アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話   作:rideru

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第2話

大学生は平日の休みが多いってのは、割と知られていることだと思う。授業の振り分けにもよるし、教授の都合で突然休みになったりもするし。順調に単位が取れてたりすると、3回生以上にもなると週2回とかしか学校に行かないなんて人もいると聞くし。

 

『ね、今日休みだったよね』

『今日は授業がないっていってましたよね』

 

だから、休みの日に家でゴロゴロしてるのは、何らおかしな事じゃないと思う。

 

『ランチ付き合って。奢るから』

『お出掛け、一緒に行きませんか?』

 

ただし、予定を把握されているとあっさり呼び出されたりするよな。

 

 

「おーい、こっちこっち」

「……せめて、こっちの確認くらいはしてから誘うとかないのか?」

「ん?だって、今期は休みって言ってたし」

 

待ち合わせに指定された駅に向かえば、すでに本人は来ていた。

 

「それより、なんか言うことない?」

「……いつもながら、可愛いな。似合ってるよ、すいせい」

「よろしい」

 

俺が以前プレゼントしたネックレスをこれ見よがしに見せつけてくるすいせい。気に入ってくれてるのは嬉しいが、トーク番組とかで聞かれる度に毎回擦ってるのはどうかと思うけどなあ。

 

「いこ?」

「ああ」

 

当たり前のように腕を組んでくるが、もう慣れた。

 

「AZKiは?」

「今日は別収録なの。泊まりっていってたから遠いんじゃないかなあ」

「大変そうだな」

「ちゃんと労ってあげてね?ま、今日はすいちゃんが独り占めってことで」

 

ぐいぐい引っ張っていく彼女のいう顔は満面の笑み。幸せそうで何よりだ。

 

「あ、これ知ってる?」

「2人でCMしてるやつじゃん。前に観たな」

「ちゃんとチェックしてるじゃん、偉いね」

「前に知らんっていったら、2人して連投してきたからな。怖すぎるだろ」

「彼氏が彼女の活動知らんとか、万死に値するんだよ?」

「どこの独裁者だよ」

 

 

「大学の方は?」

「特に何もないよ。この間のうちでのライブでお前らのファンが増えたくらいか?」

「おー、それはいいね」

「反面、俺への視線が少し冷たくなったぞ」

「なんでよ」

「お前らが、ライブ後に着替えもせずに俺のところに突っ込んできたからじゃないか?」

「あ、あれやっぱりヤバかった?マネちゃんにも小言言われたんだよね」

「当たり前だろ」

 

 

 

「着いたよ」

 

なんだかんだ喋りつつ、到着したのはラーメン屋だった。

 

「ここ?」

「うん。たまにはがっつり食べたくてさ。流石に1人だと目立つし」

「あー、まあそうか。なら入るか」

「うん!」

 

暖簾を潜ればいかにもな雰囲気の店だった。

 

「調べたのか?」

「うん。豚骨しょうゆが美味しいって。あと、餃子とチャーシューも自信ありって書いてあったよ」

「そうか。奢りでいいのか?」

「もちろん。たくさん食べていいよ?」

 

ちゃんと了解を得た所で遠慮なく食べることにする。2人ともあり得ん程稼いでるから、こういう時には遠慮しないでほしいって言われてるし。

 

「豚骨しょうゆチャーシュー、麺大盛、餃子セットで」

「豚骨しょうゆと私も餃子1枚下さい」

 

お冷やを出してくれた店員にそのまま注文。

 

「相変わらず、よく食べるね。それでその体型なの、女としては許せないんだけど」

「奢りの時くらいしかしない。普段はもう少し抑えてる」

「まあ、出しがいがあるからいいけど」

 

そんな話をしつつ、待っていたら料理が来た。

 

「「いただきます」」

 

「うまい」

「ね、聞いてたとおり」

「スープ味濃いな、麺とよく絡む」

「男の人は好きそうな味だね、すいちゃんも好きだけど」

 

「餃子も肉の味しっかりしてるの嬉しい」

「ニンニク強いけど、たまにはいいかな」

 

「あーんでもする?」

「バカ言え、外でやることじゃねえだろ」

「そうかなあ?」

 

「「ごちそうさま」」

 

下らないこと言いつつも、2人とも完食。すいせいがさっと支払いを済ませたので、そのまま外へ。

 

「こういうとき、男が出すべきって巷だと言うらしいけどな」

「時と場合に依るでしょ。そもそも、普通の大学生とそれなりに売り出してるアイドルじゃ資金力比べる意味もないし」

「そりゃそうだな」

「お祝いとかだと貴方めちゃくちゃ奮発してくれるしね」

「お祝いだしな」

 

バイト代は貯金とお祝いで大体消えてるから、日々の生活は質素そのものだと思う。

 

「ま、うちらがいざとなったら養ってあげるからさ。そんなに重く考えることないよ」

「それは最終手段にしたいが」

 

だいぶ魅力的に聞こえるのは、流石に許してほしい。

 

「んじゃ、今日はこのまま遊びに行こ?すいちゃんも休みだからさ」

「はいはい、どこへでもお付き合いしますよ」

 

ぐいぐい腕を引っ張られながら、そのままどこへともなく歩き出す。まあ、たまにはいいんじゃないかな。

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、遅くなっちゃった」

「大丈夫だったか?」

 

珍しく俺の方が先に到着して、スマホ眺めて待ってたら、AZKiが走ってくるのが見えた。

 

「家出る直前でマネちゃんから連絡きちゃって」

「仕事ならしょうがないよな。時間には間に合ってるし問題ないぞ」

「ごめんね」

 

なおも謝るAZKiの頭をポンと軽く小突いた。

 

「ん、これで終わりな」

「……ふふっ、わかった」

 

意図が通じたのか、小さく笑うと腕に絡んできた。

 

「……お前もか」

「すいちゃんもよくしてるし、いいでしょ?」

「そりゃ構わんが、歩きづらくないのか?」

「時間はたくさんあるんだし、なーんにも急いでないからいいんだよ」

 

人前だと丁寧な言葉遣いだが、俺の前だと少し砕けるんだよな。それだけ気を許してるってことなんだろうけど。

 

「それで?買い物ってなに買うんだ?」

「ん?目的はないよー。貴方とブラブラ眺めてみよっかなって」

「なるほど?なら、適当に歩くか」

「うん!」

 

……AZKiは本人の言動も相まって清楚ってよく言われてるし、実際そうではあるんだが、もうちょっとはっちゃけてみたいらしい。俺相手に口調を崩すのは、その一貫なんだとか。最近だと、同僚に対しても徐々に崩せてきてて、前に喜んでたな。

 

「あ、これ君に似合いそう」

「どれだ?……まじ?」

「うん。背があるから、ピシッとしそうじゃない?」

 

なにかと思えばタキシード……?

 

「今時、本場の方々でも着ないだろ」

「一発芸的な感じで」

「ホントに一発だし、そもそもそれをどこで披露しろってんだ」

 

たまーに妙なこと言い出すのはなんなんだろうか。

 

 

 

「そういえば、ご飯は食べれてるの?」

「お陰さまでな。毎日食えてるよ」

「ならよかった。でも、あんまりアルバイト詰めたらダメだよ?身体壊しちゃうし」

「そんなに詰めてるように見えてたか?」

「んー、無理じゃない限界までくらいかなって」

 

……よく見てるな。

 

「たしかに、日常に支障がないくらいには入れてるな」

「でしょ?すいちゃんとも話してたんだ」

「そうなのか、まあ支障はないから、そこまで心配せずとも問題ないぞ」

「何かあったらいつでも言ってね?私も君のためにいくらでも動くからさ」

「そりゃありがたいが、そんなに身構えることはないよ」

「ううん、いずれは君を養うことを視野に入れてるからね。このくらい普通だよ」

「……待ってくれ。すいせいも言ってたが、それ本気なのか」

 

すいせいも目はマジだったんだよ。

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

「わりい、聞いてないと思う」

「そっか……。うん、本気だよ」

 

AZKiの目もマジだった。

 

「……すいせいにも言ったが、それは最終手段にしてくれ。一応これでも自立して生きていくつもりなんだ」

「もちろん。でも、君を支えるために2人ともしっかり準備してるってことだけは知っててね?」

「……ああ、困った時は遠慮なく頼るよ」

 

そう返すに留めたが、その時のAZKiの顔は本気でそうなるだろうと思っている顔だった。

……頑張れ、将来の俺。

 

 

 

 

「あの2人、ガチで未来の俺を囲うつもりらしいんだが」

「……普通の男なら泣いて喜びそうなもんだがな」

「2人とも目がマジだったんだぞ。一度入ったら抜け出せなくなりそうって分かってて突っ込むやついるか?」

「……当人にしか分からない感覚なんだろうが、とりあえずがんばれ」

「何が怖いって、そう聞かされる度に『それでもいいかな』って揺らぎそうな俺がいるのも事実なんだよ……」

「あー……、うん、とりあえず困ったら連絡しろよ」

「すまん、恩に着る……」

 




この2人に囲われるってなったら、沼と分かってても入りたくなりそう。
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