クソガキが征くブルーアーカイブ   作:POTROT

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A.R.O.N.A

「着いた!!」

「はい」

 

 生徒達に少し遅れて、俺もシャーレの建物にたどり着く。

 

「……でけぇな」

 

 シャーレの部室棟を前にして、思わずそう嘯く。

 ゲーム内で絵として何度か目にしたシャーレであるが、こうして現実として目の前に立ってみると、縦にも横にも奥にも、思った三倍くらいデカい。

 恐らく『シャーレ居住区』などが含まれているだろう下の部分だけで、既に5階建てのマンションくらいのサイズだ。その気になれば千人くらいこの建物に住めるではないだろうか。

 しかし、ここまで広いとなると死ぬほど掃除が大変そうだ。

 機械でやろうとすればル◯バが100台くらい必要になって来るだろう。

 

 などと、そんな至極どうでもいいことを考えていると、通信が入って来る。

 

『『シャーレ』の部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう』

「ああ」

 

 そう応えて通信を落とし、フゥー………ッ、と息を吐く。

 俺はこれから、最大の詰みポイントである、狐坂ワカモに会いに行く。

 

 あの謎の力から考慮するに、恐らく次点の詰みポイントであるアロナは突破できるだろう。

 だが、ワカモは別だ。ここで要求されるのは、『一目惚れされる事』。

 それが起きない可能性は、十分に考えられる。

 恋などと言う相対的も甚だしい事象は、いつの世も理不尽なのだ。

 

 しかし、覚悟を決めない事には何も始まらない。

 何度も言うが、俺は『やるしかない』のだ。

 

「……じゃあ、お前らはここで、リンちゃんが来るまで警戒を頼む」

「り、リンちゃんって……え、ええ、分かりましたが、しかし先生の護衛は?」

「逆に護衛があるとまずい場面だろう、これは。超重要機密だぞ」

 

 これは作中で語られる話だが、サンクトゥムタワーを手に入れると言うことは、即ちキヴォトスを手に入れると言うことと同義。

 その制御権をどうこうするなど、それこそ極秘中の極秘、超重要どころか最重要機密(トップシークレット)である。

 知ったら消される……とまでは行かずとも、連邦生徒会は徹底的に口封じにかかるだろう。

 

「あっ……はい」

 

 流石にそれを察したのか、スズミは姿勢を正して大人しく引き下がった。

 入口の警戒に彼女が戻って行く彼女を尻目に、俺はシャーレの中へ。

 中は流石と言うべきか、驚くほどに綺麗で、そして近未来的だ。

 電気がついていないので暗くはあるが、しかしそれでも眩しいほどに白い。

 

「地下室は……ああ、この階段から行くのか……」

 

 カツン、カツン、と。足音が響く。

 そうしてしばらく階段を降りると、これまた暗い廊下へ出た。

 奥の方を見てみると、扉の向こう側に光が見えた。

 あそこがシャーレの地下室であり……あそこにワカモがいるはずだ。

 足音を殺して、シャーレの地下室へ入る。

 

「うーん……これが一体何なのか、全く分かりませんね。これでは壊そうにも……」

 

 すると、俺の予想通り、彼女がそこにいた。

 銃剣を肩に担ぎ、恐らく『クラフトチェンバー』であろう装置の周りをぐるぐると歩いている。

 フゥー……ッ、と。再び息を吐く。

 ここが最大の勝負点だ。ここを成功させなければ終わる。

 そんな重圧から来る緊張でバクバクと鳴る心臓を押さえ、俺は徐に口を開いた。

 

「……よぉ、初めまして」

「…………あら……?」

 

 階段の上から、見下ろすように彼女に話しかける。

 ゆらり、と。仮面越しにその視線が俺の方を向く。

 

「…………ッ!!」

 

 瞬間、叩きつけられる膝を屈したくなるような威圧感。

 彼女が俺程度では絶対に敵わない存在であるということを、全身で理解させられる。

 全身から汗が吹き出す。生きた心地がしない。今すぐにでも逃げ出したい。

 

 だが、この恐怖はもう既に一度経験した。

 この程度であれば、耐えられる。この程度であれば、取り繕える。

 ただひたすら、じぃ、と。ワカモの仮面を見つめる。

 

「……あら、あららら……!?」

 

 その瞬間、勝ったと確信した。

 彼女の動揺に、仮面の奥で真っ赤になってゆく顔が、容易に想像できた。

 安堵が込み上げる。ここで彼女が一目惚れすることで、今後の物語が……物語、が……

 

「……ん?」

 

 ふと、思う。

 ここで彼女を味方に引き入れることができれば、今後のストーリーが相当楽になるのでは?

 

 ブルーアーカイブのプレイヤーであった俺は、狐坂ワカモと言う生徒の事をよく知っていた。

 彼女の優秀さと、彼女の愛の深さを知っていた。

 

 彼女の能力があれば、俺のミスも容易くカバーしてくれるだろう。

 彼女の立場とカリスマがあれば、丁度いいマッチポンプの場を作れるだろう。

 彼女の愛の深さであれば、例え俺がどんな事を命令を下しても、決して離反しないだろう。

 

 そんな事を考えて、だからこそ、欲が出てしまった。

 

「……し、しし、失礼致しました〜!!」

「ッ!」

「へぇっ!?」

 

 俺の隣を通り抜けて逃げようとする彼女を、俺は腕を壁にドンと叩き付けて防ぐ。

 いわゆる、壁ドンの姿勢だ。

 

「なぁお前、ワカモで合ってるよな?」

「え、あ、ああああああの、その……」

 

 ずい、と。顔を近づける。

 

「ちょっとお前に話したい事があるんだが……今は少し都合が悪い。俺がいいと言うまで、適当な場所に隠れて、待っていてくれないか?」

 

 と。そこまで言って、俺は自分の失敗を察した。

 俺がここで最優先すべきは、ストーリーの進行を楽にすることなどではなく、ストーリーをストーリーの通りに進める事だったはずだ。

 既に勝つべき賭けには勝っていた。このまま見逃せば、余計なリスクを背負う必要は無かった。

 彼女は確かに優秀で有能だが、それ以上に超凶悪な犯罪者である。

 この場で殺される可能性は、十二分に考えられた。

 

 顔と仮面が触れ合いそうな、仮面越しの息遣いすら聞こえてしまうような距離。

 彼女がその気になれば、銃についた短剣で俺の事を刺し貫く事も容易い距離。

 最悪の可能性が頭をよぎり、額からたらりと汗が垂れる。

 

「は、ははははははい! か、畏まりました〜っ!!」

 

 しかし、俺の心配は杞憂でしか無かったらしい。

 いや、結果オーライと言うべきか。

 どうやら俺の人生初のナンパは、面白い程に成功してしまったようだ。

 バッと地下室の方へ戻った彼女は、掃除ロッカーの中へドタバタと駆け込んだ。

 

「お待たせしました、先生……おや、何かありましたか?」

「いや、何も?」

 

 バタンとロッカーが閉められた直後、リンちゃんが階段から降りて来た。

 かなりギリギリのタイミングだったようだ。間に合ってよかった。

 

「そうですか。なら良いのですが……」

 

 リンちゃんを地下室に入れ、その後ろについて階段を降りる。

 掃除ロッカーの方を見てみると、尻尾の毛が多少はみ出しているようであったが、まぁ、あの程度なら気づかれないだろう。

 

「ここには、連邦生徒会長が残したものが保管されています」

「あの見るからに不思議道具ですってヤツ?」

 

 違うとは分かっているが、一応のポーズとしてクラフトチェンバーであろう装置を指差す。

 

「一応、それも連邦生徒会長の残したものではありますが……今回は違います」

 

 スッ、と。

 リンちゃんがデスクの引き出しを開ける。

 

「……幸い、傷一つなく無事ですね」

「それは……」

「受け取ってください」

「タブレット端末……だな」

 

 何も知らない、という風を装って、それを手に取る。

 何の変哲もないタブレット端末のように見えるそれは、かつて俺が使っていた某リンゴ社の製品よりも一回り大きく、しかし思ったよりかは軽い。

 

「これが、連邦生徒会長が先生に残した物。『シッテムの箱』です」

「………………」

 

 知っている。ブルーアーカイブにおける、作中最重要アイテムの一つだ。

 

「普通のタブレットに見えますが、実は正体のわからない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みの全てが不明」

 

 知っている。この箱のOSが『何』なのか、と言う事だけは。

 

「連邦生徒会長は、この『シッテムの箱』は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。……私達では起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させることができるのでしょうか。それとも……」

「………………」

 

 ポチ、と。

 ホームボタンに該当するボタンを押す。

 すると、少しの間を置いて、シッテムの箱は起動した。

 

「ッ!」

 

 画面いっぱいに青い画面が広がり、その中心にはSのマークが浮かんでいる。

 

「…………」

「……分かりました。少し、離れています」

 

 チラ、とリンちゃんの方向を見る。

 それだけでリンちゃんは俺の言わんとする事を察し、俺から距離を取った。

 俺は再び、シッテムの箱の画面へと目線を落とす。

 

 

 ...Connecting to the Crate of Shittim

 システム接続パスワードを入力してください。

 

 

 そんなテキストが、画面上に表示される。

 俺は迷いなく、プレイヤーとして知っていたパスワードを入力した。

 

 

 ……我々は望む、七つの嘆きを。

 ……我々は覚えている、ジェリコの古則を。

 

 

 俺が画面上に現れたキーボードのエンターを押した瞬間。

 読み込み処理が入り、次なるテキストが表示される。

 

 

 接続パスワード承認。

 現在の接続者情報は■■■■、確認できました。

 

 

「ッ!!」

 

 画面にありありと浮かんだのは、間違いなく俺の名前。

 ……やはり、俺は本当に『先生(主人公)』として着任してしまったようだ。

 

 

 『シッテムの箱』へようこそ、■■■■先生。

 生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステムA.R.O.N.Aに変換します。

 

 

 そのテキストが表示された次の瞬間、俺の視界が真っ白に染まる。

 そのままふわり、と体が浮くような感覚に襲われるが、しかしそれは一瞬。

 すぐにその感覚は治り、俺の視覚も戻って来る。

 

「…………………………………………………マジか」

 

 その空間は、ゲームで散々見たものだった。

 教室を模したその部屋は前方の半分以上の壁と天井が崩壊して、そこから青い空が覗いている。

 部屋の外には、真新しい机や椅子が雑多に打ち捨てられた山と、水平線の向こうまで広がる広大で澄んだ綺麗な海、そして真っ白な砂浜があった。

 

「くうぅぅ……Zzzz……」

 

 そして、教室に置かれた幾つかの机と椅子の一つには、一人の女の子が寝ている。

 空色の髪に白色のリボンが生える、納戸色のセーラー服を着た、小学校の中学年から高学年の間くらいに見える、その少女。

 

「……むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより……バナナミルクのほうが……くううう……Zzzzzz…………」

 

 当然だが。俺は彼女の事を知っていた。

 ブルーアーカイブのプレイヤーとして、彼女には何度も夢を見せてもらった*1

 良い夢も、悪い夢も。……どちらかと言うと悪い夢の割合の方が多いだろうか。

 恐らく、殆どのブルアカプレイヤーが最も多く顔を合わせ、そして最も多くの怨み*2を抱いたであろう、彼女。

 そんな彼女が、俺の目の前で、呑気にいびきをかいて寝ていた。

 

「えへっ……まだたくさんありますよぉ……」

「……ヘイ、起きろ。ヘイ、ヘイ」

 

 ツンツンと頬を突く。プニプニと柔らかい。

 

「うにゃ……まだですよぉ……しっかり噛まないと……」

「ヘイ、そろそろ起きてくれないと困るんですがねぇー?」

「あぅん、でもぉ……」

「ヘイ。ヘイヘイヘイヘイヘイ」

「うぅぅぅぅぅんっ」

 

 ツツツツツ、と頬を連打して、ようやく彼女は起きたらしい。

 目を眠たげに閉じながら、ふらりと顔を上げる。

 

「むにゃ……んもう……ありゃ?」

「……おはよーさん」

 

 薄く開けた彼女の目が俺と合うと、彼女の目が段々と大きく見開かれてゆく。

 

「ありゃ、ありゃりゃ……え? あれ、あれれ……せ、先生!?」

「おん」

「この空間に入って来たと言うことは、ま、ま、まさか■■■■先生……!?」

「おん」

 

 慌てふためく彼女に、俺は適当に相槌を打つ。

 

「う、うわああ!? そ、そうですね!? もうこんな時間!?」

 

 頭上に浮いたヘイローを七変化させ、わたわたと慌ただしく動き回る彼女。

 

「うわ、わああ? 落ち着いて、落ち着いて……えっと……その……あっ、そうだ、まず自己紹介から!」

「おん」

「私はアロナ! この『シッテムの箱』に常駐するシステム管理者であり。メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」

「…………おん」

 

 俺は、彼女の事を知っていた。

 彼女が『何』であるか知っていた。彼女が『誰』であるか知っていた。

 だからこそ、俺は疑念を抱かざるを得なかった。

 彼女がそれを覚えていない事など百も承知であったが、しかし、それでも。

 

「やっと会うことができました! 私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」

 

 

 何故、俺なのか。

 

 

「……そうか、そりゃあ……まぁ、とにかく、よろしく」

 

 しかし、こんな思いを彼女にぶつけて、関係が拗れでもしたら笑えない。

 俺は燻る思いを封印し、にこやかに挨拶する。

 

「はい! よろしくお願いします! これから先、頑張って色々な面で先生の事をサポートしていきますね!」

「おう」

 

 何にせよ、これからキヴォトスで活動するにあたって、彼女のサポートは必要不可欠だ。

 彼女にはバリアを展開し、様々な物理的脅威から俺の事を守ってくれる。

 銃弾は勿論、落下する瓦礫からミサイルまで。

 彼女がいなければ、原作において、先生は確実に死んでいた事だろう。

 そんな盾が手に入るのは、頼もしい事この上ない。

 

「あ、そうだ! ではまず、形式的ではありますが、生体認証を行います♪」

「へぇ」

「うぅ……少し恥ずかしいですが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください」

「はいよ」

 

 言われるままに、アロナの方へ近づいてゆく。

 

「はい、そこで大丈夫です、 さぁ、この私の指に、先生の指を当ててください!」

 

 そう言って、アロナが人差し指を一本立てる。

 すると、その空間に、何やら座標の升目ような何かが浮かび上がる。

 その指の真上にあたる位置には、まるで『ここだよ』と主張するようなマークが浮かんでおり、俺は素直にそのマークの上に指を重ねた。

 ピピッ、と。電子的な音が鳴る。

 

「うふふ、まるで指切りして約束するみたいでしょう?」

「いや、どっちかって言ったらEでTなアレだろ」

「むぅー! 誰が宇宙人ですか! これ、指紋で生体情報を確認しているんですよ!」

「へぇ」

「画面に残った指紋を目視で確認するのですが……すぐ終わります! こう見えて目はいいので」

 

 まぁ、この場にいる俺って多分、ホログラムと言うか、虚像のような何かだろうからな。

 脈拍とか、DNAではなく、形で確認するのが一番やりやすいのだろう。

 

「どれどれ……?」

「……」

「ううーん……」

 

 しげしげと、目を細めて俺の指紋を確認するアロナ。

 しかしよく見えないようで、角度を変えて何度も確認するが……

 最終的には『これでいいや』とでも言わんばかりの顔で頷くと……

 

「はい! 確認終わりました!」

「嘘こけ、絶対適当だったぞ」

 

 絶対に適当である。見ればわかる。

 

「へっ!? い、いやいや、そんな……」

 

 手を振り、否定しようとする彼女であるが、俺の咎めるような目線にぐぐ、とたじろぐ。

 うん、やはり適当だったな、これは。

 

「……まぁいい。そんな細かい事はな。そんな事よりアロナ。サンクトゥムタワーの権限を何とかする事はできるか?」

「え? えっと、それはつまり……どう言う事ですか?」

 

 キョトン、とした顔をする彼女に、今現在キヴォトスで起きている事件の情報を伝える。

 

「なるほど、連邦生徒会長が……そう言う事なら、お任せ下さい! タワーのアクセス権ならば、私が何とか出来そうです!」

「OK。じゃあ頼む」

「はい! うむむむむむむ〜…………っ!」

 

 アロナが目を閉じ、しばらく唸る。すると。

 

「サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了……。先生、サンクトゥムタワーの制御権を獲得できました。制御権は今、私アロナの統制下にあります。今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも当然です!」

 

 アロナがそう言う。が、当然ながら支配なんて事はしない。

 

「んじゃ、それをそのまま連邦生徒会に流してくれ。問題はない。景気良くやっちまってくれ」

「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します! うむむむむ〜……っ!」

 

 そうしてアロナは再び唸り、そしてまた目を開く。

 

「はい、これで完了です!」

「よし」

 

 さて、これでプロローグは完遂、か。

 何もかもが急な事態ではあったが、取り敢えず最初にして最大の詰みポイントは何とか乗り越えられた。

 

「んじゃあ、俺は報告に戻らなきゃならんのだが……どうやって戻んのこれ?」

「あ、戻れ〜……と念じてくだされば、帰れますよ!」

「OK、ありがとな、アロナ。今後ともよろしく」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 そんな声を受けながら目を閉じ、戻れと念じる。

 すると、来た時と同様に視界が真っ白に染まり、浮遊感を感じて……それらが治る。

 

「……はい、はい」

 

 現実世界に帰還すると、暗かった地下室には、いつの間にか電気が付いており、隅の方では何やらリンちゃんが電話をしている。

 

「……はい、分かりました」

 

 通話を切り、リンちゃんはスマホをポケットにしまう。

 

「どうだった?」

「サンクトゥムタワーの制御権の確保が確認できました。一時は本当にどうなるかと思いましたが……これからは連邦生徒会長がいた時と同じように、行政管理を進められます」

「そうか、そりゃあよかった」

「ええ。お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします」

 

 姿勢を正し、深々と頭を下げるリンちゃん。

 

「……ここを攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく。それで……ああ、そうでした」

 

 リンちゃんは踵を返して階段を登り、その中途でこちらを振り向く。

 

「ついて来てください。連邦捜査部シャーレをご紹介いたします」

 

 そう言って階段を登り、廊下の方へ。

 

「……ま、そう言うわけだから、もう少し待っててくれよな」

「は、はひ……っ」

 

 彼女が地上への階段を登り始めた頃合いを見計らって、掃除ロッカーへ囁く。

 蕩けるような返答が返って来たのを確認し、リンちゃんを追いかけ地上へ。

 そのままズンズンと階段を上へ上へと登って行き……

 

「ここがシャーレのメインロビーです」

「へぇ、ここが」

「ええ。長い間空っぽでしたけど、ようやく主人を迎えることになりましたね」

 

 扉を開き、中に入る。

 

「そして、ここがシャーレの部室です」

 

 そう言って紹介されたのは、ゲームのロビー画面でお馴染み、あのガラス張りの部屋だった。

 ゲームや公式のムービーでは見えなかった、細かな部分が見え、こんな風になっていたのか、と感心してしまう。

 

「ここで、先生のお仕事を始めるといいでしょう」

「具体的には?」

「…………」

 

 俺が問うと、リンちゃんは暫し沈黙する。

 

「…………シャーレは、権限だけはありますが目標がない組織ですので、特に何かをやらなきゃいけない……と言う強制力は存在しません。キヴォトスのどんな学園の自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です……」

「…………」

「面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。つまり、何でも先生がやりたい事をやっていい、と言う事ですね」

 

 ふっと微笑んで、そんな事を俺に言うリンちゃん。

 

「……何でもいいが一番困るって、聞いた事ない?」

「ええ。まぁ、それは」

 

 俺が悪戯っぽくそう言うと、リンちゃんはカチャリ、と。眼鏡を直す。

 

「……しかし、本人に聞いてみたくとも、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません……」

 

 ふぅ、と一息を置く。

 

「今も連邦生徒会に寄せられてくるあらゆる苦情……支援物資に要請、環境改善、落第生への特別授業、部の支援要請など……もしかしたら、時間が余ってる『シャーレ』なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね」

「ふぅん……最初からそのつもりだったんじゃねぇの?」

 

 そう聞きながら、どさり、と。備えつけられた椅子へと腰掛ける。

 ……うん、座り心地は最上も最上だな。

 

「その辺りに関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました」

「やっぱり最初っからそのつもりだったよな?」

 

 くるりと椅子を回し、リンちゃんの方を見る。

 

「気が向いたらお読みください」

「おい。やっぱり最初からそのつもりだったんだな? なぁ?」

 

 椅子から立ち上がる。

 

「すべては、先生の自由ですので」

「おい?」

 

 俺は追求するも、リンちゃんはそれに答えず、ツカツカと扉の方へ歩いていってしまう。

 普通にめちゃくちゃ速い。モデル体型で脚が長いからだろうか。

 

「それではごゆっくり。必要な時には、またご連絡いたします」

「おい! ちょっと待て!? おい!? おーい!?」

 

 慌てて追いかけ、扉を出るが、その時にはもうすでにリンちゃんの姿はない。

 辺りを見てみれば、部室のすぐ近くにあったエレベーターが動いており、階数表示を見ると、もう既に一階近くまで降りていた。

 

「……………………………………………今度会ったら覚えとけよマジで」

 

 そんな三下のような台詞を吐きつつ、俺も下の階に戻るため、エレベーターのボタンを押した。

 

*1
ガチャ演出的な意味で

*2
爆死的な意味で




 さて、取り敢えずホシノとシロコは確保……ついでにすり抜けで来てくれた水着ハナコも。
 …………………さぁ、後はテメェだけだ、ミカぁ!!!
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