世界に名を響かせる。   作:白夜夕夜

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第2話 『最初の一歩?』

 風力発電のプロペラが、勢い良く回っていた。今日は風が少し強いらしい。

「………」

 見りゃわかるどうでも良いことを描写してしまうほど、俺は暇を持て余していた。アレだ、暇を売れば一儲けできるほど暇ってやつ。

 威勢良く家を飛び出した俺だが、今俺は家から少し離れた所にある、風力発電のプロペラの下に立っていた。とあるやつを待っているんだが……遅い。遅すぎる。

 アイツはだいたいいつもこうだよ……あっちが待ち合わせの時間を決める癖に、自分は数十分も平気で遅れて来る。しかも満面の笑みで。でも何故か不思議と怒れないんだよなぁ……俺も甘いもんだ。

「ごーめんヒビキー! 待ったー?!」

 俺の名前を呼びつつ駆け寄って来る、一人の影。

 特徴的な、茶色に染まった髪を両サイドで結び、白い帽子をかぶった女の子。俺の幼馴染であり、旅のお供のコトネだ。

 俺が昨日誕生日を迎えてすぐにこの街を出なかった理由がコイツである。

「めちゃくちゃ待った。超待った」

「……え、あれ? こういう時って今来た所ーとか言うんじゃないの?」

「それはお前の好きな少女漫画だけの話。実際こんだけ待たされたら『うん、待った』とか言いたくなるだろうよ」

 心の深ーい場所に閉じ込めておいた愚痴がコトネの顔を見たことで一気に溢れる。流石のコトネも少し苦い顔をして、

「ゴメンね?」

 と笑った。

「……ちゃんと謝るだけまだいいか」

 全く謝らない日もあるくらいだし、今回はこれで良しとしよう。

 

 ■ ■ ■

 

 待ち合わせ場所から少し歩いた所に、俺たちの旅の最初の目的地はあった。

 この世界には海、草むら、森、洞窟など至る所に『ポケモン』というちょっと変わった動物が住み着いている。そのポケモンを研究している男の人……『ウツギ博士』の研究所が、一番最初の目的地である。

 ポケモンがウジャウジャいるこの世界で旅するには、自分もポケモンを持ってなければ厳しい。故に、ウツギ博士は初心者にも優しいポケモンを、旅立つ子供にくれるのだ。

 ……ちなみにコトネは既にポケモンを持っていて、今はソレ(、、)とジャレついている。

「あはは、くすぐったいよー……」

 コトネの肩に乗り頬ずりをしている、青い丸っこいコイツ。コイツはマリルという名前のポケモンで、丸い耳、丸い体、丸い尻尾、そしてつぶらな瞳と可愛い鳴き声。明らかに女の子ウケの良いポケモンだ。

 コイツと遊び始めてから明らかにコトネの歩くペースが落ちたことに思わず溜息をつく。なんでコイツと一緒なのかなぁ……。

「あー、大きな溜息ついて……幸せ逃げるよ?」

「現在進行形でお前のその幸せそーな笑顔に、俺の幸運全部吸い取られてる気がするよ」

「ひどーい……あっ、アレだよね。研究所」

 言いながら、コトネが前方を指さす。

 白を貴重とした壁に、黄緑色の屋根。ドアの斜め前にはポストが(もう)けられていて、そこにはキチンと『ウツギ研究所』という表札も貼り付けてあった。

「あー、アレだな。さっさとポケモン貰って出発しよ……ん?」

 言いかけた所で、不審な光景が目に映った。

 ポストの後ろで、ポストよりも濃い赤色の何かが(うごめ)いているのだ。

「うん? どうかした?」

「……いや、なんでもない」

 旅の緊張かなんかで、幻覚でも見たんだろう。

 そう言い聞かせて、研究所の扉を開いた━━。

 

 

 扉の内側の光景に、思わず目を見開いた。

 床にはいくつもコードが張り巡らされていて、壁にはドデカい本棚。本棚の中には溢れんばかりの本が詰め込まれていて、それでも足りなかったのか床にもいくつか本の山が形成されている。本棚以外にも何やら怪しい物体や球体が入ったショーケースや、何に使うのかわからない機械まで。スゲぇ……研究所ってこんなになってるのか。

「あ、ヒビキくーん、コトネちゃーん、こっちこっち!」

 声の主を探そうと視線を巡らせると、それはわりとすぐに見つかった。

 ショーケースのすぐ後ろから、メガネをかけた男が笑顔で手を振っていた。フレンドリーそうな笑顔を浮かべたあの男がウツギ博士だ。

 先生の方に行こうと、ショーケースの間を通る。ショーケースにバックが引っかかりそうになりながらも、何とか通り抜けた。

「先生……ちょっと通りやすい配置にしようとか思わなかったんスかね」

 半目で睨みつつ言うと、隣でコトネが緩く頭を縦に振った。同意見らしい。

「いやぁ、あはは。どうも片付けが苦手でね……普段は助手が片付けをしてくれるんだけどさ、ここ数週間研究所を留守にしてて……」

 あぁ、あれか。先生は片付けられない大人、ってやつなんだろう。研究で忙しいっていうのもあるだろうけど。

「それより」

 俺の思考を読んだのか、博士は話題を変えて来る。

「ポケモンをあげる約束だったよね? ほら、この三体から好きなのを選んで行きなさい」

 言いながら、博士がパソコンを操作。同時に何やらゴツい機会が動きだし、三つの紅白の球体が出てきた。これはモンスターボールというもので、ポケモンを連れて歩くのに入れるケースみたいなものだ。詳しい仕組みはよく知らない。

「三体、か……ちょっと全員だして見ていいッスか?」

「うん、良いよー、存分に選びなさい。君の相棒になるんだからね」

 相棒、か。悪くないな……。思わず顔がほころぶ。

「ほらヒビキ、そんなニヤニヤしてないで出してあげなよ」

「う、うるせぇな……わかってるよ」

 顔をしかめつつ、モンスターボールを三つ抱え、放り投げる。

 するとボールが白と赤でちょうど半分に開き、中から赤い光が飛び出した。それは徐々に何かをかたどっていき、光が止む頃には三体の小さくて、立派なポケモンが俺を見ていた。

 頭に大きな葉っぱを携えた、マリルより少し大きめな、赤い目をしたポケモンと、大きな口をカパッと開き、満面の笑みを作っている青色をしたポケモン。それと、背中に暖かそうな炎を背負いこんだ、細目の大人しそうなポケモンだ。

 ほぉ、と小さな溜息をつきつつポケモンを観察していると、博士から解説が入った。

「その葉っぱのポケモンが、草ポケモンの『チコリータ』。青色の大きな口をしたポケモンが、水ポケモンの『ワニノコ』。そこの炎を背中から出してるポケモンが、炎ポケモンの『ヒノアラシ』だね」

「チコリータに、ワニノコに、ヒノアラシか……」

 順に名前を呼ぶと、我こそは我こそはと選ばれるように俺の足にすり寄って来た。く、くすぐったいな……。

 さて、どれにしようか。すっごい迷うわけなんだが……こういう時は、ビビッと来たやつで━━ええい、ままよ!

 目を閉じ、一番近くにいたポケモンの脇に手を通しだき上げ、宣言する。

「コイツだ。コイツにする!」

 目を開くと、ヒノアラシが嬉しそうな笑みを浮かべて俺を見下ろしていた。

「ヒノアラシにするのかい?」

「……おう、コイツにする」

 ヒノアラシにつられて、自然と笑みが漏れた。俺の笑みをニヤニヤしながら見つつ、コトネが言う。

「へぇ、ヒノアラシか。ヒビキらしいかもね?」

「俺らしいってなんだよ……」

「そのまんまの意味だよー?」

 よくわかんねぇな……。思わず顔をしかめつつ、ヒノアラシ以外のポケモンをボールに戻した。

「……で、ヒビキくんの相棒が決まったところで。僕から2人に誕生日プレゼントがあるんだ」

 人懐っこい笑みをそのままに、博士は何やら白衣のポケットをまさぐる。

 コトネは俺の隣で小声で『何? 何? プレゼントって!』などと言いながら、目を輝かせていた。たぶん俺の目も輝いてる。うん。

「これ。もしかしたら、コトネちゃんは知ってるかな?」

 そう言って、俺たちの手に何か落とされる。

 青と白を基調とした、円長い何か。中央当たりは何か蓋になっていて、開くことができた。

「わー! ポケギアだ!」

 この丸い何かはポケギアと言うらしい。ふむ、知らん。

 頭にいくつか疑問符を浮かべていると、先生がすかさず解説を入れた。

「それはポケギアって言って、離れた相手と電話ができたり、カードを読み込ませる事でラジオが聴けたりする便利機械だよ」

「へぇ……」

 感心しつつ、ポケギアを凝視する。蓋を開けて、電源を入れると『母』『コトネ』『ウツギ博士』といった文字が現れた。これが電話機能らしい。

「既に僕の番号とコトネちゃん、各自の親の電話番号は入れておいたから。旅の役にたててくれると嬉しいよ」

「ありがとう博士!」

 満面の笑みではしゃぐコトネ。手に持たれているポケギアは、ピンクと白を基調としたものだった。

「で、そのポケギアには僕が作った、『ポケモン体力表示機能』が搭載されてるんだ」

「ポケモン体力表示機能?」

「そう。普通は皆、ポケモンバトルの時は自分のポケモンの残り体力と相手のポケモンの残り体力を、自分の勘で予想するものなんだけどね。その相手のポケモンと、自分のポケモンの能力と体力をメーターにして表示する機能だよ」

 一度に話しすぎて喉が渇いたのか、博士は机の上に置いてあったペットボトルのお茶を口に含んだ。

「へぇ……博士ってすごい人だったんだね、ヒビキ?」

「おいおい、それは失礼だろうよ……」

 いや俺も同じこと思ったけどさ。意外とすごい人なんだなーとか思ったけどさ……。

 にしてもポケギア、か。これだったら母ちゃんとも連絡とれるな……なかなか嬉しいプレゼントだった。

「わぁぁぁ?! 本当かいこれっ!?」

 パソコンに向き合っていた博士が突然叫び、思わずコトネと肩を跳ねさせる。

「ど、どうしたんスか?」

「ご、ごめんごめん。三十番道路奥に住んでる僕の友人のおじいさんから、珍しい卵が手に入ったってメールが来てね……」

 ……何か、嫌な予感がする。

「そうだ! おじいさんの家まで卵を取りに行ってくれないかな? 今僕手が離せなくてさ……頼むよ、ね?」

 見事に嫌な予感が的中して━━

 

「……はぁ。わかりましたよ」

 

 ━━俺たちの2番目の目的地は、パシリによっておじいさんの家となった。旅に出るのはいつになるのやら。

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