「せせせ、先輩方と同年代ぃ!? そっ、それは……っ!? ええええええええ!?」
「え、え〜っと、え〜っと……え、えぇ〜……?」
「どう言う事よ!? なっ、なんでそんな……おっ、おかしいでしょ!? どうなってるの!?」
目をぐるぐるさせるアヤネ。曖昧な笑顔のノノミ。叫ぶセリカ。大混乱である。
早く弁明したいところではあるが、しかしそのためにはまず彼女たちを落ち着けねばならない。
顎に指を当て、どうやって彼女たちを落ち着けるものか、と考える。
そんな中、スチャリ、と。硬い音が俺の真隣で鳴った。
目を動かしてそちらを見てみれば、シロコが再びこちらに銃口を向けている。
「…………もしかして、私達を騙した?」
見た目こそ先程と同じような状況だが、しかし彼女の纏う雰囲気は明らかに違った。
目には底冷えするような憎悪が浮かび、平坦な声にも煮えたぎるような怒りが滲み出ている。
不器用な、しかし確実な『殺気』が、今の彼女からは感じられた。
「返答次第じゃ、ただじゃ置けないかなぁ〜……?」
反対側を見れば、ホシノもショットガンを構えている。
シロコも十分凄まじかったが、こちらはもっと凄まじい。
先程の眠たげな顔はどこへやら、すっかりと見開かれた蒼と琥珀のオッドアイには、どこまでも冷たい眼光が差し、刺すような殺気がトリガーにかけられた指から溢れ出していた。
「「「ッ…………!?」」」
表情の変化や口数に乏しく、たまにヤバいことを言い出したり、たまにヤバいことをやらかしそうになるものの、アビドスを深く愛していて、仲間想いであるシロコ。
普段はだらしないが、しかしとても優しく、いざという時にはリーダーシップを発揮して自分たちを引っ張ってくれる、誰よりも頼りになる存在であるホシノ。
そんな彼女達が揃って殺気をむき出しにし、一人の男に銃口を向ける。
異様とも言えるその光景に、先程まで騒いでいた三人は、ビタッとその動きを止めた。
「……まぁ、そうだろうな。俺だって同じ状況ならそう思う」
俺は両手を上げる。
「だがまぁ、安心してくれ。俺がシャーレの先生と言うのは本当だし、それだけの権限もキチンと持っている。見ての通りのクソガキだが、誠心誠意、全力で、それこそ命を懸けてでも、君達の学校に今迫っている問題を解決する事を誓おう」
「…………それを信じろとでも?」
ホシノの放つ殺気が一層鋭くなる。
ヒュッ、と。誰かが息を呑む音が聞こえた。
「難しいだろうな。だから、俺が証拠を見せてやろう」
「ッ……」
シッテムの箱を取り出して、操作する。
いきなり撃たれこそしなかったものの、銃口が先ほどより俺に近づき、トリガーにかかる指に力が入るのがわかった。
……ワカモの協力のおかげで、この恐怖は克服したものと思っていたが、やはり怖いものは怖いらしい。
バクバクと心臓は鳴り、視界が滲んで、手が震える。
だが、やはりあれほどの恐怖ではないのだから、問題は無い。
事前に練習していた通り、指を動かす。
「……さて」
五人の生徒達……ワカモを含めれば六人の生徒達が固唾を飲んで見守る中、操作を終えた俺が、シッテムの箱を持つ手を下ろす。
1秒、2秒、3秒と。何も起きない時間が続き、少女達の表情が怪しいものに変化し始めた頃。
「「「「ッ!?」」」」
機械音と共に、床に一立方メートル程の箱のホログラムが投影される。
そのホログラムは中空にローディングバーを出現させ、それが100%に到達した瞬間。
再び機械音が鳴ると、ホログラムだったはずの箱が実体化した。
「………………」
あまりの光景に唖然とし、銃を下さないながらも呆けてしまった二人をよそに、俺は箱の下へ歩み寄り、その蓋を開く。
中にぎっしりと詰め込まれたのは、衝撃吸収用のおがくずと、弾薬箱の数々。
「取り敢えず12番500発に、9mm1000発。5.56mm6000発。7.62mm3000発、持って来た。ちなみに出してないだけでその他弾種含めてそれぞれ2万発くらいずつ持って来てる」
そのうちの一つを無造作に掴み取り、中身を見せながら、俺は続けて言う。
「ああ、当然、これだけじゃない。グレネードとかの爆弾類とか、食料の類、水の類、通信機器に応急処置キットに各種衛生用品に……後はまぁ色々。用意できるだけ用意させてもらった」
くるりと周囲を見渡してみれば、その場に居る全員が全員、ポカンとした顔で俺を見ていた。
ホシノとシロコも、俺の出現させた箱の方に意識を持って行かれている。
どうやら、俺の一世一代のパフォーマンスは無事に成功したようだ。
「……こ、これ……本物……よね?」
「当然だ」
ふらふらと近寄って来たセリカに、弾の一つを放って渡す。
「わ、わぁ……これは……すごいですね……?」
「そうだろう?」
箱の中身を覗き込み、戦慄するノノミにそう言葉を返す。
「え、えっと……た、弾の種類はどうやって……い、いえそれ以前に……」
「連邦生徒会に提出された願書に書かれたのを持って来た」
正気を取り戻し始めたアヤネの質問に、簡潔に答えてやる。
「……ん、撃ち放題」
「是非撃ちまくってくれ。そのために持って来たんだからな」
先程の殺気を霧散させ、大量の弾薬に目を輝かせるシロコを煽る。
「…………」
「どうした? お前の分もあるぞ?」
その他の4人が箱の周辺に寄って来る中、銃を持ったままこちらを睨み、不動を保つホシノに、とぼけたように問いかける。
「……どうやって、持って来たの?」
暫くの沈黙の後に返ってきたのは、あまりにも想像しやすかった質問。
だからこそ、俺は予め想定し、答えを既に用意していた。
「『先生』として就任するにあたって、
「…………へぇ」
そう、これは、俺が『先生』としてあるための力────『シッテムの箱』の能力。
簡単に言えば、『シッテムの箱は物質を質量と体積を完璧に無視して保存し、任意の場所に再設置する事ができる』のだ。
原理は完全に意味不明だが、しかし利用できるものは利用できるだけ利用するしかない。
だから俺は弾薬と言う弾薬、物資と言う物資を『シッテムの箱』に保存して、ここまで運んできたのだ。
しかしこんな事をそのまま説明するわけにもいかないので、掻い摘んで大雑把にホシノには説明する。
「……ふぅん、そうなんだ。それじゃあ、本当に先生なんだねぇ〜……ごめんね? いきなり物騒なことしちゃって。怖かった?」
すると、先程までの張り詰めた雰囲気が嘘のように弛緩するホシノ。
一見すれば警戒を解いたようだが、やはりまだその目だけは警戒と猜疑心で、鋭く光っていた。
当然だろう。原作先生ですらそこまで信頼されていなかったのだ。
俺がこの程度で彼女の信頼など勝ち取れるわけもなし。むしろこうして表面だけでも認めて貰えるだけで上々というものだ。
「いや。 就任早々、事件に巻き込まれてな。あのくらいならもう慣れた」
「……うへぇ〜……頼もしいなぁ〜」
ホシノが気怠げながら、それでも明るい口調で、あたかも喜んでいるかのように声を出す。
しかし、俺は分かっていた。その内心では頼もしいなど、微塵も思っていないのだろうと。
それどころか、むしろ力だけある危険人物としてすら見なされているかもしれない。
だが、それも仕方のない事だ。
与えられた力はともかく、それを振るう俺は未熟で、何も知らない、ただ必死に足掻くしか脳のないクソガキなのだから。
先ほども述べたが、こうして表面上だけでも認めて貰えるだけで、既に上々なのである。
「……ああ、是非とも俺を頼ってくれ」
グッ、と。
あまりの惨めさと無力感から込み上げて来る涙を堪え、ホシノと握手を交わした。
少し力を込めれば、握り潰してしまうのではないか、と。
そんな事が起こるわけないとわかっていながら、そう思えてしまうほどに小さい手だった。
この小さい手で今まで頑張って来たんだなと思うと、途端に俺の無駄に大きい手が酷く安っぽく見えてしまって、より惨めな気持ちになった。
手を離し、ホシノからも離れて、窓際へ。
これ以上彼女を見て、惨めな気持ちになりたくなかった。
「…………ん?」
何とか気分を落ち着かせよう。
そう思って窓の外の景色を眺めようとした俺の視界の端に、何やら黒い影が映る。
皆一様に黒いヘルメットを被った、見るからに不審者然とした集団だった。
「……なぁ、アレがヘルメット団ってヤツか?」
「何ですってぇ!?」
集団の動きを見ながら背中越しに問いかけてみれば、セリカがギュンと飛んで来て、バンと手をガラスに突く。
パリンと割ってしまいそうな勢いであったが、どうやら窓には防弾加工か何かでもしてあるらしい。衝撃に対して微動だにせず、その表面は全くの無傷であった。
「あ、あいつら〜っ!! また来たのね!!」
そして、どうやら俺の予想は正しかったらしい。
連中の姿を認めたセリカがアサルトライフルを握り締め、顔を真っ赤にして歯を食い縛る。
「ぶ、武装集団が接近しています! カタカタヘルメット団です!」
少し遅れてやって来たアヤネが、報告として叫んだ。
その中で、取り敢えず俺はワカモに『待て』のサインを送っておく。
勝手に動いて勝手に鎮圧されると、色々面倒だ。
「あいつら……! 性懲りも無く……!!」
「わわっ!? 撃ってきました!?」
シロコが怒りを露わにしながら嘯いた瞬間、ダダダダダダダッ、と。銃声が轟いた。
全員が全員、反射的にサッと身を屈める。
……ワカモに指示をしておいて良かった。少し遅かったら、飛び出しているところだった。
「ヒャッハハハハハハハハハハハハハハハハハァ!! 撃て撃てぇ!」
「攻撃、攻撃だぁ! 奴らに補給はもう無い! 襲撃せよ! 学校を占領するのだぁ!!」
銃声に混じり聞こえて来る下品な笑い声と、何やら調子に乗ったような声に、ブチッと堪忍袋的な何かが切れるような音がした。
「もう許せない! ギッタンギッタンにしてやるわ!!」
「ん、私も出撃する。先生のおかげで補給は十分。叩きのめす」
「うん、そだね。久々に弾薬を節約しなくて良いわけだし、派手にやっちゃおっか」
「あ、いいですね〜、それ。私も最近あんまり撃ててなかったので、早くやりたいです〜♧」
前線組がそれぞれの愛銃を握り、立ち上がる。
その気迫は凄まじく、メラメラと、その背後に炎がゆらめいているようですらあった。
「で、では、私はオペレーターを務めます! 先生は……」
「折角だ。俺が指揮しよう」
アヤネの言葉を遮り、シッテムの箱を持って立ち上がる。
「……出来るの?」
「少なくともゲヘナ風紀委員、トリニティの正義実現委員と自警団。それとミレニアムのセミナー役員からは好評だったぞ」
ホシノに返したその言葉に嘘は無い。
実際、あの後に風紀委員会と正義実現委員会のそれぞれから、一度指揮官として訓練に参加しないか、と打診された。
まぁ、その話はリンちゃんがぶった斬り、無かったことになったのだが。
「……じゃあ、大丈夫かな。よろしくね?」
そう言って部屋を飛び出し、タタタと階段を降りて行く。
「では先生、こちらを!」
「おう。……アロナ」
『はい! お任せください!!』
アヤネから通信機を受け取り、アロナに指示を出す。
すると、ヴン、という音と共に、目の前に半透明のウィンドウが現れた。
よく見慣れた、ゲーム画面だ。
ただゲームと違う点で言えば、主観が俺であるという点と、視界に映る情報量がゲームのそれと比較にならないほど多い点。そして、ポーズボタンが無いという点か。
「あー、あー、聞こえてるかー? 調子はー?」
『何コレ! 体がすっごい軽いんだけど!?』
『ん。すごい。絶対に負ける気がしない』
『これであれば、いつも以上に頑張れちゃいそうです〜♧』
『いやぁ、こんなすごい力があったなら、もっと先に言ってよぉ〜』
通信機をオンにして、連絡を取ってみれば、喜びと驚きの声が上がって来た。
少しだけ、いい気分になる。
しかし、今はただ喜んでいる場合では無い。
「まぁ、そんなわけで、今から指揮を始めるぞ。と言うわけでまずはノノミ、派手にやれ」
『お任せ下さ〜い⭐︎』
ダダダダダダダッ、と。
地面を揺らすかのような音が響いて来る。それに混じって、ヘルメット団の悲鳴も。
『わぁ! リトルマシンガンちゃんの威力が、とっても上がってます〜!』
「おう。他は巻き込まれないように下がって……ホシノはそこのドラム缶の裏で突撃用意。他の二人はその後ろで援護射撃の用意。ノノミが撃ち終わり次第ホシノは突撃、他二人は掃射。ホシノに当てないようにだけ気をつけて、一気に壊滅させろ」
『『了解!!』』
『うへぇ〜……あんまり疲れることはしたく無いんだけどなぁ〜……』
と、そんな事を言いつつ、しっかりと俊敏な動きでドラム缶の後ろへと滑り込むホシノ。
その手には、いつの間にやら盾が装備されている。
「アヤネ。お前はホシノが突っ込んで行くのを確認したらドローンで爆弾を落とせ。閃光弾でも良い。ホシノに気を取られた隙を徹底的に咎めてやれ」
「はい! ドローン発射、用意します!」
『皆さ〜ん! あと5秒で撃ち終わります〜!』
と、アヤネがドローンの用意をしたところで、ノノミから連絡が入って来た。
「OK。カウントダウン。3、2、1。GO!!」
『そ〜れ、突撃〜!』
『掃射、開始っ!!』
『撃ち方、始め』
俺の号令と同時にホシノが飛び出し、セリカとシロコがそれぞれの掛け声でアサルトライフルを連射する。
「うわぁあ!? なんだアイツら! もう銃弾は無いんじゃないのか!?」
「も、もうダメだ! またあの連射が来たら終わる! 逃げろ!!」
「おい! 何逃げてる!? 突っ込んでくるぞ! 撃て! 早く撃てぇ!!」
もう既に、ヘルメット団は総崩れだ。
元よりゼロに等しかった統率は今や全くと言って良いほど取れておらず、逃げる者と立ち向かう者がごっちゃになっている。
撃たれて動けなくなった
「よし、とどめ刺せ」
「はい! 閃光弾、投下します!」
俺が目を閉じると、凄まじい光と共に甲高い音が響いて来る。
しばらくして目を開けてみれば、かなりの数のヘルメット団員が気絶し、意識を保っているヘルメット団員達が彼女達を担いで撤退して行く光景だった。
流石に武器類の回収までは出来なかったのか、そこらにはヘルメット団員が使っていたであろう銃が幾つも転がっている。
「敵の撤退を確認。作戦を終了する。各員速やかに帰還せよ」
残党がいない事を確認して、俺はそう宣言した。
何がクソかって、望んだか否かに関わらず、大いなる力には大いなる責任が伴う事。
ちなみに作者はミリタリー系はマジ無知です。
サバゲーとか一回もやった事ないです。
そんなわけで変なとこいっぱいあると思うので、その時は是非教えてください、