クソガキが征くブルーアーカイブ   作:POTROT

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着任、そして戦場へ。

 ブルーアーカイブ。

 それは、少女達の紡ぐ青春の物語。

 銃と爆薬で彩られた、輝くような希望と奇跡の物語。

 登場人物の感情が、思惑が、信条が折り重なり、作り上げられたそれは、透き通るように美しい。

 

 俺は、そんな物語(ゲーム)傍観者(プレイヤー)だった。

先生(主人公)』を操り、彼と彼女達が重厚で綿密な物語を進めていく様を画面の向こう側から眺める、何万といる傍観者(プレイヤー)の一人でしかなかった。

 王道な展開に胸が熱くなった。意外な展開に度肝を抜かれた。熱いシーンに鳥肌が立った。怖いシーンに背筋が凍る思いをした。魅力的なキャラクターに心を奪われた。極悪非道なキャラクターに憎悪を覚えた。

 臨場感たっぷりに、その物語を楽しみ尽くした。

 

 ……だが、どれだけその物語に没入しようと、『先生(主人公)』が俺の分身であるという自覚は、一切と言っていいほど湧いてこなかった。

 それは、あまりにも『先生(主人公)』の持つ人間性が、俺の持つそれとかけ離れていたからだ。

 

 銃弾や爆弾が飛び交う危険な状況の真っ只中でも、一切の物怖じをせず、ひたすら生徒達のために動く。

 過労で気絶するほどの仕事を当然の責務として毎日こなす。

 どんなに不良な生徒でも、それこそ自らの腹を撃ち抜いた生徒にも分け隔てなく接し、生徒達のためであれば、自らの命をほんの少しの迷いもなく捨てる覚悟ができる。

 

 そんな自らを顧みずに生徒達を救おうとする、まさに『聖人』のような立ち振る舞いが、あまりにも俺とかけ離れすぎていたのだ。

 だからこそ、『俺はこんな事、出来そうにないな』と。

 必死に身体を張り続ける『先生(主人公)』の行動に、そういう風に思えてしまったのだ。

 

 だからこそ、と言うべきなのだろうか。

 俺は今の状況が何か良くない夢であって欲しいと、心の底から願っていた。

 目の前に広がるこの光景が、決して現実のものではありませんように、と。

 信じてもいなかったはずの神に、必死に祈っていた。

 

「……お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほどに熟睡されるとは」

 

 俺の眼前でため息を吐き、スチャリと眼鏡を直したのは、思わず息も忘れてしまいそうになるような、涼しげで、それでいてほんのりと疲れたOLのような雰囲気を醸し出した、絶世の美女。

 

 肌は白磁の如く白くきめ細やかで、切れ長の眼にはサファイアのような青い瞳が浮かび、同色のアイシャドウがよく映える。

 艶やかな濡れ羽色の髪とは対照的な白い制服は、まるで奇跡としか思えない均衡を保つボディラインをこれでもかと晒していた。

 

 現世に降り立った女神。

 そんな印象を抱かせるほど、神秘的なまでに彼女は美しかった。

 

 そして俺は、そんな彼女を知っていた。

 ブルーアーカイブ(ゲーム)のキャラクターであり、架空の人物であるはずの存在。

 連邦生徒会主席行政官にして連邦生徒会長代理、七神(なながみ)リンとして。

 

 「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください」

 

 俺は目の前の光景が信じられなかった。そして同時に、信じたくなかった。

 動いているのだ。喋っているのだ。架空の存在であるはずの彼女が、俺の目の前で、手を動かし、足を動かし、口を動かし、表情を変え、服を揺らしながら。

 その質感も3Dモデルのような、絵が絵のまま動いているようなものではなく、布の少しざらざらとしつつも滑らかそうな質感も、白い肌の中にうっすらとある微妙な色の違いも、髪の毛の一本一本の動きと、疲れからかほんの少しだけボサついたような感じも。

 そして、彼女の頭に浮かぶ、淡い光を放つヘイローの具合も。

 

 どれもがどれも、現実に存在しているものとして俺の感覚に訴えてくる。

 それも、単なる実写映画のような、俳優の面影が残るコスプレのようなものではなく、正しく本物の、本人以外の何者でもない七神リンとして。

 

「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。私は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたは……──」

 

 リンの青く、涼しげな瞳が、眼鏡越しに俺を観察するかの如く動いた。

 反射的に、俺はソファに座っていた自分の体を見下ろす。

 俺が着ていたはずの部屋着は、いつの間にか上等なスーツへと変貌していた。

 

「おそらく、私たちがここに呼び出した先生……のようですが……」

「………………いや、ンなわけねぇだろ」

「……はい?」

 

 口を突いて、そんな言葉が飛び出て来る。

 俺が『先生』? 俺が『主人公』? ブルーアーカイブ(青春の物語)の?

 否。そんなわけがない。確実にあり得ない。

 ()()()()()()()()

 

「だって俺16だぞ? 高二で就職どころか、大学にも入ってないんだぞ?」

 

 そうだ。俺はまだ子供なのだ。社会の事など微塵も知らない、クソガキでしかないのだ。

 生徒を守り、生徒を導き、生徒を救う。そんな『大人(聖者)』なんかに、なれるわけがないのだ。

 

「………………………………………は?」

 

 リンの瞳が、大きく見開かれる。

 そして、サッ、と。彼女の顔から血の気が引いた。

 

「……い、言われてみれば、確かに……ど、どういうことですか? 説明を求めます。一体、何が……」

「いや知らねぇし、分からねぇよ。むしろこっちが説明を求めたいぞ……何故俺はここにいる……? 何故俺はこんなスーツを着ている……? 誰かが異常に気付かなかったのか……?」

「それ、は……」

 

 俺がそう言うとリンは指を口元に当て、何かを思い出そうとするような仕草をする。

 そして、何やら手元の端末を忙しなく操作し始めた。

 ……もしかしたら、本当に何かの手違いで、俺は家に帰れるのか?

 そんな希望的観測を、俺が抱いた直後だった。

 

「……ああ、もうッ!」

「うおっ!?」

 

 いつの間にか端末を自分のポケットに捩じ込んだリンの手が俺の手を掴み、強引に引っ張る。

 ヘイローによって齎される常軌を逸した身体能力は、俺の体を容易に動かした。

 俺の手を掴んだままズカズカとエレベーター進むリンに、俺はたたらを踏みつつもなんとか足を動かしてついて行く。

 

「お、おいっ!? だから俺は先生なんかじゃ……ッ!?」

「分かっています! ですが今の我々に、あなたが人違いである可能性を考慮している余裕などありません……! 貴方はあの場所にその格好でいた! そうであるのなら、貴方という存在には確実に何かの意味があるはずです……!」

「いや、だからなぁ……ッ!?」

いいから黙って受け入れてください!!……本当に、本当に僅かな希望であっても、今の我々はそれに縋る他に無いのです……!」

「いやだから……あっ」

 

 叫ぶように訴えた俺に、エレベーターに乗り込みながら、血を吐くように答える。

 そこで、少しだけ時間が経って冷え始めた俺の頭が、原作における現在の状況を思い出した。

 そう、そうだ。原作において、ここは非常に切迫した場面なのだ。

 

 まず連邦生徒会長の失踪により、連邦生徒会は都市の行政を担うサンクトゥムタワーの権限を失っており、キヴォトスの治安は悪化も悪化。

 そのために復旧が急務だが、復旧を行うことが可能な『とある物』を起動できる人材がおらず、しかもその『とある物』のある建物が不良に占拠されてしまう。

 なので『とある物』を起動できる『先生(主人公)』が、数人の生徒を引き連れ、建物の奪還を行う。そういう場面なのだ。

 

 特筆すべきは『とある物』を起動できる人物……つまり暫定先生(主人公)である俺が動かなければ、何もかもが詰むということ。

 そうなれば、キヴォトスは崩壊であり、つまり俺がやる以外の選択肢は最初(ハナ)から無いということであった。

 

「…………ッ」

 

 鈍い頭を必死に回し、何とか他に抜け道がないかと考えてみる。

 原作通りのルートで進めてしまえば、詰みポイントがあまりにも多すぎるのだ。

 

 まず銃弾飛び交う戦場で一発でも撃たれたらアウト。

 戦車砲に撃たれれば直撃せずとも近くに着弾するだけでアウト。

 ワカモに目をつけられればアウト。

 シャーレに侵入した際、占領の事件の主犯である狐坂ワカモが地下室にいなければアウト。

 ワカモに一目惚れされなくてもアウト。

 そしてアロナが俺を主人として認証してくれなくてもアウトだ。

 

 ……本当にクソゲーとしか言いようがない。

 プレイヤー次第で絶対にクリア出来ない詰みポイントがいくつもあるとか、理不尽が過ぎる。

 

 しかし、必死に頭を働かせるも、どれだけ考えたところで俺が原作をなぞる以外の選択肢が浮かんでこない。

 俺がやらねば後に残るのはキヴォトス全土へと急速に蔓延する『死』のみである。

 ──────つまり、だ。

 

「……ああ、わかった、わかったよ! 俺がやるしか無いってことだろ!? 俺がやれば良いんだな!? そうなんだな!?」

「ええ、ご理解いただけたようで何よりです……!」

 

 チン、と音が鳴り、エレベーターの扉が開く。

 すると、見えるのはさまざまな制服を纏った生徒達が受付らしき場所に詰め寄る光景。

 その横を我関せずと言わんばかりに通ってゆくリンの後に続いてついて行くと────

 

「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んで来て!」

「主席行政官。お待ちしておりました」

「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」

 

 進行方向を塞ぐように、三人の生徒が現れた。

 

「…………ッ……」

 

 当然、俺はその三人の生徒を知っていた。

 左から早瀬(はやせ)ユウカに、羽川(はねかわ)ハスミ、火宮(ひのみや)チナツ。

 やはりブルーアーカイブにおける、登場キャラクター達である。

 

 菫色の髪をツインテールにした、スーツのような制服が特徴的な早瀬ユウカは、ミレニアムサイエンススクールという学校のセミナー────他の学校で言うところの生徒会の会計担当であり、脚が太い。

 

 黒い髪を膝裏ほどまでに伸ばした、明らかにサイズの合っていない漆黒のセーラー服を纏うのは羽川ハスミ。トリニティ総合学園の正義実現委員会────他の学校で言うところの風紀委員会の副委員長。とにかくでかい。

 

 クリーム色の髪を二つに結び、メガネをかけた、赤いタイツと手袋が目を惹くのは火宮チナツ。ゲヘナ学園の風紀委員であり、裏方が得意で、一年生にして既に風紀委員会の縁の下の力持ちとしての地位を確立している才媛だ。ちなみにブルアカではトップクラスにヤバい絆ストーリーを別衣装に保有している。

 

「……成程」

 

 そういう状況ではないとわかってはいるものの、現実に現れた彼女達をつい観察してしまう。

 やはり、容姿はゲームで見たことのあるそれと全く同じであるのだが、画面越しで見るのと実際に見たのでは、相当にインパクトが違うのだ。

 

 特に羽川ハスミなど、実寸大だからこそ、その規格外さがよくわかる。

 彼女を構成するどれもこれもが巨大なのだ。

 上背は勿論、その胸も、脚も、翼も。そのどれもが凄まじく大きい。

 しかもそれが、俺の目の前で実際に動いて、揺れている。

 ……何だか感動だし、彼女がこれをコンプレックスに思う気持ちも何だかよくわかった。

 

 チナツも、こうして実際に動いているのを見ると赤いタイツが何とも言えない雰囲気を醸し出しているのがわかり、そしてユウカは脚が太い。いや本当に。

 

「……あぁ、面倒な人たちに捕まってしまいましたね……」

 

 本当に面倒くさそうな態度を見せるリン。

 しかし、それも一瞬のこと。すぐににこやかな表情……心胆を寒からしめるような攻撃性を思いっ切り孕んでいる……を三人に向ける。

 

「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よくわかっています。今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」

 

 やはり俺の感じた攻撃性は間違いではなかった。

 言葉の節々に棘がある。流石はリンちゃん、原作通りだ。

 

「それがわかってるならなんとかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ!? 数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ! この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」

「連邦矯正局で停学中の生徒達について、一部が脱獄したという情報もありました」

「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障を生じてしまいます」

「スケバンのような不良達が、登校中の生徒達を襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」

 

 しれっと混じった守月(もりづき)スズミを交えながら、矢継ぎ早にリンに対して文句を言う生徒達。

 全員が全員、かなり怒っているのが伝わってくる。これがいわゆる怒気、というやつだろうか。

 しかし、そんな吹き荒れるような怒気に晒されてなお、リンはただ冷静に沈黙を貫いていた。

 

「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐ会わせて!」

 

 そして、ユウカのその言葉を受けて、リンは待ってましたと言わんばかりにその口を開く。

 

「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」

「……え!?」

「……!!」

「やはりあの噂は……」

 

 リンの言い放ったその衝撃の事実に驚きを隠せない四人。

 そんな四人を眺めながら、俺はまだリンの後ろで沈黙を守る。

 

「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが……先程まで、そのような方法は見つかっていませんでした」

「……それでは、今は方法があるということですか、主席行政官?」

「それなんだがな、多分俺だ」

 

 ずい、と。少し控えめに、一歩前へ出る。

 こうなりゃもうヤケだ。やれるだけやってやる。

 

「……!」

「っ!?」

「……男子、生徒……?」

「いえ、しかしその割には……」

 

 俺の存在に気づいていなかったのか、俺の方を向いて驚いたようなリアクションを見せる四人。

 ……しかも見たところ、何故かリンも驚いている。何故だ。

 まぁいい。

 

「どうも、初めまして。俺が先生だ」

「なっ……!?」

「センセイって……先生?」

「いやしかし、彼は明らかに……」

「ヘイローが無い……つまり、外から……?」

 

 俺の発言に、互いに顔を見合わせる四人。

 まぁ、そりゃあ困惑もするだろう。俺だって困惑しているのだから。

 

「ああ、お前らの察する通り、俺は16。本来なら学校に通ってる年齢で、この……あー、キヴォトス? の外から来た人間だ」

「……失礼」

 

 俺が正直にぶっちゃけると、スッとハスミが手を上げた。

 

「何だ? 君……あー……」

「トリニティ総合学園の羽川ハスミです」

「じゃあ、ハスミ」

「はい。先ほどおっしゃっていた、あなたがサンクトゥムタワーの制御権を取り戻すというのは……」

「詳しい事は知らん。が、どうにもそういうことらしい。俺としては何かの間違いであって欲しいが、こうなった以上はやるしか無いってモンだ」

「でっ、出来るんですか!?」

「知らん! が、さっきも言ったがやるしか無い」

「……行政官」

 

 ユウカが慌てたように俺に質問し、それに俺が答えるとスズミが訝しげにリンの方を見る。

 それに対して、リンはメガネを直すと大きく頷いた。

 

「……ええ、彼こそが、連邦生徒会長に特別に指名された方。この件のフィクサーとなる人物であり、今後キヴォトスに先生として勤務される方です」

 

 そう言って俺の方を手で示すが、やはり生徒四人の反応は微妙だ。

 全員が全員、半信半疑である。

 

「行方不明になった連邦生徒会長が、外の世界の生徒を先生に指名!? ますますこんがらがってくるじゃない!」

「ええい! 知らん! 分からん! 俺だって困ってる!」

 

 頭を抱えて叫ぶユウカに負けず劣らずの声量で、俺も叫び返す。

 

「だがやれと言われたからにはやるしか無い! というわけでよろしく頼む。■■■■だ」

「あ、こんにちは、ミレニアムサイエンススクールの早瀬ユウカで……って、い、いや、今は挨拶なんてどうでもよくて……!」

 

 そして急に落ち着いて自己紹介をすると、ユウカは実に見事なノリツッコミを見せてくれた。

 やはりユウカは現実になってもユウカらしい。

 

「はぁ……話を戻しますよ。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらに来ることとなりました」

 

 すぅ、と。リンが一息を間に入れる。

 一段階、緊張が高まった。

 

「その名も、連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒達を、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘行為を行うことも可能です」

 

 リンの言葉に、生徒達が俺を見る空気が変わる。

 不信感と不安から、強い疑念に。

 何故、そのような権力を彼一人に? と。

 

「何故これだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかはわかりませんが……」

 

 しかし、その疑問が解消されることはなく、分からないの一言で片付けられてしまう。

 生徒達の疑念を置き去りにして、リンの話は進んでゆく。

 

「シャーレの部室は、ここから約30km離れた外郭地区にあります。今はほとんど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を運び込んでいます。……先生を、そこにお連れしなくてはなりません」

 

 ピ、と。リンが端末を操作する。

 

「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……」

 

 数秒の間を置いて、端末からホログラムが投影される。

 桃色の髪をツインテールにした、ツノと尻尾の生えた少女だ。

 手には何故か『明太子チップス』なるお菓子の袋を持っている。

 

『シャーレの部室? ……ああ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?』

「大騒ぎ……?」

『矯正局を脱獄した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』

「……うん?」

『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良達を先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ? ……それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?』

「……」

 

 モモカ、という少女が一言発するごとに、段々とリンの機嫌が悪くなってゆくのが目に見えてわかる。

 

『まぁでも、もうとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大した事な……あっ、先輩、お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』

 

 ブツリ、と。回線と同時に何かが切れる音がする。

 スゥと息を吸うと、天を仰ぎ、プルプルと震え出すリン。

 

「…………あー、深呼吸でもしたらどうだ?」

「……だ、大丈夫です。……少々問題が発生しましたが、大したことではありません」

「本当にそうか?」

「ええ。問題ありません。本当に。ええ本当に。…………あ」

 

 じぃ、と。

 何かに気づいたような声を出すと、リンは生徒達の方をとてもイイ笑顔で見つめ出す。

 普通に怖い。彼女が美人な分、更に怖い。

 

「……?」

「え? 何? どうして私たちを見つめるの……?」

 

 ハスミがたじろぎ、ユウカが何やら不安そうな顔をする。

 すると、リンはとてもイイ笑顔のまま口を開いた。

 

「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」

「……えっ」

「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」

 

 言いたい事だけを一方的に言って、リンはさっさとどこかへ行ってしまう。

 

「ちょ、ちょっと待って!? ど、どこに行くのよ!?」

「まぁ、大体察しはついていましたが……ええと……」

「……わ、私たちも行ったほうがいい感じなのでしょうか?」

「戦闘行為は、あまり想定していなかったのですが……」

 

 取り残され、困惑する生徒達。

 

「じゃあ、取り敢えず俺は行くけど、俺って銃弾一発で余裕で死ねるから、心強い味方がいないとすぐに死ぬことになるからな。うん。じゃあそういうわけで」

 

 そんな生徒達を尻目に、俺もリンがやったように言いたい事だけ言ってリンの方へ。

 

「えっ、ちょっ!?」

「う、わ、私たちも行きましょう!」

 

 うむ、計算通り。

 背後からドタドタとこちらへ駆けてくる音を聴きつつ、リンの背中を追う。

 ……しかし、これから戦場かぁ……ああ、嫌だなぁ……




 はい。筆者です。
 あらすじのところにも書いてますが、今作品は拙作、『待て、それ以外近付くな! 俺の性癖が歪む!』の前日譚になります。
 書きたくなったので書いちゃいました。
 後悔も反省もしていません。ついでに書き溜めもありません。
 夏休みパワーで書き溜められたらいいなぁ……(願望)
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