アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話 作:rideru
ご都合主義のオンパレードなので、軽く流してくれると嬉しいです。
高校は彼の進んだ所を自然と選びました。とにかく彼は成績優秀だったので、地元の進学校に進んだのですが、私達は合唱部での活動が認められて、私立からの推薦を貰えていました。が、あくまで好きなだけで、その道を進もうとか、特にそういうのに興味がなかった私達はそれを蹴って、彼と同じ所へ進みたいと希望を出しました。
「あそこの推薦蹴ったのか」
「部活の指定なんて、喉やったりで活動出来なくなったら学費とんでもなくなるしね」
「あと、入った後に他に何か見つけたり、やりたくなっても難しそうで」
「ああ、運動部の指定だとよく聞く話ではあるな」
先に高校へいった彼に進路相談に行ったときも、彼の反応はいつもと変わりありません。
「AZKiはまあ大丈夫だろうが、すいせいは……」
「今からめっちゃ勉強するから」
「あ、あはは……」
彼がそう言うだろうというのはある意味予想通りでした。というのも、すいちゃんは結構ギリギリの成績だったので、彼の心配も無理はありませんでした。
「まあ、俺も部活とか入ってないし、大体この時間ならいるから、分からないことあったら聞いてくれよ」
「めっちゃ頼る!助かる!」
「ありがとうございます!」
以前あんな目(前話参照)にあってもなお、彼は私達との関係を切ろうとはしませんでした。それもあって、私達はますます彼について回ることが自然になりました。
特に隠すこともなく堂々としていたので、その様子を見ていた学校の人達も、徐々になにも言わなくなりました。もちろん陰口を叩かれていたなら分かりませんが、そういうことは気にしないようにしたのです。
「おめでとう。すいせいも何とか通ったみたいだな」
「まじで2人のお陰でございます」
「AZKiに至っては入学生代表だもんなあ」
「た、たまたまですよ、きっと」
2人で無事に合格したとき、親の次に真っ直ぐ報告しに行けば、彼は珍しく笑っていました。
「まあ2人とも要領いいし、必要なところ纏められればあっさりいけるとは思ってたよ」
「でもお兄さんのお陰ですから」
「それはほんとにそう。放課後付き合ってくれてありがとね」
彼の手助けもあって、すいちゃんの成績の追い上げは本当に凄かったですが、やはり不安があったのでしょう。合格発表を見たとき、本当に珍しいすいちゃんの泣き顔が見られました。
「ま、そういうことで、これからまた後輩だからさ」
「よろしくお願いしますね」
「はいはい」
2人で彼の両手を握って、念押しするのを忘れずに。
彼の苦笑を見ながら、私達はますます決意するのでした。
「スカウト?」
「うん。この間あずきちと買い物でかけたら貰ったんだ」
「文化祭のときの歌唱大会を見ていたそうで」
「……ストーカーじゃなくて?」
「いや、出先であったのは本当に偶然だったんだって。でも、そのうちこっちにきちんと連絡する予定だったって」
「名刺も貰いましたよ。といってもまだ起業したばかりの小さな所みたいですが」
人生何があるかわからないものです。2人して貰った名刺を見つつ、首を捻る彼を眺めます。
「cover、ねえ」
「その中のイノナカミュージックって音楽部門に」
「ってことは、他にもあるのか」
「はい。たぶん私達もいずれは兼務になるんじゃないかとは思いますが、アイドルグループがメインみたいですね」
カタカタとキーボードを叩いて調べる彼。
「『ときのそら』『ロボ子さん』か……、なんか動画サイトで配信してた気がするな」
「そうそう、バーチャル技術を使ってアバターで表現するんだって」
「もちろん、本人がモデルなので近似してるみたいですよ」
「でも中には明らかに人外のモデリングしてる人もいるとか」
「……凄い世の中だな」
彼も知らないことばかりで目が点になってました。
「……んで?2人はどうするんだ?」
「折角だし受けてみようかなって」
「歌うのは好きですし、私達の表現力が伸ばせるならいいかなと」
「学校の方は?」
「学業優先で問題ないそうです。むしろそうじゃないと未成年を預かるのに問題があると」
「でもあの社長さん、結構熱く説明してたよね。うちはともかく、あずきちのお母さん百面相してたから、笑いこらえるの大変だったよ」
いきなり芸能人になるって、自分の事とは思えなかったですし、母はもっとだったと思います。
「そうか。2人がやりたいなら頑張れよ。応援してる」
「ありがとう!夢はでっかくスターになる!」
「そうだね。私も、私の力で皆を明るくしたい」
夢を語り合う私達。彼はそんな私達を、少しだけ眩しそうに見ていた気がします。
「あ、なら私達のファン第一号は貴方ですね」
「そうじゃん!将来ファンクラブとか出来たら、リーダーとかやってよ!」
「第一号はともかく、そんなこと出来るか。応援するとは言ったが、なんでそこまで前に出なきゃならん」
割と良い案だと思ったんですけど……。
高校卒業後、彼は地元の大学へ進学しました。もっと高いところへ行けたとも聞いていますが、彼曰く「やりたいことが出来る教授がそこにいたんだ」とのことでした。卒業式の後に、どっちが学生服のボタンを貰うかでちょっとした問題は起きましたが、それは兎も角として。1年後には私達も仕事に駆け回りながらも無事に卒業出来ました。
私達は2人ともソロデビューをしており、同時加入でもあったため、ある程度安定したらペアを組んでの新曲も視野に入っているという段階でした。しかし、いよいよアーティストとして本格的に始動しようという矢先に、事件は起きました。
「……これは、どういうことですか?」
「どうもこうも、幼馴染と買い物行った時の写真ですね。オフでしたし、撮ってと言った覚えはないですが」
「先週の休みの時ですよね。つまり、これは貴女達本人に間違いはないと?」
「はい。なんなら現地の写真とか撮ってますけど見ますか?」
「何を考えてるんですか!?」
ある日、2人して事務所の方から来て欲しいとの連絡を受け、ペアの話が進むのかな?と少しドキドキしながら来てみれば、待っていたのはかなりお怒りの様子のマネージャーさんと何枚かの写真でした。隣に開いた本は雑誌でしょうか?目の前の写真と同じものが載っているように見えます。
「……何、とは?」
「貴女達はアーティスト、そしてホロライブのアイドルの一面も持っているんです。なのに、今ここで男性関係の問題が起きたら、どれ程の影響があるか分からないはずないでしょう!」
「……」
捲し立てるマネージャーさん。
「……この方は、どなたですか?」
「私達2人の幼馴染です。1つ上ですけど。昔からお世話になっていました」
少し目が据わっているすいちゃんの代わりに私が答えます。といっても、私もちょっと怒ってはいますが。
「……つまり、疚しいことは何もないと?」
「意味が分かりません。疚しいことって何ですか?」
「AZKiさん、貴女は物分かりの良い方だと思ってたんですが。分からないはずないですよね?」
「いいえ、わかりません。私達にとって大事な人である彼を、他人に悪し様に言われる筋合いはないと思ってますので」
すいちゃんの手を握って、私は反論しました。私からここまで強く言ったことは今までなかったと思います。マネージャーさんも、少しだけ面食らった顔をしていました。
「アイドルは夢を売る仕事です。そして、その性質上男性ファンは必然的に多くなるんです。そのアイドルに異性との関係があるとなれば、それは大きな傷になります」
「元々私達はアイドルではなかったはずです。この会社の都合で兼任しているだけで、元はアーティストでしたよね。それに、すいちゃんはガチ恋しないでと言っていたはずですし、私も同様です。そこまで強い影響になるとは思えません」
「仮にそうだとしても、他の方々にも悪影響が起きます。とくに、すいせいさんは新曲も大ヒットしてますし、AZKiさんも歌唱力が評価されてきて波に乗っている、話題性の強い時期です。その2人に揃って問題が起きれば、他のメンバーも疑いがかかります。その責任が取れますか?」
「……黙って聞いてれば、問題問題って」
ついにすいちゃんが我慢の限界を迎えたようです。
「私達が誰とどういう付き合いをしていようが、どうこう言われる筋合いはないわよ!それを問題呼ばわりされるのもね!あの人は一番最初に私達を支えてくれた大切な人、それを知ろうともしないで勝手なこと言わないで!」
「すいちゃんと同じです。昔から長いお付き合いなんです。むしろ、彼は身を引こうとしてくれたのを私達が止めたくらいですから」
「……」
私達2人の言葉に絶句した様子のマネージャー。
「……それこそ、迷惑だっていうなら私はここを辞めます。アーティストとしてやっていくのは夢ですが、彼と歩む未来の方が大事です」
「なんですって?」
すいちゃんはきっぱりと言いきった。
「申し訳ありませんが、私も同意見です。両親も、何なら地元の友人達も彼の事や私達の関係を知ってますし、この決断を止めないと思います」
私も静かに同意した。
「……その男性は、貴女達にとってそれほど大切なんですか?」
「「はい、当然です」」
マネージャーさんが振り絞るように聞いてきましたが、2人して即答しました。
「……わかりました。ひとまずこの事は上にも報告します。ですが、しばらくはお二人とも活動の方は控えてください。ましてやこの男性とまた会うなどとは考えないように、いいですね?」
「嫌です」「お断りします」
私達も譲れません。マネージャーさんが再度顔を真っ赤にして何かを言おうとした時でした。
「わかりました、ではこういうのはどうでしょうか」
「しゃ、社長!?」
私達をスカウトした社長が来ました。弾かれたように立ち上がるマネージャーさんを手で抑えて、彼は私達を見ました。
「いっそのこと、公表するというのは?」
「いいんですか!?」
すいちゃんは驚いたように、でもちょっと嬉しそうでした。
「ええ、所属するメンバーを守るのが我々の仕事です。もちろん、本人の意思にそぐわないことをお願いしなければならないこともあるかもしれませんが、それは本当に最後の手段です。そうする前にお互いに歩み寄ることは出来ると思っています」
社長は微笑んでいました。
「彼の事は私も知っていますよ。貴女方二人をスカウトしに行こうとしたのは、もちろん歌唱力もですが、元々は彼といるときの笑顔に惹かれたのですから」
「そうだったんですか?」
「ええ、タイミング的に合唱部での活動後でしたかね?たまたま見掛けたのですが、それはもう、楽しげに笑っていましたので」
社長は次にマネージャーさんに振り返りました。
「君の判断は間違いではない。会社や所属するメンバーを守ろうとした考えは大事だと思う。けど、本人達が望んでいることを、まずは叶えてあげることを優先して欲しい」
そう言って頭を下げる社長を、マネージャーさんは大慌てで止めていました。
「社長!止めてください!」
その言葉に頭を上げる社長。
「すみませんでした。彼女達をもっと親身に支えて上げるべきなのは僕でした。社長が謝ることではありません」
そして、今度はマネージャーさんが私達に頭を下げてきました。
「私達も、意地張りすぎました。ごめんなさい」
「すみませんでした」
立場を考えれば、向こうの言い分は間違っていなかった。社長の言うとおりです。少し時間をおいて冷静になった私達も頭を下げました。
「……では、これでこの件は御開きということで。今後について考えましょう」
それを見届けた社長が手を叩いて空気を変えてくれました。
「今度、ライブで貴方の事を話したいんだけど、話題に出しても良い?」
「ライブっていうと、あのでかい奴か」
「そうです。ほら、前に週刊誌で話題になったでしょう?」
大型ライブを数週間後に控えた休みの日、彼の元を訪れた私達が、ある計画のために彼に聞くと、彼は不思議そうな顔をしてました。一応実物を見せると、彼はしかめ面になった。
「なんだこりゃ、盗撮か?」
「うん。私達に男がいるって騒ごうとしてたんじゃないかって」
「この時私達も少し注目され始めてましたから。話題になりそうだったんだと思います」
彼はふーんと頷いていました。
「それで?これがあったのに俺の話?むしろこれ、前にもいったけどお前達から離れた方が良いんじゃないか?俺1人がどっかいくのは簡単だが」
「うん。ライブって基本的には私達のファンが来るでしょ?だから、そこでちゃんと説明した方がいいって。あと、私達から離れるとか冗談でも言わないで」
「マネージャーさんと、あと社長にも言われました。それと、どこに逃げても絶対に見つけますから、変なこと考えないでくださいね?」
「目が怖いな……、別に構わないけど」
じっと見つめていたら思っていたよりも彼が快諾したので、私達の方が驚きました。
「聞いといてなんだけど、いいの?内容も言ってないのに」
「お前らが俺の話するって言ったって、大した話題もないだろ。嫌がらせするってわけでもないだろうし、なんでも良いよ」
「……なんでも、いいんですか?」
思わず念押ししてしまいました。
「ん?うん。すいせいだけなら不安だけど、AZKiもいるなら、滅多なことにはならんだろ」
「それ、どういう意味かな?」
すいちゃんが据わった目で問い詰めようとしているのを尻目に、私は思わず苦笑いが顔に出ないようにするので必死でした。
「そ、そうですね。一応内容とかは吟味する予定ですし」
「だろ?なら、問題ないよ。それより、ライブの準備は進んでるのか?」
彼の方から話題を変えてくれたので、これ以上ボロがでなくてホッとしました。内心ではライブ後に起きるであろう混乱と、巻き込まれる彼に謝罪してましたけど……。
ちなみに、彼のご両親には先に計画も含めて話を通しておきましたが、『こんな可愛い子達にここまでさせるなんて、息子ながら罪な男ねぇ』と笑いながら承諾していただきました。心が広いというかなんというか……。
「無茶苦茶すぎるよ」
ライブ後の打ち上げも終わり、実家に帰ったのも草々に、彼の家へ2人で向かえば、一言目に貰ったのがこれでした。
「このくらいしないと、逃げちゃいそうだったからね」
「逃がしませんって言いましたし、なんでも良いよと言ったのは貴方ですよ?」
「話題にするのはいいと言ったが、これ俺までとんでもないことになるんだが」
怒られるくらいかと思っていたのに、彼の反応はそれ程でもなくて、2人して拍子抜けしていました。
「あの、やっといてなんだけど、怒らないの?」
「いやまあ、言いたいことは色々あったんだけどな。ライブ見てた母さんに『女の子の告白ってのは、色々覚悟してんだから、あんたもちゃんと向き合いなさい』って先に言われてさ。なんか言いにくくなっちゃったよ」
彼は苦笑いしてました。
「……いつからだったんだ」
「さあ?でも、はっきり意識したのは中学かな」
「……なんで俺を」
「理由なんてないです。気づいたときにはこうでしたから」
「…………2人とも、なのか」
「うん。でも私達2人とも退きたくないし、貴方も今さらどっちかなんて選べないよね」
「だったら、2人とも貰ってもらうしかないかなって思いまして」
彼は私達の答えを聞いて、フゥと息を吐いた。
「俺にそんな甲斐性はないと思うが」
「今まで通りでいいんだよ、すいちゃん達はそれが好きなんだから」
「ちょっとだけ、意識してくれれば、それでいいんです。両手にアイドルなんて、なかなかないんじゃないですか?」
「そのアイドル本人に言われてもな……。あと、当事者になると、あんまり余裕はねえよ」
そうは言うものの、彼は最終的に私達を手招きして受け入れてくれました。
「ま、とりあえずライブ成功おめでとう。……それと、これから、よろしく」
「「……!!」」
2人して同時に飛び込んだので、彼が支えきれずに倒れちゃいましたが、そういうわけで私達は彼のものになったというわけです。
これからは、私達が3人で幸せになるお話が続きます。まあ、色々あるとは思いますが、ぜひ見守ってくれたら嬉しいです。