アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話 作:rideru
「今度、会ってほしい人がいるんだ」
「唐突だな。というか、会わせたいじゃなくて会ってほしいなのか」
いつものごとくうちに泊まりに来ていたすいせい。風呂から上がったのんびりタイムに突然妙なことを言いだした。
「うん。向こうが会いたがってるからね。正直なこと言えば、すいちゃんはそんなに会わせたくないなって思うけど」
俺の肩に寄りかかってる割にすごーく渋々といった表情をしてるから、いつもの事なのに随分珍しい顔だなと思ったが、そんなに嫌なのか?
「その人に問題でもあるのか?」
「いや、どっちかって言うとあたしの問題。でも、そろそろ乗り越えなきゃって思ってさ」
「な、なるほど?」
イマイチ要領を得ないが、無理やり納得している風に見えるすいせいにとりあえず頷いておいた。
「で、その会わせたい人って誰なんだ?」
「確定してるのはみこち。えっと、『さくらみこ』って言えばわかる?」
「あー……、よく配信でお前と組んで色々やってるピンク色の人か」
「ピンク色の人www」
言った事は合っていたようだが、どうやらツボに嵌ったらしいすいせいが爆笑してる。
「悪いな、詳しく知らないから外見の印象しか答えられなくて」
「ううん、それは全然良いんだけど。会ったら本人に言ってみてよw」
「絶対怒られるだろ……」
すいせいの反応的に本人は怒る回答だろこれ。
「それで?会うのはいいけど俺はそれで何すればいいんだ?」
「さあ?向こうはいい加減会わせろ!の一点張りだし、適当に話でもすればいいんじゃないかな」
「急に投げやりになるなよ……。というか、いい加減ってどういうことだ?そんなに俺に会わせろって?」
一般人に向けるにしては矢印が大きすぎないか?
「あたしが貴方と付き合ってるってのが不思議でしょうがないってしつこくてさ。そんなに仕事一辺倒な人間に見えてる?」
「ストイックな一面はあると思うけど」
「私だって普通の女の子しててもいいじゃんね」
すいせいはそう言ってむくれてるが、実際日頃の歌やパフォーマンスに向けてる努力や情熱は凄まじいしな。みこさんは同じ事務所の仲間として間近で見てるから、余計にそう感じるのかもしれない。
「まあ事情は分かった。予定教えてくれたら空けるから」
「ありがと。ごめんね、面倒に付き合わせて。一応その場にはあたしも行くつもりだけど」
「別に会って話をするだけなんだろ?大したことでもないよ」
腕をぎゅっと抱きしめながら謝ってくる。ホントに大したことじゃないのに。
「……間違っても、みこちに惚れたりしないでよ?」
「俺が?」
「うん」
「そんなに抱えられるほど腕長くないけどな。今でもいっぱいいっぱいだし」
「……ならいいけど」
抱き締める力を少しだけ強めてあげたら、ようやく安心したかのようにふっと笑ってくれた。
「……みたいな事言われたんだが」
「ふーん」
別の日、今度はAZKiが泊まりに来た。まあ色々とした後のまったりした時間の時に、何時ぞやのすいせいの話をしたんだが、なぜか少しだけ意地悪い顔をしている。
「それ、すいちゃんが止めてた理由は聞いた?」
「いや?俺に気を遣ったのかと思ってたんだが。なんかしつこかったって聞いたし」
「それもあるけどね。ホントは別なんだよ?」
「そうなのか?」
なんだ?
「ふふふ、すいちゃんはね?君が私たち以外の女の子に取られちゃったりしないかって不安だったんだよ」
「……は?」
「ようするに、嫉妬しちゃうってこと。すいちゃんも可愛いよねぇ」
「……おいおい」
冗談かと思ったが、ニヤニヤしてるAZKiの表情からして嘘ではないらしい。
「普段あんなに強気でガンガン進んでるのにか?」
「それとこれとは別だよ?それに、他のメンバーともなれば皆可愛いからね。少しは不安にもなるよ」
「よくわからないけどなあ」
AZKiにスマホでホロライブの所属メンバー一覧を見せられた。確かに系統の違いはあれど皆さん綺麗だとは思う。
「ね?それに、すいちゃんって意外に恋愛面だと奥手なんだよ?君に色々されるのを待ってたりもしてたし」
「そうなのか?ホントに意外だが」
「恋する女の子はね?いつでも好きな男の子に一番大切にされたいんです。そういうところ、もっと聡くならないと駄目だよ?」
「……善処します」
人のこと囲おうとしてる奴にそう言われるのはなんか違う気もしたが、ここで言い返してもしょうがないと思って黙った。
「そういうお前はいいのか?」
「他のメンバーに会うこと?」
「ああ。いや、俺はホントにどうでもいいことなんだけど。すいせいがそこまで気にするってことは、AZKiは大丈夫なのかと思って」
俺がそう聞いても、AZKiはニコニコと笑ったままだ。
「んー、前まではちょっと不安に思ったかも」
「今は違うのか」
「コレがあるしね」
机の上に置いてあったネックレスを指差してから俺に抱き着いてきた。
「たぶんすいちゃんも、君がコレをくれたのがきっかけで切り替えたんじゃないかな」
「…………」
「ホントか?って疑ってるでしょ」
「人の顔見るなよ」
そんなに顔に出たか。
「だってバイト代3ヶ月分って言ってたよね?ちゃんと調べたんだよ。『指輪 給料3ヶ月分 意味』で」
「……まあ、そうだな」
「私達ホントに嬉しかったんだから」
渡した時に目の前で泣かれてマジで焦ったのは内緒だ。
「普段君がここまで直球で伝えてくることなんてそれまでたぶん無かったからね。だから、私もすいちゃんも安心した所あるし」
「それはそうかもな」
あれを贈るのだってかなりの覚悟が必要だったしな。
「まあ、それはそれとして乙女心は複雑なんだから。すいちゃんも割り切ってるようで、たぶん不安だったんだよ」
「なるほどな。まあ、見ず知らずの他人に現を抜かせるほど出来た人間じゃないし、信じてくれとしか言えんな。自分のことで手一杯だ」
「ふふっ、困ったことあったらいつでも頼ってね?」
「……出来る限り頑張るよ」
優しく微笑むAZKiだが、それに甘えた先の未来が怖いのは気の所為なのか……。
次回、みこち(+巻き込まれホロメン)襲来!の予定です。