東方蟹異譚   作:蟹ノ鋏

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夏も近づく何とかだと思っていたら既に夏真っ盛りなっていました(白目)

話自体は二話前あたりから考えてプロット大体書いていたのですが、文字に書き起こすと予想より進まない、文才がない、続かない。

そんなわけで気が付けば七月の終わりになってしまいました。申し訳ありません。

しかも幕間なので話自体は進まないです。ごめんなさい。

ただ、漸く二人目の東方キャラクターの登場です。

最強キャラを上げていくと上位の方にでてくるあのお方。

ミステリアスでビューティフルな彼女です。

できるだけ彼女らしさが書ければいいなと思います。

又、感想の方で会話文についてのご指摘を受けまして、会話文の最後の文における句点をほとんどすべて消去いたしました。これからも読みやすい小説を目指していこうと思いますので、もし読みづらい箇所がありましたら気軽にご指摘いただけるとありがたいです。


幕間 目覚める各々

 八意永琳は目が覚めると同時に洞窟ではない天井を目にした。

 壁の向こう側である人間が住まう都市の所謂上流階級の者達が住まう中心街、その一角いや、二角から三角を占める巨大な高層住宅兼研究所に彼女の部屋はある。

 慣れ親しんだ一人で暮らすにはあまりにも広々とした部屋には夜には五月蠅い羽虫も、地面を這うトカゲも、雨宿りに来る狸の一家も――当然彼もいない。

 

「……誰もいない」

 

 実際に彼女の家ともいえるこの建物には実験動物を除いて彼女以外の生物はいない。親兄弟はもとより家事は自分でこなせること以外はロボットや機械に任せるため家政婦は雇わず、研究も助手が付いてこれるような生易しいことをこの建物の中では行っていない為存在しない。一日のほとんどを自室に籠り研究を行う彼女には友達は僅かにしかおらず、研究仲間と会うのも週に一日あるかないか。

 

 永琳にとって日常は退屈でしかない。

 彼女は大抵のことができた。

 彼女は余りにも優秀すぎるがゆえに共同で研究することが無くなった。

 好奇心からくる研究も失敗することはあるがほぼ大体が結果につながる。

 年頃の乙女として買い物に出かけても買った衣装を見せる相手がいない。

 縁談の話は幾度も有った。

 様々な男性を見てきたが、どのような美男子でも破格の富豪でも高貴なお家の御曹司でも彼女の心が揺さぶれることが無かった。

 

 いや、彼女には揺さぶられる心がなかった。

 虚無。

 すっぽりと風穴があいたかのように心は気が付けば欠落していたのだ。

 

 

「…………。」

 

 ――逢いたい。

 永琳は切実にそう思った。

 

 永琳は部屋の机の上に置いてあるデジタル時計の液晶ディスプレイに映し出される文字盤を見やった。

 長いこと時間が経ったと思えるのは今日がちょうど一年だからだろう。

 

 一年前、彼女は黒星と出会った。

 

 そして凡そ十一ヶ月前に黒星と別れた。

 

 あの時のことは鮮明に覚えている。

 戻れることならば戻りたい。後悔しても悔やみきれない。

 

 ――私が探しに行ったばかりに黒星さんは――

 

 脳裏に蘇るのは彼女を庇いながら何本もの銛が体に刺さり大量の血を流す黒星の後ろ姿である。

 私が居なければ、余計なことをしなければ、そう何度も思い悩み、あの時の光景は未だに悪夢としてみることもある。

 

 永琳は事の顛末が一体どのようになったのかは知らなかった。あの日の翌々日、目が覚めると病院のベットの上に寝かされており、聞けば永琳を探しに行ったグループが小川の近くで倒れているのを発見し病院に運んだのだという。その後月夜見に謁見を願い出て、委細の全てを尋ねようとしたのだが、月夜見はどうやらあの日以来酷く体を弱くして真面に人前に出ることすら困難になっているそうで、しばらく尋ねることはできないようだった。ならばと、自ら装備を整え再び森の中に入り探索を行いあの洞窟まで戻ってみたものの、中には黒星が薬草の調合などに使っていた道具などが幾つか残っているだけで、黒星本人は何処にも現れることはなかった。

 

 ここ一年間でありとあらゆる手段を駆使して黒星の探索、せめてもの安否を調べていたのだが結果は芳しくない。有態に言えば何も見つかっていない。

 

 いや、厳密に言えば発見したことというか気が付いたことは有った。黒星とは恐らく直接関係するものではないと思うがやけに森林の中にいる動物を多く見かけるようになったのだ。生物に関する分野にもある程度精通している永琳はそれが生態系の変化だということを瞬時に察知した。後から詳しい調査をしてみたところどうも草食動物――ネズミやノウサギなどの小動物――の数が増えており、それによって狼や鷹などの捕食者である肉食動物の活動領域が広がり数も僅かではあるが増えているようだ。そして、永琳が実際に森の中に入って実感した違和感。――前に比べて妖怪たちの妖力の気配――つまり妖気がほとんどといっていいほど感じ取れなくなったのだ。

 

――妖怪たちが居なくなった。それも力がある存在はほぼ皆無となったと考えられる。――

 

 綺麗さっぱり邪魔をしてくる妖怪たちが居なくなったのだ。それこそまるで、

 

 

「神隠し……ね。まあ、恐らく違うのでしょうけれど」

 

 この話については人々の間で、特に上層の人たちや学者たちなどは喧々諤々と議論を続けており、今のところ月夜見の力によって祓われたのではないかという論が多数派である。妖怪たちを退治したから月夜見が力を消耗し御隠れ(不吉な意味ではなく)になったのだと。

 当事者である永琳は真っ先に否定したが。もちろん、表情や言葉に出すことなく内心でだが。

 黒星と会って以来対人関係のコミュニケーション能力――というよりも空気を読むことが何故か上達している気がするのは永琳の謎である。

 

 月夜見が妖怪たちを退治した。成程、それは辻褄が合う尤もな考えだ。しかし、黒星との戦いの一部始終を目撃した永琳からしてみれば月夜見が黒星との戦いの後に妖怪たちと戦うことができるほどの力を所持していたとは到底思えなかったのである。黒星と戦う前に殲滅していたのかもしれないが、そういった戦いの痕跡が全く見かけられなかったので妖怪たちが月夜見によって退治又は追い払われたというのは彼女からしてみれば支持できるものではなかった。

 

 月夜見が力を消耗したのは間違いなく黒星との戦いで深手を負ったからだと、永琳は考えていた。

 

 そこまでの思考に至った時に彼女はあの日のことを、黒星が目の前で傷ついたことを、何よりも自分のせいで二人とも致命傷を負ったことを思い出してしまう。

 

 八意永琳は自分の心臓付近を軽く撫でる。

 

 あの日、彼女が最後の光景として覚えているのは自分の体と目の前にいた黒星の体の真ん中、心臓付近に大きな穴が穿たれ黒星の血が自身に飛び散ったところまでである。

 

 間違いなく致命傷。それでも彼女は生きている。

 

 その後意識を失った永琳はどうして自分が生きているのかは知らないが、現在傷の無い自身の身体を診て恐らく人の医療では考えられない何かが起きて助かった、又は助けられたのだと推測した。

 

 そして多分自分を助けたのは――

 

 

 

 

 永琳は自分の机の上に置かれている薬師用の様々な道具を胡乱げな目で見つめる。

 

 それを使っていた持ち主は行方が知れていない。

 

 道具を慣れた手つきで使いこなす彼の姿が思い浮かばれる。

 

 瞳から一筋の涙が頬を伝って零れ出た。

 

 

 調査結果から推察するに黒星が生きている可能性は恐らく高い。

 ただ、どうしても思ってしまう。

 

 

 ――もう二度と会えないのではないか、と。

 

 

 永琳はスッと立ち上がって、部屋の片隅に置いてある殺菌ケースの中から医療用のメスを取り出した。

 

 そしてためらいなくそのまま自分自身の左手首を大して力をかけずに切り裂いた。

 

 人の体を切り開くのに最も適した刃物であるそれは、抵抗を見せることなく彼女の皮膚に傷をつける。

 

 ドロリと流れる血液とじんわりと広がる痛み。

 

 しかし、その血が肘に到達する前に左手首に付けられた切込みは消えてなくなるかのように再生した。

 

 異常な治癒力、人の域をあからさまに超えている。

 

 その血が床へと零れ落ちる前に永琳は舌を伸ばして舐めとった。

 

 血生臭い、鉄の味。それでもなぜかその血の味に彼を感じるのだ。

 

 不意に永琳は自分の唇に手を当てた。

 

 あの日以来、自分の体が異常であることは直ぐに気が付いた。

 

 最後の記憶は朧げ。ブラックアウトしていく意識の光景は殆ど覚えていないはず。

 

 でも、何故かしっかりとした感触を体が、唇が覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八意永琳は再びベットに寝転がった。

 瞳を閉じても尚湧き上がる、意味不明で理解不能な興奮と幸福を抑えるために。

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 ――果たして、回顧するうちに私が自我を確立したのは一体何時のことだっただろうか。

  

 

 最も思い出せる古い記憶は遥か彼方――凡そ百年前、まだ私が妖になる以前のことだ。いや、正確にはその時点でもう既に自我を持っていたのだから、自意識に目覚めることのできるような存在だったのだから、妖になっていたのかもしれない。――成っていたいのかもしれない。とても曖昧なことなのだけれども、私自身妖とそれ以外を区別する境界線なんて知らないし、それに私と同類である妖に遭ったことなんて一度もないから判断が付かない。付ける必要もないし。

 私が覚えているのは周り色とりどり多種多様な同朋達が私を囲むように生えていたことである。太陽のような大きな花弁をこちらに向ける花々、空まで届いてしまいそうなほど育ち切った巨木、地べたに這い蹲るように生い茂る雑草たち。そのどれもが私と似通った形をしている同朋で、そのどれもが私とは違う存在だということを当時からはっきりと自覚していた。私はこのどの同胞たちよりも優れた種であるということを理解していた。だけれど、私が最初に覚えた感情は優越感ではなく色鮮やかで華麗な紅い花を咲かせるある同胞への嫉妬だった。血が滴るような真紅の花弁は未だに私の記憶に鮮明に焼き付いていて、劣等を通り越し屈辱すらも抱かせるほどの優雅さだった。だから私はその美しさを羨望した。自分を優美な姿にしたいという欲望、同時にその華美な姿を簒奪してしまいたいという願望があった。

 ――いとも容易く願いは自分の力で成し遂げられた。

 二ヶ月もすれば周りに咲くどの花よりも美麗で悠々とした花を咲かせることができた。花が咲くよりも先に私の周りで咲いていた可憐な花は皆悉く枯れた。

 私が知ったのは私に勝る同朋はいないということ。そして、同朋の命は私の意思で安易に消し去れるということ。

 その時から私は美を求めるような真似は止めた。どうせ私より美しい同朋はいないのだ。同朋でない生物ならば私より美しいのかもしれないが、しかし比較するだけ無駄なことで別に嫉妬も羨望も心に浮かばなかった。

 

 ――以来、数年が経ったある日のこと。

 

 私の前に同類が現れた。

 直立し人と呼ばれる動物の形をとり、薄汚れた着物と様々な種類の植物の匂いを漂わせている妖がそこにいた。

 私はその妖が私と同じ妖であることに瞬時に気が付いたが、その妖は私が同類だということに気が付いた素振りを見せずに私のすぐ前で屈んで花を見つめながらただ一言呟いた。

 

「……綺麗な花だな」

 

 そして、立ち上がると振り返ることなどせずに静かに去って行った。

 

 欲しい。

 

 数年ぶりに私には欲望の感情が湧き上がった。

 

 まずはその妖の姿を真似てみることにした。

 忠実に再現しようと思ったが、あの姿はどうも優雅さに欠けていて、少なくとも私が成りたい姿ではなかった。

 もっと華麗に、優美に、造形美でありながら悠然とした華やかさを求めた。

 体は滑らかに曲線を持たせメリハリを魅せ、顔は整いながらも自然らしく、服はダボダボとしたものではなく身体に沿った上着と花びらのようにふわりとさせて、色は落ち着いた紅とそれに合う白。髪の毛は新緑を思わせる緑。ずっと日差しを浴びているのも辛いからおまけで少し濃い桜色の日傘を作った。

 

 うん、完璧。欲を言えばもっと多くの色を使いたかったけれど、余りに色が多いと派手になりすぎて却って下品になる。

 

 数十年かけて試行錯誤を繰り返し、漸く私は自分の姿に納得し本来の目的を達成しに行くために旅に出ることを決意した。

 

 あの妖が欲しい。

 

 何処にいるのかは分からないけれど、会えないことはないだろうという確信は在った。

 

 ついでに風ならぬ花のうわさで聞く世界各地の植物を見て回ろうと思った。

 

 

 ――それが、だいたい三十年前のこと。

 

 自我をもっても大したことをしなかった私は今こうして広い世界を旅している。

 随分とあちらこちらに寄り道しながらも草木から情報を集めながら巡遊していたら、やっとのことであの妖らしき存在が現れた場所を知ることができた。あとはその痕跡や勘を頼りに追いかけるだけだ。

 

 見つける日もそう遠くはないだろう。

 

 焦ることも無く私は悠然として自らが作った花畑を後にした。

 

 目指す場所はこの花畑に水を送る川の上流。

 

 雨の次の日特有の爽やかな風が吹き抜けていく中を私はゆったりと歩いていく――

 

 

 

 

 

 その場所は花畑からそう遠くはなかった。

 いつもの散歩よりもずっと少ない時間で辿り着いたそこは確かに訪れたことが無い場所ではあったけれども今まで何故自分が訪れなかったのだろうと思うほどの近場。ここまで近いとは思わなかった。

 

 ここまで近場にあって私がまるで気が付くことができないことに最も驚いた。

 

 花畑の側を流れる小川を遡るように沿って歩いていった先の森の中にほんの僅か草木が分け入られて獣道よりもはっきりと形作られた通り道があった。それは何か巨大な生き物が強引に藪も茂もへし折りながら這い蹲ってつくられた跡のようにも見える。いずれにせよ不自然とまではいかないにしても興味というよりある意味での注意が湧いたのでその道を辿ってみることにした。傘が引っかからないように畳んでから奥へ奥へと姿勢を低くして通って少し経つとまるで風穴が穿たれたように草木の生えていない場所に抜けた。がらんどうな空間だけど周りの我が強い木々たちが我先にとばかりに光を求め空間全体を薄暗い影で覆っている。貉でも住んでいそうな陰気な雰囲気が漂っているけれどその手の類の小物妖怪が潜んでいることは如何やらなさそうだった。

 

 初めに目に入ったのはありとあらゆる生物たちだった。熊、狼、鹿、猿、鼬、穴熊、獺、野兎、犬、猫、狐、狸、猪、栗鼠、鼠――そういった大小様々な獣たちから始まり、蛇や蛙や井守、矢守、蜥蜴に山椒魚、中には沢蟹や岩魚などの水辺の生物まで存在する。

 

 所属も住処もてんでバラバラ。そんな動物たちが集う中心には二匹の妖怪が佇んでいる。

 

 一匹は巨大な牡鹿。もう一匹は長大な蟒蛇。

 

 鹿の毛並みは僅かに光を帯びていて、蟒蛇は双頭。

 

 私には遥かに及ばないけれどそこそに力を持っていることが分かる。

 

 しかし、その二匹の妖怪も中心ではない。

 

 これらの生物は皆引き寄せられたにすぎないのだろう。

 

 大きさは然程ではない、木々を組み重ねて作られたそれはかまくらのような形をしている。

 

 問題はその中だ。

 

 その中からこの場にいるどの生き物――私を含め――よりも圧倒的な存在感を発する何かがいる。

 

 存在感の正体は妖力ともいえるし、生命力のようなものともいえる。

 

 いっそ神々しいようにも思えた。

 

 ――そう、この場の雰囲気を喩えるならば信仰だ。人間たちが神を拝むかのようなそれに近い。

 

 圧倒的な何かに縋りつように、祈るように。

 

 ただ、私としてはどこか懐かしさを感じた。威圧とも圧迫とも違う穏やかな雰囲気。

 

 しかし、そこに力強さがなかった。

 

 存在しているだけで圧迫する、近くにいるだけで怖気づく。

 

 でも、まるで死骸のような枯れ果てた巨木のような。

 

 そこで私は周りを見渡してみて気が付く。

 

 なるほど、これは強ち信仰という言葉は間違っていなさそうだ。

 

「……もっと正確に言うのならば、『生け贄』ね」

 

 周りにいる生き物たち、そのどれもが弱弱しい。

 

 年老いている熊、痩せこけた狼、手負いの猪……

 

 どの生き物も死にかけている。

 

 死んでしまってもおかしくない。

 

 吹けば飛ぶようなか細い命。

 

 私はその木でできたかまくらの中をのぞいてみた。

 

 途中で蟒蛇と牡鹿が前を塞いできたので軽く傘で殴り飛ばしておいた。

 

 邪魔をされるのは気に食わない。

 

 かまくらの中は更に暗く、それでいて血と水の匂いがした。

 

「あらあら、これは……死んでいるのかしら?」

 

 そこに置かれていたのは酷い有様の人間の男。

 

 正確に言えば男の姿をした何か別の生き物。

 

 私から見ても致命傷と思われるような怪我を負っている。

 

 けれども、よく見てみると僅かに体が揺れている。

 

 呼吸をしてるのかもしれない。

 

 間違いなくこのままだと死ぬだろう。

 

 だから、

 

「だから貴方たちはここへ集まったのね」

 

 そう、私が呟くと一匹の蟹が横歩きしてきて不意に目の前で立ち止まり、ぐわりと両手の鋏を掲げて、静かに倒れた。

 

 そのまま蟹は動かなくなった。

 

 すると、その蟹の体から小さな白い光の珠がぼうっと浮かび上がり、かまくらの中へと入って男の胸元へと溶け込んでいった。

 

 その蟹が合図だったかのように、今度は近くで兎が倒れ、光の珠を出した。

 

 次は猿、次は蛇、次は狸、次は蜥蜴――

 

 バタバタと倒れては光の珠を浮かび上がらせ、かまくらの中にいる男の下へ集まっていく。

 

 倒れた生き物たちは二度と動くことはなく絶命した。

 

 これは恐らく魂なのだろう。

 

 彼らはきっと消えていく自らの命をこの男のために捧げたかった。

 

 一つ二つでは頼りない小さな灯も百も二百も超えると眩い炎へと変わった。

 

 蛍の淡い光が集まることで強い輝きを放つように。

 

 その光はとてもとても幻想的でひどく儚かった。

 

 気が付けば周りで倒れていないのは私と二匹の妖怪である、蟒蛇と牡鹿のみとなっていた。

 

「貴方たちは魂で無く妖力を与えてやりなさい。そうすれば早く回復するわ」

 

 私がそういうと二匹の妖怪は目を閉じて濁った光を宙に作り出した。

 

 蟒蛇は薄紫、牡鹿は黄緑。

 

 二つの光もまた男の中へと吸い込まれていく。

 

 それを見届けてから蟒蛇と牡鹿は静かに横たわった。

 

 動物たちと違って死んではいない。

 

 目を開けたまま、しかし立ち上がる気力は無いようだ。

 

 私はかまくらの中へと入って、仰向けに倒れている男の下へと近づいた。

 

「ふふふ、よく眠っているわね」

 

 先程までとは違いその男からは心臓の鼓動が聞こえてくる。

 

 完治までは時間がかかるだろうが目を覚ますまではあと一息と言ったところ。

 

 妖力を分けてあげようと思い、そこでちょっとしたことを思いついた。

 

 せっかく見つけたのだし、どうせ私のものになるのだし。

 

 小さく私はクスリと笑みを浮かべ、

 

「いただきます」

 

 彼の唇に静かに口づけた――




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