クソガキが征くブルーアーカイブ   作:POTROT

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いざアビドス。

 シャーレ奪還から数日。

 俺は来たるメインストーリーに備え、この地で『先生』をやるにあたって必要だと思う事を手当たり次第に行なっていた。

 それは事務仕事のやり方を覚える事であったり、近所への挨拶回りであったり、本当に机の上に山と積まれていた連邦生徒会への苦情の対応であったりと、他にも色々と。

 

 そんなこんなで始まった新たな生活であったが、しかし俺はもう既に疲労困憊であった。

 今までの生活と、あまりにも乖離が激しすぎたのだ。

 

 今の俺の状況を表すとこうだ。

『やろうと思ったことも無ければやりたいと思った事すら無く、やる機会にも恵まれず、勿論事前知識なんて一切のない状態で、急にアレをやれコレをやれと言われ、分からないなりに必死にこなそうとすると詰られ、叱られ、溜め息を吐かれ、失望の視線を向けられる事を強いられる生活』

 

 地獄である。高校受験の直前の一週間すらここまで苦しくはなかった。

 

 事務仕事の方は山のような『覚える事と注意すべき事』に押し潰され、近所付き合いでは『舐められず、その上で相手に好印象を与えるためのコミュニケーション能力』が求められ、苦情の数々には『膨大な量のマニュアルに基づいた真摯かつ事務的な対応』が求められ……

 もう頭がパンクしそうだ。

 

 リンちゃんが積極的に助けてくれるお陰でどうにかなっているが、それでも辛いものは辛い。

 残業って、『もう少し稼ぎたいから残ろ』って感じじゃないんだな。『一刻でも早くこの仕事を終わらせなきゃいけない』からやるんだな。

 生まれて初めて知ったが、こんな事なら知りたくなんてなかった。

 

 しかもやっとこさ仕事が終わって自由な時間になっても、メインストーリーの事を考えたり、ワカモの教育をしたり、クラフトチェンバーやシッテムの箱の機能を確認したりと……やる事が多すぎる。

 幸いな事にまだ睡眠時間を削るような事態にはなっていないが、娯楽の類の一切は封印だ。

 

 しかし原作先生はこれで遊ぶ時間を確保していた。

 きっととんでもないスピードで次々と仕事を終わらせていたのだろう。あの最強コミュ力でパーフェクトコミュニケーション連打していたのだろう。

 そう思うと、あまりのスペック差に惨めな気分になって来る。

 あっちは大人でこっちは子供だから仕方がない、と内心で言い訳はしてみるものの、しかしこうも上手くいかなければ、心は自ずと悪い方向に揺れるものである。

 気付けば、溜め息と頭を掻きむしる回数が増えていた。

 

 そんな折。

 ついに、その時は来た。

 

『おはようございます! 先生!』

「ああ、おはよう、アロナ。今日も手紙は来ているか?」

 

 ここ数日で随分と掠れ、覇気を失ったと感じる声で挨拶を返す。

 

『はい! 順調にシャーレの名も広まっているみたいですね! 良い兆候です!!』

「……そう、だな」

 

 アロナの手前、そう答えはしたが、俺は決してそれが良い事だと思えなかった。

 今後のメインストーリーの事を考えれば良い事なのだろうが、今でさえ俺のキャパシティはもう限界に近く、まだ削れるモノ(睡眠時間)は残っているとは言え、これ以上仕事を増やされても出来る自信がなかったからだ。

 だが、そんな俺の不安は、次の瞬間には完全に吹き飛んでいた。

 

『それでですね先生。実は昨日頂いた手紙の中に、何だか不穏なものがありまして』

「!」

 

 ビクリ、と。体が跳ねる。

 来た。そう確信する。

 寝起きで若干の靄のかかっていた思考が、急速に明瞭になってゆく。

 バクバクと心臓が鳴り出し、体中がサァ、と冷たくなってゆくような感覚がした。

 

「……そうか。どんな内容だ?」

 

 緊張を覆い隠し、平常を装って聞き返す。

 

『はい、そちらにあります!』

「コレだな」

 

 アロナの指し示す方向に置いてあった、シンプルな封筒を手に取り、封を剥がす。

 そして、中に入っていた3枚の手紙を読んだ。

 

『連邦捜査部の先生へ。 

 こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空(おくそら)アヤネと申します。

 今回どうしても先生にお願いしたい事がありまして、

 こうしてお手紙を書きました。

 単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。

 それも、地域の暴力組織によってです。』

 

『こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……。

 どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。

 今はどうにか食い止めていますが、

 そろそろ弾薬などの補給が底をついてしまいます……。

 このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です』

 

『それで、今回先生にお願いできればと思いました。

 先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?』

 

 小さく、丸みを帯びた、それでいて読み易い綺麗な字で書かれた、あまりにも物騒すぎるその内容を、俺は食い入るように見つめる。

 思わず手紙を握る手に力が入り、紙に皺をつけてしまった。

 

『う〜ん……アビドス高等学校……昔はとても大きい自治区だったみたいですが、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。どれほど厳しいかというと、街のど真ん中で道に迷って遭難する人が出るくらいだとか!』

「……ああ、そうらしいな……」

『あれ? ご存知だったのですか?』

 

 勿論、知っている。

 それが事実であるという事も、気候変動が起きた理由も、暴力組織が学校を襲っている理由も。

 そして、その背後に何が蠢き、何を狙っているのかも。

 傍観者(プレイヤー)として物語を見届けた俺は、全てとまでは言わないにしても、知っていた。

 

「……行くぞ。アロナ、ワカモ」

『はいっ! かしこまりました!』

「畏まりました」

 

 故に、俺は動かねばならない。

 今の『先生(主人公)』は俺であり、俺が奴らの狙いを踏み砕かねば、キヴォトスが滅んでしまうのだから。

 やるしかないのだ。

 

「とりあえずリンちゃんには連絡して……アロナ、シャーレの戸締りの状況を確認。ワカモは俺のスーツ持ってきてくれ。灰色のやつ」

『はい! シャーレは現在厳重なセキュリティによって守られています! 外出の際扉を施錠すれば、誰の侵入も許さないでしょう!』

「さ、こちらを。……失礼致します」

 

 ワカモにネクタイを締めてもらいながらリンちゃんに急用が入ったという旨のメールを打ち、書き上がったものを送信。

 スーツに袖を通したらシャーレの鍵とシッテムの箱を持って、扉の前で最終確認をする。

 

「戸締りはOK、身嗜みは問題なし。水分は?」

『バッチリです!』

「弾薬、その他もろもろ補給物資」

『これだけあれば十分でしょう!』

「ワカモ」

「ええ、全てはあなた様の申し付け通りに」

 

 よし。準備に一切の抜かりはない。

 ここからアビドスへ向かう道のりも、既に頭の中に入っている。

 問題なくアビドスの校舎までたどり着く事はできるだろう。

 

 途中で遭難してシロコと遭遇する、と言うイベントをスキップする事になるが……残念なことに俺はシロコの通学路なんて知らん。

 偶々倒れた場所がシロコの通学路の途中だった、なんて都合のいい展開を狙って引き起こすなど、俺には不可能である。

 それに、そんな状況に陥れば、ただでさえ子供だからと低い信頼度がゼロに近くなるだろう。

 ここは問題なくアビドスへ辿り着く方向で行くべきだろう。

 

「行くぞ」

 

 シャーレのドアに不在の知らせと緊急連絡先の書いた貼り紙を貼り付けて、宣言する。

 どうか上手く行ってくれ、と。心の内で祈りながら。

 

 ■

 

 今回、俺が選択したのは陸路だ。

 電車とバスを用いてアビドスに最寄りの駅────と言ってもその駅から学校へは数十kmはあるのだが────に降り、そこから徒歩で学校まで向かう。

 自転車でもレンタル出来ればよかったのだが、生憎と今の俺にはとにかく金がなかったので、泣く泣くフルマラソン並みの距離を徒歩で行く事と相成った。

 

 そうして俺はアビドスの街を歩いてゆくのだが、これがまぁひどい。

 ゲーム内でも散々酷評され、次々と人が去って行っている事が明言されているアビドス自治区だが、駅に降りてすぐの時は特に何も無い、平凡な街の様相を呈していたものの、アビドスの校舎、ひいてはアビドス砂漠に近づいて行くにつれ、その本性を表して来た。

 砂を含んだ熱風が、四六時中吹き付けてくるのだ。

 

 それが痛いし服が汚れるしと、確かにこれであればここに住みたいですか? 住み続けたいですか? と聞かれればNOを突き付けたくなるのも頷ける。

 ワカモも銃や爆弾の類が砂のせいで動作不良を起こすかもしれないと言っていた。銃がスマホよりも必須アイテムであるキヴォトスの生徒にとって、それは死活問題というものだろう。

 正直に言うのなら、残っている人たちは逆に何でまだ残ってるの? と聞かれるくらいにはひどいと俺は感じた。

 

 しかし、そんな事は今はどうでもいい。

 俺はさっさとアビドス校舎へと到着し、彼女たちの抱える問題に対処せねばならないのだ。 『先生(主人公)』として、そうしなければならないのだから。 

 そんな思いを原動力に歩き続けて、十数時間が経過した頃。

 俺の視界にようやくアビドス高等学校の校舎が現れた。

 

 ブラシでスーツや髪に付着した砂を落とし、髪を整える。

 そして、ふぅ、と息を吐いて覚悟を決めると、俺はアビドスの校門を潜────

 

「誰?」

 

 ろうとしたところで、後ろからスチャリという音ともに声がかかって来た。

 何度も聞いた声だ。プレイヤーとして、何度も、何度も。

 両手を上げながらゆっくりと振り返れば、そこに居たのは俺の思い描いた通りの人物。

 

 たなびく銀色の髪に狼の耳を生やし、首に水色のマフラーを巻いた、左右で白と黒になった瞳孔が何とも不思議な少女、砂狼(すなおおかみ)シロコ。

 このゲームにおける最重要人物の一人である彼女が、自転車に跨ったまま、こちらへ銃口を向けていた。

 

「……初めまして」

「ん、初めまして。それで、誰? ここに何の用?」

 

 銃口を下げず、俺に向けたまま再びそう問いかけてくる彼女。

 下手な事をしていないか、とワカモの方を見てみるが、彼女は不動を貫いている。

『俺が一度撃たれてから動け』と言う俺の言いつけを、しっかりと守っているようだ。

 偉いぞ、と心の中でワカモを褒めながら、俺はシロコの方へ視線を戻す。

 

「……俺は■■■■。連邦捜査部シャーレの顧問で……お宅の奥空アヤネとか言う生徒から手紙をもらってここまで来た。敵では無いので銃は下ろしてくれると助かる。見ての通り外から来た人間なのでな。それの一発で死ねるんだ、俺は」

「……………ん」

 

 シロコが銃を下ろし、自転車から降りる。

 ……いや、アレはロードバイクと言うんだったか? 

 まぁ、どちらでも良いか。

 

「ごめんなさい、少し早計だった。最近はヘルメット団の連中が良く来るから、てっきりその仲間かと」

「あー……手紙にあった暴力組織ってやつか? ……まぁいい。とにかく俺を案内してくれないか? ここの勝手はわからんからな」

 

 律儀に頭を下げたシロコにヒラヒラと手を振り、案内を求める。

 するとシロコはついて来て、と言って自転車を押しながら校舎の方へ歩いて行くので、言われた通りその後について行く。

 

 アビドスの校舎は、思ったよりも綺麗だった。

 外見こそ砂に塗れ、汚れていたが、中にはそこまで砂がなく、埃もない。

 むしろあまり使う人がいない分、新築が如くピカピカになっている壁や廊下を見て感心していると、いつの間にか目的地に到着していたらしい。

 看板に『対策委員会』と紙が貼り付けられた部屋だ。

 

「ただいま」

「おかえり、シロコ先輩」

「お帰りなさい、シロコちゃん」

「お帰りなさい。お疲れ様です、シロコ先輩」

 

 部屋の中から声が聞こえてくる。

 俺は部屋の中からは死角になる位置に立っていたので中の様子はわからないが、しかしどれもこれもが聞き覚えのある声であり、それ故に中の様子はありありと想像ができた。

 

「ん、今日は久々にお客さんを連れて来た」

「お客さん、ですか? 来客の予定は無かったみたいですが……」

「あら? 誰でしょう?」

「こんなところにわざわざ来るなんて、いったいどんな物好きなのかしら……」

「入って来て」

「おう」

 

 シロコに呼ばれたので、俺はスーツを今一度直し、部屋の中に入る。

 

「……へ?」

「……大人の、人……?」

「あら〜…………」

 

 反応は三者三様だった。

 猫耳を生やした少女は呆けるように。

 眼鏡をかけた少女は信じられないものを見たように。

 黄色いパーカーを羽織った少女は、感心するように。

 

「ハロー、初めましてだ諸君。俺は■■■■。シャーレの顧問を務めている。今回はお呼ばれしたので来てみたが……奥空アヤネはどなたかな?」

 

 俺がそう自己紹介すると、部屋にシーンと効果音が聞こえるような空気が漂う。

 しかし、それも一瞬。その次の瞬間には、ワッと。

 三人の少女たちが顔を見合わせて騒ぎ始めた。

 

「れ、連邦捜査部シャーレの先生!?」

「わあ⭐︎ 支援要請が受理されたのですね! 良かったですね、アヤネちゃん!」

「は、はい! これで、弾薬や補給品の援助が受けられます……!!」

 

 うーむ、女三人寄らば姦しい、とは良く言ったものだ。

 

「早くホシノ先輩にも伝えてあげないと……! ってあれ、ホシノ先輩は……?」

「委員長は隣の部屋で寝てるよ。私、起こしてくる」

 

 ちょっと失礼、と。

 猫耳の少女が俺の隣を通り抜けた。

 

「先生〜⭐︎」

 

 俺がその後ろ姿を目で追っていると、背後から声がかかる。

 振り返ってみると、そこにはにこやかな笑みを浮かべた黄パーカーの少女。

 

「私は十六夜(いざよい)ノノミと申します、よろしくお願いしますね、先生〜」

「ああ、よろしく」

 

 彼女が手を差し出して来たので、俺はそれを握る。

 ふわふわと、柔らかい手だ。

 …………この手がガトリングを持って連射するって、信じられんな。

 

「あ、そう言えば自己紹介をまだしていませんでしたね」

 

 そんな俺たちの様子を見て、眼鏡の少女がハッとした風に言った。

 ……まぁ、自己紹介などせずとも、全員のことは知っているのだが、それだと不自然だろう。

 しっかりと受けておく。

 

「私が今回、お手紙を送らせていただいた奥空アヤネです。そしてそちらが2年生のシロコ先輩で、ノノミ先輩も同様に2年生。先程いたあの子がセリカで、私と同じく一年生。そして、ここにいない唯一の三年生がホシノ先輩で……あ、ちょうど来ましたね」

「ほら、先輩! 早く起きて! シャーレの先生が来てるんですよ!」

「うへぇ〜……シャーレの先生ぃ〜……? それは大変だねぇ〜……」

「そうですよ! ですから早くっ、起きてください〜っ!」

 

 くるり、と。

 部屋の入り口の方を見てみれば、セリカに引っ張られて、ピンク色の髪の小柄な少女が引っ張られて来た。

 目は眠たげに閉じられており、足取りはおぼつかない。

 声は間延びして全く覇気がなく、まさに寝起き、と言う雰囲気を醸し出していた。

 

「うぅ〜ん……」

 

 しかし、その眼が俺を捉えた瞬間。

 瞼は眠たげに閉じたまま、しかし明らかにその瞳の鋭さが増す。

 

「やぁやぁ初めまして、ホシノ君。俺がシャーレの先生だ。よろしく」

「……あぁ、キミがシャーレの先生? 思ってたより若いんだねぇ〜」

「ちょ、ちょっと! 先輩!」

 

 俺の自己紹介に対してそんな事を言い放ったホシノを、セリカが慌てて諌める。

 確かに彼女の発言は、目上の人に対して適切なものでは無かっただろう。

 

「……まぁ、流石に判るか」

 

 しかし、彼女が看破した通り、俺は目上の人間ではない。

 

「そうだ。俺はお前の一つ下。そこのシロコやノノミと同年代だ」

 

 俺がそう言った瞬間。再び部屋に沈黙が訪れる。

 今度は先ほどよりも幾ばくかは長いが、しかしすぐにまた声が弾けた。

 

「「「ええぇぇぇぇぇぇえええええええええっっっ!!?」」」




 アリ夏を見た感想。
 お前らは、幸せになるために生まれて来たんだ…………ッ!!(時透)

 と言うわけでウチのアリスクは死ぬほど幸せにします(決定事項)
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