ようこそ元天才子役のいる学校へ 作:推しの子見てちょっと影響された人
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額に浮きでる汗が頬を伝う。まるで涙を流しているようだと思いながらも、私はこの状況をどうにかしようと考えを巡らせた。燃え盛る炎、遠くに聞こえるパトカーと消防車、救急車のサイレン、人々の悲痛な叫び声を聞き、そして最愛の彼女の歪んだ表情が朱色の世界で熱を孕み、やがて大きな火柱へと変化する───
これは神の怒りだ。
「ねぇ、どうしてこんな事をしたの?」
燃え盛る炎も数分もすれば2階までやってくるだろう。
「……ねぇ、本当にどうして?貴方がやったんでしょう?花火。」
私と瓜二つの容姿をした、誰よりも愛し敬い恋しく思う大切な存在が、瞳の中に儚い線香花火の様な小さな光を宿した。仄暗い感情がよく現れた、愛憎に塗れた複雑な感情がゆらゆらと揺れている。大きく見開かれた目には困惑と失望の感情も滲んでいたがそれもそうだ。彼女は私の犯行の一部始終を見ていたのだから。
「違う、私は、私は何もやってない!何を言ってるの?……ねぇ、本当に、本当にどうしちゃったの?」
彼女が私の方に向かって一歩足を踏み出した。こっちに来たら大切な愛おしいあの子は空に輝く星と化してしまうはず。輝かしいあの子の未来を、才能を私は何よりも愛している。彼女なら、あの子なら、きっとどんな星よりも美しく輝けるはず。
「私は、あなたと一緒に輝きたかったの!あなたとの約束を守りたかったの。私達二人ならきっと最高の輝きを得られる……私はそう信じていたのに。花火、どうして私を裏切ったの?」
裏切ったんじゃない。ただ私は貴方を愛しただけ。家族として、最も近いライバルとして、私の片割れとして、心から愛し、羨み、憧れ、敬い、大切に慈しんだ。ただそれだけなのだ。
しかしそれももう限界だった。
「花火、私はあなたが憎い。そして憎しみ以上に愛してる。世界で最も大切なたった一人の片割れだから。でも、こんな罪を犯したあなたの事を許せる程人が出来ている訳じゃないわ。私が憧れた貴方は自暴自棄になったりしないもの。」
普段着ないような落ち着いた色のワンピースの裾を掴み、片足を後ろに引き、華麗なカーテシーを披露する。そして私は───
「やめて!」
「さようなら、愛しい私の片割れ。あなたは今日、死ぬの。」
揺れるしかい、人の皮膚が焼けるような嫌な匂い、そして涙を流す愛しいあの子、この現場で起きた全ての匂いと音と感情を脳裏に焼き付けながら、元子役・蘇芳花火は死んで行った。
この日、一番星は夜空に溶けて消えた。暗闇を照らすこともなく、宇宙の塵となったのだ。
◇◇◇
【天才子役・蘇芳美波意識不明の重体】
"元天才子役の蘇芳美波は自宅で発生した火災により意識不明の重体となった"
天才子役として、ドラマやバラエティに数多く出演し、その愛らしさと魅力的な演技力で幅広く活躍している。
元々は双子タレントで、双子の姉と共に活動していたが、ある時単独で受けた金曜ミステリーのメインキャストのオーディションに合格し、そのドラマから注目される様になる。そうして天才子役と謳われるまでに成長し、知名度も全国に広がる頃には、ドラマの主役に選ばれるようになっており、多くの国民に愛されていた。
しかし彼女の星の輝きは弱まった。
美波は火災に巻き込まれ、迫り来る炎から逃れようと2階のベランダから身を投げた。全身に複数の骨折を負うも下の植木がクッションになり一命は取りとめた。しかし頭を打っている為、一部の記憶を失っている。
あの日何があったのか、真実は闇の中に消えてしまった。
『あのね、美紀ちゃん……実は水ドラのメインキャストのオーディションに合格したんだ。』
『え……本当、なんですか?』
『うん。初めて私だけの力でメインキャストの座を勝ち取ることが出来たの。だから、絶対にこの役を完璧に演じて見せるよ。だから、ドラマが放送されたら是非見て欲しいな。』
『もちろんです。花火ちゃんがTVで演じるのを楽しみにしていますね。』
花火は私にそう言った翌日、星になってしまった。
私は天才子役・蘇芳美波の双子の姉である、蘇芳花火の友人のつもりだった。なぜつもりという言葉を付け加えたのかと問われれば、それは私の一方的な思いによる憶測だからだ。
私と花火は確かに友人同士の関係だが、花火はそこそこ名の知れた子役だ。妹である美波が天才子役と持て囃される様になってから、彼女の知名度も少し上がった。つまり彼女は知名度のある芸能人で、一般人である私が気軽に話し掛けて良いような存在では無かったのだ。
しかし、彼女は私に話し掛け親しくしてくれた。嘘が得意な彼女の言葉が例え偽りだとしても、私は彼女の言葉を信じ救われた。花火は美波と比べて平凡な役者だと言われているが、私にとっては何よりも輝いて見える、最も美しい一番星だ。
「次は高度育成高等学校前、高度育成高等学校前。お出口は右側です。」
揺れる景色から視線を外し、鞄の中から財布を取り出す。サイフを開き料金を手に持ち、バスを下りる準備は万端だ。
「ねぇ、今日夢見た?」
「見た見た!ちょうヤバかったよね!海斗君の頼人も最高だったけど、やっぱり小町役の美波ちゃんの演技が最高だったなぁ。」
「それな!美波ちゃんの切ない表情に、ウチ涙ぼろぼろ流したもん。」
楽しそうに話す他校の女子高生達に私の胸がチクリと傷んだ。あの火災で意識不明の重体となった彼女は数ヵ月後には普段通りの生活が送れるようになり、それから約半年後芸能界に復帰した。そして花火が亡くなったことで延期になっていたドラマのメインキャスト役に彼女は起用され、そのドラマを皮切りにますます人気は上昇していった。
"生き残った女の子"
"悲劇のヒロイン"
美波は上の2つの称号で呼ばれることが多く、彼女はますます多くのドラマや映画でメインキャストとして活躍する様になった。コンシーズンも火9の準主役に選ばれ、ヒーロー役の俳優との絡みに世間は湧き上がっている。
「……早く行かなきゃ。」
バスが停留所に止まり、私はお金を機会に入れバスを降りた。
桜の花が散る4月、私は高度育成高等学校に入学する。
私は多くの生徒が向かう方向へ進み、校舎の入口に辿り着く。そして各クラスの組み分け表に視線を向けた。
「私のクラスは……」
組み分け表の中から自分の名前を探そうとした時、懐かしい香りが鼻腔を掠めた。私が香りのする方へ顔を向けると、そこには花火によく似た少女、蘇芳美波が立っていた。黒のカラーコンタクトをし、髪は下ろし、眼鏡もかけているが、確実に彼女は蘇芳美波だ。私は彼女とよく似た花火をしっているのだ、間違えるわけが無い。
「え……」
3年間外部と連絡の取れないこの学校に何故彼女がいるのか、と疑問が浮かぶ。
「……私のクラスは、1年Bクラスか。早く行かなきゃ。」
美波はそう言い私の視線に気付くことも無くその場を去っていった。
そういえばこの前蘇芳美波が一時的に芸能活動を自粛すると発表していた。てっきり身体に問題が起きたのかと思っていたが、3年間外部と連絡の取れないこの学校に入学したからという理由もしっくり来る。となればやはり今見た少女は蘇芳美波に違いない。
「早くしないとホームルームが始まっちゃう!」
「そうね!早く行きましょう!」
ホームルームが始まる15分前だからか、生徒の中には急ぎ足で教室へ向かう者達もいる。私も彼女達を見習って早めに教室へ向かうことにした。そう考え、再度組み分け表へ視線を移し、自分のクラスを確認する。
「……山村美紀、1年Aクラス。」
私は少しだけ残念な気持ちになった。蘇芳美波と同じクラスになって欲しいと思っていたわけではないが、花火に似た彼女と同じクラスになれば少しは虚しさが薄れるかもしれないと期待していた自分がいる。勝手に期待して勝手に裏切られたと感じて、私はなんて滑稽な人間なんだろうと、心の中で呟いた。
「早く、行こう。」
新入生用の経路案内に沿って進んでいく。階段を上がり、少し進むと1年Aクラスの教室へ到着した。中に入ると生徒達は静かに本を読んだり、荷物を整理したりと各自で自由に過ごしていた。
このクラスに到着するまで、他のクラスの前を通ってきたが、どのクラスも騒がしかった。といってもBクラスは騒がしいというより纏まりのあるクラスという印象を持ったが。このAクラスは他のクラスとは違って落ち着きを持った生徒が多い様に感じる。それだけで私はAクラスに選ばれて良かったと安堵した。
暫くすると担任と思わしき男性が教室にやって来て教壇に立つ。
「諸君、入学おめでとう。俺は君達Aクラスの担任を受け持つことになった真嶋智也だ。我が校では国語科の科目を教えている。何か分からないことがあれば何時でも質問してくれ。といっても、答えられるかどうかは時と場合によるがな。」
一見熱血教師に見える姿だが、話し方、声音、態度、表情、言葉のチョイスから真面目な教師だという印象を受けた。
生前、花火は言っていた。
『人の性格を分析する上で重要なのは、言葉のチョイス、話し方、態度、表情、を見るのも大切だけど、その場に合わせた声のトーンが適切かどうか、そこも考慮して考える必要があるんだ。』
『どういう、ことですか?』
『顔が笑顔で、態度と話し方がいくら素敵でも、その人の現在のご機嫌は必ず表に出るものだよ。その中でも、声は特にわかりやすい。機嫌が悪いかどうか、そして態度やその他の項目との整合性から判断すればその人が短気な人なのか、感情を隠せる人なのか、分析することが出来る。分析出来れば、どんな対策をして話すか考えられるし、それを瞬時に出来るのがプロの役者なんだって。この前共演した大御所の俳優さんが言ってたんだ。』
花火がそう言うのだから、真嶋の声のトーン、態度、表情、言葉のチョイス、話し方の全てが適切であり、それらに整合性もある為、真嶋が真面目な人間だということは明白だ。
「さて、今から君達には我が校のシステムについて説明する。今から配布する入学案内のパンフレットを見ながら一緒に確認していこう。」
そう言い真嶋はパンフレットを各列に配布していく。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう、ございます。」
前の席の女子生徒から回ってきたパンフレットを受け取り、後ろの席の生徒に回す。
たったこれだけの行動なのに人の目すら見れず、私はまた一人になってしまうのかもしれない。そんな恐怖心が心の中に湧き出すが、私は気付かないフリをして平静を装う。無表情は大の得意だ。私の感情は花火を除いて誰にもバレたことが無いのだから。
一人だってきっと、大丈夫。
私は決して寂しくなんかないんだ。
蘇芳美波
所属 1年Bクラス
学籍番号 S01T009089
誕生日 7月7日
【学力】 B+
【知力】 B
【判断能力】 A
【身体能力】 C
【協調性】 C
【面接官からのコメント】
幼い頃から子役タレントとして活躍し、今では人気女優と呼ばれている。
面接では幾つかのドラマの再現を頼んだが、その全てが当時のまま変わらず再現されており、彼女の才能を実感することができた。
学力も高く、性格面も問題が無い為Bクラス配属とする。
【担任からのコメント】
明るく社交的で、賢い生徒です。
芸能界で得た能力を駆使して、Aクラス奪取を目指して欲しいです。