もしもトレーナーがウマ娘になったら   作:ケンタ〜

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第十七話 出走登録書②

「えーっ、ホントにウマ娘になったんですか!?」

「ちょっ、みんな集まりすぎっ……」

「ねーっ、ウマ娘になってどんな感じ?」

「いやっ、ちょっ、まってっ……! きゃっ! 誰しっぽ触ったの!?」

「うわー! 先生のしっぽきれ―! うらやましー!」

「アウちゃん!? ちょっと手つき――ひゃっ!? 付け根のとこやめてぇっ!?」

 

 放課後、トレーニング開始前――――

 

 わたしは、ウマ娘たちに、囲まれていた。

 

「うわー、先生筋肉強くなったねー、ホントにウマ娘になったんだ!」

「ちょっと二の腕むにむにしないで!?」

「いやー、やっぱりトモの張りが至高ですな……」

「どさくさに紛れて何やってんの安里!?!?」

 

 ――――思ったより大騒ぎだった。

 

 みんながこうも、ウマ娘になったことに対して興味を持つことになるとは。

 

「えー、先生、なんでもっと早く言ってくれないの? 先生と一緒に走ってみたかったのにー!」

「えっわたしだって走りたーい! ねぇねぇ先生、一緒に並走しない?」

「えーっ! ソラちゃんだけずるーい! だめだめっ、みんなではしろっ! チームみんなでホトオリステークス開催しよっ!」

「あーっ! いいねそれ! 先生含めてみんなでははしろっ!」

「ちょっ、ちょっと、いきなり話進めないで――――――――!?」

 

 みんなものすごくワーきゃーしていた。

 いつもは静かな子も、わたしの周りでキャーキャーしているのを見ると、ものすごく変な感じがする。

 ひとりとしてわたしの話を聞いてくれない。

 でもみんな、わたしを押しつぶさんばかりの勢いでわたしに詰め寄ってくる。

 

「ちょ、ちょっと安里っ、たすけてちょっと!? 止めてよっ!?」

「ふーむ、こうなると腹筋の感じも一度見ておくべきかな、ここはひとつ」

「何やってんのホントに安里っ!?」

 

 後ろから伸びてきた友人根岸の手をばちんっと払いのける。

 

「いってっ、よし、みんな、このウマ娘を暴行罪で逮捕だっ、みんな、やれっ!!」

「ちょっと安里!?」

「トレーナーだけずるーい! わたしも先生触るー!!」

「ウワーッ!?」

 

 仕立ててもらったばかりの勝負服(スーツ)が、さっそくもみくちゃにされて回っている。

 

 こ、ここからはやくぬけださなければっ……!

 

「だ、だれかたすけてーっ!?」

 

 がんばってもがくが、わたしがいくら頑張っても、中心に押し戻される。

 

 ダメだ。わたしがいくらウマ娘になったとはいえ、相手もウマ娘だ。しかも本職の。かてるわけない。

 

 がんばってがんばるも、十余名のウマ娘(一部同僚含む)による集団公然わいせつを止めることはできなかった。

 

「だ、だれかちょっと……!?」

 

 最後の一縷の望みをかけて手を伸ばして悲鳴をあげると、わたしの耳は、ウマ娘たちの雑音の中、二つの足音を聞き分けた。

 

「コラーっ!! なにやっとるんじゃーーーーーっ!!!!」

 

 響く怒号。

 

 ウマ娘たちの視線が、一斉にそっちを向く。

 

「たっ、タナベトレーナー……!」

 

 チームのひとり、アインちゃんがその名前を呼ぶ。

 

「もう次のレースが近い者もおるじゃろう!! そんなとこで全員そろってなにをやっとるんじゃっ!!」

「「「ひぃっ!!」」

 

 チームのみんなが一斉に、びくりと肩をふるわせ、何人かがのけぞった。

 

「ほらっ! ぼーっとするでないっ!! 散れっ、散れーっ!!」

「ひ、ひぇーーーっ!」

「鬼タナベだーっ! 逃げろーっ!」

「きゃーっ! 先生後でまたさわらせてーっ!」

 

 ばっ、と振り払うようにタナベさんが腕を振ると、全員がわーっと私から離れた。ひとり怪しげな言動をしていた子もいたが。

 

 全員から一気に解放されて、わたしは地面にぺたんとへたりこんだ。

 

「ぜぇ、はぁ……」

「むっ、利根田っ、どうしたんじゃ!?」

「た、タナベさん……」

「こ、これは……」

 

 へたりこむわたしに、タナベさんが駆け寄ってくれる。

 そして、その後ろには、彼の教え子フジキセキもついてきていた。

 

「す、すみません、ありがとうございます……」

「フジキセキ、鏡持っとるか?」

「はい、ナベさん」

 

 その手鏡を、タナベさんがわたしに向ける。

 

 それをのぞき込むと、見るも無残なわたしの髪の毛が映っていた。

 

 思ったよりもみくちゃにされていた。

 

「愛されとるのぉ、利根田トレーナー」

「お、おはずかしい……」

 

 差し伸べられたタナベトレーナーの手をとって、わたしは立ち上がった。

 

 とりあえず胸ポケットから折りたたみ型の櫛を取り出して、すこし髪を整える。

 

「それにしても、利根田トレーナー……」

 

 フジキセキに手鏡を返しながら、タナベさんがわたしに顔を向ける。

 

「……ホントにウマ娘に、なっとるのか……」

 

 その目線は、わたしの頭よりも、少し上に向いていた。

 

「……はい、いろいろと、ありまして……」

 

 その耳が、ぴこり、と頭に伏せるようにくっつく。

 

 無意識に動くそれは、ほとんど表情のように、勝手に制御の手が入る前に動いてしまう。

 

「フーム、こりゃ、生徒たちも興味津々で見るわけじゃわい……」

 

 タナベトレーナーが、わたしのことを、頭のてっぺんからつまさきまで、ゆっくりと、一通り見る。

 

「フーム……立ち方と言い、姿勢と言い、呼吸の間隔といい……本当に、中身まで、なったようじゃのぉ……」

 

 感心するような声と目で、タナベさんがそういう。

 

 一目見ただけで、そこまでわかるものか。

 

「さすが、タナベさんですね」

「いや……こんなことが起こっとるとは……。見違えるようじゃのぉ、利根田トレーナー……あの利根田トレーナーが……いや、失礼」

 

 その視線には、驚愕の感情も含まれていたらしい。

 

「フーム……見れば見るほど、興味深いのぉ……」

「タナベさん、それ以上はセクハラだよ」

 

 わたしの体を興味深そうにじろじろとみるタナベさんを、フジキセキが後ろから止めた。

 

「むっ! すまん、利根田トレーナー」

「あ、いえ、別に大丈夫です」

 

 タナベさんのわたしを見る目は、真剣そのもの、トレーナーとしての目だった。

 そんなタナベさんにそこまで興味深くみてもらえるとは、嬉しさすら覚える。

 

「ふーむ……まあ、利根田トレーナー、頭を打って運ばれたと聞いたときはどうなるかとお持ったが……無事そうでよかったわい。もう復帰して良かったのか?」

「はい、ありがとうございます。すこしでもはやく、みんなのところに戻りたかったので……」

 

 そちらに目を向けると、みんなはすでに、ターフの上で準備運動を始めていた。

 

 それを見て、指導しているのは友人根岸。しっかりとトレーナーモードに切り替えて、みんなのことを見ていた。

 

「ウマ娘になっても、心がけは変わらんようじゃな。利根田トレーナーのおらん間、みんなずっと気にかけて、寂しそうにしておったぞ、利根田トレーナー」

 

 ぽん、とタナベさんが、わたしの腕に手を置いてくれる。

 

「ま、復帰したばかり。無理せず、がんばっとくれ。皐月賞……クラシック三冠のはじまりも、もう近い。のう?」

「はいっ、もちろんです、タナベさん」

 

 ちらり、とその目が、フジキセキを見る。

 

 彼女も、わたしのチームの一員であり、そして、戦う相手でもある。

 

「さ、フジキセキ、準備運動に入れ。そしたらランニングじゃ」

「うん、行ってくるね、ナベさん」

「おう、気をつけてな」

 

 たたっ、とフジキセキはわたしの横を走り抜け、ターフの方へ向かっていった。

 

「皐月賞まで残り一か月と少し。これからだんだんと練習にスパートをかけていくことになる。ここでどれだけ気を皐月賞へと向けられるか……ここが一つの勝負時じゃな、利根田トレーナー」

 

 わたしはタナベさんに育てられたトレーナーだ。その彼の言う育成論に、異論はない。

 

「はい、そうですね」

 

 姿かたち変われど、わたしがウマ娘を育てるトレーナーである立場であることに変わりはない。

 

 コースの方ではフジキセキが準備運動に加わり、周りのチームの子と声をかけあったりして、脚を広げて柔軟をしていた。

 

 見ない間、ここ数日で、彼女もこのチームになじんできているようだった。

 

 わたしは取り出していた折り畳み式の櫛を胸ポケットにしまう。

 

「がんばりましょう、タナベさん」

「ああ、利根田ト――――――――む?」

「?」

 

 はらり、と何かの音がした。

 

「む、なにか落ちたぞ、利根田トレーナー……」

 

 わたしの胸ポケットから零れ落ちたそれを、タナベトレーナーが拾い上げる。

 

 いっしゅん、それが何か理解できなかったが、脳がそれを認識した瞬間、カッと全身が熱くなる。

 

「あっ!! タナベさんそれは――――!!」

 

 手を伸ばしたが、もうすでに遅かった。

 

 ああ、こんなことなら、紙を内側に向けて折っておくんだった……!!

 

 その表面に書いて文字を、タナベトレーナーは読み上げた。

 

「これは……出走登録書……?」

 

 その瞬間、十を超える視線が、わたしの背中を突き刺した……ように感じた。

 

 ばっ、と振り返ると――感じた通りに、チームのほとんどのウマ娘が、わたしのほうを見ていた。

 

 一瞬あとに襲い来るであろう衝撃に、わたしは身構えた――――――

 

「「「先生、出走するんですか――――――――!?!?!?」」」

 

 わたしの出走登録書ということが、決まった訳でもないのに。

 

 十余名の大きな声が、わたしの耳を突き刺した。














いろいろ四苦八苦しながら、たのしくやりながら、書いております。
良ければコメントやら評価やら、ブックマークとかしてくれれば、モチベがあがってもっといい感じにかけるかもしれません。ほんと、マジで。もらったらほんとに頑張って、うまく書きますんで!!

良ければ、また次回もよろしくおねがいしますっ!

あともらったコメントにはできるだけ頑張って返します! コメントくれた人はほんとにいつもありがとうございます!! ほんとにものすごく励みになってます!!!

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