、御身に発見して頂いた亡骸(なきがら)。

 あれ、すなわち、この私でございました」

 

 なんとしたことか!

 その立派な殿方は、古代ハイエルフの英雄、ヘルドであった!

 

「してまた、この冥界でもお会いしたことがございまする」

「なんと。いつじゃ」

「しばらく前・・・御身に立ち向かう、守備兵として」

「黄泉の軍団か!」

「はい。あの軍団長が、この私でした」

「なんとまあ! 手強いわけだわ」

「当時は、自分の亡骸、遺品を回収して頂いたとも知らず、御礼も申し上げず、あいすみませぬ」

「いやいや! それより、会えてうれしいぞ。ヘルド殿!」

 鬼神はよろこび、ルシーナを呼んだ。

 ルシーナはいろいろと質問をして、ヘルド殿のことを知って、いたく感心した様子であった。

 それで明らかになったところによれば・・・

 

「私は、鬼神さまの手で現世へ帰された。

 そやに、そのときは冥界での記憶を忘れておりまして。

 訳もわからず、とにかく故郷へ戻ろうといたしました。

 しかし、故郷がない。

 なんぼ旅しても、魔術で探索をしても、ふるさとが見つからぬ。

 それが、ある日突然、すべてを思い出したのですえ。

 自分が一度死んだ身であること。

 冥界神さまによって、黄泉の軍団長にされたこと。

 ・・・そして、故郷はおそらく神竜に滅ぼされ、もはやこの世にないであろうこと。

 妻も子も、もはや現世には居らぬであろうことを、思い出したのでした」

 

「父上やに」とルシーナ。

「は? なにがじゃ」

「父上が掟を変えたゆえ、ヘルド殿に記憶が戻ったのやと思いますえ」

「あー、そう言えば、なしにしたのう」

 

 黄泉の軍団に入ったら、現世の記憶を忘れる──という決まりがあったのだ。

「そんな掟、今日から、なし!」と、鬼神がなしにしたのであった。

 

「いやはや。びっくりさせてすまぬ」

「いえいえ! おかげで記憶が戻りまして」

 ヘルド殿、笑い飛ばして、話をつづけた。

「我が子孫の痕跡を、知ることもできました」

「子孫のこんせき」

「かえるの女神さまという、地方の女神さまに出会いまして」

「はて? どっかで聞いたことあるような」

「我が子孫の一派、『灰沼(はいぬま)』の氏族が、その女神さまに保護して頂いたそうで」

「ああ! そうじゃ。あの小さな氏族の狩人どもが、『かえる沼』言うとったわ」

 なんともはや。

 ヘルド殿。鬼神が仲良くしておった狩人どもの故郷を、見つけたようである。

「女神さまにうかがいますに、子孫ども、戦に負けて沼を追い出されたとか。

 情けない! 負けんように準備をしておけ! まぬけ! ・・・とも、思いましたが」

「厳しいご先祖さまじゃ」鬼神笑う。「にしても、すごい偶然だな」

「じつは、ルーンのおかげなのですえ」

「ルーンだと」

「私、『光』のルーンのわざ、『見出だす』を、習っておりまして」

「おお。あれは便利だな。私も、お日さんから習うたぞ」

「なんと! 天の女神さまから直接に・・・」

「その沼の場所、教えてくれんか。私もそのうち行ってみるから」

「よろこんで」

 

 鬼神とルシーナは、ヘルド殿を囲んで楽しく酒を呑み、飯を食った。

 次の日には、巨人の王に引き合わせてやったのである。

 

◆ 15、鬼神、三者会談をする ◆

 

 ガンメタ鬼神台と、壱号に乗って。

 鬼神とルシーナと、ヘルド殿。冥界のお昼を、飛ぶ。

「すっかり明るくなりましたに」ヘルド殿、感心する。「おお! 麦が実っておる」

「自慢の畑ですえ」ルシーナ胸張る。

「我々が戦ったあたりでは?」

「うむ! あのへんだったな。わっはっは」

 

 到着。

 巨人の王はすでに出て来ておった。その頭の横に、赤いかぶとがにが滞空しておる。弐号であった。

「おお。相棒が気を利かせてくれたのか」

 ぶわっさぶわっさ。ガンメタ鬼神台、『俺じゃない。壱号じゃ』と、壱号を鼻先で指す。

「そうか。壱。おまえは相変わらず気が利くのう」

 ぶわっさ、ぶわっさ・・・。

 巨人の王がうなずきながら近付いて来た。

「英雄殿。ひさしぶりじゃ」

「偉大なる鍛冶師よ。巨人の中の巨人よ」ヘルド殿、ひざまずく。

「立つがよい。テーブルを用意させる。ゆっくりと話をしよう」

 巨人の王。丁寧な対応である。鬼神相手とは、ずいぶんちがう。

「テーブル、出せ」

「食卓組み立て、了解」

 巨人のお弟子さんどもが、ぞろぞろと現われた。鉄板と鉄柱持っておる。

「おお! お弟子さんがた。ひさしぶりだのう」と鬼神。「この前は、お騒がせした。王さまが不機嫌でのう」

「やかましい!」と巨人の王。「これ、冥界王。一応、祝福せよ」

「冥界王陛下、即位おめでとう」

「一応とはなんだ!」

 弟子ども、無言で鉄板・鉄柱を組み上げて、巨人の食卓を組み上げる。

 人間の家よりも、でっかい食卓!

「あなや」ルシーナ驚く。「組立式巨大食卓」

「うむ。相変わらずの巨人っぷりだな」

 

 巨人の王をホストに、ヘルド殿、鬼神とルシーナが席についた。

 ガンメタ鬼神台たち空飛ぶ三兄弟は、給仕である。背中に白い布を纏い(まとい)、料理を運んで来てくれた。

 山のごとき肉、湖のごときスープ。ルシーナ、目回しておる。

 黙々と食事。終了。

「ところで、巨人の剣、冥界王陛下呼んで“優雅”じゃが、」と巨人の王。「これは、そなたが持ってゆけ」

 ピンセットでつまんで、長剣を差し出す。

 ヘルド殿はそれを両手で頂いた。

「かかる名剣、私にはもう、振るう機会もありますまいが・・・」

「好きにせよ。お日さんにくれてやってもよいぞ」

 巨人の王はちらっと鬼神を見た。

「冥界王陛下が言うとった。お日さんが、この剣を欲しがっとるとな」

「ああ。そうだな」鬼神うなずく。「だが、どうやって渡すのだ?」

「ヘルド殿はお日さんの元へゆくんじゃろ」

「はい。叶う(かなう)ならば」

「うん?」鬼神わからん。「どうやってゆくのだ?」

「ばかめ。信者は、神の御許(みもと)に召されるのじゃ。そう信じられておる」

「はあ」

「叶うならば、とは?」とルシーナ。

「黄泉の軍団は、一度入ったら決して抜けることはできぬ、という掟がありまして」

「父上」

「そんな掟、今日から、なし!」

 

 ヘルド殿は、こうして、天へと旅立ったのであった。

 

◆ 16、やたどん、影をあかす ◆

 

 さらにまた、神さまとの再会もあった。

 

「かー、かー。冥界王陛下ー! 手紙だがー!」

「その声は!」

 ぶわっさぶわっさぶわっさ・・・ぶわっ・・・さっ・・・さっ! ぶわさぶわさ。

 三本足の巨大からす。鬼神の前に、着地である。

「やたどん! 冥界へようこそ」

「天の女神より、冥界王陛下への手紙を預かって参ったがー!」

 やたどん。

 鬼神と向き合っても小っちゃく見えんぐらい、でっかい。

 第三の足で、巻物、テーブルに「はい」と置いてきた。

 ルシーナがその巻物を開いて、読み上げる。

 太陽の女神からの、お手紙である。

 初めに、冥界王陛下への、格式ばったあいさつ。

「堅苦しい御方じゃ」

「礼儀だがー」

 次に、ヘルドが天に到着し、妻子と一緒になったこと。“優雅”を献上されたこと。そのお礼。

 ここで、ルシーナがわざわざ巻物見せてきた。

 なんじゃ? と思うて見たら、なんか字がちがう。

 全体に達筆なのだが、『素晴らしい剣をありがとう』のとこだけ、明らかに字がうれしそうなんである。

「これは、お日さんの直筆かのう?」

「そうだがー」

「よっぽどうれしかったようだな・・・」

 後は、ルシーナは元気か? とか、お月はどうえ? とか。

 最後に、こんなことが書いてあった。

 

『近いうちに、あらためて、御礼の品などをお贈りいたす。

 鬼神さまと知り合いの者を使者に立てるゆえ、お楽しみに。

 また、かねてより希望のあった、御令嬢の来訪を認める。

 お望みなら、使者にそのままお迎えをさせるゆえ、申しつけられよ』

 

「ごれいじょう」

「私のことですえ」とルシーナ。

「・・・。」

「なにえ」

「いや。なんじゃ。あれじゃ。

 そなた、お日さんのところへ行ってしまうのか?」

「まさか。

 生前、ハナ司祭に『太陽の祝詞を学びたい』と、お願いしたことがございまする。

 グレイスの姉者にも『魔術や祝詞を学びたい』と言うたことあり。

 それらが、天の女神に伝わったのでは?」

「なるほど。剣のお礼、というわけか」

「ぜひ行きたいのですが」

「そうだな。せっかくの好意だものな。では、早速へんじを書くとしよう」

「待っとくがー」

 

 鬼神、返事をしたためた。

 書き終わるまで、また墨が乾くまで、八咫烏さまには待って頂くこととなる。

 ここで、ルシーナの采配が冴えた。

 

「やたさま。食べものでは、何がお好きですかに?」

「食べものかー? 油ものが好きだがー?」

「それは、ちょうどよいことですえ。

 今日のお昼は、油で揚げたお肉となっておりまする。いかがですかに?」

「本当かー!」

 

 じつは、ルシーナ。

 鬼神と知り合いの神さま、全員、チェック済み。

 八咫烏さまの好物も、訊く前に把握しておった。

「ちょうどよいことに」とか言うとるが、八咫烏さまが来た時点で「油もの準備!」との命令、出してあったんである。

 まこと、かしこい長女であった。

 

「うまいがー!」

 八咫烏さま、好物食べて、御機嫌となる。

 ルシーナ。そこで、こんな話を切り出した。

「やたさまは、冥界のこと、お詳しいんですかに?」

「昔から、ときどき飛び回ってはおるがー。

 なんか、わからんことが、あるんかー?」

「『鏡池』と呼ばれる池がありまして。

 そこに、自分が何者であったかわからぬ、黒い影どもが居るのですが」

「あー!」

 八咫烏さま。思い当たるようである。

「ルシーナさまは、御存知なかったがー? ありゃあー、ダークエルフの御先祖だがー」

「なんだと」「初耳ですえ」

「ヘルドの時代までは、ハイエルフと同じように、地上に住んでおったがー。

 神竜に襲われ、文化も信仰も忘れて、滅亡寸前になったがー。

 そこを、お月さまがお助けになったがー」

 

 鬼神とルシーナ。

 ガンメタ鬼神台に飛び乗って、『鏡池』へ。

 黒い影どもに、聞いた話を教えてやった。

「わしら、ダークエルフやったんか!」

 黒い影ども、びっくり。

 そして、自分たちのこと以上に、子孫のことをよろこんだ。

「みんな死んだ思うとったわ・・・」「子孫は、生きとったんやね」「よかったねぇ」

 そんな姿を見て。

 鬼神は、感心した。

「自分は亡霊みたいになっとるのに、子孫のことを思いやる。なかなかできんことだ」

「なんとかなりませんかに?」

「なんとか」

「彼らの姿。『鏡池』には姿が映るそうですが・・・」

「あ、そうか。掟を変えればええわけか」

 鬼神。

「『鏡池』よ。長い間、よくぞこの者どもを慰めてくれた。

 それだから、おまえには、特別な力を授けよう。

 ──この冥界では、『鏡池』に映った姿になれるように、なーれ!」

 

 すると、なんとしたことか!

 もやもやした、黒い影どもの姿!

 次第に、はっきりとしてきたではないか!

 ある者は、茶色い肌をした、ダークエルフに。

 またある者は、ピンクの肌をした、ダークエルフに。

 それぞれ、姿がくっきりはっきり、生き生きと美しく、転じたのであった!

 

「おお! 手が。ものに、さわれる!」

「たしかにこれは、池で見ておった肌の色!」

 影ども。

 互いに抱き合い、あるいは地面を抱擁し(ほうようし)、池に口づけして、喜ぶ。

「鬼神さま。ありがとうございまする」

「いや。私は、『鏡池』の功績を認めただけじゃ。

 八咫烏さまからルシーナが教えてもろうたお話があって、初めてわかったことだしな」

「ルシーナさま!」「ルシーナさま!」

 

 姿を取り戻した影ども。

 鏡池のそばに神殿を建て、油で揚げたお肉を捧げるようになったという。

 

◆ 17、鬼神、月をよぶ ◆

 

 そして。

 満月の夜が、やってきた。

 

「よし。ではゆくぞ」

 鬼神。ルシーナを呼んだ。

「月の見えるところへ行って、私が考えておったことをやるのだ。

 えーと、月の見えるところだから・・・現世に出ねばならんかのう」

「父上。母上なら、『鏡池』でも見えまする」

「あ、そうだったな。じゃあ、あそこでやろうか。ダークエルフの先祖も居ることだしのう」

 

 鬼神とルシーナ、ガンメタ鬼神台で、ふたたび『鏡池』へ。

「なんじゃなんじゃ」「ルシーナさまや」「鬼神さまや」「今夜はどないしはったんです?」

「ちょっと、騒がしくしたいのだが、ええかのう?」

「騒がしくする」

「ここで酒を呑み、踊ったり歌ったりして、楽しく騒ぐつもりじゃ」

「はあ。冥界王陛下のなさることやし、かまいませんが・・・」

「すまんな。今夜だけじゃ」

 

 鬼神、ガンメタ鬼神台とルシーナを、『鏡池』のふちに呼ぶ。

「・・・なにをするんですかに?」

「もう一度、お月を呼んでみるのだ。ただし、今度は私がやる」

「降霊できるんですかに?」

「いや、できん」

「なにえ」

「降霊ではなく、本当に、ただ、呼んでみるのじゃ。ちょっと楽しい宴をしてな」

 鬼神、お酒と薪(まき)を取り出した。

 『力』のルーンで地面に穴造り、焚き火する。

「冥界の征服を祝って」乾杯。「さあ、やるぞ」

「なにを」

「あ、そうじゃ。ルシーナ。服が落っこるから、手でしっかり押さえておけ」

「・・・待った。私はいやですえ」

 ルシーナ、あわてて拒否。

 しかし鬼神、もはや娘の言うことは聞いとらんかった。

 

「『萎む(しぼむ)』のルーン!

 私と、相棒と、ルシーナよ。

 小っちゃく楽しい、ちびっこどもに、なーれ!」

 

「ニ゛ャー! 嫌やテ言イマシタニ!」

 ルシーナ、悲鳴上げながら萎む。ちびルシーナ化である!

 見る見るうちに、赤ちゃんぐらいのサイズになってしもうた!

「わっはっは! そーれ、踊るゾ! ヤレ踊レ! ソレ踊レ!」

 鬼神も萎む。こちらは子供ぐらいのサイズ!

 ぶわ・・・ブワッサ!?

 ガンメタ鬼神台も! 本物のかぶとがにぐらいのサイズとなる! ちびメタ鬼神台である!

「父上ノ、阿呆! ヤッテラレマセンニ、帰ッ──ギャー!」

 ちびルシーナ、だぼだぼになった服を慌てて押さえ、逃げようとして裾踏んでコロンとこける。

「ウッキッキ!

 手伝ウテクレタラ、『伸ビル』ノルーン、教エテヤルゾ!

 手伝ウテクレナンダラ、『伸ビル』ノルーン、ナシダゾ!」

「後デシバク(後で叩く)!」

 ちびルシーナ、キレる。

 やけくそとなったか、服の帯締め直し、酒を呷る(あおる)。

 そして、なにやら歌うたいだす。

 とても綺麗な、さすがは月神の娘! となる声であった。

 ・・・が、声甲高く、歌うのが早すぎ、なに言うとるんかわからぬ。

 ブワッサッサ!

 ちびメタ鬼神台もやけくそとなり、逆立ちしてくるくる回り始めた。

「なんやなんや」「鬼神さまが小っちゃなった」「ルシーナさまが赤ちゃんみたいになっとる」

「酒ナラ、アルゾ! 呑ミタケレバ、呑ンデヨイゾ! 踊リタケレバ、踊ッテモヨイゾ!」

「ほんまですか」「ほな、頂きます」「わし、つまみ持ってくる」「なんかわからんけど、お手伝いいたしますわ」

 ダークエルフの御先祖さま。

 姿を取り戻してくれたお礼、という気持ちもあったろう。

 訳わからんわ! っちゅう顔しつつも、一緒に騒いでくれた。

「鬼神さま!」

「ナンジャ!」

「その小っちゃなるん、私らもできます?」

「デキルゾ! ソーレ、『萎ム』ノルーン! ダークエルフノ御先祖サマヨ、小ッチャクナーレ!」

「ウワー」「縮ンダ!」「小ッチャナッタ!」「キエー」

 

 まさに、ルナティック。きちがい騒ぎである。

 お月さん呼ぶっちゅう話だったはずだが、鬼神にその様子なし。「お月」の「お」の字も呼びはせぬ。

 やがて、ちびルシーナ、また裾踏んでこけた。こけたまま「ク-・・・」と眠り出す。酒が回ったか。

 宴、これにて、お開きである。

 

「ハー、ヤレヤレ! 久シブリニ小ッチャクナッテ、スッキリシタワイ!」

 ブワッサブワッサ!

 ちび鬼神。寝てしもうたちびルシーナを、ちびメタ鬼神台に乗せ、先に帰らせた。

 ダークエルフの御先祖さまは『伸びる』のルーンで元に戻してやった。

 そして、『鏡池』のほとりに、1人となる。

 池のふちに立って、こう言うた。

「サテ! ドウジャ、オ月ヨ。

 冥界モ、マアマア、良イ所ダゾ!

 ルシーナト楽シクヤットルゾ! ウラヤマシイカ? ヤーイ、ヤーイ!

 来レルモンナラ、出テ来テミヨ。ウッキッキー、ベロベロバー」

 鬼神。

 お月さんを、挑発である。

「・・・サテト。元ニ、戻ルトスルカ」

 そうして。

 『伸びる』のルーンで、自分も元に戻ろうとする。

 そのときであった。

 ひょい。

 突然、背後から抱き上げられたのは。

「ヌワア!? 誰ジャ!」

 撫で撫で。白い手が、鬼神を撫でくり回してきよる。

「ウワア。ヤメンカ! クスグッタイワ!」

 抱きすくめられた、ねこがごとし。

 身をよじって振り向く、ちび鬼神。

 そこに、居ったのは。

 銀色の髪をした、ハイエルフっぽい美女。

「オ・・・」

「出て来てやったえ。ざまあみろ」

「オ月!!!」

 

 それは、何年も待ち望んだ、女の姿であった。

 

 鬼神はこの夜、なかなか『伸びる』のルーンを使わせてもらえなんだ。

 翌朝。やっとのことで元の姿にもどり、お月さんと都へもどる。

 そして。

「父上ノ阿呆! 私ラノコト、忘レテオッタニ!」

 ちびルシーナとちびメタ鬼神台に、めっちゃキレられたのであった。

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