クソガキが征くブルーアーカイブ   作:POTROT

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莫大な借金

 ────目の前に広がるのは、地獄絵図であった。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!?」

「なっ、何でアイツらがここにっ、ぎゃあああああああああああ!?」

 

 人通りは殆どなく閑散として、実に静かであった街に、幾つもの銃声と爆発音、そしてヘルメットを被った少女達の悲鳴が木霊する。

 そんな地獄を作り上げたのは、俺の周りで惜し気もなく銃を連射する四人の少女達だ。

 

「は〜い、お掃除ですよ〜♧」

 

 乗用車すら一瞬で鉄屑に変える、死の嵐が無防備な少女達を薙ぎ払い。

 

「隠れるなんて姑息な真似、許さないんだから!!」

 

 赫怒の込められた銃弾が少女を遮蔽物ごと撃ち抜き。

 

「ん。逃がさない」

 

 無慈悲な追尾弾が逃げようとする少女達を吹き飛ばす。

 

「不意打ちとか、おじさんちょおっと感心しないかなぁ〜?」

 

 決死の思いで敢行した特攻も、無駄死にだと言わんばかりにあしらわれ、沈められる。

 あまりにも絶望的で、一方的な蹂躙劇が繰り広げられていた。

 数十秒もすれば50人近くはいたはずの構成員の殆どは地に伏し、幸運にもその暴威の餌食となった者は、その戦意を完全に失わせて、もはやただ大人しく銃撃に倒れ伏すばかりであった。

 

「………………うわぁ」

 

 俺はその光景に、ひたすらドン引きしていた。

 

 ここまでの経緯はこうだ。

 車を降り、ヘルメット団のアジトのある方向に進軍を始めた俺たちは、途中途中で会敵したヘルメット団員達を瞬殺しつつ、1時間ほどかけて目的地付近まで到着した。

 

 俺がウィンドウを頼りにヘルメット団のアジトを探して行くと、廃墟となった、そこそこ大きいビルに辿り着いた。

 中を覗いてみれば、そこに居たのはヘルメットを被った少女達。

 間違いなくここがアジトだと断じ、俺が突撃を指示した結果が、この地獄絵図である。

 

 もう少しちゃんとした戦闘になると踏んでいたのだが、どうやら俺はアビドス組の戦闘能力と俺自身の能力を些か甘く見すぎていたようだ。

 よもや、ここまで一方的な戦闘……否、虐殺になるとは……

 

「あ、見つけた! 奴らの物資!」

 

 と、俺があまりの事態に戦慄していると、どうやら上の階に行ったセリカがお目当ての物を見つけたらしい。

 俺も後を追って上の階へと上がると、そこには物資の数々が散乱していた。

 多少の整頓の痕跡は見られるものの、段ボールやら木箱やら、そしてその中身がそこらにぶちまけられ、足の踏み場が殆どない。

 しかし、銃や銃弾、爆発物と言った、武器類は階段近くに丁寧に保管されていたらしく、セリカがそれを漁っていた。

 

「どんな感じだ?」

「武器も銃弾も爆弾も、たんまりとあるわね。どこからこんなの仕入れてるのかしら?」

 

 カイザーです、とはもちろん言えない。

 いやまぁ正確に言えば『アビドスが返したカイザーへの借金の利息をそのままヘルメット団に回した金で買った武器』なのだが。

 ……しかし、この武器類はどうするか。本当に沢山あるぞ。

 

「……物資全部、このアジトごと破壊するか」

 

 折角爆弾がたんまりとあるのだから、出来ない話ではないと思うが。

 

「あれ、爆発させちゃうんですか?」

「先生には物を持ち運ぶ能力があったはず。持って行っても良いと思う」

「いくら不良生徒の物とはいえ、他人の物を盗むのはいただけない。先生として以前に、俺個人としてな。だが、そのまま残しておくのも意味がない。そう思ったんだが……やはり厳しいか」

 

 ホシノの方を見る。

 現在、アビドスにおける最高権力者は、一応だが彼女だ。

 

「まぁ、言いたい事はわかるんだけどね……でも、ほぼ誰もいないとは言え、流石に街中ではちょっとな〜……う〜ん……シロコちゃんの言う通り、持ってっちゃってくれない? そっちの方が色々楽だし、なんなら後で砂に埋めて処理してくれちゃってもいいからさ」

「ふむ……じゃあ、そうするか」

 

 シッテムの箱を取り出して、物資の類をスキャンする。

 ローディングバーが中空に発生し、100%になった瞬間、機械音と共に物資が掻き消える。

 画面を見れば、しっかりと物資がストレージに保存されていた。

 

「うん、これで作戦は終了だね。みんな、学校に帰ろうか」

「はい、戻りましょう!」

 

 ホシノの言葉に頷き、俺たちはワカモの軽トラの待つ方へと撤収した。

 

 

 ■

 

 

 俺たちがアビドスの校舎へと戻ったのは、空が茜色に染まった夕暮れの頃。

 ワカモとは学校の外で別れた振りをして、反対側に停めた軽トラの中に待機させている。

 昇降口までの途中で『いきなり現れた謎の軽トラの運転手』について関係性を問われたが、『この学校に来るまで一緒に来てくれた人』と言う事で通させてもらった。

 向こうは恐らく『駅から車で運んでくれた人』と受け取っただろうが、そこは訂正しない。

 ワカモの存在をバラすわけにはいかないのだ。

 

「ただいま〜」

「お帰りなさい。皆さん、お疲れ様でした」

 

 ガラガラと、扉を開けて帰って来た俺達をアヤネが迎える。

 

「アヤネちゃん、オペレーターお疲れ様」

「火急の事案だったカタカタヘルメット団の件が片付きましたね。これで一息つけそうです」

「そうだね。これでやっと、重要な問題に集中できる」

「うん! 先生のおかげだね! これで心置きなく全力で借金返済に取り掛かれるわ! ありがとう、先生! この恩は一生忘れないから!」

 

 セリカが作戦終了直後だと言うのに元気に頭を下げ、俺に謝意を述べた。

 その言葉に、俺は強い安堵を覚える。

 

「借金返済ってのは、なんだ?」

「あ、わわっ!?」

 

 ……良かった。ここで口を滑らせてくれなければ、後が大変になるところだった。

 セリカが慌てて口を押さえるが、もう遅い。

 

「そ、それは……」

「ま、待って!! アヤネちゃん、それ以上は!」

「ッ!?」

「……まぁ、良いんじゃない、セリカちゃん。隠すような事じゃあるまいし」

 

 慌ててアヤネの口を塞ぐセリカ。

 そうして何とかアヤネが言葉を発する前に止める事に成功したセリカだったが、しかし椅子に座り、頬杖をついたホシノに諭されてしまう。

 

「か、かと言って、わざわざ話すことでもないでしょ!」

「別に罪を犯したとかじゃないでしょ〜? それに、先生は一応私たちを助けてくれたんだしね〜?」

「ホシノ先輩の言う通りだよ、セリカ。先生は信頼して良いと思う」

「そ、そりゃそうだけど……」

 

 ホシノに反駁するセリカだが、ホシノの反論と、それに加勢するシロコにたじろいでしまう。

 口を塞がれたアヤネが、心配そうにセリカを見る。

 

「……でも! 先生だって、結局は部外者だし!」

「確かに先生がパパっと解決できるような問題じゃないけどさ。でも、まともに話を聞いてくれる権力者って言ったら、もうこの先生しかいないじゃ〜ん? 悩みを打ち明けてみたら、何か良い解決法が見つかるかもよ〜?」

 

 それとも何か、他にいい方法があるのかな? と、オッドアイを薄く開き、優しげに問うホシノに、セリカは何も言い返す事ができない。

 

「…………」

 

 そんな二人の様子を見て、横で見ていた俺はひどく意外に感じていた。

 ……まさか、ホシノが俺に助け舟を出してくれるとは。

 あの信頼度の低さから考えるに、我関せずと沈黙を貫くか、セリカに便乗して俺を追い出しにかかるかと想定していたのだが、良い意味で予想外だった。

 

「……でっ、でも!」

 

 そこに、セリカが負けじと再び口を開く。

 

「さっき来たばかりの、しかも大人でもなんでもない、シロコ先輩やノノミ先輩の同年代でしょ!? いくら凄い能力があったって、できる事はたかが知れてるに決まってるじゃない! どうせ何もできないわよ!」

「…………ッ」

 

 堰を切ったように言い募るセリカ。

 如何に俺に打ち明けるべきではないか、それを叩きつけるように説明する言葉が、俺の心にズブズブと突き刺さる。

 

「この学校の問題は、ずっと私たちだけでなんとかしてきたじゃん! なのに今更、力のある大人でもないのに首を突っ込んでこようなんて……私は認めない!!」

「セリカちゃん!?」

 

 怒りを露わにしたセリカはズカズカと足音を立てながら部屋出て、手を伸ばしたアヤネを拒絶するかの如く、ピシャリと扉を閉めてしまった。

 

「あ……」

「私、様子を見てきます」

 

 すぐに扉を開いたノノミが、小走りで廊下の奥へと消えてゆく。

 部屋に残されたのは、俺とホシノ、そしてアヤネとシロコの四人。

 

「……えーと、ね」

 

 何とも重苦しい空気が流れる中、普段と変わらないようにホシノが口を開いた。

 

「簡単に説明すると、この学校、借金があるんだ〜。まぁ、ありふれた話だけどさ」

「……そうなのか」

 

 勿論、知っている。知っているが、知らなかった風を装う。

 その方が都合が良いからだ。

 

「でも問題はその金額で……9億円くらいあるんだよね〜……」

「……正確には、9億6235万円、です」

「………………おいおい、マジか」

 

 やはり、知っている。が、やはり知らなかった風を装い、こめかみを押さえる。

 やはり都合がいいからだ。

 

「はい。これは私たち『対策委員会』が支払わなくてはならない額であり、これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります……」

「……返済の目処(めど)は」

 

 ふるふる、と。

 アヤネは沈痛な面持ちで首を横に振る。

 

「完済の可能性はほぼ0%……ほとんどの生徒は諦めて、この学校と街を捨て、去ってしまいました……」

「……そして残ったのが、私達」

「学校が廃校の危機なのも、他の生徒がいないのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、実は全てこの借金のせいです」

「……この砂じゃないのか?」

 

 窓の外、段々と暗くなってゆく外の景色。

 その中で、未だに茜色に光を反射する砂の山を見て、俺は質問する。

 

「借金の原因が、その砂嵐です。数十年前、想像を絶する砂嵐がアビドスを襲い……学科の至る所が砂に埋もれ、それからも砂は積もり続け……その自然災害を克服するために、我が校は多額の資金を投入せざるを得ませんでした……しかし、このような片田舎の学校に、巨額の融資をしてくれる銀行など無く……」

「闇金に手を出した、と」

 

 コクリ、と。アヤネは頷く。

 

「……はい。最初のうちは、すぐに返済できる算段だったと思います。しかし砂嵐は毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力虚しく、悪化の一途を辿りました……ついには学区の半分が砂に埋まり、借金はもう手がつけられない状態に……」

「…………」

「…………」

 

 アヤネが口をつぐみ、痛いほどの沈黙が訪れる。

 

「……私たちの力だけでは毎月の利息を返済するのに精一杯で……弾薬も補給品も、底をついてしまっています」

「で、俺に助けを求めたのか」

「うん。セリカがあそこまで神経質になっているのは、これまで誰もこの問題とまともに向き合わなかったから。話を聞いてくれたのは、先生、あなたがはじめて」

「…………そうかぁ……………」

 

 ……こうして改めて聞いてみると、本当に重い話だな。

 少なくとも、15、6、7の少女達が背負っていて良い重さじゃない。

 

「……まぁ、そう言うつまらない話だよ。でも、先生のおかげで厄介な問題が解決したから、これからは借金返済に全力投球できるようになったわけ。あ、別に先生は借金の事は気にしなくていいからね。話を聞いてくれただけでもありがたいし」

「そうだね。先生はもう十分力になってくれた。これ以上迷惑はかけられない」

「……はぁ……」

 

 まぁ、俺が何も知らなかったらそれでも別に良かったんだがなぁ……

 どう考えたところで、到底無理な話なのだ。たった五人で、9億の借金などと。

 だが、俺は知っている。もし俺がこの学校に協力しなければ、この学校が、キヴォトスが、どのような末路を辿るのか。

 見捨てる、などと言う選択肢は、最初から無い。

 

「……俺がここに顧問として就こう。そして借金の返済に協力させてもらう」

「え……」

「そ、それって……!?」

「……ふぅん? 先生も変わり者だね〜。こんな面倒ごとに自分から首を突っ込もうなんて」

 

 驚く二人をよそに、ホシノの目が剣呑な光を帯びる。

 ……まぁ、きっと俺の下心でも探っているのだろう。残念ながらそんなものは無いが。

 

「……や、やりましたっ! 『シャーレ』が力になってくれるなんて……! これで私達も、希望を持っていいんですよね……!?」

「そうだね。希望が見えて来るかもしれない」

「で、では先生! 改めて、よろしくお願いしますっ!」

「ああ、改めて、よろしく」

 

 勢いよく頭を下げたアヤネに、俺は言葉で応えた。

 ……しかし、そこで俺は俺の目下の問題がすぐそこまで迫っている事に気付く。

 

「……ところで、この辺にいい感じに寝泊まりできる場所って無いか? 流石にこの時間から探すのもアレでな……」

 

 そう、俺の寝床の問題だ。

 いやまぁ、最悪あの軽トラで寝てもいいんだが、座ったまま寝るとなると色々と悪影響が出る。

 それこそエコノミークラス症候群にでもなれば終わりだ。それは避けたい。

 

「あっ、そうですね……でも、この辺の民泊やホテルはもう残って無いですし……」

「私の住んでるところの隣は空いてるけど……家賃はかかるし、ベッドが無い」

「ん〜? ああ、ここに泊まってもいいよ〜。どうせ教室はいくらでも余ってるんだし〜」

「お、マジ?」

 

 そりゃあ有難い。

 ……あ、だがワカモはどうするかな……アイツも同じ教室で寝かせる……ってわけにもいかないよな……軽トラに寝かせるにしても……うーん……

 

「ほら、こっちだよ。着いてきて……あ、二人はもう帰りな〜。もう暗くなっちゃうし」

「あ、はい。では先生、ホシノ先輩、さようなら。また明日、お願いします」

「ん。また明日」

「おう。また明日な」

 

 部屋を出るホシノに続き、二人に挨拶を返しながら俺も部屋の外へ。

 ホシノに案内された先は、何の変哲も無い普通の教室だった。

 

「じゃ、ここを自由に使ってね。あ、お布団とかは……まぁ、体育倉庫にあるマットとか、勝手に調達してね?」

「いいのか?」

「ん〜? ああ、いいのいいの。どうせ授業とかまともにやってないし」

「それはそれでどうなんだ……」

 

 俺のそんな呟きを無視して、んじゃね〜、と帰って行くホシノ。

 ……しかし、随分とまぁ俺を自由にさせるな……もしかしてだが、俺が思っているよりもホシノからの信頼度は低くないのか?

 原作先生よりかは低いにしても、そうであってくれると嬉しいんだが……

 

「……まぁいい。まずは布団になるものを探しに……っていや、よくよく考えたらシッテムの箱に色々と入れてるんだったか……」

 

 と、シッテムの箱を取り出し、ストレージに格納されている物を確認して行くと、俺があらかじめ入れていた寝袋が出てきたので、それを投影する。

 しかもよく見ればテントとかもちゃんと入っていた。

 まぁ、もう教室を借りてしまったわけだし、このテントはワカモに使わせるとして……

 

「書類も片付けなきゃなんだよなぁ…………」

 

 机の上に、持って来ていた書類を置いておく。

 リンちゃんからのメールで郵送で送れと指示を受けている。しかも追加の書類もアビドス宛に郵送で送られて来るそうだ。

 出来る限り溜まらないように、さっさと終わらせなければならない。

 

 だがまぁ、それより先にワカモにテントを届けなければ。

 夜の砂漠は冷えると聞く。と言うか何なら現在進行形で寒い。

 一応軽トラに暖房機能はあると思うが、軽トラの燃料とて無限ではないのだ。

 出来る限り早く届けてやるに越したことはないだろう。

 

 そう思って、教室を出る。

 廊下の窓枠に置かれた植木鉢。そこに植った小さい観葉植物の間から見える、光を反射する何かについては、考えない事にした。

 




 金は命より重い。当然、青春なんかよりも。
 少なくとも、今の世界はそう言う風に出来ている。
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