「えーっ、ホントにウマ娘になったんですか!?」
「ちょっ、みんな集まりすぎっ……」
「ねーっ、ウマ娘になってどんな感じ?」
「いやっ、ちょっ、まってっ……! きゃっ! 誰しっぽ触ったの!?」
「うわー! 先生のしっぽきれ―! うらやましー!」
「アウちゃん!? ちょっと手つき――ひゃっ!? 付け根のとこやめてぇっ!?」
放課後、トレーニング開始前――――
わたしは、ウマ娘たちに、囲まれていた。
「うわー、先生筋肉強くなったねー、ホントにウマ娘になったんだ!」
「ちょっと二の腕むにむにしないで!?」
「いやー、やっぱりトモの張りが至高ですな……」
「どさくさに紛れて何やってんの安里!?!?」
――――思ったより大騒ぎだった。
みんながこうも、ウマ娘になったことに対して興味を持つことになるとは。
「えー、先生、なんでもっと早く言ってくれないの? 先生と一緒に走ってみたかったのにー!」
「えっわたしだって走りたーい! ねぇねぇ先生、一緒に並走しない?」
「えーっ! ソラちゃんだけずるーい! だめだめっ、みんなではしろっ! チームみんなでホトオリステークス開催しよっ!」
「あーっ! いいねそれ! 先生含めてみんなでははしろっ!」
「ちょっ、ちょっと、いきなり話進めないで――――――――!?」
みんなものすごくワーきゃーしていた。
いつもは静かな子も、わたしの周りでキャーキャーしているのを見ると、ものすごく変な感じがする。
ひとりとしてわたしの話を聞いてくれない。
でもみんな、わたしを押しつぶさんばかりの勢いでわたしに詰め寄ってくる。
「ちょ、ちょっと安里っ、たすけてちょっと!? 止めてよっ!?」
「ふーむ、こうなると腹筋の感じも一度見ておくべきかな、ここはひとつ」
「何やってんのホントに安里っ!?」
後ろから伸びてきた友人根岸の手をばちんっと払いのける。
「いってっ、よし、みんな、このウマ娘を暴行罪で逮捕だっ、みんな、やれっ!!」
「ちょっと安里!?」
「トレーナーだけずるーい! わたしも先生触るー!!」
「ウワーッ!?」
仕立ててもらったばかりの
こ、ここからはやくぬけださなければっ……!
「だ、だれかたすけてーっ!?」
がんばってもがくが、わたしがいくら頑張っても、中心に押し戻される。
ダメだ。わたしがいくらウマ娘になったとはいえ、相手もウマ娘だ。しかも本職の。かてるわけない。
がんばってがんばるも、十余名のウマ娘(一部同僚含む)による集団公然わいせつを止めることはできなかった。
「だ、だれかちょっと……!?」
最後の一縷の望みをかけて手を伸ばして悲鳴をあげると、わたしの耳は、ウマ娘たちの雑音の中、二つの足音を聞き分けた。
「コラーっ!! なにやっとるんじゃーーーーーっ!!!!」
響く怒号。
ウマ娘たちの視線が、一斉にそっちを向く。
「たっ、タナベトレーナー……!」
チームのひとり、アインちゃんがその名前を呼ぶ。
「もう次のレースが近い者もおるじゃろう!! そんなとこで全員そろってなにをやっとるんじゃっ!!」
「「「ひぃっ!!」」
チームのみんなが一斉に、びくりと肩をふるわせ、何人かがのけぞった。
「ほらっ! ぼーっとするでないっ!! 散れっ、散れーっ!!」
「ひ、ひぇーーーっ!」
「鬼タナベだーっ! 逃げろーっ!」
「きゃーっ! 先生後でまたさわらせてーっ!」
ばっ、と振り払うようにタナベさんが腕を振ると、全員がわーっと私から離れた。ひとり怪しげな言動をしていた子もいたが。
全員から一気に解放されて、わたしは地面にぺたんとへたりこんだ。
「ぜぇ、はぁ……」
「むっ、利根田っ、どうしたんじゃ!?」
「た、タナベさん……」
「こ、これは……」
へたりこむわたしに、タナベさんが駆け寄ってくれる。
そして、その後ろには、彼の教え子フジキセキもついてきていた。
「す、すみません、ありがとうございます……」
「フジキセキ、鏡持っとるか?」
「はい、ナベさん」
その手鏡を、タナベさんがわたしに向ける。
それをのぞき込むと、見るも無残なわたしの髪の毛が映っていた。
思ったよりもみくちゃにされていた。
「愛されとるのぉ、利根田トレーナー」
「お、おはずかしい……」
差し伸べられたタナベトレーナーの手をとって、わたしは立ち上がった。
とりあえず胸ポケットから折りたたみ型の櫛を取り出して、すこし髪を整える。
「それにしても、利根田トレーナー……」
フジキセキに手鏡を返しながら、タナベさんがわたしに顔を向ける。
「……ホントにウマ娘に、なっとるのか……」
その目線は、わたしの頭よりも、少し上に向いていた。
「……はい、いろいろと、ありまして……」
その耳が、ぴこり、と頭に伏せるようにくっつく。
無意識に動くそれは、ほとんど表情のように、勝手に制御の手が入る前に動いてしまう。
「フーム、こりゃ、生徒たちも興味津々で見るわけじゃわい……」
タナベトレーナーが、わたしのことを、頭のてっぺんからつまさきまで、ゆっくりと、一通り見る。
「フーム……立ち方と言い、姿勢と言い、呼吸の間隔といい……本当に、中身まで、なったようじゃのぉ……」
感心するような声と目で、タナベさんがそういう。
一目見ただけで、そこまでわかるものか。
「さすが、タナベさんですね」
「いや……こんなことが起こっとるとは……。見違えるようじゃのぉ、利根田トレーナー……あの利根田トレーナーが……いや、失礼」
その視線には、驚愕の感情も含まれていたらしい。
「フーム……見れば見るほど、興味深いのぉ……」
「タナベさん、それ以上はセクハラだよ」
わたしの体を興味深そうにじろじろとみるタナベさんを、フジキセキが後ろから止めた。
「むっ! すまん、利根田トレーナー」
「あ、いえ、別に大丈夫です」
タナベさんのわたしを見る目は、真剣そのもの、トレーナーとしての目だった。
そんなタナベさんにそこまで興味深くみてもらえるとは、嬉しさすら覚える。
「ふーむ……まあ、利根田トレーナー、頭を打って運ばれたと聞いたときはどうなるかとお持ったが……無事そうでよかったわい。もう復帰して良かったのか?」
「はい、ありがとうございます。すこしでもはやく、みんなのところに戻りたかったので……」
そちらに目を向けると、みんなはすでに、ターフの上で準備運動を始めていた。
それを見て、指導しているのは友人根岸。しっかりとトレーナーモードに切り替えて、みんなのことを見ていた。
「ウマ娘になっても、心がけは変わらんようじゃな。利根田トレーナーのおらん間、みんなずっと気にかけて、寂しそうにしておったぞ、利根田トレーナー」
ぽん、とタナベさんが、わたしの腕に手を置いてくれる。
「ま、復帰したばかり。無理せず、がんばっとくれ。皐月賞……クラシック三冠のはじまりも、もう近い。のう?」
「はいっ、もちろんです、タナベさん」
ちらり、とその目が、フジキセキを見る。
彼女も、わたしのチームの一員であり、そして、戦う相手でもある。
「さ、フジキセキ、準備運動に入れ。そしたらランニングじゃ」
「うん、行ってくるね、ナベさん」
「おう、気をつけてな」
たたっ、とフジキセキはわたしの横を走り抜け、ターフの方へ向かっていった。
「皐月賞まで残り一か月と少し。これからだんだんと練習にスパートをかけていくことになる。ここでどれだけ気を皐月賞へと向けられるか……ここが一つの勝負時じゃな、利根田トレーナー」
わたしはタナベさんに育てられたトレーナーだ。その彼の言う育成論に、異論はない。
「はい、そうですね」
姿かたち変われど、わたしがウマ娘を育てるトレーナーである立場であることに変わりはない。
コースの方ではフジキセキが準備運動に加わり、周りのチームの子と声をかけあったりして、脚を広げて柔軟をしていた。
見ない間、ここ数日で、彼女もこのチームになじんできているようだった。
わたしは取り出していた折り畳み式の櫛を胸ポケットにしまう。
「がんばりましょう、タナベさん」
「ああ、利根田ト――――――――む?」
「?」
はらり、と何かの音がした。
「む、なにか落ちたぞ、利根田トレーナー……」
わたしの胸ポケットから零れ落ちたそれを、タナベトレーナーが拾い上げる。
いっしゅん、それが何か理解できなかったが、脳がそれを認識した瞬間、カッと全身が熱くなる。
「あっ!! タナベさんそれは――――!!」
手を伸ばしたが、もうすでに遅かった。
ああ、こんなことなら、紙を内側に向けて折っておくんだった……!!
その表面に書いて文字を、タナベトレーナーは読み上げた。
「これは……出走登録書……?」
その瞬間、十を超える視線が、わたしの背中を突き刺した……ように感じた。
ばっ、と振り返ると――感じた通りに、チームのほとんどのウマ娘が、わたしのほうを見ていた。
一瞬あとに襲い来るであろう衝撃に、わたしは身構えた――――――
「「「先生、出走するんですか――――――――!?!?!?」」」
わたしの出走登録書ということが、決まった訳でもないのに。
十余名の大きな声が、わたしの耳を突き刺した。
いろいろ四苦八苦しながら、たのしくやりながら、書いております。
良ければコメントやら評価やら、ブックマークとかしてくれれば、モチベがあがってもっといい感じにかけるかもしれません。ほんと、マジで。もらったらほんとに頑張って、うまく書きますんで!!
良ければ、また次回もよろしくおねがいしますっ!
あともらったコメントにはできるだけ頑張って返します! コメントくれた人はほんとにいつもありがとうございます!! ほんとにものすごく励みになってます!!!
ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?
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いる
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いらない
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ごかってにどーぞ
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そんなことより続き
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そんなことよりプリン食べたい