先輩と後輩   作:こーーーーーー

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お久しぶりです。ずっと思いついていてようやく書ききりました。
いつも感想ありがとうございます。励みになってます。
どうやら本文7777文字らしいです。たまたまです。


幼き私が知る背中

ピーンポーンという音が聞こえてきた。

 薄らと目を開けて時計を見る。

 

「まだ10時じゃねーかよ……俺は寝るぞ」

 

 布団を深く被り目をつむると良い感じに睡魔が襲ってくるが、何度も鳴り響く甲高い音がそれを邪魔してくる。

 

「久しぶりの休日なんだぞ。俺は絶対起きないからな……」

 

 ここ一週間はデッドライン直前でも書き終えない作家を書かせたり、本を出すために印刷所周りなどで残業続きだったのだ。今日は明日まで寝ると決めている。

 断固の思いで布団の中でくるまるが、今度はドンドンという音まで聞こえてきた。

 その音が収まる様子はなく、むしろ回数を増すごとに強くなっている。

 

「はぁー」

 

 ため息を吐き出して重い身体を持ち上げる。

 

「はいはい、今開けるから。イタズラだったらマジで警察呼んでやるからな」

 

 悪態をつきながら玄関を開けるが、そこには誰もいなかった。

 

「はちまん遅いっ!」

 

 視線をちょっと下に向けると双子が膨れっ面でいた。

 俺は怒っているアクアとルビーを見て思い出した。

 それは一週間ほど前の話、土曜日の昼間に2人の面倒を頼まれていたのを今の今まで忘れていた。

 

「その、すまん」

 

 俺はアクアとルビーの怒りの前で謝ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

「八幡出てくるの遅い!何やってたの!」

「マジですまん。普通に忘れて寝てた」

「もう10時だよ。こんな時間まで寝てー」

 

 アクアとルビーは部屋に入っても怒りを露わにしている。

 ルビーは分かりやすく声を荒げ、アクアは分かりにくいが不機嫌な視線で刺してくる。アクア、お前だけイラつき方が俺の上司と全く一緒だぞ。本当に小学生がそんな雰囲気でこれから大丈夫か。

 まあ、この件に関しては全て俺が悪いので仕方がないと一心に受け止める。

 

「2人ともお茶でいいか?」

「うん、いいよー」

「八幡、コーヒーがあるならコーヒーがいい。ブラックでお願い」

「はいはい、わかったよ。アイスでいいよな」

 

 相変わらずマセてるなと思いながら冷蔵庫からお茶とアイスコーヒーを取り出す。

 

「そういえばよくうちに来れたな。送ってもらったのか?」

「うん、ミヤコさんがママを連れていくついでに送ってくれたの。そういえば返信がないってママが怒ってたよ」

「なんだ俺はあいつにまで怒られなければいけないのか」

「それは八幡の自業自得だろ」

 

 アクアにごもっともな事を言われてしまった。

 2人にそれぞれ飲み物を出してスマホを見ると、1時間ほど前に星野からの連絡が来ていた。

 内容はシンプルに双子の事と晩御飯一緒に食べようという内容になっていて、その後には俺の既読がつかないことに対する怒りのスタンプが連打されている。

 俺は短く今見た了解、と返すとすぐに既読がついて寝すぎ、と言われてしまった。俺の返信なんてしてないで仕事しろ仕事。

 

「いてっ、急になんだよ」

「・・・・・・別に」

 

 コーヒーを飲みながら本を読んでいたアクアが急に蹴ってきやがった。

 

「八幡!八幡!なにこれ!」

 

 ルビーの手には一枚の写真が握られている。それはまだ中学の時に撮った俺と星野の写真だった。

 

「ああ、それは昔に俺が星野に無理矢理撮られた写真だよ」

 

 懐かしい写真がルビーの手の中にあった。

 特に理由なんてなく、気まぐれで部屋の隅に飾っていた写真。

 正直飾っていた事すら半分忘れかけていたくらいだ。

 

「ママめちゃくちゃかわいいねー。八幡はカメラ映り悪すぎー」

「無理矢理撮られたものなんだから仕方ないだろ」

 

 ルビーから写真を取り返してもとあった場所に戻す。

 

「ほらそれよりも外行くからさっさとしろ」

「それは八幡がしようよ」

 

 アクアはジロリと横目を向けてきた。

 うん、そうだね俺まだ寝衣だもんね。20分ちょうだい。

 

 

 

 

 

 支度を終えアクアとルビーを連れて電車に乗る事30分。

 俺たちは埋立地の上に建設された複合施設に訪れた。

 

「おーカッケー」

 

 久しぶりという事でとりあえずパシャリと一枚写真を撮る。

 やはりロボットは男のロマンだな。材木座にロボット物を書かせるか。あいつ青春学園ものメインだけど。

 

「ねーねー、早く行こー!」

「わかった、わかったから引っ張るな。危ない」

 

 ルビーに引っ張られながら隣接する大型ショッピングモールへと入っていく。 

 ここは都内で1番大きいショッピングモールという事もありテナント数も人の数も物凄く多い。

 

「さて、どうするか」

 

 どうしてここに来たのかというと何か目的があった訳ではない。ここならいい感じに時間が潰せると思って来ただけだ。

 時刻は11時30分。少し早いが昼飯でもいいか。

 そう考えながらショッピングモールの見取り図を見ているとアクアが割ってきた。

 

「八幡映画みたい」

「映画?まあいいけどなんか見たいのあるのか?」

 

 基本アクアが何かをしたいと能動的に動く事は少ない。ルビーが特にそういった事に顕著だから兄として落ち着いていて、どこか老成しているといるともいえる。たまにコイツの方が歳上なのではと思ってしまう。人生二周目の人間がいたらアクアみたいな奴なんだろうなー。

 

「アイが主演のやつが先週から上映しているから」

「あー、そんなのもあったなそういえば」

 

 前にそんな事を本人から言われていた気はする。

 

「まあ特にやる事もないからそれでいいか。ルビーもそれでいいだろ」

 

 俺の言葉にいくら待ってもルビーからの返答はなかった。

 

「ルビー?」

 

 ついさっきまで横にいたルビーはいなくなっていた。

 周りを見渡すとショーケースの前にルビーがいる。

 

「どうしたルビー?」

 

 ルビーの視線の先にあるショーケースの中には綺麗な洋服を着こなしたマネキンがたっている。

 マネキンの服装は今年流行り始めたファッションで身を纏っており、街中で若者が似たような服装をしているのを見かけたことがある。

 

「……八幡」

「どうした?」

 

 ルビーの視線は未だにガラス越しのマネキンに向かっている。

 

「私もさ、こういう洋服着れたりするかな?」

 

 その声色には興味心以外も隠されているだろう。

 これからに対する恐怖心なのか、今までに対する憂いなのかはわからない。

 

「着れるよ。似合い過ぎてアクアの奴が周囲に睨みを効かせるくらいには似合うだろうよ」

 

 あいつ分かりにくいが結構シスコンだぞ。千葉の兄が言うんだから間違いない。

 

「やった!早くママの映画見にいこう」

 

 ルビーはそのままアクアの手を取って走っていく。

 

「走ると危ないぞ」

 

 俺の声は喧騒によってかき消されて聞こえていないようだ。

 これを見れるのはサービスをしてる俺だけの特権だ。悪いな星野。

 二人についていき雑多の中へ溶け込んでいく。

 

 

 

 

 

「ほらそんなに急いで食べるなよ」

 

 星野出演の映画まで少し時間があるという事もあり、俺たちは一旦昼食をとるためにファミレスに入った。庶民の味方サイゼである。

 向かいに座る双子はそれぞれ注文したものを食べている。アクアがピザでルビーがパスタだ。

 

「だってこの後映画だよ!」

「安心しろよ。映画まで1時間くらいあるだろう」

「もう、お兄ちゃんわからないかなー」

 

 アクアの小言も無視してルビーはもしゃもしゃと口いっぱいに頬張っている。

 

「よく噛んでゆっくり食べろよルビー。こんなに口回り汚して」

 

 ルビーの口の周りにはパスタのソースがベッタリとついている。こいつらいつも年不相応なのに星野が関わると年相応すぎるな。アクアも口ではルビーにそういっているがチラチラと時間を気にしている。

 

「んー。だってさママが主演だよ」

「星野が主演な事なんてよくある事だろ」

 

 口の周りのソースを拭い取ってもなおルビーは止まらない。

 

「まあ八幡もルビーの気持ちわかるでしょ。今回は原作も面白いし監督やその他出演陣も大御所ばかりだから俺も楽しみだし」

「俺も原作読んだからな」

 

 今回星野が主演の映画は直木賞入賞作という事もあり世間からの注目度も高い。

 

「それでもゆっくり食べろ。喉詰まらせたら元も子もないだろう」

 

 俺の言葉にルビーは頷き三人で話しながら昼食を済ませた。

 会計を済ませてサイゼリヤから出ていく。上映までまだ40分ほど時間がある。

 少し早いが映画館へ向かうか。

 人々が歩く喧騒の中で声が聞こえてきた。

 その言葉を聞くのが久しぶりすぎて反応が出来なかった。

 その呼び方をするのは今までもこれからも彼女だけだろう。

 

「あれ、ヒッキー?」

「由比ヶ浜?」

 

 高校時代よりも大人びているが顔立ちにどこか可愛さを残している女性が立っている。 

 由比ヶ浜結衣がそこにいた。

 

 

 

 

 

「ほらお茶で良かったか」

「うん、ありがとうねヒッキー」

「いいよこのくらい」

 

 ベンチに座る由比ヶ浜に自販機で買ったお茶を渡す。

 

「あれヒッキーはマッ缶じゃないんだ」

「仕方ないだろう。売ってなかったんだから」

「でもさブラックなんて珍しくない?」

「そうかいつもブラックだぞ」

「へーそうなんだ。高校の時は飲まなかったじゃん。砂糖とか沢山入れていたし」

 

 確かに高校の頃はコーヒーは砂糖入りしか飲んでなかったからな。

 

「人生が苦いんだからコーヒーくらい甘くていいって言ってたしな」

「確かに、ヒッキー基本捻くれたことしか言ってなかったからね」

「安心しろよ今も変わらず捻くれているから」

 

 俺の言葉に由比ヶ浜は昔のように笑ってくれている。

 視線の先には子供が遊べる広場で遊んでいるアクアとルビーがいる。

 

「それにしてもびっくりしたな。ヒッキーが子供といるんだもん。犯罪かと勘違いしちゃったよ」

「知り合いの子だって説明しただろう。俺そんなに犯罪者面ですか。目腐っているからな……」

「冗談だよ冗談。でも普通にヒッキーがいつの間にか結婚して子供出来たのかとおもっちゃったよ。ヒッキー全然連絡してくれないじゃん」

 

 確かに俺なら結婚しても誰にも言わないかもしれない。下手したら親にも言わないレベルだからな。

 

「ねえ……ヒッキーはさ連絡とってる?」

 

 その言葉が誰となんて事は聞かなくても分かった。

 

「……普通別れたら取らない物だろう」

「そうだけどさ……」

「少なくとも由比ヶ浜はアイツと連絡とってんだろう?」

「うん。この前も一時間くらい電話しちゃったよ」

「時差があるっていうのに、相変わらず仲が良いな」

 

 たしか日本とだと12時間くらい時差があっただろう。

 プルタブを開けてブラックコーヒーを煽る。

 

「まあ、あいつも俺と一緒でちょっとでも接点なくしたら連絡とらなくなるタイプだから。よろしく頼むよ」

「わかっているなら二人とも直せばいいのに」

 

 時計を見ると上映時刻まであと20分ほどしかない。

 遊んでいたアクアとルビーがこちらに近づいてきている。

 

「そろそろ行くわ。悪いなまた今度連絡するわ」

「そういっていつもヒッキー連絡しないじゃん」

「おっしゃる通りで……」

 

 いやさ、久しぶりの奴に連絡するのって勇気いるじゃん。戸塚元気にしてるかなー。

 

 

「じゃあな由比ヶ浜」

「うんバイバイ、ヒッキー」

 

 俺は由比ヶ浜に挨拶して別れる。

 視線の先には双子が今か今かと待っている。

 

 

 

 

 

 彼の後ろ姿が離れていく。

 少しだったが彼と会ったのは四年ぶりくらいだ。

 あの頃は二人とも付き合っていて三人で会ったりもしていた。

 少し治っているがそれでも彼の猫背は未だに健在だ。

 いつも私が見ていた背中はそこにあるはずなのにあの頃のような感情はない。

 彼の横には二人の子供がいる。知り合いの子だと言われても三人の後ろ姿を見せられたらあの頃の感情は出せない。

 後ろ姿は見えなくなったがベンチから立つ気力は沸いてこなかった。

 その時携帯が振動した。

 

『もしもし結衣ー。どこにいるのー?』

 

 電話の向こうにいるのは一緒に来ている友達の声だった。

 

「ごめんね。今ね―――」

 

 私は通話しながら席を立ち彼とは逆方向へ歩いていく。

 どこで見たかは分からない。それでも彼の後ろ姿には何処か見覚えがあってその現実が少し悲しかった。

 

 

 

 

 

「ただいまー……」

「ルビー、手洗いしろよ」

 

 ルビーは靴を脱ぐとトボトボと廊下を進んでいく。

 

「アクアも手洗いしろよ」

「……わかってる。うがいもするよ」

 

 アクアも重い足取りで廊下を進んでいく。

 映画を見終わり星野の家に帰ってきた。

 帰りの電車ではルビーもアクアも映画の感想で(主に星野のことで)盛り上がっていたが、電車を降りて家に近づくほど二人の足取りは重くなっていた。

 流石に仕方がないな。むしろ家まで持ったのだから十分だろう。

 洗面所に向かい手洗いをする。言った手前やらないとな。

 手洗いをしながらふと目の前にある鏡を見る。そこには相変わらずDHAが豊富そうな眼をした自分が写っている。

 

「この目は変わらないなー」

 

 むしろ社会人になってから余計ひどくなった気もする。専業主夫になると夢見ていたのが懐かしい。

 洗面場を出てリビングへと向かう。

 

「……まあそうなるよな」

 

 暖かな空気に包まれているリビングに入ると、ソファで双子がそろってぐったりと眠っている。

 時刻は午後4時過ぎ。星野はまだ帰ってこないだろう。

 安らかに眠っている双子の横に座る。

 二人の寝顔が、部屋に充満する暖かな空気が襲ってくる。

 星野もすぐには帰ってこない。30分ほどなら寝てもバレないだろう。

 ソファに座ると一気に睡魔が襲ってくる。

 瞼はどんどんと重くなってきて、気が付けば目の前は真っ暗で覆われた。

 

 

 

 

 

「ただいまー。ママが帰って来たよー」

 

 リビングを開けて声を掛ける。

 玄関には三人の靴があったから帰って来てはいるが返答は帰ってこない。

 時刻は午後6時だが夏が近づいてきているという事もあり、リビングは茜色に染まっている。

 どこにいるのだろうかと探すとすぐに見つかった。

 ソファの上で枕代わりにするルビーと寄りかかるアクア。そして、二人に枕代わりにされながらぐったり熟睡している先輩がいる。

 いつもは腐った目をしている先輩もこの時だけは青年らしい寝顔をしている。

 私は携帯を取り出して一枚パシャリと撮り壁紙に設定する。本来はアイドルとして危ない行為だけど勝手に動く指を止められなかった。勝手に動いた指が悪いのだ。双子がメインでたまたま彼が写ったのだ。

 

「あ…い……」

 

 先輩に寄りかかっていたアクアが目を擦っている。

 

「起こしちゃってごめんねアクア。寝てていいよ」

 

 アクアは私の言葉に頷くとまた先輩を枕代わりにする。

 その姿が我が子ながら少し羨ましく感じてしまった。

 

「ご飯の準備しようか」

 

 気が付けば身体に合った疲れや気だるさは無くなっていた。

 

 

 

 

 

 どことなく美味しそうな香りがする。

 コトコトと鼻歌と共にテンポの良い音が聞こえてくる。

 固まっていた身体が軋みをあげている。

 重い瞼がゆっくりと上に持ち上がっていく。

 目を開けると茜色ではなく白い光がリビングを照らしている。

 横を見ると寝ていたはずの双子はもういない。

 

「―――あ身体いてー」

 

 固まって寝ていたから身体がバキバキと音をたててくる。

 ぐつぐつと音のなる方を見ると女性がたっている。

 上機嫌そうに鼻歌を歌いながらエプロンを身に纏っている彼女がいる。

 その姿に不覚ながら見惚れてしまった。

 

「あっ、おはよう先輩」

「お、おう」

 

 時計を見ると時刻は午後七時を回っている。

 

「悪いな寝過ごした星野」

「いいよ別に。先輩も今日は疲れたでしょ」

 

 寝起きという事もあり頭は未だに重くて思考が良く回っていない。

 凝り固まった身体を解しながら台所に向かう。

 ぐつぐつコトコトと音の鳴る台所を覗き込もうとすると星野に止められた。

 

「おいしい晩御飯作っているから待っててね」

 

 その言葉に俺は止まるしかなかった。なんたってこの家では星野の方が立場が上なのだから。

 

「あー八幡ようやく起きたー」

 

 ルビーが音をたてながらリビングに入ってきた。

 パジャマを着て綺麗な金髪には水滴がついている。

 

「八幡乾かしてー」

 

 ドライヤーをもって近づいてくる。

 

「わかったよそこに座りなルビー」

 

 ルビーの後に続いてアクアも近くに座ってきた。

 

「あー気持ちー整うー」

「整うってサウナじゃないぞ」

 

 台所からクスクスと笑い声が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

「明日休みなんでしょ。先輩も飲もうよ」

 

 夕食を食べ終わり後片付けを済ませると星野がビールを差し出してきた。

 

「サンキュ、たまには飲むか」

 

 受け取った缶ビールを口に入れる。ビール特有の苦みが喉を犯すがそれが旨い。

 テレビの前ではルビーが星野が出演しているドラマに釘付けで、アクアも本を読んでいるがチラチラとドラマ見ている。

 

「そういえば先輩映画見たんでしょ。どうだった?」

「感想ならさっきアクアとルビーが散々言っていただろう」

 

 俺がそういうと星野は目に見えてわかるふくれっ面をしてきた。痛い痛い足を蹴るな。

 

「わかった言うから蹴るな」

「それでどうだったの?」

「面白かったよ。流石の直木賞作だし、流石あの監督の作品だよ。キャストの見せ方も演技もとても見ごたえがあった」

 

 あまり映画は見ないがそれでもあの作品が名作と部類される作品だと素人目でもわかった。

 俺の言葉に不満だったのかぐりぐりと足を押してくる。地味に痛いってこれ。

 

「その中でも星野が一番輝いていたよ」

「最初からそういえばいいんだよ。先輩は捻くれているなー」

 

 星野はニコニコで酒を煽る。

 

「先輩明日休みなんだから泊まっていくでしょ。私も明日オフだし朝まで飲もうよ」

「泊まっていくわけないだろう。今日も仕事で疲れてんだからさっさと風呂入って寝ろよ」

 

 星野はえーとうなだれていると携帯が鳴った。

 

「悪い。少し電話してくる」

 

 宛先を見てみると大家だ。

 普段は掛かってこない相手からの電話に疑問を持ちながら廊下にいき電話に出る。

 

 

 

 

 

「えー!!アパートが火事になったって大丈夫なの!」

「ああ、怪我人は出なかったってよ」

 

 それが先ほど大家からの電話の内容だった。

 

「それは良かったけど、八幡貴重品とかは大丈夫なの?」

「大丈夫ではないけど身分証とカードはいつも持ち歩いているからな。会社のPCとかも家にあったけど一応データはクラウドに保管されているからな」

 

 原稿とかが家にあったらヤバかったけど今は入稿後だから大丈夫だしな。

 

「そのほかに貴重品らしい貴重品はないから一週間くらいなら問題はないな」

 

 俺がそういうとルビーの小さな声が聞こえてきた。

 

「でもさ八幡。アパートが火事でこれからどうするの?」

「まあとりあえず今日はネカフェにでも泊まって明日実家に帰るよ。実家からでも一応通えない距離ではないしな」

 

 現在の時刻は午後十時過ぎだ。落ち着いていられる時間ではないが、池袋や新宿、渋谷に行けばネカフェくらい空いているだろう。

 

「それならここでいいんじゃない。ここなら会社からもそんなに遠くないでしょ」

 

 星野が急にそんな事を言ってきた。

 

「それでいいんじゃない。八幡なら別にいつでも変わらないし」

「あーそれいいじゃん。私は賛成だよ」

 

 星野の言葉にアクアもルビーも賛成した。

 

「それはまずいだろ。アイドルが男と暮らすのはやばいだろ」

「そんなこと言ったらアイドルに子供いるんだから変わらないよ。ほら、二人もこう言っているんだしさ。それにアクアとルビーの面倒でいちいち家にまで来るのめんどくさいじゃん。部屋数なら大丈夫だよ使っていない客間あるから」

 

 まあ確かに今日家の前で待たせたのは俺が悪いけどさ。

 気が付けば理論的も物理的にも逃げ道を封じられていた。

 事実今俺には帰る家がないし、実家から会社は余裕で1時間以上乗り継ぎが悪いと2時間近くかかってしまうのだ。

 だから俺は乗る事しか出来なかった。

 

「お世話になります」

 

 向かいに座っている星野がニッコリと笑っていた。

 唯一心残りがあるとすればあの写真が無くなったのは少し悲しい。

 




読んでいただきありがとうございました。
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