アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話 作:rideru
「卒業おめでとう!」
「おめでとう!」
「ありがとう」
つい先日、大学の卒業式を迎えた。もちろんその後に研究室の同期やら学部の卒業生らとの飲み会を経て、今日は家で2人が祝いに来てくれた。
「聞いてたけど流石にお酒臭いね」
「すまんな、昨日もオンラインで飲んでたから」
「だからこんな時間まで寝てたのね」
もう昼過ぎなんだが、起きようとした時にバタバタ音がしてたし、案の定2人が来ていたわけだが、もはや慣れたものだ。
「部屋は慣れた?」
「そうだな。もう1週間だし流石に覚えたよ」
「私達もちょくちょく物置かせてもらってるしねー」
「そのためにわざわざ一室多くしたんだから使ってくれないと困るぞ」
「「ありがとうございまーす」」
在学中より明らかに広いアパートの一室を借りて今は住んでる。2人が物置やら何やらに使うためという名目で部屋までついてるから家賃の負担が少し大きくなったが、一応予定の範疇で抑えられたから良かった。
「アイス屋さんのお仕事はいつからなの?」
「契約は4月から社員に変わる。今月まではバイトのままらしいが、社員移行のための研修も含めると聞いてるな」
「忙しくなりそう?」
「新店舗が出来てからだと思うぞ。予定地は知ってるんだろ?」
「うん。隣町のモールの中だよ」
「フードコートだし人気出そうだよね」
「まああいつが店長だし、下手なことにはならんと思うがな」
友人が新店舗の店長、俺が副店長として行く予定らしい。だから、今月はこっちに残る面子と新店舗に来る面子、それと補充のために新たに雇った子たちの今後の為の教育にも力を入れるんだとか。
「あたしらに出来ることあったら言ってよね」
「お仕事なら恋人価格で引き受けるよ?」
「いくらなんでもそれは奥の手過ぎるだろ。色んな意味で店が吹っ飛ぶし、そもそもお前らの一存だけで決められるわけないだろうが……」
自分達が有名すぎる事を自覚して欲しい。あと、無茶振りし過ぎはマネージャーさんが可哀想だからな。
「まあ君のことちょくちょく雑談で話してるし、実際お客さん増えてるんでしょ?」
「行ったよーってたまに聞くよ?」
「らしいな。店長が売り上げ好調って喜んでたわ」
俺の声やら顔バレはもう諦めてるし、なんなら会計の時にこっそり応援されることもある。おかげさまで笑顔の対応には慣れてきたよ。
「なんていうか……。もう少しこう、色々されたりするかと思ったが、案外対応は普通なんだよな」
「うちのリスナーにそういう馬鹿な人が居ないだけだよ」
「前から公表してたから、そういうのが淘汰されたのもあると思うけどね。それが狙いだったから功を奏したんだと思うよ」
「なるほどなあ」
俺や2人の身の回りが安全なら何も言うことはないんだけどな。
「それで?『お祝いするからね!』って連絡されたから予定は空けてあるが、この後はどうするんだ?」
「ケーキは買ってあるよ。ちょっといいところのお店予約したから、夕飯はお出かけね」
「あとは、いくつかおうちで使えるように2人で買っておいたものがあるから、時間までそれの設置かな。重いのもあるから手伝ってね」
「わかった。ありがとな」
ちらっとキッチンの方を見れば、たしかに家電っぽいものやら色々見えた。随分買ってくれたみたいだな。
「マネちゃんとか他のメンバーにも聞いたりして色々良いもの探してきたからさ」
「宝の持ち腐れにならなきゃいいが」
「君は結構料理とか家事もするからそんなことにはならないと思うけどなあ」
とりあえず動いてみますか。
「ベッドまであるとは。というかでかすぎないか?組み立てられてよかったが」
「折角なら大きい方が良くない?って」
「それはいいが、合わせるためのデカい布団は洗ったり干したりするの大変なんだぞ?」
「ここに来たらちゃんと手伝うからさ。それに、こんだけ大きかったら一緒に寝られるよ?」
「はいはい」
電子レンジやら料理道具やら色々あったが、一番でかかったのがベッドだった。ダブルサイズだよなあれ……。
「明日もあるし、一旦この辺でいいんじゃない?」
「シャワー浴びてくるよ。そしたらちょうどいい時間かも」
「わかった。ドレスコードとかじゃないよな?」
「そんなとこいかないよw」
「個室の居酒屋だから、ラフで平気だよ」
「りょーかい」
作業を切り上げて、2人がシャワーを浴びに消えた所で俺も一通り準備をする、といっても着替え準備するくらいしかないが。おっと、あいつらタオルの場所知らないんじゃないか?持っていかないと……。
「タオル置いておくなー。っと、すまん。まだ居たのか」
「ううん、気にしないで?タオルありがと!」
どうやらすいせいが先に入ってただけらしく、洗面所には今にも服を脱ごうとしてたAZKiがいた。とんでもないところに突っ込む所だったな。
「前の家より浴室も大きいんだよね。3人でも入れそうだし、一緒に入る?」
「大きくしてくれってお願いしてきたのAZKiだろうに。あと、今日は流石に遠慮しておく」
「そうなの?すいちゃんも喜ぶと思うけどなー」
「絶対に想像以上に時間かかることになるだろうが……」
「あはは。そうかもねー?」
AZKiもわかってて言ったんだろうな、俺が誘いを断ると笑いながら風呂場へ入っていった。
「なんか家よりお風呂場が綺麗だった。ここ使う為だけにでも毎日来たくなるんだけど」
「何馬鹿なこと言ってんだ……。まだ住み始めてそんなに日にち経ってないからだろ、そのうち汚れてくるだろうさ」
2人の後で俺もさっとシャワーを浴びて出てきたら、化粧中のすいせいがなんか言ってる。
「移動は?歩きか?」
「そうだね。駅の近くだし、ここからそんなに遠くないよ」
「わかった」
AZKiの方が準備が終わるのが早かったみたいで既に外行きの格好だ。さっきまでとはガラリと雰囲気変わるのは流石というかなんというか。
「……よし、すいちゃんもいけるよー」
「ん、じゃあ行くか」
「鍵忘れないでね?」
「ああ、ありがとう」
2人を先に出してから俺も外へ。
「あら、すいちゃん!どんどん綺麗になってねえ!」
「あ、〇〇さん!お久しぶりです!」
「AZKiちゃん!この間の新曲聴いたよ!」
「嬉しい!ありがとうございまーす!」
「いつも仲いいわねえ、羨ましいわぁ」
「えっへへー」
「君もちゃーんと2人を大切にするのよー」
「ええ、ありがとうございます」
「おーい、今度2人も連れてうち来いよなー!」
「うるせえ、真面目に働きやがれ!」
向かう道中で色々と声をかけられるのは、まあ地元だしって感じだ。2人は当然だが有名だし、俺もまあ2人との関係も含めて知られてるから、噂好きな主婦とか喧しい同期どもに揶揄われたりはする。俺が少し声を荒げると2人がくすくす笑うが、この辺もまあ慣れたものだ。
「なんか、この空気いいね」
「そうか?」
「うん。気楽だし、楽しいよ」
「まー知り合いだらけだしな」
都会じゃ人に声をかけられる事自体がある意味リスクだし、2人も色々気を遣うんだろうな。その点、この辺は知り合いだらけで味方しかいないから、変装とかもしてないくらいだし。俺は色々見られるからあれだが。
「もちろん貴方が居るのが一番なんだからね?」
「ね。だから貴方もちゃんと私たちを頼ってよ?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
俺の返事にニコニコしてる2人。昔から単に拒絶してたんだろうが、流石に俺も変わったんだろう。
「今日のところは、飯代頼むな」
「もちろん!お祝いだからね!」
「たくさん食べてね。美味しいって評判だったよ?」
「そりゃ楽しみだ」
2人に手を引かれていく。こんな感じで俺達はこれから先も行くんだろうな。
思いつきから細々と続けてきましたが、楽しく続けられたのは読者の皆様のおかげです。
これまでの応援、本当にありがとうございました。
筆者の他作品等も興味がありましたら、ぜひよろしくお願いします。