もしも鬼殺隊の中に良心ゼロのいかれポンチがいたら 作:ハッピーセット2人前
ご注意ください
鬼殺の剣士が生身の人間よりも遥かに強靭な生物である鬼に対抗するために生み出した技がある。
名を全集中の呼吸。
特殊な呼吸方法により身体能力を爆発的に上昇させ、鬼に迫る、もしくは鬼を凌駕するほどの力を得ることができるそうだ。
さらにその呼吸方法には独自の流派が存在しており、五大流派である水、炎、岩、風、雷から
そこからさらに派生したもの、と流派の数はかなりのものになる。
悲鳴嶼さんが俺を助けてくれてからはや一週間。
鬼殺隊に全面協力してくれる藤の家紋の家で悲鳴嶼さんからの連絡を待っていると、開けた窓からカラスが一羽入ってくる。
「カアアアアアア!
育手ガソコデマッテイルゥゥ!!」
「うわうるさ」
悲鳴嶼さんは柱という重要な役職についているためになかなかこちらに足を運ぶいとまがないのだという。
だから今回俺が学ぶ呼吸の育手———全集中の呼吸の指南者、のいる場所まで案内してくれるのはこのおしゃべりカラスこと『鎹鴉』だ。
越中————現在の富山だ。俺の今の位置はその富山の県境付近だからそう遠い訳ではない…が劒岳は山脈に位置している。
つまり野を越え山を越えを地でいく超ハードスタイルだ。
「一週間お世話になりました。衣食住全て用意してくれて本当にありがとうございます
しかも路銀と旅の用意までもらって…もうどう感謝の言葉を述べればいいか…」
「いえいえ。この生い先短いおいぼれが役に立てたのなら幸いです」
一週間お世話になった藤の家紋の家主に感謝の意を伝える。
山の麓にこの家は位置しているので、自分の家に戻ることもできたのだが、戻ったところで血生臭くなった我が家の掃除からまず始めなきゃだし、何よりあの場所への興味はもう薄れたし、山を登るのがあまりにもめんどくさいので、ここのお世話になっていた。
武器となる猟銃も鬼には効んだろうし。マジで戻る意味がない。
さっと旅の用意を済ませ、藤の家紋の家から出る。
「よっしゃ、じゃあカラスさん、育てのもとまで案内してくれる?」
「カアアアアアア! 言ワレルマデモナアアイ!!ツイテコイ小童ァァ!」
「……小童…」
愉快な旅になりそうだ。
訂正、全く愉快ではなかった。道中は険しい山道をいくつも越え、山暮らしであった俺も流石にこたえた。
夜を明かすときには宿屋や、宿屋がなければ点在する村を訪ね、そこの住人に寝床を貸してもらえるように頼んだ。
時代が時代だからだろうか、声をかけたものは皆人情に溢れて、側から見れば流浪人である俺に寝床を快く貸してくれた。
だが夜を明かすときに都合よく人里がある訳ではない。
いくつかの夜は野宿をすることもあった。
山脈を辿るということは、必然的に人気のない道を通る。
人気のない道には鬼が出る。
だから野宿をした夜は、いつ鬼に襲われるか気が気でなかった。
しかも案内役のあの鴉、飛んだクソボケやろうだった。
鬼が来ないように必死に音を立てないように努めていたのに、気配を消すように尽力してたのに、あのカスは時折発作のようにうるさく泣き叫ぶ。
『また野宿かよ…土を被って人に匂いを消すか…焚き火もできないな。
火のあかりと狼煙でばれる可能性がある……』
『カアアアアアア!!アッチョンブリケエエエエエェェ!!カアアアアアア!!』
『!?ちょ、黙れって!くるかもしれないだろうが!殺す気か!?ああ!?』
『カアアアアアア!』
道中で何度あいつを焼き鳥にしようと思ったことか。
だがその苦しい旅ももう終わりだ。
旅を続けること十数日、ようやく件の屋敷が見えてくる。
剱岳まだの山道の途中の坂を越えた先の開けたところに位置するでかい屋敷。
あれが今回俺が指南を受ける場所だ。
しんどさを我慢し、カラスの飛ぶ道をたどり、屋敷の門のそばまで歩いて行くと門の前に人が一人、流水模様の羽織を羽織った、還暦を迎えて間もないほどに見える男性。
「カアアアアアア!御主人サマァァ!!ツレテキタヨオォ!」
「お!戻ったか!
案内役の鴉が主人と呼んだ男の左肩に止まった。
その先の腕はなく、袖が風に靡いている。
鴉に労いの言葉をかけた後、こちらを見ると、ニッコリと笑い近寄ってきた。
「よう!長旅ご苦労様!坊ちゃんがあの泣き虫坊主がよこした
体の汚れを落として、しっかり休んでから話しようじゃねえか!」
悲鳴嶼さんが泣き虫坊主?
確かにあの人は驚くほどすぐ泣く人だったけど…坊主ではないだろ。
あれはもう25は超えてるはずだ。
「ありがとうございます…えっと…あなたが俺の育手でしょうか…。」
「おっそうだ!悪いな自己紹介がまだだったな!俺はこの
「カアアアアア!!小童ア!!平伏セヨォ!平伏セヨォ!!」
「翔助、だまりな!」
この際あのアホ鴉の垂れ流す戯言は聞き流す。
老いを感じさせない快活さを見せる浦澤さんからの労いに旅の終わりへの安堵と長旅の疲労感がどっと押し寄せる。
「それじゃあお言葉に甘えさせていただきます…」
風呂場で体の汚れをおとし、身なりを整える。
久しぶりの風呂がこの疲れきった体を癒すと共に心にも沁みる。
限界ギリギリの疲労の中入る五右衛門風呂はまさに極楽浄土のようで、思わず涙が出る。
浦澤さんが用意してくれた浴衣に袖を通し、俺の他にもいる門下生の1人である村田さんの案内に従って用意された、これから過ごすことになる自分の部屋を目指す。
村田さんは俺と同い年くらいに見えるのに、数年前からここで修行をし、呼吸術について浦澤さんから免許皆伝をもらっている。
「君すごいね。信濃の方から来たんだろ?呼吸もまだ使えなくてしかも俺とおなじくらいの歳に見えるのに、よくいくつもの山を越えられたね。山守君だっけ?」
「はいそうです。まあ暮らしてた土地が山の中だったので、それで山道は慣れているというか。意外といけましたね。でも俺がすごいっていうなら村田さんもすごいじゃないですか。俺とそう歳も変わらないのに、数年前から鍛錬に励んで、もう呼吸法を習得しているんですから。」
謙遜を交えつつ、村田さんの長所も褒める。
「いやぁ俺はそんなすごいやつではないよ。数年も鍛錬してるのは、全然水の呼吸を習得できなかったからで…ほんとならもっと早く藤襲山に行ってるのに…」
村田さんは異常なほどに前髪がサラサラな以外、特にこれといった特徴のない結構なモブ顔である。
呼吸の修得が通常何年かかるかはしらないが、その立ち振る舞いや顔から放たれる脇役感を見るに、本当に才能がないのだろう。
村田さんの才能の度合いなどどうでもいいが、一つ気になる言葉が飛び出した。
「その…藤襲山っていうのは?」
「あれ?知らないの?鬼殺隊には入隊試験があって、7日間鬼がいる山の中で生き残るんだ。その山の名前が藤襲山って言うんだよ」
試験はどうやらかなり実演的なようだ。
人喰いの鬼がいる山で一緒に7日間も生活させるとは…
流石鬼殺隊は政府非公認なだけあって、安全規格はガン無視のようだ。
しばらくして自分の部屋に到着し、村田さんと別れる。
押入れの中から敷布団と掛布団を取り出し寝る準備をする。
しっかりとした寝床で寝るのは何日ぶりだろうか。
誰も長らく使ってなかったのだろう。
布団は埃っぽく、お世辞にも上質とはいえなかったが、それでも地面で寝るよりよっぽどよかった。
その日は疲れもあったからか、いつになく熟睡できた。
「おいお前、早く起きろ!もう午の刻だぞ!いつまで師範を待たせるつもりだ!!」
「んあぁ〜?」
「んあ〜じゃねえよ!寝ぼけてねえでさっさと顔洗ってこい!」
門下生の一人に叩き起こされた頃にはもう正午になっていた。
どうやら疲れのせいで昼遅くまで寝てしまっていたらしい。
「今から師範の自室に行ってこい。師範がお前に用があるそうだ。」
顔を洗った後、起こしてくれた彼にお礼を言いに行くと、浦澤さんが俺を待っていると教えてくれた。
浦澤さんの部屋教えてもらいそこへ向かう。
話したいこととは一体なんだろうか。
なぜ鬼殺隊を志望しているのかとか?
それともこれから教わる水の呼吸とやらの説明だろうか。
いや待てよ。このタイミングでの呼び出しだろ?もしかしたら朝寝坊したことへの叱責かもしれない…
こういう古臭いとこは普段の生活に厳しそうな感じがする。
初っ端から寝坊なんてかまして、もしかしたらお前は弟子じゃないとか言われるかもしれない…
まだ何も教わっていないにもかかわらず、師範となる人から叱責され、今後の雲行きが怪しくなってしまうことを恐れながらも、とうとう浦澤さんの部屋の前まで来てしまった。
「おっきたか。入ってきてくれ。」
まだ声もかけていないのにこちらが来たことに気づかれたことにびっくりする。
なぜわかったのだろうか。
「失礼します…」
部屋に入ると浦沢さんは胡座をかいて待っていた。
その表情からは怒りの表情が見受けられないことから叱責の線はなくなる。
よかった、どうやら別の件のようだ。
浦澤さんに向かい合うように正座で座る。
「浦澤さん、お話というのは一体なんでしょうか」
「まあ、これからのことについて色々話しようと思ってな。正一、お前まだ詳しくないだろ?これから教わる『水の呼吸』についてとかな…だがその前にまずいっておかねえことがある…正一、お前はまだ俺の弟子じゃない。」
突然告げられた発言に思わず愕然する。
弟子じゃないだと…?なぜだ?やはり開幕朝寝坊スタートがよくなかったのか!?
「なっなんでですか!?…あれですか!?やっぱり朝寝坊が気に障りましたか!?」
「おい!落ち着け落ち着け!『まだ』だっていってるだろ!それに朝寝坊ごときで別に怒らねえさ」
「よかった…」
思わず安堵の息をもらす。
どうやら俺の偏見は間違っていたらしい。
朝寝坊はべつに問題ではないらしい。
そうなるとどうすれば一体弟子になれるのだろうか。
「俺がお前に呼吸を教えるにあたってお前のことをよく知ろうと思ってな。
試験って言うほどでもないが…正一、どうしてお前が鬼殺隊に入りたいのか、その理由を行ってくれ。正直に答えてくれたら…お前は晴れて俺の弟子だ」
いつのまにか面接のようなものが始まる。
つまり、浦澤さんが納得のできる理由があれば、晴れて合格、というわけか。
親の復讐とでもいっておこう。
同情を買うことができて、スムーズに合格できるかもしれない。
「…俺が鬼殺隊に入りたいのは…親の復讐と…これ以上俺のような被害者を出さないためです。…俺の親は鬼に喰われて殺されました…やつは俺の父母を弄ぶように踊り食いをして…!その被害が他にもおよんでいると考えるとはらわたが煮えくり帰りそうになって…!俺は奴らが許せない!だから刀をとることに決めましたっ…!」
「…」
これ以上になく完璧な演技とその動機を語ったことで浦澤さんはさっきまでの余裕のある表情から真剣なものに変わり、腕を組む。
勝ったな。
相手の様子を見るに、こちらの凄惨さに同情し、鬼に対して激情を抱いているのだろう。
すぐに合格といってくれるだろう。
しばらくの沈黙の後、浦澤さんが口を開く。
「坊ちゃん…嘘は…いけねぇなぁ」
「なっ…はぁ…!?」
嘘が看破された事に思わず声が漏れる。
心臓が、はねる。背筋が、凍る。
弁明しようと何か喋ろうとするが、驚きと焦りのあまりに喉がつっかえる。
声がうまく出せない。
「お前がふざけていないことはもうよくわかってる。
並大抵の覚悟がなけりゃ、ここまでの険しい道のりを引き返しているはずだからな。
だからお前の本気を俺は疑っちゃいない。」
「…!」
「別に俺が気に入る謳い文句を垂れれば合格なんてひとつもいってねぇ。
お前のことをよく知りたいといったんだ、俺は。
正一、どんな理由でも俺は怒りはしない。
金か?それとも別の何かか?正直に言ってくれ」
…いっていいのだろうか。
自分の欲望が合格につながるとは到底思えない。
…どのみち嘘は通用しない。なぜかはわからないがすぐに看破される。
正直に…言うしかない。
「俺は…本当は家族の仇だとか、鬼の悪行とかはどうでもいいんです。
親が殺されたことにも別に何か思うところなんてない。
むしろ感謝してるんです。
殺されてくれたおかげで、俺は鬼殺隊を知ることができた。
俺が鬼殺隊に入りたいのは…好奇心からなんです」
浦澤さんは表情を変えることなく、真剣な表情で俺の話に耳を傾ける。
言葉を続ける。
「俺は…小さい頃から生物の解剖をし続けてきました。
初めは小動物から。
身体の中はどんな構造をしているのか、中の臓器はどんな形をしている のか。
次第に好奇心は形を変えて…生物の限界に興味が湧きました。
どれだけ痛めつければ、死んでしまうのか、どれだけの痛みに耐えることができるのか、どれだけの断食の中、生き延びることができるのか…」
本音を隠さず言う。
「次第に解剖は実験に変わり、実験の対象はどんどん大きくなっていって…
でもこの好奇心を満たすことはできなくて、今では人間をバラしたい、と 思うようになりました。
…そんなことはダメとはわかっています、そして自分が異常であることも。
猟師だった父は…命を弄ぶことの悪辣さを毎日俺に聞かせていました。
でもどうでもいいんです。父の言葉も、倫理だとか道徳だとかも。
俺がダメと思うのは、人を殺すことで人並みの生活ができなくなるから。
獄中で生活なんてのはごめんです」
次第に熱が入っていく。
「もう一生この欲を押し殺すしかないって思っていた…!
でも…!この欲をかっさらってくれる…この好奇心を気兼ねなくぶつけられる存在が出てきた…!
無限の再生力、際限ない適応力、そして法の権利の範囲外である存在…
もう我慢するのなんてごめんなんだ!
人の生死なんてどうでもいい!自分だけが満足できたらいい!
俺はこの好奇心を満たすためだけに…俺は命をかけられる…!
鬼の全貌をこの手で明らかにしたい…!
だから俺は鬼殺隊に入りたいんです!」
わけもわからず怒鳴りながら、明らかに常軌を逸した本音をぶちまける。
「…よくいった。今からお前は俺の弟子だ、正一」
「…え?今…なんて…」
拒絶されると思った、気味悪がられると思った俺の心の内の声に、耳を疑うような返答が返ってくる。
「ん?聞き取れなかったのか?もう一度いうぞ。今からお前は…」
「いや!ちゃんと聞き取れました!自分の言ったことがわかってるんですか!?本当に俺を弟子に取るつもりなんですか!?今のを聞いて!?」
「いったろ?正直に理由を話せば弟子にしてやるって。お前は俺に正直に話してくれた。だから合格だ」
聞きたいことは山ほどある。
俺のような異常者に鬼に迫るほどの力を与えるほうほうを教えていいのか。
その力を使って人を殺し始めてしまうかもしれないとか。
だが気持ちが追いつかずに言葉がうまく出てこない。
「わかり、ました。…これからよろしくお願いします…師範、なんて呼べばいいですか?」
「やめろよ!師範なんて小っ恥ずかしい!今まで通り浦澤さんでいいぞ」
口をついて出たのは、了解と挨拶だけだった。
突然涙が両の目から涙が溢れ出す。
自分の異常性を肯定してくれたからではない。
自分の欲望を解放する機会を手放すことへの絶望と恐怖からの解放ゆえだった。
浦澤さんがこちらのそばまで歩み寄り、俺の肩にぽんと手を置く。
「正一。今までよく我慢できたな。お前はすごい子だ」
別に自分の本音を拒絶されること、理解が及ばないこと、忌み嫌われること、それらになんら思うところはない。
むしろ当然だと思う。
これほどの異常性は受け入れられることはない。
だが…
自分の本音を受け入れられること。
それに喜怒哀楽どの感情にも当てはまらないが…
少しだけ心が軽くなったような気がした。
最初は鱗滝さんのもとで修行を重ねる予定だったのですが、冨岡さんとの関係や手鬼との関係、あとは炭治郎の二番煎じになりそうだったんで、やめときました。