もしもトレーナーがウマ娘になったら   作:ケンタ〜

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退院ッ!

「退院ですね」

 

 その言葉を主治医さんからもらった。

 

「どこも悪いところはありませんし、健康そのものです。まあ、ほかにいろいろ気になるところはありますが……」

 

 ちらりと頭の上を見ながらそんなことを言われて、入院初日にして退院の許可をもらった。

 

「まあ、でも、一応二週間は運動などをしないようにお願いします」

 

 

 

「――――というわけで、退院しました」

「……意外とするっと帰ってきたね」

 

 友人は細い目でわたしを見てきた。

 

「退院して不満だった?」

「いや、そんなことは全くないけど」

 

 友人がひらひらと手を振る。

 

「そんな大事件があったんだから、もっと時間かかるかと思ったんだけど……」

 

 友人はわたしの頭の上を指さした。

 

 自分もそれに手を伸ばして、さらりと撫でてみる。

 

「まあ、わたしも正直もっといろんな研究機関とかにたらいまわしにされるかと思ったよ」

 

 友人は納得しかねる、というような微妙な顔をした。

 

「まあ、何はともあれ、退院できてよかったよ。じゃ、行こうか」

「うん」

 

 現在、トレセン学園トレーナー寮前。校舎へと向かう途中である。

 

 倒れた日から一日開けて、今日である。

 

 体はすこぶる元気。ものすごい元気。

 

 頭をぶつけて倒れたとは思えないほどに、健康そのものだ。

 

 普通、脳震盪で倒れたと言えば、そのあと数週間は認知機能などに後遺症が残ると聞くが、特にそんなこともなく。

 

 代わりに、頭の上と腰の下に新しい仲間が加わったのだが。

 

「……ほんとに愉快な体になったねぇ」

 

 友人根岸が歩きながら、わたしの頭の上、耳のある場所をまじまじと眺めてくる。

 さっ、と手で隠す。

 

 彼女にはわたしの耳を乱暴に扱った前科がある。

 

 ウマ娘の耳である。それはもう、もんのっすごい大事な器官である。そんなものをぎゅっと鷲掴みにするのは、トレーナー失格だ。

 

 知識として、敏感であるということは知っていたが、実感したことでより強く理解した。

 

「ははっ、触らないって」

 

 友人は警戒するわたしを見て軽く笑う。

 

 だが、警戒心を解くわけにはいかない。一昨日の経験で、この友人がウマ娘に対して何をしでかすかわからないという事がよくわかった。

 

 頭の警戒を解いても、ふとももをすりすりされる危険性がある。

 

 と、警戒していると。

 

「それよりも、いいの?」

 

 友人根岸が、道の先を指さす。

 

「? なにが?」

「挨拶しなくて」

「え? あっ!」

 

 視線の先には――――帽子をかぶり、豪奢なドレスに身を包んだ、小さいオレンジ髪の少女。なぜか帽子の上にいつでも猫を乗せている、その特徴的な姿は――――

 

「秋川理事長!」

 

 そして、それにつきそうたづなさんの姿もあった。

 

「入院してる間、いろいろ工面してくれてたらしいよ。チームホトオリのみんなを気にかけてくれれたりさ」

「うん、ちょっと言ってくる!」

 

 

 

「りっ、理事長さん!」

 

「むむっ! これはっ! 利根田トレーナー!」

 

 呼ぶと、すぐにこちらに気が付いてくれた。

 

 ていうか、名前を当然のように覚えられている。新人研修の時にいちど会話したきりだと思っていたんだけども。

 

「すみません、いきなり入院してしまって、ご迷惑をおかけしてしまって……!」

「いやいやっ、それよりも、無事に退院できてよかった! どこかまだ悪いところはないかっ!? 何かあったらなんでもいってほしいっ!」

 

 相変わらずの熱意といいひとっぷり。

 

「むっ!?」

 

 と、途中で、理事長の動きがピシリと停止した。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

 そして、わたしの頭の上を指さした。

 

「とっ、利根田トレーナー……ッ……!」

 

 その指がわなわなと震えた。

 

「そっ、その耳はなんだ――――っ!?」

 

 

 

 ――――というわけで、全然話が伝わってなかったらしい。

 

 まあ、忙しすぎる理事長なら、しかたない。わたし一人のトレーナーの話なぞ、普通入ってこないだろう。

 

「ふむふむっ! じつにっ、興味深いっ!」

 

 わたしの目の前で、キラキラと目を輝かせる秋川理事長。

 

 理事長室の中のソファで、わたしはいろいろ理事長に説明をしていた。友人根岸は仕事のためついてきておらず、わたし一人で相手をしていた。

 

 普段は理知的でかっこいい雰囲気の理事長が、年相応のテンションで、閉じた扇子を片手に、わたしにいろいろと聞いてくる。

 

「それにしても、目を覚ましたら、いきなり耳と尻尾が生えていたとは……!」

「はい、わたしもよくわかってなくて……」

「いやしかし、尻尾はどこに? 見たところ、無いようにみえるが……?」

 

 ちらり、と理事長が体を傾けてわたしの横をのぞき込んでくる。

 

「パンツスタイルのスーツに見えるが……」

「あ、それが……」

 

 立ち上がって、背を理事長のほうに向ける。

 

「ほら、ここに……」

 

 わたしは左脚のほうを指さした。

 

 右脚のほうと比べてすこしズボンが膨らんでいて、もぞもぞと微妙に動いている。

 

「むむっ、なんと、そこにしまっているのか!?」

 

 理事長が驚いたように声を上げる。

 

「えっ、何かまずかったですか……?」

 

 すると、理事長が閉じた扇子をビッと横に振った。

 

「憂慮ッ! それではいかぁん! 仮にもウマ娘たるもの、尻尾をそのように扱っていてはいかんっ! 尻尾は敏感で重要なもの! それにその状態では蒸れて衛生上でもよくないだろう! しかし、それに気が回らなかったわたしの責任でもあるっ! たづなっ!!」

 

 扇子でビシッとたづなさんを指さす。

 

 あれっ、話があらぬ方向へ飛んで行っている気がする……。

 

「あのっ、理事長、そんなところまでしてもらう必要は」

「結構ッ! 遠慮などするなっ! こんなこともあろうかと、予備の尻尾あなの付いたスーツも用意してあるっ! ささっ、遠慮せずに来たまえっ!」

 

 理事長がバッと席を立つ。

 

「はーい、利根田さん、こちらでーす」

 

 たづなさんがすでに部屋の扉の前に立っていた。

 

「えっ、あっ、ちょ、待って……!?」

 

 ダメだ、この人たち、全然話聞いてくれない……! いつも冷静なたづなさんも、どこか楽しそうにしてる……!

 

 おどおどしていると、目の前に秋川理事長の手が突き出された。

 

「ささっ、利根田トレーナー!」

 

 うっ……ものすごく純粋な少女の輝く目……。

 

 無下にするわけにはいかないっ……。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 恐る恐る手を取ると、理事長の顔がぱあっと明るくなった。

 

「よーし、行くぞ、たづな!」

「はーいっ」

 

 ずるい、この理事長……。

 

 手を引かれるまま、着いていくしかなかった。

 

 っていうか、「こんなこともあろうかと」って、どんなことだ……??




自由にいろいろと書きました。

ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?

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  • ごかってにどーぞ
  • そんなことより続き
  • そんなことよりプリン食べたい
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