銀髪ロシアン美少女に転生した元おっさんの話   作:カエモミ

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01.高等部初日

 

 

 ……この世界に生まれてすぐ、俺は自分が前世の記憶を持つ人間──即ち、転生者であることを自覚した。

 

 前世の俺は三十代半ばの独身男性で、地元の製薬会社に務める、ごく普通の会社員だった。

 

 さらにアニメやマンガ、ゲームなどをこよなく愛する生粋のオタクでもあったらしい。

 

 前世について思い出せる最後の記憶は、ある日深夜まで残業した帰りに、馴染みの歩道橋の階段で足を滑らせた瞬間で止まっている。

 

 そのため、おそらく死因はそれなのだろう。

 

 つまりは転落死。それ以降の記憶が無いことから考えるに、即死だったのかもしれない。

 

 

 ……けれども、次に俺が目覚めたとき。

 

 そこは死後の世界などではなく、どこかの家の見知らぬ部屋のベッドの上だった。

 

 目の前にはこちらを見下ろす一組の男女の姿があり、その仲睦まじそうな様子から恋人や夫婦のような関係であることが窺える。

 

 男性のほうは東欧系の外国人のようで、筋肉質でありながら長身のその体躯は、まさに巨漢という表現が一番しっくりくる。

 

 対して女性のほうは、純日本人らしき優しげで柔和な雰囲気の大和撫子といった印象だ。さらによく見れば、その腕の中には一歳か二歳ぐらいの可愛らしい金髪の幼児が抱かれていた。

 

 ……いったいこの人たちは誰なのだろう。

 

 俺は頭に疑問符を浮かべながら、ひたすら困惑する。

 

 するとその時、俺のすぐ真横から赤ん坊のものと思しき盛大な喚き声が響いた。

 

 今まで気が付かなかったが、どうやら俺の隣にはまだ生後間もないであろう一人の赤ん坊が寝かせられていたらしい。

 

 ……というか、俺の体もなんか、同じぐらい小さかった。

 

 つまり、これは……まあ、そういうこと(・・・・・・)なのだろう。

 

【あらあらアーリャちゃんったら、お腹が空いちゃったのかしら】

 

【リーナのほうは全然泣かないな】

 

 ……?

 

 なにか今、聞き馴染みのない言語で話された気がする。異世界語か……?

 

 いや、その後も注意深く二人のやり取りを聞いていると、いくつか知っている単語も聞き取れた。   

 

 これはおそらく異世界語などではない。

 

 前世の世界でも存在していた言語──たぶんロシア語だ。

 

 ……そうか。

 

 つまり俺は前世での人生を終え、今世にて新たにロシア人と日本人の血を引くハーフとして生まれ変わってしまった、という訳か……。

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 ──転生してから数年が経ち、今世での生活にもだいぶ慣れてきた。

 

 幼児期ゆえの吸収力なのか、ロシア語についてもすぐに覚えることができ、前世の記憶から日本語も当然ペラペラなのであっという間に二ヶ国語をマスターしてしまったことになる。

 

 ……といっても姉二人がまだ日本語については全然話せないため、俺が日本語を話せることはしばらくは秘密にしておかねばならないのだが……。

 

 ──そう。

 

 今世での俺には父と母の他に二人の家族がいた。

 

 一つ歳上の姉で長女のマリヤ(愛称・マーシャ)と、俺と同い年の双子の姉である次女のアリサ(愛称・アーリャ)。

 

 そして俺はそんな二人の()にして、末っ子の三女として生まれたアリナ(愛称・リーナ)──フルネームだとアリナ・ミハイロヴナ・九条となる。

 

 …………。

 

 いや、俺、女になっとるやんけ。

 

 つまりこれはただの転生ではなく、TS転生だったというわけだ……。

 

 ……まあ、こうして転生してしまったものは仕方がないのでおとなしく受け入れるしかないのだが、大丈夫だろうか、俺。

 

 ちゃんと女の子としてやっていけるだろうか? 果てしなく不安だ……。

 

 

 ──それから容姿についてだが、一卵性の双子なこともあり、俺と姉のアリサはほとんど同一人物レベルでとてもよく似ていた。

 

 というか、顔も、体も、声も、身体上の違いらしい違いが一切見つからないぐらいの完全なる瓜ふたつだった。

 

 こういった場合、利き手が違うとか、ほくろやつむじの位置、髪の巻き方向など、そういう部分での差異があればまだわかりやすかったのだが、残念ながら俺たちはそうしたものも含め、目視でわかる違いは何一つ無かった。

 

 即ち身体的特徴で見分けることは不可能。

 

 よって俺の発案で、俺のほうは常に前髪の中央にヘアピンを付け、ヘアピンを付けているほうが妹のアリナ、と覚えてもらうことにした。

 

 こうすることで家族からの呼び間違いも無くなり、アリサが名前を間違えられてグズることも無くなったので、実に平和的な解決法だったと言える。

 

 

 ……そしてその後、さらに時は流れ、俺とアリサが十四歳になった頃。

 

 父の仕事の都合で、俺たちは五年ぶりに日本に住むことになった。

 

 これまでも何度かロシアと日本を行ったり来たりはしているのだが、時期的にはそろそろ高校受験を視野に入れる頃合いだ。

 

 それも適当な学校を選ぶのではなく、きちんと将来を見据えた進路選択をしなければならない。

  

 そこで、両親が俺たちに編入を勧めてきたのは征嶺(せいれい)学園という名の中高大の一貫校で、日本屈指の偏差値を誇るとんでもない難関私立校だった。

 

 ……これにはさすがの俺も危機感をおぼえた。

 

 たしかにこの学園に入ることができれば将来は約束されたも同然だ。

 

 だが如何せんレベルが高すぎる。

 

 前世では一応俺も地元の国立大を出た身ではあるものの、たとえ大学レベルの学力があってもどこまで通じるかわからない。

 

 なので、俺は必死に勉強した。

 

 受験戦争の地獄を思い出し、時にはマリヤやアリサに教わりながらひたすら勉強し続け、その甲斐あってなんとか合格ラインギリギリで編入することができた。

 

 このときばかりは心の底からホッとしたものだ。

 

 これで姉妹の中で俺一人だけ落ちるという地獄は回避できた。

 

 ……いや、別に落ちたところでそれを責めたり馬鹿にしたりするような者はうちの家族の中にはいないのだが、それでも俺にだって最低限のプライドというものがある。

 

 一人だけ落ちていたらと思うと、それこそ家族に顔向けできない。

 

 ……ともあれ合格できて本当に良かった。

 

 これでまた、姉妹三人で同じ学校に通えるのだ。

 

 

 ……そうして、それから約一年の時が経った現在。

 

 高校一年生の春。 

 

 

「──よし。今日も私は、可愛い!」

 

 

 ──無事に高等部に上がった俺は、新たな制服に身を包み、朝の洗面台の鏡の前で、きゃるんっと渾身の美少女ポーズを披露していた。

 

 幼少期には金色だった髪はすっかり色素が抜け落ちて銀色になったが、逆にそのおかげで理想のロシアン美少女にグッと近づいたと言える。

 

 何しろ銀髪ロシアン美少女といえばオタク界隈では王道中の王道だからな。

 

 ここにさらにJK属性まで付与されるのだからもはや気分は無敵だ。無敵艦隊だ。いや艦隊要素は全く関係無いけれども。

 

「何してるのよ、リーナ……」

 

 胸の前で指でハートを作り、前屈みになりながらたゆんっと双丘を揺らしつつ、必殺の上目使いでキャピッ!とポーズを決める俺に、背後からそんな冷ややかな声を浴びせかけるのは、俺と全く同じ容姿をした双子の姉、次女のアリサだった。

 

 俺はそんな彼女へ鏡越しに目線を返すと、得意気に答える。

 

「ふっ。なに、こうやって毎朝自分が女であることをしっかり自己認識して無理矢理にでも脳に刻みつけておかないと、自己の同一性とかが色々アレして精神的にキツいものがあってな」

 

 要は朝のぼんやりとした脳を強引に覚醒させ、おっさんモードから美少女モードに無理やり切り替えているのである。

 

 こうして毎朝欠かさずセルフマインドコントロールをしておかないと華のJKに紛れて学園生活送るとか普通に無理だからな。下手すりゃ余裕で精神崩壊する。

 

「そ、そう……。よくわからないけど大変なのね……」

 

「リーナちゃんは昔から自分のことが大好きだものね〜」

 

 何やらドン引きしている様子のアリサと、噛み合ってるんだが合ってないんだがよくわからない内容の相槌を打つマリヤ。

 

 愛しの姉二人に背中越しに見つめられながら、朝っぱらから早くも死にたくなってきた俺である。

 

 …………。それにしても、二人ともほんと綺麗になったよなぁ。

 

 アリサのほうは俺と双子なので髪色の変化も俺と同様、金色から銀色になっているのだが、一つ上のマリヤはというと、俺たちとは大きく違った変化を遂げていた。

 

 幼少期は金色だった髪は茶色に染まり、瞳の色もまた、青色から茶色へと変化している。

 

 ……まあマリヤの場合は髪色や瞳の色よりも、女性としてもっと“別の部分”が成長しすぎて今も大人的な色香が大変なことになっているのだが、そのことについては姉妹として詳しくは言及すまい。

 

 だが敢えて言わせてもらうとすれば、大きい。すごく大きい。まさに聖母。なにがとは言わないけど本当にありがとうございます。

 

「──えっと、じゃあ行こっか……?」

 

 ……こうして、二人の生暖かい視線に見守られながら、俺は若干の居心地の悪さを感じつつも先陣を切り、家を出たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢ 

 

 

 

 

「──おっ。“ゆきりん”はよっす〜」

 

 ──征嶺学園高等部。一年A組の教室。

 

 校舎に入ってすぐ、姉二人と別れ自分の教室へと入った俺は、早々に知り合いの姿を見つけて努めて朗らかに声をかけた。

 

 ……こういう陽気なキャラを自分の中に入れ込んでおかないと家族以外──とりわけ女子とは未だにまともな会話一つできない。

 

 大丈夫。俺は美少女。俺は美少女。俺は美少女……脳内で何度も反芻しながら、必死に自分を奮い立たせ、クラスメートとの会話に臨む俺。

 

 そんな俺の内心など知ってか知らずか──。 

 

「あら、リーナさん。おはようございます。また同じクラスになれて良かったですね」

 

 と、目の前の少女は、実に愛想よく挨拶を返してくれたのだった。

 

 中三の頃も同じクラスだったこの少女の名は、周防(すおう)有希(ゆき)

 

 我が双子の姉アリサと並び学年の二大美姫などと称され、“深窓のおひい様”の異名でも知られる学園内では言わずと知れた名家のお嬢様である。

 

 そしてそんな有希に付き従うように傍でじっと控えているのは──。

 

「──“あやのん”もおはよ〜。今日も無表情で可愛いね」

 

「っ……! お、おはようございますアリナ様」

 

 俺が突然声をかけたせいで驚かせてしまったのか、少女──有希の従者にして幼馴染の君嶋(きみしま)綾乃(あやの)の肩がビクリと震える。

 

 ふっふっふ。いかに巧妙に気配を消したところで、重度の美少女アニメオタクである俺のスーパー美少女探知レーダーは誤魔化せない。

 

 昔から美少女の気配を察知するのは大の得意だからな。……なんかこれだけ聞くとすごい変態っぽいけど。いやまあ、変態か。変態だったわ……。

 

 

 

 ──と。

 

 こうして、今世における高校生活最初の一日が始まった。

 

 

 

 

 






・人物紹介

 名前:アリナ・ミハイロヴナ・九条【Алина Михайловна Кудзё】

 愛称:リーナ【Лина】

 性別:女性(?)

 血液型:A型


……中身元おっさんの銀髪ロシアン美少女。
容姿、肉体に関しては顔、体、声、髪型、身長、体重、スリーサイズ、運動神経、体質などあらゆる部分でアーリャと同じ。
性格面はアーリャに比べればガードもゆるく、色々と適当なので周囲からは少し残念な美少女として扱われている。
学力は中の上。
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