アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話 作:rideru
第1話
「ねえねえ!すいちゃんとあずきちゃん、どっちがすき?」
「そんなのきめられないよ。ふたりともかわいいもん」
「うわー、それおんなたらしっていうんだって!」
「おんなたら……?なにそれ?」
「わかんない!おねえちゃんがいってた!」
「だったら、大人になったらふたりともおよめさんにしてくれる?」
「およめさんってひとりだけじゃないっけ?」
「でも、わたしもすいちゃんもあなたとけっこんしたいもん!」
「だから、あなたもわたしたちいがいをすきになっちゃだめだからね!」
幼い日にした会話。
男女の付き合いが今よりもっと近い時代ってのは誰にだってあると思うし、そういう時にしがちな会話でもある。
けど、それを大人になるまで引っ張る奴がホントにいるなんて、漫画とかの世界の話であって、現実にいるわけないんだよな。
「ねえねえ!すいちゃん達、アイドルになれるんだって!」
「2人でスカウトされちゃった」
「良かったな、夢だったんだろ?」
「うん!」
「貴方もならない?」
「馬鹿言うなよ。俺はそんな表でキャーキャー言われたりするような能力持ってねえよ」
「まあ、うちらにとっての唯一であるのは間違いないから、むしろそのままでいてほしい」
「確かに、注目されると面倒なの増えそう」
「何言ってんだ?」
「「なんでもないよー」」
気づけばあいつらはアイドルになって、世界に羽ばたこうとしてた。なのに、いつまでも俺なんかを構い続けてる。流石に勘違いではないと思うけど、なんで俺なんだか。ただの幼なじみってだけなのに。
「おい!なにやってんだ!」
「何が?」
「なんで、ライブの最後にあんな……!」
「だって、君が逃げようとしたから」
「AZKi達、言ったよね?絶対逃がさないって」
「当たり前だろ、あんな写真まで撮られてお前らストーカーまでされたって聞いたら、俺は迷惑しかかけてねえ」
「君も、私達も、何にも悪いことしてない。勝手に勘違いした人達が暴走しただけ」
「だから、隠れてこそこそするくらいなら、いっそのこと全部ばらしちゃおって2人で決めたの。マネちゃん説得するの大変だったよ」
「当たり前だろ!アイドル生命終わったら、どうするつもりだったんだよ……」
「その時はその時だよ。すいちゃん達にとっては貴方の方が大事だった。それだけ」
「AZKi達は、貴方のもとに帰れればそれで満足だったんだ」
あいつらの本気って言葉をなめてた。まさか、ここまでするなんて。俺ももう逃げられない。
「「私たち、好きな人がいるんです」」
「お前に聞くのが間違いだった」
「は?」
大学祭のミスコン会場に使ってる大教室。
裏方として設営準備に取りかかってた俺にダル絡みしてきた相方の友人は、あきれた声でそんなことを言ってきやがった。
「なんでだよ」
「おま、ミスコンってなに競ってるか分かってるよな?」
「そりゃお前、美人度合いだろ?」
「そうだよな?なのに、お前今日の出場者一覧見せたら何て言った?」
「だから、『別に可愛いと思う』だけど」
「それだけか!?もっとこう、彼女にしたい!とか、付き合ってみたい!とか、あるだろ!?」
「……あー」
「はぁ……。だからおまえに聞くのが間違ってたって言ったんだよ」
そう言われてもなぁ。
「いいよな、今をときめくアイドルを両手に抱えてられる幸せ野郎はよ!そりゃ、一般人じゃ相手にならんわな」
「別に、そういうわけじゃないが。それに、あいつら抱えてるわけでもねえよ」
「そんなこと言ってもよぅ、この間だって買い物付き合ってた写真上がってたぞ。しかも、2人ともあり得ん位幸せそうに笑ってたって掲示板で騒がれてたし」
「聞いてないが」
「どうみても隠し撮りの視点だったけどな、あれ。まあ、あの2人が気づいてないはずねえし、確信犯だったんじゃねえの?これなんかよく見たら、お前はともかく両脇がこっち完全に見てるし」
あんまり目立つ行動はするなって言ってるんだけどな。主に、俺の安全のために。
「実際、幼なじみが大人気アイドルってどんな気分なん?」
「子供の頃から歌が好きで、やたら歌いまくってたし、小中高って美人って有名だったしな。街でスカウトされたって聞いたときも、あの2人ならそんなもんかなって」
「高校は俺もお前と同じだったから知ってるけど小中もか。あん時も玉砕したやつ死ぬほど多かったしな。未練もなくスッパリ切るから、あんまり遺恨を残さないのは流石だったし」
「らしいな。なぜか全員、毎回フラれたって俺に報告きてたのはよく分からなかったが」
「そりゃお前、お前以外にプラベでろくに話してる男居らんかったら、誰だって察するだろうよ。明らかに他者にライン引いてるのに、お前相手だけは向こうから踏み越えてるんだぞ?」
「……そうだったのか」
「かーっ!これだから目が肥えてるって言われんだよ!ちったあ自分の幸運を喜びやがれ!」
「痛えな。いきなり叩くな」
言わんとすることは分かるが、ガキの頃からの付き合いなんだし、今さら変わるもんでもないだろう。立場は変わったけど。
「そういや、そのお2人は?」
「ん?収録終わったら来るって言ってたな。大学ホールでミニライブするらしいし」
「マジかよ。サプライズじゃねえか!」
「このあと数量限定で販売するらしいな。あ、お前の分のチケットもらってあるぞ。大学で俺の相手してくれてる御礼だってさ」
「うわっ!入学式の時の俺ナイス!お陰で今マジで幸せだぞ!」
「天を仰ぐな」
「ん?というか、向こうって俺の事認識してるの?」
「ああ。俺の身の回りの調査を時折どっかに依頼してるらしく、2人からも無害認定されてるぞ」
「怖っ、愛が重すぎるだろ」
「事務所の意向もあるらしいけどな。稼ぎ頭に纏わり付く男なんて、向こうからしたらスキャンダルの種にしか見えんだろうし」
「実際は稼ぎ頭の方がお前に纏わり付いてるの間違いだろ」
まあそうだろうけど。
「これからも俺の事よろしくってさ。特に悪い虫がつかないようにって」
「普通逆だと思うんだけどなあ……。まあ、貰えるものはありがたいし、お前も面白いからな。コンゴトモヨロシク」
「ネタが古いだろ」
そんなこと言いつつ、そろそろ始まるミスコンの会場操作をはじめた。
「しっかしアチいなぁ」
「まあ夏だしな。水着コンテストとかするってんなら最高のタイミングだし」
「そういややってたな。ミスコンと被ってたけど、結構人入ってたって聞いたぞ。まあ、野郎の肉体見せられてもな、鍛えてるのはスゲーと思うけどよ」
無事にミスコンを乗り切り、大学ホール。
既に超満員どころの騒ぎじゃないが、俺達は横手の袖にいた。
「これ、よく見たら役員用のやつだったな」
「係員に見てたらいきなり袖に引っ張られたときは焦ったぜ」
変な顔した警備員にここまで無言で引っ張られた時は、どうしたもんかと思ったが、理由が分かって良かった。
「まあ、お前の面は死ぬほど割れてるし、下手に観客席いたらやりづらいだろ」
「……非常に不本意だが納得した」
「ま、俺はこんな視点でライブ見たことねえから、ある意味ドキドキしてるけどな」
ワクワクして舞台を見つめるこいつ、なかなか順応性高いな。
「あ、いた!」
「よかった!見つけられないかと……」
その時、後ろから凄く聞き覚えのある声が聞こえた。
「「だーれだ?」」
振り返ろうとしたら、片目ずつを手で塞がれた。
「……なにやってんの、すいせい、AZKi?」
「せいかーい!」
「よくできましたー!」
答えると同時に目が開けられ、満面の笑みを浮かべる2人がいた。
「うおっ!?AS_tarのお2人!」
「あ、友逹くん」
「いつも彼がお世話になってます」
「いえいえ、とんでもない!むしろこいつには俺も助けられてますから!」
「お前は俺の保護者か何かか?」
「彼いなかったらボッチみたいなもんだし、案外近いんじゃないの?」
「そんなこと、ない、と思う……」
すいせいにバッサリ切られた。
「だーいじょうぶ。他に誰もいなくても、私達が一生隣にいるから。だから、君はボッチじゃないよ?」
「AZKi?それは助けてるように見えて、止めを刺してるって言うんだ」
すいせいが突撃し、AZKiが細かく刺してくる。昔から変わらないコンビネーション。なお、対象は毎回俺なんだが。
「AS_tarのお2人、お時間です!」
「はーい!それじゃ、行ってくるね」
「目、離しちゃダメだよ?」
時間指示が入った瞬間、2人の空気がガラッと変わる。この時だけは、幼なじみではなく、アイドルなんだなって思う。
「終わったら、お迎えよろしく!」
「そのまま買い物付き合ってね!」
「……わかったから行ってこい。ファンが待ってるぞ」
なんでその空気を纏ったまま話題が戻せるのかは不思議だが、2人曰く「それが大事」なんだとか。
「ガチのアイドルモード初めて見たわ、あーびっくりした」
「俺も久しぶりに見たぞ」
「あと、さらっと惚気てるのも見たからな」
「それはこっちも若干引いた」
「あの雰囲気でなんでデレデレなんだろうな」
「さあ?」
客席から爆発したような歓声が上がってる。
「ま、とりあえず特等席から楽しむか!」
「そうだな」
なんだかんだ久しぶりに2人揃ったライブ観るから、俺も楽しみだ。