挿絵は素人クオリティです。雰囲気だけでも。
やっとホタルが出せて嬉しい。
「美少女を守るのは当然!」
銀髪のうら若き美少女が時間が巻き戻っても変わらず自分に助けを求めてきてくれた。ならば私は、無条件に助けるべきじゃないか!
「あっ、うん……ありがとう」
「なんだコイツは!?共犯者だな!覚悟しろ!」
なんとも愉快な反応だね。でももう少し喜んでくれてもいいんだから!ホタルにとっては初めてでも私にとっては待ち望んでいた瞬間なんだからね!警官二人なんてもう攻撃態勢に入っちゃってる。どこからともなく現れたスラーダ犬や謎のテレビモンスターもやる気みたい。でもな………ちょっと今はそういう気分じゃないかも。
「う〜ん。よし、これ持って!」
「えっ!?あっ、うん………イカ焼き?」
「じゃあ走るよ」
「あっ、戦わないの?!」
「だって今そういう気分じゃない」
「気分って…………ぅわっ!」
この短時間で私の両手を独占していた敏腕助手のイカ焼きの片方をホタルに手渡し、イカを持っていない方の手を引いて全力疾走する。ホタルは「あわわわわっ!」と声を上げているけど(かわいい)、意外に体勢は崩すことなく私についてくる。
やっと会えた。あの時私には何も出来なかった。後悔と歓喜が激しく混ざりあって、膨張して、胸が破裂してしまいそう。私がホタルと過ごしたのは少しの時間だけど、その思い出は今でも熱く脳裏に焼きついている。感動的な邂逅を果たしたかったけど、我慢できそうにない。………ちょっと話しかけてみよう。
「おはようお嬢ちゃん、今日の調子はどう?」
「えっ?!えっと………楽しい一日になりそうだなって………感じかな………?」
なんか違う。ブローニャが大守護者になったから彼女の権力で好き勝手しようと思って部屋に行った時に見つけた本にはこれでイチコロって書いてたんだけどな。
「君、可愛いしスタイルもいいよね。これからウチ来る?」
「そ、そういうのはまだ早いかな…………あはは」
"まだ"早い………?これはあの本に書いてあったOKサイン。さすがブローニャ、どうやらあの本の効果は本当みたいだね。走りながら会話をするこの特殊なシチュエーションも良いスパイスになっている。そしてここで更に本当の自分を出しておくことで親密度のアップが期待できるんだっけ。
「それはそうと、最近私ゴミ箱についての論文を天才クラブに提出しようかなって考えてるんだけど、どう?」
「ど、どうって………素敵な目標だね」
「そう、ありがと…………あっ、もうあいつらいなくなったみたいだね」
「う、うん………そっか」
人の第一印象はその人に対する印象の八割を占めるらしい。私のファーストコンタクトは上出来だね。ブローニャの『女の子攻略必勝ブック』は本物だった。
私は走ってついた汚れをぱぱっと払い、ホタルは手で乱れた髪を整える。
「なんだか不思議な感じになっちゃったけど………さっきは君のおかげで助かったよ!危うく………連れて行かれるところだった」
「美少女の力になれて光栄だ。こちらこそありがとう」
「あっ、そうかな?どういたしまして………えっと、それで………ずっと思ってたんだけど…………君ってナナシビトだよね?ピノコニーに来るのは初めて?」
「よくわかったね。見る目がある」
「君が星穹列車のバッジをつけてるから。スクリーンで見たことあるんだ!」
「君たちが銀河の各地を旅してることも知ってる。今回はファミリーに招待されて来たんでしょ?あたし……あたし、君を案内してあげられるよ!」
「ハウンド家には密航者と間違われたけど、あたしは地元の人間なの──アイリス家の役者で「ホタル」っていうんだ!まあ、ただのエキストラなんだけどね……」
…………私はホタルが密航者だってことも知ってる。でも、それと同時にホタルが悪い人じゃないってこともわかってるし、信じてる。
「公演がない時は、グラークス通りの近くでガイドの仕事も引き受けてるの。もしよかったら、色んな面白いところに連れて行ってあげる。ちゃんと仕事をしてれば、取り締まられることもないだろうし………」
だから、仕事なんかじゃなくて、一人の友達として、ホタルとは歩きたい。
「じゃあホタル、デート。だね」
前回黄泉にからかわれた時はデートじゃないって言われちゃったけど、なら最初からデートにすればいいよね。
「で、でーと!?ま、まぁなんでもいいけど………」
ホタルは頬の横にある綺麗な銀髪を人差し指でくるくると巻き、下を向いて俯いてしまった。私とホタルの身長的に頭頂部が見えてしまうので小さな子供みたいでとってもかわいい。そんなかわいらしい頭に手が伸びてしまうのは必然だし、仕方の無いことだ。
「うん、じゃあ決まりだね」
「あわ、頭撫でないで………」
なんてこった。こいつは劇薬だね。思わず西部ドラマの口調になってしまう。さらさらとした銀髪は引っかかることもなく、ほんのり甘い匂いがする。これがイマドキ女子の匂いってやつか。
「そ、それで………君の名前は?」
おっといけない。まだ私の名前を伝えてなかったなんて、とんだ失態だ。
「私は星。他には開拓者って呼ばれたりもするけど、親しい人は星って言ってるからホタルにもそう呼んで欲しい」
「あたしも………呼んでいいの?」
「もちろん、ホタルと私はこれから仲良しの友達になる運命だからね」
「運命…………うん、ありがとう………ほ、星」
「うん、よろしくね、ホタル」
ホタルの名前を言っても、世界にかき消されない。しっかりと相手に伝わって、自分でも聞き取ることが出来る。大切な友達の名前を呼べるって、幸せなことなんだね。ちょっと感激する。
「じゃあ、行こう?こっちだよ、星」
「うん、了解」
私の手の平からいなくなってしまったホタルの背中を追いかけ、すっかりガイドをするホタルについていく。
「ほとんどの人が夢に入って最初に行く場所といえば、オーディ·ショッピングセンター!ここの夢境ショップはすごく有名なんだ。その他にも、いろんなブランド品とか、洋服とか、流行のおもちゃ屋さんとか…それからカーディーラーまであるの。十分な「ルーサンコイン」があれば、どんなものだって買えるよ。そういう商品は夢の中で使えるだけじゃなくて、追加サービスを利用すれば現実世界に「持ち帰る」こともできるの。でもカーディーラーの窓口は最近公開されてないから…車を買うのは別の機会にし………」
持ち帰る………ホタルをお持ち帰りしたいな。あっ、そういえばブローニャの本にその時に有効な仕草が……
「ショッピングセンターの外側は広場になってるの。ほら、こっちに………あれ?星ちゃんと聞いてる?」
「………えっ?あ、うん。聞いてる聞いてる。それで……なんだって?」
まずいまずい、前回も聞いた内容だからあんま聞いてなかった。ホタルには嫌われたくない。ちゃんとしないと。
「いきなり説明ばっかりじゃ疲れちゃった?じゃあ少し休憩して、何か食べながら話そっか!奢ってあげる!」
奢ってくれる!!………じゃなかった。確か前回渡されたお金を全部使ったらすごい悲しそうな顔をされちゃったんだよね。しっかりとホタルの金銭事情を聞いてあげないと。あんな可哀想な顔はさせたくない。
「ここのオークロールはあたしのお気に入りで、一日一個は食べてるんだよ!本当はもっと食べたいんだけど………それで、ええっとお金は………」
ホタルが懐からお財布を取りだし、少し逡巡すると、なんとお札の入っている場所から全てを取りだして私に渡してきた。その数二万信用ポイント。
なんて…………なんて寂しいお財布事情なんだ!何を頼むかばっかり考えていてホタルのお財布事情を気にもしなかった過去の私が恥ずかしい!
私はホタルのなけなしのお金を握りしめた手を上からギュッと覆う。
「ホタル………大丈夫。そのお金、ホタルの全財産なんでしょ?」
「ま、まぁそうだけど………よくわかったね。ほら、あたしって貧乏だからね……あはは……」
「安心してホタル、私って結構お金持ちだから」
「で、でも助けて貰ったお礼を………」
引き下がる様子のなさそうなホタル。正規の方法で夢境に入らない密航者。それって現実でもお金に困ってるってことなんじゃないかな。ここで奢られてるようじゃ私の名が廃っちゃう。
「ホタル、私の端末見てみて。右上の金額」
スマホの画面を開いてホタルの前に堂々と私の残高を公開する。
「あ、うん。えっと…………いちじゅうひゃくせんまん…………じゅうまんひゃくまん…………2000万ポイント……!?」
目を大きく見開いてびっくりするホタル。指でもう一度確認しながらブツブツと呟いてる。
「ニセンマン?私の1000倍………ってこと………?」
「だから言ったでしょ?私お金持ちだって」
「へ、へぇ………星穹列車って結構儲かるんだね……」
「開拓を続けているといつの間にか溜まってるんだよね。敵を倒したらお金は自然と入ってくるし」
「倒したらいつの間にか?そんなはずは……………それならあたしだってたくさん………」
ホタルが不思議なものを見るような目を私に向けてくる。おかしいな、本当に敵を倒したらお金が落ちてくるのに。
「ま、これでわかったでしょ?これは私のガイドをしてくれるお駄賃だと思って遠慮なく使って?」
「でも恩人のお金だし………」
やはりホタルは強情だ。ここは奥の手を使うしかない。
「…………オークロール、一日一個だけじゃ足りなくない?」
「…………え?」
「私の目の前で美味しそうに食べるだけの簡単なお仕事」
「えええ?」
「このお得な求人は先着一名だし、あと10秒で締め切るよ」
「10……9……8……」
「ちょ、ちょちょっと星!?」
「7……6……5……」
「あ、えっと」
「4……3……2……」
「わわわ、わかった!そのバイト、応募する……!」
「ん、契約成立だね」
満足そうにする私と、おどおどと慌てて両手をバンザイしているホタル。傍から見ればなんとも滑稽な光景だろう。
「じゃあ一緒に、注文しよっか。ホタル」
「……うん、ありがとね。星」
ニコッと嬉しそうに笑うホタルに私も笑みを返す。このホタルの笑顔が少し儚げに見えるのは考えすぎかな。
二人で一緒に店員の元へ向かい、オークロールと、ピザやハンバーガーをたくさん注文する。
食べ歩きには向かない量になってしまったけど、特に急ぐこともないし、ゆっくりしていこう。
注文を終えて商品を受け取って近くのベンチへと腰掛ける。ホタルが所々で好きと言っていたこのオークロール、正直これは前に食べたっきり食べれる気がしていない。
「ホタル……このオークロールの味って……」
「うん!植物を丸ごと食べてるみたいでほんとうに美味しいんだよ!」
「へ、へぇ………そう。じゃあこれは全部ホタ」
「植物由来の添加物がたくさん含まれていてね!樹木の渋みがコーヒーと合うの!星にもこの味をわかって欲しいなぁ………みんな、『貴女の舌はおかしい!』っていうんだよ?」
「そっか………あ」
ふと隣のテーブルを見ると、知らない男女のカップルがケーキを食べさせあってニコニコと楽しそうにしていた。
ふむ………これは使える。
「ホタル、口開けて」
「え、そ、それって………」
「そう、あ〜んだよ。あ〜ん」
私はオークロールを一口サイズに切り分け、それをフォークで刺してホタルの面前に差し出す。
「こ、こんな人目のあるところで………?それはちょっと………恥ずかしいかな………なんて」
「あっちのカップルは普通にしてるけどね。どうして?ホタルは私と仲良いところを見られたらマズイことでもあるの?」
「え、それはカップルだから………」
「私たちだってデート中だよ!!」
「っ……!確かに……!」
隣のカップルがビクッと反応し、少し気まずそうにしてこちらをチラチラ見ている。何、文句あるの?
「じゃあできるよね?私はホタルと仲良くなりたいんだ。ホタルとはなんだか、もっと親しくなれる気がしてるんだ」
このオークロールはホタルが食べるべき。だってホタルはオークロールを食べるのが大好きだし、そもそも今は私の前で美味しそうに食べる仕事中なんだから、職務放棄は許されない。断じて私が食べたくないわけじゃないことは断言しておこう。それに、ホタルにあ〜んしたら面白そうだし。
「それは………うん、そう………だね。じゃ、じゃあ行くよ……!」
「ホタル、はい、あ〜ん」
「あ、あーっ………ん」
薄く柔らかいホタルの唇が、銀色のフォークで少し歪み、私の手にフォーク越しにその柔らかな弾力が伝わってくる。
「ホタルの口ってやわらかいね……」
「ん゙っ!」
ホタルがびっくりした顔をして声を漏らす。私そんな変なこと言ったかな。
ホタルは驚きつつも、そのオークロールの味にご満悦のようで、だんだんと頬が緩んで口角も少し上がっていく。もう口からこれ出しても大丈夫かな。
「……んっ」
ホタルの口から出したフォークは少し残った茶色い生地が口内の唾液で光沢を持ち、扇情的な輝きを携えている。
「おいしい?」
「お、美味しいよ………星」
もう一口食べさせてみよう。二切れ目をフォークに刺してホタルに再度差し出す。
「あ、あ〜ん………」
私が二切れ目を取ったのを見て今度はホタルから口を開けてくれた。同性の友達に何かを食べさせるという行為は言いようもない背徳感が感じられて、少し心がむずむずする。まるでホタルがペットのような、そういった所有欲が満たされていく。
「はむっ…………」
少し口を閉じるのが早すぎた。ホタルの口の中には半分程度しか入っていない。
「あっ………ごめん緊張しちゃって……」
「ホタルって空腹のリスみたいだね」
「ほ、褒めてるの?」
ホタルの口から戻ってきたフォークを見る。ホタルの食べ方が甘かったので、フォークには4割ほど元のオークロールが残っている。この量なら私へのダメージを少し抑えられるかも。
「ん………」
ぱくっと………フォークについた残りのオークロールを食べてみることにした。
「ちょ……!星!?」
ホタルがびっくりして大きな声を出して立ち上がるが、特に反応を返さないでおくと、周囲から寄せられる好奇心に満ちた視線に気づいたのか少し頬を赤らめながら静かに元の席に座った。
「星は大胆だよ………」
「別にいいでしょ?」
「い、いいんだけどね………」
頭をポリポリ人差し指でかくホタル。そんなに気にしなくたっていいのに、私たちは友達なんだから。
「………それで、どうかな?味は気に入った?このオークロールの」
まだ気持ちが落ち着かないのかおどおどとしたままのホタルに尋ねられて意識を口の中に向けると、渋くて苦いオークロールの風味が口全体に広がって舌が強烈に拒否反応を示しているのがわかる。………それと同時に、ほんの少量の薄甘い唾液の味が微かに感じられる。
「…………まぁ、ユニークな味だよね」
「はぁぁ……………やっぱり、星もこの味わい深さは分からないか………」
「大丈夫、ホタルはかわいいから何したって許される」
「全然フォローになってないよ……?」
ホタルとの会話は途切れることもなくずっと続き、とても楽しいもの。まるでそれは、ずっと前からホタルと私が知り合いだったかのように自然で、お互いが喜びを感じていることを実感できるものだった。まぁ、私はホタルに会うのは二回目だけど。
「……ねぇ、一応聞いておきたいんだけど、星の仲間の人って黄金の刻に来てる?」
「……?さすがにまだ来てないはずだけど」
「さっきから遠くの曲がり角の陰からずっとこっちを覗いてる人がいるんだけど………星の知り合い?大柄で、青い髪で………戦い慣れてそうな人で………あっ、目が合っ………ってどんどんこっちに来てる!」
ホタルが何やら言っているので私も遠くからズカズカと歩いて来ている人影に目を向ける。ん……?あれは………
「おや〜?そこにいるのは僕の大お得意様、星さんではありませんか〜!本当にお久しぶりですねぇ〜」
抑揚があり、雪山で軽く人を裏切ってきそうな男の声。その声に似合う軽薄そうな面立ちの顔がやってきた。
前回のようにエディオンパークにはまだ行ってないのにもう会うとは。ホタルと過ごしていると時間の流れが早いね。
「あぁ…………久しぶりだね。
ホタルとデートはあと二話。
【中編】古い友人、新しい友人
【後編】ベッドの上で
ピノコニーはストーリーが難解で矛盾させないための理解が大変ですね。考察を読むのが楽しい。