途中出てきたポケモンをコトネのマリルとポッポ(ポッポを出す度にコトネが俺にドヤ顔を向けていた)、俺のヒノアラシで倒しつつ進むと、一件の民家が見えてきた。
「……あれ? 博士が言ってたおじいさんの家ってもう少し奥だよね?」
「確か、な」
博士からは30番道路を二十分近く歩いた所にあると聞かされている。現在30番道路に入って三十分近く経過してるが、途中ポケモンと戦って時間をロスしてるし、三十分じゃつかないだろう。
「奥に行く道はまだあるし、スルーして進むか。こっからはなるべく草むらは避けて行こうぜ。あんま時間、余裕ないし」
「ん、そーだね」
と話しながら家の前を通過し道に入ろうとすると、ものすごい音を立てて
「待て待て! こんなに目立つおじさんちを鮮やかにスルーしようとしているそこのカップル待ちたまえ!」
「いやカップルじゃねーし目立たない普通の家だろ」
思わずツッコミ。
「そんなことはどうでもいい!!」
どうでもいいのかよ。
「ここの道を来たに歩いて行けばポケモン爺さんの家はある。だがその前におじさんの話を聞いていけ……!」
「い、いや構わないスけど……長くなるようなら断りたいっつーか」
「いや、そんなに長くならないし君らの役にもたつはずだ」
ここまでグイグイ来られると断りづらい。ヨシノシティの爺さんみたく。
頬を引きつらせ微妙な顔をしていると、コトネが顔を俺の耳に近づけてくる。女の子の甘い香りが鼻孔をくすぐり、思わず頬に熱が走った。
「なんだよ……」
「あのさ。ここら辺の人って親切っていうか……変わり者が多いのかな?」
「……じゃねーの? とりあえず話しくらい聞いてやるべ」
コトネに応えつつ、手だけで話の続きを促す。
「君たちはぼんぐりというものを知ってるかな?」
ぼんぐり……名前ならテレビで聞いたことはあるが、よく知らない。素直に首を横に振るとおじさんは満足気に笑った。
「そうじゃろうそうじゃろう。ぼんぐりというのは、ボールの材料に使えたり色々する木の実のことじゃ。これも何かの縁だ……駆け出しトレーナーの君たちにぼんぐりケースを授けてやろう」
おい、誰がポケモンも捕まえられない駆け出しトレーナーだ。
……とはもう言うわけもなく、素直にケースを受け取る。
「これで君も立派なぼんぐらーだな!」
とだけ言って、家の中に帰っていく。
「……なんだったんだろうね。あのおじさん」
「わからん。嵐のようなおじさんだったことは確かだ」
ま、良い人だったことは確かだろう。
■ ■ ■
ぼんぐりおじさん(俺命名)の家から北に進むと、すぐに目的地のポケモン爺さんの家が見えてきた。
「割とすぐだったな……」
「そだね。ささ、早く届け物もらっておつかいすませちゃお」
俺の背中をバック越しに押して来るコトネに急かされ、ドアの前に立つ。呼鈴がないし、ドアを軽く叩きノックした。
「はいはーい、鍵はあいてるぞ」
扉越しに聞こえた爺さんの声は、元気そうな印象を受けた。
ドアノブを捻り、扉を押す。玄関には二足靴が置いてあり、俺たち以外にも誰かが来てることがわかった。
玄関からは廊下が続いていて、右側と左側に部屋が一つずつと、奥に部屋が一つ。話し声が置くから聞こえるし、俺たちもそこに行けばいいんだろう。
二人で靴を脱ぎ、廊下を進んで行き、奥の部屋のドアを開けると、机を挟んで二人の爺さんが談笑していた。片方は白衣に身を包んだ、としの割りには若く見える男性。もう片方は、茶色のスーツと、スーツと同じ色の帽子をかぶった男性。
「お、君たちがコトネちゃんとヒビキ君かな。ウツギ博士にメールをしたのは私だよ」
扉側から見て奥のイスに腰をかけていた、帽子をかぶった男性が子供っぽい笑みを浮かべた。どうやらこの人がポケモン爺さんらしい。
「ささ、そっちの椅子に座っておいて。今例のものを持って来るから」
机の横に設けられている2人がけのソファを指差しつつ、ポケモン爺さんが部屋を出て行った。
俺たちはお言葉に甘えてソファに腰を下ろすと、ポケモンバトルの疲労からか小さな溜息が漏れた。
「随分とお疲れのようじゃな、お二人さん」
白衣に身を包んだ男性が、苦笑を浮かべつつ言う。
「はぁ、まぁ。俺はあまり家から出なかったもんで」
突然話しかけられた事で少し戸惑ったが、同じように苦笑しつつ応える。この人、どっかで見たことあるんだよな……。
「ヒビキには引きこもりくせがあるからねー?」
「っるせーな……」
「うるさくないですぅ」
……コトネはまだまだ全然疲れていないようだ。まぁコイツは普段からマリルと追いかけっこやらしてるし、体力だけはあるんだろう。
なんていつも通りの会話をしていると、なにやら大きな球体を持ってポケモン爺さんが帰ってきた。
「……たまご?」
「そう、これはポケモンのたまご。エンジュの友人から譲り受けたものでねー……どうだい? この卵。ジョウトでは見ないものだろう?」
ポケモンのたまごに関しても全くの無知なのだが。コトネが頷いてるからとりあえず頷いておく。
「これが一体なんなのか……ウツギ博士ならわかるんじゃないかって思ってさ。ポケモンの進化の研究ならウツギ博士が一番だって、そこの有名なオーキド博士も言ってるからね」
言いながら、白衣の男を指差す。
……オーキド、博士………
「あー! 何処かで見たことあると思ったらテレビで!」
「ははは、どうも。ポケモン研究家のオーキドじゃよ」
そっか、テレビか。有名人なんだなぁ……やっぱり。
オーキド博士が、俺にまっすぐと視線を向けて来る。
「君がヒビキ君か。……ふむ、彼が君にそのポケモンを託したのも、わかる気がする。君ならポケモンを大事に育ててくれそうだからな」
不意に褒められて、なんだか照れ臭くて。だけど
「そんな君に、わしからも頼み事をしようかの」
君、ということは俺個人なんだろうか。
コトネに目配せすると、首を傾げて疑問符を浮かべた。ダメだ通じてない。
オーキド博士はなにやら白衣のポケットから取り出し、机の上に静かに置いた。
「これは最新型のポケモン図鑑。見つけたポケモンが自動的に書き込まれてページが増えていくというハイテクなものじゃ。これを、君に預けようかと思っての」
「え、いいんスか。こんな高価なもの」
「旅にでるんだろう? ならたくさんのポケモンとも出会う。この図鑑を完成させるのは君が適任だと思うんだが……どうかな?」
たくさんのポケモンと出会い、この真っ白な図鑑を埋めていく。
どうかな? って……そんなの、断れるわけないじゃないか。
スッゲー、ワクワクする!
この小さな図鑑に、俺の冒険の全てが刻み込まれるのだ。想像しただけで、ワクワクする。
「わかりました。引き受けますよ」
「助かるよ。いつか完璧な図鑑を、わしに見せてくれ」
図鑑をパーカーのポケットにしまい、ポケモン爺さんからたまごを受け取り席を立つ。
「じゃあ、オーキド博士の図鑑とポケモンのたまご、頼んだよ」
「「はい!」」
二人で元気良く返事をして、ポケモン爺さんの家をでた。
「ポケモン爺さんもオーキド博士も、良い人だったね」
家をでたところで、コトネが満面の笑みで言う。
「そうだなぁ。ウツギ博士の知り合いなんだし、悪い人はいねーだろうよ」
「確かに」
笑ながら、コトネがたまごを撫でる。たまごが少し動いたような気がしたが、気のせいだろう。
突然、コトネのポケギアが鳴る。これは確か、電話の着信音だったか。
「ウツギ博士からだ……どうしたんだろう」
ポケギアを操作して耳に当てる。
「はい、コトネです……え、大変ってなにが……はい、はい。わかりました」
「どした?」
「何か大変だって……急いで帰ってこいって」
電話越しに聞こえてきた博士の声は、何を言ってるのかは聞き取れなかったが焦ってるようだった。