アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話   作:rideru

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アルファベットは視点の頭文字です。
今回と次回でなんとなーくの関係性を整理しておこうと思います。
もちろんご都合設定なので、あまり深く考えずに楽しんでいただけると幸いです。


第零話 S

きっかけはたぶん、小さい頃、それこそ幼稚園位の頃に、あずきちと一緒に彼の家に預けられたときだと思う。

 

「良い子にしててね?」

「終わったら連絡するから」

 

その日、おねーちゃんが熱だして、病院へ連れていかないといけなくなったから、幼い私は連れていけないし、一緒に遊んでたあずちゃんちに預けようとしたんだと思う。

 

「おかーさんおしごとだからいないよ?」

「そうだったわね……」

 

慌ててたお母さんがあずちゃんの家の事を忘れてたのはしょうがないと思う。

 

「……そういうわけで、ちょっと預かってもらえるかしら?」

「大丈夫よ、あの子も部屋で本読んでるし、たまには人と遊びなさいって言ってるからちょうど良かったわ」

 

そんなこんなで連れられたのが彼の家だった。

 

「……なに?」

「ほら、そばのすいちゃんとあずきちゃん、会ったことあるわよね。しばらく預かるから面倒見てあげて?お兄ちゃんでしょ?」

「……わかった」

 

前から近くに住んでるのは知ってたけど、直接会ったことも数えるほど、ましてや話したことなんてあるわけなかった。

 

「……」

「「……」」

 

彼のお母さんが彼の部屋に私達を置いて出ていくと、皆黙っちゃったのを覚えてる。だって、何話していいかわかんなかったし。

 

「……あの、さ」

「!!」

 

そしたら、彼の方が声をかけてきた。

 

「なにかやりたいことある?おんなのこのあそびとかしらないし」

 

彼なりに面倒をみることを考えたんだと思う。

 

「……おにんぎょう」

「もってないよ、ロボットならそこにあるけど」

「……しらない」

 

あずきちが呟いたけど、男の子の部屋にそんなものあるわけなくて。

 

「ゲームでもする?」

「ゲーム?」

「パズルゲームしかないけど」

 

そういって彼が出してきたのは、後に私の一番熱中することになる落ち物パズルだった。もちろんあの時は初めてみるものだったけど。

 

「これをこうして……」

「すごい!きえた!」

「うまいね、ぼくよりじょうずだよ」

 

ボタンとか動かし方とか、めちゃくちゃ丁寧に教えてくれた。

 

「あらあら、仲良く出来てるわねぇ」

 

お菓子とジュースを持ってきてくれた彼のお母さんにも気づかないほどに私達は楽しんでた。彼ともなんだかんだお話出来たんだと思う。最終的に2人とも兄ちゃんって呼んでたっけ。

 

「ありがとう、お姉ちゃんも今は落ち着いたわ」

「気にしないで。困ったときはお互い様よ」

「さ、すいちゃん、帰るわよー。あずきちゃんも一緒にね」

「やだ!まだあそびたい!」

「わたしも……」

 

お母さんが迎えに来たときも、彼にしがみついて拒否。あずちゃんも控えめながら、彼の服の裾を握ってたと思う。

 

「あらあら、うちの子大人気ねえ」

「すいちゃん、我が儘言わないの。急にお邪魔しちゃったんだから」

「いーやー!」

 

じたばたと暴れて拒否なんて、我ながら今考えてもなかなか珍しいんじゃないだろうか。

 

「……すいせいちゃん、あずきちゃん」

 

それを止めたのは、他ならぬ彼だった。

 

「ぼく、あんまりともだちいないから。だから、きょうとってもたのしかった」

「……ほんと?」

「うん。だから、またこんどいっしょにあそぼう?」

「やくそく?」

「うん。やくそく」

「わかった!」

 

ちょっと悲しいことも言ってた気がするけど、彼が約束してくれたからあの日は2人とも帰ったんだよね。

 

「おかあさん!またあそびにいってもいい?」

「あちらのおうちが良いよって言ってくれたらいいわよ。たーだーし、宿題はちゃんとやること、いいわね?」

「はーい!」

 

別に何があったってわけでもない。ただ、彼とポツポツ話して、一緒にゲームして遊んでるのが本当に楽しかった。あずちゃんもたぶん同じだったんだと思う。

 

 

 

「いってきまーす!」

「はいはい、お菓子持っていくのよー」

「うん!」

 

それから、事あるごとに彼の家に遊びにいった。いつもお家だと良くないから、公園で鬼ごっこしたりかくれんぼしたり、とにかく3人で遊びまくった。

 

「うた?」

「うん!すいちゃんもあずちゃんも、うたうのすきなの!」

「そうなんだ」

「こんど、なにかうたってあげる!」

「わかった、たのしみにしてる」

 

彼は、最初こそあんまりしゃべらなかったけど、そのうち仲良くなると時々だけど話が弾むようになった。お互いの好きなことや、食べ物、その日何があったかとか、とにかく話題は尽きなかった。

 

そのまま小学生になっても、彼との関係は変わらなかった。彼の方が1つ上だから学年は違うけど、帰れば相変わらずあずきちと2人で遊びに行ってた。

 

「……また来たのかよ」

「行くって約束したでしょ」

「お邪魔します」

「あらあら、2人とも来てくれたのね」

 

彼の両親は共に、私達に親切にしてくれた。後で聞いたけど、彼は学校でいじめられていたわけではないものの、イマイチ周りの子との関係を築けなくて友達が少なかったらしい。だからこそ、私達が遊べたってのもあるから、その辺はなんとも言い難い。

 

「……今日は?」

「ゲーム!今日こそ負けない!」

「私も練習したからね!」

 

彼はとにかく頭が良い。だから、パズルとか思考力を使う物はホントに強かった。ちなみに運動はぼちぼちらしいけど、本人はあんまり気にしてなかった。

 

「ダー!負けた!」

「お兄さん、強すぎです」

「そうでもないよ。2人ともどんどん上手くなってるから、そのうち負けそうだ」

「それ、もう何年も聞いてる!」

「……ハハハ」

 

たまに笑う彼を見るとかっこよくてドキッとした。たかが1年の差なのに、同じクラスの男の子達には感じないものだった。

 

「くそー!次は負けないからね!」

「頑張りますね」

「うん。楽しみにしてる」

 

帰るときは名残惜しかったけど、何時でも来て良いって言ってくれたあの時の言葉を信じてたから、ちゃんと笑顔で帰ってた。

 

 

「おい、星街とAZKiちゃんの2人と、どういう関係なんだよ!」

「なんで、お前みたいな地味な奴が2人と仲良くしてるんだ!?」

 

中学になれば、男女の関係ってややこしくなる。うちらはまあ見た目良かったし、あたしはともかく、あずきちは性格も良かったから、とにかくモテた。でも、うちらは相変わらず彼との関係を優先したかったから、部活は合唱部に入ったものの、それ以外は最低限の付き合いしかしてなかった。

 

「……ただの幼馴染だよ。幼稚園くらいからの」

 

それが聞こえたのはたまたまだった。担任に頼まれてクラスのファイルをあずきちと一緒に職員室まで運んだ帰りだった。

 

「なら、もうこれ以上あいつらに関わるなよ!」

「……なんで?」

「はあ?どう考えても釣り合ってねえだろ!」

 

通り過ぎようとした教室、彼のクラスだった。そこから何かを豪快に倒すような音が聞こえた。

 

「……っ」

「お、おい……、やりすぎだって。先公来るぞ」

「……チッ」

 

びっくりして咄嗟に隠れたら、中から数人の男子が急いだ様子で出ていった。

 

「……!!」

「だ、大丈夫!?」

 

まだ音がするので2人でそっと覗いたら、そこには突き飛ばされて倒れた彼がいた。

 

「……あ」

「な、なにやってるの?」

「……なんでもないよ」

「なんでもないわけないでしょ!」

 

咄嗟に隠そうとした腕を引っ張ったら、彼の顔がひきつった。

 

「……あっ、ごめんなさい」

「大丈夫、折れたわけじゃないから。ただの打ち身だよ」

うなだれる私の頭をポンと撫でると、倒れた机を直そうとする彼。

 

「さっきの人達、前に私に告白してきた人だった」

「あずきち?」

 

それを見ていたあずきちが物凄く怒った顔をしてた。

 

「でも断ったの。全然知らない人に告白されても困りますって」

「そりゃそうだよね」

「なのに、なんで私達じゃなくて、お兄さんがやられないといけないんですか!」

「……お前達にくっつく、なんだかよくわからない男が俺だからだろ」

 

彼はポツリと呟いた。

 

「あいつら、いわゆるイケイケな奴らだからさ。運動出来るし、クラスの中心でワイワイ騒いで引っ張れるタイプのやつさ。すいせい達のクラスにもいるだろ?」

 

何人か浮かぶ顔があったから、私もあずきちと頷いた。なんなら、たぶんうちらもその面子側だったし。

 

「そんな奴らからしたら、自分は拒否されてるのに、クラスの根暗な男が仲良くしてるのを見たら、嫉妬もしたくなるだろ。お前達に手を出したらどうなるかわからんけど、俺なら簡単だし」

 

彼は、苦笑いしながら言ってたけど私達は信じられなかった。

 

「気にするなよ。俺は、そりゃガキの頃の約束もあるけどさ。お前達とつるんでるのは嫌じゃないし」

「中学生ってまだガキなんじゃないの」

「そりゃそうだけど。お前達が嫌じゃないなら、俺はお前達の味方だからさ」

「嫌なわけ、ないです」

 

自分が被害を受けているのに、なんでそんなにうちらを励ませるのか、なんでこんなに嬉しくなるのか分からなかったけど。彼の言葉に何度救われたか。

 

今風に言うと、私達は彼に、脳を焼かれたって言うんじゃないのかな。

 

「あずきち」

「なに?」

「私、決めた。あの人が私達の味方になるのなら、私も絶対あの人の味方になるって」

「すいちゃん、私もだよ」

「頑張ろうね」

「うん!」

 

意識を変えたあの日から、私達は彼の見方も変わったんだと思う。別に関係が変わったわけではないけど、ただ、何となく彼への触れあい方に、男子と女子の違いを意識するようになった気がする。

 

たぶん、それが彼に対する『恋心の始まり』だったんじゃないかなって、そう思うんだ。




主人公にあえて名前つけてないんですけど、あったほうがいいか考え中です。
次回辺りにアンケート取るかもしれないので、協力していただけると作者は泣いて喜びます。
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