――はぁっ、はぁっ、ふっ、ああっ――――
どこか深いところから這い上るように意識が浮上してくる。
それと同時に、熱いものが込みあがってくる。
意識が覚醒を拒んでいる。
起きれば、この痛みを直視しなければならないから。
「――ぐっ……あっ……!」
今まで一度も痛んだことのない場所が痛み、わたしはたたき起こされた。
まばゆい光が脳に飛び込み、ひらいた目がすぐに細くなる。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
幸いなことに、痛みのピークは起きたその時だけだった。
引いていく波のように、わたしの体は沈静化した。
「ああ――――」
ここ、どこ。
ずいぶんと、ながく、気を失っていたような気がする。
そう。段差を踏み外して、転んだんだ。
まさかそれで気絶するとは思わなかったけれど。
周りの子には迷惑をかけちゃったかな。
「ッ……!」
体を起こそうとしたら、きゅうに右の側頭部がずきりと痛んだ。
おもわずてを当てると、そこにはガーゼのようなものが貼られていた。
ああ、ここをぶったのか。
いくら私の体が弱いと言っても、頭蓋骨はしっかりと役目を果たしてくれたらしい。
というか、わたしがいるのは、保健室のベッドの上かな。カーテンがひかれている。
悲しいことに、ここのお世話になったのは一回だけじゃない。なんどか体調を崩したりして、寝こませてもらったことがある。
でも、気絶したのは、さすがに今回が初めてだ。
いま、何時だろうか。時計は――ついてない。
服は――――あれっ?
服、これ……。
いつものスーツじゃない。トレーナーバッヂもついてない。
病人用の服だ。
着替えさせられた? でもいままで、こんなことは一度も――――?
もしかして、かなり長い間気絶していたから、服を変えさせられたのかもしれない。
だったら、なおさら、わたしはいつまで――――
音がして、カーテンが開け放たれた。
「利根田さん、おきましたか――――おや?」
「……どなた、ですか?」
見知らぬ顔だった。
いつもの、保健室の先生じゃない。
お年を召された、白衣の男性だった。
そして、開け放たれた、カーテンの向こう側。
そこから、向かいにあるベッドとカーテンが見えた。
「――――えっ?」
ここ、保健室じゃない?
じゃあ、一体――――。
思わずベッドから、わたしは跳ね起きた。
「と、利根田さん!」
男の人が驚くのをお構いなしに、わたしはベッドから離れた。
そして右をみると――――そこには窓が。一面、ガラス張りの。
とっさにそこへ駆け寄った。
――夜だった。そして、ここは保健室じゃない。
だって、保健室が――――夜の東京を、こんな高いところから眺められるところに、あるわけないんだから。
「利根田さん、落ち着いてください!」
うしろから声がして、わたしの肩に手が置かれる。
わたしは振り返って、聞いた。
「こ、ここは、どこですか」
「ここは府中病院です。トレセンから気絶したあなたが運ばれて、ここで寝ていたんです」
うそ……。
「いま、何時ですか?」
するとの人が、時計を一瞥して答える。
「五時ちょうどです。だいたい、四時間近く寝ていました」
「うそ……!」
「あっ、利根田さん、どこへ……!」
わたしはその人のそばを通り抜けて、病室から廊下に飛び出た。
ダメだダメだダメだ。
今日だけは、ぜったいにトレセンにいないと……!
「利根田さんっ、とまってくださいっ!」
静止の声を聞かず、わたしは廊下を駆けていた。
今日は、模擬レースの日だ。チーム『ホトオリ』全員でやる、模擬レースの日。
月に一度あるかないか。出走ゲートを予約して行う、本格的な練習。
そして、今回はフジキセキもいる。
皐月賞本番前の、重要な練習日……!
あっ、エレベーター……! ちょうど、行くところ……!
「すみませんっ、待ってください!」
閉じかけた扉が再び開く。
「すみませんっ、乗せてください……!」
驚く親子が乗るエレベーターの中に、わたしは滑り込んだ。
「ふうっ、ふうっ……すみません、すみません……」
謝罪しながら、わたしは切れた息を整えた。
ぽちっ、と一階に向かうボタンを押す。今いる階は、五階みたいだった。
あっ、そういえば、服とかどうしよう……財布とかも持ってない……。
いや、とりあえずどうでもいい。誰かに電話を貸してもらって、なんでもいいから、友人根岸にだけは連絡を入れないと……!
「おねーさん、だいじょうぶ?」
「えっ」
小さい男の子が、わたしに聞いてくる。
「あたま、けがしてるの、だいじょうぶ?」
「あっ……これは、ちょっと打っちゃっただけで、大丈夫だよ」
「あっ、すみません、うちの子が」
すると、隣のお母さんが申し訳なさそうに言う。
「でも、あたまのケガだよ? レースで転んだりしたのかな?」
男の子が、わたしの頭を指指して言う。
「こーら、指ささないの。すみません、ご迷惑をおかけしまして……」
そう言って、親子は止まったエレベーターから降りて行った。
……ん?
……え? レース……? って言った……?
その時、ちら、と、目の端に、エレベーターの鏡が入った。
「――――え?」
右側頭部に、ガーゼをつけたわたし。
服は病院の服。
でも、顔はわたし。
この貧相な体もいつものわたしと変わらない。
ただ――――あたまの上に、二つの耳が付いていること、以外は。
「ええええええええええーーーーーーーーーーーー!?」
わたしの絶叫が、狭いエレベーターのなかに響いた。
ウマ娘やトレーナーのステータス的なものは必要ですか?
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いる
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いらない
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ごかってにどーぞ
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そんなことより続き
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そんなことよりプリン食べたい