東方蟹異譚   作:蟹ノ鋏

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今日、流行っている妖怪ウォッチですが、何でもかんでも妖怪のせいにするのはいただけません。
なんて、作者は妖怪ウォッチなど一度も見たことが無いのですが。
作者は鬼太郎派です。
第四期のアニメ世代ですね。
第五期も見ました。
妖怪と言えばやっぱり恐怖。
そんなお話が書きたいものです。


壱話 妖怪道中

 分け入っても分け入っても深い緑の生い茂る森の奥地に成人少し手前ぐらいの少年が歩いていた。

 喪服で使われる墨染めされたように黒い着物を纏い凛々しくも何処か柔和な雰囲気を醸し出している少年である。

 まだ子供らしさの抜けきっていない顔つきだが、それでも理知的な達観した瞳が光っている。

 

「お~い、そんなに先に行くなよ!!」

 

 凛々しい少年に追いつくような形で十歳ほどの童が現れた。

 頭にしょぼくれた帽子をかぶっており、着物も渋染めのようなみすぼらしい(?)色合いをしている。

 少年と童は頭二つ分ほど身長差があった。 

 

「お前はでかいからただでさえ歩くのが速いんだ。もう少しオイラ達に合わせてくれ。」

「済まない、このあたりの草木についつい目を奪われてしまってな」

「ずっと湖に暮らしていたもんな。気持ちはわからなくもないけれど、別に草木は逃げやしないんだからもっとゆっくり歩いてくれ」

「そうだな、配慮に欠けていた。新しいものなどを見ると抑制が効かなくてな……」

「ま、次からは同行者への気配りをしてくれよな」

「うむ、気を付けよう」

 

 如何やら青年と童は気の置けない友のようで和気藹々と道中を共にしているようだ。

 壮大な旅なのかそれとも散歩程度なのか……いや、このような深い森の奥地に入り込む時点で散歩ではないこと確かだが、とまれこうまれ二人の目的は不明である。

 

「そういえば、朱啼はどうした?」

「――うん?あ!忘れてた。しまった、置いてきちまったかなぁ……」

「……白川も他所のことは言えないな」

「痛いところを突くが、全くだ。どっこいどっこいってとこか?」

「で、どうする探すか?」

「うにゃ、待ってりゃ追いつくだろう。もし迷っていたとしても、アイツは空を飛べるんだから問題ないさ。オイラ達はこの辺で夕飯の食材でもとってんべ」

「朱啼が道に迷うこともないか……。そうだなそうしよう」

 二人は周りの草木を物色し、野草や木の実やキノコそれに虫を採取し始めた。

 慣れた手つきなところを見ると、今までもこうして食材を集めてきたようだ。

 

 と、二人が徐々に食材を集めているところで顔の朱い、雉ほどの大きさの鳥が一羽バサバサと羽音を鳴らして近くに木の枝に着地した。

 

「……あなた方は私を放置して何をしているのですか?」

 

 唐突にその朱い顔の鳥が話し始めた。

 

「お、やっと来たか朱啼。お前を待っている間にオイラと黒星で手分けして今日の夕食を採っていたところさ。」

「待ってって……。私を置いていったのはあなたでしょうに」

「それについては悪かったよ。この通り、謝罪の限りだんべ」

 童は深々と頭を下げた。

「……全く、次からは気を付けてくださいよ」

「んだな」

「それで黒星は何処に?」

「あっちの方に小川があったから魚取りに行ってる。もうじきくんじゃねーか?」

「そうですか、では私は薪でも集めておきましょう」

「そうしてもらえると助かるべ」

 

 しばらくすると、十匹近くの魚を五匹ずつ紐に通して両手にぶら提げた青年が戻ってきた。

 

「待たせたな。――朱啼も来ていたか」

「来ていたかじゃないでしょうに。元はと言えばあなたが勝手にどこかへ行ってしまったからでしょう」

「それについては済まない。この通りだ」

 青年は童と同じように頭を下げた。

「はあ、黒星と白川は同じように軽々しく頭を下げるのですね」

「悪いと思っているから頭を下げているのさ。別に常にべこべこしているわけではない。」

「んだんだ。とはいっても、頭を下げるのはお前ら二人だけだがな」

「白川、あなた前に出会った森の主に頭下げまくっていたじゃない」

「あれは、特別だ。命の危機の前に矜持も誇りもねぇ」

「あなたの頭は軽いわね。恥ずかしくないのかしら?」

「殺されるよりはましだべ」

「……まあ、一理はあるわね」

 

 お分かりだと思うが、この三体は全員が全員妖である。

 まず理知的な風貌の青年は黒星が変化の術で化けている。

 百年前までは殆ど妖力を扱えなかった黒星だったが、今ではこのような術を簡単に使えるようになっていた。

 どうやらもともと素質はあったようだ。

 

 残りの二体はどちらも黒星の友である。

 付き合いが長く二体とは百年以上は一緒にいる。

 出会ったのは黒星がもともと住処にしていたあの湖で、黒星と反りが合い今に至る。

 

 童の方はかわうその妖である。名を白川おべべ。

 変化の術で童の姿をしているが、元の姿は毛むくじゃらの丁度変化している童ほどの体格のカワウソである。

 黒星が住んでいた湖から流れる小川の付近に巣穴を持っていて、川を遡って湖に訪れた際に偶然黒星と出会い、それ以来友としてつるんでいる。

 明るく、明日の風は明日吹くといったような能天気な性格からか、黒星とも対立せずに直ぐに仲良くなっていった。水辺にすむ妖同士気が合うのかもしれない。少なくとも黒星にとっては初めて出会った大切な妖の友だ。

 黒星に妖としての生き方や変化の術を教え、また今回の旅に誘ったのも白川である。

 

 朱い顔の鳥は妖おんもらきである。名を朱啼鳳火。性別は雌。

 彼女は変化の術を使えないため元の姿である朱い頭の鳥の姿で旅に同行している。

 遠い地方から飛んできた彼女は羽休めのために湖に降り立ったところ、黒星と白川に出会い、多少の対立はあったものの今では気が置けない仲になっていた。

 生真面目でしっかり者の彼女は少々気性が激しいところがあるが、基本的に自由奔放な黒星と白川を上手くまとめている。それ故に、振り回されて一番苦労をしているのも彼女である。

 鳥の妖である彼女は旅の道中ではよくよく空から次の目的地までの方角を確認したりしている。

 

 三者三様種族、見た目共に異なるのだが、まるで家族の様に親しく彼らは旅を続けていた。

 

「朱啼、火を頼めるか?」

 訛りが混じる白川は集めた薪に火をつけてもらうよう朱啼に頼む。

「ええ、任せなさい」

 心得たとばかりに朱啼は薪の近くに降り立つと、嘴を欠伸をしているかのように大きく開き、炎を吐き出した。

 その炎はいとも容易く薪に着火し、すぐさま燃え広がる。

 

 おんもらきである彼女はその特性から炎を吐くことができる。

 それも自然の炎とは違い多少の風では吹き消されることもなく、どれだけ気温が低かろうと直ぐに燃え広がる。

 言ってしまえば妖術の類であり、彼女は白川や黒星よりもその才能は高い。

 

「流石だな」

「んだな。いつ見ても綺麗だべ」

「当然よ。私の炎ですもの」

 

 二体の賛辞に彼女は得意げに胸を張る。

 その様子を片目に見つつ、白川は慣れた手つきで黒星がとってきた魚を適当な小枝に突き刺し、燃える薪の側へ並べていく。

 黒星は黒星で適当な石とすり鉢のような形をしたお椀を使って、堅い木の実を砕いたり、川から汲んできた水を使って野草の泥を落としたりしている。

 変化の術を使えずに鳥の姿である朱啼は手が使えないために手伝うこともできず、ただただ二人の様子を眺めているだけである。

 彼女はそっと張った胸を元に戻した。

 彼らはそこそこ良いトリオなのかもしれない。

 

 

 調理を終えたときには日は山の向こうに沈み辺りは暗闇に包まれた。

 朱啼の灯した火が辺りぼんやりと照らしているのみである。

 

「うん、そろそろ頃合いだ。食うべ」

「やっとね。もう完全に日が沈んでしまったわ」

「まあ、夕食なのだし問題はないだろう。まだまだ、薪も残っている。じっくり食べよう」

 

 程よく焼けた川魚と茹でた野草に木の実汁の三品を三体は仲良く分け合って食べていく。

 

「それにしても黒星は魚を捕るのがうめぇな。オイラよりもずっと多く捕ってくる」

 

 食事の最中に白川がそんな話題を黒星に振った。

 

「水の中は陸よりもずっと動きやすいからな。魚なんかよりも速く動ける。故に捕るのは容易い」

 

「オイラも水ん中は心地よくて好きだが、あのすばしっこい魚を捕るのは一苦労だべ」

 白川は感心したように黒星の方を見る。

 

「私に至っては水辺なんて大嫌いよ。だって羽が濡れて重くなるもの」

朱啼は悪態を吐いた。

 

「雨の日はどうすんだ?濡れちまうべ」

そんな朱啼に白川は疑問を呈す。

 

「雨の日は大きな木の陰でひっそりと過ごすものよ」

 

「不便だな。私や白川にとっては絶好の日和だというのに」

 

「妖の種族的問題よ。水辺に住む妖と私のような鳥妖は全く違うのよ」

 

「オイラだって土砂降りの日は巣穴でじっとしてるべ」

 

「そうなのか?」

 

「お前と一緒くたにすんな。土砂降りの日は川の流れが強すぎるから泳ぐには向いてないんだべ」

 

「私からすれば土砂降りの雨の音が反響して楽しいのだが……」

 

「……流れに流されない黒星だけの特権よ」

 

 呆れたように溜め息を吐きながら朱啼は言った。

 そんなこんなで会話を交えつつ、食事は進んでいく。

 とうとう十匹以上あった魚は残り四匹となった。

 

「残り四尾か。どう、別ける?」

 黒星が残り二人に問う。

「オイラと朱啼が一つずつ。後の二尾は捕ってきた黒星が食べるべ」

「そうね、それがいいわ。」

 こういったとき、他の妖怪ならば取り合いの喧嘩が始まるものなのだが、この三体は仲が良い。

 まず取り合いの喧嘩をしないものだ。

「そうか、ではありがたく頂くとしよう」

 

 と、そんなときである。

 ゆらりと薪の火が揺れた。

 

「む」 

「何だあ!?」

 

 木々の隙間を縫って吹き抜けた風は、急に突風となり、薪で燃えていた火を吹き消した。

 当然、辺りは暗闇に包まれ、いくら夜目が効く妖であっても急に明かりを消されてしまうと目がついていけない。特に鳥目である朱啼は全く見えないようで驚きふためいている。

 

 慌てふためく中、一つの黒い影が暗闇に紛れて三体の方に駆けてくる。

 

「何者だ!」

 視界に捉えた黒星は白川と朱啼を庇うように影との間に割って入る。

 

 しかし、影は黒星の隣りを素通りしてさっさと行ってしまった。

 

「……今のは一体?」

「とりあえず明かりをつけるべ。朱啼頼む」

「分かったわ。それにしても、私の炎を消したということは恐らく妖の仕業ということね」

 

 朱啼の吐く炎は自然の風では消えない。

 しかし、妖術によって起こされた風では吹き消されてしまう。

 朱啼も燃え移った火を消すときには妖術を使って風を起こしていたりする。

 ただし、他者が別の者の妖術を掻き消すにはそれなりに妖力を籠めなければならない。

 もっとも今回はそこまで強い火ではなかったので、大して強くなくとも消せたのだが。

 

「本当に何がしたかったのかしら?」

 

 と、不思議に思いつつ朱啼は再び炎を吐いた。

 薪に燃え移り辺りをぼんやりと照らしたところで、何が起きたのか一同はようやく理解した。

 

 残っていた焼き魚が全て無くなっていたのだ。

 

「これは……見事な手際だな」

 黒星は関心したように呟いた。

 

 明かりを消された時の混乱に乗じて盗まれたのである。

 

「だから、何もせずに素通りしていったのか。なるほど、なるほど」

 

「何勝手に納得してるのよ!盗まれたのよ、夕食を!!」

「んだ!全部盗んでいったべ!」

 

 落ち着ている黒星と対照的に朱啼と白川は憤慨していた。

 

「取り返しに行きましょう!」

「別によいだろう?もう、沢山魚は食べたわけだし」

「いんや、飯を盗まれるということは食べるという生きるための行為を邪魔されたのと同じだべ!許せないべ!!オイラ達を殺そうとしているのと同義だべ!!」

「……そこまで壮大なことか?」

「許せるわけないでしょう!私の誇りがボロボロだわ!」

「ちゃんと調理した焼き魚を取られたのは流石に我慢ならないべ!徹底抗戦だべ!食い物の恨みは怖いべ!!」

「ふむ、分かった。そこまで言うのならば取り返しに行こう」

「仕返ししましょう!!」

「お仕置きだべ!!」

 

 そんなわけで、闇夜に妖が三体。

 食い物の争奪戦へ参加することとなる。

 

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 深い森の中を流れるとある小川の岸辺に妖が一匹程よい大きさの岩を腰かけにして座っていた。その付近には串刺しになっている焼き魚が四尾。走ってきたのだろうか、妖の息は荒く額に汗をかいていた。

 その妖の姿は全身が毛で覆われており、まるで猿のようなである。

 この妖は猩々という。

 大猿によく似た妖である。

 

「――はあ、はあ。ここまでくれば追手はくるまい。流石にあの三匹を相手取るのはこの俺でも無謀が過ぎるからな。全く、最近は本当に酷いものだ。この森の賢者である俺ですら得物を横取りされるし、他の妖共は皆々この森から離れっちまうし。くそ!!あの人間どもめ!!今度会ったらただじゃおかねぇ!!罠に嵌めて嬲り殺してくれる!!」

 猩々は大声で怒声を夜空に向かって吐き出す。

 

「――舐められたものね」

 

 その猩々に向かって何処からともなく声が響く。

 

「……だ、誰だ!!」

 

 驚いて辺りを見渡すと、

 

 ――ふらり、と猩々の目の前に無数の火球が出現した。

 猩々の周りを囲み、逃げ場を消す。

 

「こんな静かな夜に大声を出すとは態々襲ってくれと言っているようなものじゃない」

 

 闇夜の空に一匹の鳥が空を舞っていた。

 六尺ばかりもある様な巨大な翼を広げ、周りにはその鳥に従うように操られた火球が宙に浮いている。

 

「焼き殺しなさい」

 

 そういって、鳥が翼をはためかせる。それだけの動作で猩々の周りを囲んでいた火球は一斉に猩々へと向かって飛んでいく。

 

「じょ、冗談じゃねぇ!!」

 

 猩々は焼かれてしまってはたまらないので、慌てて小川に飛び込んだ。

 もともと、猩々は猿に近いためあまり泳ぐのは得意ではないが、それでも深さが腰程度のこの小川ぐらいでは溺れない。

 

「流石に、川の中で火は焚けまい!」

「そうね、流石に無理よ。だから任せるわ、おべべ!!」

 

 ――そう、高をくくっていた猩々の首根っこを何者かが掴む。

 

「お前はオイラ達を怒らせた。他所の食い物を盗むなんて許しておけないべ!!」

 

 毛むくじゃらの手が猩々の首根っこを掴んだまま川へと引きずり倒す。

 

「あば、あばばばばばばばば……」

 

 訳も分からぬまま猩々は川底に押し付けられ、溺れされられる。

 

「苦しいべ?川にすら潜れないお前じゃあの魚たちは捕れない。だから特別に素潜りの特訓をさせてやるべ」

 

 無我夢中で空気を求めてもがき続けた猩々はやっとのことで力強く掴まれていた首根っこの拘束を解き、正しく必死の思いで水面に顔を出した。

 

「――ぶはっ!手前ら何しやがんだ!!こんなことしてただじゃ済まねぇぞ!!」

「後は任せるべ、蟹の妖」

 

 怒りに任せて大声を出している猩々の体がふわりと浮かび上がる。

 

「ぐ、がはっ!!」

 

 それもそのはずである。

 三メートル近い大柄な猩々の体躯は喉元を巨大な鋏によって挟まれて宙に掲げられている。

 猩々が苦しみながらも下を向くと、そこには体躯が五メートル近くある巨大な蟹――いや、蟹の妖が立派な左の鋏を使い自身の体を水面から一メートル近く浮かせているのが見える。

 

「ふむ、訳も分からないままでは意味がないのでな一応これから起こることを告げておこう。お前はこの先にある滝の先から落とされることとなる。何、落差はほとんどない。精々全身が解体されるだけだ。運が良ければ死ぬこともあるまい。それに、その滝の滝壺には何体か肉をくらう魚の妖が住んでいるから、死んだとしてもしっかりと処理されるであろう」

 

 蟹の妖は淡々と、容赦なく言い放った。

 

「ま、待って……くれ。あやま……る、謝る……がら、ゆる……じで」

 

 息も絶え絶えに、猩々は言う。

 その言葉を聞いて、蟹の妖は優しそうな口調で

「そうか」

 と一言言って、

 

「もう遅い」

 

 猩々を滝の上から放した。

 

「うぎゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

 

 ボチャーン、と派手な音と断末魔のような叫び声をあげて猩々は滝壺に落ちていった。

 

 

 

「まあ、嘘だがな。この森にそんな巨大な滝や魚がいるわけがあるまい」

「お仕置き成功ね」

「んだ」

 

 三体の妖怪は近くにあった焼き魚を拾い、静かに食べていく。

 

 

 その晩は月は夜空に昇ることはない、新月の夜だった。

 

 

 

 




怖いですね~
食べ物の恨みは、自給自足の妖たちにとっては特に強いものです。

さて、次回は恐らく人間を出していきます。

東方キャラですか?
出てきますよ、多分。
まあ、妖怪かどうかは分かりませんが。

2015/06/17(水)誤字脱字修正
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