もしもトレーナーがウマ娘になったら   作:ケンタ〜

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第四話 フジキセキ来訪

「どっ、どういうことですか!?」

 

 突然の提案に、わたしは取り乱した。

 

 ただでさえタナベトレーナーという大御所が目の前にいて緊張しているのに、さらにそれ以外の衝撃が。

 

 どっ、どういうこと? フジキセキを、わたしたちのチームで――――!?

 

「なに、無理をいっとるのはわかっとる。もちろん、無理強いはせん。ただ――」

「いやっ、そういうわけではなく――――!」

 

 わたしは手を突き出して、精一杯タナベトレーナーを静止した。

 

「なっ、なぜ、ですか……!?」

 

 ちらりと横を見ると、友人根岸が、困惑した様子でわたしとタナベトレーナーを交互に見ていた。

 

「いや、なに。わしも年じゃろ。いつ死ぬかもわからんような」

「いえっ、そういう年じゃないですよねっ!?」

 

 わたしは再びタナベさんに割り込んだ。

 

 いくらベテランとはいえ、まだそういう年齢じゃない。というか、まだ定年退職もしてない。背筋は猫背気味だけど、足腰はしっかりしている。というか、そんな年齢だったら、ここまで歩いてこれていない。トレーニング施設近くの階段と坂は、ウマ娘のために急なのだ。

 

「まあ、冗談じゃ。まあエイプリルフールも近いからのぉ」

 

 楽しそうに顎に手を当てて、タナベさんは笑った。

 

「まあ、理由はいくらでもある。あとひと月もせずに皐月賞、そこにフジキセキは出走する。お前さんのところのウマ娘も、いくらか出走するじゃろう」

 

 ちらり、と側で休憩していたウマ娘たちを見る。

 

 全員、物珍しそうな顔で、タナベさんを見ていた。

 

 トレーナーの中で有名でも、ウマ娘の中では知らない子も多い。しかしちらほら、知っているような目でタナベさんを見ている子もいる。このチームの初期メンバーだ。全員、タナベさんには贔屓にしてもらった経緯がある。

 

 そして、皐月賞に出れるような子も、大体その中にいる。

 

「そ、そうですが……」

「わしのトレーニングジム、タナベジムに来たことがあるじゃろう?」

 

 わたしの頭に、河川敷の、高架橋のすぐ下の、年代物の掘っ立て小屋が思い出された。あの、建築基準法を満たしているのかも怪しい、そして夜はものすごくうるさそうな家、タナベジム。

 

 (さび)しくも、年代物の印象がする。

 

「今、わしのもとには、フジキセキしかおらん。そして弥生賞が終わって、皐月賞にもいく彼女にとって、今は根を積める時期じゃ。しかし、多感な年ごろのウマ娘にとっては、不安定な時期でもある。もちろん、フジキセキがそんなことで崩れるようなウマ娘ではないことはわかっとる。だが、ケアは多いに越したことはない。ここにはフジキセキの顔見知りの娘も多くおる。あんなさびれた小屋よりもよっぽどいい。だから、このチームで、しばらくフジキセキの相手をしてやってくれんか」

 

 なるほど、どういうことか。

 

 わたしは、チラリと友人のほうを見た。

 

 その目でわかる。

 

 わたしは小さくうなずいた。

 

「わかりました。わたしたちでよろしければ、精一杯、フジキセキを見させていただきます」

 

 ウマ娘は、トップのアスリートである前に、ひとりのウマ娘なのだ。

 

 そのケアとあらば――トレーナーととして、そして教員として、何もせずに見過ごすわけにはいかない。

 

「わたしも、同じです、タナベトレーナー」

 

 友人根岸も、力強くうなずく。

 

 タナベさんは、嬉しそうに口角を上げた。

 

「そうか。お前さんたちなら、そういってくれると思ったぞ」

 

 タナベさんは、わたしたちに手を差し出してくれた。

 

 わたしはその大きな手を両手で力いっぱい握り締めた。その上に、友人も加わり、さらにその手にタナベさんが片手を重ねる。

 

「ありがとう、利根田トレーナー、根岸トレーナー。フジキセキもうれしいじゃろう」

「こちらこそ、ありがとうございます。フジキセキを、わたしたちのチームで見れるなんて」

 

 友人が、真剣な顔でそう言った。

 

「お前さんたちのような教え子を持てて、わしもうれしいぞ」

 

 ぎゅっ、とタナベさんがわたしたちの手を握り返してくれる。

 

「もちろん、わしもフジキセキのトレーナーとして、このチームに顔を出す。『ホトオリ』の娘たちの世話も、わしが精一杯見るぞ」

「えっ、ナベさんのトレーニングがまた受けられるんですか!?」

 

 休憩していたウマ娘の一人が、ばっと立ち上がった。

 

 ナベさん――タナベさんの愛称だった。

 

 そしてその娘は、ラーベルちゃんだった。お昼に、わたしたちのところに来てくれた。

 

 このチーム『ホトオリ』の、最初期メンバーだった。

 

「やった! しかも、あのフジキセキさんと一緒に走れるんですか!? すごい、すごい!!」

 

 ぴょんぴょん、とラーベルちゃんがその場で跳ね始める。

 

 ほかのウマ娘たちもたちあがる。

 

 先ほどまでの疲労が嘘のように、顔色はきらきらと輝いていた。

 

「フジキセキって、あのフジキセキ!?」

「わたし、昨日の弥生賞見たよ!? あの走りを、間近で見られるってこと!?」

「うそっ、わたしこのチーム入っててよかった!」

 

 口々に、その喜びを叫び始める。

 

 それを見て、タナベさんが嬉しそうに笑った。

 

「はっはっはっ、そこまで喜ばれるとは、トレーナー冥利に尽きるのぉ。早ければ、明日からでもたのむわい」

「はいっ、それまで、しっかり準備を整えておきます」

「ありがとう。じゃ、今日はわしはこれで失礼するわい。トレーニングの邪魔になったな」

「いえ、ありがとうございました!」

「来てくれて、ありがとうございました!」

 

 わたしと友人が、二人そろって礼をした。

 

「ああ、じゃあのぉ」

 

 タナベトレーナーは手をひらひらと振り、踵を返して歩いて行った。

 

 ばっ、とわたしと友人根岸は、自分のチームのウマ娘たちを振り返る。

 

「っさあっ、テンション上がってきた! トレーニング、全力でやっていこう!」

 

 二人で勢いよく手を突き上げると、みんな元気に、大きな声を上げた。

 

「おーーーーーーーーーーー!!!」

 

 

 

 

「――――よろしくお願いします。フジキセキです」

 

 まるで英国紳士のようなふるまいで、礼をした。

 

「「「――――――きゃああああああああああああああああああああああ!!!!!」」」

 

 同時、歓喜の黄色い悲鳴が沸き起こった。

 

「フジキセキさんだ――――!! ホンモノだぁああああ!!」

「すごいわたししぬのかな今日わたししぬのかな!?」

「ちょっとそんなに騒いだらフジキセキさんにめいわくでしょ!? それはそれとしてかっこいいいいいい!!」

「すごいはじめましてフジキセキさんサインくださいおねがいします」

「あっまってぬけがけはだめわたしが――――」

 

 ――悲喜こもごも(主に喜)だった。

 

 場所は練習場の観客席。

 まずは挨拶が必要だろうという事で、練習の前に顔合わせ、という事になったのだが……。

 

 タナベさんと一緒に階段を下りてきたところで、すでに歓声が上がっていた。

 そして降りてきたところで礼をして、また黄色い悲鳴が。

 

  体操服にジャージ、というごく普通の格好なのに、まるでアカデミー賞のレッドカーペットを下りてくる俳優のようなふるまい。そしてそれを狙ったかのようなウマ娘たちのリアクション。

 

「はいっ! ステイッステイッ! まだだっ! 飛びつくの禁止! 挨拶なんだからっ!」

 

 群がろうとするウマ娘たちを、友人根岸が背中で必死に止めようとしていた。

 ウマ娘のパワーに人間が勝てるわけがないのだが、まあみんな一応節度はわきまえてるらしいので、無理に突破しようとはしなかった。

 

「はっはっはっ、若いもんは元気じゃのぉ」

 

 タナベさんが楽しそうに笑う。

 

「すみませんっ、うちの()たちが……!」

 

 なんとか教え子たちを下がらせ、友人根岸は横によけた。

 

 それでも、みんな目をきらきらと輝かせ、フジキセキに目を向けていた。

 

 きれいな立ち姿だった。堂々たる直立、ではなく、華麗な直立という言葉が合いそうだった。

 その口元は小さく微笑んでいて、彼女に対する羨望のまなざしをやさしく受け止めているかのようだった。彼女は注目され慣れている。

 

 パドックよりもこれほど近くで見るのは初めてだ。そして、より良くわかる。

 立ち姿だけで、レベルが違う。

 

 自分の教え子に自身はあるけれども、これは――――

 

「まあ、少し打ち解ける時間も必要じゃろう。すこし互いに話す時間があってもいいんじゃないかのぉ?」

 

 タナベさんが、わたしに目を向けてくる。

 

 わたしは首をたてに振った。

 

「じゃっ、じゃあ、そちらがよければ、すこし時間を……」

 

 あっ、やば――――

 

 堰を切ったように、ウマ娘の雪崩が発生した。

 

「あっ!」

 

 友人根岸が声を上げたときにはもう遅かった。

 

 すでに教え子たちは、フジキセキの逃げ場をなくすように、群がっていた。

 

 ――――わあああああああああああああ!!!

 

 すごいすごい本物だフジキセキさん!!

 

 よろしくおねがいしますあえてうれしいです!!

 

 あのっ、サインくださいシャツにでいいので!

 

 昔からファンでした好きですフジキセキさんんん!!

 

「ちょっ、ちょっとみんな……!」

 

 フジキセキを覆い隠すように、ウマ娘の壁が出来上がっていた。

 

 こうなれば人間にはどうしようもできない。

 

「たっ、タナベさん、これ大丈夫ですか!?」

「本人が良いならわしは何も言わん」

 

 そんな適当な……。

 

 そう思ってフジキセキのほうに顔を向けてみる。

 

 群がるウマ娘たちを、実に冷静に相手にしていた。

 

 微笑みを崩さず、華麗な立ち姿で。

 

 やはり、抜群のプロポーションだ。

 

 頭のてっぺんからつま先まで、無駄のない線で構成されている。

 

 無駄に曲線が多いわけでもない。

 

 勝負服では、その胸元を強調するような大胆な格好で、どうしても胸部が大きいと思いがちだが、ジャージ越しではそうでもない。ちょうどいい体のラインだ。

 

 見れば見るほど、理想的な体だ。もちろん女性的な意味でもそうなのだが、何よりレースウマ娘として。

 

 こんな娘を、フジキセキを、うちのチームで見れるとは……。

 

 その時、一人のウマ娘が、勢い余って転び、フジキセキに突っ込んでいった。

 

「あっ!」

 

 危ない!

 

 思わず手を伸ばす。

 

 もしどちらかにケガがあれば取り返しがつかない。

 

 けれども、ここからじゃどうにもならない距離だ。

 

 ああっ、あぶない――――!

 

「ふっ――――」

 

 小さな声とともに。

 

 流れるような動作で、その娘の肩に手が添えられた。

 

 転んだその娘は、瞬きの瞬間に、フジキセキの両腕の内に収まっていた。

 

 何が起きたかわからないその娘は目を白黒させる。

 

「――――大丈夫かい、ポニーちゃん」

 

 ささやくような声で、フジキセキは口にした。

 

 たちまち、お姫様抱っこされた娘は、顔を紅潮させた。

 

「ぁ――――――ッ、ひゃいっ……!」

 

 周りの娘がいっせいに黄色い歓声を上げた。

 

「きゃああっ! フジキセキさんかっこいいーーーー!!」

「ゼウちゃんうらやましいーー! わたしもやってほしいーー!」

「ちょっといつまでフジキセキさんに抱っこされてるのそこ代わりなさいよ!!」

 

「ダメだこれ……」

 

 友人根岸が、視界の端で顔を覆った。

 

 もう片方の端では、タナベさんがお腹を抱えて大笑いしていた。

 

 結局、全員を引きはがすのに、小一時間かかった。

 

 どうなることやら……

 

 

 

 




お分かりかと思いますが、新時代の扉世界線です。
フジキセキのキャラクターが合っていればいいのですが。どう頑張ってガチャをひいても出てこなかったので、映画で見たキャラクターの印象となんとか調べた情報で書いています。アドバイスがあれば、よければどんどんお願いします。

あと、根岸さんと利根田さんのイメージがどんな感じのイメージのキャラかっていうのもあれば、感想で送りつけてもらえればうれしいです。

もう少しでタイトル通りになると思います。

ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?

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  • ごかってにどーぞ
  • そんなことより続き
  • そんなことよりプリン食べたい
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