アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話   作:rideru

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第10話

「最近、あの2人が綺麗になったって言われてるの知ってるか?」

「誰に?」

 

ある日のこと。

 

「配信のコメントだったり、あと2人に会った他のホロライブのメンバーとか」

「いや、知らないが……」

 

いつも通り授業が終わって、学食で飯を食っていたら、別の授業を受けていた友人が後から俺の居たところにやってきた、と思ったらいきなり変なこと言われたんだが。

 

「コメントはまあ当てにならんかもだが、同僚から言われるって相当だろ。お前一番近くで見てるのに、なんも気づかなかったのか?」

「そんなこと言われてもな。2人が綺麗だったり可愛いのはいつもの事だし」

「別に惚気ろって言ったんじゃないんだが」

「聞かれたから答えたまでだ」

 

実際、普段から色々気にしてるのは見てるしな。むしろ俺が無頓着なのに色々言われてるくらいだし。

 

「そういやこいつ、目が肥えてるんだった……」

「嫌みか?」

「これは嫌みだ」

「そうかい」

 

とりあえず飯を食べ進める。

 

「お前ならきっかけとか知ってるかと思ってよ」

「さあ……?全部知ってる訳じゃねえしな」

 

……まあ、大体予想はつくというか、これ以外考えられないってのはある。言うわけにはいかんが。(第8話参照)

 

「それにしても、なんだって急に?お前があの2人のファンやってるのは知ってたが」

「そりゃあ身近に強い情報源がいるなら使うだろうが。深い意味はねえよ」

「なら当てが外れたな」

「ほんとだよちくしょう」

 

ため息ついて自分の持ってきた飯を食べ始める友人だった。

 

 

 

 

「綺麗になった、ねえ……」

「なんの話?」

 

俺の呟きに反応するすいせい。AZKiも水を飲みながらこちらを見た。

 

「ん?ああ、この間友達と話した時に言われたのを思い出してな」

「ふーん」

 

うちのアパートの裏が空き地になってるから、たまに2人がダンスの練習に使ってたりする。といってもちゃんとした場所じゃないから本格的なものじゃない。あくまで俺という客代わりを置くことで、視線を感じながら動きたいとかいうよくわからん理屈らしいが。

 

「最近2人とも綺麗になったって色んな人から言われてるらしいって奴が言ってたからよ」

「……へえ?」

「ふぅん……」

 

視線で促されたから続きを言うと、少しだけ視線が冷たくなった気がする。なぜだ。

 

「コメントとか、同僚さん達から言われてるんじゃないのか?」

「さあ?人に言うことはあっても、自分が言われてたかっていうとなあ」

「うーん、そもそも面と向かって言うことはあまりないんじゃないかな」

「そういうもんかね」

 

2人とも微妙な反応、というか、視線がずっと冷たい。

 

「……ところで、なんでそんなに変な目で見てるんだ」

「別に?貴方からは言われてないなあとか思ってないよ?」

「AZKi達が誰のために頑張ってるのか分かってないのかなーとか言わないよ?」

「……さいですか」

 

『色んな人』の中に俺が居なかったことがマイナスらしい。

 

「……普段から可愛いとか綺麗とは思ってるけど、言わないとダメなのか」

「年がら年中言えってわけじゃないけど、周りが先に気づいてるのは良くないなあ」

「しかも、それを他の人から指摘されてるのはもっと駄目だね。他の人が見て分かるって事なんだから」

 

一理ある、のか?

 

「まあ、そういうのに君が気づくとは思ってなかったけどね」

「どういう意味だ」

「あれ?私達が告白するまで何にも気づいてなかった人が何か言ってるなー?」

「……言葉もありません」

 

今日は随分と言葉が強い日だ。こういうときはなにも言わない方が良いとそれなりの付き合いから学んだ。

 

「もっと細かいところに気を配れるのが、良い男なんだぞ?」

「……精進します」

「ふふっ、ちょっと落ち込んでてかわいいね」

 

側に来たAZKiに頭を撫でられた。

 

「まあ、それで急に敏感になられても困るから、あまり気にしないで良いよ」

「……そうなのか?」

「変に他の人に気に入られても困るもん」

「そもそも、そんなことお前ら以外にいう機会もないが」

「それでもだよ。私達だって四六時中一緒にいる訳じゃないんだから」

「女の子って、何がきっかけで好意を持つか分からないんだよ?逆もそうだけど」

「……わかった」

 

何を心配してるのか正直分からないが、たぶんここで聞かない方が良いんだろうな。

 

「というかさ、それを言うなら君の方も最近なんか雰囲気変わったよね?」

「あっ、それ私も思ってた!」

「は?」

 

急に2人がぐいっと身を寄せて聞いてきた。

 

「なーんか、前よりガタイよくなったというか」

「筋肉質……とはまた違うけど、なんて言えば良いのかなぁ」

 

そのままペタペタ腕や腰を触ってくる。くすぐったいな。あと、なんで汗かいてたはずなのに良い香りなんだ?

 

「最近バイトのシフト増やしてるし、よく動いてるからとかじゃないのか」

「うーん。それは前に聞いてるけど、それにしてはねえ。なんか、見ててドキドキする」

「たぶん、お友達とかにも言われてない?かっこよくなったって」

「……かっこいいかはともかく、あいつにも言われたな」

 

そんな分かる程に見た目変わってるのだろうか。

 

「特にこれといって特別なことはしてないぞ」

「ほんとぉ?」

「嘘ついてどうするんだよ」

 

なおもジトッとした目で見てくるが、答えようがねえよ。

 

「ふーん。ならそう言うことにしておくよ」

「なぜ信用されてないのか」

「男の子の努力は、気付いても見て見ぬふりするのが良い女なんだって前に船長が言ってたしね」

「誰だそんなこと言ってるの」

 

すいせいの言う船長ってのは同僚の名前か?とりあえず、疑念の視線が終わってホッとした。

 

「んじゃあ、もう一回通してみるから、見ててね」

「了解」

 

2人がそのまま踊り始めたのを、たった1人の特等席で見守る。さっきまでの雰囲気は消え去り、真剣な表情で身体を動かす2人。

 

「……今でも十分綺麗だと思うけどなあ」

 

小さく漏れた俺の感想が、2人に聞こえることはない。けど、その瞬間に俺をみた2人の顔は、眩しいくらいの笑顔だった。

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