もしも鬼殺隊の中に良心ゼロのいかれポンチがいたら   作:ハッピーセット2人前

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第一話

 ビチャ。ビチャ。

 

 前世を志し半ばで終えてから、まるで神が与えてくれたかのような二度目の人生。

 人里離れた、山林の中にポツンとたった、長屋。現代ならばテレビ局から取材が来るような土地でもう一度生を享受した。

 

 グチュ。グチュ。

 

 家族以外との触れ合いなんて一つもなかったが、そこに不満はなかった。

 かわりに、周りには見渡す限りの自然があったから。

 自然との触れ合いは己を飽きさせなかった。

 

 文明の力とは無縁だった家族との生活が————今晩終わりを迎えようとしている。

 

 必死に息を殺しながら、押入れの襖を少しあけ、隙間から目の前で起こっている惨状を目の当たりにする。

 ようやく暗闇に慣れてきた目が映すのは、父と母を貪り喰らう人影。

 

 それは急に訪れた。もう14という年なのに、いまだに仲良く川の字で寝ていた深夜、今までに感じたことのない死の予感が己を叩き起こした。

 脇目も振らず押入れの中に隠れた直後、何かが滴るような、何かが潰れるような音がし始めた。

 

 人影が母から何かを取り出した。母の腑だった。

 

 母はとにかく優しい人だった。小さい頃、俺が毎日のように山でやんちゃして泥だらけになって帰ってきた時にキレる父を宥めていたのはいつも母だった。

 

 

『怒るのはねえ、あんまり好かんのよぉ。疲れるし人を怖がらせちゃうからねえ』

 

 

 父が母になぜそうも甘いのか聞かれた時に必ずそう返していた。

 

 人影が拳を振るい何かが爆ぜる。父の頭だった。

 

 父は森の秩序を守る猟師だった。

 アンバランスになった生態系を狩ることで、森の食物連鎖を正していた。

 

 

『猟銃の扱いもうまい。正一(まさいち)、お前はいい狩人になるだろう。

 だからこそ自然の危険さをよく理解してほしいのだが…』

 

 

 俺に後継としての期待を寄せていた父は俺を叱る時にそうこぼしていた。

 

 命が陵辱されていく。

 父が、母が、人喰いに弄ばれ、喰らわれ、ただの肉塊に成り果てる。

 

 

 隠れてからどれだけ立ったのだろうか。

 数秒だったのかも知れないし何十分も立っていたのかも知れない。

 押入れの中で我が身を守るために必死に気配を殺す。

 

 すると人喰いの影が不意に動きを止める。

 

 

「…ん?んんんんんんんんん…?おかしいなぁ…寝床がひぃ、ふぅ、みぃ…。

 …おかしいよなああああっ!!俺が食った人間は2匹だぞ!!おかしいよなあ!!」

 

 

「どこに隠れてやがるんだあああああ!?出てこいやああアアア!!」

 

 

 

 

(ヤバい…!!)

 

 

 思わず背筋が凍る。

 

 

「ここかア?…それとも…ここかア!?どこだあああアアア!?」

 

 必死に息を潜める。

 頼むからどっかいってくれ…!

 死にたくない!死にたくない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミイつけたアァ…」

 

 

 襖が音は立てながらスルスルと開く。

 

「ああっ…」

 

 バレてしまった。もうどうしようもない。喰われる…!

 

 人喰いは押入れの中でへたり込むこちらをみながら舌なめずりをする。

 

 

「おいクソガキィ…随分と手間取らせてくれたなア…!アア?!」

 

 間近で見ることでよくわかった。

 人喰いの額にはツノが生えており、口の隙間から覗かせる歯はひどく鋭かった。

 その姿は…まさしく鬼そのものだった。

 

 鬼が腕を振りかぶる。

 

 

「安心しろよオ?親子ともども…あの世であわしてやるからよオオオオオオオ!!!」

 

 

 振り下ろされた腕がこちらの命を刈り取る…‥ことはなかった。

 

 

「ああ…なんと哀れな鬼だろうか…」

 

 

突如として飛来した鉄球が鬼の頸をはじけ飛ばす。

頸が消し飛び糸が切れた人形のように崩れ落ちる鬼の向こう側にまた新たな人影が一つ。

 

それはぶつぶつと念仏を唱えながら、涙を流す2mを悠に超える巨漢であった。

 

 

「…なんと…まさか生き残っているものがいるとは…だが…

 嗚呼…なんと可哀想な子だろうか…父母共に殺されてしまうとは…

 また悪鬼が生み出す災厄の被るものが…」

 

ぶつくさと喋りながらこちらに近づく巨漢。

鉄球を携え涙を流しながら近寄る大男に俺は…あまりの恐怖に意識を失ってしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 窓から日が差し、小鳥の囀りが聞こえる。

 どうやらもう朝らしい。

 意識を取り戻すとそこは知らない部屋だった。

 

 

(…?なんで俺こんなところにいるんだ…?)

 

 

 そう、俺は押入れの中にいたはずだ。

 しかしなぜ押入れの中にいたのか、そしてココはどこなのか…

 状況をうまく飲み込めずにぼんやりとしていると、

 

 

「…少年。体調はどうだ…?」

 

「!?ぎゃ…ぎゃああああああアアアアア!?」

 

 

 突然横から正座した大男から声をかけられ、思わず仰天する。

 ああ…そうだ…思い出した…!

 

 

「少年…!大丈夫だ。君を脅かす悪鬼はもういない。安心してくれ…!ここは安全な旅館だ。悪鬼の手は届かない…!」

 

 

 いやちげえよ、てめえにビビってんだよ。

 なんだこの図体と圧はよ。

 さっきの鬼よりもずっとバケモンじゃねえか。

 

 

「フウ…!フウ…!……いえ、もう大丈夫です。あなたは…あの時たすけてくれた人ですよね…?すみません、ありがとうございます…危うく殺されるところでした…」

 

 

 心を落ち着かせ、目の前の巨漢…いや命の恩人に頭を下げる。

 彼がいなければ俺はもうこの世にはいなかった。

 感謝してもしきれない。

 

 

「…いや…むしろ謝るのは私のほうだ。あともう少し私の到着が早ければ、きみのご両親が殺されることはなかった…!本当に申し訳ない…!柱としての責務を果たせなかっ  た…!」

 

「え…?なんで泣いて…?…いやいや!謝ることなんてありませんよ!あなたのおかげでまだ生き続けられるんですから、どうか顔をあげてください」

 

 

 突如大粒の涙を流しながら、土下座を始める命の恩人に困惑しながらも宥める。

 この図体に見合わず、泣き虫なのだろうか…?

 

 

「そういえば…あなたのお名前は?」

 

「失礼。まだいってなかったな。私は悲鳴嶼行冥…『鬼殺隊』の『岩柱』だ…」

 

「すみませんあまり聞き慣れない言葉なのでお聞きしたいのですが…その…『鬼殺隊』…とか『柱』というのは…?俺の両親を食い殺した鬼と関係があったり…?」

 

 

 鬼殺、などと称しているあたり、鬼を狩る専門の集団なのだろうか…?

 

 こちらの質問を聞くや否や悲鳴嶼さんは泣き止み背筋を伸ばし、姿勢を正す。

 その佇まいに思わずこちらの背筋もピンと伸びる。

 

 

「そう…『鬼殺隊』は人をくらわんとする『鬼』を狩る政府非公認の組織…

 詳しく語るとすると多少時間がかかるが…大丈夫か?」

 

「ええ。問題ありません。詳しく…説明お願いします。」

 

 

 それから悲鳴嶼さんは鬼についてくわしく、そして鬼殺隊と鬼の関係性について語ってくれた。

 

 鬼…それは人の域からはずれ、並外れた身体能力を持つ不死身の化け物であると。

 ただしこの不死身には二つの突破口があると。

 一つは日光であり、鬼は陽の光を浴びると焼き崩れて死ぬ。

 そしてもう一つは…陽の光をふんだんに含んだ特殊な鉄鋼でつくる刀で頸を跳ねることだ。

 

 鬼殺隊はその特殊な刀、日輪刀を用いて鬼による被害を日夜抑えているそうだ。

 

 その鬼殺隊には何百年も追い続けている悲願の至上命題があり、それは———鬼を束ねる首魁、鬼舞辻無惨を殺すことであると。

 

 

「これが…我等鬼殺隊と…その宿敵鬼舞辻無惨についてだ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

 

 …悲鳴嶼さんの話を聞いて、数年ぶりの胸の踊りを感じた。

 胸から湧き上がり続けるのは—————好奇心。

 

 

「…悲鳴嶼さん。一つ質問があります。鬼をどれほど残忍な扱いをしても……法には触れず、許されるのですね?」

 

「ああ。そうだ。」

 

「ああそうですか…!」

 

 

 胸が高鳴る。間延びしていた日常にこんな刺激があるなんて…!

 ああ…!母さんと父さんには感謝しないと…!

 母さんと父さんが喰われてくれたおかげで、こんなにも素敵な機会に巡り会えた!

 

 実は父さんと母さんに隠して今でもやっていることがある。

 生物の解剖だ。

 

 初めてやったのは5歳の頃。

 道具もなく素手でこじ開けたリスのお腹の中にひたすら感動した。

 それからというもの毎日のように解剖を続けた。母さんと父さんにはバレないように。

 道具は自分で木から作り出した。

 

 母さんも父さんも自然に生きる人だ。

 だから命を陵辱するような—————それこそ好奇心を満たすだけに解剖するような行為は断じて許さない。

 

 が、今その制約などない。

 今こそ日に日に溜まり続けた欲求を解放する時なんだ!

 

「悲鳴嶼さん。俺、鬼殺隊に入隊します。」

 

「…いいのか?楽しさなんてかけらもない、苦しい茨の道だぞ。」

 

「ええ、それでも構いません。これ以上の鬼の狼藉は許せません。

 今こそ…刀を振るう時なんです。…死んでいった父母のためにも。」

 

 

4足歩行には飽き飽きしていたんだ。

まさか誰にも咎められることなく人に似た生物をいじれるなんて…!

 

 

 

 

「…わかった。私から育手に君の推薦状を書こう。」

 

 

 

悲鳴嶼さんは憐れむような目で俺をみた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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