ホタルとずっといっしょがいい   作:糖分ピーチ

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 一応、この小説での開拓者の名前は:星(ほし)の読み方です。


ただいまピノコニー

 

 ピノコニーへの跳躍の最中、私の視界は反転し、紫色の長髪の女性、黄泉が一人佇む不可思議な世界へと迷い込んだ。

 

 「………黄泉

 

 ………黄泉の名前も呼べないか。後で少し、このことについても整理した方がいいかもしれない。

 

 「何も心配することはない、あなたはすぐにこの夢から目覚める。ここでの出来事はすべて忘れ、かすかな落胆が残るだけ……こうした「忘却』は朝を迎えるたびに起こっている。私たちにとっては、すでに慣れ親しんだ日常だ。…ついて来い、あなたを家に連れて帰る」

 

 会った途端「また一人……」だとか「ついて来い……」と言って、見事に状況の説明をしてくれた黄泉は廊下を渡ってはるか先へ行ってしまった。

 

 めんどくさいと思いつつも道すがら敵を倒し、文字通り360度回転する夢境を練り歩きながら黄泉についていく。

 

 「ぅおっ………」

 

 何度かこの壁や天井を歩かされる体験はしたが、どうもこの感覚にはなれない。

 

 「周りにいるのはただの夢境の影だ。気にしなくていい………もうすぐだ、ついてこい」

 

 星核ハンターの銀狼とサム。ロビンやサンデーなど、知らない顔もいるけど、大体が顔見知り、これって随分な確率じゃないかな。その事は頭の片隅に置いておき、再び黄泉の後につく。

 

 「ホテル・レバリーへようこそ!忘れられないリゾート体験をお楽しみください!チェックインが必要な方はフロントまでお越しください!」

 

 「………着いたな」

 

 不思議な雰囲気を纏った水色髪の少年が元気よく声を上げる。黄泉はその少年に見向きもしない。黄泉が気にしてないってことは、たぶん彼も意志のない夢境の影とやらなんだろう。

 

 「ここから出ていくんだ。いつもと同じように目覚め、この偶然の出会いを忘れ、元居た場所に戻るといい。ただ…別れる前に、1つ訊きたいことがある。少し奇妙に思うかもしれないし、失礼だと感じるかもしれないが、それでも教えてほしい……」

 

 長い前置き、これから彼女のする質問はそれほど彼女にとって重要な意味を持つものなのか。

 

 「……私たちは、どこかで会ったことがあるか?」

 

 この質問は、前回………つまりこの世界ではない世界でも聞かれたことだ。もちろん、その世界での私は黄泉と会ったことがある。でも、今の私(・・・)はまだ会ったことはないはず。黄泉のこの質問はどういった意味を持っているんだろう。

 

 「どうだろう………わからない」

 

 「あなたは昔の友人を彷彿とさせる。臓げな記憶だが、私と彼女は親しい間柄だったが…この奇妙な夢のように、近くにいるのに手が届かない存在だった」

 

 「…もう少し訊いてもいいか?私は…よく忘れてしまうから、記憶よりも「感覚」で物事を捉えるようにしている。答えが正しいか否かは重要じゃない。重要なのは…その時のあなたの反応だ。たとえば…客室で目を覚ました時、あなたはいくつかの名前を咳いていた。彼らは仲間か?家族か?それとも敵か?あなたは多くの人々、多くの物事と強い絆を結んでいるようだが……」

 

 「その絆を失うことに、恐怖を感じるか?」

 

 絆を失う………嫌に決まってる。前回は「そんなものは全然怖くない」と答えた。だけど私はもう知ってしまった。絆を失う恐怖を。

 

 ベロブルグで一般のシルバーメインやブローニャの母が死を経験する場面は見たことがある。でも彼らとは絆を結んだとは言えない程度の関係。あの時ジェパードが、ブローニャの感じていたであろう感情があまり分からなかった。彼らは強かった。大切な仲間や、家族を失ってもそれでもなお戦い続けていたのだから。そんなこと、今のような時間を超越する程の救いがなければ私にはやろうとは思えなかった。

 

 「絶対にそんなことは許せない。その原因が悪意を持っていたのなら私がその犯人に報復をしてやる」

 

 「ふむ……そうか。あなたには随分と深い絆を結んでいる人がいるようだ。すまない、そんな顔をさせるつもりはなかったんだ」

 

 そんな顔……?私、なにか変な顔してる?ふと気になってスマホの鏡で自分を写してみる。すると、眉が寄って目をキッと強張らせ、固く口を結ぶ自分の姿があった。気づかなかった。自分のこんな怒っている表情を見るのは初めてだ。

 

 「そうだな………仮に巨大で、現実との区別がつかないほどリアルな夢境があったとしよう。そこには別れがなく、誰もが満足感と幸福を得ながら、永遠に楽しく生きていくことができる」

 

 「あなたは、その中で暮らしたいと思うか?」

 

 塞ぎ込んでいた時の私なら、その夢に縋っていただろう。

 

 「それは、時期と代償次第かな」

 

 「なら…その美しい夢が壊れ、あらゆるものが消えてしまうとしよう。友人、家族、大切な人、赤の他人…そして爽やかな風、空を飛ぶ鳥、星々…最後には、あなた自身も」

 

 「全員、彼らの記憶の中の全員、その笑顔も涙も、果たした約束も果たせなかった約束も…最後には、すべてが定められた結末に向かっていく。旅立ちの時から、その旅の終点を知っていたとして……」

 

 「あなたは、それでも旅を始めるか?」

 

 前回の私の結末は悲惨で虚しいものだった。けど、だからと言ってその結末までの過程が無駄だった訳じゃない。世界にとっての些細なことでも、私にとっては大事な思い出だから。その思い出を大事にしたい。

 

 「迷わず開拓を続ける。この世界の全てが虚しく意味の無いことだったとしても、それでも抗うことを諦める理由にはならない」

 

 「そうか………ありがとう。難しい問いだということはわかっている。今すぐ決断する必要はない。言っただろう……答えは重要ではないと」

 

 「耳を傾け、手で触り、考える。そうすることで感じ取れるものがある。それを大切にして、その感覚を頼りに選択すればいい。それで、最初の質問に戻るが……」

 

 「あなたは、私のことを覚えているか?」

 

 「どうだろう、私にもよく分からない」

 

 同じような質問を同じような回答で返す。最初の質問を最後に繰り返すことになんの意味があるのか。黄泉の考えていることはあまり理解できない。

 

 「……わかった」

 

 「面白いな。さっきは無数の似て非なるあなたが、それぞれまったく違う答えを出しているようだった。今のが本当に最後の質問だ。ありがとう、私たちにはそれぞれ進むべき道がある。ここで別れることにしよう」

 

 黄泉は優しい微笑みを浮かべながら別れの言葉を告げると、腰に刺した長刀に手をかける。

 

 「あなたにはこれから苦難と、幾つもの挫折が待っているだろう。しかし、心配することは無い、あなたの世界がモノクロになり、何も見えなくなったとしても、そこには一抹の赤が現れる。あなたはこの言葉を深く胸に刻み、目覚めの世界へと帰るといい」

 

 黄泉が一瞬にして私の横を過ぎ去り、切られたのか、殴られたのか、胸が爆発し、夢のような綺麗な虹色の血飛沫が宙を舞う。

 

 そして、視界は反転する。目の前に見える景色は歪み、赤となり、いつの間にか見慣れた星穹列車のロビーへと戻ってきていた。

 

 「オイ、どうした!?な、なんで泣いておるんじゃ?」

 

 「え?………あ、ほんとだ」

 

 パムの言う通り、私の目尻には、一筋の涙が伝っていた。

 

 「怖い夢でも見たか?」

 

 「………ううん。美人なお姉さんを追いかける夢だったよ」

 

 「そ、そうか………まぁいい。お前さんが寝ている間に列車はピノコニーに到着したぞ!オレは列車から降りれんからな、三月ちゃんが荷造りして待っておるから、存分に楽しんでくるのだぞ」

 

 「うん、わかった」

 

 目を片手でゴシゴシと擦り、パムに言われた通りなのの部屋へとは向かわず(・・・・)に、なのの部屋を通り過ぎて自分の部屋へと入る。

 

 よし、まずは状況の整理をしよう。そろそろピノコニーに降りる。突然の出来事に深くは考えてなかったけど、何も考えずにこのまま行ってしまえば結末は変わらない。ホタルはもう絶対に失わない。絶対に守る。

 

 まずは、紙に私の知っているこれからのピノコニーで起こることを書き出そう。

 

 私が既にこの世界でも体験したことは…………

 

・黄泉と夢境で出会い、不思議な体験をする

 

 この一つだけだと思う。これは別に特筆することは無いはず。これからのことを考えよう。順番に記憶を辿り、私のつけ入るポイントを見つけていこう。

 

 1.ホテルのチェックイン前後でトラブル

 

 2.黄金の刻を観光する途中でホタルと出会う

 

 3.列車のみんなと合流しようとしたところ、仮面の愚者の妨害に会う

 

 4.ホタルと共に迷い込んだ夢境でブラックスワンに助けられ、ホタルと離れる

 

 5.銀狼の誘いに乗り再び戻った夢境でホタルを失う

 

 あまり細かいことは書かずに、大まかに出来事を復習するように書いていった。頭のいい丹恒のやりそうなことを真似してみたけど、正直これを見てもどんでん返しの新しいヒラメキとかは発生しなかった。だけど、これを見てひとつだけ分かることはある。ホタルから離れなければいい。仮面の愚者に襲われなければ、離れるきっかけとなった記憶域ミームにも出会わないはず。その後どんな障害があったとしても、一緒にホタルとくぐり抜ける。少し粗末な作戦だけど、これが一番効果的だと思う。…………お?文字が………

 

 1.ホテルのチェックイン前後でトラブル

 

 2.黄金の刻を観光する途中でホタルと出会う

 

 3.列車のみんなと合流しようとしたところ、仮面の愚者の妨害に会う

 

 4.ホタルと共に迷い込んだ夢境でブラックスワンに助けられ、ホタルと離れる

 

 5.銀狼の誘いに乗り再び戻った夢境でホタルを失う

 

 紙に書いた文字がじわじわと歪み、消えていってしまう。まさか、この世界では文字や人の名前を書いたり言ったりすることが禁止されているとかじゃないよね。この面倒な言葉や文字をめぐる問題も、解決しないと。

 

 紙に適当な文字を書く。

 

 

 ゴミ箱を除く時、ゴミ箱もまたこちらを覗いている

 

 

 ………何も起こらない。やっぱり今までの具合を見るに、前回の世界の知識を使っている言葉だけはダメなのかな。試しに紙に「姫子のコーヒーはマズイ」「ホタルは美少女」「サンポは偽物」と書いてみる。

 

 ・姫子のコーヒーはマズイ

 

 ・ホタルは美少女

 

 ・サンポは偽物

 

 どうやら、私の考えは合っていたみたいだね。前回の知識を他人にひけらかすことは出来ないってことか。でも、私は現にその知識を元に行動することができている。つまり、ホタルに私の本当の目的は伝えられないから自分でなんとかホタルと一緒に行動するようにしないといけないってこと。一人でやるしかない。

 

 なんだか、思っていたよりも大変なミッションみたいだ。

 

 「星〜?もう私準備できてるよ?早くピノコニーに降りよう?なんだか姫子たちチェックインに戸惑ってるみたいだし………」

 

 おっと、もうなのの準備ができてしまったみたいだ。早く行かないと。

 

 「うん、わかった。今行く」

 

 急いで立ち上がり、ドアに手をかけようとした時、不意に頭へと危惧すべき状況が思い浮かんだ。紙に書いた自分の文字を見る。

 

 ・姫子のコーヒーはマズイ

 

 この一文はよろしくない。消しておくのがベストだろう。私は傍にあった消しゴムを手に取り、力強く紙を擦った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なのと共にホテル・レバリーへ着くと、そこには姫子とヴェルトに加え、アベンチュリン、ロビン、そしてサンデーがいた。どうやらもうチェックインの問題は解決間近になっちゃったみたいだね。

 

 「あら?彼らが残りのナナシビトの方々かしら?」

 

 「えぇ、そうよ。二人とも安心して、こちらの方々のおかげで無事にチェックインできそうよ」

 

 「あれ………?アンタは、じゃなくてアナタは………もしかしてロビンさん?!」

 

 「私のこと知ってくれてるの?高名なナナシビトさんに知っていただけて光栄だわ」

 

 なのがロビンとミーハーな会話をしているのを横目に、サンデーとアベンチュリンを見やる。日曜日さんのことはよく分からないが、アベンチュリンは少し危ない匂いがする。警戒するに越したことはない。

 

 「ご迷惑をかけて申し訳ない、お詫びに部屋を少々アップグレードさせていただきました」

 

 忘れてた!この日曜日は部屋をアップグレードしてくれる日曜日だった!たぶんこいつは良い奴に違いない。

 

 ロビンやサンデーとの会話は年長者たちに任せ、私はホテルの中が待ちきれないなのと一足先にホテルの休憩室を拝見し、しばらくすると年長者たちも遅れてやってきた。

 

 ヴェルトはこの宴に違和感を感じているという。招待状に隠された質問、暗躍する各派閥。実際、私はこの夢の国に死と暗殺を暗示するモンスターがいることを知っている。この星は夢の国などではなく、列記とした闇が巣食っているのは確かだ。

 

 「では各自、自室で夢へと入りましょう?さっきのことも確かに気をつけるべきだけど、せっかく来たんだもの、楽しむことも重要よ」

 

 「賛成〜!早く夢に部屋に行こう!」

 

 なのは高らかに声を上げて階段を駆け上がり部屋へと走っていってしまった。相当楽しみにしていたんだろう。既に難しい話は頭から飛んでしまっているらしい。

 

 「では、俺たちも行くとするか」

 

 ヴェルトの号令を合図に、各自好きなように解散しだす。私も部屋へと向かいたいところだが、部屋には金髪の男が既にいることわかっているので、少々気が乗らない。彼の話は長いので、ダイジェストで飛ばしてしまおう。

 

 思った通り部屋ではアベンチュリンが待ち構えており、私に対して協力しようだとか、マイフレンドだとか言ってきた。姫子がアベンチュリンに友達云々言っていた時に私はいなかったはずなのだけど、既に彼の中で星穹列車はもれなく全員フレンズなのだろうか。

 

 「私の部屋で………何をしている?」

 

 例の如く黄泉さんが現れ、その場は事なきを得た。ちなみに黄泉さんはロビーへの道をしっかりと迷っていた。もちろん私が案内してあげた。

 

 ということで、長い前置きを耐えて、ようやく夢へと入ることができる。お腹にしっかりと新しい空気を入れて水に浸された貝殻に横たわる。

 

 ゆっくりと意識が朦朧となり、視界が暗転する。ドリームプールの冷たい液体が腰にかかり、アナウンスの女の声は耳元で囁かれ続け、夜の鐘の音に合わせて、野風に吹かれた荒野がざわめいた。ツグミ、カモメ、ワタリガラスの叙唱が響く……振り子が揺れ、私はどんな夢に落ちるのかと期待しながら、眠りにつく……

 

 『ゆっくりと体の起伏を感じてください』

 

 『呼吸に集中して、楽園を想像して………』

 

 『夢の地を想像してください……』

 

 目が目覚めると既に数回来た記憶のある夢境のホテルの一室へと来ていた。慣れた手つきで聞き覚えのある声の聞こえてくる額縁に手を触れ、光とともに吸い込まれる。

 

 その光の先には水色髪の少年。軽い挨拶を交わし、黄金の刻に入れるもう一つの額縁に触れる。

 

 前回の私はこの時かなりわくわくしていた。知らない宴の景色や、娯楽の数々、興奮しない方が無理がある。そして今の私は、また他のことで愉快な気分になっている。なんたってこの夢の国で私は、最高の出会いをするのだから。

 

 「……ん」

 

 額縁に触れた瞬間、体が黄金の刻の上空へと放り出された。この初心者殺しのシステムは一体何なのだろう。インパククトを与えるには少々過激すぎやしないかな。私は既にこの夢に何回も来た上級者なので、フワッと優雅に着地する。今の私なら初心者着地チャレンジで優勝出来たことだろう。が、私の初めてを今失ってしまった。なんともったいないことを。

 

 周囲をぐるっと見渡す。なのからはメッセージで夢境ショップをおすすめされているが、まぁそれはいいだろう。前回体験した夢をもう一度見ることもない。よし、今すぐホタルに会いに行こう!ホタルに会う場所は………確かオーディショッピングセンターの…………どこだろう。あんな特徴のない壁の場所なんていくらでもある。こいつは大変だ。ホタルを出待ちできないじゃないか。

 

 確か私は前回ショッピングしながらぶらついていた時に騒ぎの声が聞こえてきたのがきっかけだったっけ。じゃあつまり、私は食べ歩きをするべきだ。そうと決まれば話は早い。イカ焼きを両手に持ち、道の真ん中に落ちていた奇怪なサングラスを頭の上に装着する。気分は大金持ちだ。私の類まれなるルックスと頭サングラスが合わされば最高のファッションへと昇華するんだ。

 

 そしてオマケに宙に浮いたアイスを舐めていると……

 

 「あっちに逃げたぞ!捕まえろ!」

 

 ついに来た!ヒーローの出番だよ!

 

 騒ぎのする方へ全力でダッシュし、二人の警官に追いかけられているうら若き美少女を発見する。思わず、目尻がムズムズして、涙腺から涙が出そうになるが、ここは我慢しないといけない。ホタルが、しっかりと目の前にいる。この事実を噛み締めよう。

 

 「逃がすかこの密航者め!」

 

 ホタルは周囲を見渡して私の方を向いて顔をピタッと止めると、少し表情が軟化する。そして………

 

 「ご、ごめんなさい。少し手を貸して!」

 

 ホタルは前回と同じように私に助けを求めてきてくれた。道行く人たちの中で二回も私を選ぶなんて、やっぱりホタルはセンスがあるね。その期待にしっかりと応えないと。

 

 私はイカ焼きを持った両手をしっかりと組み、胸を張って、大きい声で宣言する。

 

 

 「美少女を守るのは当然!」

 

 

 

 

 





 ホタルに早く会いたいので長ったらしいアベンチュリンとの会話はぶっ飛ばされました。次回はデートです。一応言っておきますと2〜3万字あります。星ホタ小説なので。分割されて投稿されることでしょう。
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