先輩と後輩   作:こーーーーーー

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書きたくなって書いた蛇足です。


その甘さはずっと残り続ける

 1LDKの部屋の中で俺はノートpcと向き合いながら、目の前のデスクで頭を捻っている男に視線を向ける。男は机の上のpcに向かって文字を打っては消してを繰り返している。

 

「あーーーー!」

 

 俺は立ち上がり男の後ろからpcを覗き込む。pcには沢山の文字が書かれているが、2時間前に見た時から対して進んでいない。

 

「あーーーーー!!!!!」

「お前な、締め切り来週だぞ・・・・・・」

「あああああああ!」

 

 男は椅子から倒れ床の上で奇声を上げながら転がっている。

 

「ほら、材木座起きろー。起きてさっさと書けー」

「八幡よおぬしに優しさは無いのか。このバカ!ボケナス!八幡!編集者!」

「最後の2つは悪口じゃなくただの事実なんだよなー」

 

 俺は床で伏している男、材木座の編集になって半年程が経過した。

 編集部に入り、初めて任せられた作家がデビュー一年目の材木座こと、剣豪将軍義輝先生だった。

 

「とりあえず明日もまた来るから。それまでに書き進めとけよ」

「えっ、明日も来るの⁉︎」

「当たり前だろ。締め切り間近まで書かなかったお前が悪い。明日もまた監視しに来るからなー」

 

 pcなどを鞄に詰めて立ち上がり、今だに床で呻いている材木座を一瞥する。

 

「それじゃあ、剣豪将軍義輝先生一週間で書かないと独房行きだからなー」

「ちょっと!待ってーー!見捨てないでよー!助けてハチマーン!」

 

 俺は後ろから聞こえる声を無視して部屋から出て行く。

 スマホを開くと時刻は午後7時。会社にはもともと直帰と言ってあるので行く必要は無い。

 駅に向かって歩いていると携帯が音を立てた。

 

「もしもし?」

 

 電話からは小さな男の子の声が聞こえてきて、うっすらと奥から女の子のはしゃぎ声も聞こえてきた。

 

「悪いな。今から電車乗るからあと30分くらいで着くから」

 

 俺はそういうと電話を切り駅の改札を抜ける。

 ホームに着くとちょうど乗りたい電車がついた。

 帰宅ラッシュの満員電車を約20分ほど乗り続けると目的の駅に着いた。

 俺は改札を出てそのまま駅ナカのスーパーに入る。カゴを取り決まっている夕飯の材料を入れてそのままレジに行って会計をする。

 スーパーで買うものなんて決まったものだけだ。多分コレが競技になったら勝てる自信しかない。

 レジ袋を持ち出口に向かおうとするとショートケーキのワゴン販売が行われていた。

 

「ショートケーキを4つください」

「すみません。残りはあと3つしかありません」

 

 そう言われてショーケースの中を見てみると確かに3つだけだった。

 

「なら3つください」

「ありがとうございます」

 

 ショートケーキも買い両手に荷物を持ちながら駅から歩く事5分。タワマンとのエントランスに入っていく。

 エントランスを抜け部屋番号を入力する。

 

「もしもし、おまたせ」

 

 壁にあるカメラを見ながら言うがあちらからの返事が返ってくることはなかったが、その代わりに自動ドアが開いた。

 マンションの中はホテルかと見間違う様な廊下歩いていき、これまた高級感ただようエレベーターに入る。行きたい高層階のボタン押していつもの長いエレベーターにのる。

 ピコンの音と共に廊下を進んでいき目的の部屋に辿り着いく。

 チャイムを鳴らすとドタドタ足音が玄関から聞こえてくる。

 

「やっときたー!おそーい!」

「悪いな。ほらケーキ買ってきてやったから」

「やったー!」

 

 玄関から活発な声と共に元気な少女、ルビーが出てきた。

 

「もー始まっちゃうよー。ほら早く早く」

「始まるって8時からなんだからまだ30分ほどあるだろ」

 

 ルビーに引っ張られるように家の中に入り、リビングに向かう。

 リビングにはソファの上で本を読んでいるアクアがいた。

 

「お邪魔しまーす」

「うん、いらっしゃーい」

「ねえねえ、今日は何作るの何作るの?」

 

 リビングを抜けてキッチンに行くとルビーが晩御飯の献立を聞いてきた。

 俺は袋から買ってきた食材を取り出していく。

 

「今日はなんとカレーだな」

「えーまたー。いつもカレーじゃーん」

「いいだろカレー。いいかアクア、男はカレー作れればなんとかなるんだからな。中学とかの家庭科や林間学習ではこれでモテモテだぞー。林君とかめちゃくちゃキャーキャー言われてたぞ」

 

 まあ、林君がキャーキャー言われてたのはその時だけだったけど。でもあいつ林間学習の時俺をみて鼻で笑ったの忘れてないからな。

 

「いや、八幡はカレー以外作れないだけでしょ」

 

 こいつ、俺だって色々作れるし。例えばシチューとか炒め物とか目玉焼きとか。

 食材を切りながら目の前のリビングにいる2人を見る。ルビーはテレビを見て、アクアは本を読んでいる。

 

「何でもいいから先に風呂に入ってこい。始まるぞ」

 

 最初の頃はあの事件もあってアクアとルビーは俺の事を警戒していたが、一年も経てばそれなりに俺に心を開いてくれたのだろう。いや、コイツらなんか大人びているからもしかしたらそんな事ないのかもしれない。

 俺は切った食材をドボドボと入れながら一年前を思い出す。

 

 

 

 

 退院すると病院の前で星野と出会った。

 会うや否や星野は「会わせたい人がいるの」と言いタクシーに乗せてきた。

 タクシーに乗ってる間星野は「ついてからのお楽しみー」とか「ないしょー」などと言ってきてとりつく島もない。

 仕方がないから揺られる事数十分。ウトウトと眠くなりそうになっているとタクシーはタワマンで止まった。

 星野は直ぐに料金を支払うやいなや俺を引っ張る様にタワマンの中に連れていく。

 慣れたようにエントランスに入っていく。

 

「え、何お前ここに住んでるの?」

 

 一人暮らしなのにアイドルってすげーな。

 星野は鍵をくるくるとしながらエレベーターに乗りとある一室の前で止まった。

 

「ただいまー」

 

 ガチャリと声と共に鍵を使って玄関を開ける。玄関から伸びる廊下も綺麗で高級感を漂わせている。

 

「ほら、先輩も入って入って」

「お、おうお邪魔します・・・・・・」

 

 俺が部屋の凄さに呆気に取られていると、星野は慣れたように奥に進んでいく。

 恐る恐る部屋に上がると奥から話し声が聞こえてきた。

 

「じゃーん、先輩見てー。可愛いでしょー私の子供なんだー」

 

 腕の中には瓜二つの金髪の男の子と女の子がいる。

 それに俺は目を見開いて驚いた。

 星野に子供がいるのには確かに驚いた。でもそこではない。その笑みに驚いた。

 俺の記憶の中の星野の笑みはもっと胡散臭くて、嘘っぱちでいつも泣きそうな顔だった。

 目線を前に立つ少年に合わせて手を差し伸べる

 

「初めまして、比企谷八幡だ。よろしくな」

「初めまして、星野アクアです。母を助けていただいてありがとうございました」

 

 少年は丁寧にお辞儀をして握手を交わした。

 

「初めまして、比企谷八幡だ。よろしくな」

 

 次は隣にいる女の子にも手を伸ばす。

 

「初めまして・・・・・・星野ルビーです。ママを助けてくれてありがとうございました」

 

 少女は恐る恐る俺の手を握って握手を交わした。

 こうして俺は双子と出会った。

 

 

 

 

 

 食材を刻みぐつぐつと煮込むこと数十分。

 時刻は8時を超えた頃。

 テレビでは星野が出る音楽特番が流れているが未だに星野が出てくる気配がない。

 

「はちまーん」

 

 足元を見ると風呂から出たばかりのルビーがドライヤーをもっている。毛先は少し濡れていて吹き切れていないことが良くわかる。

 

「ほら髪乾かしてやるから火を使っている台所に危ないからくるなー」

 

 ガスを弱め、ルビーを台所から押し出す。

 ルビーを椅子に座らせて、吹き切れていない髪から水分を吹き切ってからドライヤーを掛ける。

 綺麗な金髪がドライヤーの風でたゆたう。

 

「あー気持ちー極楽ー」

 

 数分ほどドライヤーを髪に当て続けると水っ気がすっかりなくなった。

 

「ほら終わったぞルビー」

「ありがとーはちまーん」

 

 ルビーはドライヤーを終えるとそそくさとテレビの前に行き、今か今かと星野の出番を待ち始めた。

 

「ほらアクア、髪乾かすぞ」

 

 俺の言葉を聞くとソファの上で本を読んでいたアクアが不機嫌そうな顔で近づいてくる。

 

「いいよ別に。ちゃんと拭けてるから」

 

 確かにアクアの髪はルビーほど濡れていない。

 

「いいからやるぞ。お前の髪も星野やルビーに似て綺麗な髪なんだから」

 

 観念したのかアクアが俺の前に座る。

 ルビーの時と同じように髪にドライヤーをかけ始める。

 

「八幡って子供好きだよね」

「まあ大人なんてそんなもんだろう」

 

 アクアはルビーと違い髪が短い事もありものの一分足らずで乾かし終わった。

 台所から見計らったかのように炊飯器の電子音が聞こえてくる。

 

「ほらご飯にするぞ。ルビーも席に着け―」

 

 炊飯器の蓋を開けると水蒸気があふれ出てきて美味しく炊けたことが良くわかる。

 白米を三人分よそい白米の上にカレーをかける。

 我ながら今日も美味しそうなカレーだ。

 よそったカレーをテーブルに持っていくと二人とも椅子に座っている。

 俺は二人の向かいにある残った一席につく。

 

「ほら、食べるぞ。いただきます」

 

 

 

 

 

 晩御飯のカレーも食べ終わり、洗い物も終わり、時刻は九時を過ぎたが未だ星野は出ていない。

 アクアは本を読んでいてルビーはグルグルと暴れている。

 

「ママが出てこないー!」

「押してるんだろ。これでも食って少し待ってろ」

「やったー!」

 

 ルビーはさしだしたショートケーキに飛びついてきた。

 

「ほらアクアもショートケーキ要らないのか?」

 

 アクアはちらっとこちらを見ると読んでいた本を閉じて近づいてきた。

 

「はちまんは食べないの?」

「ああ、俺は後で星野とでも食べるから気にすんな」

 

 俺の言葉にアクアは変な視線を向けてきた。

 

「な、なんだよ」

「別に」

 

 アクアはそれだけ言うとテレビに目向けた。

 たまにアクアと話しているとこいつが賢すぎて実は年上なのではないかと錯覚してしまう。

 

『それではお待たせしました。次はB小町の皆さんです』

 

 司会の言葉と共に数人の少女たちが映し出される。

 星野がセンターで映し出されることにアクアもルビーも興奮気味だ。

 いつもは大人じみたアクアもこの時だけはちゃんと子供だ。

 派手なライトアップと共に星野の姿が映し出される。

 長い手足に滑らかな黒髪。

 小さな顔にあるのは全ての人を魅了する瞳。

 誰もこんな少女が二児の母だとは思うまい。

 B小町は数曲歌って出番を終えたがこの番組のなかで一番注目を集めただろう。

 

 

 

 

 

 双子も眠り時刻はそろそろ十二時を回ろうとしている。

 この広いリビングではキーボードを叩く音しか聞こえない。

 

「ただいまー」

 

 静寂を打ち破る声が玄関から聞こえてきた。

 どたどたの音と共にリビングの扉が開かれる。

 そこには数時間前にテレビ写っていた星野がいた。

 

「先輩ただいまー」

「おう」

 

 俺はノートpcをバッグにしまい込むと席を立った。

 

「それじゃあカレーが冷蔵庫にしまってあるからグエッ―――!」

 

 星野の横を通り過ぎようとすると思いっきり後ろ襟を引っ張られた。おまえ息できない、死ぬ死ぬ!

 

「えー!お風呂出てくるの待っててよ。一緒にお酒のもーよ!」

「わかった!わかったから!し、死ぬ―――」

「ありがとー、それじゃあお風呂入ってくるねー」

 

 すぐさま星野はバスルームに向かっていった。

 あぶねー、死ぬかと思った。

 俺は座っていた席に戻りノートpcを取り出した。

 

 

 

 

 

「先輩髪乾かして―」

 

 風呂から出てきた星野がドライヤーを持ってリビングに来た。

 パジャマに着替えていて頬が少し赤みがかっている。長い黒髪もちゃんと拭けてはいるがそれでも水っ気が見え隠れしている。

 

「いやそのくらい自分でしろよ」

「えーいいじゃーん。アクアやルビーだけずるいー!」

「あー、わかった。わかったよ」

 

 俺がそういうとドライヤーを渡してきて俺の前に座った。

 長くて綺麗な黒髪が濡れていることで余計に美しさを醸し出している。

 風呂を出たばかりという事もありシャンプーやリンスのいい香りが鼻孔を擽ってくる。俺はその香りを吹き飛ばすようにドライヤーの熱風を星野の髪に当てる。

 

「今日アクアとルビーの面倒見てくれてありがとうね」

「まあ帰っても一人だしな。それくらい気にするな。そういう星野は最近仕事はどうなんだ?」

 

 俺の問いに星野はいつ通りの明るい声色で答える。

 

「私?順調すぎててんてこ舞いだよ。バラエティーにドラマに映画、色々な所で声が掛かってきて本当に大変だよ。そのうちパッタリと勢いが止まりそうで怖いくらい」

「星野なら大丈夫だろ。お前はずっと人気で引っ張りだこだよ」

 

 そうかなーと星野は呟く。

 ルビーと違って星野の髪は長く毛量も多い。乾かしても乾かして髪には水っ気が残っている。

 

「そういえば先輩ってさ髪乾かすの上手いよね。やったことあるの?」

「ああ小さい頃に妹にな。まあ妹が小学校に上がったらお兄ちゃんキモイって言われて終わったけどな」

 

 あれを言われた時は夜布団の中で一人泣いちゃったよお兄ちゃん。

 前から星野の笑い声が聞こえてくる。

 

「私はそんなこと言わないからよろしくねおにーちゃん」

「俺の妹は後にも先にも小町だけだ。ほれ終わったぞ」

 

 星野はすぐさま席を立つと冷蔵庫に向かった。

 

「のもーよ先輩」

 

 手には缶ビールが二本握らている。

 

「悪いが俺は明日も仕事だ」

「えー、それなら泊っていけばいいじゃん」

「ふざけたこといってないでさっさと飯食って寝ろよ。お前も疲れているだろ。カレーとショートケーキあるから」

 

 リビングを出て玄関で靴を履いていると星野が後ろから追いかけてきた。

 手には缶ビールとショートケーキがある。

 

「星野、ケーキはデザートだぞ」

「えーいいじゃん。ほら先輩もはいあーん」

「いらねぇよ。アクアとルビーと一緒に食べたよ」

 

 俺がそういっても星野はひかず、一口大に切られたショートケーキを突き出してきた。

 

「二人の面倒見てくれたお礼ってことでさ。はいあーん」

「買ったのは俺なんだよなー」

 

 一歩も引きそうにない星野に観念して差し出されたケーキを食べる。

 

「どう?美味しい?」

「ああ流石俺が買ってきたものだ」

 

 星野は不満げな表情を見せたがそんなのは無視だ。

 

「それじゃあ。またなんかあったら呼べよ」

「うん、ありがとうね先輩。バイバイ」

 

 俺は星野のニッコリと笑った表情を見て別れを告げた。

 

 

 

 

 

 マンションから外に出ると深夜という事もあり外は少し風が冷たい。だけど寒さは感じない。

 終電に向かう為に歩くとポケットに入れていた携帯が音と共に振動している。

 もしもし、と出ると電話先の男はゆっくりと口を開いた。

 

「……は、はちまーん。助けて―」

 

 材木座の掠れた絶望したような声が聞こえてくる。

 

「我無理。まじで思いつかない。助けてよー、マジで無理。筆が全く進まない」

 

 家に着くころには一時を過ぎているだろう。

 正直疲れたし眠いしこんな時間まで材木座の相手とか死ぬほどだるい。

 それでも口の中には甘さが残っていてそれが社畜の身体には染みる。

 

「お前なー。明日行くから。とりあえず今日は寝ずにかけ。アニメ化して声優と結婚するんだろ」

 

 その甘さがあればまあこの時間の材木座の相手も出来るというものだ。

 

 

 

 

 

 ベランダから下をのぞく。

 夜という事もありいまいちわからないがマンションから誰かが出てきたことはなんとなくわかった。

 その人を眺めながら欠けたショートケーキを食べる。

 ショートケーキは優しくて暖かくて甘い。

 夜風が火照った身体を冷やしにかかるが肌寒さは感じない。

 

「……ママ―」

 

 呼び声に気づいて後ろを向くとウトウトとしているルビーがいた。

 

「起こしちゃってごめんねー。早く寝よーね」

 

 ルビーはコクと頷き眠そうな瞳を見せる。

 抱きかかえて寝室に寝かしに行く。

 口の中はとても甘くてその現実がとても嬉しかった。

 




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