八月中に投稿すると言って遅くなってしまい申し訳ありません。
なんだかんだで急いで書いたので質が下がっている感が否めません。
後で多大に修正するかもです。
あと九話は長くなるので分割します。
「なるほどね。なるほどなるほど。ふうん、へぇ、そーなのね。わは、わはは――」
『ハハ、ハハハハ、ハハハハハハ、ハハハッハッハッハッ、ハハハハッハッハ、ハッハハハハッハ、ハハッハハッハハ、ハッハハハッハハ、ハハッハハ、ハハハッハハハハッハ、ハハハッハハハハハ!!――』
黒よりも暗い闇を纏う、常闇の妖怪である少女は呑み込まれるような錯覚を覚えさせるほどに妖艶に聞くものすべてを陥れるかのように超然に、大口を開けて喉を震わせ面相を崩しながら豪快に嗤う。
「……喧しいわね。置かれている立場が分かっていないのかしら?――黙りなさい」
すべてを見下すかのごとき嘲笑が癇に障ったのだろう。風見幽香は不機嫌によって顔を顰めながら常闇の妖怪を拘束し続ける茨の蔓の檻をきつく締め上げた。
痛みによって漏らしたくぐもった声を上げて嗤うことを中断し、しかし口の端を歪ませるようなニヤついた皮肉がこもった笑みを浮かべながら、鮮血のように紅い瞳で黒星と幽香のことを見上げる。
宙に浮くように両腕両足を拘束され首を前に突き出されるような形で締め上げられているので、直立している黒星達よりもその目線は自ずと低くなるのだが、その不遜極まりない態度はまるで彼女が優位に立っているかのように思わせるほど高慢なものである。
ごく自然なことだがこれを看過しておけるほど風見幽香は沸点は高くなかった。
幽香がまだ百年と三十年程度しか生きていない若輩者であるということを除いてもその性格から上に立つものを良しとしておけず、また非常に好戦的かつ残虐性が強い面もある彼女は、羽を毟られてもなお囀ることを止めないような小鳥を見逃すような真似はせず、慈悲どころか面倒さすら感じられないほどある意味では無心で、徹底的に心も肉体も磨り潰すように叩きのめす。
「そう、死にたいのね。分かったわ痛みに耐えられず殺してくださいと懇願するまで虐め抜いてから殺してあげるわ」
「殺す?あなたみたいな小娘がわたしを?わは、殺せるものなら殺してみればいいじゃない。四肢を捥いで腸をぶちまいて生肝を抉り取り首を搔っ切って頭を砕いてその中身を啜るのね――わは、とってもおいしそう!!そして気の済むまで刻まれ続けたわたしは痛みも恐怖も記憶も忘れて夜には再び元通りに甦るのね。さっきの夜のことを忘れたの?あなたがどれだけわたしを殺してもわたしは夜が来れば元通りになる。わたしは常に闇と共にある。闇があればいくらでも復活する。死ぬことへの恐怖すらわたしの力の糧になる。あなたの憤りもわたしにとっては食料でしかない」
焼き付ける太陽の如く目を煌々と燃え上がらせる幽香の殺意のみで構成された激烈なる言葉も、むしろ煽り焚き付け噴出された熱量すら呑み込んでしまう程に底知れず不気味さが漂う新月の闇夜のようなつかみどころがなくまた余裕を持った言葉で返されてしまう。
「……まずは騒々しい舌を引っこ抜くことにするわ」
瞳孔の開きかけた目で歩き出そうとした幽香を黒星は自身の手を幽香の前に翳(かざ)し、視線とともに進路を妨害することで僅かに動きを遅らせる。
「少し、落ち着け幽香。口車に釣られてしまうのは君らしくない。それに彼女は殺しても無意味な妖怪だ。いや、妖怪というよりは妖精に近い。生きているというよりは現象として存在しているようなもので、常闇の妖怪というよりは闇の化身と言ったほうがより近いのかもしれない。殺したところで特に何が起きるわけでもなく夜になったら甦るだけだ」
相性が悪すぎると黒星は正直に思った。
分かりやすく性質が真逆なのだ。
自分がやりたいように振る舞う幽香と自分がどうなろうが自由に行動する常闇の妖怪では一見同じように見えるが、全てを捩じ伏せてでも自身の思惑を優先する幽香と誰かの思惑に乗せられようとどこ吹く風で動き回るのが常闇の妖怪である。
幽香が主導権を握っている構図なはずなのにその実挑発に乗せられて踊らされている。
水と油とは相いれないものを表す言葉だがこの場合は火に油であり、しかも油は燃えカスが時間を経過すれば再び油として使えるという性質の悪い油である。もちろん現実にはそのような油など存在しない訳だが。
黒星の言葉を聞くだけの落ち着きはあったのかそれとも幽香自身相手にするだけ無駄だと思い直したのか、いずれにせよ幽香は未熟な青い果実を食べて苦みに顔を顰めるかのような表情で黒星が手で遮る先にいる常闇の妖怪を睨みつけながら踏み出した一歩をそのまま止めた。
幽香の三倍近く生きている常闇の妖怪は確かに幽香のことを小娘と呼んでも何らおかしくはないが、幽香は確かに未熟ではあるが小娘の呼称が相応しくないほどには肉体も精神も成長しているのも事実である。小娘呼ばわりに腹を立てたわけではないだろうがその挑発文句が決して低いわけではない幽香の沸点を超える一因にはなっていたのだろう。
おおもとの原因は身の自由を拘束されているにもかかわらず不遜な態度をとったことである。
小さな原因はその文句の言い方なのだろうと黒星は考えた。
他者の精神を揺さぶり苛立ちを募らせる巧妙な言葉回しに密かに黒星は賞賛を心の中で贈っていたりする。
まあ、内心で幽香の未熟さとそれを手玉に取る常闇の妖怪を冷静に分析しつつどちらに対しても正確な評価を付けているあたり黒星も中々に喰えない奴ともいえるのだが。そのあたりは恐らくこの中で最も齢を食っている黒星の経験勝ちなのだろう。
「……少し軽率だったわ。ごめんなさい黒星。私が連れてきたのに私が取り乱してしまって」
ここで素直に謝れるのは幽香が単に自己中心ではないということの表れだろう。我儘なところや傍若無人なところはあくまでも彼女の一面でしかあらず、礼儀に正しく場を弁える自律性も持ち合わせているほどに理性的でもあるのだ。ただ、一つ付け加えるのならば彼女の生来の天然さが素直という形で表れていることも踏まえておきたい。
「いや、謝るほどのことではない。本来幽香が捕らえたのだからその処遇も君が自由にしていいものだ。部外者が口を出すものでもない。私の打算で止めたというのが本音でもある。少し彼女に質問をしたくてね」
「貴方のそういう気遣いができるところにはとても好感が持てるのだけれど、今のは私の失態よ。私の非を帳消しにするのはありがたいけれど少し余計な気遣いよ」
「別に気遣ったわけではないさ。だが確かに余計なことだったかもしれん。済まない、幽香」
「それこそ別に謝ることではないわ」
「わは、何だコイツラ」
常闇の妖怪はよくわからないものよくわからないといった顔でよくわからずに目の当たりにした。
黒星と幽香のやり取りは傍から見ると少し以上に理解ができないものだった。
ていうか、わたしを拘束している目の前で仲良く会話を繰り広げてんじゃねーよと常闇の妖怪は心の内で呟いた。
「……で、質問って何?わたしから何が聞きたいのかしら?えーと、あれ?……ああ、そういえばあなたと話したことはあったけれど名前はお互い言ってなかったわね。わたしはルーミア、あなたは?」
ルーミアは思い通りに事が進むこと嫌って質問についてのことに触れず茶化してやろうと考えていたが、二人の会話を聞いているのがかなり苦痛だったために珍しく自分から話をふった。
見た目が悍ましい化物を見るより精神的にこたえるところがあったようだ。
有り体に言えばうざかった。
「私は――「風見」ほし……黒星という」
「何とも言えない顔でこちらを見ないでくれるかしら、黒星。私は別に何も間違えたことは言っていないわ」
幽香の横槍というよりは岩石を投げられたかのような唐突な割り込みに気まずいような非難するかのようなしかし責めることでもないようなといった複雑な感情のこもった目線を向けた。
風見黒星。
つい先ほど着いたばかりの風見の姓を黒星は当たり前だが慣れていない。
しかし、幽香は付け忘れることを看過できない程度には重大なことであった。
「こちらは幽香、風見幽香だ」
「ふうん、黒星ね。覚えとくわ。あなたが死ぬぐらいまでは」
ルーミアは基本的に幽香のことをスルーすると決めたようだった。
「それであたしに聞きたいことってなにかしら?答えるかどうかは別として話ぐらいは聞いてあげてもいいけれど」
「『なるほど』と言っていただろう。それが少し疑問に思ってね。何が成程なのか、私と幽香を見てなぜそう思ったのが知りたいんだ」
「ああ、そのこと。別に深い意味はないわ。納得したのよ。なんで五年もの間あれだけ大切にしていたお友達を無視していて、現れるどころか音沙汰もなく何処にいるかもわからず、誰もみていないのかを。新しいお仲間を作って楽しく暮らしていましたとさ。本当に滑稽よね。地ノ底じゃあ賭け事になっていたわよ?あなたが死んだんじゃないかって。あなたが死ぬような奴には思えないからわたしは生きているにかけたけれど。結局死んでるほうに賭けた大多数の妖怪と生きているに賭けた少数の鬼と天邪鬼と天狗の婆とで賭けの期限をいつまでにするかで揉めて大乱闘になったからおじゃんになったのよね」
「……今、五年と言ったか?」
「ええ、わたしは詳しく知らないけれど黒星を妖怪どもの長たちが呼び寄せてから五年ぐらい経ったって。天邪鬼から聞いたわ。その真実は今わたしの目の前にあるわけだけれども」
五年、さらりとルーミアが話したことに黒星は自身の耳を疑った。
しかしどうやらそれは聞き間違えではなく、そしてルーミアが虚言を述べているわけでもないようであった。
「……幽香、確か私を見つけたのがだいたい三月ぐらい前のことだと君は話していた」
「そうね、概ね三か月。黒星が死にかけているところを見つけたのはそれぐらい前のことよ」
白川と朱啼と別れて、永琳と一か月ほど過ごして月夜見と戦い瀕死の状態に陥り、川に流され意識を失った後幽香によって助けられた。
黒星からすればそれほど長い時間が経っているとは思っていなかった。
白川たちと別れてから四ヶ月、精々半年程度だと思っていた。思い込んでいた。
「……幽香、私を見つけたときの様子はどうだった?傷は壊死していたのか?それとも腐ってはいなかったか?いくら何でも五年もあれほどの怪我を負って生きながらえているはずがない。いや、だが、しかし――っ!!あの時の薬か!!確かにあの劇薬を口に含んでいたならば、もしかしたら数年は生きていられるかもしれん。だが、では、辻褄が合わん。いや、違うな辻褄は合う。私は意識を失った状態で五年近く生きながらえたのだ。筋は通っているが、しかし……」
黒星は決して凡愚ではない。
信じられないような現実を突きつけられてもそれを正しく考察し現状を理解してしまう程度にはその頭脳は優れていた。
月夜見との戦いのあと川に流されて意識を失ってから幽香と出会うまでの黒星自身も記憶にない空白の時間。
なんてことはない、話は至極単純である。
黒星は意識を失っていた間に五年近くの時間を過ごしていたに過ぎない。
時を速められたのでもなければ時間軸を跳躍して未来に跳んだわけでもない。
時間が過ぎたことに単に気が付かなっただけである。
そのことに黒星は僅かな質問とそこに含まれた謎、自身の記憶とそれらをつなぎ合わせられるだけの思慮の深さで思い至っただけに過ぎない。
「わは、なんかよくわからないけれど中々に滑稽ね!あなたのそんな狼狽える姿を見れるなんて」
目に見えて動揺し思考を全力で動かして自問自答する黒星の姿はルーミアはもちろん、幽香も初めて見る光景でありその様子を見て幽香自身も思わず驚いた。
「わ、私は五年もの間、友を待たせているというのか!?友が待っていると知っておきながら、私は五年も無為に過ごしてきたのか!?っ、……わ、私は、友を――」
「落ち着きなさい、黒星」
そっと寄り添った幽香の腕が黒星のこと優しく包んだ。
事実を突きつけられ真実に思い至り、友に対しての罪悪感と並行して湧き上がる事故に対する自罰的な怒り。
黒星を絞め殺すかのように纏わりついたそれらの感情を陽だまりのように暖かい幽香の両腕が抱きかかえた。
「落ち着きなさい。大丈夫よ。黒星が過ごしてきた日々は決して無為ではないわ。しっかりと傷を治して回復したんですもの。力を蓄えていたのよ。きっと大丈夫よ、私が断言するわ。――きっと大丈夫」
道理はない。
ただただ幽香は感情を並べたに過ぎない。
たが、その姿は赤子をなだめる母のような慈愛と優しさに満ちていた。
幽香にとって咄嗟的な行動であり具体的な考えや理屈はなかった。
考えるよりも先に体が動いたに過ぎない。
いや、幽香は黒星の家族として動かない訳にはいかなかった。
密着する幽香から黒星にその息遣いと鼓動が優しく響く。
静かで心地の良いその鼓動は黒星の激情をなだめるにはこれ以上ない薬だった。
「…………………………………………………これわたしいる?」
常闇の妖怪の呟きは穏やかな朝の風に呑まれて消えていった。
割とリアルが忙しいので次はいつになるかかなり未定です。
できれば今月中、遅くても来月の頭に次話を書き上げます。
最低限のクオリティを考えるとあまりペースも上げられないのが現状です。
ほんとうに申し訳ないです