もしもトレーナーがウマ娘になったら   作:ケンタ〜

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第十四話 理事長のご厚意

「ねー、利根田〜、まだー? 遅刻するよ?」

 

 コンコン、と目の前の扉から音がする。

 

 わたしはお腹を押さえながら、ガチャリとそのドアノブに手をかけた。

 

「うぅ……ごめん……」

 

 バタリ、とわたしは後ろ手でトイレの扉を閉めた。

 

「やっと出てきた。それで、青ざめてるね」

「こんなになるとは思わなくて…………」

 

 昨日のバク食いにより、わたしのお腹は今朝、大打撃を受けた。

 乙女としてこんなことは言いたくないが、人生で一番の大漁だった。食った分だけそのまま出た。

 

「胃袋がびっくりしたんだろうね。今はウマ娘だとしても、もとは人間なわけなんだし」

「うぅ……ウマ娘って大変なんだね……」

 

 お腹を押さえて苦しみながら、わたしは友人根岸が差し出したバッグを手にして、玄関に向かった。

 

 ほんっとに、お腹がすごい喪失感で満たされていた。人生初の奇妙な感覚だ。別に痛いとかそういうのじゃなくて、腸らへんがすっからかんになってる感覚。

 

 別に下したわけでなく、しっかりと消化されていた。これがウマ娘の代謝か。あれだけ食べたのに、しっかりと吸収されているようだった。

 

「よっし……今日も一日頑張るかぁ」

 

 そう言って、友人根岸はわたしに続いて、玄関で靴を履いた。

 

 一足先に履き終わったわたしは、ドアノブに手をかけて、扉を開いた。

 年度末の陽光が顔をさして、すこし頭がずきりと痛む。それもすぐに収まり、わたしは外に出た。

 

「いってきます」

「いってきまーす。そーだ、今日は朝から理事長に呼び出されてるんだった」

「え、今日も?」

 

 昨日もみくちゃにされたばっかなんだけども。

 

「理事長さんも忙しいんじゃないの? ていうか、今日はなんで?」

「ウマ娘になったことについて、大事な話があるとか」

「え、そうなの?」

 

 と、考えてみれば、当然のことだった。

 

 昨日は、ただウマ娘になったことを報告しただけ。それに対する正式なお話はしたわけじゃない。

 書類だとか、写真だとか、いろいろふむべき段階や書類などがたくさんあるのだろう。

 

「じゃ、行こうか」

 

 トントン、とつま先をたてて、友人根岸はわたしより先に歩き始めた。

 

「あ、ちょっと待って。二人で一緒に行くの?」

 

 友人根岸も一緒に呼び出されているのか。

 

「うん。そうみたい」

「え、なんで……?」

「まあ、同室でチーフトレーナーサブトレーナーの関係だし、いろいろわたしに話すこともあるんでしょ」

「ふーん、そか……」

 

 友人根岸の背をおいながら、わたしはそう返事をした。

 

 

 

「歓迎ッ! よくきてくれた、利根田トレーナー、根岸トレーナー!!!」

 

 部屋に、勢いの良い理事長先生の声が響いた。

 

 キィーン、と響く耳を、わたしは両手で塞いだ――例のごとく癖で頭の側面を押さえてしまったので、クリティカルヒットだった。

 

「あの、理事長…………」

 

 すると、理事長がはっとした顔をして、話し始める。

 

「すっ、すまない、利根田トレーナーっ! 配慮が足りなかったな……っ!」

「それで理事長先生、今日はどんな用でお呼びに?」

 

 友人根岸が、本題に入ろうと口を開いた。

 

「ああ、うむ! そうだったな! 今日集まってもらったのは、ほかでもない! たづなっ!」

 

 ばっ、と扇子を横一線に切って、理事長先生はたづなさんの方を向いた。

 

「はいっ、こちらです!」

 

 ニコニコと笑顔で、たづなさんは、奥の方から何かを取り出し、こちらに持ってきた。

 

 きのう、何度も見慣れた構図だった。

 

 手に、キレイに畳まれた服を持つたづなさん。

 

「えっ、また着せ替え大会ですか……?」

 

 思わずそれが口をついて出た。

 

 昨日のもみくちゃウマ娘着せ替え大会の記憶が瞬間的に呼び起こされる。

 

「ひっ、否定ッ! 違うぞ、利根田トレーナーっ! いや、昨日は無理にしてすまなかった……!」

 

 一応、その認識はあるみたいだった。

 別に、ちょっとは楽しかったからいいんだけど。小さい頃からあんまりおしゃれできなかったから。

 

「そ、それで、本題っ!」

 

 ビシッ、と、理事長先生が、たづなさんの持っている服一式を扇子で指す。

 

「贈呈ッ! 昨日急遽、職人に依頼して仕立ててもらった、ウマ娘用尻尾穴のついた、スーツ一式だっ!」

「えっ、ええっ!?」

「どうぞ、利根田トレーナーさん」

 

 すっ、と、たづなさんが一歩歩み寄り、それを手渡してくる。

 

「い、いいんですかこんなの……!?」

 

 戸惑っていると、理事長がふたたび、扇子で空を切る。

 

「無論ッ! トレーナーのためウマ娘のため、妥協は不要っ! ささっ、ぜひ受け取って、その身にまとったまえっ!」

「そんな、こんなもの……!」

 

 スーツ、しかも、ウマ娘用の尻尾穴のついたスーツとなると、その値段はかなりいいお値段になるだろう。

 

 しかも、それを贈呈なんて……!

 

 ていうか、このために、昨日の着せ替え大会を……!?

 

「はーい、更衣室はこちらでーす」

 

 笑顔でたづなさんが案内をしてくる。

 

「は、はい……!」

 

 だがしかし、もらった以上はそれに従うしかなかった。

 

 すると、たづなさんが、ちらと耳元(現側頭部)でささやいてきた。

 

「理事長がポケットマネーで、止めるまもなく作っちゃったんです。受け取ってあげてください……!」

 

 ちらりと理事長の方をみると、満面の期待の笑みで、キラキラと、わたしの方を見ていた。

 

 ……素直に受け取ろう。こんなに小さいこのこの笑顔と素晴らしいまでの厚意を、受け取らねば非常識だ。

 

 

 

ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?

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  • ごかってにどーぞ
  • そんなことより続き
  • そんなことよりプリン食べたい
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