アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話 作:rideru
前話から少しだけ後のお話になります。
ご都合設定あるのでご注意下さい。
「お疲れさまでしたー!」
仕事が終わってタクシー。今日はスタジオでレコーディングの後に、公式配信の打ち合わせとなかなかにてんこ盛りだった。
「あとは、夜に雑談配信だけかな。ネタはだいぶあるし」
スマホで予定チェック、マネージャーからの連絡もなしで、把握してた通りだったから一安心。
「あ、でもそろそろメン限しないとか」
私達が使ってる配信媒体には、個人が所有するチャンネルがあるわけだけど、有料のサービスとしてメンバーシップという制度がある。特典として、継続期間がわかるバッジが貰えたり、メンバーシップ加入者限定の配信や動画、あとは壁紙を配布してる人もいるんだったっけ。
「あー、なに話そうかなあ」
メン限の内容は基本的に外部には漏らさないようにお願いしてる。もちろん強制権はないからあくまでお願いしか出来ないけど、今のところ大きく問題が起きたことはない。マネちゃんも確認してくれてるから大丈夫だとは思ってるけどね。
「愚痴とか今はあんまりないし……、あ!」
色々考えてたら一個出てきたわ。
「この間の宅飲みのこと話すか!彼の家でどうなったか報告してみよう」
……自分でいうのもなんだけど、私達の関係性については結構いい話題になるらしく、流石に公式で弄られることはないけど、メン限のコメントとかでは結構聞かれることも多い。公式はもしかしたらモデレーターの人達が頑張ってくれてるのかもだけど。
「一応確認だけはしとかないとね。後で怒られたくないし」
マネちゃんに内容の事を送っておく。あとは、あずきちにも共有しておかないと。
「……ま、あの人は怒らないか」
彼にも言っておくか迷ったけど、止めた。前に彼の話をしない方がいいかと聞いたけど、『個人情報ばらしたりしなきゃいいよ。どうせ隠してたって探るやつは居るんだし、ある程度は明らかにしてた方が2人とも楽だろ』って言ってくれたから。何かあった時に一番迷惑を被るのは一般人の彼のはずなのに、私達のことばかり考えてくれる。
「うーん、あの人のこと考えると、なんだか会いたくなるなあ」
私達が地元というか彼のそばから離れてこっちに住み始めてからというもの、彼と連絡を取ったりしたらこういう気持ちになってはいたけど、最近は特に強くなった気がする。それこそお酒を飲みに行った日。酔った勢いとはいえ、彼に堂々と甘えた日から、何となくそうなってる気がしてる。
「……暖かかったなあ」
頭を撫でられたし、その後に超薄着で彼に抱き付いたから、肌に彼の暖かさが直に伝わってきて凄くドキドキしたのを覚えてる。顔だって絶対赤かったはず。挟んだ彼越しにあずきちと目があって笑った時も、恥ずかしさが凄かったし。
「よし、また会いに行かないと。寂しくさせた彼に責任とって貰わないとね」
言い訳みたいに彼に気持ちを押し付けつつ、今度また彼に会う予定を立てようと決めた。
「あ、そういえばそろそろうち掃除しないとじゃん」
彼が約束してくれたうちらの家へのお泊まり。それはうちらも準備しないとだよね。
「あずきちは……、ちゃんとしてそうだなあ」
普段からきっちりしてそうなあずきちが慌ててる様子が浮かばないし。
「私も配信環境は整ってるけど、自室は……」
わりと疲れた時に服を脱ぎ散らかしてたりしてる自室を一瞬思い浮かべて、げんなりした。
「あー、いい掃除用具とか聞こうかな。リスナー色々知ってそうだし」
忘れないようにメモ。
「……楽しみだなあ」
彼が泊まりに来る日。私達がずっと待ってた日。
「…………」
すでに予定に入ってるその日を眺めて、私は小さく笑った。
「お、すいちゃんから連絡だ」
今日は会社に提出するための書類を片付けるために、家で作業する日でした。といっても、私はあんまり溜め込まないのでゆっくりしながらあれこれしていたのですが。
「なになに?……メン限か、いいんじゃない?私も今度話すねーっと」
すいちゃんの連絡を見て、OK!と返事しました。彼の事を話すと盛り上がるのは私のリスナーさん達も同じなので、ネタにしたくなる気持ちはわかります。
「あの日かー。楽しかったし、何より彼から抱き付いてきてくれたもんなー」
すいちゃんのメッセージを見ながら色々と思い出します。あの日、すいちゃんと比べたらそこまで勢いよくお酒を飲んではなかったけれど、でも酔ってたのは分かってました。そして、その勢いで普段なら絶対にしない薄着で彼に甘えたんですけど、まさか受け入れられるどころか、彼から抱き締め返されるとは思ってませんでした。
「男の人ってあんなに固いんだなあ」
彼もお酒で暑くなってたのか、この時期にしては薄着でしたから、肌同士が触れあいましたし、その、抱き付いた時に私の胸に顔が埋まってたので……。
「……(ツンツン」
それを思い出して、自分の胸の上をつついてみたけど、いつも通りの感触でした。
「2人で挟んだ時も素直に挟まれてたし、案外彼も我慢してたりするのかなあ」
今まであの手この手でわざとらしく煽ったりしても、視線こそ向けるもののそういった事をしようとはしませんでした。そもそもそういう視線すら滅多に見ることもないので、それで十分満足してはいたのですが。
「年頃の男女がお付き合いしてて、そうならない方がおかしいって言われてはいたけど」
まつりちゃんや船長とかには散々からかわれたりもしたっけ。でも、色々アドバイスもいただきましたし、実際あの日のお酒の時の甘え方も参考にした結果だったので、感謝はたくさんしています。カルーアミルクの話は完全に入れ知恵でした。彼があんなに詳しく教えてくれるとは思ってなかったですけど。
「…………ふふっ」
気づけば彼の事ばかり考えてしまいます。恋に恋するのは子供の頃に卒業するものだと思っていましたが、いざ自分がなってみると、頭の中がすぐに彼の事でいっぱいになってしまう。
「確か彼もこの時間は帰ってきてるはずだし、後で連絡しちゃおうかな」
『何かあったらこの日は空いてるから連絡していいぞ』と言って、こちらに来てからずっと教えてくれる彼の予定表。私達も共有して色々と書き込んでおり、すっと視線を下げれば、お泊まりの予定もいれてあります。
「いよいよかー。どんな気持ちになるんだろう」
その日がどんな意味を持つのか理解はしていますが、迎えたらどうなるかなんて今は全く分かりません。もちろん色々と準備や覚悟はしていますが、それだって当日どうなるか。すいちゃんもきっと同じだし、彼も同じかも。
「……よし、お仕事片付けちゃお!」
思考がぐるぐるする前に、仕事に戻ることにしました。ついでに、彼にも連絡をいれてと。
「どうせなら作業通話に付き合って貰おうかな」
送った次の瞬間に既読がついた私のメッセージを見て、何を話そうかと考え始めました。