キャラ崩壊などがありましたらすみません。
子供が生まれて1年が過ぎた。
アクアとルビーは可愛く成長してきて、仕事のアイドル業も順調に世間に広まってきて仕事も増えてきている。
そんな充実したはずの日々の中で心に隙間ができた様にとある人を思い出す。それはファンの事でもアクアとルビーのお父さんの事でもない。
私がまだアイドルを始める前に中学校で出会った先輩。
よく中学校の図書室にいて、施設に帰りたくなくて私もよくそこにいた。無愛想で返事も適当で顔も特別良かった訳ではないけど、その人と過ごした空間が居心地が良くて好きだった。
「元気にしてるかなー先輩」
名前も知らないし、顔も思い出せないけれど、腐った目とアホ毛が特徴の先輩との日々は思い出せる。
図書室に来るといつも思い出す事がある。
俺にとっての黒歴史塗れの中学時代で唯一まともに思い出せる後輩。
別に会いたいとか好きだったとかそういうわけではない。ただ図書室にくるとどうしても思い出してしまう。
夕陽差し込む図書室で本も読まず座っていた目を惹きつける後輩のことを思い出してしまう。
正直居心地は奉仕部と比べたら全く良くなかったが、それでも記憶の中には確かに刻み付けられているのだ。
あの後輩は元気にしているのだろうか。
俺はふと昔のことを思い出していた。
中学に入学してから2年が経ち三年生になった。
最初はブカブカだった制服も丁度良く、なんなら小さくなってきた。
俺は自分の意思で図書委員に立候補した。(他の奴らに無理やりだとか同調圧力に屈したとかではない。断じて)
図書委員の主な仕事は週3で放課後に図書室を明け、司書役として貸出返却の手続きをするだけだ。
そこも俺に任され、最初は他に数名いた生徒も居なくなり、気が付けば俺1人になっていた。
放課後の図書室開放とか知る人ぞ知るものに来る人間は少なく、常に閑古鳥が鳴いていた。
そんな、所に1人の少女が来た。
学年は俺の2つ下の中学1年。
図書室が開放される時には必ず来るが、本を読まず借りもしないでただずっと窓の外を覗き込んでいる。
そんな地味だが目を引いてしまう少女だけが来ていた。
そんな、原石の様な少女とーーー
「ねえ、センパーイ。構ってよー」
気が付けば話す様になっていた。
「何だようるせーな」
「暇ー、暇ー」
少女、星野は定位置の席でグダーんと溶けながら足をバタバタさせている。
「そんなに暇ならなんか適当な本でも読めよ。てか、帰れよ」
星野は夕焼けに染められた窓の先を見る。
茜色の空は全てを飲み込むようにそこにいた。
星野はそれから特別口を開くことはなく、俺は止まっていた本を再び読み始めた。
たった放課後の少しの時間を同じ場所で共有するだけの、知り合いとも言えない顔見知り程度の関係性だった。
「ごめんなさい。電話してくるわ」
彼女は掛かってきた通話に出て少し離れていく。
俺は繁華街特有の乱雑している歩道から一歩離れる。
『本日の新曲はB小町さんで―――』
壁にもたれ掛かりながら彼女の帰りを待っていると、向かいのビルにあるテレビから最近流行りのアイドルのMVが流れてきた。元気で明るい曲調の歌を高校生くらいの少女たちが歌っている。可愛いアイドルグループの中でも異彩を放つほど可愛いセンターがいた。その顔には幼さは
余り感じられなかったが、懐かしさは確かに感じ取れた。
「お待たせしてごめんなさい」
MVを見ていると電話が終わったのか彼女が近づいてくる。
「おう」
俺は手を伸ばすと彼女の小さな手を掴む。
特に予定を決めていない俺たちはこれから何をしようかなどと、話しながら乱雑な繁華街を歩いていく。
それを見たのはたまたまだった。
繁華街の長い信号を車の中で待っている時にふと目に映った。
幼さが抜けきり青年になっている、何処か見覚えがある思い出せない男性が女性と手をつないで歩いていた。
男性を見て何か特別思ったわけではない。未だにアホ毛があるなとか、目が腐っているなーとか、隣の女性綺麗で可愛いけど私の方が可愛いとかそのくらいだ。
「どうかしたの?」
服を引っ張られ下を向く。そこには可愛い二人の我が子が覗き込むように見てきていた。
「ううん、どうもしないよ!今日のドラマの撮影頑張ろうねー」
二人に抱き着いていると、止まっていた車はいつも間にか動いていて、繁華街から抜け出していた。
「アイドル?」
「そうアイドル!すごいでしょー」
いつも通り放課後に図書室を開けていると星野もいつもの定位置に座った。
「この前土日にさ街を歩いていたら芸能事務所の社長?にさスカウトされたんだー」
「なんでそこがはてななんだよ。誰にスカウトされかが一番大事だろ」
星野はハハハーと笑って流しているが本当に大丈夫なのだろうか。
「その人はさこんな私でも良いって言ってくれたんだ。だから私もやってみようかなって」
「……ならいいんじゃねえの。お前の事を周りに自慢できるくらいになってくれよ」
「えー、こういう時普通はさ、一番最初のファンになるとかさ、初ライブ絶対行くから!とかじゃないのー。それに先輩に周りの人とかいないじゃん」
「受験生なめるな。そんな時間あるわけないだろ」
それに周りの人くらいいるから。例えば小町とか、あとはかまくらとか。他は思いつかないな。
「それだからさ……これから放課後にレッスンが入るから、あんまり放課後ここにこれなくなるんだ」
「……ああそうか」
打って変わって暗い、何処か寂しそうな雰囲気を醸し出した星野には何も言えなかった。
それを見つけたのは引っ越し作業中だった。
アイドル業も順調に進み始めて、ドラマにバラエティーと多岐に渡って仕事が増え始めてきた。
子供たちも幼稚園に入園して、収入も沢山増えてきた。今のアパートよりももっといい所に住めるから言うことで引っ越すことになり、一枚の写真をみつけた。
「うわー、懐かしい」
まだ駆け出しも駆け出しだったころに、初ライブに来てくれた先輩とファミレスで撮った写真。嫌そうにしている先輩に近づいて無理矢理撮ったのが懐かしい。
写真が隅に置いてあったことで沢山の折れ目が付いてしまっている。
「やっぱりこの頃の私も可愛いな」
折れ目が付いて見えにくくなってはいるけど私の可愛さは健在だし、先輩の腐った目もちゃんとプリントされている。
私は写真に着いた折り目を伸ばして机の中にしまった。
高校の時から付き合っていた彼女と別れた。
だからというわけではないけれど取り合えず荷物の整理を始めた。
そんな時に見つけた一枚の写真。
当時が中学生という事もあって恥ずかしかったのか押入れの奥にしまってあった一枚の写真。
初ライブだと言われて無理矢理に連れて行かれその後晩御飯で行ったファミレス。そこで取られた写真。
『来年B小町がついにドームでのライブを決定!概要は―――』
ここ最近のテレビからはB小町のセンターのアイの事を聞かない日はないというくらい人気になっている。
「ドームでのライブか。初ライブを考えると想像もつかないな」
俺は写真を引き出しにしまい整理を再び始めた。
「センパーイ、お待たせ―」
10月の冷えこみ始めた夜に駅前で一人待っていると息を荒げて走ってきた。
「ああ待った待った。すごく待ったー」
「そこはさー、全然待ってないよーとかいうところじゃないの?」
「いやだって普通に待ったし」
「はいはい先輩に期待した私がバカでした。ほらいこー!」
星野に引っ張られるように駅チカのショッピングモールに入りファミレスに向かう。
「普通はさー、もっといい所じゃないの?」
「お前ばかにするなよ安い美味い早いが最強だろ。それに中学生なんてファミレスで十分だろ」
エスカレーターを上りファミレスに着くと席が空いていたらしく、待たずに入ることが出来た。
席に座りそれぞれ注文を終えると星野が口を開いた。
「それでさー、初ライブどうだった?」
「受験勉強の合間のいい暇つぶしにはなったよ」
「良かったなら良かったっていってよー。次も来てくれる?」
「まあまたお前がチケットくれるのなら行くわ」
「捻くれてるなー。そこは素直に行くでいいじゃん」
正直良し悪しで判断するのなら悪かっただろう。歌もダンスも頑張って練習をしているのは分かったが、どうしてもお遊戯に毛が生えた程度だ。客も20を超えられているかいないかだった。
でもそんな中でも星野は輝いていた。初ライブながら来てくれた人の事は絶対魅了出来ただろう。
「お待たせしました。こちら―――」
店員が注文した料理を受け取り食べようとすると、向かいに座っていた星野が横の席に来た。
「な、なんだよ急に」
「いいからいいから」
星野は俺に身体を寄せ付けて携帯のカメラをこちらに向ける。
「ちょっなに、写真嫌なんだけど。料理食べよ、ね?」
「いいからいいから。ハイチーズ」
無理矢理身体を引っ張って画角に入れられて写真を取られてしまった。
そしてそれ以来俺と星野が会うことは二度となかった。
卒業式と聞くと一番印象的なのはやはり高校の時の卒業式だ。
だけど、中学の卒業式も黒歴史的な意味で印象的だ。
高校生の時の俺が見れば若かったというのだろう。
話を大きく見せているが結局は自分が勝手に期待して、勝手に裏切られた気になっているだけの事だ。ただそれだけの事なのだ。
星野の初ライブが終わってから俺は星野と会うことはなかった。
俺は受験の追い込み期間に入り放課後に図書室に行くのが難しくなった。
星野も多分レッスンなどが忙しいのか初ライブ以降図書室に来ることはなかった。
学年ごとに教室の階層がそもそも違うから校舎内で会うことはなく、気が付けば卒業式を迎えていた。
高校受験は無事合格していたから、何一つ問題がなく卒業証書を受け取った。受け取った後は帰宅だが、大抵は校門前に固まって各々が後輩との別れの挨拶をしている。
本来なら俺はすぐに下校するのだが、もしかしたらと希望を抱いて待っていた。
校門の前では様々な生徒が集まり別れを告げている。そして、別れを終えると一人また一人と帰っていく。
気が付けば卒業生は皆いなくなり、在校生も帰路に着き始めている。
「そろそろ校門しめますよ」
教師の言葉で校舎を見てみると、恐ろしいほど静かになっていて誰もいなくなっていた。
俺は帰ります、と言い帰路に着いた。
そして俺が星野と会うことは無くなった。
3月になると思い出すことが一つある。
高校は行ってないし、小学校中学校とろくに学校へは行っていないかったけど、一つだけ心残りに近いものがある。
それは中一の頃の先輩の卒業式。
初ライブが終わった後、レッスンが忙しくなり始めた。それに引っ張られるように学校も休みがちなり、学校に登校した日に図書室に行ってもそこに先輩はいなかった。
気が付けば三月の卒業式の日になっていたが、その日の午前中には大事な仕事が入っていて、それが終わって学校に迎えたのが正午すぎだった。
二回目のライブのチケットを握りしめて何とか向かった。
「忘れものですか?校門はもう締まりましたよ」
学校にたどり着くと校門を閉めようとしていた教師が立っている。その後ろに佇む校舎暗くて人がいる気配がしなかった。
私は帰ります、と言いくしゃくしゃのチケットを持って帰路に着いた。
そして私が先輩と会うことは無くなった。
そして私はチャイムの音と共に玄関の扉を開けた。
「今日は手伝ってくれてありがとうね」
「いえ、このくらいでしたら」
俺は大学を卒業し大手出版社の編集部に入社した。
今はまだ雑用がメインで今回も手伝いで、大物作家の自宅まで訪問して打ち合わせに同行させていただいた。
「いやー、本当に助かるよ。先生の所に届くファンレターの数は尋常じゃないからね。一人では持てないんだよね」
先輩はハハハと笑いながら高層マンションの廊下を慣れたように歩く。
すると目の前から一人の男が歩いてきた。
黒いフードで目元を隠して顔はよく見ない。
手元には白花束が握られていて、男の恰好とのアンバラスを強調していた。
そして、すれ違った時聞き取れなかったが、ぶつぶつと言っていた。
俺は目が離せなかった。
男はすぐにとある部屋のチャイムを鳴らした。
一瞬見えた光ったモノが見えた瞬間、俺の身体が動いた。
その反射神経は何処か懐かしくて犬を守った時と同じ感覚があった。
男に飛びついた時に視界の端に少女が見えた。見てすぐに綺麗だと、可愛いと、懐かしいがあった。
腹からはジンジンとした痛みが広がり、視界はぼやけ、周りの音がよくわからない。
あやふやな中でも、唯一分かることがあるとしたら久しぶりに会ったという事だけだった。
目を覚ますとそこは病院のベッドの上だった。 俺はどうやら刺されて入院させられたらしい。
手術をしてくれた先生や看護師さんによると結構危ない状況で、処置が遅れていたら間に合わなかったらしい。
まずお見舞いに来てくれたのは助けた女性の所属事務所の社長だった。
金髪にサングラスの黒スーツという絶対違う事務所の社長だろと思ってしまったが、見た目と反して誠実に対応をしてくれた。社長さんから見舞い品を貰い事務的な話をして終わった。
次に来たのは俺が働いている編集部の編集長と、一緒に高層マンションへ行った先輩だった。編集長からも見舞い品を貰い、次の出社日などの事務的な話をして終わった。
最後に来たのは家族で両親には軽く笑われて褒められた。小町に見舞い品を全部持って帰られその日は終わった。
それからは特別誰かが見舞いに来るわけではなく、俺は両親に持ってきてもらった本とテレビを見ていた。
入院してすぐの時はテレビから流れてくるのはアイドルのライブと、そのアイドルのストーカーが殺傷事件を起こしたという事で持ちきりだったが、一週間もするとテレビからは消えていた。
気が付けば三週間が過ぎて退院する日になった。最初こそは手術後というのもあり腹に痛みがあったが、二週間も経てば痛みなどは無くなっていた。
「お世話になりましたー」
先生や看護師にお辞儀をして病院から出る。
病院の前にあるロータリーを歩いていると一人の女性がバス停のベンチに座っていた。
帽子を被りサングラスをして顔を隠しているが、すらりと伸びるモデル体型の手足が、絹のように美しい長髪が彼女の美しさと可愛さを隠せていなかった。
女性は俺に気が付くとベンチから立ち上がりこちらに近づいてくる。
「結局お前、お見舞いに来ることなかったな」
「いやー、社長から近づくなって言われててさー」
久しぶりに見る彼女は中学の時と変わらず、その時以上の魔力とも言える魅力を目の当たりにする。目立たない為の帽子もサングラスも着飾る物になっている。
当時はまだ原石だったが今ではダイヤモンドだ。
「久しぶりだな星野」
「うん、久しぶりだね先輩」
こうして俺と星野は再会を果たした。
読んでいただきありがとうございました。
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