クソガキが征くブルーアーカイブ   作:POTROT

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はじめてのたたかい。

 ヘリコプターでの移動は厳しいと言う事で、俺たちは陸路を選択。

 シャーレの建物の近くまで輸送車に乗り、その後は不良達を鎮圧しつつ、徒歩でシャーレまで移動すると言う運びとなった。

 そんなわけで、狭い車両の中に、俺とユウカ、ハスミ、チナツ、スズミの五人が詰め込まれ、ガタガタと揺られているわけであるのだが……

 

「…………」

 

 正直言おう。かなり辛い。

 誤解の無いよう先に述べておくが、これは別に、同乗者が悪いと言う話ではない。

 いやまぁ、この車に乗っている四人の全員がそれぞれ別の学校────ハスミとスズミは同じ学校だが────それも三大校の生徒と言うことで、車内の空気も重いといえば重い。

 しかしそれ以上に外から響いてくる銃声と爆発音が、ゴリゴリと俺の精神を削ってくるのだ。

 最初の方はそれこそ工事の騒音程度にしか聞こえていなかったのだが、この音一つ一つが俺の命を奪って余りある物である、なんてふと考えてしまったら、気にしたらダメだとわかっていても意識がそちらの方へ向いてしまう。

 出来ることならすぐにでも耳を塞いで縮こまりたいところではあるのだが、しかしこれから本当に先生をやるのであれば、生徒達にみっともない姿はあまり見せられないというものだ。

 

 そんな思いで、何とか心の平穏を保とうと自らと格闘していると、天井に備え付けられたスピーカーから声が降ってくる。

 

『……この辺りで車を停めます。皆さん、ここからは徒歩で向かってください』

 

 ……いよいよか。

 その声を受け、心臓がバクバクと跳ね、汗が頬を伝う。

 今から俺は、人生で初めての戦場に踏み出すのだ。

 

「了解しました。行きましょう、ハスミさん」

「ええ、行きましょうか」

「……ああもう、何で私が不良達と戦わなきゃならないのよ……」

「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためです……では、先生。私たちも」

「…………ああ」

 

 チナツに続き、車から降りる。

 運転手は俺たち全員が車から降りたことを確認すると、車をすぐにUターンさせて、サンクトゥムタワーの方へ戻っていってしまった。

 

「…………クソっ」

 

 どんどん遠ざかっていく車の後ろ姿を見ながら、悪態をつく。

 車から降り、音を遮蔽するものがなくなった事で、よりはっきりと、より近くに銃撃と爆撃の音を感じるようになってしまった。

 足が震える。呼吸が浅くなる。汗が滂沱と流れる。

 

「……先生? だいぶ、具合が悪そうですが……」

 

 そんな俺の様子を見かねたのか、ハスミがこちらに問いかけて来た。

 深い紅の瞳が、心配そうに俺を覗き込む。

 勿論、全然大丈夫でも何でもなかったわけだが、しかし俺は強がった。

 

「だい、丈夫だ。ああ、大丈夫だ。いける。大丈夫だ」

 

 声は震え、口調は辿々しいが、しかし弱音は吐かない。

 それは、俺の無駄で、ちっぽけなプライドから来る、ただの意地であった。

 

「そう、ですか……?」

「大丈夫。大丈夫だ。このキヴォトスってのはいっつもこうなんだろ? 慣れておかなきゃな」

「ええ、まぁ……しかし……」

「ああ、大丈夫だ。ああ、大丈夫。大丈夫なはずだ……」

 

 俺の答えを聞いて、ハスミはユウカとスズミの方を向く。

 ハスミの視線に対して、ユウカは肩を竦めて、スズミは首を少し横に振ることで答えた。

 

「……では、作戦開始です。前衛はユウカさんとスズミさんが。後衛は私とチナツさんが務めます。先生は、ご自分の身の安全を最優先してください」

「「「了解!」」」

「……おう」

 

 素早い動きで前進して行く四人。

 そんな四人に置いていかれないよう、それでいて出来るだけ遮蔽物の多いルートを選んで通る。

 幸いな事に、ヘイローが齎す身体能力はあまり走力には関与しないのか、軽く走るだけで問題なく彼女達に追い縋る事はできた。

 

「先生! あまり前に進みすぎないように!」

「お、おう」

「私の25m後ろを基準としてください! その位置ならばほとんどの銃は有効射程範囲外です!」

「分かった」

 

 しかし、前に進む事に夢中になっていたからか、少し前に出過ぎていたようだった。

 チナツの注意を受けて少し後ろに下がり、言われた通り25m後ろくらいを走るように調節する。

 一時期水泳はやっていたので、25mの間隔はわかっていた。

 そうして、今度は25mを保つ事に夢中になってると、遂にその時が来る。

 

『接敵します!』

 

 前方でスズミがそう叫んだ瞬間、即座に四人が遮蔽物へと身を隠す。

 四人にならって俺も遮蔽物の影へと身を隠し、背中をピッタリとくっつけた、その直後。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!?」

 

 背後から、幾重にも重なった砲声が轟く。

 ドラムや、太鼓、大太鼓といった打楽器を幾つも並べて、何人もに人がそれを雑多に打ちまくっているような音。

 大気を殴りつけるかのように響くその音はただひたすらに冷く、そして殺意に溢れている。

 

 俺は思わず耳を塞いで、その場に縮こまってしまう。

 怖い。あまりにも怖い。死がすぐそこにある。俺が少しでもこの場から動けば、きっとすぐにでも死んでしまうだろう。

 そんな確信が俺の頭の中を駆け巡る。

 チナツからは有効射程範囲外であるので、別にそんな事はないのだが、しかしもうすっかり恐怖に支配されてしまった俺に、そんな事を考える隙間など無い。

 

『そっち任せた!』

『了解……敵ガトリング、撃破! 次弾、敵スナイパーライフル!』

『閃光弾、投擲します! 目と耳を塞いでください!!』

『敵の鎮圧を確認、先へ進みます! 先生も早く!』

 

 頭の中を、銃声と爆発音が支配する。

 通信機から聞こえる生徒達の呼びかけの声すら、俺には聞こえていなかった。

 俺はただガタガタと震えて、この地獄のような砲声の嵐がどこかへ過ぎ去るのを、ただじっと待っていた。

 

『……先生?』

『どうかされましたか、先生?』

『……ああ、やはり、大丈夫ではなかったようですね。ユウカさんとスズミさん、チナツさんは前方を警戒していてください。私が運びます」

 

 全くの生きた心地がしない。

 ギュッと目を閉じた闇の中で、まともに働いているのは聴覚のみ。

 ただ感じるのは、何かで締め付けられているようなられているような感覚と、ガクガクと体が揺れるような………………

 

「……うん?」

 

 何やら違和感を感じ、チラリと薄目を開けてみる。

 

「おや、気が付かれましたか」

「……は?」

 

 すると、何故か目に映るのは真っ黒な光景で、しかも何やら上からハスミの声が聞こえて来た。

 パチリと両目を開き、辺りを見てみると、どうやら、ハスミが俺の事を小脇に抱え、そこを翼でガードしているらしい。

 

「ご安心ください。私達が先生を無事に目的地までお届けしましょう」

「あ、ああ……」

 

 俺はハスミの言葉に、曖昧に頷くしかなかった。

 

『接敵!!』

「っ、先生、すみません!」

 

 ハスミはすぐにどこかの店の看板の裏に身を潜め、俺を置くと、俺の盾になるように羽を広げ、肩に担いでいたスナイパーライフルを構えた。

 そうして俺を守りながら、ハスミは不良達と戦い始める。

 

「…………っ」

 

 先程と同じように、それどころか先程以上の銃声と爆発音が俺へと押し寄せる。

 だが、先程とは違い、俺が感じたのは恐怖もあるが、それ以上に強く感じたのは羞恥だった。

 

 いくら彼女達がヘイローという、俺からすれば『反則』とも言えるようなものを持ってるからと言っても、俺とほぼ変わらない年齢の女性に、弱者として守られている。

 散々大丈夫と言ったにも関わらず、こうも無様を晒している。

 そんな状況に甘んじて、こんな羞恥心を感じれる程度には安心感を感じている。

 

 やるせない気持ちでいっぱいだった。

 さっさと挽回しなければならないと、心の中ではわかっていた。

 俺がこの場でやるべきは、きっと原作の『先生(主人公)』と同じような、生徒達の指揮だろう。

 しかし、体が動かない。口が動かない。

 怖かったのである。銃声や爆発音と同じくらいか、それ以上に、素人である俺の指揮が失敗して、更に生徒達の足を引っ張る結果となってしまうことが。

 

「敵の殲滅を確認……先生、失礼します」

 

 そうしてまごまごしているうちに、戦闘は終了してしまったらしい。

 これで指揮をしないで済む、と。その事に喜びを感じてしまった自分に更なる羞恥心を感じると同時に、再びハスミに抱えられた。

 そこへ、ピピッと。通信端末に連絡が入る。

 

『先生。今、この騒動を起こした生徒の正体が判明しました』

「……ッ!!」

 

 ホログラムに映し出された、深刻な顔をしたリンが告げた言葉を聞いた瞬間。

 恐怖ですっかりと忘れていた俺の記憶が、鮮明に蘇る。

 

狐坂(こさか)ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。似たような前科がある危険な人物なので、気を付けてください』

 

 そうだ。ワカモだ。この奥にはワカモがいる。

 今回の事件における、最初にして最も理不尽な詰みポイントの、ワカモが。

 俺はアイツに、地下室のあの場所で一目惚れされなければならないのだ。

 それ以外のルートは、悉くが詰み。

 

「…………ああ、クソが」

 

 もうこの際、俺が『先生(主人公)』だと言う事は、受け入れてしまおう。

 どうせここから新たな、真の『先生』など現れるわけもないのだ。俺がやるしかない。

 その上で、考えろ。俺とキヴォトス、どちらが重い?

 

「ハスミ」

 

 当然、考えるまでもない。

 

「はい?」

「降ろしてくれ」

「……え?」

「いいから降ろしてくれ。もう問題ない」

 

 まだ銃は怖い。爆弾も怖い。だがそれ以上に、詰むのはダメだ。

 先生(主人公)を受け入れて、何だか自覚が湧いてきた。

 今、この瞬間。俺の行動にこのキヴォトス全ての命運がかかっているのだ。

 

「し、しかし……」

「いいから。頼む」

「ッ……わ、わかりました」

 

 ハスミはその場に立ち止まり、ゆっくりと俺を降ろす。

 すぅ、はぁ、と一つ呼吸をして、トントンと軽くジャンプする。

 体は問題なく動く。

 もう大丈夫だ。

 

「先に行ってくれ。俺は後ろで指揮を取る」

「し、指揮……? 出来るのですか……?」

「やる。それしかない」

 

 そうだ。俺がやる。俺がやるしかない。

 この際俺が未熟なクソガキだと言う事はどうでもいい。

 指揮の『し』の字も知らない素人でも何でもいい。

 何が何でも、俺が『先生(主人公)』を演じ切る、それしかないのだ。

 

「ッ!? せ、先生……? な、何だか雰囲気が……」

「目が覚めた」

 

 ああ、本当に。パッチリと。

 

『ッ、接敵! 接敵しました! 狐坂ワカモです!!』

「ホラ、例のやつが出たぞ。早く行け」

「ッ、わ、わかりました……っ!」

 

 ハスミが俺に背を向け、走り出したのを見て、通信機を口の方へと持って行く。

 背筋を伸ばし、遠くの方に見えるワカモと不良達の位置と武器種を確認。

 そして、通信のボタンを押す。

 

「あー、あー。テステス。聞こえてるかー?」

『ッ!? 先生!?』

『何ですか!? この状況で!?』

「急で悪いが、俺が今から指揮を取る事にした。と言うわけでまずはスズミ。正面少し右、塀の向こう側へ閃光弾を投擲。爆発を確認した次第ユウカが突撃。弾倉(マガジン)を撃ち切ったらCQC(近接格闘)でぶちのめせ」

 

 これが合ってるかどうかなど分からん。

 しかし、先程から何度も言っているが、やるしかないのだ。

 

『えっ、りょ、了解しました! 閃光弾、投擲します!!』

『えぇ!? えっと……ああもう、分かりました! やればいいんですね!?』

「ああ。やれ」

 

 俺がユウカに命令を下したそのタイミングで閃光弾が炸裂し、モロに喰らった不良達の汚い悲鳴がここまで響いてくる。

 その直後、菫色の影が雄叫びを……と言うよりは悲鳴を上げながら敵へ突撃して行くのが遠目で見えた。

 

「……あ、残り三人はユウカが狙われるだろうから、その援護な。特にハスミはワカモとやらを警戒しろ。アイツにユウカを撃たせるな」

『分かりました!』

『お、お任せください!』

 

 ユウカが不良達へと涙目で殴りかかる中、俺の命令通り、残りの三人はユウカへと銃口を向ける不良達を次々と撃ち抜いてゆく。

 

『ッ、狐坂ワカモ、撤退しました! 鎮圧完了です!』

 

 そして目視で確認できる最後の不良が倒れると、通信機からそんな連絡が流れて来た。

 うむ、上手くいったようで何よりだ。

 

『……な、何ですか、これは……!?』

 

 俺が感心していると、通信機から震える声が聞こえて来た。ユウカの声だ。

 何だか、通信機の向こうでワナワナと震えているユウカの姿がありありと想像できる。

 しかし、一体どうしたと言うのだろう。雑に扱った文句でも言いたいのだろうか。

 

『せ、説明を要求します! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!! これは一体どう言う事なのですか、先生!!』

「え、マジで?」

 

 あまりにも衝撃的すぎる発言に、素で驚いてしまう。

 マジか。俺にそんな特殊能力があったのか。じゃあもう俺が『先生(主人公)』だな。違いない。

 ………………クソッタレが。

 

『た、確かに私も何だか先程より調子が良かった気が……』

『そうですね、言われてみればそんな気がします……』

『こ、これはど言う事なのですか? 先生……?』

「いや知らん。多分俺から出てる謎の力」

 

 そんな適当なことを言っておくが、本当に何なのかわからない。

 一体何なのだろう。レベルとか絆ランクとかその辺が関係しているのだろうか。

 それとも本当に俺から出ている謎の力なのだろうか。

 まぁ、これについて詳しく調べるのは後々になってからだな。

 

「何なら俺も驚いてるくらいだが、まぁ好都合だから問題ないだろ。あんまり深く気にするな」

『え、えぇ……?』

 

 何だか納得いっていない様子だが、俺の方が納得いっていないので問題はない。

 文句を言えるのはこれからキヴォトスの運命を背負って、何度も死にかけつつ地獄の綱渡りを渡り切らなくちゃならないことが確定した俺よりも不幸な奴だけだ。

 

「そんな事よりもさっさと……ん?」

 

 ふと、ドドドド、と地面が振動するような感覚を覚える。

 

『ッ! これは……ッ!! 戦車です! 敵の戦車が現れました!!』

『あれは……まさか、クルセイダー型……!?』

『恐らく、トリニティの備品が不正流出したもの……ですね……不甲斐ありません』

『ッ、応戦します!!』

 

 ……そう言えば、そんなのもあったな。

 はぁ、ダメだ。また後でしっかりと原作を洗っておかなければ……

 まぁいい。今はあの戦車だ。とは言っても、あの程度なら瞬殺できるのだろうが。

 

『くっ……これは……中々に厳しいですね……!』

『この装備じゃ、戦車相手は……!』

 

 ……あれ? 苦戦してる?

 通信機から響いて来た苦しげな声に、俺は目を凝らして戦場をよく見てみる。

 ゲームだと普通にあんなの倒してたと思うが……あれ? 誰も戦車を撃ってなくね?

 周囲にいる取り巻きの不良達を相手してばっかりじゃね?

 

「え? 何で戦車を撃たないんだ? 普通に弾通るだろ、普通に」

『なっ、何を言っているんですか! ハスミさんのスナイパーライフルならともかく、サブマシンガンの弾が戦車の装甲に……あれ!? 通った!?』

『えぇっ!? な、何故!?』

「謎の力だろ謎の力。とにかく撃て」

『りょ、了解です……!?』

 

 俺の号令で、生徒達が戦車へと一斉射撃を開始する。

 次々と装甲に穴が開き、蜂の巣へと化してゆくクルセイダー型戦車。

 そしてついにドッカーン、と。火薬庫に直撃したのか、派手に爆発して大破する戦車。

 中に居た砲手と操縦士が悲鳴を派手に吹き飛んで行く。

 

「うーん……ヤバいな、これ」

『周囲の不良生徒達、撤退して行きます! シャーレへの道が開けました! 早急に突入しましょう!』

「ああ、了解。今行く」

 

 通信機からの声に応え、既に間近に見えるシャーレの建物へ駆け出す。

 ……さて、シャーレ突入からは理不尽詰みポイントの連続になる。

 俺が『先生(主人公)』であるということはもう既に殆ど確定したが、それでもどこでどのようなイレギュラーが起こるのかは分からない。

 慎重に、丁寧にやらなければ。

 




 はい。そんなわけでね。
 取り敢えず書き始めてみたこのシリーズなわけですが、まぁ行けたら最終編まで行きたいなと思っております。

 カッコイイクソガキが生徒達の脳を焼いて行く様を書きたいんじゃ。
 あとクソガキ先生とワカモの二人三脚も。
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