アイドルに捕まってしまった青年の幸運で不幸な話   作:rideru

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間が開きましたが、ネタが浮かんだので続きです。
そして今回、アイドル組の出番少ないです。
今後もこういう回があるかもですが、そういう話だと思ってください。


第3話

「今日も暑いな」

「暑いな~、でも、そんな中で働いてる俺らって偉いよな!」

「そうだな」

 

学生の本分といえば学業、耳タコレベルでよく言われることだ。けど、そんなことを真面目に受けとる奴が果たして何人いるのやら、大学なんてそんなところだ。

 

「はい、お待たせしました。バニラアイスです」

「420円です。……80円のお返しですね、ありがとうございましたー!」

 

特に、大学生ってのは不思議な立場で。年齢としては大人なのに、期間限定で学生という特殊な身分をもつ。だから学割とかも使えるし、何かと優遇されやすい。それを満足に楽しむためにすることといえば、バイトだ。とにかくお金を稼ぐ、これに尽きる。

 

「昼時だし、まあ人も多いな」

「しゃあねえよ。世間じゃ夏休みだ。遊び場少ないこの辺じゃ、みんな集まるだろ」

「まあそうだな。俺もお前やあいつらに引っ張り回された記憶あるわ」

 

そんなわけで、俺はいつもの友人と一緒にバイト中なわけだ。この辺じゃわりと大きなショッピングモールの中にあるアイス屋、の店外の販売車の担当だ。

 

「いや、どう考えても中が良かったよな」

「仕方ねえよ。実際この時期ここに出すと飛ぶように売れるし。色付けてもらってるしな」

この販売車は夏限定だ。店長個人所有の小さな店だが評判は良く、モール内でも割と売れるうちのアイスだが、外にあると暑さもあってか、ピークだと小さな列が出来るレベルには売れる。もちろん中と比べると設備や環境はよくないが、さっきもいった通り、少しだけ給料に色付けてもらってるから、時給の面から見ると割と美味しいんだよな。

 

 

 

 

「ん、一旦人捌けたか?」

「そうみたいだ。おし、なら今のうちに在庫取ってくるか」

「了解、準備中看板かけとくわ」

 

あいつが外に準備中の看板出しにいったから、俺も在庫確認と補充用の確認しに行かないと。

 

「出してきたわ」

「こっちも確認したが、とりあえずバニラとチョコは絶対足りねえな。あとイチゴとミントが若干不安」

「りょ。フレーバー4つは多いな、手伝うか?」

「んー、そうだな。往復だるいし」

「おけ。なら鍵かけるぜ」

 

相方がこいつだから話が早い。2人とも同時期に申し込んで、店長がさっくり雇ってくれたのも大きいけど、なにかとシフト被ってるからかお互いのペースが分かるんだよな。

 

「そーいや、お前この夏バイト入れまくってるって聞いたけど」

「ん?ああ、そうかもな。やることねえし、折角なら貯めておくかーってな」

 

休憩もかねてのんびり向かう途中で、気になることを聞いてみた。

 

「大体の奴実家に帰ったし、だからって都会に出た連中が無理に田舎戻っても来ねえだろ」

「そうだな」

「お前とつるむったって、やれること限度あるし、ならいっそ仕事入れとくかってな」

 

実に学生っぽい理由だ。

 

「お前の方はどうなんだよ。俺ほどではなくても、結構組んでる気がするってことは、割と入れてないか?」

「そうだな。今年は少し増やした」

 

俺も聞かれた。

 

「なんでまた?」

「単純にあいつらに付き合って買い物出たりすると、金がかかる。さすがに毎回毎回奢ってもらうのは気が引けるし、なんか嫌だしな」

「……それもそうか。よく考えたら雲の上みたいな存在みたいなもんか」

「身近すぎてつい忘れるけどな」

 

すいせいもAZKiも、本人達がどう思ってるかは知らんが、立派な社会人としてかなりの金額を稼いでいる存在だ。俺なんかとは資金力が違うから、ついていくのは大変だ。

 

「そりゃー働かないとな」

「そういうこと。まあシフトの融通聞くから働きやすいしな」

この店、従業員の大半がアルバイトだが、店長が多めに雇ってることもあり、割と休みとかも入れやすい。無論、他の人の代わりに出ることもあるが、そのへんは持ちつ持たれつだ。

 

「……ん?おい、なんか人だかり出来てねえか?」

「入り口らへんから人多いと思ったけど、うち原因か?」

 

話ながら在庫も取り終わって、持って帰ろうとしたら、車の周りに人だかりが出来てる。

 

「準備中出したよな?」

「置いてあるぜ。倒れてもねえな。ほら、あそこ」

 

一応確認したが、あいつの指差すとおりにちゃんと置いてあった。

 

「誰かきてんのか……?」

「……って、おい、まじか!」

 

俺が目を凝らしてる間に先に気づいたのか?

 

「おいおい、今日収録とか来るって言ってたか!?」

「店長が?何にも聞いてねえよ……?あー、なるほどな……」

 

凄い剣幕で捲し立ててきたこいつをいなしながら近づけば、理由が分かった。

 

「あ、どうやら店員さんが来たみたいですよ!」

「すみませーん、今ってやってたりしますかー?」

 

なんとまあ、他人行儀なすいせいとAZKiがいた。後ろに見覚えのある金髪の女性とカメラを担いだ人達がいるってことから、恐らく仕事か?

 

「おい、店長に確認連絡してみるわ。応対よろしく」

「あ、おい!」

 

こいつ、面子見て後ろに下がりやがった。くそ……。

 

「はい、今ちょうどお昼のピークを越えたので、在庫の補充をしに行ってたところです。もう開けますよ」

「あ、よかった!この辺りだとおすすめのアイス屋さんって聞いたので!」

「ほら、いろはちゃんも何か食べる?」

「い、いいんでござるか!?」

「もちろん。おすすめを3つお願いします」

 

めちゃくちゃ満面の笑みを浮かべるすいせいと、後ろの女性に声をかけてるAZKi、いろはと呼ばれた方も、緊張した様子で前に出てきたな。

 

「……おい、店長からOKでたぞ。どうやらアポはなかったらしいが、旅番組かなにかだって」

「だろうな。二人がMCやってるやつあるし」

「というか、ここ2人とも地元じゃねえか。絶対知ってて来ただろ」

「そもそも、俺がここに入ってるのは知ってると思うぞ。シフトまで知ってたかはわからん」

 

電話を終えたやつが戻ってきたから、アイス準備しながら後ろで素早く確認。

 

「というかあれ、後ろにいるの風真いろはじゃん。すいちゃんのファンなんだっけか」

「……あー、名前に聞き覚えあると思ったら通りで。前にすいせいから後輩だよって聞いたんだわ」

 

謎がとけた。

 

 

 

 

「……おまたせしました。当店おすすめのバニラとイチゴのダブルです」

「わぁ!ありがとうございますー!」

 

うちの一番人気を出したら、めっちゃ嬉しそうに笑う3人。

 

「んー!甘くて美味しいでござる!」

「ね、でもくどくないから食べやすいかも」

「酸味もあってさっぱり!」

 

少し離れたところでキャイキャイ感想言ってるのが聞こえたが、俺らはそれどころじゃなかった。

 

「やべえぞ。客寄ってきちゃってて昼よりひでえ!」

「店長!在庫足りないっす!」

「店内から少し回した!というか、店内に誘導したいな!」

「どう考えてもここにいるアイドル観たさに来てるから無理っすよ!」

 

店長がわざわざこっちにきてても尚、ありえん客数に目が回る。

 

「あとでサイン貰えないかな」

「そんなこと言ってる場合じゃないっすよ!」

 

呑気なこと言ってる店長だが、手は止まらん。

 

「今日の分は多めにつけるから、回しきるぞ!」

「ういっす!」

 

忙しすぎると店長のノリが体育会系になるのは少し鬱陶しいけど、いい加減慣れた。友人は元々陸上やってたから馴染むの早かったけどな。

 

 

 

 

 

「うぇー……、終わった……」

「お疲れー。たぶん今日はうちのレコードかもしれんな。モール内もかなり混んでたらしい」

「店長来なかったらこっちパンクしてたっすね……」

 

とりあえずアイドル達が別の場所に移動したことで群衆も消え去った。店長の言うとおり、過去一の入客だったと思う。

 

「しっかし、地元出身のアイドルってのは凄いな。活気が違う」

「まあ、田舎じゃ娯楽少ないっすからねー。大騒ぎにもなりますよ」

 

店長と友人の会話が聞こえた。

 

「あれ、たしかお前らの知り合いだろ?」

「こいつの幼馴染みっす。俺は高校からの知り合いですね」

「はー、俺みたいなオッサンにはよーわからん世界なんだろうなあ……」

 

何を思ってるのか、遠い目をしてる店長。

 

「お前達も都会に出たいとかないのか?」

「んー、俺はあんまりっすね。遊びに行く程度ならもちろんいいっすけど」

「俺もです。なんか色々ありすぎて迷いそうです」

「なんか今時の子って感じじゃねえな、お前達」

 

そういって店長は笑うと、うちのカップアイスを2個差し出してきた。

 

「給料は弾んでおくから、もう上がっていいぞ。とりあえずこれは俺の奢りだ」

「「ありがとうございます!」」

 

なんだかんだいい人なんだよな。

 

 

 

 

 

「だー、今日は疲れたな!」

「確かに」

 

モール内のフードコートでアイス食べた後の帰り道。

 

「今日の、いつ放送されんのかな」

「後で聞いておくよ」

「つっても、俺はあんまり映ってないだろうけど」

「後ろ引っ込んだからだろ」

「お前の方が応対完璧なんだし、適材適所ってことで」

「普段の人当たりはお前の方がいいじゃねえか」

 

くだらない言い合いをしていた道中。

 

「あっ、見つけた!」

「もう帰ってたんだね」

「ん?」

 

聞き覚えがあるというか、さっき聞いた声が聞こえたから後ろを振り返ると、

 

「はあい、さっきぶり!」

「お騒がせしました」

「こ、こんにちは!」

 

さっき来てた3人だった。違うのは一応サングラスやらマスクやらで顔が完璧には見えてないところ。

 

「……仕事は?」

「今日は終わりだよーん」

「先ほど伺った所に送るサインを書いてきたところなんだ」

 

自然に俺の両隣に並ぶ2人。

 

「あ、あの!さっきのアイス美味しかったでござる!ありがとうございました!」

「うおっ!生ござる聞けた!友達に自慢できるぜ!」

 

いろはに興奮する友人を眺める。

 

「今日俺がシフト入ってるって知ってたのか?」

「ううん、働いてるのは知ってたけど、今日はホントに偶然」

「すいちゃん、めっちゃにやけるの我慢してたんだよ」

「あれでか?」

「なによ、あれって」

「いや、たまにみてる時と比べたら、随分顔に出てたと」

「うん、私もそう言ったんだけどね」

「うぇ……」

 

楽しそうに会話する2人に挟まれる俺。

 

「あの、あの人が?」

「風真ちゃんは初めてみるのか。そうそう、噂の交際相手ってやつ」

「お二人とも楽しそうでござる」

「まー、長い付き合いだしな。気心知れてるってのもあるだろうし」

「なるほど……」

 

「後ろで納得してないで、こいつら止めてくれ。会話が終わらん」

「おいおい、仕事終わりに癒しを求めるのは人として普通だろ、頑張れ彼氏」

「お二人とも楽しみにしていたので!が、頑張ってください!」

「そうだそうだ、構えー」

「ふふっ、頑張ってね」

 

……ま、たまにはいいか。

 

 

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