「ふーむっ! 似合っているぞっ、利根田トレーナーっ!」
どこぞの更衣室で、人生初めてのしっぽあなつきスーツの試着体験。
「へ、へぇ、こんな感じになってるんですね……!」
さっきまでズボンの片足に尻尾をむりやり突っ込んでいたため、解放されたしっぽが涼しい。
少し尻尾に力を込めてみると、ぱたぱたと、左右にも上下にも自由に動かせる。
「ずいぶんと開放的だろう! それに、尻尾を自由に動かせる! ウマ娘にとっては、尻尾は走るときの重要な要素のひとつであるからな!」
テンション高めに、秋川理事長が解説する。
「それに、尻尾はウマ娘にとっての感情表現手段のひとつでもある! それを動けなくしてしまえば、表情をうごかせないのと一緒だ! 無意識でも大変なストレスになるっ!」
確かに、その知識はあったが、実際に体験してみるとよくわかる。
さっきまで尻尾を動かせないのは、まるで腕が縛られたかのように、窮屈さを感じた。
いままで存在していなかった器官だったので、べつに制限されても大丈夫だろう、と根拠もなく思っていたのだが、そんなことでもないらしい。
「よしっ、では次だ! たづな!」
「はーい、では利根田さん、つぎはこちらを」
たづなさんが、手にしていた衣服をわたしに差し出してくる。
「えっ、次?」
「一種類では物足りないだろうっ、年頃の女性ともなれば!」
「いや、別にそんな年でもないんですが……」
あと十年でもすれば、じゅうぶんに、女性が呼ばれたくない呼び方で呼ばれる年になるのだが。
「遠慮するひつようはないっ! 着たまえ!」
「は、はあ……」
とりあえず、差し出された衣服をもらう。
「じゃあ、着替えてきます」
更衣室の個室の中に入ってカーテンを閉じ、それを広げてみる。
上下のセットだった。
あれ、しっぽあなの服の話じゃなかったっけ……。
まあ、理事長のお願いを無下にはできない。いろんな迷惑をかけてしまっているし。
とりあえず着替え、カーテンを開ける。
「おおっ! とても似合っているぞっ、利根田トレーナー!」
理事長が笑顔で出迎えてくれる。
ちょっといろんな装飾が付いている、こんどはスカートタイプのスーツだった。
「なんか足元が涼しくて落ち着かないですね……」
「そうか、気に入らなかったか?」
すこししょんぼりとした様子でこちらを見てくる。
そんな顔されるとちょっと……。
「いや、別にそういうわけでは……」
「では仕方がないなっ! こちらも試すといいっ!」
再びたづなさんが新しい別の服を差し出してくる。
「えっ、あの……」
「さあさあ! 遠慮せずに!」
「あっ……はい」
再びテンションに押され、新しい服を受け取ってカーテンを閉める。
今度は……なんだこれ。
ん……? スーツじゃない?
まさか……。
「あの、すいません、これ……」
ちらり、とカーテンから顔を出す。
「って、なにしてるんですか……?」
理事長とたづなさんが、わたしから背を向けて、何かごにょごにょ内緒話をしていた。
「はっ!? と、利根田トレーナー!」
焦った様子でわたしのほうを向く。
「なっ、なんでもないっ! 気にせず着替えを続けてくれたまえっ!」
ビッ、と閉じた扇子で空を斬る。
「と言われましても……これ……」
もらった服を、広げて提示する。
赤と白で構成された、上下の長袖の服。
なん百回も見てきた。逆になんで渡された段階で気づかなかったんだろうか。
「これ、ウマ娘用のジャージですよね?」
「えっ!? あっ!? たっ、たづなっ! 渡すのを間違えているぞ!?」
理事長がものすごくあわてて、わたわたしてたづなさんに問いかける。
どうやら普通に間違えてしまったらしい。
「ご、ごめんなさいっ、渡す順番を間違えてしまったみたいです……!」
たづなさんが慌てた様子で理事長にあやまる。
……ん? 渡す順番って今言わなかった?
「ちょ、ちょっとたづな……!」
明らかにそれに対して理事長が反応していた。
「……あの、理事長さん……いったい、どういう……?」
「あっ、いやっ、これはだな……!」
口元に扇子の先を当てて、目を斜め右上に向けて話し始める。
加えて汗が頬から一筋垂れていた。
明らかに何かあるときの人だこれ。
「こっ、これは、決してそのっ……」
もはや自白したようなものだ。
「……あの……」
追求しようとしたその瞬間。
焦りに焦った理事長が、目にもとまらぬ速さで地面に膝をつき、三本指を地面に添えた。
「陳謝ーーーーー!! だますような真似をしてしまい申し訳ないーーーーー!!」
理事長という立場とは思えないほどに見事なフォームの土下座で、絶叫していた。
あれ……ていうか、わたしの服を用意してくれるって話じゃなかったっけ……?
どうしてこうなった……???
理事長愛好家の方へ、秋川理事長のあらぬ姿を書いてしまったことをここに陳謝いたします。
ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?
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いる
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いらない
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ごかってにどーぞ
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そんなことより続き
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そんなことよりプリン食べたい