◆ 13、冥界王、いそがしくする ◆
さて。
鬼神は、ついに、冥界の王となった。
人生二度目の王さまだ。だが今回は、ひと味ちがう。
前のときは、なんかよくわからんうちに、王位を譲られた。
今回は、よくわかった上で、勝ち取ったのだ。
ひと味ちがうのだ。
鬼神はとても満足した。「いよいよ、私も本物の王さまだな」と、そう思ったのだ。
しかしながら。
満足にひたる暇は、なかった。
冥界王陛下は、それからしばらく、とても忙しかったのだ。
いろんな人といろんな話をし、忙しくはたらいた。
今回は、そのお話をいたしましょう・・・。
「こちらが耕作予定地ですえ」
麦わら帽子かぶったルシーナが、目の前の平地を示した。
黒い川のほとりに開けた、湿っぽい低地である。
草木のたぐいは一切生えておらぬ。泥と、土と、石ころしか見えぬ。
なにより、日光がない。
「育つんか? こんな、真っ暗な世界で」
「なんとかなりませんかに?」
ルシーナ、上目づかい。麦わら帽子のつばギリギリから、じっと見て来おる。
「なんとかとは」
「太陽、出せませんかに?」
「あほなこと言うんじゃないわ」
「そやに、冥界王は、なんでも好き勝手できると聞きましたえ」
「誰にじゃ」
「白骨の神さま」
「ちょっと待っとれ。一発殴ってくる」
鬼神、ガンメタ鬼神台に飛び乗り、冥界の入り口へ向かう。
広い洞窟から、狭い洞窟へ。黄泉の坂を、ふおおん・・・と、飛び上がる。
「わふん?」
三つ首の巨大ないぬが、目覚まし、びっくりしてこっちを見上げた。
「おう。また居眠りか、ケケケベベ・・・」
鬼神があいさつ言い終わらんうちに、ガンメタ鬼神台、飛び抜けた。速い。
「いや、ちゃう」「ちゃうっちゅうねん」「おい待てや」
到着。冥界の入り口。
鬼神、相棒から下りる。
「おい、白骨どん!」
「ありゃ? どないしたんですか、陛下」
「どないしたんですかじゃないわい。わしの娘に、でたらめ教えおって」
鬼神、文句つける。
白骨の神さま、悪びれぬ。
「でたらめやない。ホンマでっせ? なんでもできるはずですもん」
「お日さんも出せるというのか?」
「いやそら無理や」
「できんじゃないか」
「ホンマのお日さんなんか、もし出せても、みんな溶けてまいますがな。
そやけど、日が昇ったみたいにすることは、できるんちゃうかねぇ」
「なんと」
鬼神、首をひねる。
「やってみるか?」
「そやね。ここで試してみたらよろしいんちゃいます」
「よし。──えーと、真っ昼間みたいに、明るくなーれ」
カッ! 洞窟、明るくなった。
「できたわ」
「ね?」
「すごいな。冥界王」
鬼神が感心しておると。
「ばうばうばう!」三つ首のいぬが駆け登って来て、「きゃんきゃんきゃん!」鳴き出した。
「なにをやっとる。ケケケベベベベロス」
「「「なま目んぶがやし。こっ目れ!がー」」」
「目が眩んだ(くらんだ)みたいやね」
「あほなやつ」
鬼神、あきれる。相棒に乗った。
「参考になったわい。だが、私の娘にでたらめ吹き込むんじゃないぞ」
「いやいや、そんなことしませんて」
「ケケどんも、そのうち給料払ってやるから、期待しとれ。ではな」
鬼神、飛び去る。
三つ首のいぬ、起き上がる。「おっさんどこ行った!」
「とっくに引き返しはったで」
「できるみたいだわ」
鬼神、ルシーナのとこへ帰着。
「冥界よ。外と同じように、昼になったり夜になったりせよ!」
唱えた。
すると。
昼の光が、暗黒の洞窟を満たしたのであった。
「まぶし」ルシーナ、麦わら帽子、目深にする(まぶかにする)。
「どうじゃ。不思議だろう」
「太陽もないのにから」
「まったくじゃ」
「水鏡の術みたいなもんですかに?」
「たぶん、ちがうな。じっさい、あったかいものな」
「父上」
「なんじゃ」
「もひとつ、試験を手伝ってほしいのですが」
「うむ。なんじゃ。言うてみよ」
麦わら帽子かぶったルシーナ。
白く輝く手で、冥界の黒い土に丸いもの植える。
ぱんぱん。土はたく。
ばしゃっ。ひしゃくで、水をやる。
「はい。ここ」
「うん?」
「『伸びる』のルーンで、伸ばしてみてくれませんかに?」
「はあ・・・」
鬼神。言われるままに、やってみた。
「えーと、『伸びる』のルーン。
いまルシーナの植えた草よ、伸びてみーろ」
にょろにょろ。
ツルが生えてきた。
「うおっ!」鬼神おどろく。
「さお」「はい」
ルシーナ命令。コボルドの侍女(仮採用)、細い竿竹を出す。
ルシーナ、竿竹を地面に刺す。
にょろにょろ。
ツル、竿竹に絡み、見る見るうちに伸びてゆく。
あっちゅう間に、大きな鞘(さや)が実った。
ルシーナ、その鞘ゲット。割る。豆が出てきた。
「成功ですえ」
豆、完成である!
「なんだと」鬼神、手伸ばす。「食えるのか?」
ぺち。ルシーナ、鬼神の手はたく。「生はだめですえ。豆は」
「あ、はい」
「試験成功。記録せよ」「はい」
コボルドが記録をつけ、今日の予定終了である。
ガンメタ鬼神台に3人で乗り込み、飛んで戻る。
「・・・これでわかりましたに。巨人の国の秘密」とルシーナ。
「どの秘密じゃ?」
「巨人の国の食料が尽きなんだ理由。元鬼(げんき)兄者は、絶対に教えてくれませなんだ」
ルシーナ。白い牙見せて、ニヤリとする。
「正直、不快でしたに。暴いてやりましたえ」
「負けず嫌いな奴」
「ところで、父上」
「なんじゃ」
「『伸びる』のルーン、私に教えて頂くわけにいきませんかに?」
「ふむ・・・」
鬼神の脳裏に、お日さんの温かくもトゲトゲしい言葉の数々が浮かんできた。
「このルーンの所有者さまは、めんどくさい御方だからのう」
「私がうまいこと感謝をいたしますえ」
「ふむ・・・」
鬼神。
ここで、ちょっと思いついたことあり。
こんな条件をつけた。
「よし。ではこうしよう。
私も試したいことがある。それを手伝うてくれたら、『伸びる』のルーンを教える」
「いつ、どこで、なにを」
「次の満月の夜。月の見えるとこで。なにをするかは、お楽しみじゃ」
◆ 14、英雄、きかんす ◆
また、こんな人物との再会もあった。
「冥界王陛下。鬼神さま。おひさしぶりでございまする」
ハイエルフの殿方。人品骨柄卑しからぬ(じんぴんこつがらいやしからぬ)御方である。
鬼神に、ひざまずいてきたが・・・。
「どちらの御方かのう? 見覚えがないのだが」
「そう思われるのも、ごもっともですえ」
ハイエルフの殿。にっこり笑うた。
「我が名は、ヘルド。
神竜の体内にて息絶え、御身に発見して頂いた亡骸(なきがら)。
あれ、すなわち、この私でございました」
なんとしたことか!
その立派な殿方は、古代ハイエルフの英雄、ヘルドであった!
「してまた、この冥界でもお会いしたことがございまする」
「なんと。いつじゃ」
「しばらく前・・・御身に立ち向かう、守備兵として」
「黄泉の軍団か!」
「はい。あの軍団長が、この私でした」
「なんとまあ! 手強いわけだわ」
「当時は、自分の亡骸、遺品を回収して頂いたとも知らず、御礼も申し上げず、あいすみませぬ」
「いやいや! それより、会えてうれしいぞ。ヘルド殿!」
鬼神はよろこび、ルシーナを呼んだ。
ルシーナはいろいろと質問をして、ヘルド殿のことを知って、いたく感心した様子であった。
それで明らかになったところによれば・・・
「私は、鬼神さまの手で現世へ帰された。
そやに、そのときは冥界での記憶を忘れておりまして。
訳もわからず、とにかく故郷へ戻ろうといたしました。
しかし、故郷がない。
なんぼ旅しても、魔術で探索をしても、ふるさとが見つからぬ。
それが、ある日突然、すべてを思い出したのですえ。
自分が一度死んだ身であること。
冥界神さまによって、黄泉の軍団長にされたこと。
・・・そして、故郷はおそらく神竜に滅ぼされ、もはやこの世にないであろうこと。
妻も子も、もはや現世には居らぬであろうことを、思い出したのでした」
「父上やに」とルシーナ。
「は? なにがじゃ」
「父上が掟を変えたゆえ、ヘルド殿に記憶が戻ったのやと思いますえ」
「あー、そう言えば、なしにしたのう」
黄泉の軍団に入ったら、現世の記憶を忘れる──という決まりがあったのだ。
「そんな掟、今日から、なし!」と、鬼神がなしにしたのであった。
「いやはや。びっくりさせてすまぬ」
「いえいえ! おかげで記憶が戻りまして」
ヘルド殿、笑い飛ばして、話をつづけた。
「我が子孫の痕跡を、知ることもできました」
「子孫のこんせき」
「かえるの女神さまという、地方の女神さまに出会いまして」
「はて? どっかで聞いたことあるような」
「我が子孫の一派、『灰沼(はいぬま)』の氏族が、その女神さまに保護して頂いたそうで」
「ああ! そうじゃ。あの小さな氏族の狩人どもが、『かえる沼』言うとったわ」
なんともはや。
ヘルド殿。鬼神が仲良くしておった狩人どもの故郷を、見つけたようである。
「女神さまにうかがいますに、子孫ども、戦に負けて沼を追い出されたとか。
情けない! 負けんように準備をしておけ! まぬけ! ・・・とも、思いましたが」
「厳しいご先祖さまじゃ」鬼神笑う。「にしても、すごい偶然だな」
「じつは、ルーンのおかげなのですえ」
「ルーンだと」
「私、『光』のルーンのわざ、『見出だす』を、習っておりまして」
「おお。あれは便利だな。私も、お日さんから習うたぞ」
「なんと! 天の女神さまから直接に・・・」
「その沼の場所、教えてくれんか。私もそのうち行ってみるから」
「よろこんで」
鬼神とルシーナは、ヘルド殿を囲んで楽しく酒を呑み、飯を食った。
次の日には、巨人の王に引き合わせてやったのである。
◆ 15、鬼神、三者会談をする ◆
ガンメタ鬼神台と、壱号に乗って。
鬼神とルシーナと、ヘルド殿。冥界のお昼を、飛ぶ。
「すっかり明るくなりましたに」ヘルド殿、感心する。「おお! 麦が実っておる」
「自慢の畑ですえ」ルシーナ胸張る。
「我々が戦ったあたりでは?」
「うむ! あのへんだったな。わっはっは」
到着。
巨人の王はすでに出て来ておった。その頭の横に、赤いかぶとがにが滞空しておる。弐号であった。
「おお。相棒が気を利かせてくれたのか」
ぶわっさぶわっさ。ガンメタ鬼神台、『俺じゃない。壱号じゃ』と、壱号を鼻先で指す。
「そうか。壱。おまえは相変わらず気が利くのう」
ぶわっさ、ぶわっさ・・・。
巨人の王がうなずきながら近付いて来た。
「英雄殿。ひさしぶりじゃ」
「偉大なる鍛冶師よ。巨人の中の巨人よ」ヘルド殿、ひざまずく。
「立つがよい。テーブルを用意させる。ゆっくりと話をしよう」
巨人の王。丁寧な対応である。鬼神相手とは、ずいぶんちがう。
「テーブル、出せ」
「食卓組み立て、了解」
巨人のお弟子さんどもが、ぞろぞろと現われた。鉄板と鉄柱持っておる。
「おお! お弟子さんがた。ひさしぶりだのう」と鬼神。「この前は、お騒がせした。王さまが不機嫌でのう」
「やかましい!」と巨人の王。「これ、冥界王。一応、祝福せよ」
「冥界王陛下、即位おめでとう」
「一応とはなんだ!」
弟子ども、無言で鉄板・鉄柱を組み上げて、巨人の食卓を組み上げる。
人間の家よりも、でっかい食卓!
「あなや」ルシーナ驚く。「組立式巨大食卓」
「うむ。相変わらずの巨人っぷりだな」
巨人の王をホストに、ヘルド殿、鬼神とルシーナが席についた。
ガンメタ鬼神台たち空飛ぶ三兄弟は、給仕である。背中に白い布を纏い(まとい)、料理を運んで来てくれた。
山のごとき肉、湖のごときスープ。ルシーナ、目回しておる。
黙々と食事。終了。
「ところで、巨人の剣、冥界王陛下呼んで“優雅”じゃが、」と巨人の王。「これは、そなたが持ってゆけ」
ピンセットでつまんで、長剣を差し出す。
ヘルド殿はそれを両手で頂いた。
「かかる名剣、私にはもう、振るう機会もありますまいが・・・」
「好きにせよ。お日さんにくれてやってもよいぞ」
巨人の王はちらっと鬼神を見た。
「冥界王陛下が言うとった。お日さんが、この剣を欲しがっとるとな」
「ああ。そうだな」鬼神うなずく。「だが、どうやって渡すのだ?」
「ヘルド殿はお日さんの元へゆくんじゃろ」
「はい。叶う(かなう)ならば」
「うん?」鬼神わからん。「どうやってゆくのだ?」
「ばかめ。信者は、神の御許(みもと)に召されるのじゃ。そう信じられておる」
「はあ」
「叶うならば、とは?」とルシーナ。
「黄泉の軍団は、一度入ったら決して抜けることはできぬ、という掟がありまして」
「父上」
「そんな掟、今日から、なし!」
ヘルド殿は、こうして、天へと旅立ったのであった。
◆ 16、やたどん、影をあかす ◆
さらにまた、神さまとの再会もあった。
「かー、かー。冥界王陛下ー! 手紙だがー!」
「その声は!」
ぶわっさぶわっさぶわっさ・・・ぶわっ・・・さっ・・・さっ! ぶわさぶわさ。
三本足の巨大からす。鬼神の前に、着地である。
「やたどん! 冥界へようこそ」
「天の女神より、冥界王陛下への手紙を預かって参ったがー!」
やたどん。
鬼神と向き合っても小っちゃく見えんぐらい、でっかい。
第三の足で、巻物、テーブルに「はい」と置いてきた。
ルシーナがその巻物を開いて、読み上げる。
太陽の女神からの、お手紙である。
初めに、冥界王陛下への、格式ばったあいさつ。
「堅苦しい御方じゃ」
「礼儀だがー」
次に、ヘルドが天に到着し、妻子と一緒になったこと。“優雅”を献上されたこと。そのお礼。
ここで、ルシーナがわざわざ巻物見せてきた。
なんじゃ? と思うて見たら、なんか字がちがう。
全体に達筆なのだが、『素晴らしい剣をありがとう』のとこだけ、明らかに字がうれしそうなんである。
「これは、お日さんの直筆かのう?」
「そうだがー」
「よっぽどうれしかったようだな・・・」
後は、ルシーナは元気か? とか、お月はどうえ? とか。
最後に、こんなことが書いてあった。
『近いうちに、あらためて、御礼の品などをお贈りいたす。
鬼神さまと知り合いの者を使者に立てるゆえ、お楽しみに。
また、かねてより希望のあった、御令嬢の来訪を認める。
お望みなら、使者にそのままお迎えをさせるゆえ、申しつけられよ』
「ごれいじょう」
「私のことですえ」とルシーナ。
「・・・。」
「なにえ」
「いや。なんじゃ。あれじゃ。
そなた、お日さんのところへ行ってしまうのか?」
「まさか。
生前、ハナ司祭に『太陽の祝詞を学びたい』と、お願いしたことがございまする。
グレイスの姉者にも『魔術や祝詞を学びたい』と言うたことあり。
それらが、天の女神に伝わったのでは?」
「なるほど。剣のお礼、というわけか」
「ぜひ行きたいのですが」
「そうだな。せっかくの好意だものな。では、早速へんじを書くとしよう」
「待っとくがー」
鬼神、返事をしたためた。
書き終わるまで、また墨が乾くまで、八咫烏さまには待って頂くこととなる。
ここで、ルシーナの采配が冴えた。
「やたさま。食べものでは、何がお好きですかに?」
「食べものかー? 油ものが好きだがー?」
「それは、ちょうどよいことですえ。
今日のお昼は、油で揚げたお肉となっておりまする。いかがですかに?」
「本当かー!」
じつは、ルシーナ。
鬼神と知り合いの神さま、全員、チェック済み。
八咫烏さまの好物も、訊く前に把握しておった。
「ちょうどよいことに」とか言うとるが、八咫烏さまが来た時点で「油もの準備!」との命令、出してあったんである。
まこと、かしこい長女であった。
「うまいがー!」
八咫烏さま、好物食べて、御機嫌となる。
ルシーナ。そこで、こんな話を切り出した。
「やたさまは、冥界のこと、お詳しいんですかに?」
「昔から、ときどき飛び回ってはおるがー。
なんか、わからんことが、あるんかー?」
「『鏡池』と呼ばれる池がありまして。
そこに、自分が何者であったかわからぬ、黒い影どもが居るのですが」
「あー!」
八咫烏さま。思い当たるようである。
「ルシーナさまは、御存知なかったがー? ありゃあー、ダークエルフの御先祖だがー」
「なんだと」「初耳ですえ」
「ヘルドの時代までは、ハイエルフと同じように、地上に住んでおったがー。
神竜に襲われ、文化も信仰も忘れて、滅亡寸前になったがー。
そこを、お月さまがお助けになったがー」
鬼神とルシーナ。
ガンメタ鬼神台に飛び乗って、『鏡池』へ。
黒い影どもに、聞いた話を教えてやった。
「わしら、ダークエルフやったんか!」
黒い影ども、びっくり。
そして、自分たちのこと以上に、子孫のことをよろこんだ。
「みんな死んだ思うとったわ・・・」「子孫は、生きとったんやね」「よかったねぇ」
そんな姿を見て。
鬼神は、感心した。
「自分は亡霊みたいになっとるのに、子孫のことを思いやる。なかなかできんことだ」
「なんとかなりませんかに?」
「なんとか」
「彼らの姿。『鏡池』には姿が映るそうですが・・・」
「あ、そうか。掟を変えればええわけか」
鬼神。
「『鏡池』よ。長い間、よくぞこの者どもを慰めてくれた。
それだから、おまえには、特別な力を授けよう。
──この冥界では、『鏡池』に映った姿になれるように、なーれ!」
すると、なんとしたことか!
もやもやした、黒い影どもの姿!
次第に、はっきりとしてきたではないか!
ある者は、茶色い肌をした、ダークエルフに。
またある者は、ピンクの肌をした、ダークエルフに。
それぞれ、姿がくっきりはっきり、生き生きと美しく、転じたのであった!
「おお! 手が。ものに、さわれる!」
「たしかにこれは、池で見ておった肌の色!」
影ども。
互いに抱き合い、あるいは地面を抱擁し(ほうようし)、池に口づけして、喜ぶ。
「鬼神さま。ありがとうございまする」
「いや。私は、『鏡池』の功績を認めただけじゃ。
八咫烏さまからルシーナが教えてもろうたお話があって、初めてわかったことだしな」
「ルシーナさま!」「ルシーナさま!」
姿を取り戻した影ども。
鏡池のそばに神殿を建て、油で揚げたお肉を捧げるようになったという。
◆ 17、鬼神、月をよぶ ◆
そして。
満月の夜が、やってきた。
「よし。ではゆくぞ」
鬼神。ルシーナを呼んだ。
「月の見えるところへ行って、私が考えておったことをやるのだ。
えーと、月の見えるところだから・・・現世に出ねばならんかのう」
「父上。母上なら、『鏡池』でも見えまする」
「あ、そうだったな。じゃあ、あそこでやろうか。ダークエルフの先祖も居ることだしのう」
鬼神とルシーナ、ガンメタ鬼神台で、ふたたび『鏡池』へ。
「なんじゃなんじゃ」「ルシーナさまや」「鬼神さまや」「今夜はどないしはったんです?」
「ちょっと、騒がしくしたいのだが、ええかのう?」
「騒がしくする」
「ここで酒を呑み、踊ったり歌ったりして、楽しく騒ぐつもりじゃ」
「はあ。冥界王陛下のなさることやし、かまいませんが・・・」
「すまんな。今夜だけじゃ」
鬼神、ガンメタ鬼神台とルシーナを、『鏡池』のふちに呼ぶ。
「・・・なにをするんですかに?」
「もう一度、お月を呼んでみるのだ。ただし、今度は私がやる」
「降霊できるんですかに?」
「いや、できん」
「なにえ」
「降霊ではなく、本当に、ただ、呼んでみるのじゃ。ちょっと楽しい宴をしてな」
鬼神、お酒と薪(まき)を取り出した。
『力』のルーンで地面に穴造り、焚き火する。
「冥界の征服を祝って」乾杯。「さあ、やるぞ」
「なにを」
「あ、そうじゃ。ルシーナ。服が落っこるから、手でしっかり押さえておけ」
「・・・待った。私はいやですえ」
ルシーナ、あわてて拒否。
しかし鬼神、もはや娘の言うことは聞いとらんかった。
「『萎む(しぼむ)』のルーン!
私と、相棒と、ルシーナよ。
小っちゃく楽しい、ちびっこどもに、なーれ!」
「ニ゛ャー! 嫌やテ言イマシタニ!」
ルシーナ、悲鳴上げながら萎む。ちびルシーナ化である!
見る見るうちに、赤ちゃんぐらいのサイズになってしもうた!
「わっはっは! そーれ、踊るゾ! ヤレ踊レ! ソレ踊レ!」
鬼神も萎む。こちらは子供ぐらいのサイズ!
ぶわ・・・ブワッサ!?
ガンメタ鬼神台も! 本物のかぶとがにぐらいのサイズとなる! ちびメタ鬼神台である!
「父上ノ、阿呆! ヤッテラレマセンニ、帰ッ──ギャー!」
ちびルシーナ、だぼだぼになった服を慌てて押さえ、逃げようとして裾踏んでコロンとこける。
「ウッキッキ!
手伝ウテクレタラ、『伸ビル』ノルーン、教エテヤルゾ!
手伝ウテクレナンダラ、『伸ビル』ノルーン、ナシダゾ!」
「後デシバク(後で叩く)!」
ちびルシーナ、キレる。
やけくそとなったか、服の帯締め直し、酒を呷る(あおる)。
そして、なにやら歌うたいだす。
とても綺麗な、さすがは月神の娘! となる声であった。
・・・が、声甲高く、歌うのが早すぎ、なに言うとるんかわからぬ。
ブワッサッサ!
ちびメタ鬼神台もやけくそとなり、逆立ちしてくるくる回り始めた。
「なんやなんや」「鬼神さまが小っちゃなった」「ルシーナさまが赤ちゃんみたいになっとる」
「酒ナラ、アルゾ! 呑ミタケレバ、呑ンデヨイゾ! 踊リタケレバ、踊ッテモヨイゾ!」
「ほんまですか」「ほな、頂きます」「わし、つまみ持ってくる」「なんかわからんけど、お手伝いいたしますわ」
ダークエルフの御先祖さま。
姿を取り戻してくれたお礼、という気持ちもあったろう。
訳わからんわ! っちゅう顔しつつも、一緒に騒いでくれた。
「鬼神さま!」
「ナンジャ!」
「その小っちゃなるん、私らもできます?」
「デキルゾ! ソーレ、『萎ム』ノルーン! ダークエルフノ御先祖サマヨ、小ッチャクナーレ!」
「ウワー」「縮ンダ!」「小ッチャナッタ!」「キエー」
まさに、ルナティック。きちがい騒ぎである。
お月さん呼ぶっちゅう話だったはずだが、鬼神にその様子なし。「お月」の「お」の字も呼びはせぬ。
やがて、ちびルシーナ、また裾踏んでこけた。こけたまま「ク-・・・」と眠り出す。酒が回ったか。
宴、これにて、お開きである。
「ハー、ヤレヤレ! 久シブリニ小ッチャクナッテ、スッキリシタワイ!」
ブワッサブワッサ!
ちび鬼神。寝てしもうたちびルシーナを、ちびメタ鬼神台に乗せ、先に帰らせた。
ダークエルフの御先祖さまは『伸びる』のルーンで元に戻してやった。
そして、『鏡池』のほとりに、1人となる。
池のふちに立って、こう言うた。
「サテ! ドウジャ、オ月ヨ。
冥界モ、マアマア、良イ所ダゾ!
ルシーナト楽シクヤットルゾ! ウラヤマシイカ? ヤーイ、ヤーイ!
来レルモンナラ、出テ来テミヨ。ウッキッキー、ベロベロバー」
鬼神。
お月さんを、挑発である。
「・・・サテト。元ニ、戻ルトスルカ」
そうして。
『伸びる』のルーンで、自分も元に戻ろうとする。
そのときであった。
ひょい。
突然、背後から抱き上げられたのは。
「ヌワア!? 誰ジャ!」
撫で撫で。白い手が、鬼神を撫でくり回してきよる。
「ウワア。ヤメンカ! クスグッタイワ!」
抱きすくめられた、ねこがごとし。
身をよじって振り向く、ちび鬼神。
そこに、居ったのは。
銀色の髪をした、ハイエルフっぽい美女。
「オ・・・」
「出て来てやったえ。ざまあみろ」
「オ月!!!」
それは、何年も待ち望んだ、女の姿であった。
鬼神はこの夜、なかなか『伸びる』のルーンを使わせてもらえなんだ。
翌朝。やっとのことで元の姿にもどり、お月さんと都へもどる。
そして。
「父上ノ阿呆! 私ラノコト、忘レテオッタニ!」
ちびルシーナとちびメタ鬼神台に、めっちゃキレられたのであった。